キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
実際、フランス帝国政府は一種の共和国であった。
国民の声によってその頂点に招かれた私の信条は、「la carrière est ouverte aux talents」(才能ある者には道が開かれている)であり、出生や財産による区別はなかった。
そして、この平等主義こそが、寡頭政治勢力が私をこれほどまでに憎む理由である。
──ナポレオン・ボナパルト、1817年3月3日アイルランド人外科医に対し──
反転攻勢は完全に状況を滅茶苦茶にしていた。
特に大きな理由は適切な重・中火器の不足である、この不足は即応部隊向けの武器庫へイオリが咄嗟に撃った結果、パンツァーファウストが爆発、大半は喪失したからである。
確かに、ショウコらは不測の解決を図るべく連邦の重装備保管庫を襲ったが、奇襲ではあっても即座に陥落する、と言うわけではない。
彼我兵力差は圧倒的に劣勢ではあるが、守るべき要点自体はしっかりしていた、照準眼鏡付きのM240BによるMGネストは制圧射撃を的確にしていたし、守備側の要である81mm迫撃砲──これは私物装備品──もあるとなれば、尚更である。
しかし攻撃側が歩兵砲を前進させて来た事から、攻撃側に天秤は傾いて行った、命中率には大いに問題があったが火力は火力であった。
洗脳下による狂信的な突撃は当然ながら衝撃力はあるが戦術的にはいなされていたが、火力制圧出来れば変わり始める。
「
陥落が避けれない事を悟った警衛司令は、山海経にほど近い故郷訛りの強いスラングを呟いた。
私物の88式自動小銃のヘリカルマガジンを確認し、オペレーターへ指示を出した。
「遺憾ながら当施設を放棄する、重装備保管庫を窒素を規定量以上で満たせ」
「はい」
「その後はコンソール及びこの部屋をテルミットで処分だ」
賊軍に連邦資産を渡すつもりなど毛頭なかったのである。
結果的に稼がれた時間と放棄手順の遵守は価値あるものとなった、連邦重装備保管庫の兵器格納庫は基本的に窒素で満たされて保管され、それによりサビなどを防止するというモスボール保管方法なのだが、窒素はこの世の全てがそうだが度が過ぎれば極めて有害である。
しかも保管庫の隔壁は特殊な複合装甲を厚く配置したものだ、ロックボルトなどで固定されている以上、正規端末で操作をせずに開けれるものではない。
かくして、攻撃は無意味に兵力を濫費するだけとなった。
しかもそうした騒ぎの中で「バカみたいに従って逆賊になるくらいなら死んだ方がマシ」とか「覇権主義やらに従う気はない」と風紀委員会や万魔殿の下級生らが反抗し、結果的にショウコの作ろうとした統制社会はむしろ大破局になった。
結局のところ他人に言われて易々諾々と従う様な丸い奴はあんまりゲヘナには居なかった、と言う事となる、ある意味ではマコトの政治の結果なのかもしれないし、そもそもゲヘナ生自体そんなもんと言う話なのかもしれない。
『連邦の砲兵が展開』
『対空火器欠乏!』
『空挺が鉄道駅を制圧!』
結果的にヒナ委員長らはKar98KやFG42などの予備装備と押収火器を持ち出したが、この俄か作りの部隊では止めれるアテは無かった。
連邦捜査部の部隊は当然だが機械化歩兵による平押しで押し上げ、風紀委員の部隊は戦意が高く兵装の提供を受けていた。
カールグスタフなどの射撃が飛び狂い、自走重迫撃砲のピンポイント砲撃が降り注ぎ、大角度仰角の擲弾銃射撃がされていた。
「軽機で射撃して制圧! 擲弾なにしてるの!」
ヒナ委員長がことさらこうした指示を前線で出さなくてはならないのは、制空権も通信も破綻したからだ。
