キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
船の船長になるとは、その世界の絶対的な支配者になることを意味し、君主や聖職者に求められる指導者の技量がすべて備わっていなければならない。
──CIVアルファケンタウリ 技術格言「主義:イニシアチブ」──
愛と青春の旅だち
オデュッセイア海洋学園の生徒会との用件が出来た、理由は簡単な話なのだが、要約すれば『てへっ、私の武器工場いま管理してるの七囚人だった』と要約してカイが喋ったのである。
「ふざけた事を言いやがったなこの野郎」とキレたが家主のバァさんに止められつつ、話は聞いた、つまるところお互いに相手が7囚人だと知らなかったらしい。
「なんでそうなる」
「私は海洋なんぞ詳しくはない、だが海洋から取れる素材は必要な事もある、そうした点でお互い接点になったんだろう」
「……前々から武器の流れるルートが変だと考えてたが、それは要するに」
「海上から密輸してたんだろうねぇ」
「お前が始めた話だろうが、エーッ!」
「もはや私の手を離れてる、どうしようもない」
カイの肩を掴んでグワングワン揺らしながらしまいにゃ床に突き刺したろうかと、大揉めしながら話にケリはついた。
仮釈放した先のバァさんはカイを一個人として強く向き合っている、それ自体は良い事だ、喜ばしくもある。
しかし海賊が増えた理由が明白なものになった、オデュッセイアから出て来た奴が完璧に悪さしている、矯正局で潰れた海賊団が末端の独自活動で分散し、拡散したからだ。
そしてそれを支えた理由は間違いなく武器密輸バブルである。
と言う訳で、連邦生徒会会長に事のあらましを報告したのだが……。
「これは何と言うか、もう、あちらの艦隊を呼び戻さないと駄目な案件ですね」
「大丈夫なので?」
「海洋通商路上の大問題に絡んでるのですから、あちらも断れる訳無いのですよ」
連邦生徒会会長は「それに、先生がゲブラを撃破したお陰で、あちらはそれなりに貸しもありますし」と呟いた。
「まぁ何と言うか、正直なところあちらも言いたい事は多そうですが」
斯くして、我々はオデュッセイアへ向かう事となった。
現在地点が2000キロ向こうとのことなので、数日待ってからMV-22に増槽を付けて、長距離飛行する。
入港予定のアオハマ港周辺は港湾局が予定確認などをしているが、大黒ターミナルなどを確認してかららしい、何でもオデュッセイア管轄のアオハマ港と近隣にあるダキアーク港のスマキア造船所が入港予定と被っているらしい。
アオハマ港のオデュッセイア用部分であるアンカー港で、オデュッセイアの装備するMV-22が待機していた、機体側面に「ラーン予備艦隊」と書かれている。
「MV-22か、うちでは使ってない機体だな」
「コストもですが機材量の運用上の問題もありますからね」
今回は随行としてキキョウを呼んだ、一番安全上の問題の意見で話を通しやすい。
MV-22からはトライデントの所属である小森スミカが出て来た、正直なんでなんだと思う、連邦生徒会会長の随行と案内と護衛らしいが、これは退部させるためにやらかしそうなコイツを付けたと言う事か?
