キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
「Trip-Trap-Train」の前日譚から生まれてしまった……
トリニティ公聴会
エデン条約の戦闘から数日、ミカが公聴会と言う名の吊し上げに出される前に、弁護の打ち合わせなども兼ねてトリニティに行った。
道中、放課後補習部の様子を見たが、何時も通り元気そうに人生を楽しんでいた。
無駄にデカいトリニティ、迷って遅刻すれば変に拗らせそうで嫌な予感がする。
こいつ等に案内を頼むとそれは無さそうなのは安心だ。
コハルがその件で何か言いたそうにしていたので帰りに聞いておこう。
放課後補習部連中はこの後にアリウスへ行くと言っていた、アズサやスクワッドと話し合うだそうだ。*1
「やっほ!来てくれたんだ先生、先生トリニティ好きそうじゃなさそうだから心配したんだ」
ミカが部屋の前で待っていた。
扉の左右にはミカに心から忠誠を誓っているパテル分派の一部が展開している。
”すべての旧体制と派閥と利権をぶち壊す一撃”、その引き金を引いたが、それでも支持してる筋金入りだ。
「よっ、助けて貰った勝利の天使には義理を通すべきだしな」
「その顔でキザな事言っても似合わないじゃんね」
公聴会というが、事態は中々ややこしい。
サクラコやミネはまともな連中だし、ノンポリや”自己の業務を政治に左右されてたまるか”という集団だからまだいい。
こんな茶番に参加する気がない二人は今現在アリウスで戦後復興に走り回っている。何やってるか分からない連中だが、シスターフッドの長としては満点だ。
問題はパテル、フィリウス、サンクトゥスの三派の馬鹿どもだ、どうしようもない連中がどこにもいるものである。
これが生来反骨の筋金入りなら構わないのだが、考えなしや利権目当てだから困る連中である。
酷いのがミカ、ナギサ、セイアの三人全員が「別に茶会が無くてもトリニティはトリニティでしょ」と利権に執着してないのである。
大義名分も無いせいで女の腐った様な事しか出来ない連中だ、大半の生徒からしても支持されていない。
《小魚が撒き餌に群がった》とタブレット端末に座標付きで届いた連絡、一番下らない内容だ。
「失礼、少し中座する」
ミカは理解したが、何も言わなかった。
この大人は不器用な優しさを有している、その不器用さは指摘するべきではない。
正義実現委員会の押収品等の倉庫では委員たちが非常線を張っていた。
状況報告をアズサに聞く。コハルを迎えに来たら一部の馬鹿が暴発したらしく、騒ぎに巻き込まれたらしい。
「火をつけるんなら真面目に計画を持ってやれェ、このバカタレがァ!」
アズサに呆れた目で見られる、先生は目的と必要性を有するなら必要な行動は弁護するだけだぞ。
話を伺えばコハルの本来の持ち場、つまり押収品倉庫を燃やそうとしたらしい。
そりゃ幾らか押収した書類やらあるけど露骨が過ぎるぞ。しかもコハルにバレてんじゃないよ。
倉庫番が落ち目とは言え権力者に囲まれ脅されても、即座に信号拳銃で通報した辺り、コハルはやれば出来る子なのだと嬉しくはなった、即座に通報を選ぶことが出来るのは良い事だ。
ここで2人が戦闘を選んでいたら不味かった、敵と会敵したら基本は増援を呼ぶことだ。
「コハルお前は勇者だな、次回作のテーマと主人公はお前だよ」
ゲーム開発部も喜ぶだろう。主人公とジャンルが決まった。こんな物は後で喜劇に変えるぐらいで丁度いい。
モモイもコハルくらい純粋ならなぁ……せめてヒフミくらい素直ならなあ……。
政治デモや何やらは結構だ、Which Side Are You On?を流そうが構わないが、旧体制はもう見切りがつけられているのが分からんのか。
「どうしたんだ続けんのか?トリニティのお嬢様のマナーを聞かせてくれよ、こう言う行儀がカワイガリとか言うらしいからな」
