キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
──Sir Basil Liddell Hart──
【生来の決意】
暇だ何だと式典会場で言う奴が居たら、そいつは部外のおのぼりさんか、通りすがりだ……誰の言葉だったか。
幸い、警備の回線や周辺住民の強制退去命令は施行されている、後者については「人権問題になりかねませんが」と聞いたら「無辜の市民を戦闘事態に巻き込むより?」と返された。
通信及び物流関連も規制を入れたので、クロノスや連邦の本局が何か言い出したが、これに関してはカヤ室長が「対テロ警戒でありますから」と擁護している。
どうやら、カヤ室長には何か考えがあるらしく、警備局の動員及び公安局の全面支援という手に打って出た。
連邦と言う組織の顕示、と言うよりは、連邦は英雄を欲している、明るいニュースを必要としていたのだろう。
「
「なんでぇい、いきなり」
「昔に見た作品です」
部長はそう言うと、取り急ぎ製作された防弾着をまじまじと見た。
ミレニアムの生徒らが製作したもので、概ねはケブラー及びセラミックの複合装甲に、一部のバイタル防護にはジェルとポリマー繊維である。
これは何でかと言えば、部長向け用に作られたものはシンプルに鋼鉄プレートであるが、しっかり訓練され、歩ける人間に向けたものだ。
「なぁ、素材の違いって何かの意味があるのか?」
「ざっくりと言えば、セラミック中心ですから、弾を受ければ割れます、割れて受け止めるんです」
ニコが先生の防弾着を小突いて言った。
「俺の鋼鉄プレートだと?」
「鋼鉄プレートは重いですが、弾を受け止めて跳弾させる感じですね、大分腹に来ますよ」
「俺ぁ胃が弱いからな、吐いたら見逃してくれ」
部長が軽口を叩いてそう笑い、ニコは「豪胆だな、演技にしても」と感心した顔をした。
それはそれとして、ニコは説明は続けた、部長もそれを軽く促しているし、分からない者が優秀な兵という事はない。
ニブちんの兵が居ても、その鈍さは何処か感覚的な物ではいけないし、指摘が分からないならそこが限界点なのは軍隊以外も同じだ。
「んっんーっ。さて、先生と部長用はどちらもサイドにもプレートを入れています。
側撃を受けても一応大丈夫です、先生のタブレット用に戦術タブレットケースを胸元に固定しています」
丁度胸元にあたる部分にケースが収まっている、脇腹に近い場所にはIFAKのケースが入っている、こうした止血帯や麻酔の使い方は知っている。
「へぇ」
ニコや、ユキノたちにとって不可思議なのはこの2人の大人が真反対である事だった。
部長は「俺古いタイプだからよ、今風のこう言うの分からんからまあうまく教えてくれ」と言い、先生は「兵事の仔細も良く知らん」と本人は自称する、2人揃って妙に歯車良く回る様に出来ているものである。
「それと、ヘルメットは部長からの意見でイヤーカバーも着けておきました」
「ありがとう」
ニコの渡した青いヘルメットはハイカットヘルメットと言うより、旧世代っぽい見た目だった。
コレは部長との間に発生した短いが激烈な論争を理由としている。
ニコは平均的なハイカットヘルメットで良いと考えていたが、部長が「弾片防護が怪しいなら騎士のヘルメットのがマシ」とすら言い切ったのである。
最終的にはニコが折れた、先生も部長も根幹的には正規戦争の想定をしていた。
「部長。警備の方はどういう様子ですか」
それを聞かれた部長は軽く咳ばらいをすると、シャーレ本庁舎の会議室へある電子黒板に、まず古聖堂と周辺地図を写した。
