キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
事件から一晩、俺とユウカはゲーム開発部に居た。
連中はGアーマーの結果でお通夜だが、葬式の前にやるのが通夜だと思うと今のは皮肉効いてるな。
モモイとミドリは「ゲーム作れよと言われて出来たら苦労してないよおお」と嘆いている、手を動かせバカ。
「お前らセミナー本部落として目当ての物入手できたんだろ? もっと喜べよ」
「先生とユウカは逆に良いよね、良い事あったの?」
始末書を仕上げながらユウカが切れた。
「あんた等のやらかしをプラマイ0に出来たの、実質赤だけどマキとか居たんだしスマートに出来なかったの?」
書類の半分はノアが背負ってくれたが書類の処理はまだ長い。
「状況判断だよ! 戦局は常に変わり続けるんだよ! 高度な臨機応変と柔軟性だったんだよ」
「おい、お前ニコニコで乱射してたし、最終局面の策忘れてただろ! シナリオライター殿?」
「お姉ちゃん達うるさいよ……」
ミドリが親指立ててふて寝している。
葬式するのか、再起するのか早く決めてくれ。
俺はユウカの始末書一緒に片づけて、ゲヘナの野望メインストーリー終わらせたいんだ、後ヴェリタスとエンジニア部に押し付けられたRTS、確か「ブルードラゴン」と「L.O.S.E」*1もな。
「先生とユウカがここまで強いとはアリス気づきませんでした! 前情報によると大賢者と工作員でもあったんですね、感動しました!」
「大賢者から、忠告だアリスどうあっても皆とゲーム作りたいなら何があってもリアルファイトは禁止だ、光の剣はお預けだ」
「ええーっメインウェポン禁止とか酷いですよー!」
アリスが非道と主張しているが、お前らより非道じゃない。
さすがに俺もこんなイリーガルな事してないからな。
「良いか、続編に前作の最強武器は使えないだろ? 一緒にエンジニア部行って偽装しとくぞ」
「一応理由を聞いておいて良いですか? 聞きたくないですが、死神が来るなら身構えて起きたいので」
ユウカが理由を聞いてくる、ゲーム開発部も通夜ではあるが聞く気はあるらしい。
「リオ会長殿は今回の結果で本来みたい物が見れてなかった節がある、ゲヘナの野望で言うホワイトロールケーキの性能が見れて無かったと言う感じだ、多分今頃白い彗星が襲い掛かる用意してるぞ」
「アリスが会長の予想道りの性能ならどうなるの?」
「ピンクベース隊を降伏させるイベントを早期に起こすはずだ、その場合鹵獲じゃなくて、RX-78ホワイトロールケーキは解体だろうな」
「えっ、その例えだとアリスちゃんは……」
「そもそも、戸籍の無い生徒だ、居なかった事にするなら楽だろうな」
ユウカが凄い目で見てくるが、これを止めるわけにはいかない、こいつ等には危機感が無さすぎる。
優しいユウカには出来ないことだ、嫌われてでも俺が言わなければならない、そう言うのも大人の務めだろう。
それにそれをしたとしても、証拠は出ない、存在しない存在が消えて誰も困らないからだ。
「もはや、ゲーム開発部が閉鎖の方が個人的には望ましいかもしれんな。アリスをシャーレに連れ帰り所属も変えれば流石にリオ会長にも手出しできなくなる」
流石に連邦生徒会相手に喧嘩をしたがる奴は居ないだろう、居たらバカだ。
「その場合のフォローは最大限する部室そのものをシャーレにそのまま移転しよう」
「先生!」
これ! とユウカが釘を刺した、不快感はない、彼女らしいと安心すらある。
「声を上げるな、向こうはその逆でアリスを狙っている、ノアもユウカも組織の運営者としては凄く優しい人情家だ、それこそ自分の進退をかけてでも守ってくれるだろうが、リオはそうじゃない……」
戦闘は感情が剝き出しになる良い機会である。
そしてそこで見た姿は隣を任せれる姿だった、多分、彼女らは自己の内心の誇りの為に命を賭ける女だ。
逆にリオの目から感じれたのは臆病だが、切実な目だ、まるで主人を待ち続ける老犬のような眼をしている。
「会長だって、そこまで酷くは」
「ユウカ聞いてくれ、あれは政治屋の目だ、しかも使命感と恐怖を知る眼だ……必要なら何でもするぞ?」
あの時夢にタイユランが出てきた理由が分かった、自分の過去と向き合えと言う事だな、自己矛盾を起こさない様に。
リオ会長の人となりはよくは知らん、悪人ではないのは分かる。
恐らく生徒や学校を守る為に自分すら犠牲にする、だから恐い、あれは恐怖と責任で押しつぶされそうになりながら無茶をやるぞ。