更に言えば兵站線はそれ以前の崩壊を起こしていた、物資の押収に来た部隊に対し、食糧庫を防衛していたパンちゃん達は「統一戦線の歌」を合唱して立て籠もったのである。
現状ではゲヘナ給食委員会は「ヴィヴ・ラ・コミューン!」と赤旗を掲げるパンちゃんたちと、半分パンちゃんたちに軟禁状態──礼節をもって扱われはしている──にされたフウカとジュリ、コテンパンに叩かれて捕まった美食研と言う有様だ、兵站もクソも無い。
その中で、ヒナは確かに見た。
「あっ」
連邦捜査部の81㎜迫撃砲の煙幕展開と、連邦捜査部の青い防弾着を付けたイオリがライフルへ付けたゲヘナ風紀委員会の旗を付け、突貫を図ったのである。
イオリが声を上げて、喊声を上げた。
それに続いて風紀委員ら、シャーレ隊員らが続く。
「ゲヘナの風紀委員め狂ってる、前へ! 連邦捜査部が遅れを見せる訳には行かないんだぞ!」
「突撃してよろしくありますか」
「よろしくないわけあるか、私らは
一気に突撃が開始され、白の制服に青の鉄帽と防弾着を身に着けた連邦捜査部の隊員らがイオリに続く。
同時にM113ACAVが唸りを挙げ、Mk19自動擲弾銃で敵の戦列を粉砕する。
40㎜の弾幕射撃と彼女らの大半が「見た事はあるが、喰らう側では無かった」連邦捜査部の強襲を見て阻止射撃が緩んだ。
制圧状態に於かれたのである。
ヒナは目の前で大きくライフルを振りかぶるイオリの姿を見て、「いつの間にか、後輩は思った以上に立派になっているんだなぁ」と、安堵感を得て、奇妙なほど安らかな微笑みをした。
空を飛ぶCH-47とUH-60は連邦捜査部の3個空挺中隊の展開は、対空火力の壊滅で事実上阻止する力が無くしたゲヘナの上空を悠々と許したからである。
この時点で状況はもはや絶望的な戦況と言っても良い、
そしていま、ゲヘナの政治中枢である
もう20分しない内に先発したイロハ戦闘団の最先頭も届くだろう。
「降下ァ!」
陸上での圧倒的な侵攻と後方遮断、空中突撃侵攻による敵中枢への攻撃、今までのキヴォトスで成功したものは居ない戦況だ。
しかもそう言う状況に未確定要素たるものがあった、先生がサツキを連れて直接来ている。
「コラァ! 何やってんだ! 106㎜を展開させろ!」
散発的な銃撃戦の最中だが、伏せてる兵らの中にあって一応の遮蔽となる花壇の影にしゃがんで咆える。
CH-47から展開されたミュールという、空挺向けの小型軽車両が展開する。
これは本来は荷物運びとかが専門だが、シャーレではTOWミサイルだの無反動砲だの積んだ武装型もいる。*1
展開されたミュールは106㎜無反動砲で正門をブチ破り、空挺部隊がゲヘナ生らと突入を開始している。
先生が居た花壇は、三脚を展開したM2重機関銃が腰を据えて、連発射撃で窓と言う窓へ射撃して制圧している。
「気前よくばら撒いてるけどいいのかしら」
「良いんだよ気前良く撃たせないと負けてるって相手が感じないだろ?」
「そういうものなのね」
サツキはそう思いつつ、真っすぐと迎えに行くべき親友の場所へ歩み始めた。
その立ち居振る舞いは本人のプロポーションも含めて堂々たる美、というものがあり、目にした隊員らは「やっぱ気迫なんだよな」と戦闘に関する真理を見た。
最後はダイスの出目の様に揺れ動く状況をどう受け止めるかなのだ。
無論受け止めれていない者もいる、空白で中身が無い者だ。
「ま、まずい。脱出路を確保して」
「作戦参謀が逃げ支度は良くないなぁ」
ショウコにマコトが堂々たる態度で述べた。
何時にも増して堂々たる姿であるが、妙な艶と色気がある、恰好も普段の外套ではなく、弾帯を付け、制帽を深くかぶっている。
「お前鈍いのか、士官が、高級士官が逃げ出して誰が付いてくるんだ?
