キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
あなたがたの教師はただ一人しか居らず、あなたがたは皆兄弟であるからです
──聖書──
アビドスの片隅、新市街とはちょっと遠いアビドスの廃墟、そこには便利屋68が居る。
事務所を構えると何故かそれなりの確率で吹っ飛ぶので、他地域での事業所計画は上手くいっていない。
ただそれにしても最近は少し異様と言った状況であった。
「どうしてこうなるのよぉ」
そう嘆くはラーメン柴関店内の便利屋68である。
最近バイトから正式に昇格した元ヘルメット団の店員が百鬼夜行に進出したので、糊口をしのぐため、取り敢えずここでアルバイトをしている。
セリカからすれば「容器出して皿を洗って品出し出来れば十二分に楽」と認識しているから、別段、困る事も無い。
むしろ料理に集中できるから正式にウチに来ないかと思っている。
「あたしは別に良いと思うんだがねぇ」
「まぁー、嬢ちゃんらも夢があるんだし、なに、経験はつめるさ」
こうした無償の裏表のない善意に弱いのが陸八魔と言う女である。
無論、仕事自体は幾つかあるにはある。
例えばアビドスと一緒に賞金首狩りに行ったり、ラビット小隊と仕事をしたりである、最近では仮想敵部隊と言う仕事もある。
それ以外では連邦捜査部が公示してる依頼も存在する、この依頼は基本としてブラックマーケットの価格帯調査というもので、真実価格帯や相場以外は調べなくて良い。
一軒ごとに値段は安いが、地域を巡ればそれなり以上の値段になる、シャーレとしては紛争徴候などを調べる良い情報材料だ。
「と、いうわけで我々は賄いラーメンではなくちゃんと注文するべきだと思うのよ」
全員が「社長が遂に善意に耐えれなくなったな」と理解したが、最高階級者は当然社長である、であるならば社員は支援するのが道理であった。
どのみち、そう大きなことにはなる筈はないのだ。
そうはいかなかったが……。
ブラックマーケットへ赴くと、以前に悪趣味な不動アンのコロシアムめいた事件の時に出会った生徒が居た。
サングラスに猫耳をしたその生徒は、便利屋に「別のバイトならあるよ」と告げられたが……。
「闇バイトじゃないコレ」
開口、陸八魔アルは呆れた目で呟いた。
不動アンが紹介した仕事というより、それ以外の奴として流れてきたやつだが、何とも言えない気分になるのは、明らかにあの女が絡んでそうな事であった。
要するに適当に面倒くさがったりする奴がこっちに流れるように、そういうスキームがあるんじゃないのかと本気で勘繰りたくなるのである。
「身分証とスマホ渡せ」
「ほら、渡しなって」
猫耳の頭の中身が怪しい生徒にも呆れつつ、ハルカへ頷いた。
ハルカは無言でムツキから渡された集束手榴弾を手に取ると、目の前のトラックの下へ投げ込む。
「え!?」
生徒の手を掴んでアルが引き寄せ、続けてムツキが変わって横へ出て、carシステムで構えたカヨコがアルの傍についた。
全ての社員がしっかりアルを守る様に位置した瞬間、ハルカが前進を始める。
初撃の集束手榴弾で凡百の闇バイトたちが逃亡、逃げ散る生徒を追い散らす様にムツキが掃射し、続けて観測手を兼ねたカヨコがアルへ目標を告げる。
「一日20万のバイトがーっ!」
「えっ、そんなに儲かるの」
思わず陸八魔のシャープシューター・アイが横を向く。
顔ごと動かさない辺りが生真面目である。
「そりゃまぁ、だってATMごといったりしたし」
