キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
デカルトが出ると尺が吸われる。
素晴らしい感想が来たので兜の尾を締め直しです。
クソみたいなミッションが終わり妙に疲れて帰路に就いた翌日。
今日の俺の運勢はアイラウの戦いでロシア騎兵が司令部に突っ込んできた時ぐらいの運だ。
チヒロが随分前に頼んでいたアビドスで押収したデータサーバの解析の経過報告と、此処までのレポートを紙媒体と電子媒体で持って来てくれる予定の日だった。
ノアも来て受け渡しサインを書くぐらいの案件だ、それは良い。
裁判や審問の弁護の礼でミカも来てた。此処までならよかった、ロールケーキくれたし。
最近の情勢を加味して見せ札代わりに用意していた予算申告書がユウカにバレた。昨日の疲れで置き方が雑になってたのが不味かった。ぐずりを通り越したユウカがライフルを取り出し、サオリの決め台詞を言い始め、即座に動いてくれるサオリの反応が少し遅れアツコとミサキが抑えに入ったがちと遅く、ミカが止めてくれたが天井が穴ぼこだ。
泣きに入ったユウカをチヒロとノアが見たのが運の尽きだった。
「ダミーだ、ダミー」
「本当ですか?」
「これは本当」
他言無用なと念を押し、持って来てくれたデータとこれまでの証拠を持って、やはり連邦生徒会の一部とカイザーのつながりの痕跡が見えてきたこと、連邦生徒会とシャーレの関係を含めると。
「要するに、連邦生徒会がトリニティみたいになりかけてるじゃんね」
と言うミカの言葉が的を得ていた、アリウスポジのカイザーは狡猾で資金力が強い。
アビドスの敗戦の後も立て直し始めているのが証拠だ。
ティーパーティに相当する連邦生徒会行政部は権限の弱さと行動の遅さが目立つ。
そして背景の見えない防衛室を中心とした勢力、そして外様であるが実績などで名を上げてきたシャーレと大きく3つに分かれ始め、下手をしたら連邦生徒会相打つなんて案件になりかねないと説明したら、「私達の仕事の重さが本格的に分かってきたと」遠い目をしたチヒロがため息ついていた。
それでこの予算表で観測する積りだったと
あえて、敵に渡らせる偽の命令書の様なものだ、ツーロンとかフリートラントでやったやつである。
で、偽装セットがユウカに見つかり今に至ると言う事だ。ノアに「説明不足です、あの時の約束は嘘だったんですか?」と詰められた。
それにユウカ、野戦砲とは言え、向こうのこの反応は過剰過ぎないか?と言うと「あっ」と気づいてくれて本当に良かった。
とんでもない嵐の予報をするとみな納得してくれたが、それはそうとして、お詫びに家のガールズにお礼やお詫びを兼ねて、ついでに気分転換--辛気臭い俺がちょいと退室する事で--にアイスケーキを買いに向かってる途中にキリノに出会った。
「ああ先生。」
「防犯パトロールか?元気で良いねえ」
「いえ、駐禁のほうです。最近ここら辺は静かになったので」
根こそぎにやったからなあ。
ちなみに不良からの受けは何故かいいのだ、多分喧嘩相手としては正々堂々揉み潰してるからである。
キリノと雑談していると、こっち持ちで保護観察してるからって、いろいろ仰っておられる様だ。あのウサギ達は。
武装した放浪者集団ってなんだよ。キリノよ、それはテログループとか言うんじゃないのか?
