キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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とりあえず最終編までは投稿するので色々なところは許してください。
ストック切れるまでは毎日更新するので。


BLACK OPS & Rabbit Ops

 

 

 

ユウカは憂鬱な気分であった。

先生が子ウサギ公園の視察から戻ってきて、お土産で買って来た稲荷寿司を食べながら聞く。

 

「最近良く買ってきますけど、そんなに機嫌が良くなるぐらい美味しい稲荷寿司だったんですか?」

「旨いだろ?」

「まぁ……」

 

お茶を飲んで先生が語る。

 

「あの稲荷寿司屋のお陰で黒幕の線が重なって来た、感謝状を贈って店を持たせてやってもいい」

「凄い褒めますね」

 

熱いお茶が美味しい、百鬼夜行から貰って来たらしい。

なんでも「忍者との不思議な縁」だという、以前は陰陽部から銘菓をもらっていた。

 

「稲荷の立ち売り娘、堅気じゃなかったからな。家の隊員と同じ歩き方がして、手の豆のでき方も銃を長い間握っているやりかただ」

 

むせた……。

話始めると大概ロクな事言わない、セクハラじゃなくて単純にろくでもないのだ*1

 

「糸を引く主敵は防衛室とカイザーがパトロン、防衛室の管轄組織は多分敵だろうが、ヴァルキューレは内部で滅茶苦茶だ、公安局を崩して本営迄を守る外郭を崩す」

 

公権力、連邦生徒会の武力そのものにメスを切り込むと言い出した。

誰だシャーレを権力の走狗と呼んだのは、犬と野獣を取り違えている。

 

「なぁユウカ、相互不信を起こす離間工作と他の手段。どっちが良いと思う?」

 

多分友情を壊すような作戦なのだろう。

自分とノアとの関係を考えたら、そしてそれは本当に悪い大人のやり口だから、私は多分こう言わないと。

 

「そんな悲しい手段嫌です、先生が使うのも使われる方も」

「お前に聞いてよかった、そうじゃなければ一番勝率の高い奴を選んでいた*2

 

この人私が居なくて、アビドス以降の楔が増えて無かったらとんでもないことになってたと思う……

と言うか、この前攫われたのにまた独り歩きしたのか……あの時はミカさんを止めてるうちにスクワッドを出撃させた。

 

「今度は、ヴァルキューレと公安局を穴あきチーズにでも変えるんですか?」*3

「いや、やはり搦め手を挑める部隊が編入出来た、正規の部隊ぶつける必要が無くなる」

 

もう次の行動の準備をしている。

 

「今回は俺と他で見せ札になる」

 

何をするか読めない。

 

「しばし、書類業務が増えるノアに声をかけて置け、あと本当に申し訳ないが、チヒロにまた仕事任せるかもと伝えておいてくれ」

 

無茶を仰る。

スタッフ用冷蔵庫から炭酸水を出して原液と混ぜて作りながらなんてこと言うんだ、先生は偶にプレーンの強炭酸で眠気を覚ますが頭が可笑しい。

なお、ここの冷蔵庫を使う場合は基本共用なので名前を書かずに入れると共用品として消費される。

 

「どこに行かれるんです?」

 

良き市民の代表の一人として、公権力の暴走を糾弾に行くと言った。

この前の洪水の時仕事してたり、デモの相手をしてたりするが、ついにやるのも担当か。

工務部の部長へ電話をかけたらしく、何か言っている。

 

「市民が警官に銃を向けられたらしい。家じゃない、家は捜査局だ。苦情に行くんだが、手を貸してくれるか?デモのやり方よく分かんなくてよ、よし、ヴァルキューレ本館前集合だ!」

 

 

友人に援軍を頼む電話を取りながら、「今日の囮作戦参加者は不思議なことに休暇中とか勤務後とかにしておいてくれよ」と言った。

≪四圃制作戦≫だそうだ、目立つ他の作物でクローバーを隠すからと言う意味らしい。

先生たちは一番目立つので小麦だそうだ。

 

「帰ってくる頃には大騒ぎになってるわね」

 