その猫耳の生徒の呟きと同時に、明らかに統制の取れた足音が聞こえ始めた事に全員が気付いた。
無論、その瞬間の便利屋68が選んだ決断は一つである。
「にィげぇるんのよぉ~ッ! てっしゅーっ!」
「逃げるの?!」
「残るのなら止めないわよ?」
「逃げる!」
もとより便利屋68は無理をしない組織である。
しかし、やってきた生徒の動きは明らかに手馴れていた、そうした徴候を機敏に察した一同は強行突破を選択する。
ブラックマーケットはその無節操な構成上、街区や街路は無法図である。
従いある程度の方角を定めて強攻に出るのは、兵理に於いて極めて至当と言える。
故に。
「待ち伏せッ?!」
カヨコがはッとして叫んだ。
真横から突撃してきたのはBTR-70装甲車である、明らかに事前配備して隠匿していたものだ。
「GO!」
「Move!」
デサントしていた跨乗歩兵が降車、降りて来た跨乗歩兵は6B2ベストなどを着込んでSSSH-94ヘルメットを着用している。
明らかに訓練され、装備を着慣れ、動きも集団戦に慣れている。
M60軽機関銃の掃射が行われ、続けてBTR-70の機銃と歩兵の擲弾銃が便利屋の隊列を分断した。
7・62㎜以上の弾丸には流石に勝てる気がしないのが便利屋68である、アウトローは無謀と勇気を同じポケットに入れない。
「各自散開!」
急いで指示を出し、ムツキが煙幕を展張、続けてハルカが制圧射撃する。
だがこれまでの敵と、それまでに比して敵の動きは便利屋68の機動を、悉く読んでいるかのような動きをするのである。
散開と再集合、迂回、逆襲に見せかけた欺瞞、全てが見破られている。
「社長! 明らかに私たちの動きが読まれてる!」
カヨコが切羽詰まった声で叫ぶ。
またも増援が到着した、今度はウィリス ジープにm2重機関銃が備えて、針路を塞いで掃射してくる。
さらに後方から、別のRPK持ちの分隊が追いすがってきた。
「左へ!」
そう叫んだアルの視線の先に、SSSH-94を着けた生徒がRShG-2を構えるのが見えた。
白煙を描いて飛んでくるロケット弾は、サーモバリック弾頭仕様の対人制圧型である。
火薬型とは一味違う爆発音が轟き、安普請の建物が一部崩落した。
ヴァルキューレ警察学校、本館。
その会議室では何名かのヴァルキューレ警察学校警備局の機動隊指揮官と、公安局の職員や局長などの一行、更にシャーレの何人かの将校たちが座って待機していた。
「
扉を開けた警察官が告げ、全員が起立する。
入ってきたプラチナブロンドの髪をたなびかせる連邦生徒会の会長と、堂々たる立ち姿の先生が続けて入る。
「なおれ。着席!」
先生が告げ、シッテムの箱がプロジェクターと繋げ投影を始めた。
映り出すのはブラックマーケットの地図だ、規模としてはかなり大きい部類に入る。
しっかり投影されたのを確認し、連邦生徒会会長ははっきりとした声で告げた。
「これよりブラックマーケットと呼称される、非連邦地域に対する鎮定作戦の説明を始めます。
まず第一に、これはこれまで行われた警察出兵や出動とは、一線を画すものであります。
作戦の完遂は、即ち連邦による治安の再確立を意味するものです!」
鎮定、すなわちブラックマーケットは反連邦に近い匪賊勢力であると言う事を連邦生徒会会長は匂わせていた。
もとよりブラックマーケットは連邦生徒会を尊んでいない、ということは、御稜威も無い奴に庇護も無い、ということになる。