当然だが小森スミカは連邦の白服2人と、黒寄りの紺色にケピ帽に近い帽子を付けた百花繚乱の作戦参謀に「ひゅぅ」と緊張の声を漏らしている。
「……コハルはあれはあれでエリートだったんだな」
「……ユカリもなんだかんだエリートなんだと痛感するわ」
何処か遠い目をする二人に、連邦生徒会会長はやや不安に感じた。
移動中の機内で軽い書類仕事と軽食を済ませて軽く仮眠し、仮眠後は書類と内容を改めて確認して論題を見ておく。
「そ、そういえば皆さんはオデュッセイアにいらっしゃられるのは初めてですよね!」
緊張に耐えかねたらしいスミカが口を開いた。
「なんどか衛星通信で話したくらいだな……会長はどうでしたか」
そう聞くと一瞬、連邦生徒会会長は目を何回か瞬きさせて、「────二回目、だったと記憶しています」と返した。
酔ったのかなと思いつつ、なるほどと頷く。
クルーチーフがスミカに何かを告げ、頷いたスミカは頑張って愛想笑いをして言った。
「右側の窓をご覧ください。オデュッセイア海洋学園旗艦以下、中核艦隊が見えます」
窓からしたを見て見ると、超大型の小さな島と呼称して差支えの無い船舶が航行している。
<オリュンポス>以下、工作艦及びヘリ空母などを伴いつつ、<オリュンポス>を中心とする艦隊輪形陣を組んで航行している。
他に僚艦は大型巡洋艦3に大型駆逐艦9を伴って航行している。
「あれが旗艦の<オリュンポス>です、実は私も乗艦するのは初めてなんですけど……。
あ、あそこにいる大巡は<スカジ><フェンリス><ヘーニル>ですね、多少海に揉まれてますが、まだまだ現役で力いっぱいです。
で、見えてるヘリ空母は<ゲフィオン>と言います、救難活動とかトライデントの作戦支援をしてくれるんですよ!」
「意味は確か古語で海……だったか」*1
「え?!お、お詳しいんですね」
「いや故郷は島でな」
スミカがギョッとした顔をした、流石に俺は現代の船はさっぱりだ。
COAG推進とかってややこしい理論やら物理学は発展し過ぎだ、理論や理屈は分からんが便利にはなっている、風向きにも霧にも負けていないのは良い事だ。
着陸にあたっての旋回で大型巡洋艦の横を過ぎていく、246m級の全長に203㎜艦砲などを積んだ艦艇で、ミサイル発射機とSPY-1レーダーが艦橋部に埋め込まれている。
「<スカジ>らも、あれか、前の<アルゴス>同様に改装したのか?」
「その通りです、SM-2運用能力やCLGP砲弾運用能力などを装備して、古くなった50口径30サンチ三連装主砲を下ろしたり、34,253トンの満載排水量をダイエットしたり主機を原子力へ更新して……色々と頑張って17500トンになって33ノット出せるようになりました」*2
「船は長持ちするからなぁ」
CGN-45と識別番号の書かれた大型巡洋艦を超えて、<オリュンポス>後部ヘリ甲板へ着艦を始める。
ゆっくりと丁寧に着艦し、クルーチーフが後部を開けた。
すると、甲板では白を基調とする制服に身を包んだオデュッセイア側の生徒会、確かアイランドと言う名前だったが、そこの儀仗隊が整列していく。
「
「頭ァ―右!」
それと同時に、あちらの会長と副会長にあたるのだろう2人の生徒が来た。
「オデュッセイアでは会長にあたる役職を
片方の方は
「なるほどな」
近付いてくる生徒二人を見ながら、連邦生徒会会長の解説を聞いた。
「捧げェ銃ッ!」
儀仗隊の栄誉礼を堂々と進める辺り、船乗りとしての豪胆さはあるのだろう。
サイドテールの一種らしい髪型の、かなりスタイルの良いオデュッセイアの代表、海路ミナトがやって来た。
何処もそうだがこけおどしが利かないだろう面々だ、まあ人を束ねると言うのはそう言う事なのだが。
「ようこそ、<オリュンポス>へ。」
「連邦捜査部部長及び連邦生徒会会長、乗艦許可は頂けるかな?艦長殿」
「認めます。ようこそ我が艦へ」
基本的にだが……船は基本船乗りの方が、艦長のが大概偉い。
故に船の長とは決断と義務と責任とに、常に向き合う必要がある。
副長にあたる灯下アミが、眼鏡を調整してにこやかに「当艦の副長でもある、灯下アミです」と挨拶した。
ゆっくりと歩みを進め、ミナトは「当直!」と声を上げた。
「はいっ!」
スミカがびくっと返事した。
「先生方に暖かい飲み物の手配を!」
「わかりました!」
スミカが走りそうになるのに対して、ミナトは「当直!要望を聞いてからだ!」と告げた。
……やっぱスミカを合法的に退部させたい誰かが居るのかな?これ?
