キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
妖怪金置いてけが出てくる作品どっち?
アビドスの校庭は戦場と化していた、ヘルメット団がチリ紙の様になぎ倒されている。
「こ、こんな話!上から聞いてない!」
「逃げろお!もうダメだァ!」
「バカ!銃列を崩すなァ!!あ……」
ズダン!と重たい銃声が響く。
ホシノの12ゲージ真鍮スラグ弾がヘルメット団員の頭部へ直撃した、ヘルメット団のヘルメットが砕けて空を舞う。
「まだやる?」
「退却!退却しろォ!」
「”ホルス”に手を出すんじゃなかった!」
戦闘は30分もしないうちに終結した、ひでえ有様だ。
簡単な話だ、アビドスの4人の強襲で指揮崩壊を起こしたとこにうちの車両群が突入、それで終わりだ。
そのはずだったんだが、ホシノという生徒が潮時と後退を図ろうとした敵の側面から突入した。
戦果は投降13人と病院送りが25人、前回の病院送りと今回の分含めると確実に夜にはどうあっても一部は後送せねばなるまい。
「今日のヘルメット団、いやにしつこかったですね」
「ねー」
アビドス一年の二人が首を傾げていた。
「なんだ、なんか違ったのか」
「うん、毎回だいたい分隊が3個か2個程度で、大抵40分くらいドンパチしてた」
「攻めるというより交戦が目的みたいな感じでしたよね」
「そりゃあ、変だな。」
貴重な報告だ、シロコの話、こいつらの話、足してみると明らかに誰かが裏で糸を引いているのは明白だ。
敵対者であり応急的とは言え治療をしたとしても怪我人を砂漠で放置したとしたら、ユウカにまた詰められる、あれほどの能力がある生徒に嫌われたとあれば損の方が大きい、まったく大きい楔になってくれたものだ。
横から小隊長を任せてる生徒の白河が来ると前回の戦闘の報告が纏められていた、元SRTで公安局勤務経験があるだけあっていい仕事をしてくれる。
「先生、報告書にも書いたのですがMRAPの燃料と証拠物件の回収、襲撃者の逮捕者を含め、此処にある程度の期間留まり作戦能力の維持をすると考えると、今回の輸送で空いたトラックに修理済みの損傷車を含めた護衛を付けて、今晩に帰還させることを具申します」
報告書にも本日の使用燃料と弾薬数が書かれている。持参分も含めると多めに持ってきたとはいえ、不意の遭遇戦や何が相手になるか分からないと考えると一時帰還の上こちらの物資の補充も必要だ。それも長期戦を見越すならば定期的に。その上彼女達は子供だ、無理はさせれない。
「いい提案だ、責任は俺がとろう、そのようにやりたまえ」
コートの腰ポケットからメモ帳とペンを取り出し簡易的な命令書を書く。
子供を教えるのだ、全て命令しては前の失敗と同じことになるだろう、只でさえ俺と出向のユウカだ。*1
「これを帰還時にユウカに渡すと良い、悪いようにはしないはずだ」
「分かりました、すぐ戻ります先生」
残地要員は車両や自分の装備の点検に入っているのを確認し、手紙の送り主を探そうと思うと先にシロコに呼ばれた。
シロコの背中の袋にはヘルメット団が放棄した装具品類がたんまり入っている、満足気なドヤ顔で「ん、砂漠ではサバイバル重点」と嬉し気にしている。
「ん……先生、皆が呼んでる。挨拶したいって」
「分かった、同行しよう」
「先生、我々は?」
護衛が必要かと言う確認だろう、即応態勢で休んでいるよう伝える。
一人付いてきた奴が居たが「休憩場所を探してるだけなので」とはぐらかされた、そのまま俺は『アビドス廃校対策委員会』の部室に案内される。
『対策委員会』と言うのも引っかかる『生徒会』ではないのか?
