キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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戦闘とは意思のぶつかり合いだ。
その意思は自由に夢幻に変容する。
─砂川文次、【小隊】より─



番外【それぞれのDU攻防】

 

 

連邦生徒会の会議が始まると聞いて、サオリは「あり得ない。」と感じた。

それに全く従うべきでないと感じたし、罠であるとも感じた。

ユウカは少し沈黙し、何かを言おうとしたが、言わないことにしていた。

言いかけた言葉はどういう意味、どういう視点で出かけたか、自身でも分からないのだ。

不安か焦燥感か分からない、寂寞感によく似たそれはユウカは言い表せなかった。

ノアもいて欲しい、そう感じた。

自分の何かしらのモヤモヤを吐き出せる人が必要だった、ユウカとノアは要約してしまえば本質的に互いを理解出来る数少ない他人なのだ。

 

「……まあ待ってますよ」

 

無理矢理に言葉をひり出した。

完璧な白無垢の連邦生徒会制服が死装束に見えた。

サオリは、なんとかその恐怖感を噛み殺した。

時刻は23時を過ぎようとし、夜の闇が広がろうとしている。

シャーレ本庁舎の電子隊は、慌ててユウカとサオリを呼び出した。

本庁舎上層部にある通信室には各種大型通信機類やコンピュータが入っており、アロナ以外には繋がっていないクローズド環境だ。

ヴェリタスすら「流石にアレに繋げると消されかねん」と遠慮する最重要機密で、ヒマリ手製の防護策とリオ手製の防護策が入り組む電子の要塞であった。

 

「何かあった?」

 

ユウカが寝巻きのズボンとシャツ一枚で現れたのにやや面食らいつつ、ヘッドホンをつけた電子隊の隊員が帳簿を渡す。

 

『15分前ヨリ戦術符牒ノ使用ヲ認ム。作戦発動ノ前兆ト判断スルニ足ル情報。即刻上告。』

「20分前から急激に通信量が増大してます、戦術符牒の使用が開始されました。恐らく奴ら仕掛けてきますよ」

 

続けて駆けつけてきたサオリが、電子隊の追加報告を聞き急速に冷たい表情に変化していく。

 

「会話が消えた、始まるぞ」

 

彼女はもう時間が無いと悟った。

直ちに非常警戒に移るべきだ。

実戦部隊に実包の配給が許可された。

時刻は23時30分、緊急警報が事実上発令された。

 

 

 

23時50分、イーグルクロー作戦第一段階が発令される。

まず低空侵入したオスプレイがDU国際空港を制圧、輸送機を着陸させて速やかに空挺部隊を展開させる。

同時並行でカイザーSOFはハイランダー鉄道学園DU方面の総合運輸司令部、トリニティの放送通信局(トリニティBTN社)、クロノスのシラトリ放送会館へ制圧行動を開始した。

更に治安武力を制圧するべく特別編成のSOFが送り込まれた。

XM8やSCARを装備したSOFは音もなくMV22から飛び降り、着地すると薄いビニールのマントの様なものを広げた。

すると忽ちにSOF隊員が姿を紛れさせる、カイザーの熱光学迷彩だ。

 

『エントリー』

 

特注のハイテクが詰め込まれた義体は、その足音を殆ど響かせない。

静音を高めて光学迷彩までも施しているのは、情勢が急激に変化したためであった。

アリウス・スクアッド、いや、強制執行部隊A分隊を含むシャーレとの暗闘はそれだけ過酷なのだ、制服無き部隊との秘密作戦(コバート・オペレーション)の数々がそれを要求した。

ヴァルキューレ本館の正門前の立哨をサイレンサーをつけたSCAR-Hで排除し、中へと踏み込む。

超過勤務でうたた寝状態の正門受付事務所を有無を言わさずに制圧、監視カメラはSOFの姿を映していない。

 

『目標は本館5階総合指揮所だ。』

 

時刻は既に午前0時、ゼロアワーだ。

同士撃ちの危険を排除する西洋騎士的な特殊ヘルメットのデータリンクで、分隊がヴァルキューレ本館の公安局へ向かう。

 

