キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
帰り道で一応確認した
寮に付き、その日の朝に模試をやるかと聞いたらアズサ以外「無理」との事だったので昼食後と言う事にして解散した。
ここに来てから愛用している、エンジニア部特製目覚まし<コトリ早口解説集>に叩き起こされユウカに就寝と起床時間を送る。
殆どが日和見主義のトリニティでも、知り合いとの縁を感じることができるのは気力が入る。
昼前に模試用意の為に教室に入ると、アズサが居た、勉強中だったので気を使わせない様に教壇の座り慣れた椅子に座ると鞄からゲーム機を取り出し遊ぶソフトを考える、例のマッチは承諾が来たので、楽しみだ。
「この前アルちゃんには3連勝したし、何をしようか。街づくりゲーでもやるか」
一時間ほどプレイした後に*1
「初期発電所じゃ電力足りなくなって来たな、どうするか?」
「「「おはようございます」」」」
教室に何時もの3人娘が入ってくる。
ゲーム機を鞄に仕舞い、挨拶を行う。
「第2次学力試験まであと2日だ、この調子なら次は合格が狙えるだろう、では用紙を配るぞ」
用紙の配布を行い、始めと言うと、俺も合同警備本部長としての書類仕事を始めた。*2
時間が来ると用紙を回収し採点を行う、やるじゃないか、ずいぶんマシになった物だ。
「喜べ!全員合格点だ!この調子なら次で全員合格だ、残りの夏休みを楽しめるぞ!」
それぞれがそれぞれの喜びを表している、本物の勝利はもっと良いぞ。
ハナコもやる気を出してくれた、良い事は続くな。
俺も本来の仕事に集中できる、素晴らしい。邪魔をするなら本当に許さんからな。
ヒフミの授与式を生暖かい視線で眺める、何も問題は無い。
俺はいらないからな、ヒフミよ。テーブルにおけるレベルなら考えるが……
帰りにナギサに連絡に行った。
本当に真実しか言って無いからな!要らん事したら、本当に鼻コーヒーじゃすまさんからな!
下手をすればお前”ら”がトリニティの裏切り者になっちまうぞ、馬鹿野郎!
そうならないことを祈ってるよ。
ああ、この茶会の3人目あの世から見守っててくれ!
空から「死んでないが?ある意味残りの二人殴り倒したいんだが?」と言う声が聞こえてきそうだが、そもそも声を聴いたことないので忘れる。*3
明日に備え夜にミーティングを行う。補習授業部の部員に自己完結させる。
まぁ俺は背後でニコニコしながら、合同警備本部長の仕事なんだがな。
こう言うのは部長のヒフミに任せて、就寝前に俺が〆てお終いが一番だ。こいつら自体が自主性が高いわけだし、介入は手助け以外すべきではない。
模試自体もヒフミの意見の助力だ、俺が書類等を用意してやるとはなんともおかしな話であるが、将来性は高いから悪い気はしない。
さて、ヒフミの演説も終わったようだし、〆て就寝させるか、アズサが外出しない様に見ておかねば。
「え。ええっ!?」
通知で補習授業部の試験場所変更が通知された、お前どう言うつもりだ。
試験の前に試練を用意するのはルール違反だよな、ナギサぁ!アイツには修正が必要だ。
そもそも何をそこまでビビるのか分からない、暗殺者が出たからってビビるな、ビビって良いのは革命側が庭園に突入してからだぞ。
そういう点ではルイ王は王様らしい奴だと思う、決断力が欠けてたが。
ヒフミのコンソールを見せてもらう。
補習授業部の第2次特別学力試験に関する変更事項のお知らせは、試験範囲を既存の範囲から約3倍に拡大を突如通知は滅茶苦茶だぞ。
バカバカ凄いバカ!こんな距離ならミレニアム生でも落第するわ!物理的に!
