キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
夏イベで海などが多いのに嫌がる男が居るらしいので初投稿です
各所での戦闘が安定化した、全部隊の初期配置も終わった、総反撃の時間だ。
「時間だ、作戦開始」
まずはビナーだ。
しかしこれは色彩の模造品、やり様はある。
『ビナー、目標を捕捉!』
『キルポイントへ入ります』
シロコ問題に関しての対応もあるため、アビドス廃校対策委員会全員の議決で「人口密集地以外での無制限攻撃」が許可された。
カイザーから押収した数々の品も有効に活用する、なにせ理事も必死だ、再就職のアレに関わるから……。
おかげでゴリアテの長距離射撃部隊をアビドス砂漠に展開できた。
『だんちゃーく、いま!』
アビドス砂漠のど真ん中を噴火の様に吹き飛ばす。
さすがに170㎜砲だけはある、盛大に爆発している。
『対地下施設用地中貫通徹甲弾*1命中! ビナー! 出てきます!』
『よし!』
流石に使い慣れてるだけある、観測機からの映像を見るにビナーの頭部右側面がえぐれている。
『うへえ、あんなの何処で使うつもりだったの』
『たまにビナーのせいで水道壊れるからな……頭にきてな……』
駐屯地の設営場所が悪いと思う。
そう考えながら、続いての攻撃が始まる。
続くは無人の貨物列車、ただし中身は。
『サーモバリック弾全弾炸裂!』*2
映像では離れているはずのアビドス校舎ですら揺れているのが見えた。
セリカが『窓外してて良かった』と呟いているのも聞こえた。*3
流石にビナーも怒ったのか、接近中の攻撃部隊に顔を向ける。
『ビナーから高エネルギー反応!』
「予定通り! やれ!」
『散水!』
うちの隊員たちが構えた無反動砲から、ミストになった水蒸気が放たれる。
レーザーやビームの欠点である。*4
そして減退したビームはホシノがシールドを全開にすることで消耗を最低限にして防ぐことが出来るのだ。
『いまだ!』
ムツキがホシノへあるものを投げ、敵が消滅していないことに驚愕したビナーへホシノが跳躍する。
片手に握られているのは、AGM-114 ヘルファイア!
『薬は注射より飲むのが一番だよ、ビナーくぅん!』
ビナーのビーム発射口は口腔内に存在する、その性質上数少ない非装甲部分である。
そこへ対戦車誘導弾が投げ込まれ、さく裂した。
ビナーの頭部が煌めき、連鎖爆発を起こす。
『目標行動停止!』
「よし、締め上げろ!」
便利屋68の果敢な爆薬投擲と、ムツキとハルカの同時点火がケリをつけた。
アビドスはその戦場の性質上経験者以外出せない以上、もっとも困難と言える。*5
そこが丸く収まったのは何よりである。
『そういえば先生、なんで私たち便利屋68を』
「アテにしてるからだ!」
アルが当たり前のことを聞いてきたので、そう返す。
無茶苦茶と逃げるタイミングを理解してる奴があてにならんわけあるか!
色彩化したケセドは恐らくもっとも簡単であった。
なにせ、ケセド自体が数で無理押しという愚かな行為を挑んできた訳である。
戦力は数がいればいいというもんじゃあない。
『敵集団、予定地点へ』
「よし、人類の敵を滅ぼせェ!ミサイル発射ァ!」
さあてケセド、お前の工場へ俺から親善訪問だ。
撃ち出された剣型の巡航ミサイルは発射ブースターを切り離し、目標へ迎撃回避のS字回避軌道を取りながら飛び込む。
まず第一次反応、続けて融合反応へ移る!
『
エデン条約時の残りの遺産は完璧に動作した、サングラスと遮光ゴーグルをつけたアツコが立ち上がるキノコ雲に「わーお」と感想を漏らしている。
マエストロをうちで雇えないかな、刑務労働としていろいろ作らせたいのだが。*6
ケセドは突然の巡航ミサイルで工場のレーン崩壊で大混乱だ、敵集団もろとも吹き飛ばしたせいでケセドの防衛は皆無となった。
色彩化しても高熱はバカみたいに効くご様子だ。そこに、ブースターで弾道飛行したアビ・エシェフMk2だ!
