キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
しかしこの言葉をよく覚えていてほしいのです。行動には結果が伴う。」
──Arma3
【序章】
その男は渋い顔をしていた、渋い顔をしていてなおそれなりに美男に見えるが、目元が本気で困り果てた様な目をしていた。
"先生"と呼ばれる事になった事でも無く、青い髪の少女と契約を結んだ事でもなく、来た世界が銃器をぶら下げる少女等の世界だからでも無かった。
高速鉄道駅を降りて、七神リンとか言う生徒の待つビルへ半分くらい強引に押し込まれハンヴィーでポイされて、説明を受けた。
連邦生徒会会長の置き土産であるこのシッテムの箱だが、何とも馬鹿げた性能をしていると言える、兵事に関しては素人考え程度の彼だが幾らでも悪用が思いつける。
それに自身に与えられた特権が必要以上に過大な気もしていた、まあこれに関してはうまく利用して行けば良いだろう。
問題は……。
「よお、来たか。現状たった1人の連邦捜査部へようこそ!」
どっかで見た気がするこのグラサン付けた人なんだよなあ……。
"先生"は空を仰いだ。
連邦捜査部が取り敢えず始動して最初にやったのは暴動の鎮圧だった、これは先生のする事なのだろうか、そう思う。
学級崩壊とはそう言う話では無いと思いますが……初めて戦闘で生徒を指揮する経験をしたが、あのよく分からないもう1人の大人は、キョトンとした様子の顔でこっちを見た。
「え、作戦指揮の経験がないのか?」
「あるとでも?」
「無い奴連れて来るとは俺思ってなかった、あの便宜上の上司は顔で採用してないよな?」
「そんなこと言われても……」
「だが君は運が良い
とか色々説明してくれた、何でそんな親切なんだよ……。*2
「俺が主力本隊を率い攻撃を開始し暴徒を粉砕するが、その間に幾つかの施設の確保が君の仕事だ。顔採用じゃないと言う事を証明してくれ」
文句を言う前に「あっそうだ!」と言うと「ほれ、これで箔が付くだろ」と軍刀を渡された。
曰く「士官の軍刀拳銃は振り上げて使うんだよ」と言われたが「僕は竹刀くらいしか持ったことがありません」と返したが理解してくれなかった。
「構わんよ、模擬剣でも経験があれば十分だ。拳銃と実弾も配給する」
「実弾って……」
渡された拳銃、確かP-220とか言うのが渡された。
取り敢えず怖かったのでマガジン抜いてスライドを引いて弾を抜く事にして、しまう事にした。
このままズボンのポッケへ仕舞ってたら暴発する予感がした、映画みたいに間抜けな最後が過ぎる。*3
最初の公式会見と言うかなんか2重の意味で歴史の教科書で見た事がある光景を見せられたがが、「いまは捜査部部長なのだよ」とか返された、何なんすかアンタ……。
ゴタゴタを頑張って解決したら人員数足んねえからリン代行に話しておねだりしてきてと言われた、「自分で行ったらどうなんだ」と返したら、呆れた顔で「俺が言っても駄目だがお前のツラならいけると思う、書類は用意してるから」と言われた。
「俺は給料3か月分前借してるからね」
「え?」
「お前の給料と今回の捜査部として徴募した志願兵への給料と諸費用」
「もしかしてですが、この組織は火の車ですか?」
ふざけいるのかと思いながら、「大人のワンオペ2人分にコンビニバイトと良くて徴募した人員数人しかいない建物だけが立派な組織が救える量なんか少ねえだろ」と言われたから、ぐうの音も出ないのでリン代行とカヤ室長に話を通した。
なんか暫く2人で話し合い、結果的に特殊部隊をくれた、二人して「貴方以外にあの部長制御できないでしょ」と言われたのである、否定はしないがコレで良いのか?