そして帰って来ると、遊園地を楽しんだ子供みたいな顔で帰って来るのだ。

 

「シャーレにも自室がある事態、もうあれよね」

 

また数日帰れないなあ。

コユキが何かやらかさないと良いのだが。

 

 

 

 

”有臼清掃”と書かれたトラックが走る、実はシャーレの偽装輸送車である。

非公然作戦用に旧アリウスの備品を購入したものだ、購入のお陰でアリウスにはまともな家が出来た。*4

先生からのオーダーを思い出して一息吐く、車内ではヒヨリが目を覚まして装具の用意をしている。

今の上司とも言える人は自由判断を大量にぶつけてくれる分、考えなくて良かった、前の上司より辛いとも言えるかもしれない。*5

 

「それが自由と言うものだ、自分で選ぶ、まずこれを得られることが大変なんだ。急がば回れ、だが時には前人未到の大地を強行軍で渡る必要もある*6

 

その為の教育も注ぎ込んでくれる、「必要な物は言えよ時間*7以外なら融通してやれる」と言って居たがその後ユウカに「金額は一応教えてね」と一言付け加えられていたが……。

ああいうところが無ければ、アリウス解放の時の様な英雄で見れてたのになぁ。*8

全ての英雄・軍隊は財布と言う最悪の敵と戦うしかないらしい。

 

「FOX小隊についてはまだ不明が多い、ホシノ、ミカ、ネル、ヒナで編成された部隊とやりあうぐらいの気分で挑め」とは無茶をおっしゃられるし、本物とやりあうと常識が狂うからやめて欲しい。

かたや真鍮スラグを片手撃ちするし、クリケットやろうと言いながら砲弾投げる奴とか、あいつらいったいなんなんだ。

 

「リーダー。先生達もやってるね」

 

先生は抗議の為警察学校本館会議室だ、ある意味お偉いさんがそれで拘束されることになる。

私服部隊と鎮圧隊の圧が強い、あのロクデナシロボもこういう時には使えるんだな……

流石に私服部隊の服の中に空気膨らませた袋入れた数人混ぜて、ヴァルキューレと同じ拳銃用意して一発射撃後の拳銃混ぜて向こうが抜いたら、使うつもりだった。

流石に私達が止めた、偽旗作戦するには目立ち過ぎる。

さて21時だ。クローバー発動まで余裕があるが、我々はクローバー発動までの前後の支援も含まれている、噂のFOXが現れたら今のウサギでは勝てないだろう。

 

「また非公然作戦か」

「でも悪い気はしない」

「……そうだね」

 

ミサキが同意して、大きめのギターケースを確認する。

だが、本命のクローバーが成功しても持ち帰れなくては意味がないからな。

これが終わったらシャーレのアリウススクワッドとしての部隊記章の授与を行うらしい

 

「これぐらいでしか報えなくてすまんな、大手を振って賞賛できる部隊ならもっと派手に行えたんだが」

 

ああいう言うことには拘る人なんだよな。*9

ただまあ、大人のこだわりでも無害ならいい事だ。

遂に先生が警察学校本館へ足を踏み込んだ。

 

「市民へ発砲と言うのは事実か!責任者や謝罪よりも公式会見と文書を!」

 

慌てて飛んで来たらしい警察学校の偉いさんや白服、つまり連邦生徒会の役員も来た。

さあ、概ね劇は盛り上がってきた。

 

 

 

 

 

うわぁ、お祭りみたいになってる。

ミヤコが思わずそう思った。

呆れながら門を見て、ラーメンをすする。

屋台の黒猫の人は親切だなあというのが唯一の安心感だ、ねこまんまじゃないのがやや面白いが。

 

「デモ起こす側と阻止する側の頂点が組んでるんだぞ、悪夢そのものだ……」

 

ラーメンの屋台で待機してるが、先輩達が騒いでるのがよく見える。

哀れな店員さんはため息交じりだが。

 

「何よこれ!?シラトリの一等地の良い時間に屋台の許可取れたから使えって言われたらこれだ」*10

「おねぇちゃんラーメン一杯」

「はいよー!……お、増援」

 

