キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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「想像力の効果を見よ!その影響力はなんと強力か!ここにいる人々は、私を知らない――私を見たこともない――ただ私の話を聞いたことがあるだけだ――が、何を感じないというのか!
 私に仕えるためなら何でもするだろう!そして、同じような気まぐれは、あらゆる国、あらゆる時代、あらゆる性別に見られる!
 これこそ狂信だ!そうだ、想像力が世界を支配しているのだ!」
──1816年1月7日 ナポレオン・ボナパルト、セントヘレナにおいて──


嵐過天晴「前編」

 

 玄武商会の店へ、とある客がやってきた。

 店員はその人を確認すると、「奥のお席があります」と言い、その客はにこやかに一礼する。

 その客、すなわち京劇部の部長カグヤを、奥の席、即ち、要人向けの奥まった席へ案内した。

 奥の席では、玄武商会の会長であるルミと、もう1人元龍門の黒いスーツジャケットを着た女が、丸眼鏡ごしの視線を向ける。

 

「さて、火急の要件とは?」

「せっかちだねえ」

 

 ルミはその女の問いかけに、些か同意してない様子で言った。

 とはいえなぜカグヤが呼んだかは気にはしているので、この女、即ちカナエの言うことを否定はしない。

 

「単純に言えば、門主様の事です。

 より詳しく言えば、最近、お疲れが取れていない様に思います」

「なるほど?」

 

 カナエは扇で口を隠し、振り返る。

 確かに否定はできない、彼女の記憶の中からしても少し夏バテが重く見える。自分を怒る時のキレが落ちている、なんで怒られてるかはよく理解してない。

 ルミは「この時期、となると確かにその頃かな」と頷いた、伊達に親友では無い、それくらいの見当もつく。

 

「それで、取り敢えず、多少なりとも休める様な案を出したいのですが……」

「言っても聞かなさそうなのでここに来た」

「そういう事です」

 

 カグヤの言葉にルミは「相変わらずだなあ」と呟いた。

 カナエはそんな様子のルミを見て、ふと思い出したように口を開く。

 

「そう言えば、ルミ会長。最近、あなたの所は観光開発にお熱心だとか」

「ん?」

 

 ルミ会長は脈絡の無い問いに首を傾げた。

 

「基本的に玄武商会の投資は、その予算と書面がある限り介入しないのが規則。

 しかしそれが外である場合、というのは確か……」

「前例と、伝統に於いては流動的ですね」

 

 ルミの目が少し細まり、理解して開いた。

 

「なるほど? 確かに、前例を作るべき事例がある、というのは確かで……

 そして沙汰を出すのは」

「前例と伝統に則り門主様のご判断、というのは、問題ありますまい?」

 

 カグヤにカナエがチラリと見た、実際問題カナエは有能ではある。

 文句のない解決策だが、カグヤには不安材料があった。

 

「しかし、それだとすぐにお帰りになるのではないでしょうか?」

「むむむっ」

「何がむむむっですか……」

 

 カナエは扇で驚いた顔を隠しながら、答えに詰まったとき特有の顔をした。

 こうした顔を素直に出すのが、カナエの美点であり欠点である。

 カグヤはどうしようかと考えながら、「いっそ、梅花園あたりからそれとなく」と呟いた。

 シュンやココナの素直な労りなら、効果もあるかもしれない。

 

「……そうか! じゃあこういう時に頼れる人が居るじゃない、D.U.に」

「え、まさか」

「えー」

 

 ルミ会長は和かな笑みで、ある提案をした。

 それを聞いたカナエとカグヤは、困り果てた様な、それしか無いのを理解はしたが、納得はしたくなさそうな顔を見合わせた。

 

 

 

 山海経から手伝いの要請が来た、と言うのはあまり驚くべき事ではなかった。

 頼る時は頼ると言う方針はしっかりしていたし、組織運用や指揮系統再編の支援は、連邦捜査部により最も多く行われた支援である。

 指揮系統の明瞭かつシンプルなラインの構築、と言うのは柵に囚われた人達では作るのに苦労するが、最近流行りの大人の言う事……と言う事なら採用しやすいものらしい。

 

