キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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アウステルリッツの分です!
皇帝がイベント起しまくるから……

今日まで来れたのは
感想や高評価をいただいた皆様のお陰です。改めてお礼申し上げます!
ここ好き!機能も嬉しかったです。


船上のバニーハンター

 

 エデン条約の戦いから少し経ち、シャーレ本庁。

 テレビが『大規模攻撃から1週間以上が経ちましたが、ここシラトリ区では連日』と、相変わらず議会が混乱してるサンクトゥムタワーの前を映している。

 なにせ緊急事態に対して臨時戒厳でトリニティとゲヘナの指揮権を臨時掌握した上に、それに関しては双方無言だからバグっているのだ。

 マコトとナギサはその件に関しては「無言が正解」と確信していたし、介入主義的だがやむを得ないという生徒見解が多数派である。

 

「あー、先生。マズい問題が……」

 

 ユウカが深刻気な顔をしている、珍しい事だ。

 復興予算か再建計画絡みかと聞いたら、アリウスじゃないですと言われた。

 

「じゃあなんだ? カイザーか!? あの野郎今度こそぶち殺して」

「違います。セミナー絡みで……」

「え? ……あれか? ノアが遂にストライキをしたか? リオが遂にキレた?」

「いえどちらでもなく……正確にはセミナー役員の一名が……」

 

 ユウカからシャーレに依頼を出された。

 セミナーの問題にウチが関与すると内政干渉にならんか? と聞くと、何故かリオ会長筋からの依頼らしい。

 つまり介入ではなく、依頼の趣旨は”シャーレの援助を受けつつ解決してくれ”となる、なるほど普通だ。

 

「俺に、セミナーの一人を確保して欲しいと? なにしたんだよ」

「元手は知りませんが海上カジノで豪遊してるみたいで……」

 

 資料が渡される、紙媒体なのがミレニアムらしい点だ、防諜とは物理媒体限定だけが精密と信じている。

 カジノ船は排水量4万8000トン級、海洋学校大型客船の改装型らしい。

 

「ネル達どうした、あいつ等に一任すればいいんじゃないか?」

「家が陸地で大掃除してるせいで犯罪者が海で悪さ始めてるんですよ。さらに言うと機密漏洩対策と……えー、ブラックオプスでしたか? 非公然ですから」

 

 要するに「シャーレが間に居ないとミレニアムが騒ぎに紛れて何かしたようで外聞が悪い」という事だ、確かにまずい、何故かミレニアムはうちに好意的なのだ! 

 ユウカの資料を見るとSLOC(海上通商路)被害船舶一覧と書かれた資料が出ている、2800トン級から8000トン級の船舶が海賊行為に襲われているらしい。

 対艦ヘリによる空賊と、小型船舶による海賊船を使った手口らしい。

 

「誘拐されて身代金要求されても困るんで捕まえてくれません? うちの機密をだーいぶご存知の様であの子」

「なんじゃそりゃ、情報将校の類か?」

「いえ、採用時は計算が早い機械系の人間と考えてたのですが、暗号解読に特に天才的技能が……。ただ少しばかり自制心が無く……」

 

 ユウカが表現に困っている、見た事が無い、モモイよりヤバいのか? 

 人事資料をみるとなんというか、意図せず犯罪や騒動に巻き込まれるクチであるのは分かる、根がカスというより考えが足りないアホだ。

 問題はこいつが機密保持資格無しで見ちゃったことだが、ミレニアムで良かったな! トリニティなら蒸発しかねんぞ! 