数日はスクワッド全員出動案件は止めて欲しい、やはり劣るとしても似たような任務能力を持った部隊の錬成を始めて正解だった……。
「でも生活安全局も予算降りないし……シャーレ隊員の高分子ポリマーとセラミック防弾が羨ましくなりますよ」
「俺のは鋼鉄プレートとポリマー、ケブラー繊維の三重だからなあ」
「噂じゃ50口径耐えるって聞きましたよ、ほんとなんです?」
「ウタハは308口径なら耐えると明言したがそれは分からん……。*1」
確かに、ヴァルキューレの訓練と編成見直しは要るかもしれないが、最新鋭=強いのは偶に大事故*2になるってネルも言ってたからな、戦闘に関しては妙にミレニアムは視点が広い。
装備より別の方に予算を入れた方が良いだろうと話してるが、向こうの予算不足の要因の一つは家だ。ある程度連携できれば良いんだが、いっそ生活安全局をシャーレに編入した方が良い気がしてきたぞぉ…。
ポリスポストの警官はお前が良いと思うがねぇ……。
食べ歩きパトロールが様になるんだし。
キリノが離れると、妙な影が近づいてきた。
「誰だ、付けて来てるだろう?」
こういうのにも慣れてしまったなぁ…。
この感覚は、前海へ行ったとき、ワカモが追い回してきた時の感覚とは違うが。
「シャーレの先生かね……?」
「そうだが、そちらは?」
相手の様子を確認すると、なんだか眼がウルウルした変な奴がいた。
「とある用件で会話がある、ご同道願いたい……」
「目的は?」
何だこいつ今までと違う雰囲気……しかし平和にしすぎてうっかりしていた。
「シャーレビルでの事件の話だ」
「わかった、同道しよう、手元のそれはポケットにいれとけ」
「こっちだ……」
見慣れた地域の廃墟に案内される。
「座れ、交渉の時間だ」
向こうから出てきた首魁らしい奴の面を見ると、妙に間抜けな面をした、ぼろきれを着たオートマタだった。
「問題なさそうなら、何よりです。下手なおもてなしで何かあればどうしようかと……何せ私達もキヴォトスの外の方をお迎えするのは初めてでして。」
新種のゲマトリアか?連中もこういう変なことしてそうだし。
「ほぉ、それで其方は?」
「ご挨拶が遅れました、私の名前はデカルト。この組織「所得せずとも確かな幸せを探す集い」……通称「所確幸」を率いるリーダーです」
おおっと俺の手に負えそうにないバカが登場、ゲーム開発部と同じ匂いがする。
相槌うちながら聞いてはやるが、モモイのシナリオ見る気分だ。
「所確幸?なんだそりゃ?」
「おやご存じありませんか?」
知らねぇよバカ。
やはりモモイあたりの差し金か、黒服の陰謀ではないだろうか。
「清貧な人生を追い求める方であれば、一度は聞いたことがあるのではと思ったのですが……なるほどまぁそうかもしれないとは思って居ました」
咳払いして本題を入れるデカルト。
「何せあなたは、部下を使って食べ物を強奪していたようですからね。」
何も知らな過ぎて驚いてるよ!
「とぼけるのも大概にしなさい!私の仲間が見たのです、貴方の部下とウサ耳の生徒たちが仲良くしているのを!」
ふっざけんな!俺は奴ら*3に怪文書聞かされた関係だよ!部下のオフまでは専門外だよ、テロ支援でもあるまいし。
「まぁ色々言いたいが、それで続けて、後、買い物袋に入れてるのアイスだから、保存か食べてくれ」
「ほぉ、我々に賄賂を贈るつもりですか?ですが贈り物を受け取らないのは失礼ですからね、冷蔵庫に入れてください」
さらば、ユウカの詫びアイスケーキ……やっぱこいつゲーム開発部系のバカだ、バカの方向性違うが小悪党とかの類だ。グレーゾーンの辺りでフラフラしてる感じの変人だ!
ちなみにそういう奴が基本的にシャーレの天敵である。
「ですが、本題は変わりません、あなた方が我々の求道を邪魔する、貪欲な者たちであると言うことです」
「確かに、会計に中隊規模の戦車をねだったりMLRSの予算を通そうとはしたが……」
デカルトが急に真顔になった。
「ちょっと、我々とは縁のない貪欲さですけど流石に引きました、会計の人怒るでしょ?あなた大人なんですよね?」
「本当にマジ切れされて、あれ買いに行ってたんだよ」
素面になって、つっ込みを入れてくるな!後ろの奴も「やっぱシャーレヤべぇよ」「連邦生徒会の動く弾薬庫がよ」と呆れている。
なんなんだよ、陰謀論者の次はヒッピーに何か言われるのか、確かに色々したがこんな謂れはない!
