キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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権力の所有を目指す少数派は、支配的地位にある多数が、同じことをとっくにしてきていたと主張し、これによって自分の方から、あからさまであろうとなかろうと、既成の国家権力は非合法である事を宣言する。
これはいかなる合法権力も甘受することのできないものである。
こうして危機的瞬間に於いては、それぞれが相手方を非合法ときめつけ、それぞれが合法性と憲法の擁護者を装う。
その結果として生じる合法性も憲法も失われた状態になるのである。
──カール・シュミット、『合法性と正当性』──


【顔のない亡霊】
ゲヘナの為の再興会議


 

ロココ調の部屋から扉を開け、自称警察大臣はとある部屋へ向かう。

そこはある意味で別の世界が良く見える場所ではあったが、こっそり此処から抜け出せないか試すのは禁じられている、何かしたらアヤメはバッサリ斬って良いとタイユランに許可は貰っている。

 

「さて、事態はこうだ」

 

パッとライトが点けられ、自称警察大臣を照らす。

楽し気な笑みを浮かべて彼はジトっとした眼を向けてくるアヤメと、恐らく何にも理解してない自称先輩を見た。

アヤメは取り敢えず何時でも斬れる様にし、自称先輩は何にも理解してない様子でポテチを食べている。

 

「これはとある理想主義的な政治活動家(降旗マユミ)の物語から始まる。彼女は若く野心的な思考が有り、深くゲヘナを信じる保守派でもあった。」

 

自称警察大臣の指が鳴らされ、地上のとある光景が映り始める。

ゲヘナ再興委員会の横断幕が掲げられ、広場の演台に昇ったマユミは紙切れを握りながら演説を開始している。

 

「だが、一度決めたら周りの眼の事を一切気にしない、力を握り始め民衆の注目に晒され始めると善意と行動欲求は深く考えるのを足手まといと考え始めた。

 しかもその結果、センセーショナルなスタイルは支持者を引きつけ、集団行動の高揚と共に権力への道を走らせだした」

 

場面が変わり、ゲヘナ再興委員会の腕章が配られ始める。

やがて段々と銃撃などの欲求を発散する場所は、段々組織化され始めた民兵の訓練へ代わり始め、建物を模した建物がキルハウスへ変わり始める。

 

「物語にここで一匹の蛇(五十嵐ショウコ)が入る。

 どうやらその蛇には同じ委員会にも秘密の計画に手段を問うつもりはないようで、統一にあたっては敵を作るのも厭わないつもりのようだ。

 声と行動は目立つが自己で思考するのが苦手な委員長と、手は早いが頭の回転は速くない委員長補佐(明楽カレン)は計画や代案も有していない。

 抑制するべき存在を身内へと見出し始め、結局この天才さんの計画の武器は恐怖と言う訳だ。」

 

そうすると、自称警察大臣はもう一度指を鳴らすと、増えていく人員名簿を照らした。

 

「それで」

 

大して気にしていなさげなアヤメが、一つ尋ねた。

 

「貴方はどうなると思う? 先生は喜ばないだろうけど」

「決まっている、待つんだ、誰かが致命的なヤラカシをするまでね」

 

自称警察大臣は楽し気に笑って、世界を映すものへカバーを掛けた。

意外そうな顔をするアヤメへ、自称警察大臣はとあるものを取り出した。

 

「なにそれ」

「反乱法の適用条件さ」

 

 

 

 

【 ゲヘナの為の再興会議 】

 

 

最近、ゲヘナでは選挙が近いせいか政局がややこしい事になっている。

というのも、ゲヘナを再興するとか言う人々がムーヴメントを始め、結果として段々と人々が違う選択肢を考えているからだ。

もっとも思想的に熱心な追従者はさほど多くはない、大半は現状にちょっと不満のある生徒や、何と無くで来た人々である。

大半は社会システムの矛盾、それなりの好景気の中で見え隠れするものに対しての意見を求めていた。

好景気。

そう、今のゲヘナは循環型経済における好景気である、有効需要が爆増と言う訳ではないがちゃんと増えていたし、その理由は此処にいる彼女らにあるのは疑いようがない。

無論この好景気自体はそれなりの新しいブームによるものだから、リオ会長などが見た場合「経済的に発生する自由経済の予測しづらいメリット」と認識するだろう、アテにするほどの好景気ではない。

だが民衆からすれば、当然だが目に見える好景気を支持する。

 

「そもそも!我々はなぜトリニティ(羽根のついた)連中と仲良くしなければならないのでしょうか?