店員が目ざとく呟いた。

笛の音と車両音が聞こえる、慌てて警備局の本館部隊動かしたらしい。

 

「こっちも、デモでワタワタしてる、あの連中見ながら食べるラーメンは最高だな」

 

サキがなんとも良いご趣味の発言をしている。

うわぁ規制線張ってる子殆ど涙目だ。

 

「ふうーん。デモ隊は正面を厚くしてるけど小集団で分散してるのね」

 

店員が慣れた様に呟く。

言葉の意味は分かる、つまり警備局が集団を排除しようとしても小集団だから検挙しづらいのだ。

そしてまだ、犯罪は起きていない。

分からないのはこの店員だ、熟練者のように見えるが殺気や覇気が薄い、世の中は広いのだなとミヤコは思った。

特に好意を抱けるのは仕事に実直さと真心がある事だ、態度や言動にひっそりと、そして確実に添えている。

 

「この時間にラーメンの匂い嗅がされながら、あんなの相手させられたら、うう……」*11

 

側面に別の案件のデモ隊であのヒッピー配置して、陰謀論から真実味が出てきたネタを叫んでいる。

 

「ヴァルキューレと公安局が装備を更新したのはシャーレとの戦争を考えているんだな!」

「ラブ&ピース」

「撃たれても申請すれば、食堂無料券1週間分」

 

報道がリークされた映像をもとに、生中継を始めた。

警備局の重装備部隊が慌てて配置につき、三列の横隊を形成した。

 

「ヴァルキューレも装備がどれだけ良くなっても訓練が足りていないな、振り回されている」

 

盾や小銃の持ち方に統一感がない、どうも不慣れな感が否めない。

多分公園みたいに拳銃抜いたらえらいことにするんだろうな……勤務終わったら直ぐ帰るか泣いてそう。

現場責任者も居ない上でこの圧で、昼の疲弊のせいで援軍も辛そう

 

しかし分からない。

デモの首魁とデモ鎮圧の首魁がなんであんなに仲が良いんだ?

いや、あそこまでお膳立てしてもらって、あの部隊が援護してくれてるんだ、やり遂げないと。

 

「お前達はヴァルキューレの金庫に栄光を仕舞い込まれた、今夜取り戻せ」

 

あの言葉が頭から消えない。

 

「ヒッピーに負けるな!気合入れろ!」

「借金は消えてきたのに校舎の修理費が重なるとはやるせないなあ」

 

それぞれの夜は更けていく

 

2300(ゼロアワー)、作戦開始」

 

 

 

ヴァルキューレ警察学校本館大会議室。

シャーレ代表である先生、そして書記としてノアの二人が参加している。

対して連邦生徒会防衛室長、財務室長、建設室長、警備局長、及び公安局長と数名の各自の部下が着席しているが空気は全く冷え切っている。

ノアですら隣の、つまり先生が発している負のオーラに困惑している、普段あまり怒らない人間だから猶更である。

 

「我々警備局、及び警察学校としては今回の抗議に関して指揮権および管轄の侵害であると強く抗議せざるを得ない!」

 

防衛室長の太鼓持ちが良く言うよ、カンナがやや冷めた目線で思った。

当事者であるがカンナには発言権は無い、正確にはカヤから何も言わんでくれと頼まれた。

 

「私が、そして生徒たちが怒る理由をご理解無いようですから説明いたしますが、先に銃口を向けたのが誰かと言う点です。最悪の事態を生みたくないなら公式に謝罪と刷新をしてはいかがか」

「恫喝かそれは!新参者の捜査部が……」

「いい加減にしてくれないかしら!」

 

机を強く叩いて財務室長が憤激した。

 

「今回の事件による社会的動揺ははかり知れないものになるのよ!それこそ秩序の紊乱であり、体制の混乱を生むわ!」

「ようやくDUやシラトリ区も静かになりましたからね……」

 

