キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
─ローマの格言─
『先生』の居ない8月
ユウカは今日は最悪の日だと思った。この後更新されるかもしれないが、これまでの人生の中では最悪だった。
見る見る内に戦局は悪化している、迫撃砲が、戦車砲が射撃してる音が遠くから聞こえるのだ。
そうでなくてもテレビの放送だけで十分に嫌な気分になれる。
『古聖堂の空が赤く燃えております。公共の治安と秩序を維持するため、連邦公式の780、または1080の連邦緊急放送のみをご信用下さい。緊急事態下での不法事犯は厳罰をもって処分されます』
横の友人も硬直して居たが、決意を固めた顔で「一人で逃げるなんて許しませんよ先生」と呟いた後、懐から、厳重な封緘書類が取り出された。
「ここの最高責任者は?」
「じっ自分です!」
先ほどまで「冷房の聞いた部屋で現場の連中を見る。これぞキャリアよね」と言ってた子が震えながら立ち上がる。
権限とは義務であると言う訓令が良く行き届いている。指揮官級が2足の草鞋組以外だと、先生一人しかいない分、個々の判断は高い。
一般生徒の質で見るとキヴォトス1を名乗るのも伊達や酔狂じゃない。
状況は最悪だが躊躇してられない、金庫を開けるカギを用意する。
「3カウントで開けます」
がちんと音がした。
非常事態作戦規定プロトコルが、公式発信される。
「現時刻を以て指揮を代行、書類を開封する!」
なんでこうなる! 全員の気持ちが一つになる。
内容を聞いたユウカは頭が凍り付いた。無事に帰ってきたら一発殴ろう、そう思いながら。
本人の声が聞こえるような文章と内容は纏めると。
「今日から私がシャーレってこと?」
「はい、おめでとうございます! ユウカちゃん、頑張りましょうね」
通常業務を回し、どこの勢力にも付け入る隙を与えるな。それがどれだけ大変か理解しているのだろうか? 理解しているから自分を指名したのだろう、とりあえず最初の命令は。
「緊急出動! 非番・休暇は打ち切り! かき集めて! 整備班も! 総員に執行実包を配給します!」
飛んでいく予算などを考えるとあの参謀長がどれだけ無茶を振られ続けたのかよく分かる
「テロリスト! 紙の要塞の人員舐めるなよ!」
セイアは夢の通りになったとあきらめの表情だったが、後ろの大人と先輩は余裕そうだった。
「随分余裕そうだね? みんなここに来るからかい? そうなら随分露悪趣味が……」
大人達は真剣な目でありつつも、むしろ勝利を確信したような目であった。
「う~ん、私の聞いた分やアビドスで見ただけだけど、不安はないかな?」
「いやぁ、どの様な襲撃かと思ったら、この規模か、予想以上に小兵だ」
「最高練度の部隊を皇帝に届かせてなお、勝負は1発、どうかなオトラント公」
「その一発で仕留めれたら、皇帝は将軍で終わって居ますね」
「それもそうだな」
こいつ等信用してるのか、してないのかどっちなんだ?