考えれば考えるほど思考の坩堝にはまる、よろしく無い状態だ、ボトルに入れた水を飲み口を濡らし、部室内に入る。
すると五つの視線にさらされる、視線の感情はそれぞれ違うようだが、目星はついているが確認は必須だ。
「この手紙を送ってくれたのは誰だ? 手紙の送り主に名前が未記入でな、確認をしておきたい、うちの会計にも現場に付いたら最初に確認してくれと念を押されててな」
「私です! 支援要請受諾ありがとうございます」
「名前は……アヤネだったか? よろしく頼む」
軽く握手、現地勢力と円滑に関係を保つのは大事だ。
セリカが「手ェでっかいなあ」と目を丸くしていた。
「でも、勝てて良かったね~、ヘルメット団もかなり覚悟決めて来てたみたいだったから、おじさん勝てるか不安だったからさー」
「勝てるか不安って、じゃないですよホシノ先輩……勝たないと学校が不良のアジトになっちゃうじゃないですか……」
能天気そうに言うことで違和感も不信感も周りに与えず、俺にしゃべる暇を与えない様に桃髪の小柄な少女──ホシノがアヤネに戒められていた。
陥落寸前の司令部で言うようなセリフでも無かろうと思ったが、この空間の何時もの雰囲気らしい。
逆にこのぐらいの一体感がなければ、ここまで此処を守り切れなかっただろう。ここまで纏まった集団を相手に余所者で大人である俺が『先生』と言う担保が有るとは言え、強かで誇り高そうな彼女たちの信頼をどのようにして得ることができるか、失敗すればここでの作戦はすべて台無しになるだろう。
しかし、大人であることがここまでマイナスイメージになるとはここの大人の大半は何をしているんだ? *2
「しかしまさか、連邦生徒会から増援が来るなんてビックリですね~!あの子たち元SRTなのでしょう?」
ノノミという火力支援担当の生徒が嬉し気に呟いた。
アヤネとセリカが「SRT?」と首を傾げている。
「ん、たしか連邦生徒会会長直属の
「そだねー、いやあ偉い人たちが来てくれておじさん楽出来るよ」
「はえー、先生えらいんだ」
セリカがやや怪訝な顔をする。
しかしながら暴力集団であるカタカタヘルメット団とアビドス本校に来る前に仕掛けてきた連中は別口だろう、しかしどちらも報告書にあったように練度や士気に対して装備が良すぎる。
ここの住人は基本的には装備を大事にする、そう名前を付けるぐらいには、古代ギリシアの盾や騎馬民族の馬に類する物だろう。そんな連中があれほど質の良い武器を捨てて逃げるなど有り得ん。
そう考えると、9割裏で糸を引いてるものが居る、それが誰かだ、そうなると鉄火場の匂いがする、どうやら俺はあまり砂漠には好かれて居ない様だ。
さて、どうやって話を切り出そうかと思ったところで意図せずシロコが話題を作ってくれた。
「先生の支援が良かったね。私たちだけの時とは全然違った」
この砂漠で初めて出会った少女シロコが言う、口数は少なく口調も淡々としているが、表情は驚嘆していた。
案内の時に会話している時にも感じたが素直で純粋だ、使われていない純白の布の様だ、この年まで何があればここまで純粋であれるのだろうか? 逆に不安になる。
「これが大人の力……、すごい量の物資と装備に増援、それに戦闘の指揮まで。大人ってすごい」
「少し違う、俺の計画にシャーレのメンバーが最善を尽くしてくれただけだ、それよりも諦めず俺に手紙を送った友人を誇ると言い、大人の凄さ云々はこれから見せてやる」
『先生』ではない俺ならその通りと笑ったのだろう、だが『先生』ならばこういうべきなのだろうか?
こちとら、半年も経ってない新任教師だ、お互い許し許され行こうじゃないか。
現状の再確認を込めて完全に済ませてないことを終わらせよう。
「自己紹介が完全に終わって居なかったな、そちらは俺をシャーレの先生ということを知っているが、俺はシロコと手紙の送り主のアヤネ以外知らない、残りの3人の名前も聞かせてもらえないだろうか?」
「では、改めまして、私たちは、アビドス対策委員会です。私は、委員会で書記とオペレーターを担当している1年のアヤネ。こちらは同じく1年のセリカ、こちらが、2年のノノミ先輩とシロコ先輩。そして、こちらが委員長、3年のホシノ先輩です」
「いやぁ、宜しくねぇ、先生ー」
気だるげな雰囲気を出しながらにへらと笑っているが、定期的にこちらを見定めてくるホシノ、保護者のように笑ってるが何を考えているか逆に分かりずらいノノミ、そしてお手本のような信用できない余所者への警戒を出してるセリカ、クソ生真面目なアヤネと口数は少ないが表情で分かりやすいシロコか、彼女達を味方にできなければすべてご破算だな。
「ご覧になった通り、我が校は現在危機に晒されています。そのため『シャーレ』に支援を要請し、先生がいらしてくれたことで、その危機を乗り越えることができました。先生がいなかったら、さっきの人たちに学校を乗っ取られていたかもしれませんし、感謝してもしきれません……」
