キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
レッドウインター連邦学園の季節は二種類しかない、夏かそうじゃないかだ。
そして概ねこれの判別はストーブの有る無しで決められる。そうした乱雑とも豪快とも言うのが困るところが此処の個性だ。
ミノリ部長の前の茶飲み話──思想政治抜きの会話──でそういう話を聞いた。
なるほど概ね事実らしい。その理屈で言うと今は夏という事だそうだ。DUでは暑さが顔を出し始めたころだが、ここじゃ「日が差しているくらい素晴らしく快晴!」という事で夏なのだろう。
「いやぁ、来ちゃいましたね、レッドウインター連邦学園。なんだか真っ白なのは新鮮です」
隣にいるヒヨリはワクワクした顔をしている、名目としては視察兼交渉だ。
というのも連邦生徒会の一部からアリウスの軍縮圧力が検討と言う話を聞き、アツコが「無理に捨てられるより売る方が良い」と決めた。
本当はチーフテン大隊とかハボックやMi-8とか買いたかったが、ユウカがヌッと顔を出して睨んできそうだから困っていた。
しかもカイザーが「俺も買いたい」と名乗りを挙げ始め、内心焦っていた、最悪スクラップ名目で再生するかと考えた。*1
そんな中で突然名乗りを挙げたのがレッドウインター連邦学園のチェリノという事だ、アツコが「ついでに整備人員とパイロットをおまけだ!」と付けて、チェリノが即金で払った。
そんな紆余曲折を経て、今俺はレッドウインター連邦学園の中心地近くの赤ひげ革命広場に居る。
「先生!屋台のスープですよ!ほかほかですね、美味しそうですね……」
「トマト系なのか?」
首を傾げて屋台の生徒に聞くとボルシチらしい。
ヒヨリと俺の分、そして随行のD分隊の副官の北崎ネネカとポイントマンの左京ハナ含めて4人分買う。
ヒヨリの主な仕事はアリウス生徒としての審議とレポートである。
「……肉多めで美味いな」
「よく煮込んでるねぇ」
護衛のD分隊隊員たちとヒヨリが同じ場所で飯を食っている。不可思議とは思えない、お互い実力を良く知ってるならそうもなる。
実際に見てみると分かるのはアリウスの人間は大抵素直な奴という事だ、お陰で当初内心心配していた不和の問題が極めて軽減出来ている。
まあスズの奴みたく「うひょー!まともな偵察特殊だ!楽できる!」と浮かれポンチなのは早々いない。
気持ちは分からなくはない、事前に敵の事を詳しく知れるなら勝利の確率への数字は格段に跳ね上がる。
”満点”と数字が押されて戦場へ出た軍隊は存在しない。しかしその数字をどう事前に高めるかのパズルが指揮者の責任だ。戦術指揮官としてのスズの意見は些か不埒に近いが正しくはある、節操無しとも言う。
「あ、UAZだ。」
「迎えかな」
ステンレス容器を慌ててかき込んで、スプーンで急いで口へと流し込んでいく。
こいつらもある意味根が軍人と言うか、メシを楽しむ概念が薄れて久しいなぁ。
俺も人の事は言えない、幼虫齧らないだけマシではある。
UAZ-469Uが現れ、中から事務局の制服に身を包んだ生徒が降りて来た。
確かトモエというレッドウインター連邦学園の高官だ。
「よ、よろしくお願いしますね」
「はい。こちらこそ」
そういうとトモエはヒヨリの口元を見て少し紙で拭った、優し気な動作でヒヨリが思わずきょとんとしている。
なるほど天性の人たらし型か。噂じゃ政権が安定しないのが日常らしいが、秩序が維持されてるわけだな。
事務局へ案内され、営門の警衛を越え、中へ入る。
新バロック様式の”人民宮殿”のあだ名を持つ事務局本館は堂々としているが、なんというか空気が他と違う。
妙に無機質的なミレニアムとも、騒々しいこの上なきゲヘナとも、ややうす暗く感じるトリニティとも違う。
「あの肖像画は?」
「はい!あれこそレッドウインター連邦学園の生徒会長であり第一の生徒であり権利の擁護者であるチェリノ生徒会長です!」
「は、はぁ」
護衛の北崎ネネカが思わず首を傾げてしまった。
SRTの3年生で寮監の前歴がある彼女だが、さすがにこういう色濃い奴は居ないんだろう、居たら困る。
すると、足音が近づいて来た、独特な鉄が床を打つ音だ。
「ようこそレッドウインター連邦学園へ。カムラッド!歓迎のパレードはいらんというが申し訳ないな!」
また偉いのが来た。
思わずユウカ辺りを助けに欲しくなる、ノアやネルパイセンとかシロコとかでもいい。
明らかに付け髭なのはいい、やたら肩書が多いのもまあいい。全体的にバランスが纏まった過積載じゃねえかテメエ!