「全てを諦めるより、マシではないかい? ある意味大人同士の最高の信頼だよ」
灰色塗装のMi-28が機関砲をばら撒きながら掃射、地上の車両を粉みじんに粉砕する。
明らかにアリウスはとんでもない兵力をぶち込んでいる。
正気かも怪しい。
「対空戦闘、何のためのバルカンやM2だ! 降下されきる前に数を減らせ」
「MANPADS!」
各所で降下したアリウス生徒が展開、トラック荷台からは運び込まれたBTR-90が展開し出した。
指揮本部がぶっ飛んだ上に、指揮通信インフラがダウンしているらしい。
声が届くなら十分、やりようはある。
「状況は!」
ヒナ委員長が頭から血を流しながら仮設指揮所、まあ良くあるダイナーの影だが、そこに上がり込んできた。
良く分かったなと思ったら、動きの中で伝令や指揮のキレから、目星をつけたらしい、なるほど納得だ。
「本部連絡不能。各所で指揮系統は機能不全だ」
「最高なご気分だ事」
呆れた声が聞こえ、頭に冷静さが帰ってくる。
さてどう手を打つべきか。
いや、なにをするにしても、あのハボックとか言ううるさいのが邪魔なんだが。
「あいつらあちこち爆破してるけど、ここらは何もしないな」
「カタを早くつけたいんでしょうけど、そうもいかんのでしょう相手も」
デルタ分隊のM203の音が響いた。
冷凍トラックの擬装を解いて設営した仮設指揮本部で、アリウス現場指揮官のサオリは端末と双眼鏡を見ながら戦況を確認している。
さあ『皇帝のいない八月作戦』は開始された、今のところ戦況は大幅な増援部隊の手もあり優位である。
シャーレが交通管制しているお陰で道路も比較的空いているから、部隊投入は早いだろうが。
『クジョー4-4からチェックメイトへ。正義実現委員会の中隊が西部から迂回侵入中』
『目標1を発見!ダイナーペロロタウンに車両部隊応援を頼む!』
どうやら目標が見つかったらしい。
「意外と手間取るな……」
「何時だって楽じゃないでしょ」
ミサキが茶化しているかの様な事を言う。
まあ確かにその通りだ、どれもこれも自分がやらねばならない。
「ヒヨリ達を回せ、ヒップがあるだろ」
くそっ、地上部隊の動きが鈍い。
土地勘が無いのは辛いな。アリウスと違い建物は入り組んでるし。
それに高所は大体先客が居やがる。
Mi-8ヒップ輸送ヘリの機内で、いそいそとヒヨリは狙撃銃を組み立てる。
自身の20㎜対物狙撃銃は遠距離にはあまり向かないが、大火力が売りだ。
正直ヒヨリは重いからあまり好きじゃないけど、これを扱える人間が他に居ない。
「ひえっ!! 正義実現委員会や風紀委員の幹部級ならともかく、シャーレの一般隊員*1まである程度立ち上がってますよ、苦しいですよね」
開いた後部から寝そべって射撃しているが、あいつら狙撃を恐れてない。
やっぱり大人が居るからかな、まあ大人は20㎜よか怖いかな、うん。
700から800M向こうからバシバシ撃ってきて、スパスパ壁貫通してやがる。
近づいてきたBTR-80Aが30㎜機関砲を射撃し、店内が更にぐしゃぐしゃになる。
アビドスのカイザーはまだ大人しいと心から痛感している、やること成す事弾けてたけど。
近くでうちの隊員が頭を抑えていた。
「撃たれたか?」
「恐いです、恐いんです先生」
「俺だって恐いさ、つまり同じ病気、臆病さ!はやく銃を握れ!戦うんだよ。自分の身を護れ!」
「はァい!」
泣きべそをこらえながらでも銃を撃てる、それで構わん。
勇気とは5分だけ他の人間より勇気を維持できることだ、そうした人間は泣きべそをかいていても人を離さない。
隣ではデルタ分隊の分隊長も「こえーよ漏れそうだ!」と引き攣った笑みを浮かべているが、逃げ出してはいない。
「対物ライフルに装甲車? 重度負傷者は地下配線から退避させとけ!」
「他部隊との連絡が……」
「よそはよそで上手くやる、それが家だろ。予備計画を既に配給してるから何とかなるよ」
隊員に様子を確認させるが、ついにBTR-90が御出でになられた。
ヒナが単発射撃で対物ライフルにカウンター射撃し、慌てて相手のヘリが射点を変更する。
すると、まだ使える周波数帯のメモ書きを携え、伝令が飛び込んだ。
『あ、生きてましたか』
「よおイロハ、そっち元気?」
『トリニティの連中が元気です、でもまあ戦列は縮小しつつあります』
「そうか!そっちの増援は敵増援遮断に向かわせろ!こっちじゃない!」
アコの奴がへそくりの擲弾兵部隊をヒナと俺確保に投入したいと進言したが、ここじゃなくて増援寸断へ投入させる。
いま兵力集中競争はお互い微妙なタイミングだ、ここでは無意味な陣地戦である。だが増援遮断なら戦略的意味を持たせれる。
やってくれたじゃないか、だが見慣れた光景だ、まだ鼻歌歌いながら散歩できる。
跳弾で機関銃の弾が飛び込んできた。
「先生!」
デルタ分隊の副隊長ががんと身体を押し付けて伏せさせた。
「元気だよ」
「軽傷は自分だけですが、弾薬が各自3マグです! 早期退却を推奨します」
よろしい、だが今は離脱するにしても火力集中されている。
アズサに退路確保の重要性を言っておいて俺が出来なければ意味がない。
「先生これを、講習は少し前でしたが、覚えておられますか?」
IFAK、緊急医療キット。
良い時代だ、いきなり鋸が出てこないのだから。使い方は覚えている、アロナは?
