キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
どの団体も、どの個人もそこから明確に発しないような権威を行使することはできない。
─フランス革命政府、人間と市民の権利の宣言─
さぁさぁ皆様照覧有れ、シャーレ付近の総力戦を!
初投稿です
真夏の終演
セイアはまた例の空間に居た。
冗談じゃない、胸だけミカに似ている自称先輩はともかく、他が悪人面で、それに見合う悪人しか居ねえ。
相手も困惑しているのか。主であるタイユランも思わず困惑している様だ。
「君懲りないね? 我々に会いに来たのかい?」*1
「後輩ちゃん、ヤッター!」
タイユランと自称先輩が呆れた顔か、嬉し気に声をかける。
心なしか、扉を守っている熊毛皮帽子の長身の老兵たちも困り顔だ。
「今度は何したんだい?」
予知夢と未来視はもうこりごりだと思った。
「変な研究者の観測などするものじゃないよ? どんなものを見るか分かったもんではない」
「後先考えず無理したら死んじゃうよ? 悪い事言わないから無茶しないのが一番だよ」
こいつ等にまた説教され遊ばれるのかぁ、少し憂鬱になった。
セイアはふと、持ち込まれた画面を見る。
カイザーがにわかに慌ただしくなってきていたし、窓の外では変な黒い犬とM16を背負った大人が走り抜けていった。
シャーレの辞書に存在こそすれ確認はできない言葉の季節、平和がきた。
予想より小規模で終わったミレニアムでの決戦、友情努力勝利は安上がりで素晴らしい。
おかげで部隊再編成や訓練、それに度々湧き出る変な奴の対応だけだ。
それもこれも些末な事件ばかりだ、ヴァルキューレも大人しいが「お前で管理してくれ」とワカモを押し付けようとしていたが、脱走でお流れになった。
毎回毎回ワカモはどう逃げているのだ、もう分からん。
「ここ数日の事件はヒッピー共とゴミの価値の再定義、これにウサギまで絡んできて大騒ぎか?」
「先生が最近「市街地戦」用の装備の申請をしなければ本当に平和なんですよね……カイザーと防衛室が居なくなればなぁ……」*2
「最近、ゲヘナやトリニティから連絡員置かせてくれって申請が来てるんだよな、ゲヘナはイロハ以外……いやまあ、サツキやチアキはまだ良いが、それ以外がお断りだが*3、トリニティは多分ミカだな」
最適そうな副官のヨコチチは陰謀論聞かせてくるから御免だ。
ウサギとどんな化学反応起こすか計測不能だ。
トリニティは多分ミカだ、パテル分派の解体と有名無実化は凄まじい。
やらかしがやらかしなので当然だが、そして余った派閥のボスは家に回して駐在武官、家なら左遷先と言われることもあるまいからメンツは立つ。
しかも正義実現委員会も旧パテル分派実力部隊を編入しているから、事実上ミカの仕事は終わりつつある。
「そろそろ、防衛室ともケリを付けないとな、想定作戦練り上げるかぁ」
「敵をボコボコにしようと考えるときは生き生きしてますよね、防衛室もカイザーも普通はストレス発散の道具じゃないんですよ?」*4
「少し違うぞ、ヤケ起こした奴らの最後の挑戦をどう受けて立つかという奴だ」
カフェ・ロワイヤルの香りに破顔しながら先生はそう言った。
ユウカはどうもこの独特なコーヒーの飲み方に慣れない。
「リオ会長に頼んだアレどうなりそう?」
「ゲマトリア逃亡阻止、あるいは捕縛装置ですか? ……どちらかならもう少しすれば試作導入できるはずです、目の上の瘤ですからね」
アイツらも好き放題演説してバケモンけしかけてハイさよなら、そろそろ典型的すぎて飽きてきた。
古代遺産系の討伐作戦などで得たオーパーツを大量に献上したのだ、結果が出ないはさすがに切れるぞ*5。
鉛玉食らわせて効くんなら俺が直接殺しても良いんだが。
「話だけなら聞いてやるが、面白くない上に有害なのは困る。ユウカが卒業するぐらいには反省と自粛を促せるようにしたいが」
「そういうとこは、大人ですよね*6、そろそろスクワッドの方々も帰ってきますしお昼の用意しますか?」
「……カフェでも行くか」
金庫の非常命令書案件も増えてきた、不在時のトラブルはスペイン、ロシアで手間取ったからな、用意しておくに限る、エデンの時実際に役に立ったしな。
電話が鳴る、仕事用の回線だ。
「もしもしシャーレです、何かありましたか? ……!! お電話回しますね、先生アビドスの方からです!!」
「回せ! シロコか? どうした、カイザーに動き有りか、了解」
シロコから連絡があった、カイザーのPMCの大規模移動の騒音を探知しだした。
表向きは撤収作業中だがそうもいかなくなったな、本当ならあそこを棄てて子ウサギ公園に基地を移す予定だったわけなのだから。
となると、防衛室の連中も仕掛けてくる、砂漠に俺と主力を誘引して、全面会戦の後ろで連邦生徒会かどこかで行動を起こすのが目に見える。
防衛室は、一番の動員力であるヴァルキューレと切り離されてきたし連中も火が付いてきたと言う事だ、後2~3戦でカイザーと防衛室長にチェックメイトを掛けれるな。
「とうとう連中の言うお宝が見つかったか? ダンスの誘いか? ユウカどう思うよ?基地計画潰されたのは大分効いてるらしいが」*7
「普通の高級品などでは無いですよね、どちらにしてもカイザーとの決戦がぁ、予算……うう」
「奴らから、何も残らない様にむしり取って追加財源にしてやるよ、ああいう連中に手心無用って理解してるからな」
プロシアみたいに再起できない様な条約叩きつけてやる。
犯罪記録のサーバーラックと言う心臓に握ってるんだ、煮るも焼くも俺の胸先三寸と言うのはいやらしい。
そう考えながらアビドスのカイザーにお電話をかける。
「最近住民から煩いとクレーム来てるぞ、査察が必要かな?」
『大きな荷物を運び出しているのだ、色々と分かるだろう?』
煽りをかねて、ついでに圧力でお電話をかけてみたら相手はきっちり返事をしてきた。
そういえば黒服が宝探ししていたらしいが、見つけたのだろうか?