「そして悪いニュースだ、ミレニアムプライスが終わりしばらくしたら、トリニティへの長期間出張だ、何かあったら直ぐに戻れんし、戻れたとしても先手は奪われる、上手くやられてるな……」
ゲーム画面から『シナシナモップと違うんですよ、シナシナとは!』と青いモップが敵ユニットを撃破した。
よし、拠点ドーナ2陥落、次は本部降下作戦か。
セーブをして、テレビをつける。
「そんな出張止めちゃえば良いじゃん!! トリニティみたいな大学校より……」
モモイの意見はある意味、ミレニアムらしさが全開であった。
そう、ここの生徒の根幹は「うるせえ! 作りたいもの作って何が悪い! まだ半分もやってない!」なのだ、理解しないだろう。
機密が多いからなぁ、ニュースで出てるのは……やってるチャンネルあるかアロナに聞く。
≪千年難題を解くためにあらゆる手を尽くしたいかしら? それならば毎月初週の木曜日16時、セミナー会議室にて≫
リオ会長CMに出るんだ、いやまあ出るか。
コマーシャルが終わり、クロノスのニュースが始まる。
いつもの連邦生徒会の公式会見だ、リン行政官ではなくカヤとかいう防衛室長が出ている。
≪今回何故、シャーレがエデン条約合同警備本部全権を任されたのでしょうか。その事をお聞かせ願いたい≫
≪えー。まず全権を任せた、と仰られていますが、それは間違いです。公式発表の通り、オブザーバーとしてシャーレが展開する訳です≫
カメラのフラッシュが何回か焚かれる。
≪しかしながら、シャーレの空中機動部隊構想や、人員拡充は明らかですよね。介入しないというのはおかしいではありませんか≫
≪その件に付きましては、アビドス砂漠地域におけるビナーに対する安全措置を目的としていると公式に≫
≪本誌にはそうは思えません!≫
≪私的な陰謀論にはご遠慮いただきますが≫
会見の切り抜きが終わる。
スタジオは特に気にはしてはいなさそうな雰囲気だ。
≪エデン条約についての調整が深まる中シャーレが中立として正義実現委員会と風紀委員会の会合が重ねられています≫
番組はその後、ゲヘナのマコトが催眠術にかかり突如ヒナを妹として誤認した事件を話している。
「こういう事だ、お前達は運が良い、相手の初動は潰せたし時間は稼げた」
ユウカは納得できたらしいがもう少し言い方考えろと言いたげで頭を抱えている。
理解できたユズはロッカーに入りそうだし、双子は切れそうだ、今すぐ出て行けと言われそうだ。
「お前達がアリスと共に過ごせるのか? ミレニアムプライスで躓くならそれまでだな、我儘を通し続けるのも勇気と覚悟が必要だぞ、俺も悪あがきした経験から知っている」
腕時計を見る、そろそろ昼時か。
今俺はこの部室で嫌われているらしい、しばらく外に出てるか。
あいつらが色々話し合い考える時間も必要だろう、昼飯代は出してやる。
部室から出て、ミレニアムの中央公園に座り、露店が売っていたパンを食べる。
≪探求する者は心底楽観的でなければなりません、何故なら、不可能だとまくしたてる資本家を説得しなければならないからです≫
ミレニアムの広告飛行船がリオ会長のCMを流している。
本当に偶然なのだろう、ノアが現れ「失礼」と隣に座った。
彼女もランチらしい、少女的なサンドイッチだ。
「随分思い悩んで、居られるようですね、昨晩の悪戯小僧が嘘のようです」
ノアが楽しげに語る。
「昨日のテストは助かった目下の問題が浮いてきた」
「どういったもので?」
「一人で出張状態の不味さがなぁ」
「あらあら、ユウカちゃんでも力不足だと?」
「茶化すな、アイツは予想以上に動いてくれる、ゆえにアイツに頼れない時期がなぁ……」
何時もと同じくにこやかだが、今回は普通に優しい、サディスト*2ぐらいには戻してやろう。
遠くからポンプジェットで空を飛ぼうとしたコトリが川へ落ちていくのが聞こえた、平和だ、悪意と戦闘が無縁な世界だ。
少なくとも爆発音で伏せなくて良いなんて。
「エデン条約だよ、トリニティのティーパーティーに呼ばれたんだ単身でな」
「なるほど……頼りたくても頼れないと」
ノアも理解してくれた、頭のいい奴はこれだから楽でいい。
丁度ノアにも頼みがあったのを思い出した。
「俺の我儘も聞いてくれるか?」
「聞くだけなら」
サンドイッチを食べ終え、ノアが新聞紙を広げる。
ユウカ曰く「紙媒体派」なのは本当らしい。
「エデン条約で俺に何かあった場合ユウカに頼みごとをするだろう」
