キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
─ローマ法民法─
ミカは自身のランチェスターSMGを装填し、更にソードオフを装填する。
単純な暴ではミカは恐らく、キヴォトス随一だった。
圧倒的パワー、馬力に物をいわせればすべての道理が引っ込む。
「どうしても行くんですか」
ナギサは何かを言うべきなのは分かるが、それでも何を言うべきなのか分からなかった。
急速にセイアが快復しつつある、それを聞いたミカは、それまでの状況を聞き、色々な時代が終わった事を気付いた。
茶会の時代も終わりだ、良いか悪いか分からないが、それでも新時代だ。
では、旧体制たる私はどうなるだろうか。
責任の取り方は良くは知らないが、それでも心の奥底が何かを告げていた。
皆には夢が必要な事と、旧体制の終焉に際して自身がすべきことは。
人々には空想の余地が必要で、過去を振り返れるようにしなくてはならない、そうしなければトリニティの意味自体が無くなる。
「みんなの10歩先を行けば良い時代も終わりかな」
最恐の暴力はいま解き放たれた。
一つの季節が終わる嵐として!
バカでかいドリルが回転する音が響き、カスミがひいんと声を上げながら採掘を続けている。
さっき連れてきたゲヘナ懲罰大隊、元温泉開発部である。
なおカタコンベ内で温泉がわいた場合、事件解決後温泉建設をして良いと褒美があるから、ただ働きではない。
「耐震は大丈夫か、資材は足りるか」
「地盤がしっかりしてるから内張加工をしつつ進めているが……まあ何とかするさ」
カスミは出来ると出来ないをしっかり言うので、今のは出来ると言う意味である。
故古聖堂では条約は瓦礫に囲まれたが、締結された。
小賢しい書き換えは俺が修正してやった、条約すりぬけをしたければプロイセンくらい踏み倒してこい。
敵の前線指揮官と思わしき部隊も捕縛し再編成後の突入準備を整える。
待ってろよぉ、テメェの面に榴散弾ぶち込んでやる。
「先生何背負ってるんだ?」
「防毒用燃焼弾発射機、料理屋から借りた」
「要するにサーモバリック弾頭だな!」
FHJ-84ランチャーは閉所じゃダメだろと言われたので、それもそうかと思いながらM113に戻す。
アズサは少し不安げに尋ねた。
「誰に使うんだ?」
答え次第なら止めると言う顔だが、気負い過ぎだ。
「大人が子供相手に武器何て使うかよ、というか俺もう太ももにデカい穴あるしな」
それをいうと、全員の肩が震えた。
おいおいホシノ、そんな怖い顔するな。
「キヴォトスに来る前、ツーロン攻略で撃たれてなあ。衛生士官がアホでなあ。足斬るぞと言われたんだ」
「先生よく死ななかったな」
呆れた大人だとアズサが言いたげに、地図を確認する。
情報将校としてウイを確保してきたから、資料確認は正確だ。
「あんた、いや、貴方が先生か?」
サオリ、とかいうかつて指揮官だった少女が尋ねる。
一目見て分かる良い筋肉と顔つきだった。
「ああ、アズサが言ってた、今回の前線作戦指揮官だろ? 50口径ばら撒いて、ヒナに20㎜当てた奴」
グラサン*1をゆっくりと取る。
「言いたいことは分かるが一つ言う。信用できないなら別にあんたでも好きに呼べ、そして怒っても居ない。逆にあんなクソみたいな作戦であそこまでよく動けたな、凄いよお前」
悪い兵隊は居ない。悪い将校が居るだけだってな。ごろつき崩れと敵前逃亡は許さんが。
何だ? 珍しい生き物見る目で見やがって……。
「まぁいい、一緒に来い。アズサ一人に案内させるの大変だと思ってたんだ、来るか? 積もる話もあるだろう。まぁアズサはその代わり、地上司令部から他の入り口の案内に向かうが」
「後ろからの弾は怖くないのか?」
「俺はお前がそんなバカならもっと楽できたと心底思うだろうな」
本音であった、あの瞬間、大砲から飛び出したのは”俺”だ。
すなわち一撃ですべて一切合切を粉砕する鉄拳であった。
地下にこいつらが司令部移転したのは正直困ったのだ、爆破する訳にはいかんからな。
「で? リーダーとか言われてたが、お前がサオリで良いんだな?」
「ああ」
「後ろに居るのがアリウススクワッド?」
「そうか、いい仲間だな。此処まで戦況が崩壊しても一緒に居るんだ。友達は良い物だ、大事にしろよ?」*2
全員で変な生き物を見るような目を止めろ!
