キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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タイトルが決まったので初投稿です


ヤンチャなセミナーの書記と遊ぼう

 

 セミナー待合室でユウカを寝かせ、頬をぺちぺち叩く。

 

「死んでるなら死んでると言え」

「あうあうあー」

 

 ユウカのヘイローはまだチカチカしている、おのれサディストめ。

 友人をここまで苛め抜くとは、このままユウカがジュノー見たいに「うが」しか言えなくなったらどうする積りだ。

「寝たきりのユウカちゃんも可愛いですね」とか言いそうだからそれはそれで恐いが。

 

「あうー」

「これは駄目かもしれんなあ」

 

 首を振りながら、考える。

 欧州やアビドスでの立ち回りはまぁやらかし過ぎたか?*1 と思うが。

 今回は俺は被害者だ、タイユランですら「今回はまぁ貰い事故ですな」と言う事請け合いだ。

 あのクソゲー無開発部と言ってやりたいが、クソゲー無は作って無いんだよな……

 

「ユウカ起きてくれよ、お前抜きであの馬鹿共止められる自信はないぞ」

「うあー……」

「俺達が諦めたら、奴らヴェリタスと多分こんな悪乗りが好きなエンジニア部がセミナーとミレニアムを燃やし尽くすぞ!」

 

 ユウカのヘイローが安定し始める、もう一押しだ! 

 

 

 

 

 ロココ様式の豪華だが、けばけばしくない美がある洋室、どこかは分からないところの光景が広がる。

 大きな古い時計がゆるやかに時を刻んでおり、外は白い光だけがある。

窓際には一面を埋め尽くすような本棚、また別の壁には静かな暖炉が見える。

 

「あれ? ここはそうだ、小会議室でノアに、うっ……」

 

 頭痛で記憶が途切れる、もしかして私のヘイローは……

 

「あら、こんなに早くお客さんが、しかも今度は生徒ですか、その制服はミレニアムの子ですね!」

「あなたは?」

 

 アビドスの制服にカードをつけた学生が、巨大な本棚に囲まれながら尋ねた。

 こんな、緑ツインテの子は記憶にない、アビドスにこんな子は居なかったはずだ。

 

「まぁまぁ、ホシノちゃんの先輩と言う事で先輩とでも」

 

 先輩さんに連れられ丸テーブルに連れて来られる。

 私の脳内が生んだ幻影なのだろうか、すくなくとも自身の心象世界がこのような静謐の世界と言うのは不思議な気がする。

 

「ここでしばらく安静にしてください、貴方の心は壊れかけています」

「はぁ」

 

 言われるがままにされてるが、私は大丈夫なのだろうか? 

 丸い机に囲むように座ると、コーヒーが出された。

 不可思議なくらい落ち着く甘みがある。

 

「随分早い、お客さんだね、皇帝陛下の無茶振りかね?」

「聞く限り皇帝の人使いも大分優しくなったようで」

 

 杖を持った壮年の男性と小柄の皺の多い苦労性の強そうな男性*2が座っていた。

 杖の男性は「タイユランとでも呼んでくれ」と言い、もう片方の男性は「ただのシシスぺだよ」といった。

 

「君に会いたいと言っていた連中は多かったのだが、そこの彼の参謀長が代表でね」

「私が言えるのは、人使いは滅茶苦茶荒いので無理なことは無理と言う勇気です。じゃないと窓から落ちるぞ、大人の忠告だ」

 

 いったいどういう意味であるのか、ユウカにはまるで分からなかった。*3

 ただこの二人の男性が深く同情の視線と、憐れみの気持ちがあるのは理解できた。

 

「あはは、アビドスの恩人は随分凄い人だったみたいでね、聞くたびに驚いてるよ」

「君の話を聞いたら彼も驚くと思うよ」

 

 先輩さんが苦笑すると同時に、いつの間にかドアが開く。

 熊の毛皮をかぶった兵士が二人、ドアを開けて完璧な動作で敬礼した。

 