 考えてみてください、我々は過去の境界線紛争では常に優位でした。

 5年前(アーサー港湾戦闘)も4年前(茶会の初陣)もです!」

 

演台で熱弁を振るい始めているのはショウコが適当に見繕って来た生徒だ。

要するに在野の目を吊り上げて過去の話を語るのが好きなタイプの生徒、歴史オタクの一種であり、語り口は非常に早口だ。

 

「そのどれもこれもがトリニティの手羽先共の陰謀によって連邦の介入、連邦の仲介という、陽の当たるべき場所への道を妨害されたのです!

 良いですか、全ての戦闘で我々は優位でした! 過去に情報部で活躍し、そして今も活躍されている空崎ヒナ委員長はトリニティの攻勢計画を見抜いていました。

 結果として、我々は準備万端にカール自走臼砲数門の突撃破砕を喰らわせて、吹き飛ばしてやったのです!」

 

喝采と拍手がちらほらと響き、そしてそれより多数派の「要点はまだか」と言う声が響く。

これが狙いだ。

 

「演壇代わりました」

 

マユミが代わって演壇へ上がり、頷いて言った。

 

「そう!そもそもとして、我々はちゃんと正面から勝ったにもかかわらず、連邦の介入によって栄光も失われたのです。

 そしてそれは今も続いていると言えます!なぜ、エデン条約機構などに我々は内政を干渉されているのでしょうか!

 風紀委員会には連邦捜査部という首輪が繋がれたままで、連邦は自分から言い出した条約を無責任に連邦捜査部へ投げつけて、美味しくなると途端に突き(つつき)だしたのです!

 まるで鳥のようにね」

 

群衆から笑いの声が響き渡る。

その様子をじっと静かに見つめる者が何人かいた、ゲヘナの制服を着ているものは居ない。

小型のヘッドセットからコードが小さく伸びており、着こなしているワイシャツやジャケットにパンツズボンから、雰囲気はそれなりに裕福なところの生徒に見える。

実際には彼女らはゲヘナの生徒ではない。そうした生徒の2人は公安局のエージェントで、残る2人は連邦捜査部CIDGに所属するSRT生徒だったエージェントである。

連邦捜査部のCIDG、つまり民間不正規グループにはアリウス・スクワッドだけじゃなく、支援要員やこうした調査要員も居る。

 

「元気だな」

 

前の弁者より委員会の委員長は緊張せず喋っている、聴いてて不愉快と言うより、頑張る初心者という雰囲気である。

公安局のエージェントは呆れたような感想を述べた、この大して未来を考えてない運動は、当然だが碌なものにならないだろう。

結果として産まれるのは飽きた人民の群れが離散してまぁおしまいと言う所だ、政治運動が過激化するか離合集散で解散するか、そんなもんである。

ゲヘナ学園自治区の生徒としての誇り、などという泣かせる浪花節だが、それ以上ではない言葉で更に湧いていた。

 

「素晴らしい事で」

 

皮肉を呟く連邦捜査部のエージェントに、公安局のエージェントは若干渋いツラをした、相手の言い分は分かるというか、気持ちは分かるのだ。

昔、彼女はアビドス第三中学校と呼ばれる中学校に通っていた、必死に勉強して公安局になった。それ以外あの砂漠から逃れる手段は無かった。

 

「あぁ、まったく、神のなされるままに(インシャラ―)と行かないな」

 

その日、集会は過去最高の数を再び更新した。

 

 

 

 