「なんだお前らは」

 

公安局の局員が揺らめく陰に気付いて拳銃を抜いたが、すぐに排除される。

薬莢受けの袋が空薬莢を受け止め、続けて公安局オフィスの両開き扉の前にSOF隊員たちが張り付く。

 

『ラッシュ』

 

扉を蹴り破ってSOF隊員たちが突入、異変に勘づいていたコノカ副局長や夜勤の局員が応戦する。

ヴァルキューレ正式採用のグロックとMP5A3が唸りをあげるが、軍用プレートキャリアは9㎜弾程度で相手にならない。

バーストではなく単発射撃で瞬く間に局員たちが制圧されていく。

 

「くそっ!9パラはこれだからあてになんねえ!」

 

コノカ副局長が真鍮スラグ弾を籠めた散弾銃をぶちかますが、頭に打ち込んでもくらっとして倒れるだけだ。

効いてはいるだろうが割に合わない、残存する局員と共に局長室へ後退する。

 

「ええい軍用相手は分が悪いな!」

 

カンナ局長が官給小銃(サービスライフル)のM16を射撃しながら怒鳴った。

記録担当の白河書記が慌てて武器ロッカーから持ち出したものだ。

抵抗も長く続きそうにない事は明白だった、コノカ副局長は白河書記を呼び、何かを囁いた。

 

「姐御すんません!」

「えっ」

 

コノカは片手で詫びるように拝み、白河書記と担ぐと中庭の木立めがけてぶん投げた。

 

「んじゃ幸運を」

 

コノカがにこやかに手を振った。

 

 

 

白河スズはアビドス駐屯地の地下会議室にいた。

会議室には彼女の他にアビドス駐屯地各指揮官、アビドス生徒代表のホシノがいる。

 

「中央と連絡は取れないんだね?」

 

ホシノが尋ねた。

通信将校がこくりと頷く。

 

「連邦防衛室、生徒会、ヴァルキューレ本館、クロノス通信社、ハイランダーDU鉄道運輸司令部、全て繋がりません。シャーレ専用非常回線もです。恐らく切られたと思います。」

 

彼女の予想はかなり事態を正確に捉えている。

既にカイザーのSOFはDU地下の非常回線を制圧していたし、交通管制機能も通信管制も奪取されている。

地下回線配線抗は事実上失われている、事前展開部隊が回線をシャットダウンした。

 

「命令を待つだけ無駄、命令は来ない」

 

スズが重く口を開いた。

内心で様々な感情が渦巻いている、保身、名誉欲、身の上、責任、義務。

モールか何かで「えー、あの時の将校さんなんですかー」と嬉しがられる程度の名誉が欲しい、嫌な奴に頭を下げないで済む程度の権力で良い、ささやかな願いであったはずだ!相応の夢と野心、それだけだったはず。

しかしながらそうもいかない、行かないのなら私はどうすれば良い。

スズは珍しく内心で先生がいて欲しいと願った、思った事を気兼ねなく言える上官のなんと素晴らしい事か!チクショウ。

彼女は腹を括ることにした。

どのみち降伏なんか出来るわけない、私の保身が出来ん、だからもうやるしか無い。

 

「上級司令部との連絡途絶につき、臨時で小官が指揮を代行する。

 与えられた権能と職権をもって、非常作戦行動命令第214を発令する。」

 

全てが決まった。

非常作戦行動命令第214とは、内部の俗称が「アルファ・オメガオーダー」と呼ばれる作戦計画で、ある意味先生が用意した最後の手段である。

最高指揮所や指揮官不在時の非常命令、成すべき事、指揮権の確立。

何より、これは軍事戒厳や治安戒厳の権限を一時的に認可すると言う事である。

詰まるところ先生宛の手紙と権能の一時貸与とすら言えるものだ。

 

「さあ戦争だ。」

 

伝令兵が走り、予備倉庫から火器が出され、全てが動き出した。

もう止まらない。

 

 

 