また頭を下げるアヤネを手で制し、事件がすべて終わっても居ないのにそこまで感謝しなくても言い、俺に何度も下げるより下で待機してる奴らにも言ってくれと言う。
まだお互いの情報交換すら終わっても居ないのだから。
曰く、対策委員会とは、このアビドスを甦らせるために有志が集った部活であり全校生徒全員が所属している、そして5人でしかない、そこまではシャーレで下調べした物とほとんど変わらない。
部外者でもある程度本腰入れて調べれば出てくる情報を言わないのは、あえて隠してるのか、それとも知らないのか、どちらにしても面倒なのは目に見えていた。
「しかし5人か、良く持たせたな、苦労も多かったろうに」
「他の生徒は転校したり、学校を退学したりして出て行った。学校がこの有様だから、学園都市の住民もほとんどいなくなってカタカタヘルメット団みたいなド三流のチンピラに襲われている始末なの……」
グレードはどうあれ、チンピラと言うしかない練度だが、そんな連中がここまで士気と練度の高い連中が守ってるこの学校を襲ってる理由が分からん。
近くで大きい学園がつぶれて難民が生まれたと言う事も聞かない。
雑に言うとこの砂漠の
だが、その外部勢力は迂遠過ぎた故にここまで手間取ってるわけだ。
滑稽だな、そして愚かだ。城壁をすべて崩したのにまだ兵力の小出しをしている、俺なら校舎だけになった時に本命の戦力で攻め落として強制譲渡させるが……。
「先生聞いてる?」
しまった、途中で聴講していたようだ。聞いてはいた。
「情けなく無いだろう、5人で校舎の維持、兵站の確保その上で終わりの見えない防御戦闘……逃げた連中を責めることができないくらいには困難な偉業だ、誇っていいしこれからも堂々と誇っていけ」
「……! ありがとう先生」
照れくさそうに喜んでいるが、本当に純粋なのだろう。この先変な方向に走らなければいいが……いやこの末期戦でこの素直さを維持してるんだ、どこか螺子が外れている、だがこの素直な純粋さは美徳だ、一生大事にして欲しい。
「やるねー先生、シロコちゃん口説くなんて、交際なんておじさん認めませんよ~」
ホシノが茶化しシロコの背中に飛びつく。刺々しくなりやすい空気を誤魔化し、周りに感じさせない手腕には感心せざるを得ない。このホシノからの信用を得られなければいくら他からの信頼を集めても無駄であろう。逆に彼女の信頼を得ることができれば事件解決へ王手が出せる、人間関係の調整など俺がトップクラスに苦手なことなのだが。*3
だが、少なくともホシノからの敵意は確認して、関係性を改善せねば共同作戦も取れない。
「ほら、先生も困ってる、会議を続けよう」
「ああ、娘さんを貰おうと思ってね、お母さんとお話がしたいんだ」
ホシノへ「10億」と書いた紙を差し込む、凍り付くホシノの瞳、もう戻れない、最低限の信頼を得られるかここで殴り殺されるか、しかし何たる皮肉か、殺意を向けられている方が悩みが消え進むべき道が見える。
命は軽い、やはり天啓か。
「うわぁ、そりゃ大変だー、大事な話だねぇ、じゃあお母さん向こうで先生とお話してくるから、みんなここで待っててね~」
ホシノに腕を掴まれ、部室外にでる。
とんでもねぇ力だ、この力でシールドバッシュされたら確実に死が見えるだろう。
部室前で座っていた、部隊員を部室に面白い話でもしてやれと言い代わりに部室を任せる。
余計なことはするなと言わんばかりに引きが強くなり、少し離れた空き教室の扉が開けられ、投げ込まれるように入れられ、ゆっくりと扉が閉められる。
ホシノの左ポケットがやや垂れていた、拳銃が収まってるな。
「さて」
冷たく鋭い声。
「どこまで知ってるのかな?」
ホシノがスンと冷めた顔で尋ねた。
穏やかだが鋭利だ。
「今まで何もしなかった連邦生徒会、今回だけ都合よくアヤネちゃんの手紙を見つけて助けに来ましたと言われて普通信じると思う?
それも長期間活動できるように補給能力をつけ、選抜歩兵部隊付きで、カイザーに潰される前にそれを理由に廃校か解体に来たんだろ?
それで自分達はアビドスを支援しましたと、手柄にでもする積りかな?」
「そうか、カイザーか」
屋上で感じ続けた敵意の原因はそれか! 恨むぞ連邦生徒会長、そしてやはりカイザーか。
しかしこれが17歳の少女の出せる眼力か? だが、それに怯える俺ではない、今まで俺が就いた職業で子供に怯えるものがあったか? ましてや『先生』がそれは駄目だろ。見捨てられた恨みと怒りか、そして二度と失わんとする意思か、親近感が少し湧く。
こいつの戦う理由の一部は俺と同じだ、
「悪いがホシノ、本当に偶然だ。
俺もここにきて2週間ぐらいでな、大きな仕事始めで見つけたのがアヤネの手紙だ、何度でも言ってやるが偶然だ。今何を言おうと行おうと信じられんだろうがな。
だが一つ言えるとしたら、お前が絶望した大人や失望した連邦生徒会の奴らが、お前とタイマンで話そうとするか?