取り敢えず人員リスト通り人は来たが、ユキノと言う生徒以下特殊部隊が追加で来たのはどうしたら良いんだろうか。
「特殊部隊ってなんだよ、概要を教えてくれ」
「……え?」
「お前が知らなくてもシッテムの箱のOSに聞けばいいだろう、それを俺に教えてくれればいい」
一通り解説が終わると労いの言葉と共に「そいつらいつ来るの?」と聞かれ「遅くても半日後」と答える。
やっべと言う顔をして彼は慌てて動き始めた。
「収容人数分の準備だ、急ぐぞ手伝え!」
「どうしてまたいきなり」
「家にはそう言う受け入れ能力がないと思われたら面倒くさい」
「見栄っ張り……」
「それすら張れなくなったらそれこそお終いだろ男として!」
「そうではあるが」
「男二人のやもめ暮らしもこれで終わりだな」とそんな事を言い合いながら、ホールについて5分で言われていた初期人員がMRAPに載せられたどり着いた。
「ここが連邦捜査部ですよね?」
やって来た生徒らはきょとんとした顔でこちらを見ている。
焦げた土色の制服と言うべきSRT制服に身を包んだ四名の少女らが居る。
「ようこそ……」
「遅れたか?」
下りてきた彼は、見栄だろうか息切れは余り見せない様に威風堂々と歩いてきた。
「七度ユキノ以下4名、現時刻を以て連邦捜査部に着任しました!」
「ご苦労。着任を承認した。連邦捜査部は君達の着任を歓迎する。……あー、ちょっと聞いておきたいんだが書類に階級が書いてたが馴染みが無くてな、後で改めて確認したいのだが」
「はっ?
「無いんだなコレが」
「そうなんですか」と目線で聞かれ、うんと自分も頷くと、ユキノらは「まぁ何時もの事か」と頷く。
その後、ユキノに「これが家の戦術教範及び
「彼女達の顔どう思う?」
「凛々しい美人?」
人事書類の束でぺちぺちぺちと何往復分か額を叩かれた。
「我らがまだ見ぬ上司殿は随分むごいことをした様だ、誇りも名誉も奪われた兵士の眼だよ。
俺に向けていた信用できないと言うのは、まだいい。新任の最高司令官なぞ信用が無くて当たり前だ」
まだ良いのか……あーでも確かに、それは行動で立証すれば良いからそうか。
その後、彼女達に給料の前払いを行い「制服と装具は後日到着するから、生活必需品と本を買いに行くぞ」と呟いた。
「もしかして随行ですか」
「なにをいまさら……」
街を進む中、彼には珍しそうな顔が多かった。
あれは何だ? と聞かれた後答えると成程と言い、子供みたいな無邪気さを出していた。
物怖じをしない性格なのか、配線工などに「つまりそういう手順で進めているのか?」と好奇心で聞き、最終的に相手を語る気にさせて監督にも話し込んでいた。
「電力かァ……大変な仕事だなこれも」
「幸いキヴォトス自体は電力網の問題は少ないようです。
シッテムの箱による分析ですが風力発電が一部を、大半が水力と……核融合が一部賄ってるようですね」
「ユウカがミレニアムの電力関連でキレていたが」
「あれは中央の管制が矛盾した信号を送って停止させていた混乱のようです」
「なるほど」
そう言って納得したが、一番酷いのはこれからだったのだが、フィンガーフード食べながらひたすら色んなことを聞かれた。
本の内容を解説させられたりしたが、一番印象に残ったのは窓の先を見て「この明かりの数だけ我々が面倒を見ねばならん、明日以降も忙しくなるぞ」と言う姿だった。*4
翌日ユウカが給与明細を持って来て一騒ぎが起きたが、そのまま彼女も同行させて装備の購入に走り回らされた。