「そして良く遠くから参られたアリウスからのカムラッドよ!」
チェリノがにこやかに握手をした、こいつ政治スキルは低く無いんだろうな……。
「先生もよく来てくれた、普段口うるさいミノリ部長たちを受け持ってくれて嬉しく思っている。
本来ならば大熊級赤ひげ勲章でも授与してその名誉、献身に報いたいがな、あいにく連邦生徒会の役員への授与は合法か見解の余地がな」
「あんまり乱発しますと元も子もなくしますよ。」
「……カムラッド先生なかなか実感籠ってるな」
普段ならともかく今は付き添いだ、普段の様にはいかん。
極論を言えばレッドウインター連邦学園はアリウス経由で中央へ名を売り込みたいから、今は明確にアリウスの貴重な味方だ。
そうこう考えていると、視察を兼ねてチェリノが夏季祭の準備の視察も行こうと言い出した。
「ちょうどよくカムラッド先生もいる、素晴らしい事だ。広い見地から助言を貰おう」
ウーン政治的に危険球!
俺を一部噛ませて戸口にしたいのかな??
ヒヨリは「お祭りですか?」と首を傾げている、ここだけ見ると幸せな光景なのだがなぁ!
執務室の外へ出て、待機していた保安委員長のマリナを加えBTR-70Kで移動する。
かなり狭い雰囲気の車両だ、キャスパーやマックスプロMRAPのが広く思えてしまう。
食堂へ向かい、流れる様な勢いで調理部長が「反革命的サボタージュ現行犯及び陰謀」で粛清されてしまった、原材料が足りないから水で薄めたらしい。
「……昔俺も需品をすげえ水で薄めたり売り惜しみで偉い目見たなァ」
「なぬっ、カムラッド先生は含蓄豊かだな」
「えへへ……ウチじゃ需品科から配給が来るのか怪しかったですね……」
ヒヨリと流れるように連行されていく調理部部長を見ながら呟く。
「粛清ってどうなるんです?」
「うむ!おやつ1月配給停止や隔週トイレ掃除の恐ろしい粛清だ!」
「はへー」
左京ハナが呆れた顔でMP5A3を持ち直した。
ちらりと先生たちを見ると「なんだ吊るさないんだ」と安堵する先生や、「ああ蒸発しないんですね」とすんとした顔のヒヨリが見える。
チェリノは得意げにふふんとしている。
「次はそうだな、レッドベア編集部だ!……とはいっても編集どもは今別件で居ないが」
「何してるんだ?」
「うむ、公開予定の映画の脚本でなんとか主役の資料探してくるとか言っていた!」
新作映画?まあ俺じゃないならいいや……。
チェリノは移動の道中で「なんでも田舎の砂漠から世界を変えようとする話らしいぞ」と述べていた、猶更人違いだな。
そして相変わらず流れるように担当の臨時編集が粛清で連行されていった。
写真にチェリノが映らず「チビと言いたいのか!」と粛清されてしまった。「合成しろよ」と思わず呟いたが、「それはそれでだめでしょ」と連行されながら元・臨時編集がのたもうている。
「まったく……真実はスタジオで作れるが発した後は替えが効かないんだぞ!最近のマスメディア気取りはなっとらんな!」
「そうだな、反体制的なところは潰すしかないもんなあ」
「そう……んんん?カムラッド先生なんかやったのか??」
チェリノが眉を寄らせて?を浮かべている。
別に権力体制としての力を行使しただけだが……。*2
見本刷りの雑誌を読んでみる、Mi-26で運ばれたハボック第一陣と整備・飛行隊員たちが書かれている。
ここの生徒は熱心に本を読み、書く、そうした点はかなり評価できる。
他の欄では「改革開放政策はどうなるか?」という現状のキヴォトスの情勢を分析した比較検討が書かれていた。良くも悪くも記者次第だが、イエロージャーナリズムや資本主義的なクロノスよりはマシな内容と思える。
丁度いい時間だとチェリノがお昼の休憩を始め出した、適切に仮眠するのは良いと思うが……。
「……視察の件忘れてないか?」
「偉大なるチェリノ会長は前例と予定とに囚われないのです」
「よくないがな」
トモエの満足気な顔に面を喰らう、辺境の連中は皆こうなのか!