まったく、これだから敗戦して建て直した事が無い奴は。
権力以外で付いてくる奴は凄いぞ、なんだかんだ信頼できる。
「しかしまあ、綺麗に吹っ飛んだな……」
円形に天井が開いていた。
雨は止みつつある。
「全部隊の初期配置完了」
行こう。
「状況を開始する」
全力で前進するのはシャーレに納入されたばかりの重車両、M113FSV。
後続にM113ACAVと、同じく納入したての連装60式自走無反動砲が続く。
シャーレの手持ちの機動火力を全て投げ込んでいると言っていい。動かしてるだけで大赤字だが、今回ユウカは承認してくれている。
入口が見えてきた、あの暴君に相応しい曲はあの曲ただ一つだ。
メロディは同じ曲はあったので、ヴォーカルOFFにしたこの曲が、そのまんま当てはまる暴君に出会えるのは俺もビックリだよ。
革命時代を思い出す、ラ・マルセイエーズ*3はこういう時には良い曲ではある。
「うへぇ、凄い物騒な歌だね」
「おい、サオリ一緒に歌わないか? あの虚像の哀れな大人。出来損ないの化けの皮、一緒に剥ぎ取りに行こうぜ」
化け物を見るような顔するなよサオリ。
「案外大したことないぞアイツ、此処で出会った中で最弱だ。まだロールケーキガールの謎解きの方が苦戦した」
「先生は……」
サオリが、ゆっくりと口を開いた。
畏れと疑問と恐怖と、羨望を感じながら。
「先生は、指揮官だし、大人だ。なんでここまで、前線に居るんだ?」
「信頼出来る奴が後方を、連絡線を、護っている」
「なら、なおさら、なんで」
「指揮官は兵士の常に先を、10歩先を堂々と歩かねばならねえんだ。大人の責任だな!」
いやあ、セリュエにしろなんにしろ、泣けるよなあ。
結局単純な話をすれば名誉と栄誉が我を呼ぶのだも。兵隊は因果な仕事だが、ここだけは全ての根幹だ。
結局先頭に立つ奴が偉くなる、もしくは偉く死ぬ。
「自信が無いようなら言ってやる、お前らは強い。強かったからアレだけ砲撃したんだからな。対砲撃防御を教えなかった、アイツが悪い」
『警報! 前方から戦闘騒音』
なに? だれか先走ったか。
その答えは、ある意味、正しかった。
斜陽の帝國は崩壊へひた走っていた。
「アリウスは年中賑やかなのか」
「いや……これは……」
サオリははっきりとそれを見た。
反乱だ……!
権威と権力を恐怖で括る、確かに悪くない気がする、だが行き着く先はこれだ。
ロベスピエールはあれでまだ夢と理想を作ろうとしたから閉塞しても長持ちはしたが、これじゃだめだ。のこのこ帰って王権は神から与えられたと信じた馬鹿な王党派と同レベルだ。
今度はあれより早く潰す!
『反乱兵に告ぐ! 直ちに帰順しなさい! 投降せよ!』
「スゲェな。天井しらずのバカだ!」
旗色が悪くなりゃ主義忠誠全て無しだ! いよいよ末だな!