旅団規模の編成図で絵図を書いていたようで全員からツッコミを入れられた。
真人間の会計の参加はとっても頼もしいよ。
「だが何れこうなるのだよ、ククク……」
「恐い預言をしないでください部長!」
「悪い予感だけよく当たる……」
大人とミレニアムの会計に物理的に振り回される捜査部部長に、フォックス小隊は「偉い所に来たんじゃないのか?」と後悔を始めそうになっていた。
【MARCHING TOO WAR】
それからというもの、この"先生"は困った捜査部長のお陰で苦労したりしなかったりしている。
まず戦闘面だが……護衛に付けてもらったユキノ達と、シッテムの箱と、ランプの魔人感覚で出てくる
はっきり言って兵事に向かないからな自分はと認識しているが、あの人は兵事に関してと、数学と計算に関しては天才的なお陰で非常に楽だと言える。
政治的に見てもこちらの意見や意向、意図は尊重はしてくれるし、大体彼方から出てくる修正案も筋が通っているのだが……問題はたまに自分の時代感覚でモノを見出すから困る。
まあ1番幸いなのは選択に迷った時に相談出来るのがありがたいんだが……確定で敵じゃ無いと言う存在の何と素晴らしい事か。
「おいゴルァ! 輜重と補給を混同すると困んだよ!」
そんな事を考えていたら書類の修正命令が飛んできた。
「何が違うんすか」
「え? そこから?! 其処からかお前?! 学校で何学んだ」
「娑婆の人間ですよ僕はァ!」
そう返すと本気で理解できない顔をされた。
「なんでまたそんな顔をするんです?」
「いやだってお前、30人一クラスで班を編成させたりする娑婆の学校はおかしくねえか? どー考えても幼年学校のやり方だろソレ」
「曾祖父の代ですよ兵役なんて」
「よくそれで国が回るな……兵役と納税は国民の義務じゃねえの?」
駄目だ世代が違う!
「大規模軍なんか編成する社会の同意が得られませんよ、国が回りませんもん」
「むぅ、産業発展のせいか……町中ぶらついてる兄ちゃん捕まえて済む時代じゃないのはなんとなくわかるが」
何とか理解していただくと、書類の話に戻った。
「あと補給と輜重は違うんだよ、区分が。混同されると困る、全員の意思統一と行こう」
「何が違うんです」
書類にはアビドスへの補給計画と書いたはずだ、お手紙貰ったから物資を届けると言う話である。
だが書き方がおかしかったらしい、官僚にも通じるように書いたはずだが……。
「あのなー、補給とは行為であって輜重が区分なんだよ。
食料と食事を同じ単語扱いしている様なもんだよ」
「あー……」
「俺らがするのは輜重の段階なんだ、そこからアビドスのまぁなんか偉い奴か財布握ってるのが補給として渡すんだよ。
細かいように見えるがこの書き方だと補給活動までうち等がやるように見えてちと良くないのよ」
そう言うと思い出したようにもう一つ付け加えた。
「あ、それとな、あんな数の弾薬程度じゃすぐに射耗するぞ。
それに医薬品も良いが銃器の清掃部品も入れておけ、砂漠戦は基本的に摩耗が早いし遠距離射撃戦になり易いぞ」
「詳しいですね」
「実体験だ」
「でしょうね」
呆れた顔をしながら、書類を書き直そうとすると「と言う訳で想定した弾薬消費量の予測はこれ」と紙が渡された。
普通に万単位で弾薬運ぶのは流石に過剰じゃないかと聞いたが、「ウチの隊員と概ね共通してるんだろ?」と言われた、きたねえ!