「おや、そろそろ帰りの時間の様だ、まぁ色々言ったが、彼の事を宜しく頼むよ、常に周りの第3者の声と意見を与えてくれ」

「簡単かつ簡潔にまとめた情報を提示すればいい、納得させるには実数を出すことだ」

「アビドスの事よろしくね」

 

「私からも君へアドバイスだ、人は計算式ほど完璧ではない、理解するものだ」

 

 去り際に、三人は言った。

 

「挫けるなよ」

 

 ドアは重々しく閉じられた。

 

 

 

 

 

「ううう……」

 

 ゆっくりとユウカが起き上がり、頭をこする。

 やっぱ運ぶ際に頭をぐわんぐわん揺らしたのはマズかったか。

 

「おお、ユウカが現世に帰って来た!」

「先生……あの世とこの世の境目で変な人達に先生とアビドスの事を頼まれました、先生のことは兎も角アビドス頼まれたんですよ、あれ何ですか?」

 

 何を言っているんだおい、おかしくなったか。

 

「俺にも分からん……今度ホシノに聞いて見るか、此処から生きて戻れたならな」

「そうですね、ミレニアムを守れるのは我々しかいないんですから!」

 

 ユウジョウ! 臨死体験と同じ修羅場を潜り抜け彼らの信頼を高めたのだ! 

 

「ユウカ、ミレニアムで夜寝るとき、ノアから飲み物貰う時とか気を付けろよ……いやもうすでに、聞かれてる可能性がある」

「いや普通に寝るとき隣に居るから別に小細工抜きで知ってると思いますけど……」

「小細工抜きかぁ……、あれと同室なの?」

「普段はもう少し違うんですよ」

 

 待合室と言うのは都合よく人が多い。

 実のところ盗聴を防ぐには人が多く会話してるところが一番安心である。

 ノアはやるなら集音マイクやレーザー盗聴までやるだろうが、あの目は楽し気な雰囲気を宿していた。

 理由は分かる、すなわち。

 

「ノアは久々に遊んでみたい」

「良い趣味した奴しか居ねえのかココ」

 

 ユウカは呆れた顔で「ここ何処だと思ってるんです、ミレニアムですよ」と返した。

 納得せざるを得なかった。

 

「あの馬鹿共が襲撃するとしたら今晩だろう、計画よりも衝動で動く奴らだ」

「そうですよね」

「奴らの迎撃作戦の指揮官はお前が取れそうか?」

 

 ある程度想像した後、首を振るユウカ。

 

「多分無理です、ノアは本気で遊ぶつもりですよ」

「でけえおもちゃだこと。二人で連中を誘導して被害を減らすマッチポンプ作戦は駄目か」

 

 偽旗やマスキロフカも論外! 

 ということは本腰入れねばなるまい、せめて大人の知恵は貸してやらねばならない、例えクソガキであろうと。

 今からノアに寝返れないかな。

 

「とりあえず、あの子たち確保しましょうか。他はなんとか協力させるのは」

「無理だろう、今のノアの権限だと向こうに付かれる危険がある」

「アビドスの連中に助っ人を回してもらうのも無理だし」

 

 ホシノに「貸しがあるだろ」でこれで呼んだら殺されかねないよ。

 シロコあたりは来そうだが何を持っていくかわからん。

 

「俺の専門は砲兵だぞ」

「私も会計ですよ……」

 

 良い手段が浮かばない、俺やユウカがホシノレベルじゃなくても、シロコレベルで喧嘩が強ければ、ない物ばかり浮かぶ。

 良くない兆候だ。無謀な手が出てき始めたらいよいよ、終わりだ。

 いや、喧嘩。向こうをこちらと同じレベルに引きずりおろすか? 

 全部、あのクレイジーサイコレズのサディスト*4のせいだ! 