「私達はこう呼ばれることもあります」
急に演出入れてきたな……。
「「穀潰し」あるいは「社会の膿」と……しかし、それはどちらも的を得ていません」
溜を入れるな、巻け巻け、ダレルだろうが。
「私達は何もしていないのではなく……」
両手を広げる、身振り手振りも煩いなこいつ。
はり倒したろうかな。
「ただ「無所有」を実践しているだけなんです!」
「長くなるなら電話していいか?怒られるんだが」
「今いいとこだから、最後まで聞きなさいよ!物欲に塗れた俗人があ!」
どうなっても知らないぞ本当に……。
「キヴォトスの人々は、あまりにも多くの物を所有しています。」
「まぁ分からんでもない」
拍手を入れておいてやる、こう言うのは煽てておくのが一番だ、そこでバカをやらかす。
キヴォトスの頭のいいバカはこの傾向が強い。
「新しい戦車*4高い小銃、ミサイルを防ぐためのバンカーとか!」
「シャーレ付近に市民退避用の大型バンカー開放しているぞ」
「今度確認に行きます」
おいなんか色々馬脚というか性根見えてるぞ。
「こういった欲望はしかし、満たされる物ではありません。より上に、より高く……それらは最終的に、人生を疲弊させるものなのです」
今までの発言見るにお前がそうだろうがよ。
「真の幸せは「所得」ではなく、「無所有」から生まれる物……」
「
「生存に必要な最低限のもの以外を全て手放し、無為自然の在り方を維持する……それでこそ、真の幸福にたどり着けるのです」
「赤冬のミノリ部長も似たようなこと言ってたから、合流したら?」
「あそこは主張がうちより少し過激で……」
話をそらさないでと言われた、お前が言うのか?
「そこで私達は働かず、所有せずの「無所有」を実践して生活していたのです」
「もう一つ入れて「無所有」3原則とかにしたらどうだい」
電話が鳴る、ユウカだ。
出ていい?と聞いたら「いま良いところでしょうが!」といわれた、しらんぞ。
「ところがある日、ここに招かれざる客がやって来ました」
「出せてくれーどうなっても知らんぞー」
「もう少しで、終わるので続けさせてもらいます、ウサ耳を付けて、装備だけは優秀な武装を手にしたその生徒たちは、次々に廃棄弁当を手にしていきました。彼女達が通った後、そこにはぺんぺん草しか残らず……もやし弁当しか残って居なかったのです」
「人質と話し中です」と言って切りやがった、やべぇ。
気のせいかヘリの音が聞こえてきた。
「ただでさえ「焼肉弁当」などは廃棄の対象になりずらい上シャーレの隊員が持って帰ったりします。デザートにそれを含めて独り占めを……災いのリスもどきさえ居ると言うのに、こんな残虐行為が、許されて良いのでしょうか!?」
残虐行為がここで起きる一歩手前だよ。
そしてそれヒヨリだろ絶対に!お前くらいだよ健康診断で赤点出しそうなヤツ!
最早雑談しながら、殺戮者のエントリーの方が気になって来たころ、俺のスマホでウサギを呼べと言ってきた*5ので、直接交渉してやると言ってウサギのリーダーミヤコが出てきた。
「ここにアイスケーキと和牛ステーキ弁当が4つあってな」
おおっ無線は切られたが、このアジトと子ウサギ公園、シャーレビルの距離とレスポンスを見ると多分。
吹き飛ぶ天井!蹴破られる外壁!ウサギとアリウスがエントリー。
デカルトが即座に両手を上げて腹這いになり床に伏せる、保身全一か?尊厳とか無いのか!?