ヒナとの連絡が付かん辺り、風紀委員会本部は落ちたかな……ま、無理は無いか」
そう言うとシーツの一部を裂いて、白い腕章を即製し巻く。
臨時守備隊指揮官──昨日までイブキ担当の従卒長だった三年生──へ「おい、各自に白腕章」と指示したマコトは、何処か晴れやかな顔つきをして、やっぱり連邦相手に一戦やるかと言う顔だった。
「駄目ならここを枕に討ち死に、良ければヒナ辺りが手勢を連れて間に合うかもしれん。キキキッ!
これは楽しい見物だろうて」
立場と責任ある人々、その良い例であった。
ショウコにミスがあったとすれば御しきれる器じゃ無かったと言う事であった、強い自我と目的意識、そして愛校心を見誤っていた。
更に狭いショウコに植え付けられた見識が邪魔をしていた、連邦の介入は「連邦の介入で鎮圧した」という外患を誘致するから無い、というサツキらの想定が過ちだった。
サツキは嘘偽りない「いつものゲヘナの悪ガキが、勝手気まましているだけですよ」とただの電波ジャックと悪戯に事のレベルを貶めた、やがて先生が公式に「まぁ派手にやったバカが出ましたな」とだけ言えば、誰が疑う?
残念ながらトリニティなら意味を持ったかも知れず……いや、トリニティでも意味を持たない古い情報で作られた教育の結果だった。
「何をしている、早く武装しろ」
すると、どたどたと足音を響かせて伝令が駆け付けた。
「報告! 二か所より降下したる敵性部隊は連邦捜査部及びゲヘナ風紀委員会を含む。
なお連邦捜査部隊員の肩章は
「相変わらず主力の即応が早いな……」
マコトはそう返すと、ご苦労と戻させた。
それなりにマコトは清々しい気分ではあった、洗脳されたとしてもマコトの内心の何処かには、自由主義者の彼女がある。
そしてその自由主義者である何処かの部分は、この状況を確かに快く、心地よく感じさせている。
お見事、天晴れ! 自ら選ぶべきもの、従うべきものを考えて動いている。
更に言えば、政治的名分を自分無しに考えて、勇戦敢闘している。
自分がした苦労、やって来た事が、こういう形で見るのはやはり楽しい気分だ。
階下から爆発の轟音が聞こえた、近くの建物、おそらく校務事務棟屋上に入った衛兵の一部が阻止射撃を始めている。
「威勢がいいな」
鎧戸の影から覗きこむ、議長執務室は88mm弾の直射クラスまでは想定した装甲板が仕込まれているから、歩兵砲や軽砲の数発では落ちない。
流石に155mmでも直射したら分からないが、そう言う滅茶苦茶や203mmの機動運用などが出来るのはあんまり居ない。
当然だが火点の選定は悪くなかったが、AH-64Eのガンランの最中、建物に片手でハイレディ姿勢のまま銃を持って走っていく集団が突入していった、特殊部隊を一部割いて側面を抑えに行ったらしい。
「ま、どっちにしろ階下は制圧されている、逃げる道はあるまい」
爆発音が轟き、銃声が近づいて来た。