ゲヘナ再興委員会の数的な飛躍にはそれなりにセクト、つまり意見の少し異なる分派がある。

そもそも、ゲヘナ再興委員会と言うのははっきり言って夢の残骸と言うものだ、過去のゲヘナに夢ばっか見て、実情や実態はファンタジーなものである。

従い明確な理想も共有・前提がおかしいので、そうした分派・セクトが産まれる。

まずここに多数派であるノンポリ、つまり明確な主張が無い人々が居る、こうした人々が離れ始めたら組織崩壊へ繋がるものだ。

続いてマユミのように過去の強いゲヘナを求めてるポピュリズム的な支持者たち、こうしたある意味委員長派閥は領袖たるマユミ同様明確な未来観を持ってないが、委員長補佐のカレンもここに属すると言える。

そしてある意味問題なのは「陽の当たる場所」へ出たがる行動主義者である、これらは明確な派閥やセクトを形成していないが、行動主義者と言う点ではカレンに近く、かつショウコにも近い。

 

「とまぁ、こういう風に派閥があるみたいですね」

 

アコが呆れたような顔をして、そう告げた。

エデン条約機構本庁舎、つまりシャーレ本庁舎の会議室にて簡易レクをしている。

理由は簡単で身内の新しい変な人々の連絡だ。

 

「……理論的には、反動保守派……穏健保守派の集合体というべきか」

 

連邦捜査部の幕僚の一人が呟いた。

 

「具体的な脅威……というのも、言いづらいんですよね」

「明確な腕章、届け出、まぁ民兵活動の用件は概ね合格で戦闘員としての資格は満たせてますね」

 

法務幕僚であるエレテという生徒がエメラルドグリーンの髪を揺らして頷いた。

基本的にはゲヘナ再興委員会に違法性は何も、存在していない。

自衛の民兵組織結成や正式な届け出や訓練や腕章などは全く正当と言える。

しっかり風紀委員会の認可や部の届け出も出しているから、法的行政的な点ではまあ概ね公明正大である。

 

「で、行政官としてはこれは……ゲヘナ風紀委員会の脅威、または我々(ETO)の脅威でしょうか」

 

ハスミがふぅむと書類を見ながら呟いた。

一応現場組織での次官級レクと言うべきものだから、ある意味政治の色は薄い二人が代表だ。

 

「正直なところ全派閥が厄介ですが、一番脅威はマユミ委員長自身ですよ。

 どうも書記などが財務管理をしているみたいですが、献金や募金だけじゃ何か説明が付かないんですよ。

 集会の出し物である炊き出しやお菓子類も増えてますから、集会自体も開く頻度が増えています、まぁ過激化の前兆と言えますね」

 

アコの言葉は事実であった。

天丼を繰り返し続けて誰が面白がると言うのか。

 

「行動主義者に関してはまだ普通と?」

「うーん、それが何と言うか……夜警や見回りと言った行為が中心で、そうした行為で満足している連中が多いのです。

 トリニティへ殴りに行くと言うよりヘルメット団などが相手ですね。

 個人的に恐れているのはマユミ委員長が諸勢力を糾合しちゃいました、と言う点があり得るのと、更に委員長自体が飾り物でも神輿は必要ですから」

「そうなった場合は……」

 

ハスミとアコが、デスクに座っている白河スズを揃って見た。

 

「連邦の早期介入?」

 

肩をすくめてスズは苦笑し、ナンセンスだと言った。

 

「みんなびっくりして辞める可能性もありますが、楽しい遊びを打ち切らせて喜ぶ生徒は居ませんよ。

 しかも現状誰も迷惑をしてないんですから」

 

逃げの口上と言うよりリアリズムである。

そもそも相手の組織が実現したい明日がふわふわしてるんだから積極介入するにしても、何をどうやって?

相手の要求を相手も知らないのに?