こうした鎮定作戦が決定された理由は防衛室の室長が不在であり、シャーレからの「いい加減、ゴミ出しをしましょう」と言う意見を採択した事にある。
連邦生徒会会長とはいえ、復帰早々荒事を使うのも気が引けたと言う所はあるが、ここら辺でヴァルキューレ警察学校にも目新しい成果を与えてやれと言う先生の理屈も理解していた。
大規模な部隊を行使して運用すると言う経験も必要である。
「今次鎮定作戦は、対象地域へ生活安全局及び警備局機動大隊一個による包囲環を形成。
そののち連邦捜査部機械化中隊2個を増強として含む、警備局機動大隊二個による対象地域への法執行を行います。
事前情報に関しては、尾刃局長、お願いします」
連邦生徒会会長はカンナへ促し、カンナが起立し説明を始める。
「えー、お手元の資料の3項目が現在までの対象地域の状況です。
数日前より幾つかの武器の集中や弾薬類の搬入、幾つかの不法グループが観測されています。
武器弾薬や諸物資の価格も周辺地域で高騰が始まり、幾らかの寄せ場から労働者も数を減らしています」
要するに兵隊どもを集めていると言う事である。
外の世界では民兵が集まると酒・薬・女があわただしくなるが、キヴォトスでは弾薬・菓子類・食料品類があわただしくなる、兵站を差配できないからだ。
明らかに周辺の地域から兵隊を集めて何かをする気なのだ。
周辺状況や知っておくべき情報についてカンナは一通り説明したが、幾つか注意事項として重機材の搬入があったと報告した。
「重機材、とは?」
「詳細は不明です、パワーローダーのような歩行装甲車などに類するものである可能性はあるのですが、倉庫地帯で観測できていません」
会議室のメンバーの一部が「なんか出てくるって事か」と息を吐いた。
詳細はまだよくわからない、と言う事を批判する者はいない、どのみち何にも分からない事のが多いし、なんか出るかもと言われるだけマシだ。
「今次鎮定作戦は、その重要性及び、状況を加味した結果、先生による統合作戦指揮で行われます」
連邦生徒会会長が促し、マイクを点けて、会長とは反対側で立って腕を組んでいた先生が告げた。
「まず、諸君に理解しておいてもらうべき事は、今次鎮定作戦は”こそこそ”としないと言う事だ。
我々がするのはただの犯罪鎮圧ではない、圧倒的数量と質を以て、巻狩りの要領で奴らを締め上げるのが作戦第一段階である、隠匿など考えんでよろしい」
先生はサングラスをずらし、胸ポケットへ挟んだ。
「各隊は所定通り前進し、獲物を狩り立て、局地へ追い立て締め上げる!
自らの暴力で無法を働けると信じた愚者どもを、
要するに、こうしたものは作戦というよりは、ケダモノ相手の山狩りと変わらん」
先生はタッチペンを手に取ると、シッテムの箱に投影された地図へ幾つか兵科記号を展開した。
壁に投影された地図を見る各級指揮官らの目は渋いが冷徹なものだ。
シャーレの機械化中隊二個の支援を受けて機動大隊二個による前進強襲進撃、包囲環にさえ警備局機動大隊一個を配置しているということは、どう考えても負けは無い。
「第二機動大隊及び第四機動大隊は、予定通り進発し────
ブラックマーケットの某所、とあるビルではモニターに映る状況へあるオートマタが歓喜していた。
闇バイトを集めていたこの男は、過去のアレコレで便利屋に恨みがあるのだが、彼に戦闘指揮の才能は余りない。
では、その彼はどうしたら便利屋68という、逃げる判断はキヴォトス随一というある種の特技を持つ集団を追い込んだのだろうか?