事実は少し違っていた、不審船事件でのトライデント特警隊の拘束と査問に際し、「隻腕の隻眼の提督の指示が」と馬鹿正直に話したので、トライデントの幹部らは「新米が頭ヤッたんじゃないかな」と配慮していたのである。
無論そうした配慮はスミカには特に伝わってない、それくらいの温情がトライデントにはあった。
「では、艦長室へ」
「分かりました」
すると、ゆっくりとした動きの猫がいつの間にか横に居た。
「おや、ネズミ捕り猫は今でもか」
やっぱどの時代でも居るのかねと思いながら呟くと、アミ副長が「あっ、サミー!」と困った顔をした。
「可愛らしい仲間がいるのですね」
「えぇ、他の船ではカンガルーやワニやコアラ……それに豚さんとか、我が艦隊の各艦にはこうしたお供も良くいます。
海の上での孤独を紛らわし、友を持つことが生きるにあたって大事な事ですから」
アミ副長は仕方ないとばかしに、シャム猫の白黒の猫を肩に載せた。
副長の肩へ載せられたサミーと言う猫は、フフンと堂々たる姿で、喉を鳴らしてご機嫌そうにしている。
ただ横を歩いているとき、足を引きずっているように見えた。
「長いのか、このサミーは」
「ええ、確か15年は当艦へ乗り組んでいます、我が艦隊でも随一かも。
言わば艦隊最先任下士官ですね」
ほぼ水兵からすれば
だからこそ副長の肩を堂々と居座れるのでもあろう、海の上では家格なんぞより潮気の染み具合だ。
堂々たる横顔を見せるサミーは満足した様子で「にゃあ」と鳴いた。
艦長室はある種のアクアリウムというべき空間に囲まれていた、なんでも養殖水槽の転用らしい。
<オリュンポス>自体は非戦闘艦艇であり、指揮通信と管制に特化した船だから、シタデル構造などではないらしい。
無論非武装ではないのは明白だ。
「さて、ご用件は……我が校から出た囚人ですか」
「どうもここ最近の海賊増加自体はそれに原因があるようだ」
ミナトは少し気を抜いたように「これだよ、せっかく海賊連中に対処してもまた出てくる」と呟いた。
「艦長、せめて艦長室でも威厳を保ってください」
アミ副長の言葉を聞くに、これが素らしい。
ミナトは「対応してもしてもまた出てくるし、テルミット対艦ミサイルが来るからやんなるね」と呟いた。
そして思い出したのか「あ、そういえばクルーズ運営部が、先生にお礼を言っておいてほしい」と言った。
「ん?あー、沈んだカジノ船か」
「ええ、いちおう、あれウチから飛び出して勝手にやってた連中ではあるので……ただミツキ部長が賭けで勝った子は誰か知りたいとか言ってましたけど」
「その子は正確にはミレニアムだからなぁ、でも載せない方が良いぞ、多分部長さんが破産する」
話を戻し、そもそもどんな奴を矯正局に入れたか聞いた。
なんでも実名は護守ナナミと言うが、一時期はオデュッセイアの艦長候補、海洋に於いては天才的な才覚があったらしい。
ただ段々と相容れなくなると事実上分艦隊を連れて離脱、一時期は
参加したナナミの艦隊規模は判明している限りネウストラシムイ級22、MEKO型フリゲート艦26、クーンツ級駆逐艦18、その他艦艇や不明艦も含んでると書かれている。
「規模の全容が分からないのはなんでだ」
「一部を除いて離反艦はそのままナナミが捕まると離散、先生も観た様にブラックマーケットの港湾などで独自活動してます。
さらにナナミ以外、何処にシンパやオルガナイザーが居るのか……」
「スパイ網があると?」
「はっきりと確証を持って言えます。不明電波や怪電波がしばしば暗号電で飛んでます」
ミナトが困り切った顔をして言った。
最近の悪ガキはやる事が派手だねぇと思っていたら、カイと同じくオルグしてシンパ確保までしてやがる。
「こちらの特警隊が抑えた資料や、ヴァルキューレのSSTなどが確保した情報と組み合わせてみると、確かに排水量は小さいですがむしろアンダーグラウンド・ネットワークに深く食い込んでいます」
アミ副長がリストを投影した。
その中には海老絡みで検挙した船舶なども含んでいる。
「あー、俺が摘発した奴」
「ええ、先生たちがSTRBで追い回してる奴もかなりの数が……」