 

「仮に捕まっても”そんな安い身代金とかふざけるな!もっと値上げしろ!”とか言って詰めるとか出来そうにないな」

「それにあの子泳げませんから、何かあった時怖いんですよ」

「後輩が心配だから保護してくれって素直に言えばいいじゃねーかよ、ツンデレか?」

「ツンギレ系教師に言われたくないんですけど!?」

 

 そのまま言い合いをしていると、ユウカが手配していたネル部長が扉を開けてきた。

 案内してきたうちの隊員が呆れた顔をしている。

 

「コントは良いから早く行くぞオイ」

「「あっ!ツンデレ部長だ」」

「るせー! んだらあんた等2人で行けよバァカ! ミサイル落ちてネジ飛んだか、いよいよ」

 

 なんとかならんのかアレ? とうちの警衛隊員に顔を向けるが、警衛隊員は二人とも手遅れですよと肩を竦めた。*1

 復興だの予算だのが絡むせいでユウカは残置である。

 シラトリ区港湾部へ向かうと、見慣れたメイドたちが待機しているのが見える。

 アスナが楽し気に手を振る。

 

「あっ、ご主人様だ!」

「よっ! 何時ぶりだ? ミレニアムプライス以来か? 家はメイド雇う予算も無いぞ、たぶんリオも怒る」

 

 流石にそんなことしたら会長が「会計と書記に飽き足らず実力組織も寄越せと?」とキレるだろう、俺なら会計でキレるから優しいと思う。

 アカネがやれやれと「相変わらず、敵も味方も多そうで」と呟き、駐機されていたシュペル・プーマへ乗り込む。

 今回の舞台は海上であるから、変装するらしい。

 

「……お前らいつ俺の採寸したんだ?」

「え? ユウカから健康診断資料貰ったし、エンジニア部のベストの時の奴もあるぞ?」

「……そっかあ、ミレニアムには体形筒抜けか」

「なに言ってんだこいつ」

 

 ネル部長が呆れた顔をし、いそいそと着替え始める。

 ブラックスーツに腕時計、サングラスを付けて、薄めだがケブラーベストを中に着込む。

 見た目は完全に裏社会の人間だ。

 

「あんた変装初めてじゃねえだろ?」

「話すと長いぞ」*2

「んじゃいい」

 

 ネル部長がそう言うと、アカネとカリンがカーテンで仕切られた奥へ連れて行かれた。

 何故かバニーガールの服装をするらしい、何でかは分からない、反対する根拠も無い。

 ただアスナに「変装効果は高いんじゃない? 実際悪い人オーラ出てるじゃん!」*3と笑顔で言われたのは気に食わない。

 しばしして、ネル部長が出てきた。

 

「……」

「何も言わないでくれ、わーってる、わーってるよ」

「……アカネ、今度はバニーじゃなくて良家のお嬢様にでも変装させた方が良いんじゃねえかな」

「やっぱ根に持ってるだろ午前の件!!」

 

 操縦席から「そろそろ到着です、見えますよ」とアナウンスが入る。

 眼下に雲間から出てくる海洋、そして見えるは豪華客船、更に護衛艦まで添えている。

 

「おい、資料に無いぞ。艦艇がなんで護衛に居る」

「多分何処かで海賊情報を読んだんだろうよ、こりゃ偉い事だな」

 

 カリンが艦艇年鑑を広げ、アカネが特徴を確認する。

 種別は11540型警備艦、満載排水量4400トン級の艦艇であるが手堅く纏めようとした船らしい。

 

「珍しいのか? 海賊対策で護衛艦を雇うなら妥当なラインじゃないかね」

「そこがミソだ、先生。あんたなら分かるだろ」

「……確信があるという事か?」

「そう、ありゃフリゲート艦だろ。客船なら長期航海するのになんでフリゲートなんだ?」

「そういや大型艦艇じゃないな」

「デカい船は維持費がかさむからな、正規の学園か防衛室がせいぜいだ、つまり」

 

 他に見られると困るから出来得る限り強いのを用心棒にしている、か。

 なんだか嫌になる仕事だ、悪い事言わねえから乗り込んで拉致って帰れないか? 