 

「とりあえず、あの連中探すぞ、エンジニア部張り込めば会えるだろう」

「急ぎましょう」

 

 エンジニア部の近くに張り込むとやはりあの恐怖と混沌の怪物達は居た。

 黒服よ、テラーとカオスの象徴は此処にいるぞ! こいつ等に常識と言うミメシスを生やしてみろ! 

 

「あっ、ノア先輩を裏モードにした戦犯2人だ!」

 

 ユウカがフルオートにしてモモイの足元を掃射した。

 ポップコーンみたいにモモイが跳ね回っている。

 

「お前ら作戦を教えろ……そこから修正する、監視や盗聴の恐れのないクローズドなスペースあるか?」

 

 先生らしく、物を聞いたり書いたりしたいので、ホワイトボードを用意する。そしてモモイが自分達のプランをホワイトボードに書いていく、理系なミレニアム生らしくこう言う物を書くのは上手い。

 

「どう!私達のパーフェクトなプランは!かんぺき~でしょ」

「素人知識で恐縮なのだが、気になる点を上げて良いか」

 

急に数人ほど胸を抑えたり頭を抱え始め過呼吸になった、「その言葉は我々にはとても辛い罵声と同じなのだよ先生……」とウタハ部長が何か悪夢を見るような顔をしている。

 なるほど、大火力のアリスを埋伏の毒にするのは悪くない。ヘボ画家よりは良い作戦だ

 だが作戦総指揮を執るであろうノアの特徴を聞けば聞くほど、頭が痛くなった……完全記憶能力者、趣味はフランス語の詩集、俺への完全メタか? カール大公もウェリントンもそこまでメタ張ってないぞ。

 

 アビドスでの俺の癖を覚えていると成ると厄介だが、覚えられたからと言って作戦行動は数式と違う”敵を知り己を知れば百戦危うからず”だ。

 そして人は自分を知ることすら難しい、ましてや他人に成るとなおさらである。

 俺はユウカほどでは無いが、多少はお前を知れた、お前はどこまで俺を知って居るかな?

 よぅし何時ものお礼を兼ねてお前達に特別授業だ!思想と研究大いに結構!だから次は実践の特別講義だ。

 

「先生もユウカも難しく考えすぎじゃない?作戦はシンプルが一番だよ」

「よぉし、私からも予想できる情報を上げる、ノアはC&Cを投入してくるわ」

 

 今度はゲーム開発部と愉快な仲間の動きが止まった、目に見える強敵は堪えたらしい。

 SNSの公開情報を見る限り警備増強は安全テストと言う名目らしい。

 俺の視線から外れようとする2人が目に入る、家にハック掛けてきたバカどもだ……

 ここに来てから俺向こう並みに口悪くなってないか? 

 次の仕事はお上品な言葉遣いできる場所が良いなぁ……

 

「家にハック掛けた2人。お前らの現部長殿と今作戦の参加に免じて恩赦を出すが、次やったら、アビドスに奉仕活動最低1週間だ……」

「えー、でもシャーレはクローズドデータ多かったし、ハックに気づいて対処不可と見たら電源落としてきたよね、しかも本項目は書類〇〇号に記すとか、紙にはハックできないのに」

「盗聴器の近くで砲撃演習大音量で流してその近くで寝るとか盗聴器も安くないんですよ、回収しに来たら拘束されたし」

 

 すごい、まるで反省してない! 

 滅茶苦茶な陰謀論言ってきたアコがまともに思えてきたぞ。

 

「「その後なぜか、カウンターでサーバーとか焼きに来たじゃないですか」」*5

「はっはっは、今度は部室事やるぞ」

 

 こいつ等との会話はある意味面白いが、話が進まん。

 抜き打ちの電子防御訓練になってるから、気にするなとチヒロには言ったが、こいつ等には言わん。

 アリスを送り込む案に関してモモイが「先生代わりに出来るかな」と尋ねた、なるほど確かに俺はアロナのお陰でインターネット接続出来るからリモートでやれるな。

 だが恐らく無理だ。先ほど届いたメールを見せてやる。

 

『どうです先生、ミレニアムの安全週間のご協力をお願い出来ますか』

 

 ノアの野郎、審査員としてユウカと俺を指名してやがる。

 一番自由にさせたくないからか、或いは……やきもちか? 