すると、キキョウが片手をあげた。
「海には明るくないのだけど、現状の彼女らは有力な戦力を有しているの?」
重苦し気にアミ副長は「はい」と告げた。
「最大では、どの程度の?」
「全長100Ⅿ、排水量1600トン級のフリゲート艦などが現在確認されている最大規模にあたります。
我々が山海経へ長江警備目的艦として売った船の同型艦……羅津級フリゲートと呼称されるものと思われます。
しかしながらラタキア造船所やスマキア造船所で発注された船が渡ってる可能性は、確かにあり得ます」
「ヘルファイアじゃあちょっと喧嘩を売りたくないな」
性能諸元を見るが100㎜艦砲に57㎜対空砲や対艦ミサイル、AK630CIWSなどはちょっと分が悪い。
AH-64によるヘルファイアによる遠距離攻撃よりシーアパッチのハープーンが必要だ。
更にミナトの指示を受けて、アミ副長はある資料を見せた。
「この資料は、見せる相手があなた達、連邦の高級役員であるから開示します。
……未確認ですが、ナナミは潜水艦を運用していると思われます、それも、対艦ミサイル発射が可能なものを」
「中身はあるのか?」
「
「確証があるんだな」
ミナトの個人端末から、データが壁へ投影された。
全長67m、水中排水量3600トン級と推定される潜水艦の資料が出て来た。
旧型潜水艦の改修依頼がされたスマキア造船所は、静音パネルや発令所の電装品改修、艦尾魚雷発射管二門をデコイ専用へ変更、艦上部のミサイル発射機は取っ払うなどなど……大きな改装をして、さらに前部魚雷発射管も改修した結果ハープーンの発射まで可能にしたらしい。
聴音能力もソナーアレイ改修までかましたもんだから曳航式も付けやがったらしい。
「……なんかえんらい改造したな?」
「えぇ、実際、原型は留めていないと言えます……誰がこれを見てグレイバック級だと判別できるのか、というもので。
実際、我々もキャビテーションノイズを見ないと、信じられなかったんですよ」
「普通こんな改修が来たら通報されるような気がするのだけど」
「されましたよ、完璧なミレニアムの生徒にしか思えない人たちが、身分証見せてミレニアムで買い取ると言われたんです」
アミ副長はこくりと艦長の言葉に頷いた。
なにせミレニアムはオデュッセイアと繋がりが深い、幾つかは提携もしている。
「でもミレニア会長からUSVの発注がされた時に、そんな依頼も生徒も居ないって……」
「その時にはもう消えてたか」
「綺麗に予算分払われて正面から堂々と出航してましたからね」
そりゃ大胆だァと呆れたくなる。
「そして実働している証拠は、この前カイザーPMC海上部門の艦船を襲撃したから手に入れたようなものです。
ELINTでは1135.6型フリゲート2隻を撃沈破、コンテナ船から荷を奪うと大破させたようです」
「……つまりあれか?旧式潜水艦で、真っ当にやってるフリゲート艦を襲って、損害も無くぶちのめして悠々と離脱と」
「しかも対潜攻撃を避けてるんですよね」
ミナトはさじを投げるように言った。
深いため息が出る。
「面倒だなぁ……俺は陸式だからな、海じゃ役に立てるかは怪しいな」
「ただそれでも、コイツには潜水母艦ではなく、母港がある筈です。
それに補給の手配は洋上でやれない事も幾つかあります、潜水艦支援艦で魚雷などはつめても、潜水艦なら密輸も容易です」
ミナトに同意し、頷いた。
「了解した、出来得る限り協力はする。
で、えーと……あの潜水艦は名前があるのか?」
「識別呼称はブルー・シックス、つまり青の六号と呼んでいます。
海洋通商路、そして海上の治安の大課題です、しまいにゃ独立戦闘国家を名乗られたら目も当てれませんからね」
そういう意見は分かるが、シャーレに対潜手段なんてせいぜい手投げ・手押しの小型爆雷じゃねえのか。
SH-60とかいうヘリを納入するべきなのか?もう滅茶苦茶だな。
取り敢えず話は終わり、クルーズ部からもてなしを兼ねて食事を招待された、小隊と言うが事実上命令と言う方が近い、船の上の艦長はそういう権限がある。