せめてこれからの行動と結果を見てくれ、それと離席が長すぎると心配される、今晩もう一度、一対一で話そう、知ってることをすり合わせたい」
ホシノは頷いた。
「……分かった、一旦戻ろ、何、安心した顔してるの? 逃げたら絶対許さないよ」
「ホシノの怒りと敵意の原因が分かった上に、まだ信頼してもらえる余地が残ってたからな、行動と結果で証明するのは一番得意だ」
「先生、少しどころじゃなくて狂ってない?」
教室に戻ると代わりに場を任せてた部隊員が必死に間を持たせてくれていた、ネタ切れが近いのかやや涙目だが、逆に同情的にみられていたようで詰められる事は無かった。
無茶振りが過ぎたようだ、礼を言って頭を撫でてやることしかできないが、そのまま部室の前に待機しようとしてホシノに「いーじゃん、入れてあげなよ、外冷えるよ」と言われたので、俺の横で立ってることになった。
「それでは会議を再開しますね」
深く言わず始めてくれたアヤネはクソ真面目だが気が回る良い奴だ、間違いない。
「でも、また攻めてくる」
「あー、確かに、あいつ等しつこいもんね」
「いつまで、このような消耗戦を続けないと行けないのでしょうか……ヘルメット団以外にも問題はあるのに……」
アヤネの言う通りだ、根治療法しか無いだろう。あのような連中に割く時間は1分でも少ない方が良い、横に立ってる護衛も目線で俺にALAIN分隊が戻り次第叩きましょうと無言で伝えてくる。だがそれでは遅い、そろそろ俺も意見を言うべきだろうかと思った時、部屋に戻った後は机に突っ伏してたホシノが手を挙げて発言をする。先ほどの殺意が別人だったかのようだ。
「まーまー。ちょっと計画は練ってみたからさー」
少し雰囲気が沈黙し、周りから飛ぶ疑惑の視線、頼られているのだろうが、弱い自分を見せずに何時も昼行燈の寝坊助を演じていればこうなるだろう、だが2年生組はそう見ていない、やはり、ホシノが一年生の時代に何かあったのだろう。
そのまま砕けた口調でホシノは続ける。
「ヘルメット団は、数日もすればまた攻撃してくるはず。ここんとこずっとそういうサイクルが続いてるからねー。だから、このタイミングでこっちから仕掛けて、奴らの前哨基地を襲撃しちゃおうかなって。今こそ奴らが一番消耗しているだろうからさー」
襲撃計画、俺もそう思っていた。現在時刻は12時は回ってる、ほぼ夜襲だろう、横に居た護衛が何か言いたそうだ、疑問は分かるが、現状だとこれがベストだ、後で説明はしてやると小さく言って制する。こういう事が増えるのならこういう講習も行うべきだなと思う。先生も大変だ!
「じゃあ、今すぐ行くぞ、現地時間午前4時開始、作戦等の打ち合わせはうちの車両で移動中に行う!」
ブーイングよりも行動だ! 大物を捕まえるには準備が居るんだ。
アビドス砂漠のカイザー駐屯地では、野戦通信機が鳴り響いていた。
「おうこちら”キングメーカー”。」
カイザーの社員が受話器を取る。
連邦生徒会内部のリークで判明した中央からの支援部隊に軽く灸を据えてやれとヘルメット団に攻撃させた。その結果を聞き、社員は色を失った。
「何!?1個中隊が、中隊が壊滅した!?幹部クラス行方不明?!」
『ハイ……その、相手が悪いというか、先生が』
「あの大人か、それがどうした」
『あの大人の指揮が早くて……うちらじゃ何とも……あの、砲迫とかは……』
ヘルメット団の注文にため息をつきながら、社員が尋ねた。
「お前ら分かってるのか、連邦の連中に明確な物的証拠与えるつもりかアホ!とりあえずだ、補給でマリュートカやファゴットATGM程度は融通させる。コンボイに嫌がらせでも続けておけ」
『はあ……わかりやした』
ガチャンと受話器を置いて、社員は厚手のコートを着始めた。
「オイ!表にUAZ回せ、事態が変わるかもしれん」
「理事に連絡は?」
「しておけ、まあなんとかなんだろ」
ったくガキ共が、言われた事くらい出来ねえのかよ。
大人が増えたからって早々変わる訳ねだろ。
彼は内心愚痴をこぼしながら、自身の車両へ乗り込んだ。
【次回予告】
平穏は質量のない砂糖菓子。
脆くも崩れて再びの地獄。
懐かしやこの匂い、この痛み。
我はまた生きてあり。
炎に焼かれ、煙にむせて、鉄のきしみに身を任せ、ここで生きるがさだめであれば、せめて望みはぎらつく孤独。
次回『 夜討ち朝駆け 』
フリントロックの蓋が開く。