露骨すぎるんだよ、もうちょっとそれとなくだな……ナギサも後で社会学について補習するか、本屋やれ、本読め。
合格点も90点に引き上げる、もうお前それお前も合格できるから書いてんだよな?
試験会場の変更もあったが最早細事だ、よぉし先生本気出しちゃうぞ!
「げ、ゲヘナで試験を受けるんですか!?」
「かまわん、トリニティ以外の方が顔が利くのを知らんのか?」
コハルが退学などで震えているが、情報共有するとなお顔が青くなる。
可愛そうに、余計な事考えず人生幸せに生きてる奴らがそんな憎いか?
「あらあら、先生が怖い顔してますね~」
試験時間は深夜三時、お前本当に同じ事させてやるから覚えてろよ!*4
アズサが良いこと言った、あきらめるにはまだ早い!そうだ、いつかジュノーに言った様に、早く動く。1日60キロ歩ける兵隊の軍隊は欧州を覆せるのだ。
即座に茶会の格納庫に向かい、「全権委任の公務だ!」と車両を徴発する。
間に合わないは良心が無い、通りすがりのペイブホークという案もあったが、これはヘリパッドの点からキャンセルだ。
OH-6も人数の都合でキャンセルになる、飛べりゃ全て楽なのだが。
「行こう先生」
「ああ、勝つぞ!」
道中ゴロツキが出てきたが、ハナコに擲弾射撃させ、爆破して突き破る。
前に出る方が悪い。
そしてさらに進むと、土嚢とMGが据えられた検問が待っていた。
風紀委員会だ。
笛を吹いて、風紀委員が走り寄る。
「止まれ!ここから先は立ち入り禁止になっている!直ちに戻りなさい」
「そもそも今日は街全体に外出禁止令が出されているはずだ!早く戻ってーー」
ほぉ、仕事熱心だがいい度胸をしている、ハナコ、コハル前の話の本領を見せてやるよ。
「当方、特別活動中だ、彼女達はトリニティ生だが試験がある。前を通してもらう」
一体どういうことだと、風紀委員は困惑している。
まあそりゃそうだ、理解出来んだろう。
「ええいともかく封鎖です、迂回するかなんなりをですね」
「おい、そこの風紀委員2名、生徒番号と所属部隊、階級、姓名を述べろ!シャーレの超法規権限及び合同警備本部の作戦を侵害すると判断するが」
そんなこと言われても困ると風紀委員は困り顔だが、優しく囁く。
「まあ明日に其方に協力感謝の感謝状を贈ってやる、通るぞ」
いやいや彼女らは車を通した。
堂々と対応ができないとは治安組織としてどうなんだ?
後で再確認だな、イオリかチナツかアコかぁ?
「業務に書いてないよぉ~」じゃないんだよ、タコ!
「ありがとう。次からは身分証の確認を気をつけろよ」
ID確認は相手が誰だろうとちゃんと守ろうな。
青くなってるが、封鎖部隊と言うのは立っていればいい物ではなのだ。
コールを鳴らす、就寝中なら申し訳ないが、仕方ない。
「ヒナ委員長、就寝中なら申し訳無い。ああそうだ、茶会のボスの頭がラリったらしい」
補習授業部の連中が凄い目で見てるが、そもそもこうも拗れたのは俺が悪いわけじゃない。
「本当に済まないな、謝罪は良いんだ。それよりこの座標本当に試験会場があるのか確認してほしい、じゃぁ条約会場でな、ああ伝えておく。お休み」
無線を仕舞い、後席へ言う。
「風紀委員長は、補習授業部の諸君の合格を祈るってよ」
目的地までかっ飛ばすぞ、30分前には付いてやる
試験会場目前で、伝言が来た、そのような物は観測して無いとの事だ、畜生。
現地確認するかぁ……
「でも、あの風紀委員の子、大丈夫なんでしょうか?」
「知らん、自分の仕事の義務を果たしたんだ、問題なければ何も無いだろう」
「青くなってたわよ、あの子たち……」
俺が悪者みたいじゃないか!