建設室長の呟きが続く。

それを言われると警備局長は何も言えなかった。

ワカモ脱走などから端を発した暴動は余りにも拡大し、警備局お得意の「衝撃と畏怖戦術」は熟練した犯罪者には無力だった。

戦術は柔軟性を欠き、人員や装備を活かせず、チームプレイが出来てもリーダーシップが無い。

アサルトライフルや上級のアーマーで身を包んだ警備局強襲部隊もいるが、指揮レベルで間違った判断で失われた戦力は大きい。

お陰でシャーレが極秘扱いの闇の中から出すべきではない超人どもを無茶苦茶させても文句が言えない。

……まあ、シャーレ突入部隊などは作戦に際して「誰のアーマーから一番多く弾頭ひり出せるか」の博打がされてるから今更なんだが。

 

 

 

 

 

警衛が慌てているため、侵入は容易かった。

安い100均で買えるような服に身を包んだラビット小隊はスリーマンセルで施設へ侵入する。

警備局棟から本館地下へ侵入するのが一番楽なルートだ、地図情報は正確なのが有り難い。

防犯カメラはカメラが録画を流す様に設定した、施設内通信を聞く限り大忙しらしい。

おかげで足音もろくすっぽ聞こえない、ラビット小隊は概ね順調だ。

 

「こちらRABBIT1、只今2300。只今WP2に到着しました。哨兵の姿は無し、向かい側の廊下に監視カメラらしき多数の機器を確認。」

「こちらキャンプRABBIT。その監視カメラについてはハッキング済みだから、気にしないでOK~。画面で見た感じ近くに警備員は無し。安心してWP3まで行っちゃって。」

「相変わらず機械類の仕事が早い」

 

ミヤコが呟く。

今回はミヤコはTEC-9、サキがM76、ミユがFALと装備を変更している。

モエは施設外で有線接続させてハッキング中である、地下配線からコードを繋げれば大概なんとかなる。

銃器を変えたのは身元が割れたくはないからだ、あくまで侵入者だ。

 

「くひひ、この程度のセキュリティごとき朝飯前よ。……って調子に乗ったところ悪いんだけど、ハッキングは30分しか持たなさそう。30分で乱数コードが生成されるっぽくて、この回路はちょいとキツイかな。だからミッションは30分以内によろしく。」

 

所属が変わっても先輩達は助けてくれてる、出撃前にご飯も奢ってもらった。

今回の装備品も先輩たちが各自でカンパして買ってくれた。おかげで足がつかない、紙幣は実に素晴らしい。

外の庭から新しい増援が編成されているのが聞こえる。

 

「向こうのデモまだやってるね」

 

ミユが呟く。

 

「ここまで聞こえてくる」

「警備がいないのは当然だよな……」

「……今は敵ながら気の毒なものだ。あんなのの相手をするならヴァルキューレには行きたくない」

 

皆同感してると思う、正直自分もそう思う。

それにいま排除するかの意思決定者は大会議室だ。

予定通りならミノリ部長が手配した別動隊200が子ウサギ公園から出撃、南下して警備局増援部隊の展開を阻んでいる。

”筋金入りの200”と呼んでいた、理由は分かる、大概が元アリウス生徒だ。

 

「阻止しようとすれば儲けで、阻止しなきゃそれも合流して火に油、嫌な選択を迫るよな」

 

確実に勝つ手段ではある、選択肢全てが罠と言う点がいやらしい。

元々こういう隠密作戦はSRTも本業である、作戦目的には民間人をチップとして使う犯罪者から人質を解放するのも含んでいる。

クロノスのカメラが回ってる中で民間人を危険に晒す選択肢は取れないからだ。

目的地は発見された、公然資料と建築法の書類からミノリ部長が「金庫ならここら辺」と言っていたのは正しかった。有識者の意見は大切にしよう。

 

「この部屋にヴァルキューレの文書が全部……」

「頑丈な扉ですね。犯罪に関わる証拠なども全てあるだろうし、当然ではありますが。」

 

ドアを予定通り開ける。

いくつもの棚が並んでおり、多種多様な箱が並んでいる。

 

「”アビドス砂漠レポート”じゃない……」

「”デカグラマトン襲来報告”でもないですね」

 

ミユが”経理資料”の欄を確認する。

装備品納入の項目と取引先の名前を見つけた。

 