「そうでしょうね、あまり無理をさせて欲しくないんですけどねえ」
クロスワードを見ながら思案しているノアが悩まし気に言った。
「その時の書類はお前に預ける、それを見てユウカに渡してくれ、駄目なら燃やしてくれ」
「先生、フランス語できるんですね……一応預かっておきます、その代わり私からも良いですか?」
「今の俺に出せる物ならな」
炭酸水を飲む、頭が冴えてきた。
「私も頼ってくれて良いんですよ、それとも私だと頼りないですか?」
「完全記憶できる書記が居れば作業効率100%跳ね上げれるよ」
あららと笑い、ノアがクロスワードを書いて、新聞紙を閉じる。
「随分疲れてますね、そうだ! ミレニアムプライスが終わったら、知り合い集めて水族館でも行きませんか? 息抜きも大切ですよ、ユウカちゃん以上に動いてるのは知ってますよ」
「ノアも良い奴だな、もう少し早く知り合いに成りたかったよ」
「褒めても何も出ませんよ、先生の懸念はユウカちゃんから聞いておきます、ほら皆さん来てますよ! 行かないと」
ゲーム開発部とユウカがこっちに走って来てる、モモイが自分のことを棚に上げて「何サボってるの!」とかぬかしやがる、お言葉に早速甘えよう。
「ノアお前もどうだ? 一緒に来いよ友達と一緒にいる方が良いだろう?」
「あらあら、良いんですか?」
「昨日の採点だと、ミレニアムの書記は優秀だが欠点は交友関係の狭さがある、損得無しのバカなどが友人に居ればより世界は広くなるだろうとな」
我ながら先生らしいことを言っている、この子たちが納得できるようにおまけを入れておく。
「リオの仕事量を増やしたい、時間を稼ぎたいんだ、ノアとユウカが味方と確信できるなら、俺は安心して、エデン条約に集中できる」
「先生、ノアにまでちょっかい掛けるんですか!?」
「お前こそこんないい奴独占してたのはズルいぞ」
ユウカに少し理由を言うと、眉間を抑えて「仕方ないですね、無理な時は無理と言いますからね!」と言うそれでいい急に手から零れる方が困るんだ。*3
部室まで戻ると俺は確認する。
そうか、頼っても良いのか
「お前らどうするんだ? 無理なら無理と言う最後の機会だ」
モモイはその普段と違い、誇らしげに言った。
「ゲーム開発部と臨時部員ユウカの答えは一つ! アリスはミレニアムの生徒で私達ゲーム開発部の部員だよ!」
「まっ、やるだけやりますよ」
良い目だ、これならしばらく安心だ。
諦めとは遠い無縁の目だ、諦めない馬鹿はとても強いぞ。
全てに天命があると信じ諦めを無視する運命論者、野戦指揮官に必要なスキルだ。
「ノアはどうする?」
「う~ん、臨時部員と言うのも良いですね」
こいつもクソ度胸あるじゃないか!
斯くして「臨時集成ゲーム開発部戦隊」が編成された。
寄せ集めだが最高級の寄せ集めだ。
ちなみに名前はモモイが決めた、多分直ぐ忘れるだろう、特に本人が。*4
「それで何時に成ったら、完成するんだ? 出来ませんでは創作精神がない」
「プロジェクトリーダーがうるさいよ」
「偉くなったねえモモイ、先生に口答え出来るようになったか」
「ハイ! 薫陶教育のたまものです!」
モモイの野郎ふてぶてしくなったなあ、決心したバカは強い、手に負えん。
赤モップ飛行試験型と局地戦闘型オンセン・トロピカルタイプを完成させ生産ラインに入れつつ、監視を続ける。
くそ、宇宙兵器出番ねえぞ。
「モモイちゃん、シナリオ3章色々出し過ぎでは?後半纏めれます?」
「ここでプレイヤーの目を引いてどんでん返しを!」
開発側の暴走を止めたり開発のサボり・ミスを指摘するのは大事だ。
俺と臨時部員2人のもう一つの仕事は、アリスの身体能力の確認及び日常などのレクチャーだ。無意識にあのパワーで癇癪を起こすと惨劇になりかねん、軽ーくボールを投げさせたらキャッチャーが吹き飛んだ。
俺達の結論は15~6の少女に見えるが精神は10歳未満だ、聞いたところ自身の名前を認知したとたんに急速に物覚えが良くなったらしいが。
個人的にはこのGバイブルが怪しいと思うので、AIノベル音読させたり、ゲームをプレイさせて、普通に作る大変さを教えてやる。
まぁ、臨時編成ゲーム開発部は真の査察とミレニアムプライスの対策だが上手くいっている。
ゲヘナの野望、クリアだ! ゲームというのも悪くないな、考えてみれば人間は何かを作る生き物だ、それを電子的にするのもいい物だろう。人を楽しませるものならなおさらだ。
トリニティでの暇つぶし用に携帯ゲーム機を買ってみるか?