現着した時には残り27分、ここまでされると俺も猜疑心が沸き立つ。
「アズサ試験会場内にブービートラップの可能性あり、確認頼めるか?」
「了解」
直ぐに見つけてきた、いい子だ、EODチームに雇えないかなあ。
砲弾は茶会自慢のL118の砲弾だ、あいつらの砲全部賠償で奪えんか、暴徒鎮圧で有効活用してやるが……ユウカもタダで仕入れたら文句あるまい。*5
砲弾内から試験用紙と再生機が出てきた、もう俺の中の危険警報はガンガンなっている。
「試験用紙確保の後、砲弾を捨てろ!」
アズサに砲弾を車内に積ませる、最悪あれが爆ぜても帰りはゲヘナから車両借りるか、うちの車使う。
再生機は再生せず、保管するこれも爆発するんじゃないのか?
「もはや10分も無いが、試験開始だ!」
「先生、やっぱり時限装置が」
「爆発の危険無しならお前も早く試験受けろ!」
証拠の砲弾の撮影は忘れない、ブリテン人は陰謀で腹が立ったが、こっちはくだらなさで腹が立つ!
何とか答案用紙に書けてはいたが、時間があまりにも足りなさ過ぎた。
あの風紀委員がもう少し物分かりが良ければもうちょっと時間が確保できたんだが……。
生徒を中に入れると、ゲヘナ風紀委員の9㎜パラベラムの銃声が遠くから聞こえる。
「ちぇー、せっかくここら辺が当たりだと聞いたのに」
温泉開発部のばかどもではないか。メグらしき生徒に声を掛けると、二度見されて逃げられた。
俺が機嫌悪いのをよく理解してくれた、部長によろしくな!それはそれとして、車両からゲヘナ周波数で通報する。
ナギちゃんよ、俺ごと爆殺する積りか?残念ながら大人はお前の数倍汚いぞ。
「なるほどなるほど、ここまでやると言う事ですね……面白くなってきたではないではありませんか。ふふふっ……」
「すまん、俺の力不足だ……」
「先生は良くやってくれたわよ」*6
試験用紙は欠けた部分があった、俺ミレニアムで学んだぞ、「だまして悪いが仕事なんでな」だろ。
コハルの頭を撫でてやる、そうだな、ハナコよ面白くなってきたな。
「ショータイムだ、いい茶菓子用意してやるから、待っててくれよぉナギちゃぁん!」
「先生この通信機どうする?」
「知り合いのハッカーに送る。何仕込んでるか分かったもんじゃない」
2日後開かれた録画映像は全員の逆鱗に触れただけだった。
追記にチヒロから茶会のこの人は健康状態ヤバいよ、部長手前じゃんとあった。
やっぱ素人がやると恐いよなあ陰謀は。
パテル分派のイリュクム軍団会議室では最後の会議が終わった。
表向きは夏季総合演習<もず>の打ち合わせである。
今年の夏季総合演習は治安戦環境を想定する、士官たちは非常封鎖線の貼り方を書かれたハンドブックをよく読み込んでいた。
「……変じゃないか?この時期に治安戦演習なんて」
「知らんよ、ミカ様も大変なんじゃないの」
士官たちは深くは考えないようにした。
需品将校だけがある意味真実に気づいていた、物資集積は明らかに”正規戦”で進められている。
問題はこの物資でだれを撃つのかだ。
翌朝
俺が、教壇に立つと演説をふかした。
「あの詐欺師は諸君らを是が非でも退学にしたいようだが。
これを続けるなら諸君らが退学になる前にあの詐欺師を退学にしてやる!
諦めるな、勝負は最後の最後まで分からん、ミレニアムでも同じように勝たせてきた」
俺の怒気を込めた演説とハナコの茶化しで士気は取り戻せたようだ。
この礼は高くつくぞ!