答えは簡単、軍事顧問である。
その軍事顧問は、このブラックマーケットの何処にもいない。
高級ホテルのスイートをフロア単位で借りて、回線は有線で繋げているのだ。
「ヴィクター3、4、哨戒を続けろ。
インディアとウィスキーは全班でセクターの確認」
そのオートマタはブラックマーケットの中でもDUでもかなり目立つような高級スーツを着ているが、間違いなく伊達男というより、危険な男の匂いがしていた。
基よりこの軍事顧問が無ければ、依頼人の便利屋68への復讐なんて、ファンタジーより非現実的である。
この降って湧いた幸運に依頼人は満足していた、怪しい軍事顧問は謎めいた資金や才能を有していたのは気になるが、依頼人にはどうでもよい事だ。
「そろそろシャーレが動く頃かな……」
軍事顧問はそう呟くと、指揮下の駒を片付けに始めた。
便利屋自体は片が付いた、というのは依頼人の甘い観測だよなと思っている。
彼には便利屋が全く片が付いていないのは良く理解していたが、馬鹿なクライアントに付き合うつもりはない。
カイザーからドロップアウトしたり脱走した生徒らを使い、俄作りの戦闘部隊を再編し、針路を予測し、車両を手配し、管制する。
正直なところ、この軍事顧問には別に難しい事ではないと感じた、彼はもっと楽しい事がしたいと思っているが、この依頼人はここまでだ。
「ま、そろそろ爆発するかな」
その読みは正しかった、既に依頼人は仕事は終わりだと告げているから、まぁ知った事ではない。
回線を切って、部屋のテレビを点ける。
赤い絨毯が敷かれたオフィスに、平均的なキヴォトスの夜のニュースが流れている。
『今日の午後、連邦生徒会の会見では新しく治安政策を再編し、更なる公共安全秩序の確立を』
クロノスの番組へチャンネルを変えると、ちょうど事態が変わり始めたようだった。
ブラックマーケットの散発的な”小競り合い”に憤慨したらしい陸八魔アルが、でかでかとテレビに中継されている。
「なにしてんだアイツ……」
そう困惑する軍事顧問へ、「どうかしましたか?」とにこやかな糸目の少女が尋ねた。
白銀の髪に透き通った白みが強い肌をした少女は、普通の少女ではない。
彼女の袖章や服装はカイザーpmscではなく、グレーの外套を纏える最高役員会の所属である事を示している。
名天トフー、かつてデカグラマトンの失敗した素体であったが、再生され、いまは修行を兼ねて現場にも出たりしている。
「いや、大分予想の外だったというだけだ」
「不確定な人々は常に居ます、確定された人が居ないのと同じです」
「そうではあるがね、ちょっと予想と違って面白くてね」
男の苦笑は「読み違えたなァ」というものであった。
彼女らは大分愉快な面々だが、社長が公然と出てきた途端、直ぐに表れ始めた。
これまでネズミ一匹見当たらないと隠れていたのに。
それほどまでにこの女が愛されているのは不思議ではあるが、それは重要ではあるが、今の案件ではない。
「素早いですね、回り込んだ対狙撃要員が火点を潰しています」
「大方狙撃手がスマホで位置バレしたってあたりだろう、最近の学生はなってないよ……」
机から葉巻を取り出して、男はやはりやめた。
紙巻の気分だった。
「さてこんだけ大騒ぎすれば……」
「出てくるでしょうねぇ」
現場を中継し始めたテレビカメラが、中継を映さなくなった。
連邦生徒会の情報規制にしちゃ動きが早すぎる、理由もない、と言う事は。
机の電話が鳴った。
「はい、もしもし?」
『繋がった! 頼む! シャーレが介入を』
男は机から電動マッサージ器を出すと、肩に当てながら言った。
「あー、よく聞き取れません、恐らく電子妨害が強いのかと」
『おい! 君の力が────』
「あ、本当に
男は静かに呟くと、受話器をそのままにして、夕食の手配を始めた。
白身魚のムニエルとでもするべきか、良く焼かれたサーモンあたりとするか……。
スープはオニオンスープが良いだろう、あっさりとしたスープの気分だ。
一通り相手をボコボコにした便利屋68であったが、硝煙の中から近づく者を見て、彼女らは驚愕した。
ブルーの出動服に実働班と書かれたダークブルーのベストと、バイザー付きヘルメット着用の、HK416などを装備したヴァルキューレの警官。
公安局の実働班である。
「へ」
脳内陸八魔最高指導会議は戦闘と言う選択肢を無条件で却下した。
弾薬類に問題がある、それに体力上の問題もある、万全でもやり合わないが。
こういうデカい行政組織は絶対に勝てないと言う事くらい理解している。
「目標発見」
バイザーをあげて、一人の隊員が銃を下ろして歩み出た。
「御同道を願えますか? 先生が呼んでます」
詰んだ! と脳内陸八魔最高指導会議は阿鼻叫喚! 惨憺! 凄惨! また悲惨! 彼女は自身の脳内で蛍の光が流れるのを感じた。
しかし一つ、気になる事があった。
自分たちを捕まえに来たにしちゃ、自分たちに何かこう、警戒が緩くないか?