「で、ユウカ。アリスの身体能力はどうよ」
「はあ、少なくとも泳げないのが分かりました」
「体重のはなし?」
「最低ですよそれ、たぶんカナヅチです、親指立てて沈んだんですからね」
「要するに泳ぎ方を教えれば泳げると」
「それの為には相当に広いプールが必要です、25mプールは金魚鉢でピラルクを飼うレベルです」
あいつ水兵には成れるな、うん、英国海軍あたりのマスコットとして白熊と写真撮れるよ。*5
その他だがスミレ部長のテストによると、スタミナ平均以上、筋トレ優秀、動体視力抜群だったらしい。
「スミレ部長とランニングして楽しそうでしたね」
「信頼性は?」
「ノンポリの健全な上にスポーツ信念の人です、ある意味貴方より信用できます」*6
「実に結構!」
ユウカはその後、テスト作業に戻った。
すると、ドアがノックされた。
「誰だ」
ドアを開けると、小さな目つきが悪い少女がいる。
「ネル部長?」
ノアが首を傾げる。
「よっ、前の晩にうちの後輩が世話になったって聞いてなあ、呼ばれて急行してみたら祭りは終わってましたって言われたら困るよな!」
これは、百鬼夜行に伝わる「ウチ・イリ―・ゴーメン」とかいう奴か。
この前ミチルのチャンネルで見たぞ、俺は詳しいんだ。
「いやあ、なんだ。ガラじゃねえけどウチのをするりと出し抜いたのが見たくてよぉ」
そうは言うが、銃は剥き身じゃない、吊れ銃で止めている。
流石にミレニアムか、お行儀は良いな。
そう思っていると、ネルはアリスの肩を掴んだ。
「ちとツラ貸せよ」
「あらあら、これはもしかして漫画で見るような不良系イケメンの告白でしょうか」
「んなワケねーだろ! あたしはただこのちびが体育テストしてるって聞いて協力しに来ただけだよ!」
ノアがジョークを言ったおかげで理由が割れた。
確かにスミレ部長は信念がある、そういえばランニングしたって言ってたなあ、そこでバレたか。
マシン使うんじゃなくて楽しく外でやるよなあ、そこがアレだったかあ。俺の手落ちだなぁ。
「まあ防犯演習の続きだ、ちょいとこいつ連れてくぜ」
「じゃあ専門家が居るなあ、俺もいくか」
ネルはカードを見て、納得した。
「ああ、あんたが最近あれこれしてる大人か」
ネルはそういうと、広い方が良いだろうと体育館へ連れていった。
道中雑談をしてみたら、会長の子飼いの犬と言う訳でもない。むしろ不服なら堂々と文句を言うタイプだ。
要するにまだ切り札をお披露目してくれるわけでもないらしい、ついでに最後の一人もあまり知らないらしい。
体育館はミレニアムらしい大きさと設備が多数あるが、今回は純粋な空間、広い場所として使いたいらしい。
「あたしはさあ、伊達に近接戦で負けはしねえ自信があるんだが」
ネルは射撃標的を一つ置いた。
「実は一番の自慢はあたしの護衛対象を撃ち抜いた奴がいないって点だ」
「……つまりそれを破壊すればいいんですか」
「正解だ」
アリスが横を見て言う。
「先生このちびねる先輩、武器が見えないみたいなんです、眼科を呼ぶべきでしょうか」
「なー」
適当にアリスに合わせてみる。
「情操教育は失敗したか」
ネルはすんと冷たげに言うとゆるやかに動く。
アリスはレールガンを構える、充填は順調だ。
多分まともにやれば絶対にアリスが勝つだろうが。
キヴォトスはまともじゃあないんだよな。
「わあ!」
ネルはまず直進、続いて蹴りからの喉への殴りを入れる。
レールガンの初弾は虚しく壁を直撃したのみ、再充填が始まる。
続いてネルの回し蹴り、アリスの頭部へ直撃して体幹がぶれた、砲身は上へ向いてまた外れ。
アリスはネルを排除しようとレールガンをぶん回すが、今度は跳ねてレールガンを足場にされた。