アリウス駐屯地では迂回に迂回を重ねて繋げられた214号命令で全てが決まった。

道中民間回線を挟んだから請求書が届くだろうが、いまはそんなことどうでもいい。

全てにおいての意味でアリウスは変わった。

大人に唆されてでは無い、誰かのために銃を持つのだ。

 

「予備武器庫っていってもMk18とかが多い、慣れないかもしれないけど大丈夫か」

「使いながら慣れるしか無いでしょ」

「まあそうなんだけど」

 

シャーレの隊員がそれはそうなんだがと困った顔をした。

号笛が鳴り響く中、チーフテンが戦車輸送のトランスポーターに載せられる。

サクラコとウイの努力のお陰で、カタコンベの資料が見つかったのが大きく響いた。

トリニティの戦車輸送車に載せて、そのまま一気にDUへ行く。

ナギサが射撃計画作成に入り、火力配当のあれこれをセイアが始めたため、トリニティの司令部はてんてこ舞いだがなんとかなっている。

皮肉なことに、ミカのクーデター計画とエデン条約戦時の資料を概ね使いまわしたからだ。

 

 

 

 

レッドウインターの事務局執務室、バロック様式で整えられた部屋では外を深い闇が包んでいた。

なんらかの異常事態が起きているという事はレッドウインターも掴んでいる、しかしどうなっているのかが分からない。

惑星上をその気になれば30センチ単位で覗き見出来るこの時代、真実恐ろしいのは「見えない聞こえない分からない」なのだ。

そんな中で、親衛空挺部隊が暇乞いに来たのは容易く受け入れるわけにもいかなかった、単純に自衛武力の点もあるし、分からない中で彼女らを旅立たせても危険以外生まないと考えられた。

アリウスから購入したハボック12機を中心とする親衛空挺は、アツコからリース契約で送り出されている。

何のことは無い、アリウスに金が無いから出稼ぎするしかないのだ、人がいない貧乏はアビドスで、人がいても貧乏はアリウスというだけだ。

そこを外部開放路線を進むチェリノがアツコと先生に関係を深めるのを兼ねて受け入れた、三者三様に得した取引だったが、同じ屋根の下に居る者に優しいのがレッドウインターだ。

外は地獄の様に寒いが暖かい心は忘れていない、たびたび忠誠心は置いてくるが。

 

「どうしたんだ、おいらが寝てる時に……」

 

眠気眼をこすりながら、大きなクマのぬいぐるみを片手にチェリノが出て来た。

親衛空挺の空中突撃大隊指揮官が、要件を述べた。

顔にやけどが残るアリウス出の将校だが、レッドウインターでは雇われ教官に近い。

 

「そうか。なら行け。……ああトモエ室長、Mi-8も用意させておくんだ、他にも行きたい奴らがいるなら志願者を募ればいい」

 

そういうと、チェリノは手招きして大隊指揮官を近づけ、しゃがませると深く抱きしめた。

 

「身体に気を付けるんだぞ、カムラッド先生によろしく」

 

言われた事のなかった言葉だった。

チェリノは抱きしめた後また仮眠に戻ると言い、大隊指揮官は沈黙と深いお辞儀をもって感謝した。

いまこの瞬間、チェリノは彼女らにとって忠誠を尽くすだけの価値があると証明したのだ。

マリナ委員長が「手配を終わらせた」と言い、トモエ室長はぎゅっと手を握る。

暖かい手だった、深く愛情ある暖かさだった。

そうか、誰かを守る為に引き金を引くとはこういう事か、彼女の口角が吊り上がる。

 

もうあの頃とは違うのだ。

 

赤星に熊のマークが描かれたヘリが飛び立つ。

その轟音は、二度寝しようとしていたチェリノの安眠を妨げるに十分だった。

 

 

 

午前0時44分。

子ウサギ公園から出撃したラビット小隊は、連絡を付けれたシャーレの分隊から状況を理解した。

月雪ミヤコは少し考えたが、やるべき事は分かっている、自分が何に仕えているかの話だ。

それは全員はっきりしていた、自分は市民の為に仕えている、市民の生活の為に仕えている、断じてあの企業なんぞの為じゃない。

出来る事をやろう、ミヤコはそう考えた。

小隊全員もそれに賛同した、だがまずはどう戦うかだ。

すると、上空をアパッチとコマンチが飛んでいった、ハイドラの爆発音が微かに聞こえる。

 