ショウコは何か手があったんじゃないか、という考えが急速に頭を満たし始めている、恐らく理性や正気と言うものだった。
なぜ今更になって出て来たかと言うと、答えは簡単で、「雷帝は完璧であるはずだ」と言う考えが「不完全な洗脳」で潰されたからである。
恐らくミレニアム生徒なら誰もが鼻で笑って取り合わない考えだ。
「完璧なものなどあったらそれは魔法と言うのだ」
だがショウコを形作る物はそれしか無かった。
何せほかに何も持ってないからである。
結局、ゲヘナ再興委員会の全員が……確たる何かを有さないまま過去へ、想像上の過去への有りもしないノスタルジーを抱いていただけだった。
「
「
M249を構えたシャーレ隊員が議長執務室のある4階階段を超えてきた。
通路を睨む用意をし、さほど広く無い曲がり角で壁に背中を押し付け、反動制御をしやすい様に片足を壁へつけて固定する。
小銃を両手でハイレディに構えつつ、隊員らが構えた。
突入準備を確認した分隊長が声を張り上げる。
「
「
MP7やSTG-943などを射撃するゲヘナ側に、分隊支援火器の徹底的な支援射撃をかまし、銃弾で制圧する隙に分隊が進む。
シャーレ小銃分隊は基本的に支援火器銃手が2人居るので、LMGによる近接戦強要や制圧射撃はかなり高い。
それにこうした施設の攻略なら、本来なら一個分隊に小銃手兼任で2人居るはずの軽対戦車火器持ちがバンバン撃つが、今回撃ってない理由は政治的な配慮もだが、戦略上の都合だ。
「
火力で力負けしてるゲヘナ側の守備兵が片手撃ちしつつ下がっていくが、Mk18やXM7小銃を叩き込まれていく。
今回投入しているのが空挺、つまり突入小隊は解隊になったアリウスの空挺大隊で、連邦捜査部に編入扱いだ、空挺火器班などはSRTのチームであるが、混成の色が一番大きい部隊といえる。
話の問題になるのは元々色彩前に万魔殿を相手に演習をやっているから、施設の詳細や計画案自体は下地があった、叩き台があるなら作戦はつけやすい。
特にその演習自体が斬首作戦に近いものであるので、転用しやすかった。
「キシシシ、ゲヘナの生徒に望まれて議長となり、ゲヘナの議長として倒れる。
それもまた一興、民意により選ばれた代表らしい最後ではないか」
グラスに葡萄ジュースを注ぎながら、マコトは「なかなか良く出来た最後では無いか」と呟いた。
当然、ショウコに理解出来る概念などではなかった、概念を理解し理念と行動を理解出来るなら、いつまでもカビの生えた崩壊した旧体制の残党のそのまた残党みたいな
瞬間、再奪還された放送システムは持ち出された洗脳システムに対し、予定通りの洗脳解除が発動された。
残念ながら、雷帝のデス・トリガーは発動しきれなかった。
完璧な科学が存在しない様に、洗脳されて数時間でちゃんと馴染む訳が無かったのである。
いやむしろそれはショウコにこそ最も深く作用した。
まず、自分は本当は誰なのか?
あの空間はなんだ。
頭に浮かぶあの数字はなんだ?
そもそも自分は
本当にあるのか?