「ほお、てっきり宝探しで大当たりしたかと、帰り支度なら連絡ぐらいくれよ。記念式典に出てやるからよ」
『宝が簡単に見つかるかね? ここはアビドス砂漠だぞ』*8
だから嫌なんだよ。
「まあなんだ、動くなら静かにやれ。こっちも宝箱開けるのに集中したいんだ」
『了解した、申し訳ないな』
電話を切る。
無言でユウカに、「外食にしよう」と提案した。
ユウカはまるでクソみたいな数式を見たような顔で*9、これから起こる事を察したようだった。
防衛室の室長室でカヤはユキノから渡されたレポートを見る。
張り付いていたオトギの報告書だが、外食として向かった店は元アリウス系の食事処で、来たメンバーは顔ぶれを見れば明らかだった。
「各学園の方面指揮官級ばかりじゃないですか……」
先生が昼食で出かけた際、”外食先”で確認された人材リストだった。
闇市の要注意人物、トリニティの茶会最右翼、ゲヘナの風紀委員、さらにミレニアムの特務部隊。
つまり事実上各学園組織の中枢との密会だ、しかも酷いのは”熨斗をつけて”いるという事、事前政治の段階は終わったらしい。
カヤは伊達に3年生では無かった、こうした段階に入った時点でもう行動段階に移るという事だ。
「確認できただけで14名だ」
「この会合を連邦生徒会は」
「知らない、全員非番か休日で私服だ」
血迷ったか先生。
カヤは「まさかアイツ私より先にクーデターする気か」と思わず考えた。*10
だとすると。
「残された時間は、あまり多くない」
共通見解であった。
だが作戦発動まで早めるのは難しい、通知はしようかとカヤは電話を手に取ろうとした。
「ああカヤ室長、そっちはまずい」
「え?」
ユキノが耳の裏をとんとんと叩く仕草をした。
カヤの背筋が震える、盗聴されてるという事だ。
「盗聴されだしてる、奴ら本気だ」
ガッデム。
ユキノは窓の外を指さした。
「……気のせいでしょうか、立ち話や路上駐車がそこそこ多いですねえ」
「
カヤは空を見上げる、夕暮れが近づく。
翌朝の朝日を拝めるのだろうか……。
カヤは刹那的な思考が浮かんでいた。
どうした? アロナ、お前からイチゴミルク系のおねだり以外は厄ネタの元なんだよ……。
非常招集ねぇ。カイザーの動きと防衛室、俺への呼び出し、成程ねぇ。
ヒッピーとウサギ共、アリウスで暇してる奴らにカイザーの部隊を信憑性の高い証拠付きで発見出来たら高額報酬出す*11と言ったら思ったより上手くいっている。
アビドスの連中は何も言わなくても自動的にカイザーを敵対視している、そりゃ敵だからそうなのだが、駐屯地が丸分かりである。
非常招集にかこつけて、防衛出動待機命令を出す。
動員と警戒配置が始まる、待機命令だけなら先生が独断で出せる、文句は出ない、出させない。
「ユウカ! 現時刻を以てデフコンは2へ繰り上げだ。サオリ、シャーレビルの陣地化計画用意」
ユウカとサオリが一斉に仕事へ移る、時代の変革期がまた来ている、そう告げられた。
「サオリを臨時で本部防衛司令とする、ユウカは代理としてここにいろ」
「了解しました」
「コンビニ物資の接収は?」
「許可する! 不審者及び不審物に警戒しろ」
アロナ! ETO回線の使いどころだ。
ナギサとイロハは”外食時”の会話の概略で概ねを理解した、大荒れになりそうとだけで全て理解した。
「「世界が燃える日でしたかぁ」」
2人が同じように呟いた。
「お前ら俺を何だと思って居る?」
「散弾魔」
「大砲狂い」
なにも言い返せなかった。*12
「「エデン条約における活動を忘れたんですか?」」
「痛い! と言いたいが痛くはない*13、ゲリラに面射撃しただけだ」
ユウカが後ろからえらい視線を向けてるのが分かる。*14
「了解しました。ではちょっとシスターフッドに行って来るのでこれで、今度から私かミカさんが現地に居るようにして置くので……」*15
「イブキの顔見てきます、それが終わったら、そのようにします、確かにこれはシャーレに連絡局必要ですね」*16
疲れた表情で連絡が終わった、心外だ、とても心外だ。俺だって傷つくぞ。
その後関係各所に掛けた連絡は似たような反応だったがニヤに「これがネオシラトリ炎上かぁ、次は百鬼夜行ヘルオンアースは止めてな」言われたり、「カムラッド! だいしゅくせー! を行い、足元の安定化を図るのだな!」お前んとこよりマシだ! キサキからは「お手並み拝見と行こうかの」だの。
ついでに、ミヤコに「とうとう本性を見せましたね!」と言われ、デカルトは対爆バンカーの使用者欄に自分の名前を書いて名札を付け始めた。「やはり持って居るから燃えて失うのです。所確幸はやはり正しかった!」だの。
ここの住人が俺をどう思ってるのか良く分かった。*17
理解してくれそうなリオ会長は「とうとう最後の詰めを行うのですね、なるほどだから次はゲマトリアを無力化するために。分かりました、完成を急ぎましょう」違うそうじゃない……。
出発前に二人に何とも言えない目で見られている、アルコレの時のラッパ手の様な目だ。死地に行く人間を見る目だ。
「コートの裾離してくれ、まぁなんだ。罠だとしても行かねばならない時もある、向こうでノアとお前が心配してたって伝えておくよ」
ソラが店にシャッターを下ろす用意をするのを横目に、車両に乗り込んだ。
某所のカイザー所属の飛行場ではそれの用意が始まろうとしていた。
M551シェリダン空挺戦車とM8AGS、M2ブラッドレイが動き回っている。
