キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
指示を与える者には責任があり、指示を受ける者には義務がある。
─ユリウス・カエサル─
集めた資料を持ち込み調査結果を報告に行ったら、放課後補習部を作った理由を告げたナギサの言葉で俺はまたやる気を失っていた。
そもそも「外部権力で生徒退学させる」はセーフなのか? 間違いなく自治権への介入な気がする、面倒なのはトリニティの権力者がこれを承認してるし、文書じゃないから批判しづらい。
無論文書では無いから「知るかよバカ」と返してしまうのも簡単だ、合同警備本部の職権と権能の及ぶ範疇ではない。
あと一歩なんだけどなぁ……ナギサこそ放課後補習部に入るべきだな、疑心暗鬼か知らんが恐怖政治に付き合う義理は無い。
あいつ等にはイロハほど借りがない。
「まっ、あんなこと言うからこれを出しそびれたわけだが、一人で楽しもう」
読書は好きだ、クソブックは馬車から放り投げ捨てたことは多いが……
何が禁書指定だ、歴史書に禁書なんて後ろ暗さの証明じゃねぇかよ。
ウイから借りてきた古書を読みふける。
「しかし、あいつらに何て説明するべきか……」
お前達は政治犯なので殺されるよー! 何て言えねぇよなぁ、シャーレ預かりと言うわけにもいかん、そんなことやると余計こじれる。
それに、ナギサに負けた気がするのでごめんだ、奴の口にフランスパン突っ込んでコーヒーで流し込んでやる。
しかし、敵中孤立友軍の目途無しとは厄介だ、探偵気分で正解だったかもしれん。
そんなことを考えているとドアがノックされた、良い子は寝る時間だぞ。
「こんな時間に尋ねる悪い子誰だぁ~」
鍵を開けるとヒフミが居た。*1
眼は真剣なので揶揄う訳じゃないようだ。
「夜中にすいません……なんだか眠れなくて……あれこれ考えていたらその、あはは」
「読書中だったから、構わんが若い子が一人で夜に男の部屋に入るものじゃないぞ?」*2
「話ぐらいなら聞いてやる、入れ」
失礼しますと言い、ヒフミが入ってくる。
適当にコーヒーを煎れてやるかとコップを手に取る。
「落ち着く雰囲気ですね……」
「読書中だったからな、ノンカフェインしか出せんぞ?」
どっかで聞いたことのある民謡集を集めたので、ラジカセで流していたアロナは音楽プレイヤーにならないらしいが、ラジカセを仕舞う事ならできる、使えるのか使えないのか分からない奴だ。*3
慎み深い人間は4次元或いは7次元的なものは深く考えるべきではないとリオ会長が言ってた、従う事にしよう。
「入って何ですがお構いなく」
「こういう時の夜は長い、落ち着いたらゆっくり話せ、俺も本読んでるから」
カマかけで隣のテーブルの上にメモ書きも置いておく。
外からは正義実現委員会の夜間警衛交代の足音と、帰営を告げるラッパの音がしている。
「凄い書き込んでますね」*4
「お前達の明日の小テスト内容だ」
「あはは……うっ嘘ですよね」
「嘘に決まってるだろう、少しは話せそうか?」
明日から本格的な補習合宿だ。
そしてここでこいつが接触してきたという事は、そういう事だろう。
「やはり、ナギサから何か言い含められたか」
「あうっ」
ヒフミがやや上ずった声を上げた。
嘘がつけない演技なら満点だな。
話した内容は自分と同じ、ナギサはやはり退学処分あるいは隔離をしたいのだろう、だが考えるにナギサは余りに疑心暗鬼だ。
あれを見るに、恐らく政治テロは既に起こったのだろう、しかもそれは高官を直撃した。
セイアが居ないのが証拠だ、資料を見るにそういう内部調整を担当した部分の分派の人間らしい、現代的に言えば情報省あたりか?
そこが機能不全なのがナギサの様子で丸分かりだ。
「そして、アリウス」
古書をトントンと指で示す。
「アズサのあの肩章は間違いなくアリウスの紋章だ、そしてアリウスは連邦生徒会も所在不明として管理の上っ面も出来てない」
「アズサちゃんが……? でもあの子は……」
「撃ち方があまりに”様になり過ぎる”、休息の取り方も兵隊のそれだ、更にアイツは”汗をかいてない”」
数々の論拠がアズサがあまりに完璧な兵隊であると示している。
パテル辺りの人間と言う説はまだぬぐえないが、アリウスのマークで何をする意味がある?