古聖堂内部は双方の最高指揮官であるツルギとヒナが展開している、彼女らは極めてまともなノンポリだ、問題ある部下はキッチリ交代させている。
古聖堂周辺と外郭はゲヘナの
「よくもまぁこの部隊配置図を考え付きましたね」
「え?」
ニコが呟きに目を疑った。
この怪しげな連邦捜査部の部長が、機動作戦などに関して卓抜した見解を有しているのは納得した、だが事実上エデン条約締結に投入される兵力は外郭の外で待機するゲヘナの支隊や、連邦捜査部のヘリ部隊や公安局含めて兵員数は5800名近く、兵站輜重担当を含めて8000余名である。
こうした部隊の機動を円滑にする道路使用や兵站集積の選定、起こりうる各種トラブルへの予防は大きい。
もっとも丁寧な配慮がされていたのは双方の部隊境界線であった。
政治的なデリケートゾーンであるだけではなく、軍事的にこうした警戒線や境界線を突かれて崩壊した部隊の例は古今多い、連邦捜査部の統合指揮による配慮はそうした部分へ及んでいた。
これは殊に兵站に於いては天才的ではある天雨アコや、ツルギの統率よろしきもあったが、スジと計画の骨子を練ったのは彼であった、それは大きな意味を持つ。
細やかな交渉や相談は全て彼にある程度委ねてしまえば面倒な学園間交渉をカットできるのであった。
そうとなれば問題は特にない、後は敵が来るなら戦い、勝てばよいのである、簡単な話である。
部隊と学園と政治バランスを考えて作戦活動を調整するより、ずっと簡単な事である、ただ有能であればよいのだから。
先生は現場であるが捜査部の部長は離れた場所にいる、これは何故かと言うとひとえに安全性と言う事情があるが、もう一つは先生の秘策であった。
要するに先生は山札の中にあるジョーカーは最初ではなく、最高のタイミングで切る事を考えていた、彼はギャンブラーではないが手堅い勝ちの手を狙う癖があった。
それは面白みのない打ち手ではあるが辛辣かつ悪辣な手であった、ましてや、部長のようなイカサマの天才では無かった。
「席次の確認などは全て終わりました」
古聖堂内部の確認を終えて、ヒナタははっきりそう告げた。
シスターフッドは場所を提供する以上、連邦と協力するのは明白で、当然だがサクラコ自体はこれで学園間紛争が終わる事を期待している。
無論現実に生きている以上楽観的な見解ではない先生は言いはしないが、そうもいかないだろうとも思っている。
「そうか。ありがとう」
テプラに書かれた「連邦捜査部」の文字と青い腕章は、ヒナタの眼にも「官僚の役人がする事だな」と思わせた。
先生自体が若々しい青年であるから、役所の災害ボランティアのまとめ役のような、そう言う姿を思わせる。
古聖堂の外に出た先生は、帳簿を持った白河の「全部隊初期配置終わり。全て定位置」と報告を聞き、シッテムの箱の配置を見て確認すると、頷いて「今のうちに軽食」と告げた。
これらの動作の間、ユキノとクルミは射線を塞げるように常に占位している。
「部長。こちらは全て予定通りです」
『おぉそうか、異常がないなら良いが……悪いニュースがある。昨晩に警戒線にかかった奴が居る。
6組いるが4組は不良やスケ番どもだ、無人地帯でネコババ企んだ奴だが』
部長の声がスンと静まったものになった。
『2組は職務質問したウチの隊員へ発砲、現在も所在不明である。
明らかに組織化と訓練を受けた連中だ、何かやる気だな』
「やはり狙いはこれですか」
『もしかしたらお前も含んでるんじゃないか』
「プリマとは出世しましたね僕も」
そうした情報確認をしていると、明らかにM2重機関銃の銃声が聞こえ始めた。
隣のユキノがすっと庇うように立つ。