完璧な指導者は何も答えず、教えなかった。
中身のない空虚なお人形に、最後に残された自分の残滓と言うのは、自分で初めて、唯一選んだのって、菓子くらいじゃないのか? という曝け出されるには惨めな姿であった。
結局彼女の口から出た言葉は自身を隠すための言葉に過ぎなかったのである。
そして社会と言うのは過去ばかり見て空虚な人に真なる注目を与える事はない。
ゲヘナ騒乱は事実上、短い一日の事であった。
指揮系統の掌握の失敗、即応された中央政府、重要目標の排除失敗……原因は幾らもあるが、主だったものはこれだった。
ヒナやマコト自体は精神的に特に後遺症が出る事は無く、大半の三年生らは夢現な気分だったが為に、全くと言って良いほど誰も気にしなかったのである。
「ウチの子達はおおらかだから」
「大雑把の間違いなんじゃねえか?」
洗脳が解けた痕のヒナやマコトは、一応ミレニアムで検査措置をしてみたが、特に異常が見つかる事は無かった。
幸いにして洗脳が短時間で済んだ、というのもあるが、洗脳の限界があったのも大きい。
大半の生徒らにとって「今、ここにいる自分」こそが大事なのであって、大切な過去や楽しい過去は、過去と言うセピア色の楽しい箱の中にあるべきものである。
「で、事態をどう処理するんだ」
検査着から普段の服装へ戻ろうとしているが、ネクタイの締め方を忘れたマコトがヒナにやらせつつ尋ねた。
ヒナは彼女自身もやり方を忘れた様な様子で弄っている。
「まず、AIを使って悪戯放送をしたと言うカバーを用意した」
「そんな奴が居るか?」
「マユミとカレンが自分から志願したよ、今は多分風紀委員会本部反省室だ」
要するに彼女らなりに事態の責任を取った、と言う事だった。
それ自体は特に文句はない、自分らで言い出したのは事実なのであるから、問題はない筈だと言われると否定しづらい。
「で、各自の暴走に関しては……ま、概ね化学薬品かパンちゃんたちが反応した幻覚剤と言う所だな」
「「幻覚剤ぃ?」」
雑だなぁと言う顔をマコトとヒナが互いに見合った。
「麦角菌による感染的な幻覚症状、と言うのがセナとチナツによるレポートだ。
心神喪失を罪に問うなど論外だからな。それはそれとしてまあ些かばかし反省室だ、盛大に壊しちゃったからな」
これに関してはジュリたちが提案した事だ、多少ばかし自分たちがやらかした、と言う程度で治める口実に出来ると言う事を提言した。
それを聞いたチナツがパンちゃんたちの意見を聞いて、全ての都合を整えたのである。
全てはパン・デミック・ハザードと言う事だ、中々にして友人想いのパンちゃんたちではないか、それに誰もがパンちゃんたちがそういう麦角菌変異を起こす訳ないと否定出来るわけじゃない。
斯くして真実は消された、全ては闇へ消された、ゲヘナは今日も平和なのである。
「あ、そうそう、お迎えが来とるぞ」
やって来たバンは、イロハとイオリを下ろした。
何故か風紀委員会のバンが来ているのか首を傾げる二人に、イオリとイロハは無言で手錠をかけた。
「「あれ?」」
首を傾げる二人に、イオリとイロハは口をそろえて言った。
「「すっごく心配したんですからね! 反省室です!」」
目を離すと後輩とは立派になるもんだ、と確信するヒナとマコトは、脇を掴まれてズルズルと引き摺られて言った。
週刊万魔殿に「議長と風紀委員長、反省室へ」と書かれた記事は、創刊以来最高の売り上げを記録した。
結局のところ、人々は出来事を深く認識する事は無かった。
当然であった、人々は今の生活に対して大きな不満を抱いていないからだ、事件後悪戯の件で再興委員会は要注意団体とされたが深刻に受け止める事も無く、釈放されたヒナたちはエリカやキララに揶揄われつつ、仕事へ帰っていった。
当然だがそれが表向きの話である。
ショウコの身柄に関しては保護と言う観点から、連邦捜査部に預ける案もあったが、マコトの意向からこれは無しとなった。