正義実現委員会の初動対応部隊の配置の指示を終え、相手に近づく。
護衛のデルタ分隊を伏せさせてるのは内緒だが、ここで大物絡みの陰謀やテロでした!は本当に笑えん。
手を抜かんで徹底的にやるつもりだ、相手を舐めて痛い目に会った戦いも多い。
「器物破損と消防法も知らんのか?まして正義実現委員会の施設に放火とはね」
「連邦からの不当介入よ!地方への介入の正当性はない。シャーレの越権よ」
前回、私刑を行おうとしてコハルに見つかり咎められてビビッて逃げたのは知っている、今度は人数増やした臆病者の癖に口と頭は一応回るらしい、さすがお嬢さまだ。
「なるほど、”連邦生徒会捜査部”の先生ならそうだな。」
「では、連邦の犬は家にお帰りくださいます?」
「でもなぁ、俺補習授業部の先生でもあるのよ」
ナギサから貰った全権委任状を見せる。
見ろよ、このボヤで焼けたシャーレロゴの無様な姿を、連邦の権威を再現しなくて良いんだよ。
証拠で写した写真をマキに連邦生徒会と書いて送ってみる、アイツの壁の落書きは無許可なら犯罪だが、悪意は無い。綺麗な絵を描くし、聞き込んで許可は取っている。
ダヴィッドだってキヴォトスで無許可で壁に落書きしたら犯罪になる。
「”君は旧体制擁護を叫ぶ”、”俺はその旧体制の委任を受けている”」
連邦生徒会、ましてやシャーレの物品に落書きするのはそれぐらい意思が居る訳だ。
なるほど、ヴェリタスの馬鹿共や最近家にデモを始めた工務部も逮捕が怖くて意思表示ができるか!の意志はある、だから。
拘置所で長くて2週間は過ごしてもらうが、それでも挑んでくる。
君達はどうだね?
ご家族、ご親戚はご立派のようだが、俺が引っ込むと?
「連邦はトリニティと戦争するつもりで?」
思わず爆笑してしまう。
戦争は対等の相手にすることだ、権威と権力が借り物で、大衆の支持も無いのに戦争?
笑いながら手を叩き、歩んでいく。
「笑える冗談だ、売国奴。トリニティは”
空気が凍る、全員目を開きやがって簡単に組織の頂点に使うワードではないぞ?
「そうかそうか、結構。で、誰がシャーレに対して弓引くのかな?戦力はどうする?軽歩兵や機甲部隊程度か?ん~?」
全く以て笑える冗談である。
戦車?火砲?だからなんだ、その程度で止まると?権威を見せれば止まると?
「君達は7囚人を超えるつもりかな?ある意味ティーパーティの解体の引き金を引いた、ミカへの逆恨みだろうが、君達が言ってる内容はナギサやセイアの意志とも取れるが、ふむそう言う事で進められているのか?コハル」
首が取れそうな勢いで首を横に振るコハル、まぁそうだよな。
やはり諸所思ったが、アズサは俺の有り得た姿の一つなのかもしれない、一部は理解している。
だから、そろそろだと思った、残りの放課後補習部の登場だ。
今回は俺ではなく向こうに正気か?と言う顔を向けて居るが、犯罪を指摘しても肉親の権力で潰しもみ消す。
今日までそれで解決させて来たわけだろうな、9歳の俺には出来なかった事が、今ならできる。
「ヒフミさん、そこのフィリウスやサンクトゥスだか知らんが、頭も腰も軽そうなご令嬢に連邦への戦争を挑まれてるのだが、ナギサ様はご存じなのかな?」
ヒフミが何てこと言ってんだ、このアホ共!と言う顔で向こうを見ている。
一番辛辣なのは正義実現委員会の包囲部隊だった、彼女たちの大半は数日前の戦闘を経験している。
戦うにしても何かが、闘争とは理由を要するのだと理解している。
「先生悲しいぞ、”あはは、楽しかったですよ、先生との生徒ごっこは”と言う事だもんな?アズサ以外は聞いてたもんな、俺が権力や権威にタダ乗りして己の力の様に振るう存在がどれぐらい嫌いなのか」
ナギサとの通信が繋がりヒフミが現状説明して、コハルが証拠を証明をすると、数秒後に紅茶で虹を噴出した。
この場は一旦解散となった、俺はミカと呼び出された。虐められてた方が呼び出し食らうって幼年学校思い出すなぁ!