ヤバいときにこそ妙に冴え渡る皮肉な才覚であった。
「わ、わかったわ」
連れられて戻るまでの間、生活安全局がそこいらに転がる生徒らを収容している。
歩いて少しすると、警備局の機動隊とシャーレのM113ACAVが道路を封鎖し、あちこちから警察無線や足音が聞こえる。
先生はヴァルキューレ警察学校のテントに何食わぬ顔で、パイプ椅子に座って待機していた。
「お、来たかぁ」
「な、なんでどうしてこうなってるのぉ?」
「俺が寧ろ聞きたいんだよなソレ……」
無論先生の言葉に反論の余地はない。
実際先生からすればそれはそうである、当然だ、便利屋68からしてもそう見える。
だがそれはそれとして、先生にはそれなりに都合が良い事もあった。
便利屋はここに入った時、シャーレの公示依頼の価格帯調査であった、これは記録上確かにそうなのである。
戦闘事態に巻き込まれたりしてるのもテレビに出てるのも訳が分からないが、書面記録上はシャーレの依頼を受けた生徒だ。
「まぁー、事情は理解したが、何と言うかお前ら狙いで変なのが出てんだな」
「みたいなのよ……」
連邦捜査部の支援の下、ヴァルキューレ警備局と公安局によるブラックマーケットへの一斉攻撃がされるという報せには陸八魔アルはあまり驚かなかった。
「よりにもよって今なの?!」とは思っている、これでもアウトロー、報復はきっちり果たしたい主義だ。
ただ包囲環の規模には些か面を喰らった、警備局機動大隊と連邦捜査部戦闘団から機械化を中核とするタスクフォース、さらに近隣諸地域である観点から支援に出たゲヘナ風紀委員会まで含めれば、優に兵力は千を軽く超えている。
作戦指揮所ではホワイトボードに作戦序列やらが書き込まれ、長机の上には無線機や各方面の幕僚たちが腰を据えている。
「4機全中隊、配置についた」
「生活安全局による周辺住民退去確認終り」
「予定通りEW戦を発動、有線無線通信への広域封鎖を開始」
「上空警戒中のスキャンイーグル展開、データ転送」
「時計合わせ用意」
先生はタブレットをコンピューター端末に有線で接続し、地図上にデータリンクの印が浮かぶ。
各部隊の初期配置が確認され、偵察情報から一部が機械化されているのも確認できた。
先生は「アロナ。過去15時間の活動徴候を記録し分析」と告げた。
『えー、でも仕事の能率が落ちますよ』
「大丈夫だ、鎮定くらいはお前無しでも出来るよ」
『了解です、では解析に集中します』
シッテムの箱をベストのタブレットケースへ仕舞うと、先生は足を組んで言った。
代わりと言わんばかりに、紙の地図を見ながら先生が呟いた。
「というわけでだ、便利屋68。お前らを弄んだヤツ、御礼参りしたいだろ」
「「「「したい!」」」」
「元気がいいねぇ、ま、取り敢えず此処にいる連中くらいは何とかできるがな」
自信ありげに先生が呟くと、先生のインカムに連邦生徒会会長からの連絡が入る。
先生は起立、片手でインカムを抑えつつ、近くの警官に「ペン、ペン貸せ」とハンドサインした。
『全て位置についていますか』
「問題なく。全部隊攻撃発起位置につき、最終承認あり次第始めれます」
『現時刻を以て、作戦開始を承認します』
「了解」
先生は会長に短く返答して、インカムを各指揮官への回線へ切り替えた。
「さて。
『第二機動大隊作戦を承認。前へ!』
『発令が承認。作戦を開始』
『現時刻を以て作戦を開始』
各警察無線は一斉に騒がしくなり始め、銃撃音が激しくなり始める。