乗り込むカイザーの兵士たちは皆緊張した顔つきで輸送機へ、C-17に乗り込んでいく。
投入されるのは第11特殊部隊群からSOF第1大隊、第28航空団第453特殊戦航空群、第103航空管制航空団、更に第26特殊戦航空団等だ。
これに主力の第13機械化旅団をアタッチメントし、編成されたのが今次作戦部隊である。
「イーグルクローを発動する」
飛んでいく輸送機を見ながら、プレジデントは勝利を信じた。オペレーションダブルアップの時より人も金も準備も重ねたのだ。
長い12時間が始まるだろう、それが上手くいくかは知らないが……。
非常対策委員会はカヤの意見から、事を荒立てるよりシャーレとのリエゾン重点で良いだろうとされた。
確かにアオイが言う通り正式に呼ぶより、連邦生徒会の会合として処理するのが一番だろう。
トリニティから連絡官としてイチカが、ゲヘナからはチナツが、ミレニアムからはノアを呼ぶと言う案が採択された。
職権と危機管理の中間を選択したことに周りは内心「カヤは最近変だ」と思われたが、大多数の役員から「失点が多いから巻き返したいんだ」と認識された、事実そうである。
問題はどう巻き返すかである。
午後5時残暑と空が赤くなり始めた頃、ふとサンクトゥムタワーの上を見る。ゲン担ぎでは無いが上に人影は無い。チェイルリーの赤い男は此処には居ないらしい。
「お前らも大変だな、中間管理職の悲哀か」
「高速鉄道の時みたいなことにならないことを祈ってるっスよ」
非常招集と聞いてみたら、これかぁ……今はどうでも良いんだよ。てっきり、政治暗闘についてのお叱りかと思ったのだが。
室長と3校のこの面子で良かった、俺も自分の部下なら一括で纏めれるが、それが無いのに雁首揃えても。そういう時は天才10人より凡夫でも一人に権限を集約させろ!連邦生徒会長は自分の右腕の教育どうしてんだよ。
暇してる役員数人走らせるか、家に観測して来いでも良いはずだ、用心深いのは良いが少しから回って居る、これが若さか……?財務室長の判断は正しいが、決定権が不在の人物に投げるな!ついに家に火の粉が降って来た。
「一つよろしいか?まず異常なエネルギーの集中と言われても。まず言わせていただきますが、それがどのようなものか分からないでは、なにも決まりませんよ。
そして合同司令部を作るとして、司令官は?
小官の”あまり長くない人生経験から見るに”相互不信渦まき中途半端な指揮権の部隊よりも、我々に連邦生徒会重装備保管庫の全装備使用許可と、他校での活動許可、それで充分です。
代行がそうした前例を作るよりも正式に会長の後任を決められたほうがよろしいかと」
リン代行が苦虫を噛み潰した顔をした。
だが言うのは辞めない、いつか帰ってくると思うのは結構だが、彼女は結局のところ代行で、密室政治で決められた代行だ。
つまり民意も無いし大衆が明確な納得をしづらい、抗命に対しても何も出来ない、そんなのが危機統制しようとしても碌なモンにならない。
リン代行が会長にどんな思いをしてようと知った事じゃない、政治と行政とはそうであり、今いない超人より居る凡人だ。
ヴァルキューレ警察学校、フブキは夜の警邏任務に就いていた。
寒い、最近冷えてきた。
もう夏が終わりつつあるというのに、交番の暖房修理を本館がケチるから困る。*18
フブキにとっては歩いている方がマシである、もう少し時間が経てばおでんも売り出し始めるだろうから、それまでの辛抱だ。
「あ、こんばんわ」
「お、自警団の子かい?」
フブキは温和で人当たりが良いため、受けが良かった。
この受けの良さが上層部へ向かう事が無いから困りものである、彼女は基本的に必要な所では全く手を抜かない。
「宇沢レイサです」
「お行儀よろしくてなにより」
レイサにそういうと、彼女は思い出したかのようにフブキへ尋ねた。
「そういえば、さっきから空港方面から貨物列車が来てるんですよ」
フブキは貨物駅方面を見る。
そして、咥えたドーナツを落として、レイサの肩を掴んだ。
「良い。即座にトリニティ生徒会に伝言! ”大規模なるカイザー機械化部隊がDUへ前進中”、分かった?」
レイサがスマホを出そうとしたので「使えるわけないでしょ、走れ!」と指示した。
何事も面倒をしたくないけど、フブキはお巡りさんであった。
キリノほど真面目ではないにしろ、この街を守らねばならなかった。
交通室分室はシラトリ区に据えられている。
正式には分室ではなく連絡対応の中心である。
2列縦隊で近づく連邦生徒会制服の集団を警備の生徒会は気にも留めなかった。
「動くな!」
M16を向けられて、初めて彼女らは異常に気付いた。
開幕の奇襲攻撃により、まず物流と通信が制圧された、時刻は午後23時。
「夜明けまでにDU及びシラトリ区を制圧、戒厳令を宣言する」
ジェネラルは自身のVBLに乗りながら、DUの連邦生徒会へ向かった。
すでに兵力移動に関してはシャーレは勘づいている! 早さが武器だ。
車列先頭から声が響く。
「ヴァルキューレ警察学校だ! 貴様らなにを」
「射撃を許可する! 前進!」
初弾が放たれた。
あの世でもこの世でもない空間、ロココ様式のこの部屋のテンションが上がっていた。
自称警察長官が先輩が大きく口を開けようとしているのを横から奪い、がぶりと食べた。
「尻に火が付いた連中が、大暴れを始めたぞ!」
「それ、私のコーラとハンバーガー……ひぃん」
警察長官はハンバーガーを片手に先輩からコーラを奪い、観戦してる様は実に楽しそうだ。