「ひ、光の剣を踏み台にしたあ!」*7
そのままネルが両足で回転しながらアリスを顔面ごと蹴った。
「ふーん、どうも変だな」
ネルは訝し気にするが、再充填の音を聞いて笑みを浮かべる。
「ガッツは十分! だが技量がねえなア!」
ネルは蹴るでも、殴るでもなく、ナイフをレールガンにかませた。
再充填が途端に妨害される。
「最新兵器って厄介なもんでな、こういう事すると危なくて使えねえんだ!」
動揺する足元を蹴って転ばせ、ネルは「だからサイドアームが必要なんだぜ!」とレールガンを蹴り飛ばそうとする。
しかし動かない。
「おっ」
アリスが両手でしっかり抱え込む。
ネルは嬉し気に蹴りを入れて高く舞い上げ、続けて払いのけるように投げようとする。
確かにアリスは投げられた、しかしその方向は予想と違う。
標的へ向かっている!
「良いぞ! 標的を最も確実に始末するには捨て身の果敢さだ!」*8
ついにネルがSMGを抜いた!
狙うはアリス胴体、命中は確実的な胴体から狙う、ネルは完璧なまでに護衛の経験があるのが見て取れた。
しかし、アリスはレールガンを盾にして銃弾を受け止める。
そして、全エネルギーを解放させようとした。
「あのバカ!!」
ネルが初めて声を荒げた。
「ひかりよ!」*9
アリスがぶん投げたレールガンは、確かに標的を破壊する。
大きな爆発が起こり、落ちてくるアリスをネルがキャッチした。
爆風が頬を通り抜ける懐かしい感触と共にネルに近づく。
「どうやら勝負あったな」
「はっ、確かに見どころがあるな」
しかし、と言いたげにアリスを見て、ネルが言う。
「肝っ玉というか、バカというか、無茶苦茶やるな素人は」
アリスは気絶したらしい、ヘイローが消えていた。
爆炎が晴れて、アリスのレールガンが見える。
配線は大きく焼け焦げているが、エンジニア部の真心というべきか、外郭やコアは無事らしい。
「直りそうかね」
「直せるように壊したんだ、信じろ」
まあまあ説得力がある。
その後アリスにその件を説明したら「前作武器が壊れても強くなって修復されるヤツ」と興奮していた。
ついでに、ネル部長のススメでサイドアームを持つことにしたらしい。
ウタハのチョイスでオーソドックスなGLOCKにしたらと言われたが、どうしてもとMPXを求めた。
多分、アリスの中でいろいろあるのだろう。
ネル部長は「まあ合格」と言って去った、ぶっきらぼうな奴だが、何故部長であるのか、それは理解できた。
今度なんかケーキをあいつらに差し入れしてやろう。
いやあ、全て解決したな。
そして、アリスへの対応も俺の中で全体方針は固まった、この子は人として育てるべきだ。
神にも悪魔にもなれる力を有している、それは確かだろう。
だが神にも裁定者にも悪魔にもしてはならない、製作者は育児放棄したんだ、教育は家で行う、やや手遅れ感があるが……。
アリスの言う、勇者になりたいは決して否定しない、夢を追いたければ追えばいい、かつての俺と同じく掴もうと足掻き続けろ。
連邦生徒会に送る書類の身元保証人に先生と書いて、封筒を閉じてこれを提出に……。
誰かが何かを叫びながら走って来た、あれは……
「うわあああん先生! プライスまで48時間だよー、このままだと締め切り過ぎちゃうよぉ!」*10
なんで本業をおろそかにしてんだあのバカは。
【次回予告】
部活廃止阻止が幸運とは言えない。
それは次の地獄へのいざないでもある。
ここは千年難題の最前線。
ブチ切れた先生が、お前達はいらないと呻きを上げる。
呻きは恐怖を呼び、進捗を求める。
殺し合い、せめぎ合い、その罪を互いの血で贖えと断末魔のセミナー会計が叫ぶ。
次回「 ミレニアム・プライス 」
ビッグシスターが狂気を促す。