「と、思ったが玄武商会から来るとはちと驚きだ」

 

 届いたお手紙には、ちょいとわけがあった。

 キサキを休ませたいので、視察という名目を作り、ついでに書式の正当化や前例を作りつつ、改革開放路線の後押しをする、ルミ会長の意見は否定すべき点はほぼ無い。

 性急ではないし、本質はキサキの後押しがしたいだけだ。

 その為、視察として梅花園を連れて行って「実際過ごしてどうでした?」とレビューさせるというのは、やはり政治的に穏当である。

 子供に手を引かれれば年長者はある程度折れるしか無い、梅花園自体は真人間の集まりだ。園児の一部は矢鱈にアレというか個性的な奴だが……。*1

 

「視察の公平性、公平性なあ」

「捜査部発足以来、例を見ない奴ですね」

 

 ユウカが「キヴォトスにしちゃあ平和だ」と感心した顔をしている。

 最近、ユウカの缶詰が長引いている気がするし、会長が帰ってきたからそろそろユウカを遊ばせてやるべきだろう。

 しかしそうなると、護衛をどうするか、ユキノらを呼び出すか……? いや、論外だ、FOXの連中は4人揃って集団技能を活かすべきだ、兵力を分散して負けたら絶対ドゼーとランヌが煽りに来る。*2

 

「取り敢えずユウカ、経済算定として来てくれ。地方人(シビル)の意見がいる」

「はい」

 

 軍の人間と娑婆の人間は常にズレてくる、必要性と合理と責任をストレートに問われ、その責任は要約すれば部下に「そこで死んでくれ」と言う事に行き着くのが軍隊だ。

 だから軍隊は士官に冷静で勇敢で公平であること、下士官に目端が利いて備えれる事、兵士に忠実であることを要求する。

 娑婆の世界は違う、上司が責任を逃れても中級職が無為徒食でも平社員が窓際でも問題は生命に関わらない、最近娑婆の会社で軍隊式の研修と言うのがあるが、あんなの大馬鹿だ、軍の士官は死ねと命じるべき時に命じるから士官である事を理解した社員は、娑婆の上司を良く思わない、絶対に叛逆する。

 いつだって"5人に1人"は味方に殺されるのである。

 

「護衛をどうしたものか……D分隊……いや、奴らは世帯が多いか……」

「サオリ達を引き抜きますか? それか、戦闘団から小隊でも機動しますか?」

 

 スズが首を傾げて尋ねた。

 首を横に振って「キサキの奴が遠慮しかねん」と言うと、スズは納得したが、書類を見て言った。

 

「A分隊は半分が内地で制服策定会議第4回目、もう半分は百鬼夜行でフォックス連れて百花繚乱と練兵兼ねてますよ」

「ン……そうなんだよなあ……」

「あーいや、待てよ……」

 

 スズが溜め息をついたのを見て、思い出した様に言った。

 

「兎の連中が……」

「……いや、今回では悪目立ちするだろう、全員は投入出来ん」

「そうでは、ありますがね……」

 

 サキとモエは今回ちと駄目だ、張り詰め過ぎるか、目立たせ過ぎる。

 そう言う点ではミヤコも似た様なものであるが、ミヤコは梅花園の護衛として機動させれば都合良かろう。

 逆に、ミユはこっちで掌握して投入すれば良い、引っ込み思案であるから、逆に目立たん、特殊部隊としては正しい。

 こういう時に便利屋68を雇うともっとえらい事になる、えらい事になるから今回は見なかった事にする、流石に大火にされて大丈夫な時と困る時が俺にだってあるのだ。

 取り敢えず要件を伝え、ラビットの残り2人はカナエとレイジョの指揮下にしておいた。

 