「希望を配り、与えるのがリーダーなわけだから、アイツよりお前の方が大人だぞさっちゃん」
「……さっちゃん?」*4
「俺が適当に決めた」
この大人はやる事、言う事訳わからんな。
サオリはなにも分からんとさじを投げたくなった。
上空では双方が撃ちあうロケット弾の軌跡が赤く燃えていた。
叛乱がいつ開始されたか、それはあまりはっきりしていない。
後日の調査中に何人かのアリウス生徒は、敗走した直後のバシリカでの出来事が波及したせいではないか? と述べている。
まずその発端は、マエストロがベアトリーチェを痛罵した事から始まったらしい。
混乱期であったから、ドアが開いていても誰も気にしなかったし、混乱していたから誰もがそこに居た。
そして上層部の動揺はアリウススクワッドが降伏した事実から一挙に震動した。
最初の一撃が始まったのは、進撃予備として待機させられたまま潰走に巻き込まれた戦車隊だ。
「早く部隊を立て直せ!」
アリウスに居る威張り腐った大人はこれまで教育をろくにしなかったツケが、失政が突き刺しに来た。
そしてスクワッド降伏を聞いて、アリウス生徒の中に居た何人かの王党派というべき、すなわち正当なアリウスの指導者はスクワッドにいる秤アツコではないか? と考え始めていた者たちは決断した。
「我らがアリウスの危機だぞ!」
「なんだって? 危機?」
面白い冗談だ、と戦車兵が笑い始めた。
デサントしていたアリウスの生徒たちも釣られて笑い始める。
幹部の大人には分からなかった、昔、アズサとか言うクソガキが生意気言っていたが、こいつらは?
泣いてはいけない、笑ってはいけない。
そうベアトリーチェは教え込んだのではなかったか?
指導員たる大人の言葉を子供が笑って良い筈がない!
「解任させてやる! 懲罰させてやる! 蒸発させてやる!」
「もう遅い」
アリウス生徒たちの反乱の始まりは、そうして開始された。
反乱軍は瞬く間に機甲中隊を中核に軽歩兵1個中隊と自動車化歩兵2個中隊からなる大隊戦闘団へ変わった。
新たなる朝を迎える時が来た。
そして叛乱分子に激怒したベアトリーチェがなけなしのミメシスを投入した時、あの男は突入を開始した。
流れてくる無線と放送、怪文書の類を精査するに組織的な反乱が開始されているのは確実だった。
「やっぱり俺が教えてあげなきゃ駄目かあ~?」
悪人面を全開に笑顔を見せるこの大人はマシだろうけど、それでもここは故郷だ。また内戦にしたくない。
アツコは地図を掴み、ここからバシリカへ行けると言った。
「姫……いいのか」
「うん、それに、私はここのみんなも助けたい」
先生は至極嬉しそうに「良い答えだ」と言った。
なぜ嬉しそうだったかはよく分からない。だが半刻しないうちに統制が崩壊し、アリウスは消えてしまうだろう。
各所で予備役招集がされても、予備役が来ないか、指揮官が居ない。
命令は錯綜し、指揮官は迷っている。
しかし流浪の民となるとしても、私にはやるべきことがある。
目的地につくと、アリウス生徒たちがそこに居た。
疲れ果て、くたびれた目であった。
仮設の防御陣地は虚しく見え、土嚢は砂の柱の様に溶けて消えそうだ。
『やはりここに来ましたか』
ベアトリーチェは不機嫌そうに言う。
『ロイヤルブラッドを確保しなさい』
命令が出た、アリウス生徒たちはどうするべきか分からず、視線を右往左往している。
Ⅿ113から降車したアツコは、何かを口ずさんでいた。
それがなんであるか、すぐに分かった。
アリウスの校歌だ、キリエだ。
呆気にとられたように、生徒たちは武器を下した。
『よ、よくも私のバシリカでそのような歌を!』
「今日からここの標語は自由!平等!博愛!に変更だ、お前より強い俺が今決めた」
『なんですって、一つとして実現されたことがないものを並べ立てて! それは詭弁でしょう、嘘でしょう、虚妄そのものです』
心底呆れたように、先生は言う。
「だからこそ、この世界で戦い、勝ち取る価値がある。腐りきってても作り直せるんだよ。アッシニア紙幣よりは救いようがあるぞアリウスは」
アッシニア紙幣ってなんなの? と思いつつ、生徒たちが先生の話を聞く。
「笑って死ねりゃ最強だ。かつて俺が率いた精鋭の様に」
この大人狂ってる。
全員が確信した。しかし、この狂気は抗いがたい魅力があった。
ある意味それが権威の根幹だった。アリウスにこの日教訓があるとすれば、カリスマ的な狂人は全てを打ち砕けると言う事に集束するだろう。
イタリアの山岳で、北アフリカからシリアの砂漠に、ドイツ地方の平野に、無敵と謳われた軍隊を作る男。
小男、痩せて青白くて、目がぎらついて、尊大!