なんでも今日の食事は鯛の汁に、帰還祝いに野菜、それに肉の大和煮とオムレツを出すらしい。
こうした食品は新鮮な食材という海上では至高の贅沢だ。
「今日日の船は豊かですね、塩漬けの野菜と肉とラム・ジュースではないわけですか」
「全くです、
キキョウやミナトらが揃って「「へぇ、船に明るいんだな」」と言う顔をする。
「むかし、帆走船へ長期航海に乗った事がある。
艦長らは中々話をしたが楽しくてね、船員らは素直だったよ」
「ほう?」
「外での経験だ、暫く昔の話だ。それに、幼いころは船乗りに憧れた、島の住民としては一番身近な仕事だったと言うのもある。
生活の為に学校を止めてなるかも考えたな」
ミナトは本気で驚いたように言った。
「御同業になる可能性があったんですね」
「乗るか迷った船が沈んだから乗ってたら死んでたな」
「そりゃ……なんとも」
「いやぁ、卒業時に軍艦乗りも良いかと迷った時期もあったな」
「確か、数学がお得意とか」
「好きだ、数学は今でも勉強しているよ」
副長らが意外そうにしながら鯛の汁を飲んでいる。
すると、猫のサミーが現れた。
給仕は「はい、サミーの分」と刺身を載せたお盆を置き、サミーはミナトの方を見た。
「いいよ」
ミナトは優しく告げると、サミーはぱくりと刺身を食べ始める。
「良い子ですね」
連邦生徒会会長はにこやかに告げた。
ミナトは困ったように言う。
「ええ。ですが、最近、体調を崩しがちで……」
「15を超えてるなら、大分お年を召してるわね」
キキョウは塩気の濃い目の鯛の汁を満足気に飲んで言った。
百花繚乱は他の治安組織がそうであるように塩辛い味付けが好きな人が多い、肉体仕事だから当然だが。
それにキキョウは猫風ゆえか、濃い目が好きらしくある、恐らく図体が大きいから薄味だと違うのだろう。
ここら辺はシャーレ隊員でも同様だ、アリウス出身者にはパックに岩塩の塊とやすりをいれておく奴までいる。
「船守医務長からも、サミーの身体状況から報告を受けています。
あまり明るいものではありません……乗員からは負担がかかりやすい海から下ろしてあげるか、最後まで供に居るか、そういう意見も論争になっていますし」
「なにはともあれ、我らが同胞……ね」
「ええ、しかし、不吉を船員らは嫌います」
ミナトの悩みは正当な物だった。
船の上の規則において迷信だとかジンクスなどと言うのは、陸の住民の言い草である、何故ならそうした言い伝えには実態があるものだ。
なぜあの洞窟に子供は近づいてはいけないか、その答えが空気より重く沈殿しやすい硫黄ガスなどである事は珍しくない。
人は大自然に神、天を見出す、頂上の何かが全てをつかさどり、意思を感じさせる。
コーランで豚肉は駄目だとしているのは食中毒を回避するために薪が多量に使われるからだ、こうして信仰は形と意味を有する。
「正直、決断を決めかねています」
ミナトの言葉は指揮者の誰もが持つ悩みだ。
この答えは正しいのか、その選択は正しいか、それを自答し続けるのだ。
地頭が出来ないのなら指揮者など辞めてしまえば良い、誰かに迷惑をかけるその前に辞めて身を引くべきである。
さらにもっと救いがたいものは自己の決断に疑いを持たない事だ、自信が無い指揮者よりたちが悪い、害悪と無能をまき散らすクソになってると言う事だ。
自信の無い指揮者は周りの提案を聞けるがこうなっちゃおしまいだ。
「分かるとは安易には言わんが、向き合うには孤独だな」
「ええ……」
ミナトはそう言うと、静かに肉を箸でつまんで口へ含んだ。
すると、連邦生徒会会長はある事を言った。
「そうですね、では、連邦の権威……と言うのを使ってみては?」
「というと?」
「オデュッセイア学園旗艦ネズミ捕りにして艦隊最先任を、ただ老衰で下ろしたでは乗員らは双方納得できないでしょう。
サミーの貢献と思い出は大きいわけですから」
ミナトは頷いて同意し、連邦生徒会会長は言った。
「ならば、連邦生徒会会長による勅命として、栄転させてみればよいのです。
……例えば、連邦捜査部本庁舎にしてエデン条約機構本庁舎のネズミ捕り警備業務顧問として」
「栄転……なるほど」