「ジャックポット」

 

ファイルと共に紙幣の詰まったカバンが見つかる。

 

「チーズ。と」

 

写真記録を確認していると、無線が入る。

 

『無線封鎖解除。屋外監視中のヒヨリが交戦中!』

 

ミヤコが撤収を命じようとした時、分厚い扉が何故か閉められた。

ミユは「ど、ドアストッパーかませたのに」と驚愕している、お化け嫌いなのは分かるが、お化けじゃないのは分かる。

 

 

 

ヴァルキューレ警察学校本館大会議室、先生はカヤの後ろから秘書が何かを囁いているのを気付いた。

にわかに他の高官が慌ただしくなる。

カヤがアオイへ囁く、アオイが目を見開いて、軽くせき込み、言った。

 

「えー。事態に進展が見込めない為、一時休憩とします。再開は15分後」

 

先生の携帯がモモトーク新着を告げた。

 

”HUNT”

 

狩りが始まったらしい、そこまで嫌か?

先生の他人事な意見だが、実はかなり現実的であった。

まだ巻き返しがつくにしろ、致命的な一撃ではないのをカヤは焦った。

そして私服の非公然部隊と化した連中がヴァルキューレ警察学校に侵入という件に、カヤはFOXをカウンターでぶつけた。

 

つまり、カヤには「ここで先生は私ら全員始末する気か?」と価値目標を誤認した。

そして欲が出た、「ここで私服の特務部隊を抑えれば、かなり優位だ」と。

結論が出た。

「何とかアリウスに隙を作り、その隙にウサギを狩る」と。

 

 

消音器をつけた狙撃銃、多分50口径ですかね。

あんなの喰らったら身が持ちませんねえ、苦しそうですよね、怖いですね。

ヒヨリは自分から狙撃されたのはあまり驚かなかった、事実上管制を自分の場所からしているわけだからだ。

そして、動いていないのにも理由が有る。

定期的にVSSヴィントレスで応戦しているのも、自分の居場所を晒すようなものだ。

 

「つ、釣れてますかね」

 

リーダーに聞いてみた、返事は直ぐに分かる。

下の階層から9バンガ―がさく裂する音が聞こえた。

リーダーが会敵したらしい。

 

「じゃあ、後はあの子たちが逃げれるかどうかですね」

 

ヒヨリは即座に撤収作業を終えて離脱する。

狙撃手がスナイピング対決してると思いこんでもらうため、15秒後自動で撃たせるようドローンも待機させた。

手癖がかなり違うからまあすぐバレて射点を変えるだろうけど、その数秒が欲しいのだ。

 

「さよなら」

 

逃げ足随一のヒヨリは速やかに離脱した。

 

 

 

 

ユキノはFOX相手に待ち伏せされたのを即座に気付いて後退戦へ移る。

ニコが封じ込めをしたから、アリウスの連中はそちらを確保しにいくだろう。

 

「あいつら壁平気で撃ち抜いてくるじゃん!バカじゃないの!」

 

盾を構えながらビル内で交戦している前衛のクルミが叫ぶ。

 

「ベオウルフ50口径だ!シャーレめ面倒な高級品を」

 

銃身に消音器を仕込んだ50口径自動小銃、ベオウルフ自体はユキノも以前愛用したが、あれは300仕様だ。*12

破壊力はそれでも高かった、なにせワカモ逮捕作戦で活躍したからだ。

だがあれは滅茶苦茶だ、ビルの壁をかなり貫通している。本質が違う特殊部隊だからだ、貫通した先を気にしないブラックオプスが彼女らである。

 

「フラッシュフラッシュフラッシュ!」

 

クルミが盾のフラッシュライトを焚く。

真っ白なヒカリが焼け付くように広がるが、構わずガスマスクをつけた前衛が突入してくる。

アンチフラッシュ・ガスか、クルミがUMPを掃射するが高級アーマーは45口径を受け付けてない。

ユキノは待ち伏せが、作戦発動前から練られていた事を理解した。

 

「コード・アバランチ!」

 