「君達のテンションどこでも変わらないんだね……後、彼は大丈夫なのかい」
「それを言うと……やっぱり怒ったぁ!」
「七神行政官代理と重なる部分で苦しんで居るんだろう、アレルギーに近いのでは?」
「それでこの手の専門家のお二人の意見はどうなんだね?師ならどうするんだい?交渉と密談は得意と聞いたが」
「師、警察名乗る人にコーラ取られたんですけど」
「それは後でね、防衛室長はカイザー切り捨てて、さっさと謝っておけば防衛室長の椅子には座り続けれたと思うよ、その道は今無くなったがね」
タイユランが「まあ闘争・逃走反応で外れ引いたねぇ」とやや憐れんだ反応をした。
極論を言えばあの先生に「ぼくがわるかったです、ごめんなさい」と頭下げれればこういう苦労をしなくて済んだのだ。
自分とそこの自称警察長官がなんだかんだ長生き出来たのは取り敢えずそれが出来るからだ、自称警察長官なんてテルール全盛のロベスピエールへそれをした、あっさりと拒絶されたが。
「どっちかが勝つまで、行方眩ませてても良いのにねぇ。負けた方を自前の部隊で捕まえてしまえばしばらくは安泰だったよ」
「外圧ある中、ああいう行動すると大変なことになるのは世の常だがね」
ポテトを齧りながら自称警察長官はそう告げた。
涙目の自称先輩はフロートをすすりながら拗ねている。
連邦生徒会仕様のハンヴィーが停車し、上級役員制服の恰好をしたFOX小隊が降車する。
正門前の警衛はサンクトゥムタワーが最近平和なせいか、気にも留めず敬礼した。
即座にオトギとユキノがライフルで殴打して制圧する。
続いて、完全武装したカイザーSOFがこれに続いた。
「あなた達、許可は取っているの」
正門前が足音が響いているのを訝しんで役員が何人か出てきた。
即座にニコがライフルで殴り飛ばして制圧する。
監視カメラは機能を停止していたが、慌てた役員の数名が上層階へ異変を告げた。
「侵入者?」
リンの耳にそれが聞こえた時、会議室は大荒れであった。
会議は未確認のエネルギーの集積とその不明さは明らかに緊急事態であるとするリン行政官と、社会情勢が不安定だとする先生と、財源が無いとキレる財務室長で胃が痛かった。会議は踊れどされど進まぬ、何かなければ3日ぐらいは終わらない気がする。
モモカ室長は酸欠の金魚みたいになってたが、遂に寝た、自分が真面目にしてる意味すら無いと勘づいたらしい。
ついに会議室のある階層で銃声と足音が聞こえ、上空からヘリの轟音が聞こえてくる。
「先んじられたな」
会議室のドアに自動小銃の連発がされ、ドアが開く。
「お初にお目にかかります、先生」
かんと音を立てて、踵をそろえてカイザーPMC指揮官ジェネラルは最敬礼した。
先生は答礼すると、いかにも慇懃な口調で言った。
「政治に関わる悪さまでするようになったかねおたくは」
「これはこれは手厳しい、貴方にそう褒められるとは」
ジェネラルがにこりと笑い、指を鳴らした。
ガスが流れ込み、忽ちに倒れていく。
「手荒にしたくない、貴方にはね」
無敵のアロナバリア、その欠陥をカイザーは考えた。
巡航ミサイルに耐えるという性能、恐らく弾道弾すら耐えうる可能性すらある、不可能はないオーパーツ……。
なら簡単だ、心底危害を加える意思がないやり方をしよう。
具体的には、眠っていて頂こう。
起きた時には全て終わっている様、終わらせるしかない。
午前0時、先生のタブレット端末の電源が切れた事と通信途絶がまずミレニアムに入った。
既にこの頃にはカイザーのEH-60AがDU上空を電子戦制圧をしている上に、管制を奪取し、先生を確保した。
だが既に異変に過敏になっていたシャーレ近郊は、生半な攻撃では難しいと考えられていた。
ジェネラルの予想通り、前衛はそうなった。
「不審車両だ」
夜食のサンドウィッチをつまんでいた検問が、近づく連邦生徒会の車両に気付いた。
無言で機関銃手に合図を送り、ペンライトで返答が来た。
「止まれェ!これより進むのは許可されていない!」
拡声器で警告したが、トラックは止まらない。
射撃許可を命じる、M2重機関銃が火を噴き、ライフルマン達の掃射がされる。
すでに射撃許可は下りていた、各所で通信が途絶している中ではもはや警告無しで射撃しないだけマシである。
降りてきた連中を見て、隊員は思わず困惑した。
うちの装備と制服を着けてやがる、だが細かな点が違う、一番確実に違うのは、ライフルの持ち方だ。
「本部。西検問所です。偽旗の第五列およそ50名が攻撃中!」
射撃自由を命じ、シャーレ攻防が開始された。
シャーレのビルのベランダから据え付けた機関銃が射撃をはじめ、屋上にミストラルMANPADSタレットが展開される。
ユウカは仮眠中のところを起こされ、サオリに尋ねた。
銃声が聞こえているから要点だけである。
「数は」
「侵入部隊は50名ほど、現在西部検問所エリアで交戦中!」
「接近中の航空反応探知」
指揮所へ入ると、だんだんと全体像が見えて来た。
戦術指揮官ではないがユウカの計算の方程式は別の視点で正解へ導く。
「囮か前衛ね、防衛指揮官としての意見は」
「籠城か逃亡かを聞きたい」
ユウカはこの世の全てに憤慨したように言う。
「大いにやりなさい」*19
サオリはそれだけ聞くと「押収品も良いってさ」とヒヨリに告げた。
道を過たせる? 危険な大人? もう知るか、戦争だ、戦争、戦争、戦争だ! そうなってしまえばすべての些末な論議が引っ込む!