『こちら梅木9! 不審者が検問を拒否して発砲! 不審者は黒い連邦ナンバーの高級車両数台に分乗!』
「応戦しろ。周辺諸部隊じゃなくてヘリ隊と捜索騎兵借りて対応」
先生の指揮は殲滅ではなく脅威の封じ込めと、新たな敵の出現へ備えていた。
ヴァルキューレ警察学校警備局が96式装輪装甲車のM2重機関銃と、銃器対策部隊の一部で応戦して殲滅させれる訳もない、ならば封じ込めるのが最優先で、周辺を動かして穴を空ける気は無い。
すると、オトギが怪訝な顔をしていた。
「何かあったかな」
「いや、あれ」
オトギが指さした方向には、クロノスの報道関係者らしきものが見える。
撮影車両や中継車から降りているが、オトギは荷物の持ち方と歩き方を見た。
「あいつらなんで足並み揃えて荷物をみんな左肩に掛けてるんだろう」
「……白河! 職務質問!」
ユキノが叫び、ハムサンドを口に咥えた白河が指揮車両から出て来た。
手近な隊員らが近づくと、先頭に居た生徒が撃たれた。
銃撃戦が始まり、相手側は一端退く様な機動を始めた。
「何か嫌な予感がする」
先生の呟きに、確かに現実は答えた。
巡航ミサイルはブースターを外し、滑空誘導爆弾の弾頭部をS字スプリットとバレルロール軌道させながら突入へ入った。
迎撃回避軌道により展開されたレイピア対空ミサイルやローランド3対空ミサイルは回避され、古聖堂上空20m地点で正確に炸裂させた。
瞬間生じた局所無酸素と圧力差の拭き戻しや爆風衝撃波は、周辺建物や車両や通信機材をミニカーやミニチュアの如く吹き飛ばし、弾雨のように周辺を蹂躙した。
先生は即座に側溝の隅へ蹴り飛ばす様に押し込んだユキノと、覆いかぶさるようにしたニコとオトギ、そして無言で構えたクルミが、爆風の弾雨を回避させた。
幸いにして
白い輪のような衝撃波が見えた直後の爆炎、数秒遅れの衝撃波は攻撃側の意図通り、部隊や指揮統率へ混乱を与えた。
爆発音による煙と『指揮本部? 指揮本部?』という問い尋ねる声が響いている。
「部長! 大変です調印式会場が」
慌てた様子のハスミが入って来たので、周辺の自然公園の中で作った半地下壕から顔を出す。
「すげーなおい、アイツ生きてんのかね?」
「何のんきなこと言ってるんですか」
ユウカの報告を聞きながら、あの若造が生きてるかどうかと言う事を確認する。
死んでたケースで考えた方が良さそうだ。
流石に防弾着じゃ無理だよ、俺でも分かるよアレ、死んだんじゃないかな。
「伝令を用意しろ! それと直ちにゲヘナ及びトリニティへ連邦捜査部の委任権限を用いての戒厳を宣言する。
馬鹿どもが介入する前に指揮権から隔離するぞ」
「了解!」
まあ死んでたらちゃんと国葬してやる。
生きてたら嬉しい、凄く嬉しいが、生きてたらの話だ。
そうした話をしていたら、先んじてリンとカヤが動いた、連邦が正式に局所的緊急事態宣言を発令した。
「なんか変だな」
「外環の警備局の一部が突入するようです」
「愚かな……なんの為に俺が段取りを整えたと思ってる」
まぁ言っても聞くまい。
そうすると、ユウカの「繋がりました! 極めて不鮮明です!」と言う声が聞こえた。
雑音が多いが、チューニングして、回線を整える。
「───聞こえるか───我は不明な勢力と───」
「生きてるか?」
「──おあいにくさまで───死んでたら返事ができな───あまり長電話はできませんよ?」
お、軽口が叩ける、と言う事はまともだ。
頭が回っていると言う事だ、男は常に前のめりであるべきだ。
「状況把握だけで良い」
「仔細不明! 推定300前後というところで───右から来た!」
「上手く脱出するか立てこもれ。投降は許可できない。以上」