「カチコミだあああ!!」
「やばい!シャーレだ!」
「榴弾が来る前に逃げろ!」
うわぁ……。
俺は嘘はついてないぞ、和牛ステーキ弁当は後で用意してやればいいか、嘘でも真実に変えればいい。
外へ逃げ散った連中がMRAPの連装M1919でハチの巣にされた音を聞きながら、現実から逃げ出すか考え始めた。
デカルトは護送車から「焼肉弁当食べたくて何が悪い!」と叫んでいた。もう分かんない、サン=ジュストかクートン辺りに押し付けてジャコバンにした方が良いかもしれない。
まあ、ネオジャコバンなミノリはなんでかいるんだが……。
ちなみにデカルトたちは2日後釈放された、抵抗せず逃げたからである。ホームレスに特権階級はおかしいだろ!とは言って居た。
大雨が続く、先生は今居ない。
ミサキは窓を見ながら、少し物思いに耽る事にした。
『堤防補強の為シャーレは現地自治区と協力して』
テレビはアビドス砂漠地域で防水作業中のシャーレのアビドス砂漠分遣隊を映している。
先生は「俺雨には良い思い出が無いんだよな」と嘆いていたが、あまり自分も変わらない。
あの掘っ立て小屋が残ってた事自体が奇跡なのだ、揺れるし雨漏りするし穴空いてるし。
多分、ゲーム開発部の部室が妙に落ち着くのはあそこと似た雰囲気があるからだろう。
『ミノリィ!資材もう少し足してくれ!』
『いまやってる!5分待て!』
……何してるんだ、あの大人は。
分かんない大人だ。
テレビは暴風でせっかくブルーシートが減ったアビドス校舎に風で飛んだタルヘ*6の残骸がホールインワンするのを映している。
『うへええ!せっかく直したのに!』
『あ、あれ前に撃墜した奴じゃん!』
『ん、カイザーに請求する』
騒々しいテレビを消して、ミサキは雨具を着る。
多分やるべき事、それがあると思った。
子ウサギ公園ではやはり、あの連中が排水作業をしている。
だが殆ど無力だ、彼女たちは十分な工作資材を有した際の作業しか知らない。
近づいてるうちに、排水が間に合わなくなり溢れ出した水がラビット小隊の貴重な携行火器弾薬と食料や電子機器を飲み込んだ。
テントが崩れ、呆気に取られたような小隊員が立ち尽くす。
「……笑いに来たのか」
サキがそうつぶやく。
「全部おしまいだよ!弾薬は殆ど押収され!戦力はなく!重火器もない!」
「サキ……」
ミヤコがただ、立ち尽くす。
『アビドス方面で一部発生した水害は現在シャーレの救難機で避難が完了し』
ラジオがニュースを続けている。
ああ、だから今日は朝から航空隊が大忙しなのか。
ミサキはそう思いながらシャーレから持ち出したスコップを握る。
「ミヤコだってわかってるはずだ!もうSRTはない!いまやシャーレが正義の味方だ!SRTは……もうないんだぞ!」
「それでも、諦めたくない!」
ミヤコがスコップを振るう、下手な掘り方だ。
ミサキが昔と同じように、アリウスと同じ様に掘り進める。
サオリ姉さんが教えてくれたように。
「……アリウスの」
「ほら、しっかりする。あんた将校でしょ」
「ですが……どうすればいいのか……」
ミヤコは、どうすればいいのか分からないと涙をこぼす。
ぐいっと胸倉をつかんで、ミサキは言った。
「あんた隊長でしょ、将校でしょ。ならしっかり指揮して、それから泣きなさい」
しっかりと胸倉を掴んで、顔を近付けてそう告げた。
かつてそうであったように。
「それとやり方が違う、水はけもこれは車両向けの奴!これだから育ちのいいお嬢さんは……!」
妙にこなれた工具の使い方するなあと思いながら、ラビット小隊は作業を続ける。
いつの間にかサオリも来て、アツコも来て、ヒヨリも来た。
「む、昔を思い出しますね……よく家が崩れそうになりましたっけ」
「三回崩れた、5回崩れかけたな」
「3回目は寝てるときに崩れたね」
懐かしい昔話だ。
たまたま見つけたコンクリートの袋がなにより嬉しかった。
「よお」
そして最後に、先生が来た。
「やっぱり雨はロクな事にならん」
泥と砂にまみれながら、先生はそうつぶやいた。
……先生も工具や車両を使わない作業ができる大人なのは、少し面白かった。
「懐かしいな、ツーロンでも雨に苦労したんだ、だから橇でみんなで引っ張って運んだ!」