「今のRAH-66ですか」

SRT(うち)でもシャーレでもないね、カイザーSOF航空連隊の奴じゃないかな」

 

モエが目を細めながら最近購入したWBジープを起動させる。

またハイドラの爆発音が聞こえた。

 

「シャーレ本庁舎の方だ、先輩方がやられてるな、クソっ」

「空爆で済ませるつもりじゃないでしょうね、空港から別部隊が来るでしょうから待ち伏せます、一撃離脱でやりますよ」

「おう!」

 

サキがLMGを担ぎ、モエが以前にゲヘナで購入した擲弾の箱を取り出す。

ミヤコもM79擲弾銃を予備に持って、シャーレ本庁舎へ繋がる道の三叉路の付近へ身を隠す。

ミユにもライフルグレネードを配給し、サキとミユを前衛、ミヤコが中衛、側面にモエを配置した。

小隊指揮官として指揮しやすく、火力を配置する方法はサオリから聞いている。

AARはちゃんと読むミヤコは大軍に対してゲリラ戦を選んだ、一撃に全てを注いで移動するのだ。

 

「射撃はサキの射撃が合図でやる、リグループはWP3でやります」

 

攻撃、離脱、再合流の選定も済ませた、今の作戦行動はかつての無様な作戦と違い、筋道が明確だ。

その効果が活かされる時はすぐに訪れる、VM 90P PROTETTOを先頭にTGB 13が2両、計3両の車両部隊が近づく。

まずサキの軽機関銃が唸りをあげ、舐めるように下から上へ先頭車が銃撃される。

貫通しなかったが撃たれた事に動揺して先頭車が運転を右往左往させ、残る全隊員が擲弾火力を撃ち込む。

三回の爆発音が響きトラック1両が爆発、続く3両目のトラックは後部が炎上しカイザーのオートマタが燃えながら零れ落ちる。

 

「移動!」

 

ミヤコは欲張らない事にした、すぐに敵がハンターキラーを放つに違いない。

彼女は正しい考えをしていた。

 

 

午前2時50分。

夜間のゲヘナの校庭を幾つものライトが埋め尽くしていた、D.U.へ進撃の構えを見せるゲヘナの部隊はまさしくゲヘナの精鋭部隊である。

装甲擲弾兵は3年生や2年生中心の熟練者を中心とし、G11やG36Cをぶら下げ、Pzf3やPzf44を携行している。

このような部隊は普段の風紀委員会やパンデモニウムの戦闘部隊ではない、"ゲヘナ"のための部隊だ、雷帝の遺産など学校のために動員される本物の"忠誠心豊かな生徒"である。

必要なら彼女らはマコトやヒナだろうと排除する、そう"躾けられている"のだ。

 

指揮官合流の予定地点では既にシャーレの部隊が簡易指揮所を構築し始めている。

飛んできたOH-6が、連絡任務としてやってきたナギサとアツコを連れてきた時ヒナは楽しげにほくそ笑んだ。

普段の彼女に--アコが特に主張するような--優しげな顔はほとんどない、今の彼女は暴力の擬人化と呼んだほうがいい、カスミなら半径24キロ以内には近づきたくないと心から叫ぶだろう。

 

「現在の地図と戦況分析データです」

 

ナギサがバッと紙の地図を広げた、紙は絶対にハッキング出来ないからだ。

付箋などで「確認された兵力」「戦闘状況」などが書き込まれ、ハナコやツルギとミカ、さらに一部の分派などの参謀クラスがまとめた情報が書き込まれている。

アリウスの深部偵察隊やパテルのミカへの絶対の忠誠者などが現地偵察を既に開始していた。

 

「現在アリウスとトリニティの機械化部隊が西部から進撃、東部からゲヘナのレーア(教導団)が進撃している形になります。こちらの砲兵は既に火力支援基地を確保。コードはこちらです」