「それは要するにアビドスを隠れ蓑にするって」
「共同防衛者なんだ員数も融通も付けると言う事だよ」
「ひっでぇ! ……
「兵站無視して突っ込みそうって事です?」
「えっ、そう言う意味あるのか?」
「怒ったらいいんですかそれ?」
きょとんとした顔のニコがスカーフを確認しながら、呆れた目をしている。
部長には出発前に現地の新聞3年ぐらい前までさかのぼって読んでろと言われた。
結果としてだが、この弾薬は撃ちきらずに済んだ、撃ちきる前にちゃんと勝てたからである……。
【砂と勝利と】
アビドス派遣部隊40名に本部部隊10名が追加である。
太々しいなんか白河とか言う奴の小銃小隊一個に指揮本部とフォックス小隊の区分である。
お陰でFMTV6台とMRAP6台が配備された、かなりのコンボイと言える。
「いやぁ、着いたなぁアビドス」
「見渡す限り砂漠ですねぇ、その被り物は?」
「船乗りシンドバット」
「はぁ。……あなたも来て良かったんですか?」
何を言ってんだと思いながら本題を切り出す。
「信頼して任せられる奴に任せてきただろ」
「ユウカ凄い顔してましたよ」
「有能で出来る奴には仕事が来るんだよ」
問題があるとすれば、ホシノが本気で理解に困った目をして我々を見るようになった。
何とかホシノと信用を結べたが、反比例するように捜査部部長を「何だアレ」と困惑している、聞いて分かる事がある訳じゃないんだよホシノ。
結局一事が万事この調子である、ARONAから『疑問。先生と捜査部部長はどうしていつもこうなるのですか』と言われんだから、なお大変である。
「良いんですか? ヘルメット団もろともカイザーの連中まで抑えちゃいましたが」
「予定外の大魚が釣れたからってリリースはしないだろォ、もったいないんだからもう」
「そういう話なんでしょうか……?」
ユキノ、そうなのと観られて答えれるか怪しい事がこの世には幾つかあるんだよ、自分も分かんないよ……。
便利屋との戦いは、司令部がFOX小隊を回してくれたが、普通に来る前に降参してくれた。
小銃擲弾で制圧射撃して分隊を迂回させ、退路を断ったからである。
「えーっ! あたしら無駄足ー?!」
バイクでやって来たオトギにそんな事を言われた、「相手の物分かりが良くて……」と言うと、汗だくのクルミが「徒労だなぁ」と呟いたので、しょうがないからラーメン奢るよと話を着けた。
ただ、相手の装備品と人員を回収していた白河らが「やっぱりですよ先輩、こいつら弾薬がカイザーの奴です」と資料を報告した時、ユキノの目が鋭いものになった。
【
何をとち狂ったのか、カイザーが校舎に空挺降下してきた。
いやまぁ、理由は分かる、証人捕まえて武器流出の証拠となるコンボイ待ち伏せして潰したからだ。
「夜襲するなら補給部隊の方でいいのでは」
そんな事を言ったのは自分だ、地元に詳しい少女らが居て特殊部隊が居るなら、カイザーの車列狙う方が早いんじゃと聞いてみたのだ。
それに関しては大成功だ、出た成果がちょっと問題だった、刻印のない弾薬や銃器やら出て来たし、全部焼き討ちにしたのである。
無論書類の類は奪ったのだが……結果、アイツら本気でプッツンした。
しかもそれで済む問題じゃなくなり出した。
「えっ、ネフティス介入の恐れ?」*5
流石の彼も思い悩んでいる。
なにせ別のメガコーポの登場だと思ったが暫し考えた後、ARONAのデータを見て、吹っ切れた顔をした。
「よし、簡単だ。ネフティスが現場に来る前にカイザーの駐屯地を武装解除する」
「はぁ!?」
何を言うとるんじゃあと全員が驚愕した、正直自分は「言うと思った」と考えた。
ホシノが本気で「アンタ何考えてるの?!」と机を叩いた。
「いやほら、ネフティス自体は土地権利あるって言っても、行政権はウチの生徒会だろ?
で、現状の状況を考えるとネフティスはカイザーが弱った今じゃないと勝てないと言う事を、自分から言ってるようなもんだろ。
理由は知らんが急いで行動したくなってるんだ」
「なんでまた?」
ノノミが首を傾げた、行動には理由がある、軍事行動には利益が必要だ。
カイザーからガメた書類を見せて、このページだと見せ、「お前なら妙なのが見えてくるんじゃないか」と言われた。
隣からアヤネとシロコも覗いている。
「人事と予算関連の報告書ですね……」
予算表には給与の概説が乗っていた、概ね公然情報と違いが無いように見える。
だが変なのだ、予算規模が大きい、明らかに過剰な人件費だ。
概ね完全装備の兵士一名に3ないし4の人間が関わる事が要求される、だからカイザーのアビドス駐屯地部隊は後方支援要員含めて3000から4000程度の範疇だ。
「部長。確かカイザーの人員は3000程度の範疇でしたよね」
「ビナー対策の専任大隊が一個、3個大隊が居るがそのうち一個大隊は指揮本部の一部だけで二個大隊も完全充足というより待機任務中部隊だ」
「……なのに”兵站支援業務隊”がなぜ、こんな予算を必要としているんです?」
明らかに異常な量だ。
兵站支援業と言う名目で大型重機や建設資材や検査機器がなぜ調達されている?