ところでなんでまたそんな経験ばかりしてるのかは、初めて会った時そこで撃たれてたって言ってた気はするけど、今は聞かないでおこう。
たぶんすごく長い話だろうから。
「ありがとうございました。」
作業を完了し、帰ろうとした時、ミヤコ達がそう言ったのが聞こえた。
これも誰かの受け売りだ。
翌日、ユウカは経済新聞にそれを見つけて、ついに徹夜のせいで幻覚か何かが見えると感じた。
【カイザーコンストラクション、子ウサギ公園全面再開発を計画か】
それを伝えると先生は風呂上り特有の愉快気な顔を一気に顰めた。
そして、リン行政官に尋ねてみた所、元々子ウサギ公園の用地を売るのは既定路線であると判明していた。
『カイザーがどんなところか知ってるよな』
「それが、これは会長失踪前に通されてるんですよ。止めるのは非常に困難です」
『くそ!うちから近いところにあのカスどもが住み着くのか』
ん?と先生の顔に何かが浮かんだ顔がした。
嫌な顔だ、前にネズミみたいな生徒の薬誤飲して「俺が居なきゃ駄目かあ?」とか言い出した長髪の頃の若い先生くらい嫌な顔してる。
「ユウカ、入札候補の情報!」
「はい」
ほーら来た、あんな変な連中絡むとすぐこれだ。
この先生は外で何をしていたんだ?全く。
「財務室長からデータ来ましたよ、事実上1件だけだったらしいです」
「それがカイザーか?」
ユウカがFAXの資料を渡す、全て公開情報であるから読まれても問題はない、まあ競争入札資料なんか読む奴少ないんだが。
入札情報ではネフティスも名乗りを上げていたらしいが、入札締め切りまでが短くカイザーの価格つり上げに負けて辞退したとある。
「この入札額、明らかに異常です!」
「理屈は?」
先生はこれを言うとき、要約しろと言う意味だ。
「1,投資額に見合わない地域であること。2、周辺地域買収に際して地下配線に手を加える大工事である事。3、このような巨大施設は立てても投資に見合わない事。以上からです!」
よってこれは異常である、QED。
先生は少し考え込むような顔をし、言った。
「一つあるんだ、そういうのをして、投資に見合いそうな施設が」
「なんです?」
先生は呟くように言った。
「軍事施設。」
ユウカは目を見開いた。
それは。
「それはつまり、カイザーはシラトリ区やDUへの軍事施設建設を」
「あり得る話だ、カイザーは今まで奇妙なほど静かだ。俺はこれを攻勢準備と考えていた……だが攻勢発起点は随分変わったらしい」
椅子を回転させ、後ろに掲げられた”連邦生徒会”のマークを見上げる。
恐らくカイザーの狙いはDUへ軍事プレゼンスを持ち、こちらに二正面を強要する事、前進拠点を有すれば確かに有利になる。
「ユウカ、アオイ室長に”用地買収に名乗りを挙げたい”と伝えてくれ」
「は?」
「これでカイザーは手続き上買取が完了せん、予算はお前がのらりくらりしらばっくれて引き延ばせ!」
「えーっ!フィリバスター*7ですか!?」
「議会政治は良いぞお」
先生はにこやかな笑顔でそういった。
連邦生徒会内部はやや騒然としていた。
アオイ室長が先ほど「ふざけんな書類作り直せって言うの!」と憤慨していたからだ、気持ちは分かる。
カヤはそれを聞いて、内心いい気味だと笑った。
ラビット小隊がアリウスやシャーレと和解しつつあるのは想定外であった、コネを使い彼女らに廃棄予定のSRT備品を横流ししたのは正解だったが、手が足りなかったか。
正直、カヤはラビット小隊の事が嫌いである。
ただ嫌いな相手と握手出来て大人である、私は超人、出来ぬわけがない。
ただ先生に靡かれても困る、それを”アドバイザー”たちに尋ねたら「まああれはなんとかなるだろう」と返されたから、安心である。
「カヤ室長、秘匿回線です」
「はいはい」
カヤは専用秘匿回線の赤い電話を手に取った。
相手は分かっている、アビドス砂漠のカイザージェネラルだ。名目は撤収作業監督だが、真実とは少し違う。
『カヤ室長!どういうことだ!』
「どうしたんですか、駐屯地が浸水したとかなら聞きませんよ。アビドス砂漠は化外ですから」
『そっちじゃない、なんで再開発にシャーレが名乗りを挙げてる』
は?