いやしかし、だいたい考えれば大変な奴しかいなかったな、マコトや茶会やリオや門主さんとか……。
ギリギリのラインはニヤ部長か?アツコはこれからだが。
休憩室で休んでいると、ヒヨリが窓際を見つめだす。
「どうした?」
「雪で聞き取りずらいですけど、何人かが来てます。装具類の音が聞こえます」
無言でハンドサインして、左京と北崎に警戒配置を命じる。
MP5の左京と北崎はXM177で射撃戦の距離では短いが、安定性は高い。
ヒヨリがレーザーレンジファインダーを取り出し、俺に渡した。
SSH-68ヘルメットにトレンチコート、革製ブーツのレッドウインター連邦学園の
明らかに戦闘時のやり方だ。
「失礼!先生おられますか!」
「なんだ」
トモエ室長がドアをノックした。
「保安委員長が理由不明ですが叛乱しました」
「なんだよもう!またクーデターかよぉ!」
「まあいつものことです」
いつもなのか……。
正門では少数の警備隊が交渉の末、営門を開けていた。多分寝返ったなアレ!
仕方ないと仕事未完は困るので政権奪還に協力してやる。
「とりあえずここから脱去だな、戦力ねえし。いい感じの拠点ないか」
「227号辺りが良いでしょう、あそこなら体勢を立て直せますよ」
車庫のBMD-1を借用し、裏から出る。
途中で「
BRDM-2などが出てきたらかなり困ったが、マリナの配置が大通り封鎖などで読みやすく、トモエの裏道でなんとかなりそうだった。
幸い人口統計や地図の製作は俺の経験上のどこぞの雪国より仕事しているのもあり、車両を途中で放棄したが227号へは到着した。*3
「あーっ!」
校舎から声が聞こえる、敵が待ち伏せていたか?
上を見上げてみると、いたのは無関係そうな生徒……いや見た事がある!
「あ、要注意人物」
「うわ例の不審者だ!」
デルタの二人が慌てて銃を構えた。
「おいらの知らないところで何したんだお前……」
チェリノが呆れた顔で要注意人物、ノドカへ尋ねた。
そう、この天見ノドカ、連邦捜査部の要注意人物リストに名を連ねているのだ。
罪状は先生、つまり俺への盗撮とストーキング容疑、3回うちを監視中の公安局にパクられ、4回うちに不審者検問された。
結果、特殊ガラスで内装を変えて容易に監視できなくした。
風に乗って上空侵入してきた忍術研究会といい、たまに目撃されるワカモと言い、やらかすヴェリタスといい、コイツと言い、どうしてくれるのだ!
”主義者”かは不明だが、それはそれとして電信柱に昇ったりするのは異常者と言わずして何と言う?
「うう!なんて人ですか!私たちをこんな旧校舎へぶち込んで!」
「色ボケと密造酒はおいらも流石に衝撃的だぞ」
「なんでですか!誰にも迷惑をかけてません!」
「いやあ、流石にカムラッド先生の意思も尊重しないのは愛という訳には無理だと思うぞおいら……」
おかしい、チェリノが急にまともな事を言い出した、定期的に元に戻るのか?