ユキノが命令し、クルミが急速に後退する。

外壁を貫いて、オトギの50口径狙撃銃がビル内に飛び込む。

 

『スナイパーは逃亡した、陣地変換されるまで支援する』

「いやもう良い!AOより離脱する、罠だ!」

『ちぇ!』

 

煙幕を展張し、ユキノは何とかその場を離れる。

本来なら装備品放棄も検討したいが、足が付く危険が高い。

くそ!シャーレの連中が毎回予算計上高いわけだ、使い捨てにしてもいいようにしているな。

 

『あっやべ、トレンチコート着た明らかに楽しくないのが来たわ。帰りまーす』

「交戦は回避しろ!」

 

外に出て、ニコの運転するヴァルキューレの車両に飛び乗る。

道路の横から顔を隠した私服の数名が消音器付きのSIG516を銃撃するが、そのまま車両は裏門からヴァルキューレの敷地へ入った。

 

「逃がしたか」

「追撃?」

 

サオリはアツコの問いに、首を横に振った。

連邦生徒会のUH-1がヴァルキューレ警察学校本館屋上でローターを回転し始めた、作戦中止らしい、追撃しても書類で足止めして逃げるだろう。

 

「だが得た物は大きかったな」

 

人員編成、装備、戦法。

そして主人。

警察学校も慌ただしくなってきた、ミサキへ連絡を取る。

 

 

 

大会議室では館内への侵入者に騒然としていた。

先生だけが楽し気に「お手並み拝見と行きましょう、なにせ管轄が違いますから」と茶菓子のお代わりを要求している。

警備局の増援が来るはずだ、そのはずだ。

カヤは交戦中のFOXが退却中なのを知らない。

 

「室長」

 

例の部隊が非公然作戦部隊と交戦し、待ち伏せを受けて後退しました。

そう耳打ちされたカヤはまだ顔を変えなかった。

特務部隊といえど、狙いはウサギだけだ!ならやり様がある、打つ手もある。

先生がそうしたように特殊部隊は正規戦力で揉み潰せるのだ、間違いなく!

 

「警備局の増援は」

「機動第3中隊はデモ隊が南下した為そちらの阻止に向かいました、現在睨み合いです」

「ほかの連中は」

「機動中隊2個が向かっています」

 

よし行ける。

カヤはカンナへ、即断して言った。

 

「投入できる警察力を投じて阻止しなさい、火器の使用許可を出します」

 

カンナは過剰戦力じゃないのか?と考えたが、言わない事にした。

珍しく防衛室長が即断してるので都合が良かったのだ。

 

『火災警報が発令されました。消火班は地下金庫へ』

「え」

「あー」

 

野郎、燃やしにかかった。

まずい!あそこには犯罪資料が数多くある!焼かれるとヴァルキューレそのものに響く!

だが消火で開けては奴らが飛び出しかねん!

 

「公安局の待機部隊や非番も投入します」

 

カヤは即座に頷いた。

 

 

 

 

ミサキは連絡を受け取り、束を取り出す。

警備局の輸送警備車や特型警備車の車列がいくらか見えてきた、民間車は無い。

道路にぶん投げ、束が列をなす。

ミサキはポテトをかじりながら、その場を離脱した。

スパイクベルトは綺麗に先頭のパトカーを跳ね上げ、車列を滅茶苦茶にしている。

慌てて交通管制して巻き添えを気にしないでくれたのは有り難いな、ミサキはスマホで写真を撮ってSNSへ挙げる。

忽ちにSNSは大盛り上がりだ、政治的失点は大きかろう。

 

 

 

金庫室温度計をハッキングして相手に開けてもらうという大胆な発想は、ミヤコの即断の思い付きであった。

消火班などがいるのに特殊部隊を、しかも非公然作戦部隊を出せるわけがないというのは確かに道理である。

 

「こちらラビット1!プラン変更!押し込み強盗案になりました」

『アビドス辺りのやたら強い連中みたいだね……』

 

モエが思わず失笑している。

館内の警備は正門前からの再配置で大混乱だ、ラビット小隊はぬるりと更衣室へ入り、服装を着替える。

何処からどう見てもヴァルキューレ警察学校生徒だ、非常配備でない交ぜの室内では所属を問うだけ無駄である。

 