「まだまだ行けます、でもミサイルはもう無理ですよー」
「小銃弾が防げればいい、踏ん張るぞ」
「近くに戦闘中の分隊が居ます、合流しながら進みましょう」
「分隊を小隊に拾いながらの拡張か……悪くない、最短ルートで道を組めるな?」
アロナ、無理を掛けるが生きてる味方と敵の通信を拾え。情報だ、とにかく情報だ!
そう考えていると、突如地上を蹂躙していたハボックがチャフとフレアをまき散らす。
しかしレーザーと光学誘導複合のヘルファイア誘導弾が、ハボック側面へ突き刺さった。
「
「立てェ!俺に続け!陣前逆襲に入る!前へェ!」
アパッチはそのまま一撃離脱でハイドラを使い、敵を薙ぎ払う。
今がチャンス、陣前逆襲を開始し一気に敵を喰い破る。
下げたマスケットピストルを高く掲げ叫ぶ!
そうだ、諸君。凡人やモブなど言わせるな、諸君らの背嚢に元帥杖は眠っているんだ。
正義は誰が守るのか、秩序は誰が守るのか。
「そうだ、俺が負傷したらD分隊の名はどうする?」
「それはその時に、無ければ記念勲章ください、就職ん時に自慢するんで」
「旗もくれてやる。突撃ィ!」
一気に走り出す。
各所からAK74UやRGD-5グレネードが飛んでくるが、逆襲に動揺してまるで動きに精彩がない。
頭上をチェイスするヒップとアパッチの真下で、飛び出してきたゲヘナマーキングの救急車、そしてM113に飛び乗る。
セナの奴がヒナと俺を回収しに最低限の戦力で突き抜けて来たらしい。
「目標1が逃亡!」
『国道まで誘導しろ! そこで阻止する!』
アリウス生徒が指示を受け、路地からやたらめったらの猛攻撃を浴びせる。
路上駐車と放棄車両の数々を最先頭のM113が弾丸もろとも跳ね飛ばして突撃を続けているが、後続を考えねばならない。
「やばい戦車だ!」
「黙って!舌噛みますよ」
国道交差点へ侵入しようとしたチーフテンMk5が砲塔をゆっくりと向け、迫りくるM113を狙う。
砲弾は僅かに逸れて先頭のM113の銃塔を”もぎ取った”が、幸いあの装甲車はガンナーが不在だ。
セナが片手で「委員長」と擲弾銃を渡し、ヒナが身を乗り出して射撃する。
赤リン弾スモーク、さすが衛生要員だ、非殺傷で効果的である。
しかし交差点を抜けようとした途端、M113がBTR-90に横から激突されて盛大に横転する。
「ちっ」
見るからに精鋭の動きで、BTR-90からアリウス生徒が降車する。
「伏せててください!」
猛烈な射撃、ガラス片が飛び散り車体がすぐにスイスチーズの様になる。
幸いBTRではない、砲塔の向きを変えずに突入したせいであれの砲身は曲がっていた。
だが、ただの銃ではなかったらしい。隊員が盾になったが殆どが戦闘不能だ。
「あの女、50口径仕様の自動小銃使ってるわ!」
ヒナがもう滅茶苦茶だと言いたげに、隊員のMCXを借用して射撃する。
ヒナの銃は既に銃身限界を迎え、完全に機能を喪失していた。
サオリはフルオート射撃した自身の小銃を取り換え、ヘリから飛び降りてきたのを回収したヒヨリの対物狙撃銃を構える。
すでに距離は離れている、時速と弾道を計算すれば当たる確率は極めて低い。
それに嫌な音が聞こえる、アパッチの羽音だ。*2
「虚しいと分かってまだ足掻くか」
何に対して言ってるか、不明瞭な言葉だった。
装填したのはAPIT、つまり徹甲焼夷曳光弾、帆布製が多いあれには過剰だが、不確実が多いのは嫌いだ。