『どかんと行くぞォ!』
『ぴーすぴーす』
高高度から、トキが降下する。
片腕に装備されるは温泉開発部押収品、パイルバンカー。
質量、速度をかけてトキはAPFSDSのように飛び込む。*7
『目標沈黙、なお半径15キロは崩壊。いいのかこれ』
ネルからの声に、リオ会長が返す。
『まあ仕方ないんじゃないかしら』
その通りだ、世界を救うのには多少の損失はやむなしである。*8
裏では廃遊園地に乗り込んだヒナがふざけた猫をアリスと共に殴り飛ばしている。
アリスたちゲーム開発部がいるから護衛でウサギをつけて、ヒナとアリスで殴り込みさせたら偉い事になっている。
デカブツ以外はヒナが排除して、デカいのはアリスが吹っ飛ばしてる。
さっきからアリスが撃つたびに「外しはしない!」とか言ってるが、またなんかハマったのかおまえ。*9
『こちらラビット小隊、おい状況がカオスだ、どうすんだ』
サキが尋ねてきた。*10
アリスがぶちのめしたシロとクロを投げてヒナとキャッチボールしている。
『あ』
サキの声と共に、耐えきれなくなって目標が崩壊した。
手毬にされたくらいで折れるとは情けない、遊園地でしょ、ヒナがしょんぼりしてるぞ。*11
歌住サクラコはこの世は不条理と痛感していた。
正装で身を包んだらハナコから絶句され、「おみそれしました」と言われた、どういう意味ですか!*12
続いて先生から、ちょいと天井を大砲で爆破すると言われた。
勘弁してほしい、ここ聖堂ですよ。*13
『だーんちゃく!』
天井を突き破った砲弾が貫通し、ヒエロニムスを抉る。
なんだかあれが哀れに見える、ロクな目に合わないところがとくに。*14
「救護ォ!!」
ミネ団長はさっきから苦吟して倒れてるヒエロニムス顔面を殴り続けているし*15、ヒエロニムスの取り巻きはシャーレ所属のアリウスの人たちが排除していっている。
聖水とテルミット手榴弾を用意し、瀕死のヒエロニムスにとどめをさす。*16
燃え上がるヒエロニムスは、最期に空へ何かを祈る様に両手を伸ばしていた。
「ちゃんと死んでろ、私たちの時は動かなかったくせに」
サオリが動いたのを見て追撃をいれていた、えげつない。
これ半分は憂さ晴らしか八つ当たりで来てないだろうか? サクラコはもう分からない。*17
「状況終了!」
サオリたちは「お疲れ様です」と一礼してまた別の所へ去っていった。
……ここの修復どうしよう。*18
ミレニアムの郊外、エリドゥの近くではとある集団が集まっていた。
何人かはオレンジ色の囚人服のままであるが、ゲヘナ温泉開発部である。
実は数日前にまたシャーレに手入れされて部長も逮捕されたが、クーデター騒ぎで脱獄したところをバレて動員された。
しかし、先生からの提案はまさに祝福であった。
好きに穴掘って良いというのだ、リオ会長が承諾している。
「ま、また温泉掘りてえなあ」
温泉開発部部員が壇上のカスミへ言う。
「掘ればよし!」
メグが嬉し気に尋ねた。
「邪魔な岩盤、焼いていいの!?」
「焼けば良し!」
そして、カスミが先生へ尋ねる。
「温泉トばして、ええのんか!」
『飛ばせばヨシ!』*19
斯くして暴走集団は採掘を開始した。
ホドを見つけるまで採掘自由、
ここ2週間開発部の備品すら調達出来ないまでに先生にボコられた開発部の欲望は大爆発した。
カスミ部長はハレルヤを絶唱しながらドリルを飛ばしてるし、部員一同全力で掘り進んでいる。
『リオ会長、帰るころにはミレニアムが穴だらけとか無いですよね』
『そうならないように祈ってなさい』
ユウカの問いにリオが呆れた声で返し、ユウカは絶句した。
結局40分しないうちに温泉3件、ホド1件が地図に増える事になった。
ホド自体はドリルで削岩しながら穴開けて、エリドゥから放たれたATACMS*20が直撃、大爆発し、温泉開発部の温泉三件ごと爆散した。
『地図を書き直さないといけないわね』
『いやだあああ……』
ユウカの嘆きが木魂する。
最期の敵は、まさしく規格外と言うべきである。
シラトリ区港湾部から現れたそれは、まさに。
「ペロロジラだ!」
「ヴぁにー!?」
ヒフミが歓声をあげ、アズサが驚愕の声をあげる。
全長およそ40m、のっしのっしと歩く姿はまさにペロロジラ、しかも初代の映画仕様!