「「なんで私たちは待機なんだ?」」

「アテにしてるからだ」

「「アテにされたくないなあ……」」

「てめえ! いつか兎鍋にしてやるからなぁ!」

 

 ミナに「大人がみっともなく喧嘩してどうするんだ……」と抑えられて、取り敢えず、この珍道中は始まった。

 視察であるから、それほど目立たない様な機体として、玄武商会のMi-8ヘリコプターで現地へ向かう。

 フィヨルド地形、奇岩地形の一種らしくある地域は、清流だが勢い強く、流れる河川を用い船舶で物資や人員を運んでいるらしい。

 

「無論、それだけじゃ駄目だから、こうしてちょっとした地方鉄道を走らせられる様に投資をしてるんだよ」

 

 ルミはホテル横にヘリパッドのある、大型のホテルに降り、荷物類を部屋に置いて、一通り見て回る。

 現地では多少はボロいが走りは元気な73式中型トラックが足代わりとなる、用廃品としてスクラップのはずが元気に走ってるのは、キヴォトスの治安レベルを考えれば真っ当な使い方なだけマシだろう。

 真っ当な治安をしてればカイザーの偽旗部隊が車両も装備も再現して突っ込んで来ると思えないし、そんな事をそもそもやらない。

 

「気動車って奴か」

 

 ディーゼル機関で走る2両編成の車両が、トコトコ単線の線路を30分に一本ペースで走るのは健全な方だ、真っ当に整備されているが、何処か間の抜けたのどかな鉄道である。

 鉄道駅自体もペンキを塗り直したり、意外としっかりとしている。

 駅員は我々の一行を見ると、訝しむ様な眼をして、不可思議そうにしていた。

 歓迎してないと言うより、意図を図りかねている雰囲気がする。

 

「どうか、なされました?」

 

 作業着同然の姿(このなり)であるから、一目見て先生と分かるものは少ない姿で、駅員へ尋ねた。

 駅員は驚いた様に、一行の一部、ココナとキサキをチラリと見て言った。

 

「いえ、珍しい、と思いまして」

「おや、てっきり、観光客が多く居るのかと」

 

 本気で疑問に思う点を聞いてみると、困った様な顔をして駅員は声を潜めて言った。

 

「最近は、そうもいかんのです。なにせ、雛鳥組が……」

 

 歯切れが悪そうな事を言う駅員に、少しばかり考える。

 そんな半グレやヤクザグループ、聞いたことがない、ましてマフィアとも思えない。

 何も知らないと気付いたらしい駅員は、困った様な顔をして「幸い、ウチは標的にされてませんが商店街の方は散々ですよ」と呟いた。

 

「ここが標的にされてないのは、そりゃなんで?」

「なんでって、ここにアレがあるからですよ」

 

 駅員は待機線で止まっている4両編成の貨車の群れを指差した。

 正確には貨車だったものだ、M16連装対空自走砲や、120mm迫撃砲、M8グレイハウンドの乗った最後尾と、武装が連なっている。

 こうした有り合わせ装甲列車は案外有効なもんである、ゲリラの勢力にもよるが、大半の非正規軍を一網打尽だ。

 逆にそういう連中にコレで対抗できているのは、その程度の武装か、その程度の組織統制と言う事だ。

 どちらにせよ大きな成果と言える、仮想敵の脅威度をある程度測る事が出来た。

 駅員さんへ礼を言いつつ、ルミやキサキ、そしてユウカに推定状況を話す。

 

「どうも人気が無いのは、雛鳥組とか言う勢力が暴れているかららしい」

「そのような集団聞いた事も無いが……」

 

 キサキは視線だけでルミとミナへ尋ねた。

 二人とも「それは知らない」と返し、二人が知らないと言う事と、手製装甲列車で攻撃を控える程度の武装量と言う点に、全員がさらに困惑した。

 

「変ですね、普通こうした地域では地元諸機関に第一報が入るのが常、そしてここが開発されても誰も困りません」

 