彼女はこうした行為に関して、アリウス随一に現実的で悲観主義的だった。故に確実性から放たれた一撃はエンジンへ向かわなかった。
飛んで行った20㎜は、ヒナの銃へ吸い込まれ、砕けた。
度重なる戦闘、過熱、金属疲労でへし折れたヒナの銃の上半身は。
ある意味彼女の願いの様に彼に抱き着いた。
ただし鈍器の様に。
セナは確実性の高い判断として、トリニティの救護騎士団へ飛び込んだ。
幸い、セリナでも分かる様に死の脅威は無かった、まあ少なくとも寝る前に頭痛薬は要るだろうという程度だ。
だがアロナは完全な限界で落ちた、この時アロナは自身の限界を完全に超えていた。
正しく彼女はスーパーAIである、巡航ミサイル2発、20㎜数発、50口径などを度重ねて被弾しながら懸命に維持した。*3
「セナさん! うちの車両を使って構いません! 左ハンドルですが、よろしくて!」
ミネの言葉に、セナは無言で返した。
それで十分だった。
ミネ団長はそういうと、すぐにハナエをシャーレ伝令及び現地支援に便乗させる。
救護騎士団本部は事実上野戦病院であった。そこら辺の廊下に毛布を敷いて救護している。
正直対テロ警戒の一部正義実現委員も動員したいが、やむを得ずこれは止めた、安全も大事である。
しかしながら、思いもよらぬ脅威が出るとは思わなかった。
「貴女達は」
パテル分派! 強硬派がなにの用だとミネは威嚇する。
しかし相手はトリニティの精鋭、しかもミカの子飼いだ、実力でいえば部隊としては正義実現委員全力以外なら戦えるだろう。
「本日1400を以て貴女の患者をこちらで回収いたします。なお指揮権は現時刻を以て凍結とする」
ミネは深く息を吐く。
人間怒りすぎては美容によくない、セリナなどは良くそう言うが、キレてもいいときは存在する。
「いまココを、あの”バカども”に預けろと」
ミネは流麗な動作で、通告してきたパテル分派の指揮官を撃った。
「やめんか馬鹿ども! 目を開いて状況を見ろ!」
全員の目が、建物へ向く。
先生が、起きている。
そして、自身の背中に何かが居るのにも。
「し、白洲アズサ……」
トリニティでテロ警戒に待機していた隊員が各所で小銃を構え、無機質な火力の狙いが向く。
よく見ればそれはシャーレだけではない、自警団や正義実現委員、そして救護騎士団の生徒までが向けている。
「ご理解いただけたか、銃口の時代は終わったよッ!」
「くそぅ連邦生徒会め」
「全トリニティ及び全ゲヘナに私の命令で戒厳を発令する、馬鹿どもを指揮権から隔離しろ!」
今まさに、トリニティにとっての新時代が明けようとしていた。
全員が予想しない形ではあるが。
真夏の夢は終わりか、ミカはそう外を見ていた。
全ては虚しい、とアリウスは言うし。
人を愛せ、としかシスターは言わない。
神はなにも語らない。
正義というと聞こえはいいが、その実あやふやに過ぎてそんなものあるか怪しい気がしてくる。
古書を捲って見れども本なんて主観ありきで書いてる奴ばかりだ、読みたい本も読めやしないし。
他者を救う、というのも自分のする事じゃない気がした。
元はと言えば自分が企んだクーデター、いやそうですらない。
内心こうなる事を望んでいたのだ。トリニティもアリウスも変わる、夢くらいは見ても、期待してもいいじゃんね?