そうした問題は、ここではなく連邦生徒会合同庁舎群(サンクトゥムタワー)に居る先生にとっても問題だった。

。

連邦生徒会合同庁舎群(サンクトゥムタワー)への先生の移動理由は治安の概略と政策会議と言う事になっているが、連邦生徒会もそれなりには巧妙なもので、その実、表向きと違わないが、ある事がされていた。

 

「こちらが想定計画(COMPLAN)の結果です」

 

発言する先生と連邦生徒会会長、ヴァルキューレ警察学校公安局長と警備局長、リン首席行政官は、全員がヘッドギアとゴーグルをつけている。

VRにより瞬時に多様な作戦計画が確認できるシステムで、つい最近になって連邦生徒会会長が運用を実現化させた、お陰で仮想計画の説明がしやすい。

 

「ゲヘナ内の一部騒擾勢力は」

 

リンへ警備局長は「政治的正しさは気にせず言え」と言い、リンは咳払いして「叛徒は」と告げた。

 

「想定されるのはごく一部と言える民兵程度以上といえません。

 連邦憲章法典254条(反乱法)は適用するに厳しく、連邦が介入するほどの危機になると思えません。

 まず、ETOやシャーレの介入すら怪しいものです」

 

疑いようのない事実だ、数日ほど先生は手近な派遣参謀とスズと幕僚らで、VRを使った模擬戦争をさせた。

ミカにトリニティ、イロハにゲヘナ、スズとキキョウは連邦捜査部と連邦生徒会、ユウカに判定と状況ダイスを任せた。

結果だが、まったく騒擾事件以上の騒ぎにならなかった。

せいぜいイオリに戦功章が増える程度だ。

 

「そもそも、自治権への介入が必要になる危機的存立事態……アリウスならともかく、そのアリウスが平和になった訳ですし、ゲヘナはねぇ」

 

警備局長の言葉にカンナ公安局長は頷いた。

 

「同感ですね、無作為の盗聴や解析でも何ら目立った様子もありませんし」

 

先生が「仮にそれが嘘でも、兵力を展開してしまえばどうとでもなる」と言うと、おいおいとリンなどが呆れた。

 

「それが連邦の為に必要な事ならやるよ」

 

電子空間の兵淇演習(ウォーゲーム)では絶望的な値であるトリニティ暴発及びアリウス騒乱を仮定するなど、あり得ない状況設定を入れても意味のない結果だった。

例え連邦が本当に愚かしく阿呆な事をして先走り反乱法だとか言って介入した結果拗れた、という内戦想定までしたが「意味が無いなコレ」と切り捨てる程度の価値しかなかった。

革命権の行使にあたっては無価値な曖昧模糊の思想だ、啓蒙主義者は全員殺せとルソーの本に書いた学者が居たが、それよりたちが悪い。

ただカンナ公安局長は、片手をあげて言った。

 

「連中は確かに過激じゃありません、行動指針だけ見れば……しかしコミュニケやSNSやパンフレットを見れば、段々と過激化していっています。

構成員が増えているから……というのもありますが、巧妙に全体が誘導されている様な」

「論拠は?」

 

連邦生徒会会長はそう尋ねた。

 

「……個人的な主観」

「少なくとも、外したことを見た事ありません」

 

庇うように警備局長は言った。

 

「それと、経験則ですが……対応は三種類」

「静観、強硬策」

 

先生の言葉に、カンナ公安局長は「この状況ではハンドラーを入れるのは難しいでしょう」と告げた。

ハンドラーやコントローラーは犯罪組織や武装勢力内部の工作員であるが、明確な思想や目的が無いので、妥協や解体への道は乏しい。

強硬策は論外だ、徹底的に揉み潰すにしてはしょぼすぎて政治的に問題で、連邦捜査部の介入は正気の沙汰じゃない。

連邦捜査部のゲヘナ問題児に対しての解決法である「真面目に取り合うな」も上手く行かないだろう、思想信条が明確なハルナやメグには「しばらく冷たい床で寝てろ」とか「ヒナ委員長、どうぞ!」で済むからだ。

 

「交渉は論外だ、アイツら目的がねえから際限なく付けあがるぞ。

 内部派閥が派閥として機能しているかも怪しいから穏健派とつるむのは論外、委員長からして確たる思想が無い。

 まぁ、待つしかないな……誰かがヘマをするその時まで」

 