 ミヤコは地図を見ながら、不可思議そうに疑問符を浮かべた。

 ユウカも同じように疑問符を浮かべる。

 

「誰が一体、”開発されきってない”ここを狙うんです?」

「大損だねぇ全員」

 

 ルミ会長がミユの頬を撫でながらそう言った。

 すると、ココナとミユは同時に手を挙げようとして、お互いに遠慮を始めた。

 

「構わんから、言っちゃえ言っちゃえ。意見出すことが罪なのは馬鹿に馬鹿と言わない時だけだぞ」

 

 そういうと、先を譲ったココナに代わって、ミユが言った。

 

「そもそも……そういう意図が無くて……なんとなくなんじゃ……」

「あっ」

 

 ココナ教官の意見は、同じではあったが少し視点が違った。

 

「関係諸機関に通報されてない理由は、相手にされてないからじゃ……」

 

 暫く頭に計算式を考えて、確かにそれだと全ての計算が付くんだよなぁと図式が浮かんだ。

 正直内心で「サオリじゃなくて良かった……」と少し安堵した、死にかねん! 

 この出来の悪い学園都市を名乗るやりがい搾取地域で、子供扱いという事は良くてイブキが悪くて……何が出るんだろう? 

 チェリノやココナはあれはあれで年齢以上にしっかりしているし、美点は多く、これからである。

 

「ま、取り敢えずこの案件は明日になるかもな」

 

 そう言いながら、川の方へ中型トラックを走らせる。

 ……シュンやココナだけじゃなく、キサキやルミがちょっとソワソワしていた、やっぱり遊びたい盛りか。

 まぁそういう諸問題の解決が俺の仕事だ、大人はやる事が多いのが特徴だ。

 

 

 

 バタ足練習しているココナを見ながら、脚を川に浸けて地図を確認する。

 なにせ、現状では戦力と呼べるのが三人だけだ。ミナとミヤコとミユ、奇しくも何でかミで始まる三人だけが戦闘員である。

 教官二人とVIP二人はちょっとまずい、梅花園のガキンチョはあれはあれで教官たちが大好きだ、俺は子供に弱い。

 

「泳げてますよ、良いですよココナちゃん!」

「え、えへへ!」

 

 ココナが歓喜の声を上げている。前に食堂で「先生は泳げるのか」と食券賭けて話しあってた連中が居たから、「荒れ狂う河に普通に行った」と言うと「畜生、賭けに負けた」と返された。

 前にこうした話を梅花園の話でしたら、ココナと園児たちは困惑したので、シュン教官に怒られた。

 

「良いぞー、泳げるとヤバいときに渡河作戦するとき便利だぞ」

「こんなに気分の盛り上がらない応援を聞くのは今後無いかも知れませんね……」

 

 呆れた様なココナの言葉に笑いながら、横で折り畳み椅子に座っているキサキと、立っているミナに「お前らもいかんのか?」と聞いた。

 というか、ミナに関しては着替えても良いと思うのだが……。

 

「これも仕事ということです」

「なるほどね」

 

 忠を尽くすにあたる主人を見つけたのです、それで良いのですと言うことか。

 それはそれとして暑いだろうから、水はちゃんと飲めと言った、身体を壊しちゃ忠君も出来ん。

 炎天下でろくに汗もかかず疲れず歩ける様な人種は、これは本当に先天的な素質に左右される点で、努力では何ともならんモンである。

 ユウカがラッシュガードを着て、パレオスタイルの水着で河に浮かび、隣にはミユが同じく河を漂っている。

 

「元気じゃな」

「流石に缶詰にし過ぎたからなあ……」

 

 そんな話をしていると、ぬっとルミ会長が顔を出した。

 

「キサキ、あそーぼーっ」

 

 聞いた事のない柔らかな声がして、キサキの口元がすっと緩んだ。

 

「しょうがないの……」

「それー!」

 