「了解したわ、こちらのパンツァーレーア(戦車教導隊)は装甲擲弾兵を伴うカンプグルッペよ。アテにして」

 

ナギサが楽しげに微笑んだ。

 

「先生が随分と羨んだでしょうね、居れば」

 

ヒナは少し驚き、そして同じように微笑む。

 

「えぇ。これほど大舞台、演者は勢揃いよ」

「オルガンもあるしね」

 

アツコは資料を添付した、巡航ミサイルはまだある。

マダムのやつ、よっぽど先生相手に不安だったんだなと見つけた時サオリと呆れたものである。

 

「距離が近い。アリウスの装甲戦力の一部は空港制圧をお願い出来ますかね」

 

イロハが虎丸から尋ねた。

頷いてアツコは戦車中隊と部隊を一部回すと告げる。

 

「あまり数が多くないようだけど、大丈夫?」

 

ヒナは尋ねた、こちらからも支援を出すべきか言外に含んでいる。

アツコがにこりとする。

 

「"とびっきりの精鋭"がいる。」

 

空挺上がりか。

ヒナは理解した、あのシャーレや自分とすら果敢にやり合う連中だ、心配無用だな。

正攻法で先生に勝とうとしただけあり、マダムは正面装備などに力をしっかり入れていた。

それが先生を助けようとしているのは歴史が皮肉屋であることの良い証拠だが。

かくして作戦会議と打ち合わせは終わった、この短い間に全てを解決する方法は、先生からよく学んでいた。

 

 

午前3時。

シャーレ本部内の戦闘は屋内戦闘に移っていた。

正面ホールに入ったカイザー突入部隊は、上から絶え間なく注がれる銃撃と手榴弾にたちまちに崩壊する。

手空きの法務要員や整備隊の一部までグロックやMP7を握って銃撃している。

サオリが「銃口の足しにはなる」と撃たせている、屋外を撃つより上から狙い撃ちにする方が当てれるだろうと言う判断だ。

判断は正しい、正規の警備隊などは屋外への攻撃や逆襲部隊としているから余裕がない。

逆撃隊は常に予備戦力としてサオリが掌握している、常に予備を有するべきと先生から学んでいるし、エデンの時にも理解している。

 

「そぉら行け」

 

包をポイと投げて、正面ホールへ落とす。

大きな爆風が轟き、オートマタの群れが吹っ飛ぶ。

吹き飛んだオートマタがホールの上階へ飛び込んできたので、蹴飛ばして送り返すとサオリは楽しげに笑う。

あれじゃ魔王か魔女みてえな姿してるよ、とユウカがため息をつくが、疑問も感じた。

 

「連中あんまり派手に仕掛けて来ないわね」

「あぁ、多分地下のクラフトチェンバーとかに配慮してるんだ。」

 

サオリの簡潔な説明にユウカは納得し、サオリがそろそろだなと腕時計を見る。

 

「どうしたの」

「そろそろ網を広げて誘い込む、また根切りする」

 

つまり一旦正面ホールを素通り出来るようにしてやり、また分断するのだ。

あくどいところまで学ばなくてよろしいのだけど。

ユウカは天を仰いだ、そのおかげで私はまだ生き残っているのだが。

ちょいと前線の面子をハッパかけてくると、カフェに行くように軽やかに歩いて行くサオリに、ユウカは何も言わなかった。

直後、彼女らの部屋に20mm弾が何発か飛び込む。

 

「ナイスショット戦争屋ァ!」

 

サオリが笑う声がまた響いた。

 

 

 

エンジン音を鳴り立ててゲヘナのパンター2とレオパルト1A4が進む。

D.U.高速道路料金所ではカイザーが臨時で作ったバリケードが張られていた。

 

「戦闘照準!」

 