問題はいつまでそれを待つか……なんだよなぁ。

そもそも、過去のことを良く知らんのに偉大なゲヘナって、アイツらはその時点で自己矛盾を起こしている。

これからゲヘナを過去より良くする、と言うロジックで誤魔化しているが、具体的な概念が無いのはもうみんな薄々気付いている。

 

「そういえばゲヘナの側はどう思っているんです?」

 

終わり際にカンナ公安局長はふと尋ねた。

 

「マコト議長は”そのうちボロが出るだろ”と事態を静観、ヒナ風紀委員長らは”政治に関与する気なんかない”で静観、問題児というかやんちゃな連中にも粉を掛けてるらしいが……」

「まぁ言う事を聞かんでしょうね」

 

カンナ公安局長の言葉に苦笑するしかなかった、確たる政治的・行動指針が乏しいあれじゃ説得は出来ない。

だが気になるのはカンナ公安局長の個人的主観であった、巧妙に演説やパンフレットが段々と指向性を持つようにされている、と言うのは気になる意見である。

 

「仮に武装蜂起なりするとしても、民兵以上にはなれる訳ではない……確かに奇襲をすれば優位は取れるだろうがそこまでだろうし」

 

委員長補佐のカレンが良い例だが、ケンカは出来ても戦争は出来ん、はっきり言えばその程度だ。

 

「取り敢えず無作為盗聴はこのまま継続するくらいしかやる事は無いなぁ」

 

タブレット端末を見ると、むすっとした顔のプラナが居た。

プラナはあの連邦生徒会会長が嫌いだったが、もっと嫌いなのは声と政治的主張はデカいが、でかいだけの人々である。

そうしたバカな連中がバカ騒ぎして、プラナにとっての先生は死んだのだ。彼女はそうした経験がある訳だから、当然である。

口には出さないが「愛した男がそんな連中のせいで死んだら嫌だよな」と内心思っている。

 

「では、会議を終了します。解散。

 ……あぁ先生、こちらへ」

 

連邦生徒会会長がそう言うと、手招きした。

 

「なんでしょうか」

 

そう尋ねると、連邦生徒会会長は「マコト議長からの頼みがもう一つ、ありまして」と告げた。

 

「これはロアなのか、それとも違うのか、判断が付きかねる状況なのです」

「というと?」

「NKウルトラ計画。ご存知でしょうか」

 

頭の中にサツキの言ってた奴かと、ぽわーんとサツキ特有の人を油断させる笑顔が浮かぶ。

 

「情報部長が弄ってるとか噂の」

「はい。ですがそれは無害化を目的とするものです。

 かつてのゲヘナ旧体制の負の遺産、とでもいうべきものが、残存している恐れがあるのです」

「……ものすごぉーく、嫌な予感がしてきましたが」

 

そう尋ねると、連邦生徒会会長も困った顔をした。

 

「取り敢えず、現地調査を願えますかね。

 先生が随行すれば逆に誤魔化しが利くと、思いますし」

 

駄目?と上目遣いで尋ねる連邦生徒会会長に「気軽に言ってくれるよなぁ」とは思いつつ、まぁ予備調査であるわけだしと納得はした。

何かあったらあれこれ要求するか、と思いつつユキノ等を呼び出す。

 

 

 

予定通り公然活動として真正面から入る、と言うのが今回の ロアなのかよく分からないものを追跡調査する作戦である。

そのため、FMTVに載せられたユキノらはM81の都市迷彩型戦闘服にLBV、ベレー帽の軽装なシャーレの隊員姿だ。

今回はサオリとミサキが同行し、カヤとマギも同行させているが、全員シャーレの隊員装備である。

 

「ゲヘナの旧体制、と言うのは一体?」

 

車両移動中、マギはカヤに尋ねた。

荷台のユキノらやサオリらは仮眠している。

 

「雷帝ですか、偵察総局資料にはありませんか?」

「あっちの情報部が手強くてね」

 

マギはそう言うと、カヤへにっと笑った。

 

「……まぁ、何と言うか、概ねアリウス前政権と五十歩百歩と言いますか。

 言っちゃなんですが、後ろの連中もちょっと絡んでますからね」

「へぇ?連邦は斬首作戦でも計画してたのかい?」

「その通り。あくまで噂ですがね」

 