 そう言うとバニー共が呆れた顔をする。

 

「私達の暴れ過ぎの監視にしては不適当では?」

「俺もそう思う、船底に穴開けて退艦させて確保で良いんじゃないか?」

「ここはブラックマーケットの闇銀行じゃねーんだぞ?」

 

 すでにネル部長が天を仰いでる、大変そうだもんなこの仕事。

 

「被害は出ても依頼はこなしてるだろう、セミナー流の意趣返しかな」

「なー、犯罪者のゴミ掃除にカーカスや燃焼弾や取り調べに五寸釘使うと怒られるなんてめんどくさい世の中だよな」

「先生は国際人道法を覚えていこうな」

 

 カリンの言葉に便乗したらネル部長にペチペチと叩かれた。

 

「法の外に自分から飛び出た奴を撥ねて悪いかね? 交通事故でも許されるのに*4

「ぶっ壊しながら進んでやろうかと思ったがどうすりゃいいんだ?」

「どうだろうか、海賊のせいにして終わらせるのは? 帰りに海賊捕まえて私がやりましたと言わせれば」

 

 何か外に居た時の様に頭が冴えてくる、いいアイデアだ。

 

「何で今回先生物騒なアイディアが多いんだよ! この前のセミナー防犯対策顧問みたいな作戦出せねーのかよ!」

「いやぁネルが外での俺の親友みたいなタイプだから、つい。アイツならノリノリで乗ってくれたりするんだがな」

「要するに先輩より、螺子が飛んでるって事」

「あの会計絶対切れてるだろ? 何でこんなR7ロケットの塊付けたんだよ! ブレーキって言うよりニトログリセリンじゃねーか!」

「要するにスピード解決と言う事だな」

 

 ヘリが着陸し、甲板へ降り立つ。

 堂々とバニーを連れて降り立ち、リオ会長が手配したIDで警備員を華麗にパスした。

 しかし、海上は良いよな。警備員に見つかっても、海に落とせば隠せるんだから。

 それを提案したらまたドン引きされた、賭博場の警備員なんて半分以上犯罪者だし良いんじゃないか? 

 この大人外で何やってたんだろうと言う目で見られながら、艦内を進む。

 船と言うのは改装しても部屋や隔壁が変わる訳じゃない、大工事の経歴も無いから警備室の場所は地図通りだ。

 ノックし、にこやかな笑顔をする。

 

「お客様? ここはラウンジではないですよ?」

 

 警備が首を傾げ、同時にアスナとアカネが射撃した。

 サイレンサーで多少威力が下がろうと至近距離である、警備員が一撃でダウンした。

 

「なんだお前ら」

 

 奥の警備員が無線機を掴もうとしたが、ネルが即座に組み伏せた。

 無線機とインカムを回収、周波数を確認する。

 警備回線はこれで盗聴可能だ、あとはコユキが何処かだ。

 

「い、一々客の名前は知らない! 私は一介の警備員で……」

「これから、針とライターの使い方の授業を始めても良いんだぞ?」

「流石にやり過ぎだって」

 

 そうこう話していると、機械を弄っていたアスナがカメラ映像を確認している。

 

「なにしてんだおめえは」

「……これもしかして、検索機能あるんじゃないかなーって」

「便利だなあ、ついてるのこれ?」

 

 捕まえた警備員に聞くとこくりと頷いた。

 

「実はこの船の管制システム自体は廃艦処分の防衛室所属艦艇からCIC機能とかを移した装備で、だから質では負けず劣らずの警備システムなんだ。というのもその艦艇が」

「長いんじゃい」

 

 げんこつで中断させる。

 警備員は「まだ半分も話してないのに!」と抗議しているが、それは今は良いのだ! 

 

「だからまあ、識別に必要な情報がそこの端末に入力すれば出る。ANDかOR検索ならともかく見た目検索のが早いと思う」

 

 なんか素直になった警備員の助言に従い顔識別を開始する。

 似ているが違う、これも、あれも違う、似てない、似てるけど違う……。

 23人目で正解が出た、人事資料と同じだ。

 現在地はプレイラウンジ。

 

「しかしわかんねえな、賭け事の結果っていうけどよお、確率論といかさまのせめぎ合いだろ? なんでマジになるかね」

 

 ネル部長が呆れた顔をした。

 

「なー。おれも賭けはしたが好きじゃない」

「へえ、何賭けたの」

「俺の人生、天啓を得た」

「……あんたが実は胴元とかじゃねえのそれ?」

 

 ネル部長は以前の時点で良く分かっていたが、酷く常識的な性格だ。

 根もまともである、「まあアンタはなんかあったら護るからよ」と言えるのは伊達じゃない。

 ラウンジに入ると、コユキが散財のうめきを発していた、なかなか汚い叫び声である。

 

「なんでえええ!」

 

 正に博打、人間性地の獄……!! 