明らかにあれは”それがまずいとならない前提”であえてそのままにしているのだろう。
「ヒフミ、信じられないのなら試しにアズサの寝台見てみろよ」
ヒフミは押し黙ってしまった。
「だがアズサの経歴を見る感じ、どうも裏切り者と呼ぶには変だ」
「で、ですよね」
「裏切る以前に部外者だからな、露骨なまでに。それに幾らかの規則違反は無知で、しっかりその点は改めている」
となるとハナコ? となるのだがコイツは違う。
あまりに目立ち過ぎる、お前は裏切るなら尻尾を掴ませないたぐいか、もう逃げてる。
「少なくとも大人の考えるべきことだ、お前は補習授業部の部長として、成すべき事を成すんだ」
ヒフミは一礼して、退室した。
畜生、どこも問題塗れか!
朝、届いた呼び出しに対してそれを待つ間に思考を纏めていた
後一手なんだがなぁ、ナギサにカマかけたら引っかからないだろうかな。
昨日の掃除の時に掃除されていた、長めの枝にビニール紐があったので、即席の釣り竿を作り紐先に石を付ける
塩素殺菌済のプールに投げ込んで、空を眺める。
一番怖いのは、此処でリオ会長が動いた! と言う連絡なんだがな!
どうしても隠したいアリウスと言う存在、過去から殆ど関係ないのは正義実現委員会ぐらいじゃないのか? とコハルを伴って挨拶してる際に思った。
ハスミは熱しやすいがあれはまあ限度がある、ツルギは実のところハト派だし。
ここの武力集団が一番ノンポリなのは唯一の良心ではなかろうかとすら思える。
救護騎士団もマルタ騎士団とホスピタル騎士団みたいな連中だし、マルタ島、地中海、ローマ、カルタゴ、コンスタンティノープル、アリウス。どこかで聞いたんだ、神学もう少し覚えておけば……なぁ
9歳の俺よ、夢と野望以外にも何か出してくれ、あのクソ神父は何て言ってた……コルシカの海賊、ヴァンダルの末裔!!
「
「わぁっ! びっくりしたー!」
何とも甘そうな声は、茶会で聞いたぞ……。
振り向くと、そこに居たのはあの茶会の片割れ、ミカ。
ただ恰好は普段と違い、普通の礼服だ。
首元の略章も着けていない。
「でもここに、水が入ってるなんて久しぶりに見たなー。でもそんな釣り竿と餌じゃ何も釣れないよ、魚も居ないし」
靴を脱いで、ミカが足を水につける。
なるほど、名目は楽しい水遊び?
「リヴァイアサンを釣ろうとして、中々釣れなくて嫌になっていたが、最後のピースを見つけてね」
「それが、ヴァンダル? 面白いね」
立ち上がり姿勢を正す。
「何か、御用でミカさん」
「他人行儀でなくてミカで良いよ。今は”ただの学生が遊んでるだけ”だしね」
こいつの感情の制御出来て無い目は一番危険だ、いきなりその手の得物で撃たれてもおかしくない。
体の良い監視下アピールかとも思うが、視線はない、恐らく部下はいないのだろう。
「いや、先生は上手くやってるかなって思って」
「上手くやれてたら苦労は無いんだが」
いけしゃあしゃあとおっしゃるが、そちらさんの協力があれば俺も夏季休暇わっしょいできるんだがな。
前にやったゲヘナの風紀委員会夏季演習の付き添いはまだマシな環境だ、ヒナが泳げないのを知れたし。
そういや前にツルギが「海行きたい」と呟いていた、これが終わったら連れて行ってやるか。
「にしてもナギちゃん、ずいぶんと入れ込んでるみたいだねー。こんな施設まで貸し出しちゃって」
「牢の居心地が悪いと、勉強にも身が入らないからな」
「ところで、合宿の方はどう? 遠いのを良い事に、何か楽しそうなことしてたりしてない? 例えばみんな水着でプールパーティとか!」
随分と軽やかに仰る、自分が参加したいだけじゃないのか? 悪いなミカ、この合宿教員込みで5人までなんだよ。
「ここに来る前50時間耐久ゲーム制作、完成するまで眠れませんパーティしてたので、満腹でね」
「本当なら相当狂ったパーティじゃんね……」
静寂、出鼻はくじけたらしい。
機先は制する。
「興味あるなら参加するか? これでもプロジェクトリーダーなのでな」
「……あはっ。楽しそうで羨ましいよ。予定が空いてれば考えておくね」*5
珍しく安定した本音の目、火のついた擲弾でお手玉して遊んでる気分だ。
「ところでここ、食事とか大丈夫? 何か美味しい物でも送ろっか? ケーキとか紅茶とか」
「そう言うものは、全員合格した時と考えている、食い過ぎで腹痛や虫歯になっても困るだろう」
「確かに。そんなに厳しいから、好かれないんじゃないの?」
「隣良いかな?」と聞いてきたので、コートを敷いてやる。
また、目を見開かれるが俺の服より高そうな服の面倒何て見れるか!