だが傲慢と誰も思えない。
『狂人……!』
しかし邪悪では無かった、必要な時にモラルを気にせず実行する勇気があった。
ある意味一番最悪なのは、危険を畏れないでリスクを手玉に取る点であった。
コルシカ、革命、戦争の嵐で、この男は善悪を超越していたのかもしれなかった。
「虫より目があるのに状況見えないのか?所詮は何物にも慣れない偽教者か。ロイヤルブラッドへの拘りってのは嫉妬だろ?」
もっとも、彼が一番ベアトリーチェを許せなかったのは、指揮官が命を惜しんで優秀な兵隊を使いこなせなかったからだと、のちのち何人かは語るのだが。
「私の武器は寛容だ。アリウスに必要なのは平和だ、君は孤立し、見捨てられる。」
男の人生に後悔は不要である。
何処かの空間は、劇が急速に閉幕へ向かう姿を見て、全てが終わる事を理解した。
そう、全て終わった。
トリニティの閉塞もゲヘナの対立も全てが終わろうとしている。
「そろそろ、君も起きる頃合いだろう。そろそろ帰りたまえ、まぁ皇帝陛下がトリニティを焼いても笑顔で許してくれ」
タイユランはそう告げた。
「ついでにアビドス基金に愛の募金を!」
「君も厚かましくなったねぇ……」
自称警察長官は先ほど「終いですな」と、退室した。
何しに行くのだろうと思ったら、息子を相手しなきゃいかんと言った。
あれが父親のする顔じゃないだろと思いつつ、自分が向き合う物は見えた。
「またね」
「ADIEU!*5」
もう二度と来る気は無いね!
……ひさびさに、寝覚めがよさそうだ。
扉を開ける、口紅をつけた黒い服装の長身の男性がすれ違う。
「あれ」
「お帰りはそっちですよ」
そう、その男は告げた。
扉には確かに「ジャコバン」と書かれていた。
ミメシスで生み出されたゴーストをありったけぶつける。
ベアトリーチェは総力戦を仕掛けた、叛乱軍もなにも構うものか! 悪魔が来る、あの人食いが来る!
狂乱のレミングス、礼拝堂から目標へ向かう地下を進むため、60式自走無反動砲やM113は遅滞戦闘で退路確保に交戦する。
地下道を進んでいるが、屋内戦闘は血みどろの物になっている。
「しっかり支えてくれよ」
「お任せを!」
最近では猫も杓子も正義を持つらしい。
隊員は良い笑顔をするようになった、実に燃える眼をしている。
M72LAWランチャーをぶちかまし、ミメシスの塊を吹き飛ばす。
M2ブローニングを無理矢理増設した60式自走無反動砲が火力支援をぶちかまし、12.7㎜を乱射する。
するとボウ!と青い炎が飛び出す。
「くそったれ火炎放射器!」
「くたばれ!」
60式が106㎜を仕返しに撃ち込み、ミメシスが爆ぜる。
手勢はあまり割けない、地下通路を進めるのはわずかに小銃班程度だ。
『バルバラを投入! これ以上の進撃は何としても阻止しなさい!』
ミメシスの中から、飛び切りの怪物染みたシスターの亡霊が現れる。
右腕にハイドラロケットの束を担ぎ、左腕にブッシュマスター機関砲を抱いていた。
「うわまた変なもん出たな」
「かつて最強のシスターと謳われたバルバラだ! だがあれは……」
サオリが困惑したような声を上げている。
恐らく根こそぎ動員で投入したのだろう。
腐っても神秘、というべきか小銃弾射撃を容易く受け止めてやがる。
「アホほど堅いじゃねえか」
『そうでしょう、そうでしょう。これが大人の権威!』