 先生それに対し……、笑顔……っ! 獲物発見の顔……っ!! 

 ゴングが如く鳴り響く昇格ファンファーレ!! 

 

「ランクが上がってお祝いかぁ、これはお祝いか度胸試しか?」

「どんなお祝いなの?」

「ウサギを放ったりしてな、シューターゲームするんだよ、ウサギは5点目標50点とかで流れ弾に当たったら運が悪かったって言う」

「デスゲームは流石にしてないだろ」

「昔のカイザーの偉い人が似たようなことしてたって記録がありますね」

 

 雑談交じりに自然に近づく、しかし気付かない、アスナ、何と無しに弄るスロット……っ! 

 先生、気づかない……っ!! 

 

「債券乱発で絶対負けないやり方があってな」

「おう、聞くだけ聞くよ、どんな邪悪なやりくちだ」

「まず、どこでも良いから債券が安い学校の債券を買いまくった後に家とカイザーがドンパチするだろ? 和平の時にカイザーにそこの債券を大量に買わせる、値上がりしきった時にその債権を家が売る大儲けよ」

「完全に組織規模のインサイダー」

「まぁ、その債権80億ほど全部色んなどたばたで燃えちまったり、風で飛んだりで殆ど手元に残らなかったみたいだが」

「悪銭身に付かずって奴だろ」

 

 ようやく気付く……っ! が……っ手遅れ! 

 気付けばアスナ……! スロットで弾ける777の文字……っ!! 

 先生……!! 愕然……っ!! 突き刺す油断慢心……っ!! 埋伏の毒……っ!! 

 結果は大画面で映されるアスナ……っ!! まるで単独ライブ……っ!! 

 コユキ……っ!! 気付く!! 当然!! 

 

「なんでえええ⁉」

「予定変更、ウサギ狩りだ。お誕生日じゃないけどアスナおめでとう~っ!」

 

 黒色火薬点火! 開戦! ネル部長困惑! 

 隣ではアスナ、狂気の沙汰ほど面白いとばかしに、散弾銃ロシアンルーレット開始……っ!! 

 

「どうしてえええ⁉まだ債権で遊んだだけなのにィ~!」

「人生がギャンブルだろうが! 命ぐらいかけろ、ボケェ!」

 

 お客さん借りるよと客からイサカ散弾銃徴発!! 理不尽!! ギャンブラー困惑!! 

 飛び出す散弾! パチンコ直撃爆散! 玉放出! 博徒殺到! 

 

「ヒィ!? これが噂の狂人もとい先生!? 借りた金を返さなくて何が悪いんですか!」

 

 コユキ、正しく脱兎! 叫ぶ泣き声辺りに響く。

 何人か顔を見合わす大人たち! 大人も逃走開始! 

 

「それなら錨に括り付けて海に落とされても文句言えないよなぁ! しまいにゃ全員沈めるぞ!」

「ですが、今の私はお客さま、その意味がお分かり⁉自治権とかそういうのは?!」

「俺は連邦生徒会会長以外に指揮系統が事実上属してねぇ人型自律判断型SRT学園の進化型みたいなもんだぞお前‼」

「私より駄目じゃないですかそれえええええ!!」

 

 先生発砲‼バーカウンター直撃‼マッカランの1940年醸造爆散‼酒飲みオートマタ号泣!! 

 続けてコユキ射撃!! ルーレット跳弾!! 一目賭けまぐれで成功!! 客困惑!! 