切られる前に敵車両9時とか聞こえていたが、何とかなるだろう。
戦力を直ちに再編して、不明勢力を封じ込める。
戦闘は最初にそう始まったように、まずグダグダなものとなった。
アリウス側の作戦指揮官と言うより、作戦草案が現実に即していなかった、まずはマコトの懐柔に順当に失敗した事が致命的だった。
連邦が関与したことでエデン条約は再び意味を持ち、政治的な重要性が高まった事で裏切るだけの理由が失せたのだ、政治は生き物である。
結果としてゲヘナの戦力分断は失敗し、アリウススクアッドは戦線へ無秩序の参加を開始したヴァルキューレ警察学校警備局の機動中隊3個の攻撃により、部隊の展開余地を無くした。
「なんで直ぐに警察が介入してくる!」
サオリの憤慨は当然ではあったが、事情が変化していた、カヤは「治安を直ちに回復」させるつもりで、連邦捜査部へ存在感と恩を貸し売ろうと考えていた。
結果としてアリウスは攻勢が滅茶苦茶になりかけたが、カヤの想定は巡航ミサイルなどを有する有力な敵性勢力ではなかったし、事態を掌握したカヤはただちに先生らの確保へ目的をすり替えた。
結果として爆発から19分、第8機動隊第6中隊は先生とユキノたちを合流する。
「撃ち返せバカヤロー!」
「クソッ! 軍用相手はきついぞ!」
固定ライトの付いたハンドガードのMP5A2や89式小銃で応戦しながら、軽装の犯罪者相手の9㎜パラベラム弾主軸では分が悪かった。
幸いな事に足並みが乱れているから良かったが、それも一時的な物であった。
基礎的な火力で負けている為、直ぐに押し込まれ始める。
特にPKP軽機関銃やミニガンを背負ったアリウス生徒らが、擲弾銃の制圧射撃を受けつつ突入させ始めると、機動隊の抵抗線は崩壊を始めた。
「今だ!」
その言葉と同時に、サオリは待機させていたミサキの部隊を前へ出した。
PRO-Aサーモバリック弾頭ランチャーによる制圧射撃が正面攻撃の危険な線を切り崩したが、ミサキの部隊へ機関銃の側面射撃を受けて攻撃が瓦解した。
現状を把握したヒナが機関銃で制圧射撃し、直後に遅滞戦援護の為、ツルギ委員長が突入したのである。
こうした状況はスクアッドらが初期配置に失敗した事、警戒が厚かった事、ヒナとツルギが正面ではなく側面攻撃という巧妙な判断を図った事から発生していた。
当然、サオリはヒヨリの部隊を応戦させつつ、アツコや自身の班から突撃歩兵を投入した。
「あ?」
後退機動する先生たちの最後衛戦闘を単騎駆けという、言わば銀幕の主演となったツルギはそれ故に冷静だった。
ハスミに曰く「意外と視野が広くて知的な面が可愛い」というツルギの視野は、冷静で確かにしっかりしていた。
青白く光る赤い光を灯した、黒衣のアリウス生徒らが現れた。
それらはドラムマガジンのトンプソンを装備したアリウスの突撃歩兵である、暴走するアリウス生徒らであった。
「まずい……」
ユキノはそう呟いて援護射撃を図るが、ヒナとツルギから「行け!」と言われた以上、先生を守り切るしかない。
だがその行動自体はサオリの想定内だった、彼女はスバルから予備隊を廻させて退路を遮断させ、自身の部隊を前に出させたのである。
無論危険な賭けである、不完全だがユキノらはスバルらの抵抗線を破りかねない、時間までに目標を排除しないといけない。
「軽機!」
M1919軽機関銃を展開し、FAL小銃をフルオートで射撃しながら退路を遮断するスバルらの予備隊は、当然だがユキノらの危機感を煽った。
即座に先生たちが伏せ、M4に装着した擲弾銃を撃ち込んで軽機関銃を制圧射撃する。
一気に立ち上がると全員が走り出した。
「囲まれる前に走れ!」
