キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

30 / 148
Ab ovo usque ad mala(卵から林檎まで)
─ローマのことわざ、ローマの食事は卵から始まり林檎で終わる、最後までやりきる事の意─


同じテーブルで好きな物を食べたり飲んだりして夢を語り合う。

それこそが素晴らしいものでは無いかね?


エピローグ

 

 

 口紅をつけた黒い服装の長身の男性*1が椅子に腰かけ、見送って来たよと告げる。

 

「あ~あ、引き回しの方が楽だろうね、それは……」

「師、私には見えないんですけど……?」

 

 先輩は不可思議げにしている。*2

 

「まだ、君にその呼び方は許してないがね。キヴォトスの子供には刺激が強いからね、まぁ大人の責任を果たせない者が身の程を弁えないとケジメを付けられるわけだ」

「大人になるってのも怖いですね、まぁ私は永遠の学生ですけどね!」

 

 何時も居る怖そうでも可愛がってくれる大人は、どうやらあの大人への罰で盛り上がっている。

 モフモフと可愛がれる後輩が居なくなって少し寂しかった。

 ところで、あの理想の世界とはなんなのだろう? と問うと、タイユランは言った。

 

「空を覆う鳩の群れとあまり変わらんさ」

 

観ないと信じないし一瞬のまたたきなのかもしれない、忘れる事は絶対に無いが。

 

 

 

「信じられん、アリウス生徒はまともな証明書を持っていないぞ」

 

 なんじゃぁ、こりゃぁ! 

 戸籍もねぇ、まともな地図も通貨も無いと来た、あるものは廃品見たいな兵器と戦う事しか知らない子供だけ? 

 アリウス自治区数か所で武装解除勧告や戸籍確認しているが、なんも分からん。

 頭痛くなって来た、治安維持も必要だ、旗印としてのアツコも指導者としての教育が必要だ。

 シャーレの年間予算3年分が一気に消えるぞ、活動費出してきたユウカが疲れた声で、「維持費用はトリニティと連邦生徒会に投げましょうよ」と提案している。

 良い案だがそれは無理だろう。

 

「最初の1週間だけ担当して、トリニティが組織で動けるようになったら、プログラム渡して撤収です」

「無理だな、統一は夢だが、飢餓に瀕した奴はまず重湯からだろう?」

 

 まず給水支援、建設。

 地図も作る、でもその前に人口統計、うう。

 というかそもそも我々も大損害だ、重傷及び気絶80名負傷340名損失車両20以上で、民間資産も随分やられた。

 すなわち起こるのは重装備化である。

 

「オブザーバーが手一杯*3だよなぁ、さっちゃんとアリスク諸氏。俺に期待しているが、前任者がクソ過ぎて俺の領域外だ……」

 

 悲しい顔すんなと。分かってたみたいな雰囲気出すな、俺を奴と一緒にするな、訴訟も辞さんぞ。

 くそうくそう、ロマノフ王朝みたいなずさんな管理しやがって! ラッダイト運動で抗議するスペイン人みたいなアホみたいな統治をしやがって。

 

「とりあえず、地図が必要だ。測量を始めるぞ。区画も確認だ! とりあえず炊き出しも開始する、復員……あー普通の生徒のように暮らすようにする手続きだよ、シャーレでできる範囲ならする、病院と学校も必要だ!」

 

 さっちゃんは面白いなぁ……。

 やるべきことは多い、ミレニアムから測量機材を買おう、ゲヘナから資材を買おう。

 レッドウインターの工務部も動員して住居を再建しなければならないし、ヴァルキューレから法務担当を呼ばねばならない。

 

「ここに1週間、できる限り法と秩序を与える」

「出来るのか? 先生……」

 

 サオリが疑問を感じるのは分かる。

 

「似たような事は何度もした、だが今回は予算と人手と時間が無い。後さっちゃんは知ってるか分からんが、俺な。上と一部に誤解を受けてあまり強く動けないんだよ」

「えぇ……」*4

 

「アレだけ滅茶苦茶しておいて」と呟いたのは聞いてるからな? もうしばらくさっちゃん呼びだ。

 真実を言うんじゃないよ、傷つくし怒るぞ。

 

「そう言えばさっちゃん、アツコの仮面。あれ何の意味があるんだ? 呼吸補助具とかか?」*5

「ああ、これは……」

 

 ベアトリーチェが贄の勝手な死亡を恐れてつけさせた奴らしい、外しちまえそんなもん! 聞いてて腹が立つ。

 変な愛着があるにしても、もっと良いの用意してやるからな。

 ミサキは花粉症らしい。大変そうだよなあれ、俺はまだなったこと無いけどな。病院に相談に行くぞ!