 

「ユウカ、セミナー幻の4人目って誰だ?」

「ああ、コユキですか!? あの子は、こんな子です」

 

 リストが届いたが素晴らしいまでにカスだ、悪意がない辺りミレニアムの擬人化みたいな奴である。

 なるほど、ゲーム開発部にすら舐められる訳だ、確かに能力は優秀だ。

 だがこいつの投入はダメだな、被害が大きすぎる。

 目的はミレニアムの破壊ではないのだから攻城兵器を使う必要はない、此奴自身が自分の能力持て余してるだろ……。

 

「ユウカの話聞いてると先生も大概な頭してそうだけど、エンジニア部とヴェリタス謹製のRTSやってもらおうよ」

 

 モモイが「横にそれすぎだよ! 作戦どうするのよ、まるで駄目な大人とまったくあてに出来なさそうなフトモモが増えたとこでC&Cは倒せないんだよ!」と声を上げていた。

 こいつに正論言われたのが腹が立つが、その通りだ、俺は兎も角ユウカのキャリアが死ぬ、最初はユウカが家の専属会計! 最高だ! と思って居たが。

 こんな馬鹿共は退学にならなくて自分は退学に成ったらユウカのヘイローが割れそうだ、エンジニア部に接着剤を依頼すれば……いかんいかん。

 

「C&Cの構成要員を教えてくれ」

 

ユウカがホワイトボードに書き込み始める、大きいボードのお陰で追加情報も入れやすい。

それぞれの特徴も書いてくれるあたり、ユウカも分かって来てくれるようになった。

 

「メインはこの4人、5人はいますが最後の1人は最高機密で私にも開示されてませんが、ここに居ないのは確かです」

「狙撃、爆破、近接、遊撃、全員揃えて縁起が良い事だ。だがネルが居ない以上機動防御かな」

 

 ノアの予想しやすい点は常識的だからである、愚策はしないと安心出来る。

 そしてこいつ等がノアに勝っている点が一つ上げれる、世界が閉じて居ない、ハッキングも発明もゲーム開発も”相手が居るから行える”この一点だ。そして問題児であっても実践と言う分野では、頭一つ二つ出ている。

 

 だが、シンプルだが奇策が多い作戦でノアを相手にエンジニア部やゲーム開発部で挑んだら間違いなく全滅だな。ここで一番運動できるのがモモイ共ってどういうバグだ?

 施設構造を見てみる、幸いエンジニア部が図面と3Dデータを保存していたお陰でよくわかる。

 

「つまり保管室は最上層区画で、セキュリティー厳重で、カメラにロボに色々と居るし、セミナー役員も多いと」

「戦えなくても通報はされますからねえ」

「しかも敵の狙撃の射線に入る大通路しか使えないと」

「そこ以外は簡単に封鎖できますから」

 

 だが何とかなりそうだ。ホワイトボードをC&Cの情報以外一旦全部消して、作戦案を書いていく。

 質問も建設的でわかりやすいので、簡単に答えてやると納得してくれる。

 一旦必要な情報を書いた後に。ユズ部長とウタハ部長に声をかけ、エンジニア部のマシーンを指さす。

 

「雷くん、あれラジコンにして見ようか」

 

 ユズ部長がカギになりそうだ。

 

「各自懐中時計や腕時計を二つ。一つは必ずアナログにしておくこと、そしてずれが起きない様にここで会わせておくぞ」

「何で二つも?アナログって」

「タイミングだ、シンプルな作戦は素晴らしい、後は何処で毒針を出すかだ」

 

時計合わせをしながら、モモイは「秘密作戦の実感が湧いてきた……!」と思わず口を歪ませた。

 