聞きなれてるであろう「どうぞ姫様」と付けてやる。
この手のお嬢様の頂点なら聞きなれてるだろう言葉でまた目を開かれた。
礼儀知らずめ、作法も知らんのかとブレー・ウチをされるのか!?
プールの水を足先でかき回す。
「……ふふっ、ごめんね。先生もあんまり長い前置きは好みじゃないよね」
「社交辞令ではあるからな、居眠りするようなのは勘弁してほしいが」
本当は社交辞令もあまり好きじゃない、退屈なありきたりな会話より好奇心などを揺さぶる会話が一番だ。
「本当にね、あっ。ちなみに私がここに居ることについて、ナギちゃんはしらないよ? 見ての通り、付き添いも無しの私の単独行動!」
だろうな! タカ派のボスが単身で呼び出しかけてくるなんて。
どうあっても「あなたをころすよー」か「和平をころすよー」の為の布石だろう
断っても、「話す気が無いんだね、ころすよー」と言う落ちだ。
そして、付き添いも要らないくらい腕っぷしがあると見た、大きさ=強さでは無いが、デカいヘイローの奴が弱かったことは無い。
此処で見てないのは筋力だよな、牡牛の突進受け止めてそのまま首を折るレベルだと思っておこう!
「改めて本題だけど」
「俺が先に答えを予想して言うのは、どうです姫様」
「駄目」
ちっ、さっさと本題言い当てたとこで打ち切って逃げたかったが、妙に気分が良さそうなのはなぜだ?
「……先生、ナギちゃんから取引とか提案されなかった?」
「取引?」
「例えば、「トリニティの裏切り者を探してほしい」とか」
ずいぶん具体的だな……?
いまいちミカが良く分からない、怪しいのだが何か計画が見える。
「一般的に言うとそちらの、パテル派から見ればエデン条約を締結させようとする派閥は「トリニティの裏切り者」になるのでは? 近くにこういう話をするトリニティ生は居なかったもので」
「へぇ……なるほど。そう写るのか~確かに先生はトリニティの外から来たもんね、今回もエデン条約推進派の招待だったしね」
「ですが、ナギサの言うところの「トリニティの裏切り者」はまだ見つからず、それに居ない者を探そうとするのは無駄だと思い断りたいのですが、機会が無く……」
「続けて」
圧が強いしホシノと違って衝動で動きそうで冷や冷やすんだよ。
でもあいつも衝動で動いてたような気がしてきた、ムカついてきたな。*6
「誰も彼もトリニティの為に動いていて、それを妨害しようとしてる物は見つからず、まぁ私情だとエデン条約が結ばれた方が仕事が減って嬉しいな! と言うぐらいで」
「なるほどね。まぁ、私達にとってはずっと「トリニティ」そのものが世界の中心見たいな感じだから、アレだけど……」
トリニティ。イギリスの様な感じがしたが、今ので確信した、ここはローマだ! 帝政に移る直前の、イギリス人も世界の中心と言うが、奴らの世界は閉じてはいない、
ということはこの理由のないゲヘナ嫌いは、
「それじゃあ先生は、誰の味方? もし、トリニティの味方じゃないんだとしたら……ゲヘナの味方? 連邦生徒会の味方? それとも誰の味方でもない……とか?」
ミレニアムは無視か? シャーレと連邦生徒会の軋轢ご存じでない? やはりこの辺からもこいつ等の気質はブリテン人では無い。連中の手癖と目と耳の良さを味わった俺が言うんだ。*7
「俺は生徒の味方ではある、初対面で物を投げられ、このクソガキと腹が立つことはあっても、落ち着いて見ると理由や考えが分かると面白い、知らないだけだ、そして、このキヴォトスでそれを教えてやるものはほぼ居なかった、それに俺もまだまだ子供だと思う事もあるのでね」*8
誰か殺して埋めましたー! ぐらいで本気で考えるが。
「要するに生徒の味方って事?」
「恥ずかしいが要約するとそうなる、見栄っ張りなんだよ」
一本取られた~みたいな笑い方だ。