その後奴を探したら、行方を眩ませていた、見つかったらヤバイことをやるんじゃねぇ。
ブリテン人の出来損ないめ!奴らなら堂々と紅茶飲みながら、今日もいい天気ですねと言うぞ。
ミカなら知ってるかと思ったので確認したら、奴も音信不通だった、茶会のテーブル割りたくなってきた。
最高階級指揮者不在とは良い度胸だ、大人がそういう隙を見ると何するか教えてやる。
「あれ、正義実現委員会の車両が定時より早く引き揚げている」
コハルはまだ12時交代には早いのになと、自身の将来の心配に戻った。
セイアは青くなってきた、幼馴染2人の暴挙に。先生の知り合い達に彼の性格を聞けば聞くほど、あの馬鹿共はトリニティを焼きたいのかと?
先輩さんは分厚い本を見ながら「ローマが燃えた後でもベリサリウスが奪還したらしいよ」と茶菓子喰ってる。
「君は他人事だねぇ……」
「私が居た頃、トリニティに助けてもらってもないからね。砂漠や廃墟も悪くないよ」
畜生、味方が居ない。
自称警察長官はニコニコしながら、現世を見ている。
「見たまえセイア君、我らの皇帝は随分お怒りの様だ、家具が壊れてないのが奇跡だ」
「ナギサが大人の男でしたら、頭であのテーブル割りそうな雰囲気ですな」
トリニティの危機がスポーツ観戦の様だ……頼れるのはもうあの子しか居ない。
自称警察長官の「おっ、ミカが各級パテル指揮官集め始めたぞ!」とポップコーンを掴んだ、くそう、大人はろくでもないのか。*7
「私も居るよ?」
ちくしょう。渡るキヴォトス鬼ばかりか。
さっきは何か部屋間違えたのか、丸いグラサンが来たし、ここは煉獄なのか。
非常呼集を告げる声がパテル分派の宿舎に響く。
「非常呼集ーっ!将校集まれェ!」
「各指揮官集合!」
なんだ一体とパテル派のイリュクム軍団の士官が慌てて上着を着て寝台や食堂から飛び出す。
呼び出された先は大会議室だ、全員が来るのに5分もかからなかった。
絶対新人シゴキのどやしつけじゃない、全員がそれを理解した。
「レガタス、入られます。気を付け!」
何人かが唾を呑み込んだ、派閥の長を生で見ることなど早々ない。
しかも今の聖園ミカは、上着がいつもの豪華な礼服ではなく戦闘服だ。
帽子もベレー帽ではなく略帽で、演習でも見ない姿だ、基本的に統括官である。
「これより分派命令を発令する」
なんてことだ、本当にやるのか。
誰かが小さく呟いた。
「1!イリュクム軍団は敵の謀略を破砕し、学園の威厳を奉じ秩序を護持せんとす。
2!軍団第一航空大隊はその主力をもってトリニティ
3!軍団機械化歩兵連隊はその主力を用い正義実現委員会作戦室及び各分派を武装解除すべし!
4!第1機甲大隊は学園外周へ進出し、これを維持すべし!
5!砲兵並びに工兵大隊は全大隊司令部直握として待機すべし!
6!軍団教育大隊は現態勢を維持すべし!
7!軍団通信部隊はバラージジャミングによりすべての通信を封鎖すべし!
8!レガタスは、軍団と共に諸氏の傍にあり!
5月9日、軍団頭領 聖園ミカ。」
「作戦命令584号を、現時刻をもって承認する」
ミカがしっかりとそう告げ、サインをした。
深々と礼をして受け取り、騎士長官が受領する。
革命の始まりだ!