内容は2日後の公聴会の打ち合わせだったが。
嫌だなぁ、ナギサ様、俺は組織は嫌いでもそこの連中が嫌いとかでもないぞ?
「犯罪への注意で政治や戦争出されたんだ。連中似たような事で成功してるから、俺にも使えると思ったから使ったはずだ、この事件も一応公聴会に乗せる」
ナギサはそこらへんは全く気にはしていなかった、書類がこれこれ必要だから書いておいてくださいとだけ言っていた。
先生は「ナギサは静かにキレる類の女か」と理解し、書類確認を始める事にした。
馬鹿どもが、ミカがやろうとした事は手段は怪しくても目的は否定できないのを理解していないとは!
眼に見えた破綻が近いトリニティの制度や体制、旧弊の掃きだめを強権を以て粉砕するという考え自体は否定しない。
極論を述べればミカ自身、そしてナギサやセイアへの為という良心があるのは否定しえない。
要するに彼女はナギサやセイアを”茶会”という檻以外、供物から逃がしてやりたかったのが根幹であるからだ。
アリウスとの密約、ナショナリズムの為の戦争、大権掌握。
それをこの馬鹿どもと来たら権威の根幹すら揺らいでるのに勝手に蠢動してバカ騒ぎだ、鳩首並べて無駄にくっちゃべるのは政治ではなく怠慢である。
今回のエデン条約の戦いでそれが露見した。既にノンポリ生徒の中には各分派を見放している奴までいる。
すると、中庭に軽い屋台みたいな設営物が見えた。
「……ハナコ、今度は政治犯志願か?」
ハナコが水着で座っているのは良いが、屋台に近い設営物の単語が問題だ。
”大砲屋より馬鹿話してる連中のがマシなのか?”と看板に書かれており、土台部分には「私の意見を変えてみろ」とある。
ハナコの切れが鋭い皮肉に苦笑はするが、怒るつもりはない。意見としては正しい。
「怒られないんですのね」
「許可は取ってるんだろう?」
「疑わないので?」
「お前が馬鹿と思えない」
「主観でしょう」
ハナコがニコニコとした笑みで言う。
言い方が悪かった、そう思いながらはっきりと言う。
「お前は自己の不手際で撤去されるのを政治的弾圧と難癖をつけない程度に賢いから、かな」
ニコニコした笑顔が凍り付く。
「……怒らないんですね」
「別に?お前の言い分は理解できないが、尊重は出来るからだ」
ハナコがスンと真顔になる。
「お前は屋台に書いただろ?意見を変えてみろと、対抗者の言う事をよく聞くのなら、それは健全だよ」
「不健全な方に言われると有難く思います」
「その先を考えない馬鹿の言う事を聞いてないだけだ」
軽く鼻で笑うハナコを横目に、コハルを呼ぶ。
「コハル、ハナコのアホがまた水着でなんかしてるんだけど」
ばかー!と声を挙げながらコハルがハナコを回収していった。
コハルに連れて行かれるハナコの顔は、作り笑いではなく心からの苦笑いであった。
いい友達が居るんだ、人生楽しめよ。
汚泥掃除は大人の仕事だ、任せておけ、全部奇麗にしてやる。
未読が増えてたので確認するとヴェリタスの連中からスタンプ爆撃されてた、かなり楽しんでくれたらしい。
公聴会と銘打っているが、事実上連邦捜査部シャーレの独壇場に近い。
トリニティの議事堂は銃剣をつけた正義実現委員会の委員と、シャーレの隊員がテロ警戒に規制線を展開している。
「議事堂解散からの大騒ぎに300ペリカ」
そんなことを言いながらナツが、スズミへ差し入れを渡す。
トリニティ自警団の連中まで動員するとは余程かなとカズサが呆れかえっていた。
議事堂の聴聞会に関しては当初案と違い、三回に分ける事もないと押しとおされた。
議事堂からの中継も同様である、校内各所で見れる様にとされている。
「中継、どうなってます?」
スズミが尋ねると、ヨシミが「相変わらず中身が薄い事を長く引き伸ばしてる」と馬鹿にしたように言った。
ある意味ノンポリの生徒であるヨシミの言葉が、大半の学生の総意に近い。