ユウカは先生みたいな笑みをするようになったサオリに、教育を間違えたと後悔した。*20
「しかし分かってるのかな?あの不良中年のみんなは、戦争はどう終わらせるかでしょうに」*21
ユウカの言葉はユウカ以外が言えない言葉ではあった。
この世には戦争よりやりたい事がたくさんある。*22
ずどんと大きな音が響いた、サオリの方を見る。
「やられたな、自動車爆弾らしい」
噴煙は軽く7mほどある。
外壁が破られた、施設内戦闘になるなとサオリが呟き、ユウカに書類焼却を依頼した。*23
整備隊長に予備機のあれをホールへ動かす様に指示しながら、サオリは後退戦の用意に入った。
猛烈な銃撃戦になったことにユキノはため息をついた。
前衛のクルミが「奴ら警告以後はマジで撃ってくる! 正気じゃない!」と通信で知らせてきたので、増援と近づいたら、いつもはちょっとした公園染みたシャーレ玄関がバンカーまみれになってる。*24
嫌らしいのは屋上から自動擲弾銃を山なり射撃してる連中と、迫撃砲チームが出て来たらしく、突入部隊前衛は崩壊しつつある。
無論諦めるわけにはいかない、地下のクラフトチェンバーを奪取しなくては管制は完璧にならない、情報を統制しなければ勝利は無い。
『戦車だ! 戦車を出して火点一つ一つ潰すんだ!』
M8AGS、カイザーの現状最強の戦力が火を噴く。
流石にバンカーもいくつか沈黙したが、白煙が尾を引いて突っ込んできた。
天板からぶち込まれたSMAWが、M8AGSの砲塔上面を貫徹して吹き飛ばした。
夜空に爆炎が煌めき、ユキノはどう終わらせるんだ? と本気で疑問を持ち出した。*25
「危ない!」
ニコがユキノにとびかかり、押し倒す。
”平和を守るのがシャーレの仕事”と書かれた看板をぶち抜いて20㎜弾がついさっき、ユキノの頭部があった場所を通りすぎる。
各所で突撃を仕掛けた歩兵が潰走している、指揮官が狙撃されて部下の統制が追い付かないらしい。*26
数回の斉射や銃撃を受けただけで、カイザーのPMSCが引き潮が如く潰走している。
ユキノは即座にオトギに対狙撃戦をさせろ!と命令するが、オトギから「不可能!上が重火器の使用を認めません!」と返された。
「代わりにガス弾は良いってさ」
「効くわけないだろ高層ビルに!」
上からの指示はいつもこれだ!
キヴォトスにおいて、不良学生というのは割と重武装である。
ミニガンを担ぐ連中はそこそこいるが、不良勢力は大概持っている。
理由は簡単で、舐められない為である。抗争ではったりをかまして勝てるなら儲けものである。
そして、キヴォトスにおいて不良はありふれた存在である。
シャーレ付近から上がる爆炎と戦闘騒音は戒厳令の中を忽ちに駆け巡った。
「仕掛けてんのは」
「カイザーらしい」
「んじゃ先公ついに切れたのか」*27
「無理ねーな」
「クーデターだ」
騒然とした集会が各所で交わされ、各所で不良たちがバイク乗りを呼ぶ。
「うちらはダチがヘルメット団にいる」
「コネがトリニティ方面にあるからそっちを」
「前依頼くれたし、ゲヘナの方行くわ」
誰も制御できない連中が動き始めた。
キヴォトスにおいて、権威と権力は軽んじられることはしばしばであるが、連邦生徒会の名義で出された戒厳令は有名無実化された。
ある種必然だったのかも知れなかった、不良生徒にとって先生が復員や炊き出しで最低限の人間的一線を守らせようとしているのは皆が知っている。
青ざめても臆してはいない、人生の余白は未だ広し何とでもなれると語り支援する大人としての責任と義務が彼へツケを払わせようとしている。
取り立て人たちは断じて払い逃れを許すわけも無かった。
ジェネラルはタワー近くで爆発が起きた事に気が付いた。
事故ではないようだ、銃声が更に聞こえる。
「シャーレが反撃に出たか?」
「いえ! 住民蜂起です」
「なに?」
驚愕したジェネラルの問いに副官が答える。
その副官は端末を見せる。
既に6か所で住民蜂起が発生、暴動になっている。
大半は不良生徒たちが散発的にやり合っている様だが、あまりにも広がりつつある。
「主力到着はすぐか?」
「いまアビドス砂漠を超えて向かっています」
「到着次第暴動を鎮圧させろ」
T-80Uで全て叩き潰してやる、いまはシャーレだ!