 アリウス中に響く、ラ・マルセイエーズとアリウスの校歌、トリコロールがあれば、共和制フランスだぁ、トリコロールは本当にやめてくれよ。*6

 後でここも変えておこう……

 測量に出ようとしたら、上の茶会からお呼び出しだ。他の隊員に指示を出し。

 

「茶会から呼び出しされたので上に行くが、アリスク諸氏一緒に来い。正式に挨拶に行こうぜ! 文句を言う奴は俺が許さん」

 

 おーおー茶会がフルメンバーだ。

 ようやく三人揃ってくれたか。

 

「よぉ、お茶会の皆様。此度は何のご用件で?」

「……皇帝、げふんげふん、先生もうこれ以上トリニティで戦闘は起こらない、起こさないよな? もう野砲が効力射撃することは無いよね……?」

「初めまして、セイア嬢、俺の事随分知ってるが、どこでお聞きに?」

 

 目をそらして色々考えてるらしい。

 

「夢の中と未来視で色々確認できてね。中々イカレ……ユニークだと聞いていてね」

「セイアさん起床してからやたら、アグレッシブで……先ほどここに付いた途端「この頭ロールケーキめ!」と叩かれまして」

「セイアちゃんに殴られても、たかが知れてるじゃんね。やめてよね、本気を出したら私に勝てるはずがないのにね」

 

 手すきの105㎜空薬莢をナギサが手に取るのを見て、ミカが両手を上げる。

 ミカの方は先ほども見たがお色直しはしてないらしい。

 

「ミカはイメチェンか? 随分ロックだな?」

「砲声と煤が似合う先生よりましじゃない」

 

 こ奴ぬかしおる。

 

「後ろの子たちがアリウスの生徒の中心ですね?」

「おう、彼女達はシャーレ預かりだ」

 

 アリスクの連中に挨拶させる、人間関係はこうやって始まるのだ。

 ミカの服装とアツコを見て、いいアイデアが出た。アイディアのパクリだが、異世界だ。許してもらおう。

 モモトークを使い連絡を取る。「ミカが本気でやるの?」と今まで見たことのない顔してるが本気だ。サオリが心配してるが安心しろ。

 

 小道具と良い背景が取れそうな場所にたどり着いたころに、最速便でお願いした、マキがミレニアムから到着した、絵のジャンルは違うが絵描きの知り合いが居ない。

 

「私パンク系だよ!? 象徴絵とかは……」

「お前風で良いから描いてくれ」

「えええ……」

 

 民衆を導き、悪魔を倒すと言う、雑なオーダーでお願いした。

 旗持ちは双方辞退しようしたので、服がボロボロのミカにやってもらおう! セイアもそうだそうだと言ってくれている。

 

 そんな光景を見ながらユウカに無線で、トリニティでの査問を受けたら帰還する。それが終わったら、引継ぎ手続きを行おう。と連絡して新人隊員が何人か入るから手配を頼んだ。怒られたが、声色からしてコートが濡れるのは覚悟して置こう。

 ノアの説教も思い出す。ちょっと帰りたくなくなって来た。

 

 アルちゃんから連絡が来た。ものすっごく頑張っていたらしい、ごめんな……。

 

 アビドス組を見送りつつ、次の手を考える。査問は楽勝だ、ミカの弁護も楽勝だ。

 帰還後はSRT完全閉校に基づき再編成だ。まだまだ退屈には遠いようだ。空を見た、良い青い空だ。

 さぁ、アリウスから奴の痕跡をすべて消してやる、オブザーバーだがここを発展させてやる! 