”我々の生活をあんな権威のガワしかないアホが差配してるのか?”と分かれば嫌気も差す、権威とは何とはなしの偉さであり、それを生むのは難しい。
何してるか分からないけど慈善家なのは知ってるサクラコ達、何してるかは知ってるけど世話にはなりたくないミネなど、権威には色々あるが、極論言えば有事に動けるかである。
その点で見るとトリニティの権威は完全にぐちゃぐちゃである。ハスミとツルギがまともであるからまだいいが、今トリニティで一番中庸で信頼されているのは軍部、つまり正義実現委員会であるのだ。
先生の懸念点であり、ツルギからの相談もあり、今回はツルギとハスミは発言していない。
また特に言いたい事も無いから、ミネやサクラコも特に発言していない。
必然悪目立ちするのがそれ以外の各分派の性急なアホだ。
「政治は分からないけどこれじゃ選挙導入も無理ないよね」
アイリが呟く。
馬鹿な雁首揃えてバカ騒ぎ、責任擦り付けて踊るよ。話は進まない。
幾ら甘味で人生を幸せに生きるスイーツ部の部員とはいえ、なげやりにもなる。
全員がそうじゃないとしても、こんなのが偉いわけがない。
ここ数日で選挙導入の運動は増加している。無理もない、ゲヘナにすらあるのだ。金権政治や少数独裁制寡頭政治なんかされては生きてるのが馬鹿らしくなる。
外を向かないトリニティ生徒たちが外を見つめなおした結果である。
「お、先生ご登壇。」
ナツが面白そうに告げた。
周りの連中が集まる。
「レイサちょっと頭邪魔」
画面には左右に声を荒げる代議士たちの中を、休日朝の公園が如く歩く先生が居た。
ああ、偉い事になる。
スズミはやれやれと天を仰いだ。最初に先生と出会って以来、ああいう顔した先生は毎回大騒ぎを起こすんだ。
あの人は多分台風の眼かなにかだな。
議事堂議場に先生が入る。
左右の議席から野次が飛び交う。
「オーダー!オーダー!」
フィリウス派だがノンポリの議長が声を張り上げるが、静まらない。
左右から「独裁者!」や「ファシスト!」だの「連邦のイヌ!」と声が響いている。
分派の長たちが居る前席では、ミネがサクラコにそっと耳栓を渡していた。
静かに会釈してサクラコは遠慮し、ミネはそれを理解すると自身は耳栓をつける。
「オーダー!オオォオオだアアああ!」
再度の声でようやく収まる。
敵愾心に溢れた議場であるのによくまああんなに涼しいツラ出来る。
サクラコは肝っ玉かカラ元気かと呆れたような気分であった。
実はこれより元気な議場の経験があると聞いても、サクラコは驚かない、既に先生の片鱗は見ている。
全くシスターフッドに野砲弾の洗礼を依頼するなんて貴方が最後であって頂きたい。
「まず最初に、礼から述べさせてもらう」
あの大人、馬鹿みたいにロングコートの制服が似合う男だなと思いながらサクラコは傾聴する。
「以前の戦闘に於いて協力をいただいた生徒たちに、心からの礼を述べる。」
にこやかな笑顔だった。
議場であることを思い出さなければ、思わず顔がほころぶだろう。
「ありがとう」
静かな脱帽は様にはなっていた。だがここからが。
そう、サクラコは理解していた。
優れた聖職者特有の直感、運の悪さ、そして経験が教えていた。
ここから偉い事になる。
事実そうなった。
「そして小官はこの場を借りて糾弾を開始する。サボタージュ、怠慢、職務の遅延、あまつさえ責任から逃れる様な一部の害悪に近い無能にたいして」
サクラコが「言わんこっちゃない」と頭を抱えた。
ミネはヘイローが消えてる辺り眼を開けて寝ているらしい。
「どういうことだ!」
「ふざけるなよ!」
「横暴だ!不当介入だ!」
「そうだ!自治権への侵害だ!」
議席が一気に爆発した。
再び議長が制止して止めるが、場はマズい事になっている。
「……話を続ける。まず許しがたいのは、そもそもこのトリニティにおける集団意識の希薄さである!