しかも人員の動きがおかしい、やけに兵站業務にしちゃ多い数のコンストラクション社員らが居る、ここはPMSCの施設だぞ。
「つまり、彼らは何かを探している……?」
「そしてネフティスはそれを勘付いて分捕りたいんだろうな。
でまぁ、そしてネフティスは自前のPMCが無いそうだ」
彼曰く戦闘力は数と速度で大体割り出せるらしい、理屈は分かるような分からない様な気がする。
ネフティスは大枚はたいて傭兵どもをでっち上げたらしいが、明らかにそりゃ悪手だ。
「ユキノ! お前らも全員連れて出撃する。適時支援が必要な状況なら聞け。
発令! これより全力を挙げてネフティスより早くカイザー駐屯地を武装解除する」
ユキノらの耳と尻尾がぴくんと立ち上がった。*6
それはそれとして戦闘を楽にするため、部長と相談してデータを用いて本社の方を脅かしておこう。
しかし、ARONAからのある言葉を聞いて部長は表情を変えた。
『しかし、予想ではあと5時間ほどで砂嵐が来ますが』
部長は獲物を見つけた獣のような笑顔をした。
「うへ、マジで嫌な予感……」
【OPERATION SUNBURST】
カイザー理事はジェネラルから途切れ途切れの通信で『ネフティスの部隊が動いているが、それに対応して支援部隊が来る。適時防衛しろ』と連絡を受けていた。
だからこそ彼が選んだのは、ネフティスが侵攻ルートとするであろう砂漠横断鉄道の鉄道駅周辺へ一個大隊を割いた。
連邦捜査部への警戒もあるが、特殊部隊を擁する彼らが動くには時間がかかるか、まだ動かないと見たのは正論ではある。
この時カイザーが黒服がホシノを手に入れる為、ネフティスへ入れ知恵したことを知らないかし、まして優秀な作戦家である事は自明である連邦捜査部の二人がネフティス主力を呼んだと予測していた。
「ま、だから本格決戦は明日あたりかな……。
副官! どう思う」
「はい。概ねは正解でしょうが彼らは何らかの行動に出るでしょう。前衛部隊の後方を脅かすなどの手が考えられます」
これも概ね正当な考えである、ベストアンサーではないがベターな答えだ。
が、そんな報告を砂嵐の真っただ中に警報が鳴り響いた瞬間、彼らは言葉を失った。
カイザーのアビドス駐屯地への総攻撃、その驚愕の方法とは砂嵐とECMに紛れてラクダとバイクによる両翼包囲戦だった。
正面からはヘルメット団やブラックマーケットで捕まった不良生徒らが白河以下小銃小隊もろとも正面攻撃し、両翼からは騎乗ヘルメット団やブロロロ疾走連合らの暴走族が走り込む。
「なっ……えっ……普通来ねえだろ!?」
理事は慌てて臨戦態勢を叫んだが流石に奇襲攻撃で、しかも手持ちの一個大隊は明日に備え弾薬類を配給され、装備を受領し、確認作業している真っただ中だ。
一応ゴーグルとスカーフのお陰で何とかなってるが、機関銃を搭載した側車付き単車を機関銃陣地にして、ラクダに騎乗した搔き集めたヘルメット団や便利屋どもを降車させている。
取り敢えず理事は警備部隊に増援を送りこむことと、ゴリアテを出撃させるように指示した。
準備出来次第投げ込むから兵の逐次投入になるが、後方から前衛の大隊を機動させるなりすれば勝てるはずだ。
「機銃群BとD、即応弾欠乏!」
「機銃タレット群A及びC、ドローンに爆破された!」
「敵部隊は全域から攻め寄せる!」
「
無論それでも彼らは一応は常備部隊である。
当然だが時間さえ稼げばいいと言う認識はあった。
特にアビドス駐屯地の壁とゲートが超えられなければそれでいいと言う認識も。
だがゲートが閉まる様子が無い。
「なにがどうなってる?!」
「あっ」
閉まらない理由は簡単だった、パラグライダーである。
もともと暴走族の中には手を動かすのが好きなエンジニア気質の奴もいる、そうした面々にはバイクで滑走と始動のスターターを兼ねて、エンジンを起動させ飛ばすという手段を実現したものも居た。
局地戦ではこうした限定的な航空兵力は極めて強力と言える。
奇襲によりゲートを管制する管制室がパラグライダー胴体についたM72LAW二発を受けて吹き飛んだのは必然だった。
「GO! GO!」