カヤはやさぐれたようなため息を吐き、マギは「なるほどね」と呟いた。

 

「金に困ったアビドスのバカは土地だの売り渡してアウターヘブン作るし、山海経の前門主一派は親ゲヘナ路線を右往左往するし、おかげでシェマタだの何だのこさえるし……」

「防衛室長も苦労が多いと見える」

 

マギのなるほどと言う言葉に、カヤは内心、ある事を思い出した。

そういや子ウサギ駅にサイロ作る計画はシェマタ対策だったなぁと言う事である、概念構想と予備研究させて一応作ったが、政権が代わって意味消滅してしまった。

すると、前方に変なものが見えたのでマギがFMTVの速度を緩めた。

 

「なんですかね」

 

カヤは双眼鏡で前を確認した。

明らかに民兵らしいのが数名、道路に居る。

 

「民兵……腕章がありますね」

 

マギは「迂回するか突破しますか」と先生へ尋ねた。

興味なさげに「真正面から行くんだよ」と返す先生に、荷台の面々は「これだよ」と呆れたような声を口々から上げている。

 

「わー、だいたん」

 

カヤの無感情な呟きと、マギが車の速度をそのままに民兵らに近づく。

予想通りと言うか、民兵はゲヘナ再興委員会の面子らしい、いつから道路検問などやる権限を得たんだこの馬鹿ども。

先生が内心呆れた様子で「今も昔も変わらねえな」と呟くと、ちょうど民兵が停車する様に指示し、前に立った。

カヤは内心で「轢き殺して構わん」とか言うんじゃねえだろうな、と些か心配はしたが、ちゃんと車は止まった。

 

「抜きます?」

 

後ろからユキノの声がした。

 

「まだ一応市民の範疇だからなぁ」

「了解」

 

道路上で遊んでた阿呆な市民という言い訳が成立するので交戦は不許可……今のところは。

運転席のマギへ向けて、民兵たちがやってきた。

 

「お前ら連邦か」

「外からの連中だな」

「内政干渉だ」

 

ため息を吐いた先生は何事も無さげに尋ねた。

 

「なんだ、道路にまで出てサッカーでもしてたのか、危ないぞお前ら」

 

子供へ、それも幼い幼児へ話すような口調だった。

取り敢えず馬鹿にされていると気付いたらしく、民兵らが段々と顔を赤くした。

精神的な視野狭窄に陥るのが特徴である”心ある市民らの運動”の好例である、正義を疑わないから正義を否定されると顔を赤くする。

 

「な、なんですって、もう一度言ってみなさい!」

 

銃を構えてはいないが引き金に指が掛かっている、民兵は気軽だなとマギとカヤはそう思い、ユキノはハンドサインで「クルミ、最先頭で飛び出してフラッシュ用意」と指示した。

だが、先生はサングラスを下にずらし、軽蔑すべきものを見る目を向けた。

 

「君は理解しているのか? 君は今、連邦の公用任務中の公用車、連邦の制服を着ている人々に対して、何をしているのか理解しているのか?」

 

ゆっくりと全員の顔を見る。

 

「誰かいないのか? 連邦の敵になりたい者は?」

 

段々と何をしていたのか理解したらしい民兵らは後退り始めた。

 

「……次は無いわよ」

「そりゃ楽しみだ! 先生の大嫌いな物の一つは、行為の意味を理解しないで行動するバカだ」

 

見下げ果てたやつらに対して、そう告げた先生は「車を出せ」と指示した。

遠ざかる民兵をサイドミラーで見て、先生はつまらなさげに「ふん」と呟いた。

 

「仕掛けてくれれば楽でした、一気に潰せたんですがね」

「あぁ、大手を振って、あのアホの演説にある通り連邦の支配って奴を見せつけてやれたんだがね」

 

カヤは先生の返事に頷いた。

馬鹿な民兵が暴発してくれれば一気に潰せる、だがそうもいかないようだ、となればもっとも起こりうる事態は。

 

 

過激化による、正規戦争……?