ある程度プラナやアロナが集計、先行した偵察や活動中の熱源を上空から観測していたMQ-20などによれば、匪賊どもは五千ないし六千名近い事に先生は呆れていた。
「政府に不満を持った暴徒が膨らんで2万5000ぐらいにはなったりするが*1、武装した民兵が普通こんな増えねえよこれは暴徒じゃなくて反乱軍だ」
呆れたような先生の呟きに、アルはそわそわしながら座って待つことにした。
さて鎮定作戦開始だ、官軍で賊軍を蹴散らす仕事を始めよう。
上空からのMQ-20のおかげでデータリンクした各部隊の現在位置が良く分かる、アロナを会戦解析に回してるから相手の武装解析とか自体はともかく、データリンクは良くできている。
寝坊助クソAIではあるがこういう点はちゃんとしている。
「二機三中、進出を継続しろ。第二及び一中隊は少しペースを緩めろ、第三と歩調がズレている。第四はまだ動くな」
『プロフェイン22からゴールドイーグル。あー、北西方向から車両。装甲車らしきもの。三両が近づく』
「四機二中、注意しろ。四機四中は前に出る用意しとけ」
地図にペンを書き入れながら、つまらん仕事だと思いつつ、作戦中であるからしたいように出来ると思っておこう。
連邦生徒会会長には「放火進撃しちゃ駄目ですか」と言ったが駄目だと言われた、「どのみち逆賊、賊軍でしょうが」と思ったがしょうがない。
前線のボディーカムでは二枚重ねの大盾を構えつつ、装甲車と前進する機動隊員らにあっという間に蹴散らされている。
相変わらずの弱体さだ、群れないと暴力も振るえん連中に、鉄拳で対応したら途端自分は弱者でございますと気取っているが無視だ、好きに法廷で喚いてろ。
『第四機動大隊は予定地点へ進出』
『第二機動大隊、敵の抵抗は増大なるも前進を継続中』
『敵の抵抗軸はグリッド10899245を中心としています』
「観測班、中心軸とそこ以外の映像ちょっと回せ」
先生の指示にオペレーターは少し困惑したが、直ぐに映像を回す。
少しの間、先生は考えながら「機械化中隊を一個、二機の側面から回せ」とすぐに指示した。
抵抗の中心軸というが敵の部隊指揮の効率は主力と切り離されている様だ、指揮統制がよろしくないのだろう。
そうした敵に側面から回った機械化中隊を襲わせたものであるから、第二機動大隊の前面の敵が潰走に移る。
「うーん、多分4機の前面が敵指揮所だな。2機は4機に敵が行かんように第四中隊で進出させろ」
『予備の第五と第六中隊は待機していますが』
「バカヤロー、そいつら動かしたら誰が後方の掃討と戦略予備やるんだよ、まだダメ」
『了解』
敵の大半は対戦車火器やらなんやらに不足したり投入が間に合っていない。
まあ当たり前だ、弾より早く走れるのは映画だけ、弾が当たらないのも映画だけである、まともな直協歩兵が居て暴徒が装甲戦力相手に戦えるかよ。
後方からは逮捕者やらなんやらを締め上げ掃討する二個中隊の予備戦力が居るから、どのみち警備局だけでも負けない戦いだ。
呼ばれた理由は警備局も3個機動大隊、つまり18個中隊総がかりでブラックマーケットの包囲戦をやるなんて、誰もどうすれば良いか分からないのである。
これは怠慢ではなく状況が致し方ない、長期戦や泥沼回避で俺を呼んだのは妥当だ。
「先生」
シャーレの隊員が書類を渡す。
内容は敵の周波数帯の帯域と発信源が絞り込めた、予想通りだ、戦力を呼び戻そうとあいつら慌てて通信量を増やしている。
指揮所や拠点に使えて、人の動きが活発な場所は幾つか公安局が捜査で絞り込んでいたから、あとはコレで割り出せる。
「おい、待機してる81㎜迫撃砲へ連絡」