突如興奮するヒフミの報告を聞いて遂にいかれたかと先生は思いつつ、デカブツに歩かれては堪らんから攻撃命令を出す。
『ぺ、ペロロジラを攻撃するんですか!?』
「ペロロジラだろうがぺギラだろうが怪獣じゃねえか! 排除するにきまってる!」
『ペロロジラ初代仕様ですよ!?』
「だからなんだよ……」
『貴重なんです、保護しましょう、猫ちゃんと同じです』*21
「猫は都市を破壊しねえよ!」
ぶちっと通信を切る。
ペギーラだかぺコラだか知らんがなんなんだよ、最期のサンクトゥムが怪獣ってなんだよ、脈絡どこだよ!
そういう意味であいつ言ってたのか? たしかにこれは普段通りいかないな。
『目標移動速度変わらず』
リオ会長とヒマリ部長のデータから、概ね全てのエネルギーをあの怪獣が発しているのが確認された。
そしてヒマリ部長から『エネルギーを転用してこちらも巨大化させませんか』と提案された。
思わずユウカを見る、流石にダメだ。*22
『はーっはっはぁー! わたしたちがいるではないか!』
『変なのが出たわ……』
「またかよ」
リオ会長が困惑したような声を挙げ、思わずため息をつく。
なんでこう、キヴォトスはこう、いかれた連中に事欠かないんだよ!
いやまあ、いっそアリスあたりを巨大化させる案も考えたけど、これのがマシだな。*23
ましてジュリのパンちゃんを動員するわけにもいかない、勝った方が我々の敵になるだけだ。
「……こちら作戦司令本部だ、カイテンジャーを投入する!」
『もう知りませんよ。3分間しかもちませんからね!』
斯くして史上最大の激突が始まる。
もうどうにでもしてくれ、訳が分かんないよ。
全長50mのカイテンジャー秘密兵器カイテンFXは前線へ現れた。
緊急展開したうちの対戦車ヘリ隊から『なんじゃああれ!』と声が上がる。
カイテンFXは塗装が普段と違い、銀色に青い線が入っていた。
「世界を守る心を一つに! ネタとシャリを掛け合わせ! カイテンジャーただいま登場!」
全員の困惑を無視して、先生が言う。
『カイテンFXを巨大不明生物と激突させる。有効な兵装はない、腕部を叩きつけろ!』*24
つまり殴れという事である。
カイテンFXの右腕がペロロジラに叩きつけられ、続けて左腕が、さらに頭突きが入る。
『いいぞ! 効いている!』
さしものペロロジラも脅威と認識したらしい、怪し気に眼が光る。
発せられる怪力線! 雷光轟く! 倒れるカイテンFX!。
しかし強いぞ僕らのカイテンジャー、カイテンFXは立ち上がる。
「腕部に損傷、打撃戦は長く続けられないかもしれん」
『構ってられるか、ぶちかませ!』
作戦司令本部の無茶苦茶な発言が入るが、それをものともせず更に打撃戦を続ける。
しかしペロロジラから小さいペロロジラ幼体が現れ、群れを成す。
カイテンFXでは小型種の速度に対応するのは難しい。*25
30㎜で排除しながら、乱闘が続く。
ついにカイテンFXの右腕がもげた。
「レフトアーム損傷!」
『構わん!』
カイテンFXが捨て身の突入! 発動される脱出システム!