 

 

恐らく最も手っ取り早い手段だ、そして一番確実な道。

連邦捜査部はエデン条約機構の仲介者であり代表者である、その中で拡張主義や武力による現状変更を企む面々が出て来た、事態は拗れている。

FMTVがゲヘナの中心部へ来たが、やはり状況は大きく変わっている、人気が少ない。

 

「静かで寂しくなりましたね、良い事なのか悪い事か分かりませんが」

「元防衛室長は連邦中心主義(ウルトラモンタニズム)でおられる」

「これでも役員なんですけどね私」

 

マギの軽口を混ぜっ返し、カヤは予定通り停車したFMTVから降車した。

ゲヘナ万魔殿議事堂(フォルクス・ハレ)に入ると、そこ自体は普段と大差が無かった、イブキは変わらず、チアキも相変わらずである。

警衛にあいさつし、型通り身体検査されて中に入ると、中の議員に「情報部長と議長は何処か」と先生は聞いた。

 

「マコト議長はいつも通り部屋の中で、サツキ情報部長は所用があると資料室へ向かわれました」

 

困った顔をした議員に「あぁそう」と返し、奥へ進む。

放送室の放送から変な単語が聞こえる上に、どうも厄ネタという噂があるのだ、と言う話である。

そのネタを提供したのはゲヘナ生徒であるエリカとキララと言う生徒らだ、彼女らは先のくねくねで初期対応を手伝った、結果として先生は善意の市民として二人を英雄にした、客観的に見たら実際そうだから誰も損をしなかった。

問題はここからで、連邦生徒会合同庁舎群(サンクトゥムタワー)の感謝状式典でエリカが物落として、この前回収に来た。

その際に、先生に「前にラジオ放送した時に変な音がした」という話をして、先生は一応ロアと言う可能性があるんじゃないの?と奏上し、今、この瞬間に調査命令が出てやって来た。

 

 

 

イオリは静かなゲヘナに妙な気味の悪さを感じていた。

ヒナ委員長は早めに上がって帰宅し寝ているし、アコ行政官はいつも通りパンデモの議長とやいのやいのしている。

チナツはセナ委員長と「医薬品の消費が減りましたね」とのんびりしている上に、風紀委員会の大半は再訓練中だ。

出動が減ったから再訓練する時間が増えている、結果として練度や戦技は向上できる。

 

「平和、でいいんだよな」

 

確かにETO成立以降、平和な時間は増えていたが、何かが違う。

一番変なのはカスミだ、影も形も出てこない、外で何かしているようにも思えない。

試しにアビドスの方へ電話を掛けたが「ん、最近見てない」と返された。

 

「さりとて連邦はなんかしてるわけではなし……」

 

あ、とイオリは思い出した。

風紀に違反はしてないが、学内掲示板に「ゲヘナの風紀は連邦に依存するべきか?」と張り紙を張った奴がいた。

正直なところ、馬鹿らしいと思う。

そんな愛校精神豊かなら、どうぞ風紀委員会にご志願願いたい、きっと三日で理解できる。

組織を維持管理しながら運営するにはそれなりに支援が要るものだ、サークルじゃないんだから。

そして思い出した、ゲヘナ再興委員会の連中の委員長補佐がバカな事を言っていた。

 

「ゲヘナが平和になったら風紀委員会はどうなるの?」

 

イオリは何を言ってるんだと思い、ただ一言返した。

 

「備えよ、そして待て」

 

何事も無ければ実に良い事だ、3官1士は平和が大事、仕事が無い事こそ良い事だ。

 

「なにそれ」

「まず学内の平和が実現されたら、ETO業務の共同警備区域だろ、それにとんと静かになったアリウスPKO業務だろ、あと再訓練と……」

 

指折り数えて、イオリは「やる事多いな」と実感した。

 

「あ、あと私やチナツは連邦捜査部の教習課程受けれるな」

 