「……というか、なんでまた先生たちまで?アリウスの所の人まで連れて」
奥からもう一人生徒が出てくる、間宵シグレという生徒で、罪状は密造酒製作だ。
ヴァルキューレ公安局の
警戒したような顔つきだが、無理もない、どう考えても容疑者でてこいだ。
「つ、ついに我々をシャーレに引き渡すんですか!引き渡し協定だけは駄目です!」
「いや流石にそこまでは……」
ノドカが縋りつくようにチェリノへ泣きついている。
シグレは呆れた様にカンポットを取り出した。
「先生たちも飲むかい」
「それ過発酵してねえか」
「大丈夫だよ、この前迷子になってたアリウスのとこの生徒も美味いと言ってたもん」
シグレはそう言うと、笑いながら言った。
「私にゃ分からないね、ろくな冷蔵庫もないのに飲料を製造したら密造酒だって言われてんだ。
果実は規則に則ってて、砂糖も規定通り、で漬け込んだら怒られるなんて」
どんとコップを置く。
「おまたせ。連邦法違反。
雪の様にピュアだよ」
「いや駄目だろ流石に、俺も昔パンで作る酒は見た事あるが……」*4
「あー、ウチじゃパンも米も無いからね。そういうのはないよ。
ささ、チェリノ委員長らも飲んで」
嘘だろコイツとチェリノが唖然としている、見ていられないので代わりに呑んだ。
かなり甘いが、度数は低い、腐敗しない様にやるにはアルコールを含ませるしかないのは俺の時代から変わらんな。
「……お前これかなり水で薄めたな」
「流石にね」
シグレが言いたい事は理解したのか、ふっと笑う。
チェリノにいくらか囁き、しばらく唸るとチェリノは大きなため息を吐いた。
「分かった分かった、お前ら、もうなにもやらかさないと誓うか?」
「最初からなにもやらかしてませんよ」
「そうですよ」
「こいつら……」
ヒヨリが呆れた顔でカンポットを呑んでいる、一部のアリウス生徒も密造酒くらい作れる、味が駄目でも酒は価値があるからだ。
ちなみに昔のサオリ達はテレピン油を制作して売った事がある、家の近くに松の木が残っていたらしい。
「ともかく、だ。お前らが健全厳粛な学生となるなら停学を取り消そう。」
「やったー!」
「ただし、事務局奪還に協力してもらう」
「えー」
「えーじゃない、マリナが停学取り消しを認めると考えるならやめていいぞ」
ノドカがしばらく考えてから、顔つきを急に変えた。
「さあご指示を!広大なるレッドウインター連邦学園の領導者かつ全ての勝利の組織者チェリノ会長!」
「俗物……」
呆れた顔でシグレが呟き、困り果てた顔をした。
親友とはいえ手のひら返す姿は何とも言えまい。
「で、事務局奪還するとしてどうするんです?数も少ないですけど」
「うむ!カムラッド先生、おいらも気になるぞ!」
「お前らなぁ……」
頭の中にモモイの影がちらついて来た勘弁してくれ、もうクソガキは十分だ。
地図を確認し、叛乱軍の規模を確認する。
最初の1日目だけあり、大半の勢力は様子見だ。新政権も万全と言い辛い、入念な準備もない。
そうなると後は衝撃力だ、衝撃と畏怖による素早い一撃が大事になる。
「んじゃー、あれだな。ミノリ部長でも呼ぶか」
「「えっ」」
ノドカとチェリノがぎょっとした。
「考え直した方がいいんじゃないかカムラッド先生」
「絶対話が拗れそうですよ」
「しょーがねぇーだろ。他にまともな戦力になる戦意が豊かな奴居るかァ?」
2人とも沈黙してしまった。
最近はアリウス系生徒の工務支援や民生復興でミノリ部長は実に貢献している、結果的にデモも起こされているが、主旨は鋭いケースも多い。
群衆制御の経験もかなり幅広く積めているので、案外持ちつ持たれつな関係だ。
お陰で以前にノアから「クジラとコバンザメ……」と呟かれたが。
しょうがないとしぶしぶ承諾した一同を連れて、工務部の施設へ向かう。
工務部の建物へ入るときょとんとした顔で、ミノリが首を傾げた。
「あれ、急用なんてあったか」
「いや、俺の仕事と言うにはそうなんだが、ちょいとな」