 

「や、やめてくれえ~っ! うちが潰れる!! 勘弁してくれえ!!」

 

 ラウンジ案内、泣き崩れた!! 

 瓦解していく博徒の楽園!! 今何処!? 

 アスナ……っ! 我関せずとばかしに、最終ラウンド!! 

 空包と実包、2分の1、要求される決断力!! 

 

「んー、ならこう」

 

 アスナ、まさかの自分へ引き金を引く。

 空包!! 即断で決断、天才的幸運!! 

 液晶に輝くSランクの文字!! ラウンジ案内再び号泣!! 泣き寝入り確定!! 

 

「かんにんしてえええ!!」

「おめでと~う!」

 

 追撃! 容赦なし! 

 コユキは息を絶えかけさせながら駆け上がる、目指すは最上部! まるでゴルゴダの丘が如く! 

 ネル追撃! コユキより先生が最早警戒対象! 

 

「あ、あわわわ……」

 

 コユキが這いながら振り返る、もはや夢と野心潰えたか? 天は見放したか? 

 

「かかか、勘弁してくださいよおお! まだミサイル巡洋艦程度しか使ってません!」

「正確には巡洋戦隊を4個分だろうが!!」

「……え? まだ私は1兆4800憶くらいしか使ってませんよおお!」

「金庫から消えた金が誤魔化されるわけねーだろバカ!」

 

 散弾銃遂に弾切れ、コユキのM60は弾薬ベルト脱落!! 

 いらんとイサカを投げ捨てる、他人の物に配慮しないのが皇帝の流儀(ボナパル・スタイル)

 しかし、神がサイコロを振る! 

 

 警報の音が煩い、アロナが非常事態と叫んだ。

 

『対艦ミサイルです先生!』

「はあ?!」

 

 船なんか乗るからこうなる、海はクソだとキレる暇なく、ミサイル迎撃戦スタート!! 

 

 

 

 

 闇夜の海上を進む海賊部隊、キヴォトスで流行り始めた海賊行為はオーサ型やコマール型ミサイル艇の群狼戦術(ウルフ・パック)へ発展していた。

 陸を追われた生き物の海上逃避、進化の逆行! 進化論に喧嘩を売るが如き愚行であるが、この時期海上襲撃はかなり稼げた。

 まず単純に、セドリ行為などにヴァルキューレ海上保安局がかかりきりだった事と、ブラックマーケット港湾地域自体が拡大した事である。

 特にこの時期はカイザーも状況急変で海上コンサルタントが居らず、連邦生徒会は急変についていけていない、ある種地上より楽園であったのだ。

 無論春はすぐ終わる、色彩到来後の兎たちとシャーレによる港湾襲撃で根拠地たる港を失い、本格的に軍事企業が海洋警備に乗り出したからだ。

 

「獲物じゃああ!」

「いったるでー!」

 

 今宵の夜を走るは魑魅一座は船手衆、海賊家業は3週間の稚魚! 

 無論稚魚だろうとミサイルは撃てる、そのためにわざわざニヤニヤ教授がどこからか手に入れてきたナジン級フリゲート艦改装母艦から出てきたのだ。

 ちなみに母艦もこれも安物の中古である、セットで買うと4割引きだった。

 

「石火矢ぶっぱなせーっ!」

 

 ミサイル発射ボタンが押される。

 眩い閃光、僅かなお祈り、実は3日前ミサイルが手前に落ちて1隻吹き飛んで病院送りになった。

 幸い、祈りは通じたらしくミサイルは全弾飛翔している。

 ミサイルの数は9発、しかし船手衆は妙に冴えていた。

 本命はもう反対の側から挟み込むように近づくミサイル艇だ。

 

 

 