カヤは思わず相手が正気か疑った。
連邦生徒会端末で検索をかける、該当した。
『シャーレが買い取りの意思を表明、ただし金額公示は再来年度予算にて発表』と通知が来ていた。なるほど財務室長が怒る訳だ、事実上金額とかは言わず塩漬けにさせるつもりらしい。
……おいまて、本当か!?
カヤは目を見開いた。
『何とかしたまえ!』
「なんとかと言われましても」
『不法居住者退去させて建設開始したと事後承認させるとかあるだろう!?』
「じゃあ私のキャリアは?汚点になる」
『知らんわ!お前の部下居るだろう!それにやらせろ!』
「ああキツネの」
『ここで使うのは特殊部隊じゃなくて公権力の犬だろうが!』
「シャーレ?」
『ヴァルキューレ!』
ガチン!と回線が切られた。
余裕のない大人は困りますね……、コーヒーを口に含んで、風味を味わう。
交渉するとしても再来年、ならいくらでもやり様はあるではありませんか。
「カヤ室長」
「ああ、公安局長」
予定通りのシャーレ要注意レポートだ、油断も隙も無い。
「それと、先ほど聞きましたが」
「公園の案件でしょう?」
「ええ、公園入札に際して周囲を調査したいと言ってます」
周囲を……。
「……地下も?」
「たぶん、入札範囲ですから」
コーヒーカップを置く。
頭がさえてきた。
あそこの地下の事を知られては計画そのものが破綻しかねない。
「ただちに公安局を派遣して周辺不法占拠者を排除しなさい!」
「え?ですが書類上どうするんですか」
「ただの書類稟議書の入れ違いとすれ違いとして私が会見して収めるからやりなさい!」
カヤがあまりにも珍しく声を上げたので、カンナは思わずのけぞった。
少なくともここ数日でカヤは変わりつつある、良いのか悪いか分からない。
子ウサギ公園では夜が明けて、空腹を誘う香りが満ちていた。
駄目になりそうな食料を煮込んで部隊チゲを作っているのだが案外上手くいっている。
「弾薬どうすっかなあ」
「申請書出して返還願い出します?」
小隊の朝食は、侵入者で打ち切られた。
ちなみにモエはまだ寝ている。実は昨日、作業中にぽろっとSRTの備品カイザーに転売したと言ったら飛んできたシャーレ古参隊員に逆さ吊りにされた。
「次やったらアビドス砂漠に埋めてやっから覚悟しろ」とボコボコにされた、それはそれとして何か悦んでいたが。
「ふええ」
「あ、前に拠点爆破されたおっさん」
サキが拘束すると、デカルトは涙目で語り始めた。
「軍用の弾薬で廃墟に乗り込まれたんですよ!ここまでされる謂れはない!」
「また拉致しようとしたのか!?」
「ちがわい!」
デカルトは「公権力の犬が押し寄せてきたんだ!」と語る。
ためしにサキが、デカルトの撃たれた後頭部を確認すると、確かに徹甲焼夷弾だ。
だがここら辺でそんなのを使う公権力の犬?サキは首を傾げた。
不良は最近めっきり減少した、聞くところによればワカモも沿岸部を荒らしてると言う。そんなわけで結論は一つ。
「やっぱあれか、廃棄弁当強奪でもしたか」
「勝てる訳ないでしょ!」
「じゃあアレか、
「入れる訳無いでしょ!」
「だよなあ」
答えはある意味直ぐに来た。
「ヴァルキューレだ!手を挙げ地面に伏せろ!」
カンナ公安局長が部隊を連れてまた来た。
ただ、違う点にはすぐに気づいた。
「よお、狂犬」
サキが煽る様に呼びかけた。
「ヴァルキューレは”何時からシャーレ特務部隊並みの弾薬を”買えるようになったんだ?*8」
「見るからに銃器も新しすぎるよね……」
ミユがいつの間にか、公安局の武器を真横で見ている。
すらりと伸びたデザイン、M110*9辺りかなあ。
「うわ!マークスマンの子持ってるのM27じゃん!」
モエが呆れた顔をする。
「ミレニアムの部長*10クラスじゃないと買えないような高級カスタムモデルだよねえ?」
「ええ、SRTでも上級生のエリート専用でしたね」