「あ、あのさ……っていうことは、その……。先生は一応私の味方である……って考えても良いのかな? 私も一応この立場とは言え、生徒に変わりは無いんだけど……」
「俺は今の立場だと明言はできない、事件の背景も俺の欲しい答えも見えない時に、どちらかの味方には付くことにもなるかは分からん。だがな、事件が終われば一緒だろ、悪いことしたんなら説教した後は、一緒に謝りに行ってやるし、行く場所が無いんなら家で預かってやる」
百面相始めやがった、ルーレットか? *9
顔の表情変化はまるで万華鏡だ。
「凄い事、素面で言うねぇ……そういう話術? って思う気持ちもあるけど……うん、ちょっと純粋に嬉しかった、えへへ……」
「立場に踊らされ過ぎだ、そういう気持ちがあるなら、まだ大丈夫だ。シャーレに一度遊びに来い、世間知らずのお姫様のエスコートぐらいならしてやる」
水から足を出して立つ前にハンカチを貸してやる、コートを濡らされたらかなわん。
「じゃぁ、そんな先生にお礼の前渡しで、補習授業部の中に居る「裏切り者」が誰なのか、教えてあげる」
ホラ来た。そのまま帰ってくれ。
「……そもそも、先生のことを補習授業部の担任として招待したのは私だからね、このことは知ってた?」
借り貸しのあれこれでナギサに反対されていたが、押し切ったと、俺が大量に借りて払えそうにないのは、イロハさんだよ、畜生。
「アズサを連れてきたのは自分、まあ、つまりナギちゃん的に言えば裏切り者は私ってことになる」
ふざけんなよお前。
お前がルビコン川を渡るのか?
セイアは激怒した、必ずあの親友をの伸してやらねばならぬと決意した。
自分は行き違いで、こんな場所を彷徨う羽目になってるのに知り合いを見たら、青春してやがる。
なんてことしてやがる。
さっきは見るからに悪い目つきの自称警察長官に値踏みされたし、タイユランと言う大人との舌戦に巻き込まれ喋り方講座は続くし、自称先輩は絡んでくるし、コーヒーしか出てこないし。
確かに、言い方はアレだったかも知れないがここまでされる謂れはない!
「皇帝陛下、アリウスはニカイア会議で異端認定された派閥です、ヴァンダル人の属してた宗派ですよ」*10
「ふーん、じゃあ行き着く先はローマと同じく焼かれるってこと?」
分厚い本を開きながら、自称先輩が言う。
「このまま行けば預言通り襲撃が行われるだろうねえ」*11
自称警察長官は、サングラスを拭きながら言う。
私の話を聞いて「知らない陰謀がある」と食いついた変人……変人しかいないが、その一人だ。
「だが、襲撃して成功するかは別だ。昔に馬ごと爆弾にしたテロがあったが、あれも失敗してたしなあ」
「君らが頑張って直した奴か」
「正確には部下ですよ」
タイユランが懐かし気に語る。
視界を現実へと向けると、ミカは話を本命へ移していた。
エデン条約機構、それは事実上連邦生徒会への否定への道ではないかと。
「嘘が下手ですな」
「まあ無理はない、つけてるだけでも胆力がある」
「心から嘘を信じてるのは良い事です」
酷い大人たちは二人してコーヒーを飲んでいる。
どうなるかもう分からなくなってきた、これからどうなってしまうんだ、願わくば最悪ではない事を。
教室へ帰るころには模試が終わったらしく、答案を採点する。
今回の模試は目覚ましい進歩が見えた、正直なところ意表を突かれたとすら言える。
なにせ今回でアズサは規定の点数にもう一押し、コハルも目覚ましい進化をしている。
ハナコは恐らくいつでも規定線を超えれるだろうが理由が分からない、むしろこれはヒフミの様な対等の者がやるべきなのだろう。
「凄いなお前ら、やれば出来る子だったか」
本業はかなり快調だ、これなら安定していると言える。
実に素晴らしい、そう考え次のテストへ備えた勉強資料を相談しようとした時、正面入り口から炸裂する閃光弾の音がした。
やっべ遂にナギサか誰か怒らせたかな? 遂に実力行使か。