 キサキを抱き抱えてルミ会長が川へ走り、一緒に浮かんで漂う。

 無言でタオルの用意をしているミナに「手伝うか」と言いかけたが、これは彼女の職権を侵していると感じた。

 男には、あえて立ち入ってやらぬ時が必要だ、そして主人が為に備える事を、他人が関与して良いのは、本当に困っている時なのだ。

 良い悪いではなくて名誉の話である。

 頼まれたなら出来得る力を以て助けるのもそうである。

 

「元気だねぇ」

 

 キサキの手を引いていくルミを見つつ、ミナが「あっ! 門主様! お薬忘れています!」と飛び出していった。

 何をやってるんだと思ったが、ああいう人間は案外自分が絡むことにはルーズなもんである。

 そうした光景を見ながら、ミヤコに「すまんが先に商店街を確認してみてくれ」と告げた、ミヤコは納得し、「ついでに店も確保しましょうか?」と返してきた。

 

「いや、そこら辺はルミの領分だろう」

「分かりました」

 

 そう言い、ミヤコが先に移動していく。

 書類が一段落ついたので、立ち上がって「そろそろ、飯にしよう」と告げた。

 流石に腹ペコらしい返事を聞きつつ、移動を開始する。

 川沿いの行楽地域からさほど遠くないので、商店街に派遣したミヤコが上手く何とかしているだろう。

 

 

 

 赴いてみた商店街だが、ミヤコが困り切った顔で手を振っていた。

 困惑と当惑の顔つきで、「どうしよう」という様子の理由が分からないが、商店街の此方を見る目が妙だ。

 

「人相のせいか?」

「いや、というより……」

 

 キサキとミユとココナが荷台の幌から顔を出す。

 すると、伺っていた商店街の人たちはビクッとした顔で驚いて逃げてしまった。

 明らかに変だ、ミユやココナやキサキを見て……キサキの普段の姿ならともかく、変装した今の姿を見て逃げる隠れる? 

 どう言う了見をしているのか。

 ミヤコに「ずっとこの調子か?」と聞くと「えぇ、残念ながら」と困り切った顔をした。

 

「暖簾に腕押しというか、なんというか」

 

 ミヤコが後ろを見ると、こっそり見ていた店主らが引っ込んだ。

 まさかいきなり引き摺り出すわけにもいかないが、敵意というより恐怖が浮かんでいる様子は妙だ。

 

「なんかしたかね」

「さぁ、何もしてないと言うか、何も知らんしなァ」

 

 ルミ会長がふざけてキサキを肩車してるのを横目に、思わず何も分からんと言うしかない。

 公務と言うには怪しいから、兄ちゃんとっ捕まえてお話聞くにしても、逃げられちゃうとどうしようもない。

 制服ってこういう時は便利だよなぁと頭に浮かんだ。

 すると、爆発音が聞こえた。

 

「軽迫だな、60にしちゃ大きいから80迫辺りか」

「音の響きからして300m先くらいですかね」

 

 耳を澄ませたユウカが頷き、少ししない内にパンパンパンと小気味良い破裂音が聞こえる。

 擲弾銃の類にしちゃ軽いが砲の類にしちゃ小さい、銃声にしても変な音だ。

 音へ近づいていくと、店へ3人の幼女が武器をぶっ放していた。

 

「なにあれ」

 

 思わずルミ会長が困惑して呟き、ユウカが呆れた様に呟いた。

 

「……園児?」

「世も末だな、末世と見える」

 

 ハルナかアカリの親戚であんなの居るのかなと思いながら呟く。

 半死人みたいなもんだから元より末世的世紀末的と言うのは憚れるから控えたが、にしても治安がおかしい。

 ガキがなんで軽迫運用してんだ、いくら何でもおかしいだろ。

 

「あらっ? なんだか知らない人たちが居ますわ」

「何かは知らんがいきなり迫は駄目だろ迫は」

 