それでもスクアッドほどじゃなくても、スバルらの予備隊は阻止攻撃に諦めが無かった。
次々手りゅう弾が投げられて二発が先生の近くへ飛んできた。
一発はニコが別方向へ投げ、もう一発はクルミが裏返した盾で抑えて破片を抑え込む。
だが、もっとも嫌なものが聞こえた、ポンという炸裂音だ。
「迫撃砲!」
降り注いだ迫撃砲は標定と砲身と弾薬の問題から、200mと50mズレて弾着した、友軍誤射である。
だが迫撃砲は完全に行き足を止めた、誤爆になった事にスバルは「相変わらず弾薬が駄目じゃないですか!」と憤慨はしたが、目的は達した。
側面からアツコとサオリが突入を開始した。
「手榴弾!」
飛んできた手榴弾を、即座にニコは自身の身で覆った。
同時に、サオリの針路へオトギが射撃して制圧を図るが、アツコが投げた閃光弾を受けて潰されたが、クルミがシールドバッシュを図る。
「!?」
死兵かコイツら! とサオリが一瞬怯んだ隙を突いたオトギが、ニコの散弾銃を腰だめで拾って応射する。
咄嗟の拳銃射撃でオトギの銃口を逸らし、後続して来たミサキとヒヨリが戦列へ復帰した。
だが、状況はそうも個人プレイとはいかなくなっている。
『ガンズガンズガンズ!』
連邦捜査部のAH-1Gがロケットポッドとミニガンを二基つづ積んで戦場へ飛来したのである。
これによりミサキが対空戦闘を強いられ、ヒヨリはオトギと撃ち合う羽目になった。
いよいよ万策が尽きたサオリが真正面からアツコと攻勢に出る、煙幕が投げられ、側面機動したスバル隊残余が支援するが、射撃がブレていた。
ブレた理由は腕と言うより整備部品に関する施工の甘さである、銃の部品トラブルが精度を下げていた。
ただそれでも、サオリを先生の眼の前に立たせるのは可能で、サオリの射撃は彼の目の前に飛び込まんとしていた。
何もしなきゃ、確実なゼロ。
勝てる気がしないが、先生は一世一代の大博打をした。
「えっ」
まろび出ていたペン型のモルヒネ注射器を思い切り握りしめ、脇腹へ叩き込んだのである。
余りに常識に外れて、突拍子もなかったがために、サオリの近接戦が対応を間に合わせるには少し遅い。
彼はモルヒネを一部送り込み、結果、手がブレたサオリはこのタイミングで射撃を先生の頭ではなく胴体へ撃ち込んだ。
撃ち出された弾丸を新素材研とエンジニア部の安全マージンは多めにとる防弾着はしっかり受け止め、バリっと音を立ててセラミックが割れた。
それと同時の砲声が響くと、遂にスバル隊は戦列が崩れる。
待機していたチャーチルAVRE工兵戦車と、M113が数両を伴った連邦捜査部の増援が到着したのである。
「まずい!」
タイムリミットであった。
そして、それはこの条約を巡る戦闘全体の事でもあった。
戦闘開始48分、戦列を整え完全包囲下に収めた連邦捜査部は、古聖堂へのヘリボーンとガンシップの制圧による敵戦列の分断を成功したのである。
明確な戦線が形成しきれず浮足が立った敵が後背を絶たれ潰走を始めたのを、見過ごしてやるほど連邦捜査部はお人よしでは無かった。
戦域へ投入したゲヘナ風紀委員会の予備擲弾兵支隊を直ちに全力機動し、カタコンベへ突入したのである。
連鎖的な士気崩壊は著しく、カタコンベでの抵抗はほぼ皆無であった。
この状況の原因の一つは、状況不明の混乱下ではあったがシスターフッドと
こうした戦線壊乱が発生した直後、アリウスの指導者であったベアトリーチェは謎めいた変死を遂げた。
死因は未知の薬物であったが、暴走するアリウス生徒を産む薬品を強引に口へ送り込まれたものであった。