 

「それでこれからのアリウスをどうするの」

 

 アツコはまっすぐとした眼で尋ねる。

 

「お前はどうしたい? 統一か?」

「急いでする事でもないと思う、22万3000人のこの人口、みんな明日を考えなきゃいけないから」

 

 大人も子供も含めた人口だ、無論仮統計である。

 

「もちろんトリニティからの友諠は受け取る」

「ふふ」

 

 ナギサがふふんと満面の笑みで言うのに耐えれず、笑った。

 

「自由化は段階的に進めるけど、急速にやるとそれは無秩序になる」

「ああ、古来から良くある」

「つまり、仕切り直すの」

 

 独裁者は滅んだ。

 自由が来た、で、これからどうするか。

 やる事は山積みだ。

 

「それで、アリウスをどう言う風にするんだい?」

 

 俺の問いに、アツコは頬に人差し指を添えて、楽し気にいう。

 

「そうだね。あまり遠くない将来、生徒が”補習授業のテストをどうしよう”と大慌てするようなところにしたい。

 一年生たちが海へ行ったり、甘味を食べるのを楽しみを追い求めてたりするような、そういう世界」

 

 その言葉を聞いて、とても良い気分になった。

 それはとてもとても素敵な理想だ。そして、とても同意出来た。

 

「ところで、それをなんと美称すべきなのでしょう?」

 

 ナギサはふと問い尋ね、セイアはにこやかに言った。

 

「簡単だ、地上の楽園(エデンの園)、じゃないか」

 

 ミカの頬が痙攣し、ついに肩まで震え出した。

 同じようにナギサも肩を振るわせて笑み崩れ、セイアは照れ臭げに言った。

 

「あまり笑わないでくれ、結構、本気で言ってるんだよ?」

 

 セイアが最後に楽し気に微笑んだ、まるで気に入ったぬいぐるみを抱く赤子の様に。

 しばらくは何もなさそうだ、何も無いと良いな。

 

 

 

 

 

 あれから2週間、時は過ぎたが長い粛清リストの消化作業が進んでいる。大半はアリウスの教官、つまり平和と人道の敵だ。

 大人と教官を名乗るくせに、その実なんらの役目も果たしていない真実ろくでなしのクソ。汚物の如きカスの如き存在だ。

 お陰で検察は余罪追及で火の車だ、偵察総局記録保管庫を誰かがこっそり保管庫を移して大半の犯罪の証拠が出て来た。

 徹底的に屑どもをほじくり出して根絶やしにする。何があろうとする、子供に戦わせて自身は逃げる屑なんか許しておけるか!

 

 などと先生がブチギレながら戦犯狩りがされてたのが先週までの話、大半が逃げ損ねて捕まり、一部は自決したらしい、知った事じゃない。

 アリウス自治区の棄てられた礼拝堂には私服に身を包んだ何人かの学生が居た。

 

「変われば変わる、何とも言えないな」

 

 サオリは少しグループの後ろに居た、迷子になる奴が出たら困る。

 それでも嬉しい変化である、アズサはあんなに笑うようになった。

 

「まああんまり直ぐに変わったわけじゃない、少なくとも1日2食にはなった。それだけ」

「だが悪くはなっていない」

 

 アズサがにこやかに言った。

 すると、コハルが大きな宣伝看板に気付いた。

 各々の手に槌と、鎌とが握られて下に「明日を我が手に」と書かれていた。

 別の看板は「救国!復興!再建!」のスローガンを書いていた、これはまあいいか?

 

「ありゃりゃ、ああいう事繰り返してるうちはダメそうだね」

「まったくだ」

「ああ」

 

 サオリも、アツコも、アズサも、皆が呆れて笑う。

 すると、先頭のヒヨリが見えてきたと言った。

 

 小さな掘っ立て小屋がみえた。

 

「そういえば、ヒフミたちに詳しく話していなかったな」

 

 ヒフミはきょとんとした。

 

「私が何者かと言う話」

「アズサちゃんはアズサちゃんですよ?」

 

 ヒフミの言葉に顔を赤くしつつ、困ったなと言葉を紡ぐ。

 ハナコが「まあ大胆!」と、とても楽しそうにしているのも、嬉しかった。

 

「聞いてくれるかな」

 

 かつての暮らした我が家、扉を開ける。

 

「ええ」

「込み入った、色々長い話なんだよ」

 

アズサは照れ臭げにそう告げた。

 

 

 

 エデン条約を巡る戦いはこれにて終了した。

 終わって見れば長いようで短い時間ではあった。

 

 トリニティは事実上の議会政治へ変革しようとしていた。

 もはや複雑怪奇な団体が学園を左右する時代ではない、声を上げる自由と意見を述べる義務がある。

 茶会の長い歴史は終わりを告げるだろう、その名前は歴史に出る前の、純粋な語らいの場として残る。

 ナギサと、ヒフミと、コハルが同じテーブルで語り合えるような時代は近いのかもしれない。

 

 