ジェネラルの考えはある意味固定化され過ぎていた、日干しにする案が一番確実である。
先生という政治的軍事的天才なしの状況を不安に思うまで何週間も待ってやればいい、そう安牌を取る手はあった。
事実、この先の事を考え天秤を図る連中もいるのだ、いずれ暴発する。
だがそれをするにはあまりに危険視しすぎた、だからこのように採算が怪しい作戦を決めた。
考えれば簡単である、「大人がいない集団」*28と考えるには難しかった、勝利と栄光が敵と味方を狂わせる。
午前2時、シャーレ襲撃、連邦生徒会陥落とニュースが入る。
羽沼マコトは悩んでいた。
変事と聞いて浮かぶのは今後である、自身の権力欲とあれこれが悩ませた。
カイザーが勝った後のゲヘナ、シャーレが勝った後のゲヘナ、どうなるだろう。
「……」
黄金の電話機を手に取る、議長専用の電話だ。
マコトは交換手へ風紀委員本部へとつながせた。
「空崎はいるか」
「こちら天雨です、ご用件は」
「お前じゃ話にならん、委員長を出せ、最優先で」
時間が惜しい、早く出ろ。
アコがキレながら、ヒナへ渡す。*29
「忙しいんだけど」
ヒナは殺意を滲ませながら言った。
マコトはみょうに冷めた声で、ヒナへ言う。
「うちから装甲中隊も出す、ただちに装甲擲弾兵を出してカイザーを阻止しろ。イロハも送る」
「……了解、いちばん良いのを借りていくわ」
マコトは許可した。
少なくとも先生はゲヘナの内政に干渉しないのは確実である、うちはアビドスじゃない。*30
続けて、ETO回線でトリニティを呼び出す。
「ああナギサか。そう、例の件。うちはシャーレに介入する。うん。じゃあな」
話は手短に済んだ。
さあて賭けてしまった、大丈夫、ミスしたらヒナに責任押し付ければいい。
どうあがいても私は何とかなる。
アビドス校舎は騒然としていた。
シャーレ本部は繋がらない、カイザーは諸手を挙げて動いている。
「ちょいと借りるよ」
「あーっうちの偵察バイク!」
隊員のバイクを借りて、ホシノは馴染みの連中を呼び出した。*31
「はいこちら便利屋68」
「もしもし? 今会えるかな~?」
「ああアビドスの」
カヨコが電話番らしい、ホシノは話が早いと尋ねた。
「状況は把握してる?」
「そのせいで社長が大慌て、さっき事務所が踏み込まれたよ」
「あれま」
「まあ特務の分隊程度なら勝てるから良かったんだけど」
逞しく育ったなと思いつつ、ホシノは尋ねた。
「前回のアレコレの貸しとして、爆薬あるでしょ、それ貸して」
「なにに使うの?」
「ちょいとカイザーの車列を」
「無茶苦茶言うねぇ、まあ良いけど」
すると、カヨコの電話をアルがつかみ取る。
「任せなさい! 便利屋はPMSCなんかに負けないわよ!」
「お代は先生によろしく」
ホシノは合流地点へ向かう。
校舎は安心だ、たまには後輩を信じよう。
午前2時30分、ついにシャーレ1階は侵入された。
戦力を維持しながら段階的後退を続けるサオリの戦闘指揮は正に精鋭であった。
実はサオリとヒヨリ以外、アリウススクワッドが居ない中で、しかも本部に居るのは警備隊180名以外は支援部隊や法務官たちが多いにも関わらずである。
ユウカは「本業じゃないから好きにやりなさい」と言い、粛々と事態を分析している。
すなわち、消耗弾薬と人員損耗と敵への損害の分析である。
現状キルレートは1:5、すでに敵は大隊を喪失している。
「さて盛り上がって来たな」
「楽しそうね」
サオリはユウカの言葉に、笑顔で言った。
前進指揮所にたびたび外から重機関銃の銃弾が跳弾して飛び込むが、サオリは派手だねえと流した。
ホールでは大型の防弾盾を二枚重ねにした盾持ちオートマタが必死に戦列を形成し、その裏でHK416を装備した突入部隊が必死に射撃している。
そろそろだなと思いつつ、サオリは酷く真面目くさった声で言った。
「ああ、楽しい。楽しいとも、子供じみた正義の戦争だ、楽しくないわけあるか」
だって防御指揮官なんだもの、楽しまねば損である。*32
私は防衛部隊司令官でいまここは戦場で、そして戦わねばならないのだから。
好きに遊ぶぞ、もう好き勝手に遊ぶ、文句なんか言わせない、これは私の戦争だ!
「逆襲部隊編成! ホールで減らして追い返すぞ」
さあさあお客さんはまだまだお越しになられてきているぞ。
押収品倉庫からサーモバリック手りゅう弾を手に取る、兵の様子を見にいかねば。
ユウカは損耗と消耗から見て、まあ数日かなと予想をつけた。
戦闘詳報の書き方を他の奴にも教えるべきかもしれないとユウカがため息をついている。*33
サオリが来たのを見て各自の顔つきが変わる、火薬の匂いと爆炎と銃声が妙にサオリを艶めかしく感じさせた。
「合図で一斉にぶちかませ、射撃号令はしてやる」
サオリが話しているのは法務官たちだ、事実上非戦闘職ではあるが、訓練は受けている。
配布したM16A4や89式は皆が一度は経験がある小銃類、所謂
ホールを睨む三階のテラスに射撃陣地を構えさせたサオリは、相手の動きを心地良く感じ取れていた、私の指揮下には優秀な兵がいる、正義がある、圧倒的な敵、弱弱しいが確かにある希望。
そうか!サオリは理解した、そうか、シャーレが拡大したのはこれなんだ、あまりにも弱弱しい中で戦い続ける、かすかな光へ。
『突撃ィ!』
指揮杖を振って前進してきたカイザーの将校が叫んだ。
サオリがにやりと口を歪める。
「目標1階ホール敵兵!狙えェ!本部臨時守備隊、撃てェ!」
全火力が一気に集中する。
二線級の火力だろうとなんら変わらない、適切な配置に火力計画があれば良い。
ユウカが右手を振り下ろして続けて射撃させる。
ヘリから剥いできたGAU-19だ、12.7㎜をバルカンの如く撃つ優れモノである。
ヘリ用の弾薬類も繋げたお陰で、12.7㎜のAPがばら撒かれている。
カイザーの盾持ちオートマタがバターの様に撃ち抜かれていった。
敵が崩れて瓦解して潰走していくのを見ながら、サオリは「この仕事はやめられないな」と思わずつぶやいた。
急報が舞い込んだ時、アリウス自治区の動きは早かった。
トリニティの緊急展開として出てきたミカとツルギ達をタンクデサントさせ、チーフテンの車列が進む。
敵味方の判別で、全員に白襷を配給した。
「前進!」
アツコには許せなかった。
革命を否定されるのが、再び自由を奪おうとするのが、生きる意味を奪うのが。
各所でそれが広がろうとしていた。
「ともかく行こう、今のキヴォトスで即応できる戦車大隊と空挺が居るのは天下を握ると同義語だからね」
ここで上手く動ければ後々に大きく響くんだから!