轟音と共にカイテンFX、そしてペロロジラは爆ぜとんだ……。
空が再び青くなる。
24時間が経過した。
採取した情報を分析し、異常の根幹、原因が見つかった。
高度8万からゆるやかに降下中の未知のなにか、それが原因だと言う。
「つまり、カーマンラインあたりにいるような何かが原因か?」
全キヴォトス合同対策本部と化したシャーレ大会議室では、発見されたリン行政官*26も連れてブリーフィングを行っている。
ほかにも何人か連邦生徒会役員が見つかったが、モモカは避難列車のダイヤ編成で居ないし、アユムは避難放送プロトコルを管制している。
ほかにも避難計画で役員の大半は駆り出されている、いまやシャーレの本庁舎は臨時連邦生徒会だ。
「ええ、あらゆるセンサーには透過されて情報は少ないけどね」
リオの説明に、ナギサが「ステルス技術かなにかですか?」と尋ねるが、リオはそうではないと言う。
「正しくいえばあれは量子力学的存在、クラインの壺、つまり”そこにいてそこにいない”の」
「認識できても観測も出来ない存在」
「おかげでご覧の通り」
映像が映る、高高度へ撃ちあがるSM-6対空ミサイルは目標をすりぬけていった。
実体があったりなかったりする相手。
ためしに黒服につなぐ。
『おやおや、まだ売るつもりですか?』*27
「いや? ただそう、成層圏へ一跨ぎするもん持ってたりするかと」
黒服は納得したように、データを転送する。
『お求めの品は、確かに存在します』
「あるんだな、良識と理性以外はお持ちと見える」
『あなたには無い常識もね』*28
黒服の揶揄うような声を無視して、所在を尋ねる。
アビドス砂漠のカイザー駐屯地らしい、よし決まりだ、撤退しないアイツらが悪い、差し押さえる。
待機してる連中に攻撃命令を出す。
『躊躇が無い、相変わらず』
「時間が足りんからな」
『しかし貴方はよろしいのですか? 我々に情報を提供させて』
「別に? 書面じゃないからな」
『酷い大人ですねえ、まあ初回無料ということで良いでしょう……』
データを確認しながら、気になる点を尋ねる。
「ところでこれは、なんと呼ぶべきなんだ」
『そうですねえ……まあ分かりやすく、かつ貴方の目的に合わせれば宇宙戦艦、ですかね』
「……船にいい思い出ないんだよなあ」
『払い戻ししたくなるじゃないですか』*29
「返却は受けつけんぞ」
黒服は肩をすくめて、言う。
『元々カイザーが大攻勢に出たのはあれが発見されたからなんですよ、超古代の遺物、それを手にしてサンクトゥムタワーを奪い、征服する。傭兵が国を持とうという訳です』
「だが動かせなかった、ブラフでも使わなかったあたり鍵も無かったのか?」
『ええ。多分貴方しか居ません。あなたの”箱”以外ね』
黒服は妙に饒舌だった。*30
デカグラマトン、AL-1S、そして宇宙戦艦。
全て古代先住民の遺産だという神秘の欠片、本来なら淘汰された存在の成れ果てらしい。
そして色彩はそうした一部の物以外は完璧に操れるらしい。
模造品軍団はまた現れるだろうと。
アビドス砂漠カイザー駐屯地は30分で武装解除された。
元々司令部は消滅、指揮系統崩壊、主力部隊消滅と大混乱のさなかに鹵獲車両で乗り付けたアリウスが正門から堂々と侵入し、初撃で基地指令室が落ちた。
対空火力が停止したところにヘリボーン攻撃を受けたカイザーは壊乱し、逃げ去っていった。
1時間しないうちに、分析と確認で司令部は前進してきた。
「で、ウタハ部長よ。どう思う」
「未知の一言に尽きるね、理屈や理論は同じだが桁違いだ」
「動かせるかね?」
「動くとは思う、動作は知らない」
つまり、分からん。
アリスが不可思議気に見ており、なんで居るんだと聞いたら「作業補助」と返される。
「まあ、少なくとも安全だな」
すると、コトリがハレを連れて現れる。
「部長! あの船演算システムとんでもないです! 多相式演算で9999万エクサバイトとか叩き出してますよ!」
「よくベンチマーク出来たね……」
どういう意味か聞くと、多分キヴォトス全部をハッキングしても余裕があると返された。
とんでもない性能だ、クラフトチェンバーにいれてコピーできないかな、これでヴェリタスのクソガキも怖くなくなるのだが。
ハレから「そこまでされる謂れはない!」と抗議されたが、お前ら10日前もハッキングしたろ!