ねえ先生、貴方は世界をどう変える。
戦闘開始から3時間、通信は一部回復して指揮系統は再編されだした。
ドローンを通信中継に大量に投入すると言う暴挙は、マコトが自身のメンツの為に用意したドローンをイロハが再利用して実現している。
つまり、蜘蛛の巣状に配置されたドローンは完全に古聖堂を囲むように通信網を構築している。
「なに、化け物?」
「はあ、何でもシスターみたいな姿の」
後ろを向いて、サクラコを見る。
知らない知らないと首を振るから知らないらしい。*4
ともかく、よく分からん幽霊もどきが溢れてきて各所で交戦してるらしい。
「で、倒せるのか」
「らしいです、でも別のが湧き出してます」
そうなら良いが、無限に兵隊が沸かれたら俺はキレるぞ。
映像は、なにやら古聖堂に再集結しつつある敵部隊を映していた。
「サオリ……」
アズサが一目見て、飛び出そうとするのを捉える。
抜け駆けは良くない、何をするのか教えろ。
「サオリたちを止める」
「刺し違えても?」
アズサがぎゅっと眼を閉じる。
脳裏に去来する数々の記憶。
飢え、内戦、寒さ、訓練、戦友、潜入の寂しさ、仲間。
「これは、私が始めた戦争だから」
「でも俺が巻き込まれた戦争だ」
「だから私が止める」
くるりと首根っこ掴んで回転させ、その目を見る。
「いいか。ここにいる先生は、負けそうな戦争をひっくり返すのが趣味だ。やるなら、誘え。勝てるようになんとかするさ」
何か言いたげだが、暫く沈黙し、首を縦に振った。
気持ちとは別に、サオリから教え込まれた事、確実性の計算式が「こっちのが勝てる」と告げていた。
そうして首根っこを離されると、誰かが手を握った。
「一人で抱え込むなんて、バカじゃないの! でも手を貸せるバカはあたしらしかいないんだから!」
コハル、みんな。
全員バカだ! 勝てるか分からない戦いに全てを賭けようとしてる。
どいつもこいつもいらっしゃいの満員御礼だ、全員が栄光の翼を追わんとしている!
この大人に! この先生に!
皮肉だな、アリウスでは違ったことだ。
笑顔で地獄へ突撃させようとしているけど、でもまあ、此方のは悪くない。
「来たぞ。望みうる限りのワイルドカードが」
降りてきたヘリコプターからは「アビドス最強」とデコられたマスクを着けた集団が降り立った。
大人は汚いんだ、ホシノもツルギもぶつけてやる、ヒナもぶつけてやる、アズサも俺もだ。
『私まで、呼ぶの?』
「ヒナ! お前は勇者だ、引退したら家の近衛隊に編入してやる」
『……仕事きつそうだからそれは遠慮しておく』
くそ、今ならいけると思ったのに!
だが、心なしかヒナは笑顔で言う。
『終わったら、演奏会でも聞きに行きたいな』
「大砲なら今から奏でるよ、これでも自信があるんだ」*5
ユウカが待機してくれていて助かった。
射撃諸元の計算式を模範の数式渡して瞬く間に火力計画を編成するとは。*6
さて、軽歩兵の諸君。
戦争へようこそ!
「効力射始め!」
革命の号砲、ゲヘナとトリニティ双方からの砲兵射撃。
正しくエデン条約であった、楽園はここに完成した、火力と言う名の楽園が!*7
鉄量と火力だけがモノをいう、周辺住民を退去させておいて正解であった! アビドス砂漠より気兼ねなく撃てる、あそこは何があるか分からんし。
映像では幽霊も、戦車も、ヘリも関係なく火力で破壊されているのが見えた。
これだ、野戦砲、これこそ俺の軍になかったもの。大陸軍で使用してた大砲がおもちゃに見える、実際撃つと実感する。
まあ保有反対のユウカの意見は至極もっともだから*8多分封印されるだろう、ビナー相手なら許してくれるだろうけど。
「じゃあ、いくぞ」
鉄火の嵐の下へ、戦争を終わらせに。
一同は購入したてのブラックホークへ乗り込んだ。
古聖堂近くの戦線は壊乱し、分断され始めた。
気を見て突撃に移るシャーレ中心の反撃が行われたのもあり戦線は忽ちに壊乱へ入る。
擲弾発射機や
「おい早く止血しろよ!」
「眼が見えない!」
「止血の仕方なんかマダムから習ってないですよ」
「バカヤロー!!」
「死にたくねえ……」
ふざけている、ふざけている、ふざけている!
あの大人は撃ちやがった! 市街地に野戦砲を! 空中炸裂式で!
サオリはあの大人はなんなんだと、理解できない存在へ、許容できない存在へ恐怖した。
大人は汚い、知っている。
大人はずるい、それも知っている。
だがこれは知らない!
「マダム! 計画は破綻しつつある! 我々は、我々は崩壊しつつある!」
砲撃は全てを粉砕した。
統制は崩壊した、指揮車は喪われた、兵士は壊乱から潰走へ移る!