ミレニアムの電磁パルス手榴弾でゴリアテをスタンさせ、戦闘工兵にC4爆薬を投げて爆破処分する。
直協歩兵を欠いたらゴリアテも意味がない。
駐屯地に居る隊が即応できない間に指揮所を落とす為の速攻だ。
通路を一目散にひた走り、扉を開けたらM2重機関銃構えたオートマタや、短機関銃を構えたオートマタ数体が阻止射撃してきた。
突っ込み過ぎたヘルメット団が何人か倒れたが、ヘルメット団のラブや不良らがトンプソンで取り巻きを排除し、続けてシャーレ隊員の戦闘工兵が火炎放射器ぶちかました。
M2重機関銃の弾が暴発して使用不能になったオートマタは、こうなりゃ素手だとラブらへ殴りかかる。
「ちょちょちょたんま!」
ラブがしゃがんで殴りを回避し、白河の擲弾銃が直撃したオートマタがぶっ倒れ、ラブの後ろに居たヘルメット団員らがM1918BARを使い関節部に滅多打ちにする。
奇襲ではあるがお互い状況を掴めていないわけではなく、要点を防衛して時間を稼ごうとしているが、こちらで戦場の霧が無いのだ。
ただそれでも、理事らが居るのは分かってる部屋へ続く通路で最後まで彼は抵抗をするつもりだった。
「C4!」
シロコが叫び、前衛のホシノが直感から盾を展開した。
バンッ! と段ボール箱に隠されていた地雷と散乱したケースに隠されていた爆薬が点火、爆発でシロコが壁に打ち付けられ、ノノミが爆発でミニガンのバッテリーを喪失する。
理事と数名の重装オートマタが、最後の守りとばかしにM2重機関銃とM1919軽機関銃を構えて射撃し、一室へ立てこもり、ホシノは盾で後ろのシロコを庇うしか出来ない、制圧されている。
「クソッ、諦めが悪いなアイツ」
「そりゃあ理事ですし」
ブローニングの機関銃特有の妙に間の抜けたパタタタという銃声と、跳弾の音を聞きつつ大人二人がそんな会話をしているので、ホシノらは「部長がイカレてるだけじゃなくてセンセも何処かおかしいんだよ」と見解を改めていた。
ユキノはハンドサインでニコと白河に指示し、アヤネの背負ってるリュックからパルスグレネードを出した。
それと同時に、制圧射撃していた理事が再装填を始める。
「
煙幕手りゅう弾を投げたスズと隊員らが走るが、待ち構えていた別の重装オートマタがM2重機関銃で制圧する。
すると、セリカとシロコが視線を合わせ、頷いた。
「えっ」
瞬間、ホシノが驚く暇も無くシロコとセリカが飛び出して射撃し、瞬間的に通路がクリアになった。
その隙を見逃すユキノやオトギではなく、即座にセリカとシロコが撃たれる直前へバレッタの特製弾薬をぶち込んで黙らせる。
「ムーブ!」
ユキノとニコがクルミを先頭に走り、その隙にスズとアヤネがセリカとシロコを回収して後送する。
再装填した理事は再び射撃を始め、M1919軽機関銃をクルミが受けつつ、室内へ飛び込んだニコがパルス手榴弾を投げ込む。
青白い閃光が走り、理事のほかに居た重装オートマタを、よく狙って頸椎へスラグ弾を送り込むが、必死の理事はサイドアームである象牙細工をされたガバメントを抜いて射撃した。
撃った弾はニコの散弾銃を掠めてニコが点灯したが、回り込んだユキノの射撃を受け、電磁パルスを浴びていない片腕の関節が撃ち抜かれる。
「
貴方の負けだ、2年前は貴方が勝ったがダイスは常に運次第だ」
「負けだと? 我々は負けていない、君たちが手に入れるのではなく、俺が君達を手に入れたんだ」
そう呟いた理事は動かないはずの片腕を動かそうとしたが、ホシノのHE弾を頭に直撃させられて沈黙した。
結局、カイザーは発掘事業に関しての件が露見し駐屯地に増援や支援が送れず、ネフティスはカイザーの前衛大隊による阻止射撃が指揮所へホールインワンしたのを皮切りに指揮統率が崩壊して壊乱した。
だが結局残存する大隊は本社からの戦闘停止命令と、これ以上連邦へ介入される隙を作りたくない為、武装解除された。
そして、確保された理事の「……司法取引の用意がある」と言う言葉が終わりを告げた。
「諸君、これが勝利の味だ、噛み締めろ」
ここまで大騒ぎになったのは彼が相手を煽って錆び玉を磨いたと言うのが近い。
大人でも褒めてもらうのは嬉しいが、ここまで来たらやりがい搾取の類では無いのだろうか?