正義実現委員会本部、その委員長ツルギはその報告を信じられないと言いたげな顔で尋ねた。
「もう一度言ってくれ」
委員の一人は失神しない様に気を付けながら、ツルギに書類を読んだ。
「全正義実現委員全員の18時以降出動及び外出禁止命令です」
「理由は?」
「分かりません、三人全員繋がりません!」
ツルギは概ね理知的である、ただちょっと感情表現が下手なだけで。
激情的なのはハスミが当てはまると言えるが、まさにハスミは激昂していた。
「滅茶苦茶です!正義を守るべき我らに”何もするな”など、しかもこの報告では」
ハスミは、横目で委員に退出するよう促した。
現在時刻17時30分、2時間前にパテル分派指揮官が姿を多数消している。
それを聞いたツルギは非常警報を内示した、条約前に混乱など許さぬ。
そして15分前に届いたこれだ、ツルギはしばらく沈黙した。
組織存続、後輩の身の上、自身の信念。
色々なものが逡巡したりきえたりした、浮かんだ結論は。
『先生。月がきれいな夜になりそうですね』
これで分からねば、まあそれまでという事だ。
惚れた弱みは辛い物と言うべきか?ツルギはもっと本を読もうと思った。
全委員に非常装備を配給する用意をすすめなければ。
遂にアズサは告白をした、恋なら可愛らしい物だがそうではなく、自身がアリウスの送り込んだ工作員だという事に。
やはり、と返すとアズサは少し恥ずかし気な顔をした、バレていたという事は未熟な事であるからだ。
ただ分からなかったのは、アリウスが何故そうなったかであった。
普通はこうはならない、作為的が過ぎる。
「マダム、とか呼ばせている大人がいまアリウスを支配している」
悪趣味だな、あのオーストリアの王妃くらい気品あるのか?
そしてここまでナギサが恐怖してこの様な暴挙を続けた理由が判明した、ナギサ暗殺が次の狙い、そして後に残されるのはミカ。
つまり「ここで死んだらあいつはどうなる」とパニックになったらしい、素直に相談すればうちから警備部隊の訓練とかしてやるのに。
襲撃は今夜、深夜に決行される。
ずいぶん予定より早いらしいが、アリウスが”シャーレ介入の脅威”に本格的脅威を抱いたらしい、そこまで恐れるなら辞めればいいのに拙速に逸るか。
「なんで急ぐとダメなの?」
コハルの問いにヒフミが「多分予定が狂うからだと思います」と返した。
そうだ、動員計画が、物資輸送が、車両に移動に休養が全部狂う!これを書き直せると考えてから急ぐのである。
「なあ、コハル」
びくっとコハルが反応する。
「正義実現委員会としては、まあ学園内への侵入部隊は見過ごせんわけだよな」
「うん」
「それを善意で助けるのも正義だよな?」
「た、たぶん」
「つまり交戦状態に置かれて危険地帯に残る市民救護は正義の範疇で正義実現委員会でなくてもいけるよなあ」
制服を着ない戦争は大嫌いだが、してやろう。
大恐怖もヴァンデもくそくらえだ、秩序を作ってやろう。
俺は悪徳は許せても無秩序は許せない。
「じゃあ、アズサ。お前の習った通りやろうか」
時刻は現在、23時45分。
決断したからにはすぐ動く、まずは権力の空白を作る、ナギサを確保するぞ。
アズサに居場所を確認させて、地下配線からアロナを有線接続させてシャーレに出動命令を発令する、来る頃には事件発生で正当性が生えてるから問題ない!
直ちに活動を開始する、正義実現委員会外出禁止で、むしろ俺は楽に動ける。
ローバーに乗り込んでナギサの場所へ向かおうとするが、学内の道路交差点に何人かが検問をはっている。
「車を止めろ。だが、エンジンは止めるなよヒフミ」
「ひえ……」
皿型ヘルメットを着け、M2カービンを構えたパテル分派の部隊が展開している。
「止まれェ!夜間外出禁止命令だ、戻れ!バックしろ!」
「許可証はあるぞ」
窓から顔を出す。
パテル分派の部隊にやや驚愕の顔が浮かんだ。
「今だ!」
ヒフミの運転席を蹴り飛ばす。
急加速したローバーは一気に検問を超える。
「シャーレの大人だ!リストに載ってるぞ!」
「連邦大権をバックに学園を翻弄せんとする奸賊だ!撃てェ!」
銃声が轟くが、茶会倉庫からガメたローバーは防弾仕様だ。
M2カービンやM3短機関銃の銃弾を弾いている。
当然相手もただで黙っていない、サイドカー付きのバイクが走る。
サイドカーに据えられたブレン機関銃が唸りをあげ、タイヤがパンクした。
「しっかり掴まって!」
ヒフミがスピンをわざと起こして速度を殺した。
追撃していたバイクが「えっ」と声をあげると同時に、ローバーの側面に突っ込んだ!