「玄関のブービートラップだ」
アズサが素早く走る。
状況を掴むべく追いかけ、正面玄関に向かうとそこで一人の生徒が倒れていた。
「シスター、だな」
「ああ、多分そうだ、擬装かもしれない」
アズサが自身の銃剣を使い、恐らくシスターの下を確認する。
ブービートラップが仕込まれたり、IEDの脅威は無いと確認して、アズサは満足げに「クリア!」と宣言した。
遅れて駆けつけてきた部員一同でシスターを運ぶと、ハナコが「あらマリーちゃん」と驚いた顔をしている。
コハルに聞かれて慌てて誤魔化していたが、何かがあったようだ。
「それでまた何しに”こんなところ”へ」
「尋問は習った」と主張するアズサをヒフミに回収頂き、軽く茶を振る舞う。
「は、はい。白洲さんはここですよね」
回収頂いたアズサを再び呼ぶ。
「以前お助けしてもらった生徒からお礼が……」
「ああ」
クッキーのちょっとした詰め合わせが渡される、何の件か聞いたところ、生徒のいじめにCQC戦闘して打ち負かしたらしい。
可愛そうに、しばらく自身の口で飯が食えなくされてそうだ、うちの隊員とかみたいに。
「で、戦域離脱に失敗して正義実現委員会に拘束されたんだ」
アズサは不服気にそう語る、退路確保の問題だろと返したら「全くもってそうなんだ」と至らなさを感じている様だった。
どうもこいつは素直な性格がよく出ている、ミカは何で「和解の計画のため」に呼んできたのかは分かる。
「諦めたって何も良くならない、最後まで抵抗をやめない限り道は続く」
「確かにな、勝ち続ける限りそこにいれるしな」
珍しくアズサが何か尊敬するような視線を向けてきた。
……無論、その後ろにあるハナコの何か言いたげな視線も。
ようやくお話しできそうじゃないか? ハナコさん。
ミカが迎えのROVERに乗り込む。
パテル分派の専用の車両で、無紋の車両は工作任務用の証だ。
フィリウス派と正義実現委員会の眼を眩ますためにこうした諜報任務向けの無紋車両は数多く保有している。
パテルの本館へ帰ると、警衛の8名のパテル分派の私兵がスターリング短機関銃を吊るしており、ミカに気付くと敬礼する。
「忠!誠!」
「はい」
号令と共に敬礼され、当然の日常の様に答礼する。
トリニティのパテル分派、その私兵はイリュクム軍団と呼ばれる古からの勢力だ。
トリニティが生まれる前からパテル派の、というよりかは聖園の家に連なる係累だ。
ここでそもそも分派の性質の違いを語らねばならない、パテル分派はトリニティの中ではかなりの血縁主義的ではあるものの、一番外部から人を入れる勢力だ。
これは分派の
当時のパテル分派
無論報復と不信が重なり、ユスティナ聖徒会はその後急速に衰退へ進んだ、
金のあるなしで神の愛を振り分けれるとは聖職者はそのような権力を神から何時与えられたといえようか?と信頼と信仰を失った。
アリウス追放の公会議では勝利したと言えるユスティナではあったが、武力組織に大きく恨まれた辺りがケチのツキ始めであった、のちのちユスティナで上層部批判を始めた学生グループの抗議に呑まれてシスターフッド成立が起こる事になった。
「それで、どうでしょうか。先生は」
ミカの今の騎士長官が尋ねた。
「複雑、かな。絶対に無能じゃないのだけが分かっている感じ」
「また面倒な……」
イリュクム軍団のいる本館は人の行きかいが激しい、”レコンギスタ”が近いからだ。
遠き地に追放されし同胞を再び、閉塞した世界に新たな風を。
私にはそれが出来る。
【次回予告】
初めから感じていた、心のどこかで。
強い憎しみの裏にある渇きを、激しい闘志の底に潜む悲しみを。
似た者同士。
声にならない声が聞こえてくる。
次回「 謀議 」
一足先に自由になった兵士のために。
共和制末期と帝政末期の事件がコンクリートミキサーに掛けられた上でのパズルを組み立てる。