イロハが許可を出し、先頭車両が発砲する。

ぶっ放された榴弾は横並びのバスを吹き飛ばし、続けてバスを踏み潰す。

ゲヘナのパンツァーレーアを含んだカンプグルッペはD.U.市街地に突入を開始した。

上空をシャーレのアビドス駐屯地所属のAH-64が2機続く、保有9機中現在回せる最大数だ。

手持ちの航空戦力はアビドスから移動中のカイザー本隊の行軍段列へ空爆中で、これが精一杯なのである。

ヘビーホッグやAH-1Gだろうが武装ヘリを洗い浚いぶつけて阻止攻撃中ではあるが、芳しくはない。

MANPADSもそうだがカイザーのPGZ-95(95式防空機関砲)が厄介な上に、4両ほどNASAMSが確認されているせいだ、高度化された防空部隊が砂漠等の地域にいると航空攻撃は効果も乏しい。

 

『眼下にM8AGSの小隊』

『OK、リード、援護よろしく!』

 

2機のアパッチが突入機動に入る。

市街地・山岳ではやはりヘリは脅威のままだ、30㎜チェーンガンとヘルファイアで猛攻撃を開始する。

ガンランは一撃離脱が基本だ、ヘリがホバリングして攻撃するのは距離が遠いときだけである。

 

『ガンランの戦果確認、炎上3を認める。』

『よし!』

 

しかし、前席の警報機が不気味にビイイと唸り声をあげた。

照準警報だ!RWRにレーダーロック警報音が響き、フレア・チャフを巻き上げる。

僅かに機体とずれてサイドワインダーがビルへ刺さって爆発した、カイザーのアパッチが現れた!

 

『クソっ!相手もアパッチじゃねえか!』

『腕なら俺達のが上だバカヤロー!』

 

捻り込みからの旋回で機首の向きを変え、ビル群で視界をきってスライド移動を行う。

カイザーのアパッチを照準し、30㎜が火を噴く。

上から抑え込む様に曳光弾が飛んでいき、左斜めに敵が避ける。

しかし突如カイザーのアパッチのテールが爆発した。

 

『ナイスカバー』

『チームプレイの差さ』

 

連合部隊がDUへの道を超え始めた……。

 

 

カイザーの空港守備隊が、戦闘騒音が繰り広げられる市街地を見る。

シェリダン空挺戦車などが外周を警備しており、今もC-17などから重装備を荷下ろししている。

無線機からは混線混じりだが各部隊の音声も聞こえる。

 

『混成第四中隊は?なに?全滅?』

『第224戦車中隊から本部。戦火ますます猛烈を極め収拾の見込みなし。指示要す。どうぞ。』

『グース各隊はLZを維持しろ。』

 

キュウウウンと猛烈な笛に似た音を鳴り立ててロケット弾が飛んで行った。

どーんと音が響き、夜明け前の一番深い闇を照らす。

シャーレの一部部隊を除き各所で独断的な作戦活動が開始されている、事態はカオスだ。

 

「俺たちどうなるんだろうな」

 

空港西入り口の警衛所でカイザーのオートマタたちはそう会話していた。

幸いここら辺は人が少ないからか戦闘の色は薄い。

 

「分からん。予備兵力も根こそぎ引き抜かれたみたいだしなあ」

 

事実だった、シャーレ本部が落ちない上に不良が各所で抵抗している。

ヘルメット団やスケバンが各所で戦闘を繰り広げており予備兵力は使い果たされつつある。

すると、獣の唸り声のような何かが響いている。

 

「あ?」

「戦車の音だ」

 

オートマタ達が何事もなさげにつぶやく。

少しして、シェリダン空挺戦車の音じゃないと気づいた。

M8AGSでもT-80でもない、T-80はガスタービンだし、AGSは今ここにいない。

てことは。

オートマタ達が慌てて銃を握り、辺りを見回す。

それは出てきた。

真正面の倉庫街をぶち破って。

 

「ち、チーフテン!」

 

最悪の相手であった。

キヴォトスの全学園で最強クラスの装甲を有する、最も凶器的な学生達。

それがいま、一番軽装備な空港守備隊を襲おうとしている。

 

《戦車前へェーッ!》

 

アツコが指揮棒を振り翳し、モーセの如く敵の戦列をかち割る。

チーフテンの主砲を側面にもろにぶち込まれたシェリダンが、弾薬誘爆でかけらも残さず大爆発し、続けて空港フェンスを噛み砕くように戦車が突き進む。

砲塔を左に向けて、アツコの指揮戦車がカイザーのアパッチに給油してる燃料油槽車に照準を定めさせる。

 