そもそもとして諸君ら代議員は、何のために此処に居るのか? 分派の利権が為なら直ちにその籍を辞して帰るべきである。」
言ってしまった。
ロイヤルボックスを見ると、ナギサが片手で顔を抑えていた。
何かを言おうとした議席に、先生が睨みを効かせた。
あの鋭い眼光はサクラコも知っている、アリウスへ反転攻勢に出る際、マダムに対してした顔だ。つまり心の底からキレてる。
眼光によって野次が黙る。
「無論各分派には意見がある、それは当然だ、叶えたい事も違うのも結構。
しかし何より度し難く、かつ許しがたいのは、その発言と行動の責を誰かに押し付けようとしたことだ。」
パテルの一部の議席を睨む。
「同じく許しがたいのは、危機に於いてなんら団結や協力を図らず、曖昧模糊の願望に縋りつくがごとき愚行を行った事である。」
フィリウスやサンクトゥスの議席、そしてシスターフッドなどの一部議席を睨む。
「ただ悪戯に権力を弄び、権力を壟断、危機に於いては騒鳴し狼狽、責任は取らない、この様な無為徒食の無能が政治と名をつけた遊びに手を付けているのは全く許しがたい」
今度は野次も出なかった。
エデン条約の聴聞会が何もかもを変わろうとしている。
「無知と無理解、それ自体が罪ではない」
ロイヤルボックスを見ながら先生が言う。
「改めない限りそれは罪ではないからだ。」
そしてシスターフッドの席を見る。
「変革自体も罪ではない。影響力があるにも関わらず沈思黙考を続けても悪影響だけだ」
先生の言葉に意外に感じながら、サクラコはどうしたものかと考える。
今の言葉は要するにお前の方針を支持してるという事だ、意外そのものである。
「しかしここ数日、いたずらに他者に寄生し、権威を盾にする愚昧そのものがのさばっている。
あるものはミカの権威を盾にし、またある者はトリニティの権威と玉座を胸壁と成して連邦を撃つが如き者までいる。」
先生が胸元から聖書を取り出した。
「”主なら自分は知っている。聖人もわかっている。だが、おまえたちはいったい何者だ”*2」
先生が引用したのは聖書のエピソードだ。
神は使途の手を使い、癒しと奇跡を起こした。
これを見た遍歴のまじない師や祭司長の息子も同じような事をしていた。
だが悪魔は「だがお前は誰だ?」と返し、悪霊に付かれた人を飛び掛からせた。
彼らは傷を負いながら裸に剝かれて逃げ出したという話だ。
正直なところ先生が引用できるほど神学に明るいと思わなかった。
「もし自己の責に逃れる様な者があるなら、”
サクラコが最後の言葉に、ドギツイ一撃だと苦笑した。
そう、このアナテマという古代語であるが、ミサ典礼文クレドの基になった信条にも最後に書かれている。
問題はその典礼文クレドを決めた公会議はアリウスを異端とした公会議だという点である!*3そしてアナテマの言葉は、サクラコですら「都合のいい言葉」である、いくらでも訳しようがあるのだ。
本来アナテマは「捧ぐもの」か「置かれた物」または「上に載せられたもの」でしかない、事実古代語訳七十人訳聖書レビ記では捧げものの訳に使われている。
それを別語のヘーレムの訳語としても使っておかしくなった、「捧げられたもの」と訳せるようにしたせいで文脈次第で滅茶苦茶な事になる。
なにせ「滅ぼす、殺す、捧げる、絶滅、呪われよ、没収、奉納」まで纏めて使えるのだ、やりすぎだ!*4」
そのあと、沈黙が全てを支配した。
聴聞会は何ら判決を下せなかった、もはや判決は言い渡されていたのであるから。
「何も無ければ小官は降壇しますが?」
それから2週間後、ミカに派遣武官としてシャーレ赴任が決まった。
次週は改めまして「Trip-Trap-Train」をお送りいたします。