「侵入者は何処だ!」

 

カンナが何人かの部下を連れて歩いてきた。

ミヤコは「GO」と指示する。

 

「逃げられましたで済むか!ここヴァルキューレ警察学校本館だぞ!」

 

交信相手に気を取られているカンナは、真横を過ぎる生徒の敬礼に答礼して通ろうとした。

とたん、カンナが真顔になる。

敬礼の角度が変だ、生活安全局の服装の着用ネクタイがおかしい。

 

「……キリノ、いつのまに長髪になった?」

 

ミヤコが全力で走る。

 

「侵入者を見つけた!本館E34!封鎖しろ!増援部隊到着次第締め上げる」

『増援来ません!事故で分断されました!』

「くそ!」

 

追いかけていく中で、どこかへ向かっているのを気付いた。

目的地は、大会議室?

狙いは直ぐに分かった、先生が歩み出てきた。

 

「よっ、カンナ会いたかったぜ、それはそれとして凄く残念だ」

 

カンナは、ノアの後ろに見慣れないセミナーの制服を着た学生たちを連れているのを見る。

 

「先生……」

「お前のことは迷惑かけてるなって思いながら凄く評価していたのに、此処まで堕ちるとはな」

「なんと言われようと、その生徒たちを捜査させていただきます」

「おや、彼女らは正式なミレニアムの生徒だ。ノア、見せてあげてくれ」

 

ノアが生徒証を提示する。

まごうことない正式書類である、当然だ、ノアの物であるから。

 

「さて、ご納得してくれたかな。つまりミレニアムの生徒に対する越権行為になる。問題を増やすかい?」

「しかし犯罪捜査は」

「自分たちの管轄?では聞くが何をされたんだ?」

「公文書奪取です」

 

ノアはにこやかに「貴女のお探しのこれは、公文書として不適格な書式で作られていますよ」と微笑む。

 

「第一に判子がありません、署名も黒塗り、しかもこれ、内容がリークされたものですね。」

「は?」

「ええ、だからこれ、ネットに挙げられたコピーですよ。要ります?」

 

カンナはただ、通って良いと告げた。

 

「正義を行うと世界の半分を怒らせる、って言うがな、怒る奴全員のせると気持ちが良いぞ」

「……誰もが貴方がそうであるように、なれやしませんよ」*13

「なりたい自分を手放すと人生辛いぞ、心の中の9歳児は大事にしな。」

 

会釈して、先生は「話になんねーから帰るわ」とカヤへ電話して話を聞かずに去っていった。

結局のところ、後日防衛室長にシャーレから着払いで「子ウサギ公園リベートに関する捜査報告」が送られ、カヤの胃はますます痛くなった。

明白な脅迫だ、カイザーとの繋がりがバレるかもしれない。

カヤの夜は毎夜毎夜迫る悪魔の足音へ染められつつある。

 

恐い悪魔は排除するしかない……!*14

 

カヤの本格的な計画と、明白な殺意に準ずる何かはこの夜から生まれた。

 

 

 

ヴァルキューレ警察学校はその後、同じく着払いで届いた呪いの手紙で大騒ぎになった。

多くの責任の擦り付け合いや、余りにも見苦しい押し付け合いが数日続いたところに、ついに財務室長がシャーレと共に乗り込んできて終焉した。

アオイはこの件に関して「数字上合わない箇所が多すぎると思った」と3日近くカヤへ説教を続け、リン行政官から「いい加減仕事に戻れ」と連れ戻されるまで激怒していたという。

 

 

 

その後のヴァルキューレ警察学校であるが、防衛室がだんまりとしているのを横目に、シャーレが「共同警備及び協力に関する計画案」を通した。

事実上の司法権逮捕権への踏み込みとやはりミノリ部長は批判し、それは事実だから先生は話を逸らし続けた、権威と権力は一部には効かない良い例である。

また、子ウサギ公園再開発は頓挫し、一応ラビット小隊はまたキャンプしている。

ミヤコは指揮官としては一皮剥けたが、今回のヴァルキューレ警察学校の事実上の現場指揮権優越確保などを見て「やはり汚い大人では?」と陰謀論を考えている。

もはやこうなると、意地でキャンプして強権を解体するその日まで抵抗するつもりらしい。

 