カンナは面倒気に「お上がうるさいんだ、退去してもらおう」と告げる。
あまりやる気はなさそうだが、ヴァルキューレの隊員たちが横隊へ陣形を変更する。
丸盾に警棒の突撃隊が待機しているのが見えた、軽装では大変な脅威である。
「午前9時14分。これより撤去の為の執行を開始する!」
「おう待てよ」
道端の屋台から何人かの生徒が現れる。
屋台の主の黒猫の生徒は真反対に見物気分だ。
「なんだ」
「なんだはないでしょうが、シャーレ隊員だよ、以前も働いた。」
「なにしてる」
「何してるって、そりゃあ”シャーレが買収に名乗り挙げたから警備でしょう”が」
カンナが顔色を変えた。
隊員はホログラムで正式な書類を提示する。
「だがこちらも命令は出ている」
「書面以外受け付けないんですよ、先生機械音痴なんです」*11
「書類はいま手元にない、後日改めて其方へ送ろう」
「書類も無くうちが管理してる土地に踏み込むと?」
「なに?」とカンナが声を上げた。
「連邦捜査部シャーレの直接指揮官である先生は”連邦生徒会長直属”であり、土地使用権に関しては同義語としても問題ないでしょう?」
「き、詭弁が過ぎる!」
「後日正式な書類でご回答されるでしょう!」
どうする、カンナの脳裏に悩みが出る。
また何人か、隊員が集まってきた。
号笛が鳴らされ、周辺から隊員が集まり始め、近隣の建物の屋上で一瞬何かが光る、狙撃班がスタンバイした?連中やる気か?
「先輩……」
ミヤコの言葉と同時に、無言で見慣れた四人が七輪を用意する。
「なんだアイツ」
カンナが困惑した。
クーラーボックスから牛肉の塊*12を取り出して、手慣れた様子でナイフで切り分けているのがサオリなのは分かる。
だがなんで。
「り、リーダー!バター使って良いですか」
「あ、あたし牛肉は醤油が良い」
「……ソーセージは貰うね」
肉を焼くなんとも言えない音が、公園に広がる。
ついでにおいしそうな匂いも。
「何してるんだお前ら」
「……なにって、肉を焼いてるんだ。休みだからな」
サオリは頭大丈夫かと言いたげな声でそう返した。
カンナは「ちがうそうじゃない」と退去通知を報せるがサオリはそれを受け取り、火にくべた。
「お前!」
「期日が書いてないし、これは遡及適用だ。無効書類というんだ、前にノアが教えてくれたぞ」
サオリがラビット小隊を手招きし、肉いるかと分ける。
「で、何の話だ」
カンナがどうするか、そう考えていると横からヴァルキューレの隊員が「局長、撤収しましょう。これ以上はマスコミが勘づきます」と進言する。
「出来るんだったらそうしたい……」
デカルトが「分けて」と這いより、アツコが「これならあるよ」と花壇用の栄養満点肥料水を渡す。*13
様々な感情が入り乱れるなか、最初に止めにかかったシャーレ隊員が詰め寄る。
「さあどうする、書面も正当性も無いなら我々は断固たる措置も辞しません」
ヴァルキューレの隊員の隊列が乱れる、重犯罪専門の公安局で実働部隊が居るにはいるが、相手が悪い。
これがラビット小隊や隊員だけならなりふり構わずやれば勝てる確率*14は、あるとは言えた、大変な損害になるだろうが。
だが相手があまりに凶悪だった、そして、恐怖も。
何人かのヴァルキューレの生徒が拳銃を抜いた。
「ば、ばか!」*15
カンナが声を上げ、サオリが無言でステーキナイフを投げた。
「ブローバックは挟まれると使えなくなるらしいぞ、エンジニアがそういってた」*16
綺麗に拳銃にナイフが刺さっていた。
それと同時にシャーレ隊員たちが一斉に小銃を構える、半包囲する様に隊員たちは隊形を変えた。
襟元をただし、カンナに隊員が詰め寄る。
「小官は先生に創隊以来”銃を持って立ち塞がるものあらばこれを撃て”と教え込まされました。先制攻撃は結構ですが、その行く先はあまり良い物ではないでしょう。*17」
カンナは撤収を命令した、アツコがカメラを回していることに気付いたのだ。