 

 

 その時が来た。

 セミナーの指令室というのはミレニアムらしい機械主義全開の部屋で、ノアの説明を聞く限りミレニアム全域の管制が出来るらしい。

 

「ほお」

 

 正直、ノアによるミレニアム社会見学は楽しい。

 警備保全システムはかなり厳重であるし、今回C&C雇用でそれを強化しているわけだから猶更だ。

 

「どうです、先生ならどう落とします?」

「目的による、占領にしても戦略目的次第だしなあ」

 

 はぐらかしではなく実直な意見であったのは理解しているノアは、質問を訂正した。

 

「目的は特定物品の確保、とした場合です」

「ふむ、確実なのは指令室の制圧。あるいは破壊かなあ」

「ふふっ、同意です」

 

 終始楽しそうな先生とノアを見て、ユウカは困惑していた。

 なにちょっと楽しそうにしてんのよ、話が正しければここ吹っ飛ばすつもりに聞こえるんだけど!? 

 

「ノア先輩、4階から侵入者を確認したとカメラが」

「あら正攻法、あの子たちらしくない」

 

 カメラを見ようと、ノアは画面を確認した。

 

「……?」

 

 ノアはやや呆気にとられた。

 た、大量のモモイがセミナービルを走り回っている!? 

 

『『あなたたちのせいだよおおお!!!』』

「な、な、なんですかあれ」

 

 理解を拒む、なんなんだあれは、何の意味がある。

 

「第五区画に大量のモモイが練り歩いてます」

「セミナー食堂でモモイドラゴンとか書かれた段ボールが」

「状況不明!」

 

 ノアは脳が理解を拒む何かの群れに対応を命じた。

 

「セキュリティロボで対処を、C&Cはまだ出さないで」

「審査員が言うのは駄目だと承知だが、それでいいのか?」

 

 先生の問が、ノアの脳内を搔き乱す。

 それでいいのか、どういう意味だ、分からない、何を言っている、意図は!? 

 

「何が言いたいんです?」

「いや、明らかに非現実的だろ……」

「しかしシステムは」

「自己診断プログラムが常時作動してるから外部の偽装は不可能、だけどこれはクローズドか?」

 

 ノアの頭に検索がかけられ、外部端末からアクセスできそうなものがあるか検索される。

 ある訳がない、そんなもの。

 

「あ」

 

 あるのだ。

 それが。

 

「非常回線!?」

 

 しまった、緊急通報用の回線か!? 

 ノアはただちに回線の切断を命じる。

 

「しかし切断しては緊急システムの制御が此処しか出来なくなりますよ」

「構いません、今切らねばセキュリティが機能不全になります。警備部隊を指令室前に配置して!」

 

 満点。

 先生はにこやかに書類にサインした、ちなみにこれはシャーレ職員用の採点表である。

 画面から大量のモモイの群れは消えた、食堂のスーパーモモイドラゴンと書かれた段ボール箱以外は。

 

「不明段ボール箱、食堂を抜けエレベータから上層へ移動中!」

「C&Cを緊急展開!」

 

 正しい判断、なにせモモイの幻影を追って戦力は分散したもんな。

 そして数少ない生身の警備の一部をここに回したもんな。

 だから切り札を使う。

 正解だよ、兵学校の答案表でもいい点とれるぜ。

 教本を理解した行動、だからわかるんだよ。

 

「C&Cまもなく会敵します!」

無条件射撃を許可します(フリートゥーエンゲージ)!」

 

 

 

 

 交戦許可が出たとは言え、アカネはあまり手荒にする気は無かった。

 基本的にプロフェッショナルとしての意地はあるが、無慈悲にはなる気は無い。

 それに、どうもこの戦闘に意味はない事も理解はしている。

 だが手を抜くつもりはなかった。

 

「射撃用意」

 