その裏で部長は安くなったカイザーとネフティス株の購入を開始をユウカに指示していた、何考えてるんだろう。
聞いてみたら「株主総会で叩けるようにしてやろうと企んでいる」と返してきた、何らかの法に触れてんじゃねえのか、それと言いかけた。
「ん、総会で叩けるようにするとどうなるの?」
「損じゃないの?」
セリカとシロコが担架で担がれながら尋ねた。
「そりゃお前、会社は信用と信頼が命で、見放されたら業績が下がる、株が一定数買われたら株主が社長より偉くなるのさ」
「「はへー」」
「詳しくはアヤネと先生に聞いてみな」
2人はキラキラした眼をしてこちらを見ていた。
「良いんです? えばれるとは思いますが」
そう聞くと、彼らしくもない衝撃を受けたような顔をしてこんな事を言われた。
「いやなんだ」
「はぁ」
「……真っ当な故郷を燃える若人特有の熱意に何か気圧されたんだよ」
笑うと言うよりも、「あんたの職分じゃないのか」と思った。
とはいえ、言いたい気持ちはよく分かるが。
【廃部だ、廃部!】
それからという物もやはり、滅茶苦茶であった。
部長とユウカはノアに連行され、付き添って居たらアリスは天井に大穴を開けた。
捜査部部長とリオ会長に土下座行脚してアリスの件謝りに行ったら「え、想定外だったの?」と困惑された。
あの人は我々がアリスに関連して乗り込んだと本気で思っていたらしい。
知らないんですけどと返したら「え、連邦生徒会会長から説明とか受けてないの?」と本気で聞き返されたが、取り敢えず何とか合意してくれた。
「とか言ってたら今度は補修授業部の案件が出て来た」
「廃部させちまえ」
補習授業部に関して「ちょっと専門家も交えないと直ぐには」と返して捜査部部長を呼び出し、「敢えて裏切り者が居るなら泳がしてみればよいのでは?」と典型的な良い警官・悪い警官で説得を通してみたら、本当に行けた。
睡眠不足の人にまともな政治思考を期待するもんじゃない。
「そもそも裏切りと言うのは、どういう裏切りですか?