「HE、アップ!」

「弾種榴弾!目標タンカー!撃て!」

「オンザウェイ!」

 

アリウス式戦車兵用語とともに、バンッと大きいが乾いた炸裂音がする。

燃料タンク側面に大穴が開き、カッと辺りが輝く。

続けて巻き起こる閃光と爆轟、車外照準器から思わず目を逸らす。

アツコの中に、そして全アリウス生徒の中に眠っている本質、つまるところ要約すれば暴力の歓喜が暗い悦びを見せる。

極論を言えばマダムの洗脳はいまだに機能していたと言える。

しかしながらマダムは弱かった、そう認識された。

彼女は暴力を振るわれる側へと認識が歪められた、教えを歪めた者が受ける末路としてはあまりに皮肉である。

 

「命中ーッ!混せ目標一つ!右!敵歩兵!機銃!撃て!」

 

やや声が高いアツコが早口に叫ぶ。

同軸機銃が放たれ、腰が抜けてへたり込んだり、腰砕けに逃げ散るカイザーの整備兵が蹂躙されていく。

各所で現実と神と状況を呪う兵士たちの声が響き、何人もの兵士たちがさらに倒れていく。

格納庫の影に飛び込むように隠れたヘリパイロットが、自分の愛機を吹き飛ばし、テールを踏みつけて進んでいく鉄牛を認めた。

 

「畜生、アリウスのクソガキめ。好き勝手やりやがって!」

 

彼の耳に、バッバッとローター音が聞こえる。

直掩のヘリコプターが帰ってきたか?いや別の部隊のヘリ?どれでもいい、守護天使は歓迎するぞ。

だが燃え盛る炎に反射して見えたヘリコプターはカイザーの守護天使ではなかった。

赤い星が輝いている。

レッドウィンター事務局の親衛隊、その親衛空挺が有するハボックとハインドだった。

ハボックはアリウスから整備兵とセットで契約、ハインドは自前で購入している。

先生はハボックが売りに出されると知って買うつもりだったが、ユウカが予算と整備性を理由に渋り、カイザーに買われる前にチェリノを焚き付けた。

レッドウィンターは政治的には真っ当な学園である、227号特別クラスも"連邦法違反"を収容するところである。

ノドカとシグレは間違いなくアウトでも、マリナやミノリは許される、理由は違法じゃないから。

本質的にはチェリノは「失政が政治の本質」であると理解しているのだ、故にタチ悪いのだが。

 

『チョールヌイ各隊突撃突撃!』

 

捕食者達はハンティングを開始した。

40分しないうちに空港の各所でカイザーは滅茶苦茶にされ、アリウスとレッドウィンターの部隊は行方をくらませた。

アリウス生徒の大半は短期速攻こそ自分たちの強みとよく理解していた、ボヤボヤしてると203mmが降ってくると皆が笑って言っていた。

 

 

 

シャーレ本庁舎近くの公園では未だ銃撃戦が続く本庁舎を見ながら、ユキノが増援部隊の到着を待っていた。

本隊が到着し出したらしいが、到着した本隊の先遣部隊は3個中隊がすこしといった雰囲気で、数が足りない。

 

「おいどうなっているんだ、これだけか?ジェネラルは大隊を回すと言っていただろ。増強中隊2つは聞いてないぞ」

 

ユキノの問いに到着した部隊の士官が、あまり意欲無さげに応えた。

 

「大隊本部が移動中シャーレに空爆されて四散したんですよ、移動中にかなりの数がアビドスで脱落しました。」

「なんだって?各部隊が独自行動してるのか?」

「既に各校指揮官と連携し始めています」

 