ぐしゃ!と鈍い音がしてバイクが爆発、運転手とガンナーが放り出されて地面へ跳ねる。
燃料と弾薬に引火してドン!と爆発し炎上するのを後ろに、ローバーを放棄して走る。
爆発の煙を見ながら、ナギサのセーフハウスの警備が首を傾げた。
陽動となった爆炎を見ながら警備の眼が向いてる隙に、アズサと二人で入る。
渡されたM3グリースガンのサイレンサー付きモデルは護身にはよいだろう。
あまり護衛も居ないので容易く中に入れた、理由は分からない。
「よぉ、ナギちゃん。依頼しといて答えも聞かずに全員犯人扱いはひどいぞ」
「先生……?」
「あらあら、幽霊を見たような目をされても、私達の足はまだついてますよ?」
ハナコがにこやかに微笑むが、片手を挙げて制止する。
「恐いなら素直に言えよ、俺が手本見せてやろう」
無言でアズサが麻酔銃を撃ち込んだ。
「ナイスショットアズサ!」
「これで良いのか?」
「一応梱包して置けよ。壊れ者だからな」
トリニティ・スクエアの通りをパテル分派の保有するヴィッカースMBTとブラックプリンスが進む。
武装蜂起で動き始めた初動部隊だ、部室会館は既にパテル分派深部偵察隊が制圧している。
「トリニティ・スクエアに入りまァす!」
「よォーし!スクエアに封鎖部隊前進指揮所を設置するゥ!」
封鎖部隊主力が展開し始め、野戦指揮所が作り始められる。
「蜂起に賛同しなかった
「やはり一戦は避けられないか?」
「説得は続けているらしいが……」
パテル分派の士官たちが首を傾げながら、部隊配置を確認する。
予定通りならあと2時間以内にトリニティ大聖堂への実力行使を視野に入れた部隊展開が終わる。
いつもなら正義実現委員会の委員が分隊単位で張り付く裏門、いまは無人地帯だ。
そこの門がゆっくりと開かれる。
灰色の塗装がされた装輪装甲車、V-150コマンドー装甲車を先頭にM35トラックが停車する。
「作戦開始」
フード付きのBDUに身を包んだアリウス生徒が80名、およそ二個小隊。突入を開始した。
目標は桐藤ナギサただ一人、各自が握ったMP5SDを強く握る。
狭い室内だが、誰も遭遇しない事を彼女らは詳しく疑うべきであった。
「ようこそ、トリニティ学園へ」
目標は確かにいた、気絶させられて春巻きみたいにされて。
そして、目の前には工作員と、Mk19自動擲弾銃が据え付けられていた。
「てえっ!!」
アズサが全力射撃を始める。
ただの擲弾ではない、フレシェット弾だ。
つまり、毎分100発撃てる40MMから数十の矢のような子弾が飛び出すのである。
忽ちに突入した小銃班が散弾で打ちのめされた。
「アズサ、第二段階発動」
「任せろ」
かちかちと二回、作動信号を送る。
裏門から停車していた車両が連続して大規模に爆発、連鎖した連続爆発は麗しいオレンジ色だ。
アズサの奴、派手にと言ったがやり過ぎだぞ、C4何個使ったのだ。
「15キロ!」
「加減しろ!」
だが都合がいい、これで色々やりやすくなってきたぞ。
さて問題だ、エデン条約前に起こるテロ事件で、締結阻止目的で、しかもそれは俺の眼前。
ならやるべき事はただ一つ。
「現時刻をもって連邦捜査部シャーレは超法規的権限及び合同警備本部の職分に基づきトリニティ地域での作戦活動を宣言します」
ハナコが笑顔でナギサの手を使ってサインする。
よし同意は得たな!後日完璧な命令書を書かせて後ですり替えるぞ。
爆発と共に、ツルギの携帯に緊急警報が入る。
『テロの為、指揮者不在により臨時で正義実現委員会の指揮権はシャーレに移ります』
ハスミは呆れた顔をし、イチカは非常呼集を叫ぶ。
マシロは狙撃班を連れて出口を封鎖した。
「シャーレの指示じゃ、しょうがないな」
「ええ、連邦からですからね」
「一時的に指揮権あるしな」
「ええ、事件はここで起きてます」
じゃあ仕方ないな!なんたって合同警備本部でもある訳だしな!