ミナトは声を押し殺して笑い、そして納得して声を上げて笑った。
「いやなに、ですが有難い提案ですが、付け加えるならば、恐らく栄転と言うより勤務転換でしょうね」
「というと?」
「”海で出世したものは陸へ配置されることを栄転とは言わないのですよ”」
その言葉は深い意味を持つ、海で生き海を行く人たちは、陸で出世する為に来た人や陸へ栄転する為の海へ出る人を、同じ船乗りとして絶対に認めない。
いわばそれは陸軍の兵士何かより憎い海軍士官、そう呼んでも差し支えないものになる、そうなったら水兵らは納得する筈はない。
「厳しくも戦闘に際し冷静冷徹にして優秀な艦長」は畏れられても憎まれない、いやむしろバランスさえ整えばそんな艦長だろうと水兵は慕いついていく。
ミナトは何か決心したのか、こちらを見た。
「先生。うちのサミー。頼めますか」
「承知。水練及び海賊対処顧問殿として丁寧に迎えるさ」
だが、ミナト艦長は選んだ、決断をした。
彼女は最終的には自身の権限と職責から逃げず、自らの意思で選んだ、仲間を下ろすと言う決断だ。
彼女は立派に、艦長としてそれを決めた。
翌日、サミーが離艦する事が通知された。
<オリュンポス>のみならず、他の僚艦からも惜しむ声は多かったが、「私はサミーにゆっくりと余生を過ごしてほしいと思っている」と艦長自ら放送した。
その日の夕方には乗ってきたMV-22の整備と確認が終わり、後部甲板ではサミーの離任式も行われた。
「今夕1600をもち、サミーは当艦を離任。連邦捜査部本庁舎へ勤務地を変更する。」
集まった多くのオデュッセイア生徒らは、トライデントや各部活関係なく、多くの艦からも出席の生徒や立ち見している生徒らが居た。
儀仗隊による栄誉礼とカーペットを堂々と歩き、サミーは式典台上の艦長へ駆け寄った。
すると、サミーは先生の腕に包まれた後、すくっと立ち上がって、真横に見える生徒らへ、短く一回鳴き声を上げた。
それがサミーによる離任の挨拶であった。
そして別れ際に、ミナトへ向けてにこやかな鳴き声を上げた。
獣医のアテと連絡を付けつつ、本庁舎のカフェに新しくサミーの寝床をこさえてやらねばならない。
これから帰港する乗員らが顔を見てやれるようにしなくてはならない、それが今回の責任と義務に対する答え方だ、それはそれとして思った事がある。
「サミー。お前、餌の好み聞いていなかったな……」
不敵な様子で、サミーは楽し気に喉を鳴らして、座席の一つにとぐろを巻く様に眠り始めた。
そんなMV-22を見上げながら、艦長は、隣に立つ副長の鼻を啜る音を聞かないでやるだけの、心は有った。
艦長は公然と寂しがることはできない、艦長室で、静かに「ムシデン」のレコードを一人で掛けるときまでは。
ある日から、連邦捜査部の本庁舎に猫が住むようになった。
カフェで寝て、機嫌が良いときは色々な場所でうろついている。
「サミー、今日も元気ね」
ユウカは新しい住民へ撫でまわしながら、いったいなんでまたこんな可愛い子がウチへ来るんだろうと思っていた。
少なくとも姑息なイメージ戦略ではないはずだ、そう言う段階が通じると誰も思ってない。
カフェのテレビでは『本日アオハマ港湾部ダキアーク並びにアンカー港へ帰還したオデュッセイアの遠征艦隊は着々と<オリュンポス>以下帰還し、嵐により遅れて再集結中の<デュスノミア>以下の艦隊と、機関不調から遠征に出なかったスマキア造船所へ<カリュプソ>以下数隻が揃うのは3日後の予定です』と告げていた。
そして、先生からある報せを受け取った。
「前に沈んだクルーズ船の責任は俺らじゃないとお沙汰をもぎ取ってきた」
「……で、前に鋼鉄大陸の時に壊した<ケート―>以下ミサイル巡洋艦三隻は?」
「……所属が俺じゃねえし防衛室に押し付けてやろうと思う」
丸めた書類により思い切り人をぶっ叩いた時の音を聞きながら、サミーは眠たげに鳴き声を上げた。
感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当にありがとうございます!
この場を借りてお礼申し上げます。