「なら早く投入しろバカ!」
通信越しにそんなこと言ってる場合じゃないだろ。
だがそれの理由は察しがついていた、この女が逃げないのは名誉欲ではなく何らかの実利。
くそ、リオ会長やカイザーのアホのが読めないから面倒だったが、何するか分からんアホも困る。
時間は取られたくない、だが突き破るに手が足りないか。
「やっほー先生、猫の手も借りたいところなんじゃない?」
「あ!?」
目の前に立つミカは、正しく完全装備と言うべき姿だった。
背にはMINIMI、NLAW、そしてランチェスターSMG。
服も普段の制服ではない、完全な戦闘服だ。
「なんで居るんだお前」
「んまあ、要するに、旧体制が終わるにしても、終わり方は色々あるじゃんねって感じかな」
「で、飛び出してきたと」
「理解が早いね」
ええいコイツはコイツで短絡的だな、要するに政治なんだろうが。
だが一番欠けてた戦力だ、ホシノたちやヒフミは退路維持から離せないし、正義実現委員会は風紀委員会と戦線を組んで敵主力を押し返そうとしている。
すでに各所で叛乱軍と合流しているが、ミメシス相手に肉弾出来る飛び切りのバカを引き抜くのはマズい。
「ちなみにだが、やれるのか?」
ただならぬ気配は分かる。
だがどういうものか分からない。
『大丈夫ですよ、ミカさんは短絡的で暴力的でアホですけど、こういう時一番アテに出来ます』
ホログラム越しにナギサが、ミカを見て言った。
ならまあ、信じてみるか。
「OK、突破する隙を頼むぞ」
「しょーがないなーぁー!」
ミカがフルバレルの長銃身、機関部に至るまで特注のMINIMIを構える。
腰だめでそれを全く体幹をぶれさせずに乱射、右腕のハイドラを破壊する。
「わァお」
滅茶苦茶だ。
そう、ナギサは知っている。
ミカは生まれついての暴君気質、毛虫ついた枝渡して驚かせるしぶん投げるし、言う事聞かないし、気品は多分棄ててきた。
度々セイアを高い高いして高度10Mくらい跳ね上げたり、105㎜砲身で野球やろうと言い出すし、やる。
だがナギサは知っている。
この女はやると決めたらやり通す、暴力を厭わぬ最強の札付きが!
「あらら、壊れちゃった」
MINIMIの溶けた銃身を特に気にせず掴み、バルバラの顔面へ殴りかかる。
「やれやれヒロインに助けられちゃ敵わんなあ、先に行くぞ!」
返事代わりの、ミカのキリエが聞こえた。
神秘と魔術を貫通する圧倒的暴力の雄叫びであった。
ベアトリーチェ最後の要塞は崩壊しつつあった。
生徒は殆どが逃亡し、決めかねていた者たちは堂々と歩いてくる秤アツコ、すなわち正当なる指導者のがマシだと武器を棄てた。
アリウスの大人は逃亡か降伏か玉砕かの三択が迫られている、ほとんどが前者を選んだ。
亡国、もはやこの言葉である。
依然として、外では激戦が続いているが、もはやそれ自体に意味は無い。
炎上するFIAT装甲車やチーフテン、センチュリオンにLAWをぶちかますシャーレ隊員や60式自走無反動砲がダッグインしてチーフテンへ近接射撃する。
直ぐ近くではM113FSVがアリウスのRPGに集中射撃されて爆ぜ跳び、前進してきたトリニティの砲兵がM249分隊支援火器の隣で直射する。
ヘルメットも装具も失ったぼろぼろのシャーレ隊員が戦友を担ぎながら後送する頭上をTOWミサイルが飛んでいき、BTR-80Aへ飛び込む。