「ん?UXD処理はエンジニア部の機材完成まで進めれないから電線敷設計画か?」
「いや復興計画じゃ無くてな」
え?とミノリ部長がヒヨリを見る。
「新規入部希望者か?」
名刺を交換し、ミノリ部長は納得したような顔をした。
「いやそうでもなくてな、単純に言うとチェリノの問題なんだが」
ああ!とようやく得心を得たような顔をする。
「政権転覆の依頼か!」
がたっと工務部員がAKやRPKを取り出す。
「違うわい、もう転覆してんだよ」
「なんだつまらん」
工務部員たちがすごすごと武器を片付けていく。
「というわけでそれは今されると困るからもっかいひっくり返そうと言う話」
「なるほどやっぱり政権転覆か!」
わっせわっせと工務部員たちがPTRSライフルを担ぎ出した。
「先生もついに永続革命の輪に入るのだな!歓迎するぞ!」
「ちげーよ。俺はどちらかと言うと外国勢力の枠だよバカヤロー」
「なんだつまらん」
後ろじゃヒヨリと工務部員たちが会話している。
チェリノが蓑虫みたいに簀巻きにされてるのは軽く無視して、要件を話しておく。
「とりあえず、今日中にケリをつけたい。大丈夫か?」
「構わないぞ、計画はあるんだろう?」
先生の目が怪しく光った。
営門の警衛たちが手袋を擦りながら立つ事務局営門前。
横向きに駐車されたBTR60が封鎖する正面ゲートに驀進するはBREM-84装甲回収車!
嘘だろと開いた口が塞がらない警衛が慌てて横へ飛んで回避、BTR60が跳ね飛ばされる!
「多勢に無勢だ、いっけえ!」
「政権転覆ラッシュだ!」
怒涛の様に押し寄せる工務部員に慌てて哨所の14㎜機銃を動かす。
KPV重機関銃が唸りをあげるが、即座にタレットごとヒヨリの榴弾が直撃して吹き飛ばされた。
「な、なんだぁ!?」
マリナが慌てて確認を始める。
「いったいどこから湧いて出た!周辺警備は何をしてたんだ!」
もっともな疑問だった、半径数キロに警戒の検問を配置したのだ。
追撃部隊にBRDM-2とUAZ-469を差し向けて捜索しつつも、安全に気を配っている。
一応才能と知識が備わっているマリナなりの、安定した冒険性が薄い手である。
「それが、少数名の班単位で各所から浸透して警戒線をすり抜けて集合したらしく」
「なんだとおお!」
浸透強襲なんてそんな手段、いつから工務部員たちが覚えたというのだ!
マリナの疑問はやはり常識的なものだった、まさか思ったよりミノリがまともなのでアリウス系の割合が増えたのは全員の予想外だからだ。
なにせミノリにも予想出来てなかった、問題を起こしてないのは単純に学力と姐御肌気質が大きい。
ドーンと爆発音がした、ひっくり返されたBTR60が爆炎を上げている。
事務局本館の玄関ドアが破られ、工務部員たちがRDG-1スモークグレネードを投擲、煙幕が展張される。
続けてDP-46軽機関銃を腰だめで掃射しながら突入部隊が突撃を始める。
「突入!」
K-50M短機関銃を装備した突撃隊が突入し、奇襲で圧倒された事務局親衛隊を撥ね退けてフロアを駆け上がる。
親衛隊の方がAK74やRPKと言った火器から6B3ボディーアーマー、装甲戦力などで全て優勢と言えるが、今この場における数的な優勢は絶対的に我が方にある。
基本的に過去の俺の方程式で述べたが、戦力とは数と機動力の2乗で計算できる、これの意味する事は「必要な戦場に存在しなければ兵士の数は意味をなさない」のである。*5
銃が良くても機動力で衰えれば負ける*6のは当然で、展開した戦力が機能しなきゃ無意味*7である、この場合マリナは点と線を維持して面制圧へ変わる前に浸透したわけだ。
無論阿呆だとすぐに班単位で浸透できない。行進させて号令で銃を撃つだけすら難しいのだ、これだけで数ヶ月から数週間はかかる。
だからヘルメット団や不良のスケ番は集団での作戦行動を成立できない。組織基盤が無い場合50人もいかずに統制が出来ず崩壊してしまう、そしてそれ故にヴァルキューレや風紀委員会などに絶対勝てない。