 警報音が鳴り響く、カジノ船の船橋では液晶に写るレーダーと地図でミサイルの距離と方位を割り出し、時間を計算する。

 護衛のフリゲートがSAMを発射している、迎撃の初弾弾着まで2分45秒、敵弾が来るまで3分58秒だ。

 そしてミサイルは撃てば全部誘導されるわけではない、誘導するイルミネーターの数に依存するのだ、射撃指揮システム無しで撃てるほど対空ミサイルは万能ではない。

 神の盾を名乗ろうと128目標の捕捉に21目標迎撃可能と言う具合である、無論これが極めて偉業にあたるのであるが、説明は割愛する。

 さて問題は一方向から来てるならまだしも、挟み撃ちになるのだ。

 そして大半の艦艇のFC系レーダーは一部最近の艦艇以外全周囲対応型ではない……。

 

「敵ミサイル群1から5をキル」

「新たなミサイル感知! ミサイル群Bと呼称!」

「クソ! チャフ・フレア用意!」

 

 船長が非常用の手段を整えるよう指示する。

 腐ってもキヴォトス、大型客船が対ミサイル対抗手段くらい有さないわけない。

 無論、チャフ・フレアはお祈りでしかない。

 だが当たらなくはないお祈りなのだ、祈り縋るしかない相手では中々マシである。

 遂に前方の護衛艦がキンジャールに続いて30㎜CIWSを撃ち出した。

 あと40秒。

 

「ミサイル群Aを全弾撃墜!」

「ミサイル群B、今だ直進本船へ近づく!」

「対抗手段放出よーい!」

 

 迎撃に割ける時間は殆どない、なんとか2発落としたが8発は突っ込んでくる。

 対抗手段放出と故障とCIWSが唸りをあげたが、それでも3発が客船へ向かう。

 信管と対抗手段のミスから1発が客船頭上を跳び越したが、二発が飛び込んだ! 

 1発が船体後部へ直撃、信管は正常に作動して機関室動力系統を破壊し、よりにもよって四軸推進のスクリューの電源を断ち切る。

 続けて飛び込んだ1発は船体中部へ飛び込み、信管不発から速度そのままに自壊しながら船内へ深く飛び込むが、深く飛び込んだ穴には当然推進剤がぶちまけられている。

 そこにロケットブースターの火が巻き散らかされているわけであるから……。

 その爆発は不発の弾頭を誘爆させるに十分だった。

 

「船尾損傷!」

「行き足止まった!」

「主電源切断!」

「中央部に飛び込んだ!」

「ダメージコントロール! 各部署報告!」

「火災発生!」

 

 平時なら一つで大問題だ、それがラッシュをしかけている。

 赤い非常灯を照らした船橋では慌てて護衛対象に近づくフリゲートが見える。

 

「いま近づいてどうすんだバカ」

 

 船長がぼそりと呟いた。

 ブラックマーケットの潮気のない阿呆が乗るとこれだ、海洋学校の1年生でもこれはしないだろう。

 第二波攻撃が無いと何故言える? 護衛はお前1隻だぞ、お前まで沈むつもりか? 沈まなくても、本船が荷物奪われるんだぞ! 馬鹿めが! 

 

「各部署ダメコン開始、慌てるなァ、喫水線より上だぞ。そう簡単に沈まん!」

 

 船長は的確に乗員を励まし、副長へ被害部署の確認作業を命じた。

 

 

 

 数分の海上戦闘で変容した客船では、コユキが気を失っていた。

 なんとか爆発で吹き飛んで海ポチャしかけたコユキを確保したのだが、やたら重いんだなんだコイツ! 

 引き摺りあげようとしてようやく音で気付いた、コイツ、貯め込んだコインを服に大量に仕込んでやがる。

 なんだよジャラジャラ音を鳴らしやがって! なに考えてんだこいつ。

 

「ふえっ!?」

 

 コユキがようやく目覚めた。

 まあ悪夢は現在進行形だよコユキさーん? 