 呆れてそう言うと、ふふんと自動擲弾銃らしいのを持った園児が此方を見る。

 

「ふん! 私たちはやりたい放題、遊びたい放題、しつけは聞かない、雛鳥組よ!」

 

 ふふんと胸を張る園児共……、自動擲弾銃かましたのがヨウコで、明らかにMANPADSらしいのを持ってるのがナゴミ、そして軽迫を持ってるのがスイコらしい。

 当惑したココナが「いや単に近所迷惑じゃ」と言うと、雛鳥組の面々も怪訝な顔をした。

 

「あなたも子供なのに、来ないの?」

「下らない事ばっか言う大人より楽しいですわ」

「確かにキヴォトスの大人は真人間1割カス8割屑1割だから否定できないのは事実なんだよなぁ」

 

 思わずそう言うと雛鳥組の3人が目をぱちくりさせた。

 

「え、流石にそれはおかしくない?」

「世を穿ちすぎているのでは?」

「シニシズム?」

 

 雛鳥組の3人が「世をこう斜に構えて見るのも問題だよねぇ」と会話を交わしている。

 なんだよ、事実言っただけじゃねえか。キヴォトスで見たまともな大人は今んとこ両手足の指より少ねぇよ、真人間じゃないカスの枠でデカルトがティア上位だよ、キヴォトスなんてところは。

 正直言ってはなんだが、まだ表向き契約守ってるカイザーですらまともになっちまうんだぞ、他がカスだから相対評価するとそうなってしまうんだよ。

 

「ひでぇな、俺は相対評価じゃなくて絶対評価だぞ」

 

 そんな事を言い合っていると「興が削がれた」「話長そう」と雛鳥組の連中が去っていった。

 キヴォトスは相変わらずの滅茶苦茶だが、これではキヴォトスに学園都市を期待するなど絶望的だ! 

 低学年がこれなのは間違いなく社会の責任が問われるわバカヤロー。

 

「キヴォトスの平均的な悪ガキって迫出てくんの?」

「梅花園のいたずらっ子が白燐はやりましたが……」

「武器規制したくなる……」

 

 シュンの返事に頭を抱えたくなった。

 ココナが周囲の人間から話を聞いてくれたが、山の上にあるホテルへ長期連泊しているらしい。

 そして唯々諾々と従わされている理由は見えた、普通に気迫もだが後ろ盾にビビって負けている、抵抗するにしちゃ統制も目的もガバガバだからそりゃ負けるわな。

 

「抵抗の目的、主軸、予想も無く戦えばそりゃあ負けますよ」

「し、しかし僕らただの商店主ですよ」

「まぁそうか……」

 

 ココナに対する視線が何か違っていたのは、恐らく仲間が欲しいからだろうか? 

 現地住民の話曰く、キヴォトスの園児を全て雛鳥組傘下にして統一するらしい。

 正直なところ何を言うとるんだお前らとなりそうだ、そしてなぜ地元法執行機関が応対してないのかも理解した、真面目に取り合う案件と思われてないのだ。

 分からないのは背景だ、誰かが裏で操ってるにしちゃおかしい。

 

「調べるしかないが……参ったな」

 

 正直言うと割と調査すると言っても手が限られる。

 公務じゃない訳だから僻地への展開は間に合わん、山海経におねだりと言うのは問題がある。

 取り敢えず、昼飯を食おう。

 

「すいませーん烏龍茶を人数分、あと適当に出せるものを……何かあるかな」

 

 ルミ会長がそう言うと商店主たちはハッとして「おっと失礼!」と慌ただしく厨房へ走り始めた。

 いそいそとエプロンを着て走る店主へ、ココナが「手伝いましょうか?」と手伝っていた。

 

 

 