戦闘に勝ちも負けもあるのか、分かる訳がない。
かつて送電塔だった鉄塔へハボックが突き刺さって、燃え盛る車体だけのチーフテンや粉々になった60式の残骸が濛々と黒煙を並べ、まるで無数の墓標の様に立ち並んでいた。
「突撃ィィィ!」
M16A4に銃剣を装着しシャーレ隊員たちが殴り込む。
散兵戦は古来からの白兵戦へ姿を変えた。
ハンドガードを握りしめて振り回すもの、携帯スコップをふりかざすもの、ストックで殴り掛かるもの。
戦闘の最中に、吹き飛んだBTRの近くで脳震盪で座り込んでいたアリウスの生徒は目の前の全てが理解できなかった。
「何のために戦うんだ。もうわからない。わからない。」
全てが破局した。
「なにが、なにが悪かった」
計画は何処で狂った。
なにで躓いた。
「全ては貴様のせい!」
「おっ、当たったじゃん、だいせいかーい、ありがとな!こんな物語みたいな勝ち方くれてよ」
2人の大人は遂に相対した。
そこからの事はさほど語る必要も余りない。
「貴方ならわかるはず、生徒を、世界を侵犯し、救うことも出来る大人なら!」
つまらなさそうに、先生は担いだFHJ-84を構える。
「俺は与える者、導くものだ」
「なら分かるでしょう! 崇高へと至る貴さが!」
「テメエよりバラスが統治してる方がマシだ!」
あいつ、金にがめついけど俺の助言は聞いた程度に頭回るしな。
俺が成りたい、なろうとしたのは。
復讐者! 世界をひっくり返す事! そして与え導く者!
その為に天を焼いて地を焼いて敵を殺す!
「ふ、ふざけている! 貴方はそんなことを」
撃ち出されたサーモバリック弾が直撃し、一気に燃え上がる。
「枯れたババアはよく燃えるなあ! スタール夫人にみっちり教育されてこい!」
あのクソババア、頭良かったんだよなあ。
ラブレターが気に入らなかったから、破いたりしたら怒って敵対したけど。
まああのババアならキヴォトスでも霞まなさそうだが、二回目はごめんだ!
「お、形態が変化してる。蟲じゃなくて木だったかぁ……。アイツは宿木が精々だが、無様だなぁ、あんなもんに成り果てても死にたくないのかねぇ?」
すごいぞ、後でミレニアムのクソガキに資料提供してやろう。*6
しかしここまでして逃げないのが気掛かりだ。
急速な形態変化は不吉なほど煌めき、周囲に力場を発生させる。
「化け物とか色々言われたが、相手が化け物なのは初めてだなあ、あんまり強くなさそうだが、ドラゴンとかにならないのか?」
「のんきな事言ってる場合じゃないでしょ」
「だって、こんな子虫に煩わされた俺の身になってみろよ、こんなのにコルスの報復を使うってバカらしいじゃん」
ミサキが遮蔽へ連れ込む。
無論ただ手をこまねいている訳じゃない、狙うべきは奴じゃなく。*7
「しまったステンドグラスが!」
お袋が見たら怒られそうだ、教会のステンドグラス吹き飛ばしてしまった。
まあイエナの会戦でも砲兵の道を通す擬装のため、町焼いたりしたから今更なんだが。冒涜の異端のクソだ。殺せないと俺が殺されそうだ。
儀式の中断、よりにもよって色彩、それはあまりに危険な賭け。
本来ならば誰かを生け贄にしていただろうに、ベアトリーチェはそれが出来なかった。
恐怖! 儀式失敗よりアイツが怖い! あの男が!
だから手を染めた、この異端の手法に!