各所で武器も装具も捨てて逃亡が多発する。
「逃げるな! おい!止まれ!止まらんかァ!」
カタコンベに臨時指揮所を移転した、皮肉にも鹵獲したシャーレの機材が最後の通信インフラだ。
あちこちで士気が崩壊した生徒は潰走し、サオリの呼びかけに答えない。
「にげても、どうせ」
「うるさい! 知るか!」
サオリの呼び止めに、小銃の射撃が返される。
あえかなる帝国の終り、アツコがそっと医療ドローンを飛ばし、ミサキとヒヨリがカタコンベに飛び込む。
地上が尽く破壊され、ようやくマダムから指示があったかと思えば儀式未完了で道具を使うと言う。
「ヒエロニムスを使う? 正気とは思えませんな、現状であれは……まあ、80%も完成していませんよ*10」
自称マエストロと名乗る木の人形の様な大人は、白けた声でそう述べた。
数々の道具、ミメシスなどを生んだ上に、アリウスのハボック等を模倣して提供したのは彼である。
サオリは、マエストロと同じく白けた気分になった。
そうだ、どのみち、借り物なのだ。
巡航ミサイル、ヘイローを破壊する爆弾、武器、ゴースト。
すべて夢幻から現れ、夢幻と消えていく。
「バニタス・バニタータム……」
全ては虚しい、確かにその通りですよ、マダム。
貴女の帝國は終わりつつある。
この敗戦を糊塗しようとあなたは何をする、なんにせよ、虚しい事だ。
演技を終えた役者が居座るのは、無作法じゃないか。
「残存する全部隊に戦闘中止を命令しろ」
『なっ、そんなこと許しませんよ!』
「お好きに仰りなさい、もう、貴女は、アリウスの指導者じゃない」
カタコンベのバリケードが破ろうと、爆発音がする。
「C4足りなかったぞ」
「SMAW持ってこい! ぶっ飛ばす!」
大人と、アズサの声。
あんな明るい声、ついぞ私の前で言ってくれなかったなあ。
「あんたはどうするんだ」
マエストロに尋ねる。
「元々化外の異端作家だ、好きに生きる。君もそうするか?」
「……そうするには、遅すぎたと思う」
「そうか? 後ろの者たちはそう思わないと思うがな」
会釈して、マエストロは消えた。
アツコは、ゆっくりと無線機を手に取り、外へ宣言する。
「我々は、武装解除と投降の用意がある」
その宣言と同時に、ヒエロニムスは紅く煌めいた。
マダムのやつ要らなくなったらすぐこれか! サオリはふざけた人生だと、何を罵ればいいのか分からないまま目を閉じる。
「アロナァ!!」
『スーパーAI無敵バリアー!』
なんだそのふざけたセンスは。
だが満点だ、崩落と熱波を止める事に成功しやがった。*11
カタコンベで籠ってる時点でやると思ったんだよなあ、俺ならやるもん。*12
まさか味方ごとやるとは思わなかった、嫌な思い出が蘇るからやめろ。*13
「うへえ、どうしてこう向こう見ずなのかなあ。おじさん呆れちゃうよ」
「セリカ、シロコ、アヤネ、そいつしばいていいぞ」*14
恐怖のアビドス伝統、後輩愛情注入拳が響く後ろで、アズサが走り寄る。
ガチャンと音がした、アズサのライフルのひもが擦り切れて落ちたのだ。
普段なら握っているからあり得ない音だ、だがそれでよかった。
こいつらの戦争は、終わったのだ。
『封鎖は出来ませんでしたか……』
うちの無線機からふざけた声がする。
「お前が指揮官、いや、指導者か」
『おや。あなたは聞きしに名高い連邦生徒会の走狗、または独裁者どの』
昔のフランス人のが俺の事罵倒してたぞ。*15
「まあ色々、言いたいことがあるんだが、長いから要約してやる」
すうと息を吸い込み、懐かしきコルシカの言葉を贈る。
「ヴェンデッタ*16してやるから覚悟しろ!」
ちなみに、コルシカでは大体相手を殺し尽くしてヴェンデッタは完了とされる。
生粋のコルスはやばいぞ、お袋が良い例だ。