コハルは権限も大してない、それ以外も何ら実権を欠いた連中ですよ、せいぜい浦和さんが怪しいように見えますが、彼女の性格で裏切る為の工作が出来るようには思えませんよ。
だいいち、餌がありませんね全員に」
「餌?」
「えぇ、お世辞にもセイアさんでしたか、暗殺対象の派閥の動きは緩慢ではっきり言って……杜撰です」
これは個人見解だが、このナギサという人は頭は良いのだろうが思考が内により過ぎている。
はっきり申せば視野が狭い、それがこの容疑者選定に出過ぎている。
「言っては何ですが、”こんな程度で暗殺が成功してしまう”ことが異常なのです。
正直に言いますがその程度の杜撰な警備や情報保全では犯人が居ると言うのはファンタジーになってしまいます、私ならもうとっくの昔に消えてますね」
分かり易く説明するため、ARONAに作図アプリを出させて図を描く。
ナギサは何かを言おうとしたが、もう少し聞く事にした。
「そして聞きたい事があります、あなたの御親友は”なぜこの時期に対ゲリラ戦演習計画を挙げておられるのですか”」
「それは……」
「予定通りなら、このトリニティの中心部はパテルの兵で満たされる事となります。
”どうして対ゲヘナ演習ではなく治安戦演習が出たのです”」
ナギサは愕然としたような、怒りの籠った目を向けたが、残念ながら怪しい要素が多すぎる。
「真偽を確かめる手段は一つです、貴女を囮にします。
もう一つ、正式にセイア氏の事を公表する事です、後ろめたい人は反応するものですよ」
結論は出た、ナギサは取引に応じ、部長の方は調整に集中している、あちらはあちらで随分忙しそうであった。
ゲヘナ側との調整とかヴァルキューレとの警備計画は流石に一任するだけではいかない、というか連邦は自分から言い出して投げ出すとは何を考えているんだ!
トリニティやゲヘナから納税を拒否されても知らんぞ、再分配も出来んでは何の意味がある。
【Peace for Our Time】
やはり犯人自体はミカだった、連邦名義の正義実現委員会の出動命令書を確保し、相手が行動を掛けた瞬間、こちらも演習名目で待機していた正義実現委員会の境界線旅団による治安出動を発動する。
本校駐屯の中核部旅団と挟撃し、夜間の内に武装解除へ乗り出す。
暗殺自体の実行犯は外部の関与だったが、ミカの行動は連邦としては看過出来ない、クロムウェルやシーザーは望んじゃあいない、背広に服通して解決して頂く。
「変ですよ先生、この捕虜たちは……その……明らかに戦い方が我々に似すぎています」
翌朝、ユキノは不可思議気に確保した不明勢力の捕虜をリストで確認して言った。
「どう言う事」
「銃の持ち方はCクランプです、撃ち方はモザンビーク・ドリルで、銃を斜めに構えてます、明らかに軍事訓練を……恐らくそれだけしか受けていないんです」
内心に沸々とした感情が湧いた、自身でも意外な感情だった、殺意だった。
ユキノはこの柔和な男がこうも感情を浮かばせた顔をする事に、些かの安堵感を得た、意味を理解しているのだ。
「誰かさんの言い分じゃないが世の中には度し難い人たちがいるようだね……法務将校に”アリウスの事喋ればミカに司法取引させる”と連絡させて」
「よろしいので?」
「一々上辺だけ整えたバカらしい言い合いに構う気は無いよ、この事態に関する全権を委任されているのだからね」
オトギが「相当キてるねアレは」とクルミへ呟いた。
「無理ないわよ、私好き好んでこんな仕事してんだからそれは良いけど、強制的な徴兵は重犯罪よ」
「そりゃそうだけど普段温厚な人がキレると猶更実感するよね」
取り敢えず現状の報告を送ったら、部長はもっとキレていた。
『少年兵の組織的投入は敗亡の瀬戸際にある国の自主志願とかがやるから意味があるんだろうが何考えてんだ』
「「切れるところそこなんだ……」」
オトギとクルミが目を見開いて呟く。
『当たり前だ! 自分から志願した
「「うわ地獄耳!」」
慌てて大声にキツネ耳を抑える二人に苦笑しながら、ユキノを呼んだ。
「後でユウカと二人で来てくれ、防弾着について相談する」
「よろしいので?」
「どうも想定より悪くなる気がして来た、直ちに一端本庁舎へ戻って部長と計画する必要がある。
それと、テロ警戒で悪いが締結まで外泊と外出を規制する」
FOX小隊は「やっぱそうなるか」と納得した顔をした。
明らかな反連邦勢力が存在する事になる、本来の仮想敵であったカイザーよりたちが悪い何かだ、ただ単に金儲けが好きな悪い企業ではなく、テロリストだ。
「
ユキノははっきりと何かを見定めた様にそう言った。
皇帝の誕生日、特別回です。
後半は何時もの時間です。