取り調べに際してもショウコはそもそも期待されていない、蜂起して何の援護も無い辺り、協力者も居ない辺りコイツは使い捨ての駒に過ぎず、哀れな洗脳の実験体だろう。
「宣戦布告だな、これは」
マコトは冷たい顔つきで、そう呟いた。
サツキの秘密地下施設での会合は、はっきりとした脅威の実在を告げている。
会合にはマコト、サツキ、ヒナ、アコ、カヨコの面子が顔を揃えている、ここだけ見ればかつての”オーケストラ”だが、今は其処に先生を含んでいる。
「”嵐”と呼称されるゲヘナ内部の叛乱謀議勢力か」
「ええ、我々が消し去ったはずの、雷帝信奉者」
「全く、いつまでも暗い地下で雷帝の遺産の設計図でもネズミのように舐めまわしてれば良いものを」
マコトの苛立ち交じりの呟きだったが、宣戦布告なのは間違いなかった。
情報部副部長がどさくさに紛れてカイザーの支社からぶっこ抜いた情報は、ゲヘナ再興委員会の活動についてのレポが混じっていた。
その中で書かれていたのは「五十嵐ショウコなる人物は本当に存在するのか」という疑問も記されていた、カイザーの資料調査ではまだ裏取りが出来てない、と言うのがおかしいのだ。
たいがい名前と地域が分かれば小学生中学生時代も分かるものだ、ブラックマーケットで売られているアルバムと言うのは、そういう情報的価値が非常に高い代物なのである。
「ともあれ、これはゲヘナだけの問題じゃなくなった。
奴らはゲヘナ現体制のみならず連邦の敵だ、すなわち、
先生の言葉に思わずマコトを除いた全員が息を呑んだ。
連邦捜査部が必要なら「机を強く叩いたら心停止した」とか「きっと不幸な鉄道事故」や「不幸にも水難」と言った出来事から、ちょいと担当者がミスをして「机にぶつけさせた」とか「椅子でぶつけた」と言う事例まで起こせるし、それがそうであると露見することも無いかもしれない。
そう言う点で言えば連邦捜査部はやはり胡散臭く、自由主義とはあまり相入れるものでは無い、統治体制にしても非自由民主主義になりかねないものであるし、SRT自体がもとより同胞に銃口を向ける組織であるから危険も大きい。
「必ず、
かならず首謀者どもを縊り殺してやる」
本気でキレているのは誰の目にも明らかであった、戦争機械に火が灯ったのだ。
極論言ってしまえば先生はキヴォトスと連邦を維持し、真っ当な社会を守る為なら何をしても良いと認識している、はっきり言ってしまえばゲマトリアとかは人間と認識していない。
そうであるが故に連邦捜査部は相手によって警察比例の原則で活動していないし、法執行中のゲマトリア構成員の殺害は発生したとして”無条件で免罪”されるという規定が有る。
言わば人間や生き物とみてないからである。
「全くだ、何時までも統制主義や全体主義の時代ではあるまい」
マコトははっきりと先生に同意した。
先生の芸風と言うか、行動指針のようなものはある意味、SRTと違うのは認識しているし、それが何かをよく理解している。
連邦捜査部は連邦と連邦に属する全てを守る為の行動をするのであって、正義や平和というものを守る為じゃない、そんな曖昧な物ではない。
そう言う点である意味、先生たちはヒーローでもアニメや漫画の主人公とは違うと思う、恐ろしく子供っぽい所があるのは事実で、恐らく正義と言うのを好んで知っているのに。
無理も無かった、神話と言うものが終わり、人間の時代、英雄の時代に生まれた男だからだ。
「そうだ。勇気と、恥じる事なき振る舞いと、機転を抱けば敗北しても名が消える事はない」
先生がこうした事を言うのは人生で二度目である。
実はラス・カーズに1815年8月2日、ベレロフォン号で言われた言葉だった。
「私たちは過去に生きていきます。
私たちには満足できるだけの過去があります。
カエサルやアレクサンドロスの生涯を私たちは楽しんでいるではありませんか。
陛下もご自身で読み返していただければ、さらに多くのものを手に入れることができるでしょう」
回想録、というものを思いついたのはここが基点であった。
実際どうなったかは知らんが、売れたには違いあるまい、面白いだろうしな。