「大丈夫だ、持ちこたえれば応援が……」
「増援が来るまで持ちそうにありません!うわあ!」
マリナの執務室への通路がぶち破られた。
工務部員の組織力の強さの根幹は組織基盤である。統合された制服、共通の組織、経験の共有。
共同作業とは個人間、組織間で新たな問題を現出させ、気づかせる。そう言う点でミノリは指導者として上手くやっていた。
別の意味で彼女はある意味天才の片鱗がある、問題は趣味が革命とストライキのアナルコ・サンディカリストなのだが、共通の政治思想まで与えたからもう滅茶苦茶だ。
正直なところ境界線を4歩くらい超えれば本当に面倒な強敵だが、幸い超える気配はない。
カリスマと演説スキル高いからこの手の人間は武力では絶対に勝てない、ペンと剣の対決はペンが、精神が必ず勝利する。
だから俺は工務部員のデモに武力無しでコントロールしようとしている、それは正しかった、こんなの武力統制で勝てん、困る。
信念と意志と力を有する存在は強引に排除しちゃ駄目だわ。
「機銃この位置!」
DShKM重機関銃が二輪車のような台座で運ばれ、制圧射撃を始めた。
その隙にK-50Mを構えた工務部員が部屋を確認していく。
B40ロケット弾で半壊したバリケードはスパスパ貫通して向こう側をぐしゃぐしゃにしている様だ、撃つたびに音が響いている。
北崎と左京がM112 Demolition Chargeを配置し、バリケードを爆破する。
流石に相手も戦闘継続の能力が無くなり、相手が白旗を挙げた。
「射撃止め。撃ち方やめぇーッ!」
「射撃停止!」
「撃ち方やめ!」
各所で指示が飛び、ヒヨリが窓から信号拳銃を撃った。
ちなみに逃げようとしたマリナは暖炉から逃げようとしたがスタックしてたのを確保した、数人がかりで引っこ抜いた。
「カムラッド、些かやりすぎてないか?」
「勝てば何でも許されるんだぞ、本当だぞ」
「いやー、流石にここおいらの生活拠点なんだが……まあ砂漠の所より良いか」
多分それ言うと散弾銃持ったお化けが出るよ。*8
まあそれはどうでもいい、勝ってから悩めばいい話だ。
「いやぁ、噂に違わぬ暴れっぷりだね」
「でしょー、私もワカモの暴動で巻き添え食らいかけて」
227号の連中が勝手な事を述べているが知らない、それはそれだ。
ともかく、即日でクーデターへカウンタークーデターだ、中々上手くやれたな。
「班単位の浸透、再集結、総攻撃か……確かにこれなら少数ではあるが主導権を握れるな」
「封鎖線と言っても完全な封鎖線を張るのは事実上困難だからな」
ミノリ部長が熱心に手帳にメモしている。*9
ふーむと班長達を集めて話しているのを見ながら、アロナ経由で目的の打ち合わせを直ぐに済ませた。
「工務部員らにプレゼントだ、俺名義でラーメン柴関の食券と、シャーレ食堂の食券だ。」
「やった!シャーレカフェのケーキは美味しいからな!」
さらば俺のポケットマネー!食券になったからマシな使い方だと思うがユウカが怒りそうだ!
翌日、帰りのヘリの機内で知識解放戦線にクーデターされたというチェリノの話が流れて来た。
なんとも滅茶苦茶なところだが、少なくとも分かる事はある、あそこはあれで結構楽しくやっている。
「先生ー!」
「よおユウカ、お土産にチェリョンカっていう高級チョコ貰ったぞ」
「それは良いんですよ!何ですかコレ!」
渡された新聞紙には「シャーレ、レッドウインター連邦学園の政変に関与」と書かれていた。
「……ユウカ、反抗的な新聞社って潰しちゃ駄目かな?」
「ダーメーデース―!」
無言でユウカがSMGを両手に構えた!!!
革命のイワン・クパーラ END
感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当にありがとうございます!
この場を借りてお礼申し上げます。