これは個人的楽しみである、ヒナ委員長にちょっといい所を見せたくはあった。

ゲヘナ風紀委員会はトリニティと違い常設の旅団を有さない、ゲヘナ風紀委員会は独立大隊または支隊を適時編成し、機動打撃を目的とする独立増強大隊や連隊規模戦闘団が指揮本部と一部支援部隊と常設されている。

これはゲヘナ風紀委員会が治安戦組織である事が理由であるが、単純にトリニティの辺境部旅団のように常備するのは予算や人員の濫費とされたからだ。

マコト議長の見解であるがこれに関してヒナ委員長は同意している、結果として機動力を重点に入れた快速部隊が実現されているが、ヘリは無い。

ヘリが無い理由は「匪賊の鎮圧は足で稼ぐもんだろぉ」とマコトが正論で返し、ヒナが「だから車両寄越せよ」とねじ伏せたのである。

 

「それにあれだな、車両の増強も出来るな」

 

イオリの言葉に、委員長補佐のカレンはつまらなさそうな顔をした。

 

「そんなの、連邦のいいように使われてるだけじゃん」

「……まさか一校主義者(オルタナ・ライト)?」

 

信じがたいようなものを、古生代に絶滅したものが歩いている様なものを見た目をしたイオリは呆れた顔をした。

ティラノサウルスが大通りを日向ぼっこしている様な、そんなありえないものだ。

確かに現代でも居るには居るがそこまで右派な思想を抱くかという感想が過る。

連邦に問題がある、それはそうだ、否定はしない、連邦捜査部に問題がある、それも事実だ。

だからってゲヘナが何で肩代わりしたり、まして連邦から離脱なんぞせねばならない?そんな余裕がどこにあると言うのだ。

 

「今日日学園間紛争なんかして何を得るのさ、トリニティの連中は死に物狂いになるだろうし」

 

イオリは「トリニティのツルギ委員長は守りに入るとヒナ委員長と互角になるからなぁ」と呟いた、目立たないがしっかりと手堅い手を打つ人だ、対決マッチをやったら観客は想像もできない数になるだろう。

それに優れた人格者である、これは確かだ、でなければエデン条約での戦いで組織崩壊を起こさず撤退戦は出来ないし、過去の幾度も戦いで活躍は出来ない。

それに守りに入ったトリニティは実に粘り強い、連邦捜査部の攻撃もうまくいなそうとしていた、演習がそれを実証している。

 

「それにまぁ防衛戦争だから正実(JTF)だけじゃなくて、パテルとかの連中も参戦する訳じゃん?

 纏まらないとは言え防衛戦争に入ったらあそこは纏まるよ、政治改革に軍制改革で前より良くなってるからね」

 

そして、イオリはある事を指摘した。

 

「……だいたい、連邦の全面介入になったらどうするのさ?

今は連邦生徒会会長も帰ってるんだし、会長は間違いなく、下命するよ。

 ”逆賊の誅滅を”。私ゃ嫌だなぁ」

 

笑ってそう言うイオリの目は笑っていなかった。

皇帝か、無か(アウト・カエサレ、アウト・ニヒレ)?冗談じゃない!担いで得られるものとリスクが釣り合わぬ。

無論それは前線を経験しているイオリだから実感の籠ったセリフだ、イオリの制服の胸元には種々の戦功章がある。

エデン条約防衛記章、アリウス解放記章、PKO参加章、色彩戦防衛記章、鋼鉄大陸戦役参戦章、アビドス戦役章……。

だが種々の戦闘も、それをテレビやスマホの画面越しで過ごした人々には実感が湧かない、境界線の向こうの力に、実感が湧かない。それは見ただけである。

彼女は何も言わなくなった、理解が出来てないのである。

 

 

もうすぐ合法的な反権力の季節は終わるだろう、悲しむべき事に。

 

 

そして一線を越えた先にあるものは……。

イオリはそれを知っていた、旧体制のアリウスを潰す際に見ていた。

 

「虫けらどもを叩き潰せ(エクラゼ・ランファーム)!」

 

先生はある異国の言葉を発していた。

イオリはそれを知らなかったが、それはフランス語だった、とある作品のタイトルでもあった。

だが連邦は敵に対して容赦しない事だけは知っている。

 




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