ツルギはそう満足げに、自身の得物を手に取る。
照明弾が撃ちあがる。
パテル分派の機械化部隊が展開を始めた。
『今の何だ、砲撃命令はまだ出てないだろ!』
『あそこだ!Basis scholaの方向、抵抗者がいた場合攻撃を許可する!』
M8グレイハウンドを伴いながら初動対応の部隊が現れ、封鎖線を築き始める。
しかしながら、指揮所では嫌な報告が入り出した。
≪所属不明ヘリコプターが中隊規模でこちらに近づく!≫
≪何処のヘリコプターだ!何処の≫
LYNX3ヘリコプターが近づくヘリコプターを確認しようとする。
サーチライトが向けられ、無線で交信が開始される。
≪所属不明機に告ぐ!貴機はトリニティの自治区領空へ侵入している!所属・官姓名を名乗れ!≫
ライトで確認したパイロットは思わず顔をしかめた。
白地に青い線が入ったUH-60、そしてテールへ書かれた
≪接近中のシャーレ所属機へ告ぐ!あなたは自治区域へ侵入している!≫
≪こちらはベース・アビドスのシャーレ空中機動中隊である、連邦命令により特殊作戦中。貴官へ返答の要を認めず。終わり≫
シャーレの機体はトリニティの領空へ入った。
アリウスの計画は最初から大混乱へと陥った。
計画的待ち伏せ、無力化されてない正義実現委員会、それに加えてシャーレの早期介入!
ゲリラ戦は網を張られ、封鎖され、ハンターキラーを放たれた瞬間マズい事になる。
「目標と例の大人は体育館方面へ移動中!」
「追撃しろ!予備戦力で退路を確保!」
虎の子と言うべき車両隊、BTR-90が現れ機関砲でトリニティの施設を切り裂く。
「エライもんが出てきたなァ」
カイザーみたいな事するじゃないの、そう呆れる先生にヒフミは「人の事悪く言えないんじゃ?」と思うが、言わない程度に賢かった。
それにまあ、アリウスやカイザーよりはこの大人は頭はイカレテても嘘は絶対つかない。
「アズサ、ランチャーあるか?」
「流石に無いぞ」
「じゃあ、逃げるか」
ロールケーキになったナギサを俵担ぎして走り始める。
30mmの炸裂はシャレにならないなぁ……
「う……っ何が」
「ハローナギちゃん、起きたタイミングは最高だな、祭りは最高潮だ」
「何を……ひっ!?」
鼻先で30mmが炸裂したら納得していただけたらしいが、パニックになられた。
普通にうるせぇなぁ、年相応に助けを求めて叫ぶならあんなことするんじゃないよ……。
体育館まで走って逃げているが、些か予想外だった。
手が早いし荒いなマダム!急ぎ過ぎると老けるぞ!
AFVまで投入したら隠密作戦は台無しだろうが!