 一旦ホテルへ戻り、介入するかしないかを話した。

 まずミナは「介入せず見捨てるは義と挟が無い」と言い、ルミは「商人らを見捨てるのも、投資をフイにするのも気に食わない」と言った。

 そして梅花園の二人は、というとココナはシンプルに「悪い子はメっが必要」であると言い、シュンは「あの子たちの為にも止めるべき」と言った、伊達に山海経で権威ある中立として機能しているだけはある、極めて真っ当な意見だ。

 そして門主の意見は当然。

 

「まず、我等の査察活動中に観測された問題である事、そして、我が校の投資した地域が害されていると言う事、しかるに我々は介入をするしないではなく、既に巻き込まれていると言えよう?」

 

 完璧な理屈であった。

 ある意味、山海経の開放政策の総仕上げと言えるかもしれない。

 民衆による総意の政治と権限が付与された体制は、しかるに民衆の総意で財布を守り投資をフイにしないため、外部へ介入するのである。

 そしてこの前例は完璧な理論理屈が通っている、何故ならば、関係者の意志と総意を支持に得た門主の判断であるから。

 

「というわけだ、だが相手の調査もしなきゃいかん……

 だが、ココナ教官単身と言うのは効率や安全性がなァ」

 

 先生の言葉にココナはやや「できますっ」と言いかけたが、事兵学に於いては正論しか言わないから、確かにリスクを加味した。

 キサキは少し楽し気に、「そうじゃな、ミユとやら、ちょっと」と手招きした。

 ミユは首を傾げて近づき、話を聞き、思考が停止した顔をした。

 

「へ」

「おぬしくらいの背丈なら、園児と言って通じるじゃろ」

「へぇ」

 

 ミユが縮こまってしまったが、護衛の観点から見て仕方ねえかと呟いた。

 ミヤコは「本気?」と唖然としている。

 その用意がされてる裏で、まずは観光地図と、高所からの位置確認に入る。

 実は園児コスがしたいだけじゃねえのかという疑惑を感じているが、余計な事言うと”キキ”が介入してきそうなので、やめておこう。

 シュンと一緒に俺に幼児化薬飲ませようと企んでいた話くらい察知している。

 梅花園の園児は確かに色々悟りを開いている奴もいるが、流石に誤魔化せねえよ! 俺の学校は軍幼年学校と士官学校と兵科学校だよ! 

 せいぜい母親に怒られてぶち込まれた5歳くらいのコルシカの修道院学校くらいか? ジャムが美味かったが。

 

「……考えてみれば俺娑婆の人間の演技が出来んな」

「そりゃ違うからでしょう」

「なんだとぉ」

 

 ミヤコの「なに分かり切った事を!?」という目が突き刺さった。

 

 

 

 翌日、朝から軽く外出し、ココナ以下偵察斑をロープウェイから浸透させる。

 まぁ考えてみたら、偵察というより、背景調査と言うのが近いかもしれない。

 ただ、ココナたちの調査結果は予想から大きく異なっていた。背景組織がマジで一切出てこない。

 

「え……マジで悪ガキオンリー?」

「はい……」

 

 ミユの証言は疑いようのないものであった。

 ただもっと重要なのは、傭兵を雇って明日に攻撃を仕掛けてくるという事である。

 そして実家の金にものを言わせて適当な傭兵を雇ったらしくあるが、まともなPMSCでは無いのは明白だ、と言う事はまあ徒党集団程度のチンピラくらいだろう。

 

「明日まで、と言う事はヘリ輸送かな」

「あの子たちが陸上輸送をゆっくり待てるとは思えませんでした」

 

 ミユはそう言いながら、回線盗聴用の機材を噛ませたと告げた。

 ミユを送った理由の一つはこれである、流石にキサキやココナにさせちゃいけない、逃げるにしても隠れるにしても素人だ。

 陸上ではなくヘリで輸送されるということは、降着はホテルで、ロープウェイで展開するだろう、つまり重火器はありえない。

 更に言えば装甲戦力なども極めて乏しい、又は皆無とならざるを得ない。

 