アツコは望みと義務と政治的意味を完全に統合できていた。
夜が一番深くなる頃合い、主力本隊の前衛がDUへ入る。
T-80U装備の戦車中隊1個、M2ブラッドレイの機械化歩兵中隊3個を基軸とした戦闘団で、ジェネラルは火消しを開始した。
しかしこの時点で各所で問題が起こっていた。
アビドス移動中の補給部隊がIED攻撃・ゲリラ攻撃・航空攻撃を受けて滅茶苦茶にされている、それに各学園が動いている。
ジェネラルはどうするべきか悩んだ、火消しよりももっとこう、別の手段が。
「手間取るようだな」
「カイザーの象徴にして未来へ輝くプレジデント……!」
「挨拶は良い、シャーレはいつ陥落する、出来ないでは良心が無い」*34
プレジデント到着で、ジェネラルは更に苦しくなった。
全てあの男のせいじゃないのか、そうだ、全て先生の力のせいだ。
なら……なら……。
消してしまえば……。
ジェネラルが電話を手に取る。
「増援は到着次第シャーレに投入しろ!」
予備戦力として残せば良かった、そう自分の何処かで囁く。
うるさい! 俺はそんな自由じゃないんだ! そんなこと言えるか!
自分の囁きがなんであるか知っている、恐れだ、奴への!
とんとんと、副官に机を叩いて呼んだ。
「……排除する用意をしろ」
「よろしいのですか」
「奪い返されるとまずい」
圧倒的有利なのにそんな予感がした。
サンクトゥムタワーから出てきたMRAPを見つめる影があった。
ミサキはミレニアムへの連絡中にこの騒ぎになり、以後原隊と離れている。
サオリが元気なのは分かる、さっきもアパッチを撃墜してたし。*35
というわけで出来る事を考え、相手の動きを観測する事にしていた。
明らかに将校が移動している、やるか。
ミサキが針路を先読みし、エナドリの缶を持つ。
そしてゆっくりと道路へ出た。
「バカヤロー! 轢かれたいのか!」
MRAPから運転手が顔を出して声を張り上げ、ミサキはまず運転手を撃ち抜いた。*36
頭に2発撃ち込み、続けて助手席で書類を確認していた副官を狙う。
「え」
乾いた炸裂音がして、移動中の副官は制圧された。
見立ての通り指揮本部つき車両か、良い物してるじゃん。
無線機、書類カバン、ID、ランキングをつけていくつか持ち出す。
後は知らんと、テルミット弾を投げ込むか考えるが、もっと良い手を思いついた。
マヌケ二人を側溝に投げ込み、車を拝借する。
『そうだ第二機械化大隊は直ちに突入! クラフトチェンバーを奪取しろ!』*37
『シェリダン戦車で暴徒が止まりません!』
『突入部隊は1階正面ホール下層フロアに侵入!現在突破口を確保しつつあるも被害甚大!増援寄越せ!早く!』
施設内突入が始まったか、うかうかしてられないな。
ミサキは書類を見ながら、行くべき場所を決めた。
道中カイザーの検問があったが「どういうつもり、司令部に告訴するから名乗りなさい」と言うと、IDだけで全部済んだ。
だーれも疑わないのか、適当な連中だ!
それは世紀の怪事件と人は言う。
すくなくとも、この市街戦でフリーのカンナとミサキたちにはそうである。
カンナ局長はヴァルキューレ本館の襲撃からなんとか先生の所を特定し、ミサキは移送リストを確認していた。
目的地たるヴァルキューレ警察学校の第三学校地下で遭遇した時、なんでこいつがと皆が驚愕した。
「カイザーの」
「元理事」
カンナとミサキはアイコンタクトして、拳銃を構える。
元理事は大人しく両手を上げて、つれない奴らだと不服気にした。
「イージー、イージーに行こうじゃないかお嬢さん。目的はあの男なんだろう?」
「あんたいつ出たの」
ミサキが詰め寄る。
元理事は矯正局を指さし、言った。
「いやそれがな、3時間前にジェネラルの野郎が出したんだ」
「んじゃ敵か」
「話聞けよクソガキ……」
元理事は手招きして、地下へ進む。
ミサキに「正気か?」と尋ねられ、元理事は楽し気に葉巻をふかした。
「お前のそれ、司令部IDだろ? そして俺は元カイザー、そこのワンちゃんはリベートの過去がある」
元理事は笑って「つまり俺が堂々と歩いている限り誰も止めれんよ」と返した。
カンナは呆れかえり、ミサキはため息をつく。
酷いのは概ね事実であったことだ、ミサキは私服だからともかく、カンナは制服のせいで逆に怪しまれなかった。
「おい、シャーレの先生は地下だな」
「はい、えーと」
「今はまあ、特命隊の指揮官だな」
警衛詰め所に横柄な言葉使いをする元理事に、ミサキは笑いをこらえた。
カンナはある意味笑っていたが、普段のツラの悪さのせいでより狂犬らしかった。
誰から見ても正義の味方じゃない。*38
「こちらです」
警衛が退室し、警備隊長が残る。
「しかしまあ、貴方が死刑担当ですか。皮肉なものですね」
2人がどうするんだと用意をする。
「ジェネラルのやつ、そんな命令まで出したか」
「え? そのために連絡が来たんですよ」
元理事の鉄腕が、警備隊長の顔面へめり込む。
唖然とした二人を後ろに、元理事は咆えた。
「見下げはてた奴だあいつは! 男なら戦ってケリつけろ!」*39
かくして三悪人は、まんまと奪ったものを奪い返した。*40
籠のカナリアは「脱獄の計画が無駄になっちまった、早く来いよ」と言っていたが。
夜が明けつつある。
午前四時を迎えた、DUに戦車の轟音が響いている。
ゲヘナ・トリニティ・アリウスの三連合の機械化兵団が旅団規模になりながら突入を開始し、さらにミレニアムからの無人機とECCMが展開されだした。
アリウスから「最終的解決案」としてサンクトゥムタワーに巡航ミサイルの残りを撃ち込む案は一応棄却された。*41
前進してきたトリニティの砲兵が官庁街へ砲撃を開始し、ヴァルキューレ本館は各所の警官が再集結して奪還されてしまった。
「まずいぞ、奴ら本格的に反撃してる!」
ジェネラルの苛立ちが募る。
「副官は何処なんだ!」
慌てて入った伝令が報告した。
瞬間、ジェネラルの全てが崩れた。
逃げられた。
くそ! こうなってはシャーレを無理矢理に占拠するまでだ! ゲヘナ・トリニティ・アリウスの連合部隊に奴が合流すれば、仮に増援が来てもひっくり返される。勝敗分岐点最後の選択だ、何時もの自分なら10分前に撤収も考えてた、奴を捕らえたばかりに拘りすぎてしてしまった!