「了解、目標は」
「敵指揮所へ8桁じゃなくて10桁目標で榴弾を撃ち込め」
10桁というのはグリッド、標定射撃の目標だ。
基本的に6桁が使われ、カイザーの精鋭やシャーレでは8桁、そしてウチはちゃんと腕利きが10桁まで行ける、要するに滅茶苦茶ピンポイントに撃てると言う事だ。
これとタメが張れるのはトリニティの熟練部隊とかごく一部である。
迫撃砲の良い所は軽くてレートが良くてちゃんと数キロ飛んでいくことである、指定目標へ81㎜迫撃砲が6門が3発、10数発が目標のビルへ降り注いだ。
『最終弾、弾着、今!』
「4機1中、2中、攻勢に出ろ。3中と4中は周囲を囲め」
地上部ならこれで良いとして、回線を別のへ変える。
「レンジャー、待機出来たか」
『ん! 予定通り避難経路の大半は爆破したからここだけ』
「重畳。そこを死守しろ」
巣を叩いて攻められている害虫共が、泡を食っているのは今だけだ。
恐らく何処かのルートで逃げにかかるだろう、だが電子妨害下で連携が絶たれ、単純に指揮統制が崩壊しているから、勝つのは簡単だ。
そのうち奴らは逃げにかかる、だが逃げ道でレンジャーが待ってる事は知らない。
わざわざ突入したり補給タイミング目押しをするより敵にあたふたさせた方が楽だ、攻撃側の優位点とはこちらの好きなタイミングで殴れることである。
『あー、こちら4機2中! 現在敵の大型歩行兵器が出てきました!』
「そんなのまで居たのか? やっぱり焼いた方が良いんじゃねえかな……無理にやり合わず少し下がれ」
ボディーカムの映像を参照すると、ケテルによく似たデザインのメカがうろついていた。
しかし脚は三脚だがゲブラの脚に近く、胴体部はゲブラとケテルの意匠を遺した曲面多用型だ。
ゲブラともケテルとも違うのは両腕があって背中に武装がある、両腕は7㎜クラスライフル弾のミニガン、背中の多用途ランチャーは60㎜ほどのロケット弾あたり……恐らくハイドラとかのヘリの奴か。
流石にヴァルキューレ警察学校の機動隊はちょっとこれ相手に使うべきじゃない。
「予備に待機してるもう一個の機械化中隊から、対戦車斑走らせろ。あとMQ-20を使ってレーザーでマーク。
迫撃砲チーム、こっちのメカに合図あり次第TOT射撃」
どうせ何処の奴か知らんが、粗悪品とは思えない。
ロケット弾の投射とミニガンで機動隊を後退させているが、追撃に出れないあたり見通しが甘い。
やはりここにいるのは素人だな、便利屋とやり合っていた専門家は最初からここに居ないのだろう。
スパイク対戦車ミサイルを担いで屋上へ出た対戦車班が、用意を整えた。
「迫撃砲、集中、3発、指名、機甲、弾種榴弾、信管着発」
撃ち出された迫撃砲は、まず目標敵多脚戦車へ降り始める。
するとギュイっと上半身を向けた多脚戦車は、両腕のミニガンを射撃して飛翔体の迎撃に入る。
自動システムかFCSの補正が良いのかは分からないが、センサーがある頭には
だが、俺からすればそれでいいのだ。
撃ち出されたスパイク対戦車ミサイルの目がしっかり上空から誘導されてるのだ。
屋上から撃ったから、正規戦なら間違いなく特定されるが、今回相手には情報のリンクとかはない、ぶっちゃけ、ズルしてチート使ってるようなもんだ。
『目標二発直撃!』
『炎上、一部背部装置に引火』
こうもなる。
ちゃんとスキャンイーグルとか飛ばして、ちゃんとリンクしてれば防げたろおめえ。
高い金出して買ったんだからさぁ……。
……あれ。
「そういえば、連中何処からあんなの調達したんだ」