そんな事を言う先生に、マコトたちは「やっぱこの大人なんかやらかしたんじゃねえかな」と考え始めた。
相変わらずリン首席行政官は会長に慣れてないらしくある。
「なかなかの大冒険だったそうですね?」
「えぇ、スリリングなものでした」
皮肉で言ったんですけどねと言いたげな連邦生徒会会長だが、それは良いとしてプラチナブロンドの髪を揺らして立ち上がった。
マッキントッシュ調の執務室にある窓を見て、眼下の街を見下ろす。
「正に、未曽有の国難と呼ぶべき情勢になっています。
今回は早期に手を打てました、幸いしにして……しかし私は悲観主義は嫌いですがリアリストです。
今回のように、ゲヘナの謀議勢力のように、憲政秩序を脅かし、夜闇に潜む悪魔の軍団は、恐らく諦めていないし、あれだけでは無いでしょう」
連邦生徒会会長は少し、顔を横に向けて呟いた。
「今のキヴォトスに必要なのは揺ぎ無く、信念を持ち、生徒らを護民する者です。
決して揺らぐことなく、必要な事をする者です。
……私の期待に、今回のように応えてくれることを祈っていますよ」
「仰せのままに。しかしながら意見具申するならば、この情勢になるまで放置しない事です。
病は軽いうちに片付けておくことが一番ですから」
「ひぃん……」
連邦生徒会会長は嘆く様にそう呟いて、椅子へ座った。
「しかしながら洗脳電波とは大したものですね」
「まぁそう言う不思議素材に事欠かないところだと思いますけどね此処、理由も大してなくバキュンバキュンしてますし」
やさぐれたように返すと、まぜっかえさないで下さいと拗ねた顔をされた。
まぁこの人からしても想定外だったのは事実なのだろう、予備調査で取り敢えず挨拶兼ねて……がこうなるとは、神も悪魔も予想していないに違いない。
そうした存在はサイコロを振らないからだ。
「預けた彼女らは、しっかり働いている様ですね」
「おかげさまで暇がありませんから」
「最近冷たくないですか?」
「いつもそうですよ?」
そう言うとフッと笑い、顔つきを整える。
「では真面目な意見です。
幾つかの調査と予防計画についての御許可をいただきます」
「調査は分かります、許可もします、予防計画とは?」
「
連邦生徒会会長は流石に即答はしなかった。
だが、この存在自体が大問題なカラーコードの計画がある事を否定しなかったし、拒絶もしなかった。
「……忠誠宣誓を守ってくれるのなら」
「
忠誠宣誓とはSRT及び連邦捜査部の加入時の宣誓の事だ。
こうしたものは各学園で幾つかある、剣による拝礼とケープを受領するパテルや、万魔殿及びゲヘナ校旗の四隅を囲み宣誓するゲヘナ式、新規生と共に旗を受領し宣誓する百花繚乱式などがある。
連邦捜査部の場合では連邦憲章の冊子に片手を置き、右手を挙げて「キヴォトスの内部及び外部の敵に対する防衛」などを誓う。
しっかりと許可を受領し、本庁舎へ帰る。
MRAPを運転する運転兵が鼻歌を口ずさんでいた、連邦捜査部に関連する歌だった。
”アビドスの砂塵からアリウスのカタコンベへ
常に筒先そろえ我ら征く 暴虐牙を剥きし時に我ら在り”
酷い事実を思い出した、あまり隊員受けはしてない事だった。
もっとひどい事実を思い出した。
半分我々を皮肉った様な歌がある、確か回転ジャーどもの歌の皮肉の歌を改変した奴だった。
”我ら連邦捜査部 命をかけて戦えば正義と言う名の虹がかかる
戦う時が勝利の時だ 負けたら記録には残らない”
連邦捜査部は常に綱渡りと言う点で皮肉った内容だったが、隊員にはバカ受けした、正直取り締まってやりたい。
だがどうしようもない、言論は自由なのだ、まして、綱渡りなのは真実そうだったのである。
まぁ何れ本当に笑ってコレがネタに出来るならそれはそれで良いのかなぁ……。
「防戦はその性質上勇気に乏しく、かえって敵に攻撃に際しての精神的な優越感を与えてしまう。
いたずらに自軍をして不安の念をもってくるしませるより、果敢な多少危険な攻勢に出る方が良い。」
──シャルル・モンテスキュー──