ジェネラルの思考は回転して明瞭へなった、戦術と戦略が逆転し始め、当初の目標へ拘泥し始めていた。
「私はシャーレへ向かう! あと一押しなんだ!」
ジェネラルは大会議室の机を何度も何度も殴りながら、そう繰り返し叫んだ。
それも、シャーレ攻撃部隊の指揮本部に「ラビット小隊を名乗る奇天烈集団が乗り込んできて、指揮車両が爆破された」と聞くまでである。
ジェネラルは意識を手放した。
最後の幻の如く昔の上司に「博打は苦手なくせに大金乗せて遊ぶからダメなんだキミ」と聞こえたような気もした。
「たいへんだ、軍政司令官どのが!」
斃れた彼は、それのお陰でとどめを聞かなくて済んだ。
ゲヘナの飛行船から拡声器で『よおお前ら、俺が帰ったぞ』という放送を聞かなくて済んだからである。
正当な存在が帰ってきた。
いまや主力本隊は逐次投入と各個撃破を受けており、道路があちこち襲撃されて渋滞し、補給部隊は各所で攻撃されている。
無線機は各所で崩壊した戦線が大惨事そのもの、もはやヘルゲート解放と化してる証拠である。
『全ステーションへ!全ステーション!こちらグース4!気絶8負傷19名の損害!MEDVACが離陸できません!誰か支援してくれ!』
『エコー2ロメオ。AOに支援可能な航空戦力は?!……誰か応答しろよクソ!サノバビッチ!』
「オイ、どうすんだ次席司令官は!?」
幕僚が尋ねると同時に、サンクトゥムタワーがドン!と砲撃を受けた。
窓から外を見ると白襷をつけたアリウス、トリニティ、ゲヘナの部隊が突撃準備を開始しており、105㎜榴弾砲がサンクトゥムタワー正面ホールへ撃ち込まれている。
既に近くの建物に籠っていた部隊は戦意を失って投降し始めている。
「上位3人全員連絡不能なのであなたですよ」
「くそったれめ、状況はもう破綻してる、作戦はいまや
更に爆発の揺れが響く。
外からは「
「軍政司令官殿は最後に撤退と言われていたよな……?」
「エ?そうでしたか」
カイザーの幕僚が首を傾げるが、アリウスのハボックが通りすがりに30㎜機関砲を撃ち込んでいく音を聞いて意見を変えた。
シタデルの中枢区画にある指揮所はともかくその外は、外郭は完全に滅茶苦茶だ。
「……たぶんそう聞いた」
「作戦中止!ランディングゾーン・スパロー及びフィンチとコンドルも放棄、重装備は捨てろ!」
「全ユニットへ。
その瞬間。
終りが訪れた。
空は赤く染まり、サンクトゥムタワー上空から赤い柱が浮き上がる。
「なんだあれは……ジェネラル! どうなっている!」
プレジデントは大会議室へ踏み込むが、急いで担架で運ばれていくジェネラルを一瞥して絶句した。
大会議室に置かれた無線機を聞いてみるが、台風クラスの暴風が吹いていることと大気が一部プラズマ化しているらしいという報告が入った。
『シャーレ突入部隊信号無し!』
『電磁波が攪乱されてます!』
『状況不明!』
すると、屋上の観測班が悲鳴を上げた。
高い音程の、狼の唸り声の様な異音が辺りを満たす。
赤黒い穴から、翼の様な何かが出て来た。
『光が!! 風が!! 翼がくる!!!』
「どうなっている! なにがおきている!? これもシャーレの陰謀か!?」
プレジデントの叫びは誰も答えない。
雷撃が轟き、カイザーの電子戦機が落ちていく。
まさに世界の終わりか、プレジデントは自身のオスプレイへ乗り込む。
『航空部隊は全滅! 残存機無し!』
『もう無理だ! 連絡が取れる部隊だけでいい! 逃げろ!』
『作戦中断! 重力変動拡大してます!』
『シャーレも先生も忘れろ! 我々は撤退する!』
作戦は失敗だ。
空から押し寄せた何かに、サンクトゥムタワーは押しつぶされ、巨大な爆発を起こした。
カイザーの投入した1個特殊航空連隊と機械化旅団をもろともに。
そして、アビドス校舎では生徒たちの目の前でシロコが消えた。
やはりカイザーには無理でしたか、黒服は巻き上がる光の柱を見てそう思った。
いまごろ、フランシス辺りが話しているだろうが、彼も知るだろう。
先生はどうするのだろう。
愚問か。
私は見たではないか、あの男は侵略者を絶対に許さないのだ。
そう、絶対に。
【次回予告】
時空がねじれ、地層が断裂する。
キヴォトスの腸が抉られる。
垣間見えた古代超文明の輝きが、野望をそそる。
暗闇に、巨大な鼓動が響きはじめた。
禁じられた扉を開くのは誰だ。
次回「 La Patrie en danger 」
目覚めが始まる。
祖国防衛戦争開幕
今年のナポ先の誕生日のお話について(傾向が気になるので)
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5章2部まだ?
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記念日なら2話連投して♡