「わああ追ってきたああ!」
コハルが壁を破って入ってきたBTRに悲鳴を上げる。
しかし、そのBTRは我々を狙うのを止めた。
車体正面に撃ち込まれたM3MAWSがさく裂したからだ。
「み、ミカ?」
要らなーいと撃ち終えた無反動砲を投げ棄てて、ランチェスターSMGに持ち替えた。
遅れて扉を破って追撃してきたアリウス生徒の小銃班が、銃口から煌めく銃撃でなぎ倒される。
明らかに普通ではなかった、あの落石はなんだ、局所的隕石?ふざけんな。あれは規格外だ。
「なんのつもりだ」
「なにってまあ、クーデター指揮官の登場って感じかなあ、今は”テロ対策の”非常戒厳保安司令官みたいなもんかな」
にこやかにミカが微笑む。
体育館の扉から、M4SOPMODで武装したパテル分派直属が展開する。
ブーニーハットを片方折って曲げた特殊部隊が半円形の包囲体制を敷いた。
「あ。ナギちゃん居たんだ、元気そうだね」
「ちょっと待ってください、色々あり過ぎたのと散々振り回されたせいで、うっ」
「あらら吐いちゃった。」
吐いちゃったかぁ……
いつもの様な口調で何てこと言うんだミカは、要するにアリウスの連中とこの騒ぎを偽旗作戦としたのだろう。
理論理屈は正直なところ納得している、トリニティの政治体制やらなにやらを全部墓場送りにしようというのも理解はできる。
だが俺は職権と権能をもってそれを阻止する、お前の主目標が成功したら俺が仕事上困るんだよ!
体育館の天井をミニガンでぶち抜いて、穴をあける。
ようやく納入されたUH-60がウチの隊員を降下させているらしい。
「あらら、30分以内は早いと考えてたんだけど、先生も打つ手が早いんだね」
「新設した空中機動中隊さ、初陣がこれとは思わなかった」
本音である。
本当はエデン条約締結後の観閲でお披露目するつもりだった。
「なるほどねえ。そうかそうか。みんながシャーレを気にするわけだね」
シャーレの隊員がチャーシューみたいに包まれたナギサを回収、後送する。
その時のミカは、僅かに目の色を安堵へ変えた。
「おかしいなあ、本当は」
どうしたかったんだっけか。
≪全セクションへ、作戦は中止。各参加部隊は原隊へ復帰せよ≫
無線機の命令が僅かに響いている。
深夜のクーデターは終了した。
だがむしろ、ここからだ。テロ集団を追撃しなければ。
ミカは、本来はあそこでアリウスを切り捨てるつもりだったと証言している。
事実パテル分派指揮官たちには治安出動が発令されていたし、各所でパテル派民兵が交戦に入ろうとしていた。
分からないのは、アリウスの武器の出所である。
アリウスは遠き地に追放された。だが待て、追放先で誰が武器を作るのだ?
補修部品はどうする?編成は?無から町も国も生まれない、ある時期を過ぎて以降、共同体は自活能力を棄て、分業へ走る。
だがあの装甲車は間違いなく軍用品、カイザーではないのは確かだ、なにせ規格がまるっきり違う。
シスターフッドを締め上げてみたが「確かに援助したという伝説はありますけど、記録もありませんし武器供与もしていませんよ」と情報がない、記録残せよ。拷問以外何かしたのか話が出ねえぞ聖徒会。
押収した火器類の写真を元カイザー理事に見せたが、あちらも「うちはこんな模造や規格が違うのを作らない!」と怒られたし、カイザーでは無いのは確かだ。
じゃあ、誰が。
【次回予告】
トリニティとゲヘナ、アズサ、先生、アリウス、マダム。
もつれた糸を縫って、神の手になる運命の賽が飛び交う。
古聖堂に織り成される、神の企んだ紋様は何。
巨大なタピストリーに描かれる壮大なるドラマ。
いま、空を流星が駆ける。
次回「賽は投げられた」
いよいよキャスティング完了。