「そういやあんなのが買えるならもっと武器が良いわよね」
陸八魔の至当な感想が続いた。
普通ああいうの買ったら偵察機くらいは買えるはずだ、五千も六千も雇えてこんな体たらくは、あまりにもおかしい。
そうであるなら話の筋があまりにちぐはぐになってしまう。
「金が援助されてるって事か、コレ?」
ああ嫌だ嫌だ、屑どもが豊作だ、馬鹿と屑が豊作が平和の証拠とかなんかで見たが、それならキヴォトスは賢人が多い筈だ。
そう思っているとカンナから『コノカとそっちのレンジャーが逃げて来た敵の連中抑えました』と告げた。
本当に逃げて来たのか……せめて指揮官らしくそこで果てる覚悟とかねえのか? 反乱者でも格好良く散ろうとか思わないのか。
「よし、コード繋げてハッキングだ。プラナ!」
プラナは『すでに実行』と返し、アロナも情報の精査を終えたらしい。
『終わりましたー! 先生! これで作戦に集中を……ってなんでか殆ど終わってる?!』
「そりゃお前、指揮系統がちゃんとしてねぇ暴徒が分断されて抗戦出来っかよ」
『ええーっ!? スーパー戦略支援OSアロナちゃんの大活躍は?!』
「あ? ねぇよ、そんなもん」
それはそれとして、確認された通信状況は明らかに別の奴が通信をしていたらしい。
問題は……場所である。
「で、そうだな……。
お前らとしては当然、納得できないよな?」
先生は尋ねた。
「もちろん!」
アルは即答した、自分のせいで失敗するのは許せても利用されたのは受け入れない。
きっちり復讐はするのがアウトロー、彼女はいま、
だが流石に陸八魔でもその紙を見て、内容に驚愕して絶句した。
行き先は……
「此処ってあれよね」
D.U.に居を構える高級巨大ホテル『クレメンテ・ホテル』、聞いた事が無いわけではなかったし、広告は見た事がある。
立派な四つ星ホテルを兼ね備えた上層階から、下層には高級レストラン*2やダンスホール等が並び、連邦生徒会会長などが寄る事もあったという。
最上階から4階下の部分には
「とんでもなく高級ホテルじゃない?!」
「いやー、流石に予想外だよ」
先生が半笑いで言った。
取り敢えず前金及び仕事に使えと封筒を渡し、ギョッとした顔でアルは口をぱくぱくとさせた。
封筒の中は小切手だが白紙なのだ、意味ぐらいは理解している。
「なにせあのホテルは警備はカイザーにアリウス・マーセナリーの二軸だ、それにあの手の高級ホテルはそれなり以上に秘密を握ってる、介入の口実が無いとこちらも何もしてやれん。
……”何か起これば話は別だが”、ね?」
そりゃあそうでしょうよとアルは思った、こうした場所が秘密厳守なのは当たり前だと思う。
続いて先生から標的情報のデータを廻してもらうが、妙な感じがあった。
「名前も素性も不明なの?」
「自称は会計士、と言うこと以上が分からんでな、公安局のタレコミや他の情報アセットもてんで駄目だ」
「公然身分で会計士がどうやってクレメンテ・ホテルのスウィートやら警備を貸し切るのよ……」
思わずカヨコが呆れて呟く。
先生は便利屋を見て、言った。
「というわけでだ、便利屋68に依頼だ。
ちょいとアウトローな実力者が必要でね」
先生はニヤリと笑ってそう告げた。
それに対する答えは、便利屋一同分かり切っていた。
「もちろん、イエスよ!」
陸八魔アルは、堂々たる笑顔でそう言った。
感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当にありがとうございます!
この場を借りてお礼申し上げます。