それはそれとして支援は受け取るそうだが。

 

 

カイザーは速やかに再開発から手を引いた。

カイザーコンストラクションはシャーレが事務所へ踏み込むのをやはり抵抗せず、静かに受け入れたという。

ただ物的証拠はあまり上がらなかったのと、数名の逮捕者以外めぼしい物が無かった。

大人しくなったのか、それとも、何かあるのか。

無論シャーレは後者が主流である。

 

 

アリウスはやはりその後も酷使される事になる。

カウンターフォースとして編成された彼女たちは、いずれ激突するであろうキツネ、そしてにわかに活発化しつつあるPMC、更に不穏な動きを見せるミレニアムと仕事は尽きない。

懲りずにキルハウス演習挑んでくるウサギ、学園交流会の名目で対戦を仕組むネル、その他諸々が待っているのだから。

 

 

 

 

ミレニアム某所、高層ビル群の詰まったドームを見下ろし、リオは静かな夜へ想いをはせる。

”同志”の活躍は目覚ましいものがある、まるで台風だ、あとに来るのは冬か夏かは分からないが。

だがお陰で全てが整いつつある、封鎖区域の規制線から漏れ出す脅威も増えつつあるし、先生の機密資料や現場報告から聞くに”色彩”も動いている。

全く、色彩が出てきたと聞いたときは心底肝を冷やした。

幸い速やかに儀式を粉砕してくれたのは感謝の極みと言うしかない、お陰でデータが採取出来たし、トキには更なる武装を用意してやれた。

さらに秘密兵器、そう、スーパーアバンギャルドX1も完成している!

 

「あとは、ヒマリを遺すだけ」

 

理解はいらない、同意もいらない。

だが。

 

彼女がそろえばすべてが完成する。

私は戦力運用は不得意だ。先生ほど果断かつ状況認識が優れているとは思えない。

それにヒマリほど思考が柔軟ではない、まして彼女ほど柔らかくも無い。

だが私には知恵がある、知識がある、技術がある。

人の結晶がある!科学がある!

 

私はミレニアムの会長なのだから。

 

トキはそんな主人の姿を見ながら、最近毎夜毎夜こうなんだよなあとメンテナンスを始めた。

無論孤独は辛い物であると知っているから、理解はしている。

それに、トキには野望があった。

まだ見ぬ強敵がどういうものか知りたいのだ。

 

次回「愛と勇気と光のロマン、パヴァーヌ第二章」

【次回予告】

 

世界を覆うインターネットの網に、無限の謎を秘めた場所。

ここに全てがある。

AL-1Sが、デカグラマトンが、シャーレが、ミレニアムが。

すべてのものがここに収斂される。

照りつける太陽、吹き渡る風。

静寂の中に、歴史が眠る。

 

 

*1
本当にな

*2
外付け良心回路ユウカ

*3
割と市民のイメージ

*4
購入資金は復興資金になります

*5
自由と言う事の大変さ

*6
人生にアルプス越えを求めるな

*7
一日の時間は伸ばせないし買えないから

*8
英雄は近くで見ると等身大の人間だけどそれが基準になると怖いことになる

*9
そういう人だから

*10
アビドスのプロアルバイターさん

*11
戦術です

*12
口径が大きい故に反動が強いこれを振り回すさっちゃんも十分化け物

*13
だからこそ、それができる皇帝に憧れるのだ

*14
何たる言いがかり






長谷川先生リスペクトなので走り抜けないと駄目なんだ。
更新は7/3 16時

次回「 ミレニアムのいちばん長い日 前編 」

アリスは自分の過去に出会えるか。

今年のナポ先の誕生日のお話について(傾向が気になるので)

  • 王道に水着イベ
  • 並行世界orIF編
  • 5章2部まだ?
  • 記念日なら2話連投して♡
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