 ゲヘナが平和になったかと言うと、まあそんなわけがなかった。

 マコトは相変わらず権力の椅子に腰かけているし、ヒナは引退できないでいる。

 そりゃあそうだ、ゲヘナの悪ガキは多いのだから。

 アコはやはりそれもこれもシャーレとマコトの陰謀だと確信しているが……。

 

 

 アリウス自治区は復員作業が始まった。

 しかし生活インフラの破壊を回復させるのは中々苦労すると言われていたが、これについては予想外の手が入った。

 ハイランダー鉄道学園が新規路線開発に名乗りをあげたのである。

 流通インフラ改善はアリウス自治区復興に大きく役立ったが、たびたび禁制品輸送に関与してアリウス自治警察予備隊*7にぶっ叩かれた。

 外交政策としては端から連邦生徒会を気にせず、レッドウインターやアビドス、シャーレとの関係性を深めた。

 友好相手のチョイスは大半の政治家をうならせた、どれも無視しえないコネクションだ。

 このあとのアリウスがどうなるか誰にも分からなくなり出した。

 

 

 今回の事件に際して補習授業部は度重なる貢献からシャーレより名誉隊員勲章が全員に授与された。

 非隊員に送られる最高の勲章は先生からの出来得る限りの礼であった。

 コハルやハナコ、そしてヒフミやアズサにしても、この勲章を得るまでの思い出は宝物であった、何故なら友情と勇気が奇跡を起こせるという証なのだ。

 噂だが、ヒフミはその後も補習授業部から離れられなくなった。

 また試験をバックレたらしい。

 

 

 シャーレはその後、改めて観閲を実行した。

 その内容を公開するにあたって一部の人間は大きく動揺した。

 隊員の中には強化防弾着を軽く着こなす元アリウス自治区生徒で構成された「強制執行部隊」、通称A分隊が居たのだ。

 この観閲以降、たびたび重犯罪や闇市摘発に際して情け容赦ない法執行が行われ、ワカモが再びビーチで捕まる羽目になった。

 

 

 連邦生徒会は事態の変化にどう反応すべきか割れていた。

 アオイは「予算消費が」と頭を抱えていたし、モモカは「これ防衛室いるの?」と考え始めていた。

 更にSRT閉鎖はカヤ防衛室長に都合が悪かった。連邦生徒会長が指揮権を有する独立作戦部隊たる彼女らは必然シャーレでPKF作戦を続ける事になる。

 そうなっては有事に機能するのはやはり先生になり、そうなると自分の立場はどうなると恐れ始めた。

 

 だが打つ手は余りなかった。

 事実上シャーレはこれで完全に変容したのだ。

 

 

 アリウススクワッドはその後、シャーレA分隊として登録されたが、以後も人使い荒い指揮者の下で仕事をすることになる。*8

 アツコにして「でもお給金は良い」と言わしめるので、まあそういう物だと受け入れた。

 実はこの給料のためにユウカが唸ってるのも、そういうものと受け入れた。

 

 

 ミレニアムはいまだ不気味な沈黙を続けていた。

 リオ会長は今回の事件に際して「秩序と平和が守られたのだから、我々としては支持する」と擁護したのは一部生徒には意外であった。

 なんなら先生も意外と感じていた。非公式に祝電まで来た。

 それはそれとして、送られてきた「新しい子たちに細やかなプレゼント」と称してミレニアム製の変なのが来たのはリオかヒマリどちらかからが分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 夜半のDU、シャーレ庁舎ビルは日増しにその絢爛さが増している。

 そのビルを見上げながら、少女は呟いた。

 

「貴方の様な大人が、一番嫌いです」

 

 

【次回予告】

 

そうだ、ただ前だけを見続ければいい!

戻る場所も、帰る家も、幼馴染と語る言葉も、もう無いのだから。

戦士達よ、虚妄の牙城を潰せ。

大人のその仮面を剥ぎ取るのだ。

 

次回「 良く訓練された猟犬 」

 

だが立場が変われば正義は変わる。

 

 

 

*1
サン=ジュスト

*2
近衛兵が目隠ししてる

*3
横から散々口は入れて行くぞ

*4
この世界だと砲兵に祈られたからね

*5
共和主義の力は素晴らしいよさっちゃん!

*6
アリウス共和学園とかですかね?

*7
シャーレ監修

*8
3食飯付き職場住み込み3LDK生活費と食費はシャーレ持ち




エデン条約編終わり


遠征で戦功を得た後は政治な時期ですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。