 

「いやあああ! 先生離さないでぇえええ!」

「離さねえから、わーったから、暴れんじゃねえよ」

「嘘だああ! 安心させて落としたいだけでしょおおお! 映画の悪役みたいにいいい!」

「……それ落ちたの悪役の方だろ」

 

 コユキの抵抗が更に激しくなる、落ちてもお前が苦しむだけだから諦めろよお前。

 そう説諭してみたら猶更大泣きして抵抗しているから、しまいにゃ締め落とそうか本気で考え出した。

 幸い、それは実行しなくて済んだ。

 追いついたアカネとカリンでようやく引き上げられたのだ。

 

「ごわがったあああ!」

「自業自得だろバカ!」

 

 アカネに泣きついているコユキに思わずそう言うと、ネル部長に優し気に「勘弁してやりな、な?」と声をかけられた。

 なんだ? 俺が悪いのか? 

 

「あ、ぶちょーたち生きてたー!」

 

 アスナが最後に合流し、ややコユキの様子に疑問符を浮かべていたが、捕獲できたから良いかと考え、見ない事にした。

 

「で、そうそう」

「なんだよ」

 

 アスナは思い出した様に言う。

 

「そーいんげせんだってー! この船だめみたい」

「はァ⁉」

 

 全員が驚愕と呆れの混ぜた声をあげる。

 実は亀裂が水密区画を喰い破り下層の倉庫や電源区画、蓄電池を全滅させたのだ。

 結果手動で区画を閉じるしかないのだが、退避完了確認に手間取るうちに、全てが手遅れになり出した。

 不慣れな警備員を増やしたせいで区画やダメコンに支障をきたしたのである。

 

「だからお船おーしまいってっさ」

「なんじゃあそりゃあ!」

 

 4万トン超えの大型船舶といえども、適切に対応できなきゃそうなるかというネル達の呆れと、足が生まれたての小鹿の如く震えるコユキの音が響く。

 ともかくアロナで一応救助要請はあげる、現在位置はアロナが割り出してくれた、こういう事は優秀に思える。

 その後は救命ボートを展張、あとは待つだけだ。

 Eマグだとか言う救命器具だかを作動させているらしいが、詳しくないから何をしてるかは分からない。

 

「……やっぱ海は来るもんじゃねえなあ」

 

 左舷へ14度傾斜している客船を見ながら、最後に呟いた。

 夜が明ける頃、ヴァルキューレ海上保安局フリゲート艦4隻が現場に到着し、後始末を始めた。

 

「貴方が噂の先生ですか? 濡れネズミとはなんとも」

「すまんねこんな姿で」

 

 フリゲート艦艦長の生徒は敬礼して、船室へ連れていく。

 アロナとユウカのお陰で船内の違法行為の映像は大量に差し押さえれている、ヴァルキューレの功績にすればいいと告げると、安心したような顔をされた。

 

「いやあ、正直、安心しました」

「ん?」

「てっきりあなたがお沈めになられたかと」

 

 ”その後しばらく先生が拗ねて何も言わなくなった”とは、後代ヴァルキューレ海上保安局に伝わる記録である。

 

「なんでェい、たかが列車を爆破したりしただけなのに」

「クビ飛んでないだけ奇跡だと思いますけど」

「任命した奴に聞け任命した奴に」*5

 

 コユキはノアより訳が分からない人もいるのかと、一つ賢くなった。

 あれでもノアはわかりやすいとセミナー役員はよく思っているが、ノアですら記録に困る大人は想像外なのだ。

 

 

 

 数日後、コユキの申告額が流出額と合わない事から単純にコユキが忘れているのか、それとも埋蔵したかの捜査が開始されたが、これは内内で行われるらしい。

 ユウカがしばらくミレニアムに帰省、ノアも駆り出され、代わりにミカとイロハが来た。

 取り敢えずシャーレのある種新体制だ、何も起きないと良いのだが。

 ……ついでにユウカにバレない様にM728CEVの予算を通す計画*6

*1
変なテンションモード

*2
お忍びやら強行軍やら闇銀行やら

*3
反社似合うねと言われる公権力よ

*4
許されないかと

*5
クシュン

*6
カルバノグ1章一話に次く




では、また金曜日から並行世界編を

ご意見ご感想、ご評価お待ちしています。


AMAS3シャーレ仕様


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組織相関図アビドス3章後


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アビ・エシェフMK2黒塗り無し

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