「撮影はやめろ」
「家族で肉焼いてるのが違法とは変な所だね」
「ああ、それに射撃未遂に関しては厳重に抗議させてもらう」
サオリは最後にそう言った。
やると言った時にはやるという、凄味があった。
「……あ、ありがとうございます」
ミヤコがあっけにとられながら、モツを齧る。
チゲは肉が増えたので増量されていた。
「たまには外で飯を食いたい」
「そっちもですけど、ヴァルキューレのほうです」
「仕事だからな」
ステーキ肉が焼けた、アツコが楽し気に「かんぺきー」とほほ笑む。
私生活は思ったよりふざけた連中と言うべきなのか。サキはよくわからないが、口を開いた。
「あのライフル、カイザーの刻印があったな」
「拳銃もあれプラスチックの奴だね、ヴァルキューレにしては変だもん」
モエが箸を使い鶏肉を確保する。
「つまり、武器と金を流して強制執行で追い出そうとしたと」
ふつふつとミヤコの怒りが沸き立つ。
しかし、もうSRTはない。
恐らくシャーレの影響もありローカルサーバーか、書面だけだろうから、乗り込むしかない。
しかも消されてしまう可能性が出てきた。
「まあ、この命令書が無効になったからな」
もぐもぐと肉を嚙みながら、サオリが命令書を見せる。
実は焼いたのはすり替えた火種用の別の紙だ、サバイバル重点の教えは忘れていない。
「手際が良い、スリの経験でも」
「昔やったな、ほら。姫を最初に見た時」
やったのかよ!ミヤコは意味不明な彼女らに呆れつつ、ふと天啓が過った。
ガメてしまえば良いのだ、そして、幾つかやり様がある。
「……SRTはヴァルキューレに対する監査も範疇に含んでいましたね」
「らしいな、法典で読んだ」
「で、現状SRTは組織解体してない」
「大きな組織だからな、残務処理がある」
「つまり、この”市民からの情報”が正しいと判断してしまえば」
「後はSRTの書類を引き継ぐシャーレに流れるだろうな」
サオリがごくんと肉を飲み込む。
ミヤコの眼に決心が灯る、恐らく先生が見れば無言で笑顔を浮かべるような顔だ。*18
「私にいい考えがあります」
作戦はこうだ、まず注意を引き付けるために今回の件の映像を使い、元SRT隊員たちで抗議を叫ぶ。
注意を引いているうちに敵施設へ侵入、本館地下層の金庫から書類を奪取し、裏口より脱出する。
即興で砂場に地図を描き、全員の眼を見る。
「抗議の声を上げるのは得意ですよ」
デカルトは自信満々にそういった。
「これどうするんだ」
「……まあ公権力の暴力の被害者がデモするのは自然ですから良いんじゃないですかね?」
ミサキが「で、作戦時刻は」と尋ねる。
「今夜23時ちょうど。」
「速戦即決は良い事だ」
サオリは3枚目の肉を取り出した、食べ盛りである。
【次回予告】
時代の奔流は、明らかなる河口を目指して流れ始めた!
反乱を起こしたラビット小隊が、シャーレと手を結ぶという思わぬ事態にショックを受けた防衛室。
焦るカヤはラビット小隊の対抗部隊にかつてのSRT最精鋭部隊の派遣を決めた。
次回「BLACK OPS & Rabbit Ops」
組織と人と、鉄と火が、対決の時を迎える。
政治保身全振りのカヤとジェネラルも見てて楽しいですよね。
今年のナポ先の誕生日のお話について(傾向が気になるので)
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王道に水着イベ
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並行世界orIF編
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5章2部まだ?
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記念日なら2話連投して♡