ユキノにとってその答えは信じられない言葉だった。

独自判断と連携で全てがひっくり返されようとしている、大人の関与がないにも拘わらずだ。

バン!と爆発音が聞こえだした、官庁街の方だ。

トリニティの深部偵察隊が砲撃観測を始めたのだ、弾着必中半径が300から600mあるが、ゴーサインが出た。

155㎜榴弾砲が砲声をあげはじめた。

弾着の衝撃波が燃え盛るシェリダンの車体を浮き上がらせる。

 

「状況が分からないな、司令部へ確認に向かう。」

 

ユキノたちがそうしてハンヴィーに乗り込み、確認に向かうのと入れ違いに、WBジープが司令部の公園へ近づく。

 

「誰だ!」

 

司令部周辺警戒の歩哨が叫ぶと同時に、荷台のミユが狙撃し、サキが運転するジープが乗り込む。

助手席のミヤコがSMGを乱射して司令部天幕や通信機を蹂躙すると、モエがC4の塊をぶん投げた。

ドン!とシャーレ本庁舎攻略部隊の指揮所がはじけ飛び、ただちにミヤコは移動を命じる。

既にDU全地域でカイザーの統制は崩壊している、住民蜂起に連合軍の逆襲がなにもかもを滅茶苦茶にしている。

道中手に入れた無線機はカイザーがどれだけ混乱しているかよく雄弁に語っている。

 

Corpman(衛生兵)!トーキットだ!止血帯は何処だ!』

『サンダークラップからグース各隊、LZコンドルとLZフィンチは放棄する!』

『早く立て!じゃないと置いてかれるぞ!立てるな?行くぞ!』

 

カイザーは相当各所で負けが込んでいるらしい。

 

『こちらはエコー3ジュリエット!航空または火力支援を要請する!……聞いていないのか?助けが要るんだ!誰か居ないのか!』

『マスティフ7からエコー3ジュリエット。我々はFOBを放棄して移動中!』

『ふざけるなよ援護なしでどうしろと言うんだ!上にはハボック下にはチーフテンだ!』

『直ちにエコー3ジュリエットはLZスパローへ移動しろ』

 

暫くの間、ザーという音が響き『聞こえているか?』と声が響く。

続けて、悲鳴のような声が聞こえる。

 

『NO!NO!NONO!ファック!逃げろ!ガッデム‼怒らせちまった!』

『エコー3ジュリエット?』

 

微かに無線機から、誰かの歌うキリエが聞こえた。

さほど遠くない場所からドン!とひときわ大きな轟音が響く。

落雷に近い音が響き、サンクトゥムタワーの方から赤い光が轟く。

 

「なんじゃあアレェ」

 

モエが眼鏡をかけなおす。

無線機は少し沈黙した後、一気に騒がしくなり始める。

 

『マイクからエコー4シエラまでが信号消失‼』

『駄目だ電磁波が攪乱して何も分からんぞ!』

『どうなっているんだ、プレジデントは何か言ってないのか?!』

 

轟音と共に雷は天を満たし、空は赤く染まり始める。

何か本当に取り返しがつかない事が起こり始めた、それは分かる。

しかもそれは誰の手によるものではない。

 

『いいから連絡がつく部隊だけでも逃げろ!なんでもいいからここから離れるんだよ!』

 

カイザーの無線が急速に減り、コマンチやアパッチが赤い閃光を発する雷に打たれて落ちていく。

まるで獣の嘶き、狼が獲物を見つけた唸り声の様な奇怪な高音が響きながらサンクトゥムタワーがへしゃげていく。

最後まで残っていた無線機が悲鳴のように叫んだ。

 

『シャーレも先生も忘れろ!!我々は損失を最小限に抑えるために撤退する!!繰り返す!!全作業を放棄して我々は撤退する‼』

 

再び地震の様な揺れが始まる。

 

『なんだこの揺れは?!あぁマズい……!!逃げろ!!』

 

無線が断絶する音と共に、サンクトゥムタワーは崩壊した。

ある意味、それまでの何もかもを道連れ・供回りとして。

 




最終章 加筆と共に

それでは、また来週。
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今年のナポ先の誕生日のお話について(傾向が気になるので)

  • 王道に水着イベ
  • 並行世界orIF編
  • 5章2部まだ?
  • 記念日なら2話連投して♡
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