実行した人物は諸説あるが、もっとも有力な説は偵察総局長であった聖山マギの手によると言う説と、ゲマトリア内部の内部抗争と言う説が歴史の解釈で分かれている。
明確な事実は少なくとも神秘を有さない存在が服用して良い物では無かった、と言う事であった、半ミメシスであるから、神秘と記憶を有さねばならない。
だが少なくとも、後年、幾らかの生徒が「マダムの部屋へ乗り込む数名の偵察総局員を見た」「気持ち悪そうに何かの濡れた布を手袋をして畳んでいた」と証言しているが、物証は無く連邦歴史調査資料には含まれない事となった。
戦闘開始4時間で事実上組織的抵抗はほぼ終結していた、連邦捜査部部長は1時間ほどでアリウスへ入り、先生は肋骨にひびが入りかけたが、空元気であった。
無論空元気であるから、翌日くらいから激しく痛んでミネ団長のワクワク野戦病院で痛み止めを配給された。
取り敢えず戻ってみると、カヤ室長が部長と何か話していたのを先生は見た。
「何話してんだいったい……」
カヤが反骨の相だと言う役員が居るが、じゃあうちの部長はなんだよと思いつつ、近づいてみる。
歩くのが松葉杖だが幸い穴は開いてない上に生きている、概ね満足しておくべきだ、こんの絶妙に問題児の部長は目を離せない。
「馬鹿野郎!」
いきなり部長が声を荒げた。
カヤの眼が見開いて、書類束を盾にするようにした。
「証拠がはっきりしてて裁判開くに手間暇がかかってると言う事は、その国の司法と政治が全て寝ぼけてんだよ!
敏速果断で措置する! こういうのは占領行政と内戦安定化の初歩だぞ!」
「わ、わかりました。直ぐ整えますから」
「何いっている、局所的非常事態宣言したろ。
思わず唖然としていると、気付いたのか部長は楽し気に「生きてたかしぶといなお前! 顔が良いから死神に嫌われたな!」と楽しそうに言った。
「今のは一体?」
「欠食児童に軍事訓練だけ与えて今は被害者を気取る馬鹿の処分だ、ゴミ出しは俺がやる。
お前司政官やれ」
そんな事を話しながらこの部長は書類ではなく別のものを書いていた。
いや違うこれ作図だコレ、何してんだこの人。
「何してるんですソレ」
「バシリカ前の再開発予定図だが」
「え、それもやるんですか? というか司政官とはなんです」
思い出したようにこちらを見て来た。
「本日付でアリウス顧問教師を兼業」
「え!?」
「お前が一番まともだろ、トリニティの一部馬鹿連中こんな事言いだしたぞ」
調印式やら何やらの裏でトリニティの臨時代表が介入しようとして来やがったらしい。
何考えてんだアリウス派はあなた達が追放したんだから統治権無いでしょと返したら、子供の成長云々と抜かしてきた、何でそこでそれが出るんだ……?
人の生き死にが関わるものを練習とか抜かすのか……?
「何なんすかね」
「大方時代錯誤のバカだろう」
「それくらいは分かりますよ、何がしたかったんだろうって話ですよ」
「そりゃお前、殴っても良いフリー素材が来たから殴りに来たんだろ」
「性根が終わってますね……」
ミネ団長は「知るか馬鹿どもなんぞ」と無視し、サクラコは「シスターフッドは茶会のではなく、神に仕えてますからねぇ」と拒否ったらしい、正論は強い武器だよなぁ。
開かれた特別法廷だが、これはこれで酷いものであった、間抜けなカスの大人が虚偽報告でまず告訴された。
続いて別の奴は賄賂をもちかけ、別の奴は証人席やカヤの方を脅そうとした。
問題は……裁判長は部長である。
「法廷侮辱罪につき鞭打ち10回と処す、なお鞭が無い為銃剣で代用する。衛兵! 着けェー剣ッ!」
「なんだって?! 弁護士も無い裁判があるか!?」
「連邦生徒会も了承しているが非常事態下の裁判は人身保護令や人権を適用されん!