「何故やつに、勝てない……!!!」
声も出ない。
不吉なきらめきが迫る。
「ならばお前もろとも」
もう遅い。
「なに」
ゴルゴンダが、そこに居た。
「サブジェクトはクラスDへ格下げ。知らなくていい物です」
「ですから、危険物は排除されねばなりません」
「さようなら貴婦人」
「そういうこった!」
縮退、爆縮。
炸裂と消滅。
ベアトリーチェはただ局所的クレーターを遺して消えていった。
「異端は火あぶり、誰が言い出したことなんだか」
そう言葉が聞こえ、横を見る。
木の人形の様な男だ。
「誰だ」
「マエストロ、とでも」
「黒服のところの奴か? まーた、こそこそ仕組んでたか」
「仕組まれたのが適切です」
不満げな声を上げて、マエストロは転がっているAKをしげしげと眺める。
「私がこんなもの作らされるなんて」
「出元はお前か」
「ええ、作りたかったヒエロニムスは誰かが砲撃したせいで滅茶苦茶だし」
当たり前だ。破壊兵器のさばらせるわけねーだろ、と呆れるのを無視して、帽子を手に取ると、マエストロは椅子に腰かけた。
「拙い物を見せて汗顔の至りです。作りたい物は作れなかった」
「書きたい物を」
「書いて何が悪い?」
「有害だな貴様」
マエストロはそれを聞いて、ふらりふらりと何処かへ、影の中へ溶けていった。
スランプの作家みてェな雰囲気してるくせに兵器供与出来るのはふざけている。くそ、俺は予算措置と戦い続けてんだぞ。
「せめて詫びでなんか寄越せ!!」
石を投げてそう叫ぶと、後ろから爆発音がした。
NLAWは打ち切った、MINIMIはぶち壊した。
ソードオフは折れたし、ランチェスターは弾が足りない。
ミカは度々拳と蹴りを投入しているが、神秘を拳に込めてぶち込んでなお足りない。
「ミカ!」
先生の声がした、私の結末はこういう物か、悪くない。
たまには正義の味方も悪くない。
「ミカ! 15歩後退!!」
やけに具体的じゃんね?
よし、従ってみよう。
後ろへ大きく跳躍する。
『だーんちゃく、今!』
ピカッと天井が光る。
まて、ナギちゃん、何を持ち出した!
爆風と衝撃波が襲い掛かり、思わず身体が跳ねる。
「よし、キャッチ!」
誰かに抱きかかえられる。
これは、先生?
なんで。
「借りは返したぜ。お姫様」
しれっとそういう事が言えるの、ずるいなあ。
『目標に正確に着弾!』
「大変結構」
バルバラは、急速にその構成を崩壊させて溶けていく。
「なにしたの?」
「炸薬抜いた203㎜砲弾にシスターサクラコが祝福を与えた水銀ぶち込んで叩き込んだ」
お前のお陰だよ、標的を常に観測し続けてくれた。
そういうと、ゆっくりと降ろした。
『全アリウス生徒へ告げる。私は、アリウス生徒会長、秤アツコ』
放送の声が聞こえる。
『各部隊は戦闘態勢を解き、以下の場所に集結する様に。ポルタパシス広場、影通り出口、トレウ大聖堂、旧市街地出口』
アリウスは事実上終わりだ。
トリニティもゲヘナも変わる。
「ああ、そう」
先生は野戦通信機を渡し、言った。
「セイアちゃん、起きたそうだ」
案外、悪足掻きはしてみる物だと思う。
でもねセイアちゃん、この結末は予想できなかったと思うの。
全て失った。
虚数と無意味のはざまで、ベアトリーチェはその部屋のドアを開けた。
丸いテーブルに飾り気のないコーヒーが香り、三人の男が居た。
「「「
そのドアの名前は理想世界、誰かが夢見た楽園。
平凡で被差別階級の首切り人と、自由を味わった事が無い男と、生まれついて自由を得られなかった王の部屋である。
聖域に踏み込むとはそういう事である。
【次回予告】
長い、あまりにも長いアリウス戦争が終結する。
最後の戦い。
謎のカタコンベに投入される兵力、2174名!
永遠不朽の自由を信じ、前へ進む!
四日続けば、シャーレの予算が吹っ飛ぶ。
だが得られる物からすれば蚊の涙。
ささやかなりと野心が嘯く。
次回「 エピローグ 」
マダムが犯した最大の誤り、それは奴を敵に回した事だ。
ベアおばがどうなったかは、皆様のご想像に。
神を欺こうとした者偽証の罪人は将軍であり皇帝でもあった男と国民に全て剥ぎ取られました。 "Vanity of vanities, all is vanity."すべては虚しいですね
皇帝のキヴォトスでの栄光の燃料には再利用されましたとさ。