 アスナがFAMASを構える、彼女なら多分すぐに拘束できるだろう。

 退路はカリンが狙撃でけん制できるし、自分の罠がある。

 しかしながら目の前に出てきた段ボール、結構出来がいいネッシー染みたスタイルの段ボール箱は意味が分からない。

 

「段ボール、本当に、またなんで」

「うわ凄いビッグサイズ!」

 

 ものは試しと、FAMASが掃射されると段ボールドラゴンは忽ち崩壊した。

 代わりに、中から出てきたのは。

 

『ミレニアムの猛獣、戦闘開始』

「エンジニア部のメカでしたか!」

 

 なら思う存分戦える、メカに気兼ねは要らないから。

 そう視線を逸らした瞬間、段ボール箱の一つが全力で走り出した。

 

「失礼しまーす!!」

 

 中身有ったのか!? アカネはカリンに狙撃を要請するが、カリンから「唐辛子ガス弾で砲撃されてる!」と報告が入った。

 ばかな、ビルからビルへ軽迫撃砲を命中させる!? 出来る訳がない、風速がどれだけあると考えてる。

 

 

 

「出来る訳が」

「弾道学の専門家が居たんだろう」

 

 ノアはこの大人か、と納得した。

 

「目標は最終防衛線を超えました!」

「迎撃してきます、失礼」

「がんばれよ」

 

 ノアが小銃班をつれて出撃し、ドアが閉まった。

 そろそろかな、腕時計を見る。

 

「何をしてるんです」

 

 オペレーターたちが振り向く。

 流石セミナー、頭が回る、訓練もよろしい。

 だがズルをする大人と思うのは心外だ。

 

「ビックリするのはこれから」

 

 天井の通風孔が開いた。

 ホンモノのモモイとマキが降りてくる。

 

「大人しくしろー! 我々はあくがくひどーの、……なんだっけ」*6

「てめえシナリオライターだろうが!」

 

 モモイの奴はダメかもわからんな。

 しかし制圧は成った、なにせモモイのフルオートが機材もろとも撃ち込まれたせいである。

 ユウカは青い顔している。

 

『緊急警報が発令されました。当施設は厳重封鎖体制に入ります』

 

 作戦は概ね成功したらしい。

 ユズ部長はただいま目標物を確保し、待機したウタハ部長のドローンで空輸中である。

 窓の向こうから段ボール箱2個が空輸されていくのが見えた。

 

「あーあ盗られちゃった、まあ段ボール箱が盗んだなんてあり得る訳無いがな」

 

 一応ファウストに並ぶ最悪のテロリストデスモモイの人質なので、手錠はつける。

 安いおもちゃの手錠だ、予算が無いのだ。

 

「ふははは! ではさらばだ!」

「そうは行きませんよ」

 

 ノアが何故かドアを開けてそこに居た。

 お前非常警報ちゃんと発令したのかモモイ! しくじったか!? 

 クソ! 真面目なノアは思惑通りだったのに! 

 

「非常警報ですか? これで解決したんですよ」

 

 ノアが炎上しているリチウムイオン電池を見せる。能力だけの優等生ではない様だ。

 嗚呼、火災警報で上書きしたかあ……、ミレニアム真面目なシステムしてるね。

 

「さあ、大人しく」

 

 ノアが拳銃を構え、ゆっくりと歩み寄る。

 XM29やXM8を構えたセミナー役員が半包囲する様に展開し、しれっとユウカが走って逃げ込んだ。

 おまえ! 