「しかし分からんなァ、普通放置するかね。

 俺なんかガキ大将すぎて母親に蹴り飛ばされて修道院にぶち込まれたんだがなァ」*3

 

 思わず疑問が過る。

 これはキヴォトス全体で言える事だが、自由放任と無秩序を履き違えていないだろうか。

 そしてやって来る傭兵も恐らくチンピラがせいぜいだろうが、数は多分40から60くらいだろう。

 

「何で分かるんですか?」

 

 ココナは不可思議に尋ねて来た。

 軽くアロナの画面を開いて、丸を描いて見せる。

 

「よし、ココナ。賢いお前なら実体験で知っているだろうが、園児たちはだいたい1人で纏めれる数に限界があるのは分かるな? 

 基本的にはそれと同じだ、あの3人は確かに武器はあったが、無線機は背負っていないし、通信車両も無い。

 つまり声の範囲が指揮範囲だ」

 

 ココナの顔に納得が浮かぶが、すぐに「でも昔の武将たちはもっと従えてましたよ?」と尋ねた。

 良い視点だ、しっかり勉強している。

 

「そうだ。それを実現するには太鼓や狼煙や伝令、それに供廻りなどが必要になるんだ。

 或いは騎馬兵による伝令とか、代将というんだったか山海経では……まぁ副官とか必要で、軍師が調整したりするんだよ。

 でもアイツらはそうした準備を一切していないんだ。 つまり、真実目の届く範囲だけしか戦闘参加が出来ないんだ。

 逆に山海経で言えば、例えば門主様の下にはミナやカナエが居るだろ? そういう複数の人間が義務を背負っているから、昔の武将は千人万人動かせたのさ」

 

 イメージがついたらしいココナの「確かにシュン姉さんが居て私がいますものね」と頷きがあった。

 概ね将校が三人くらいいれば、だいたい一個中隊くらいは指揮が可能であるが、これは下士官などが指揮統制を補填出来るからだ。

 むしろ、歩兵一個小隊と推測したのは、相手が素人だからだ。

 歩兵一個小隊、中隊と言った単位を聞いて「少ない」と言うのはある程度知ってないと出ない、普通は武装兵士30ないし60と言われれば、娑婆の人間は大軍に感じる。

 

「それに対して我の主戦力はまぁざっと30行けばいい方、軽火器中火器の類がせいぜいだ。

 力負けはせんが何とかやるか……ミサキ来てたら開幕ヘリ撃墜で終わったんだがなぁ」*4

 

 そう言ったあと、「あっ」と思いついた。

 あるではないか、重火器。

 

「ミナ、ルミ、ちと門主様にお出で願え。

 勝つ為の要素がある」

「「また悪い事考えてるー」」

「勝利に勝る弁明は無いんだぜ」*5

 

 サヤから「薬はちゃんと飲んだか」の連絡を喰らって慌てて服薬したキサキが、驚いたような顔をした。

 口の隅についた薬を、茶で押し流しながらキサキは話を聞き、呆れた顔をした。

 

「おぬし、わらわからの持ち出し分まで出せとな」

「ですから、こうして御稜威におすがりしているのですよ」

「やれやれ……で、何が必要なんじゃ」

 

 そして、「アレを、借り上げようと思いまして」と告げると、本気で呆れた顔をした。

 

「私の仕事は敵に勝つか負けるかです、よろしくお願いいたします」

「やれやれ……お代は高いぞ?」

「会計が怒らない程度でお願いしてくれると助かります」

 

 消え入りそうな声で言うと、キサキは苦笑して、「分かった、わらわが参ろう。付きをせい」と告げた。

 もしかして、代金として付き合えと言ってるのかもしれない。

 何はともあれやってくれると言うのであるから喜んで随伴しよう。

 

 

 

*1:
園児D、お前や、お前。

*2:
「マレンゴの時にもうやるなって言ったじゃないですか」

*3:
実話。

*4:
大人げない

*5:
どっかの足利じゃあるまいし……




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