本官は諸君らの戦争責任追及に必要なすべての手段を直ちに、遅滞なく、あらゆる手段が許されている。
つまり生きたまま手足を捥ごうが何をしてでもだ、貴様の親類縁者全員の首を並べてでも証言させる」
カヤと先生以外は驚愕した。
カヤは「まぁ非常事態宣言した上に反連邦の内戦扇動勢力だしなぁ」と諸行無常の感想と、「いやぁ先生居るから鞍替えして正解だったな」と安堵していた。
先生に関しては本気で殺意を抱いている、夏場のアスファルトの上のセミより長生きさせる気は無かった。
その日、アリウスの人口が少しばかり減ったが、誰も悲しむことは無かった。
司政官と言う仕事だが、先生を兼業していると何とも不可思議なものである。
奇絶怪絶また壮絶と言うべき復興諸問題が出てきたが、連邦権力というものと、善行であると言う事は大きな意味を持つ。
要するに学校の機会宣伝などで皆が支援をするようになるわけである、こうなると本当に色々来るから、これを効率よく再分配する。
「書類が終わらないよォ」
「好き好んでなったんでしょこの仕事」
「本当の事言うなぁ……」
オトギが揶揄うのは兎も角として、良い事は幾つかある。
危険の大きなアリウス市街地などの再建計画だが、調査と回収斑の志願者を募った、小隊全員が志願した。
分かった事があるとすれば、彼女らにとって、護るべき社会と秩序と故郷が、護る価値があると確信しているのだ。
「本当は志願って言うのも嫌だったんだけどね」
そう言うと、ユキノはきょとんとした顔をした。
「志願と言う体裁で、指揮者や命令者の責任回避してる感じがしてさ」
「とはいえ、志願は志願でしょう?」
「そうではあるんだけどね……贅沢な話だよ」
先生はふと、思い出したように呟いた。
「ところで、前から聞きたかったんだけど」
「はい?」
先生は真面目な顔をして尋ねた。
「最近尻尾が楽しそうなのは何で?」
数分後、連邦捜査部部長は先生からの「ユキノが拗ねました……」という報せに、ただ一言返した。
「ばーか」
それが全てである。
馬鹿とアホに付ける薬はねえ、鈍い奴に付ける薬もねぇ。
アイツ本当に大丈夫なんだろうか……。
”うわぁぁぁぁぁぁぁ!!! ”
焦って飛び起きたプレナパテスは、慌ててソファーから飛びあがった。
何食わぬ顔で隣に居ようとしたアヤメが腰を抜かし、自称先輩が「だいたーん」とからかったが、直後にアヤメに乳をビンタされて「ひぃん」と敗走した。
「なによいきなり……」
アヤメの困惑顔に、半分安堵して彼は出された紅茶のカップを受け取る。
そして、紅茶のカップの方を見て、こんな白い服の人は居たかなと視線を向けた。
「だ、大丈夫ですか?」
何故か金髪の連邦生徒会会長が見える、プレナパテスは無言でもう一回寝ようと決め、アヤメは便乗して隣を拝借した。
やがて、タイユランが「なにしてんの、君はあっち! こっちじゃない!」と、慌ててロココ調の部屋から押し出し、窓から顔を出して「クズノハ様なにしてるんですか! 紛れてますよ!」と声を上げた。
「じゃかましいんじゃい不法居住者!」
「酒は貢いだでしょ!」
「お主らもう少し敬意は払えんのか!」
「25年住めば私のモノでしょう!」
「ここに日本国法が通じると思うんか?!」
あぁ世界の魔王役はこういう風にして罪と罰のバランスを齎すのか。
世界は上手くできてるわけだ、なんでだよコレは無いだろ!
プレナパテスは、久方ぶりに、不貞寝した。
──マーティン・ヴァン・ビューレン──
前後半であった、ん?と言う描写はそう言う事です。
観測した有り得た世界の一部を見たのかもしれません。