 

「楽しい事してるじゃない」

 

 全員が振り向く。

 ミレニアムの最高責任者、リオ会長。

 

「抜き打ちテストで実践的な警備演習、とても結構。迫真の出来じゃないの」

 

 やれやれと呆れたようにリオ会長は壊れたコンソールを見る。

 

「ヒマリ、これはやり過ぎたんじゃないの」

「貴方はいつでも予備があるんでしょう、賭けは私の勝ちですね」

「安くないのよ、あなたのところちゃんと加減させなさい」

「面白かったのだから良いではありませんか」

 

 車椅子に乗った少女が破壊の跡にくすくすと笑う。

 ノアは何かを言おうとしたが、飲み込んだ。

 自身の楽しいゲームは終わりを告げた、ゲームは1日1時間というわけだと理解はしたし、楽しい時間は直ぐ過ぎるのも知っている。

 それに、ユウカちゃんを預けても多少安心は出来るという事も知れた。

 

 まあ、楽しいゲームではあったけども。

 

「勝ちたかったですね」

「また今度な、次はそっちについて良いか?」

 

 ノアに「全般の指揮良好、但し”家計簿を任せれる優秀な相棒が必要と思われる”」と記した書類を渡し、ゆっくりと指令室を出る。

 ユウカにはちゃんと帰れるところはあるのだ、それにモモイが物理破壊したからユウカの問題は解決したからな! 

 やっぱ焼くのが一番か。

 

 

 

 

 セミナー警備室では「ワー!また発火してるー!」とコユキが消火器を振りかけているが、それを気にせずリオは深く考えていた。

 予想外か。

 確かに予想外、だが危険性は良く分かった。

 シャーレがこんなにもばかばかしい手を使っても消したかったアリスの秘密、明かして見せるわ。

 しかし、幾ら模擬戦に近いとはいえあんな非戦闘員の寄せ集めで勝機をつかむとはどういうことだ?やはり連邦生徒会会長が呼び寄せた存在は伊達では無いのか。

 リオは、面白い物を見たと心から喜ぶ腐れ縁の相方を横目に確信した。

 賭けの内容はあの大人はアリスをどう使うか?

 常識的に考えれば数少ない唯一の大火力で、ただ一人の戦闘員に近い、その他は反動が抑えれないモモイにユズ、単発射撃は出来るが即応戦力とならないミドリ、そうした者たちだ。

だが結果はどうだ?コタマを動員しハッキングチームを編成して、そもそもの盤面を覆した、数的優勢の攪乱と無力化、そして特技の有効活用。

 

「大人、ね。ずいぶんと、面白そうじゃない」

 

リオの満足気な顔を横目に、ヒマリは「危険人物の間違いじゃねえの」と内心呆れていたが。

ヒマリからすれば自分の牙城でこんなアホみたいな実験するとは何を考えてるのだ。

無論アリスを危険視する理由は分かる、恐らく反物質縮退動力を有する小型ナノマシン群棲の異常存在、存在自体が厄ネタだ。

だが現状アリスは単なる学生以上になる気配がない、OSも適切ではない、箱舟顕現も概念理論でしかないし、形而上生物学の話だ。

それにリオと違い私は動力源はスーパーソレノイド理論に基づくコアシステムか何かだと考えている、無論それが真実かどうかなんかは別問題だ、理論実証はまた別の奴がすればいい。

 

「足がついた点火済みマイトじゃない事を祈ってますがね」

 

ヒマリにはどうにも現実味ある脅威はあれじゃないかと思えてしょうがなかった。

 

【次回予告】

 

監獄に監禁と隔離を求め、完璧さを追求すればここになる。

ここには高い塀もなければ、深い堀も無い。

高電圧の柵もなければ、看守さえいない。

あるのは澄み切った先生の怒気と、汚れなきゲーム開発部の作品進捗のみ。

進捗0パーセント。

吐く怒声どころかため息さえも出ぬ。

酒をくれ。

五臓六腑を焼く酒をくれ。

 

次回「 いまだにゲームを作ってないバカどもへのパヴァーヌ 」

 

恨みつらみの言葉さえ固まる。

 

 

 

 

 

*1
やらかし過ぎだ。加減しろ馬鹿。化外の砂漠と欧州は違う!

*2
彼が居るだけでユウカの命運は決まったも同然であろう

*3
翻訳「おきのどく」

*4
今度こそ息の根止められそう

*5
アロナでお礼参りした

*6
ゲームのシナリオライターこれが?

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