「動かせるまでどれくらいだ」
「そうだな、15時間くれないか?」
「分かった、必要な物は即座に承認する。……リオ会長、そっちの作業ドローン貸してくれ」
15時間後か。
恐らく出航は明後日の午前5時だな。
修復と確認と休息を取らねばなるまい、突入部隊の人選もやらねばならん。
不在中の臨時指揮はノアに依頼しよう、現状ユウカ以外計算が早い奴がいない。
「そういえば艦名はどうするんだ」
「名前か?」
「ああ」
そう言われると、確かに困る。
そもそもだが船にいい記憶がないせいで、覚えてる船の名前は縁起が悪い。
HMS ヴィクトリーというのも俺には縁起が悪い、あれは司令官が死んだ。
「提案したからには、お前何か考えてるだろ」
「成層圏マッハ号」
「公文書になにを載せるつもりだ?」
結局、艦名は決まらなかった。
ただそれでも、艦体側面にはUSSCとペイントは入れた。
「あれは何の略なんです」
リン行政官が首を傾げる。
「全キヴォトス学生宇宙作戦部隊司令部」
「1隻しか無いのにですか?」
「2隻目作る野望をたぎらせたアホが居るからそのうち増える」
リン行政官は世も末と呟いた。
ちなみに乗船する切り込み部隊にはUSCM、つまり宇宙海兵隊と書かれた装具品を配給した。
詰まる所はったりだが、エンジニア部製装具品だ、試作品だが防弾ベストの域を超えている。
「理解できないものを通して何を知るんでしょうね、我々は」
「なんだそれは」
「連邦生徒会長が度々呟く古則の一つです」
リン行政官の呟きは、どこか儚げなイントネーションだった。
「まあ分からなくてもいいんじゃないか? 理解できるかより歩み寄れるかだろう」
思えば誰も彼もそれで躓く。
出来ないかもしれないが、やる価値はあるんじゃあないだろうか。
そう思いながら、木の板を削る。
「……なにを?」
「勲章を手彫りしてるんだ、これが終わったら報いてやる勲章の原案にする」
「……お上手ですね」
「前に何回かな……」
地上最後の時は過ぎていく。
アルがカヨコに大泣きして鼻水流しながら「気を付けて」と愁嘆場みたいな事やってる者も、アリスたちの様に自己志願で乗り込むことを決めたものも、エンジニア部のように「ほかに居ないでしょ」と乗り込んだ者もいる。
アビドスの連中も乗り込むことを決めた、うちの隊員にあとを任せて。
後部ハッチを開き、アリウスから持ち込んだチーフテンを入れる。
「誰が操るんだ」
「私です」
ヒフミがにこやかに言った。
アズサが戦車兵用ヘルメットをつけている。
「おまえら……いいのか」
サオリが尋ねた。
「うん。それにまあ、心からやりたいから」
アズサはにこやかに言った。
「そうか。帰るところは守っておくよ」
今回アリウススクワッドは地上待機だ。
地上で再び敵が活性化しつつある、それに備えて作戦部隊の切り札として使われる。*31
「生きて帰ってこい」
「ああ、来月また試験があるんだ」
作戦部隊の編成は終わった。
振り返れば懐かしきころ。
あの頃私は言った。
大事なのは過程ではなく選択だと。
違う過程、同じ選択。
大人としての責任と義務、それを互いの唯一の共通概念とするふたり。
ですから、どうか。
捻じれて歪まず、真っすぐに進んで下さい。
制服の首元を緩め、よしと整える。
「これより色彩への最終作戦、星1号を発動する!」
戦艦はまっすぐに目標へ進んでいく。
正確には弾道飛行であるから、放物線軌道とよぶべきものだ。
つまり砲弾と大して変わらない。
雲海を抜け、目標へ突き進む。
「警戒! 左側面から何か出ます!」
「なんだ?」
アコの言葉に、モニターを確認する。
真横に現れるは、超高速で巡航するデカグラマトン。
「識別コード確認! ゲプラです!」
ゲプラはワイヤーを張り付け、船へ取り付く。
「いけません! 狙いはアリスです!」
ヒマリが叫ぶ。
どうしてか分からないが、色彩化してないにも関わらずデカグラマトンはアリスが欲しいらしい。
「先生! 意見を具申します!」
アリスは、自身がやるべきことを見つけた。
アリスにはアリスがよく分からない。
王女、魔王、勇者、シャーレ、ゲーム開発部、ミレニアム、そのどれもこれもが私自身。
ならと、思う。
なりたい自分になれない人はどうしたらいいのだろうか? 答えは知っている、受け入れてあげる事だ。
≪王女。貴女は本気なのですか。≫
アリスの精神空間で、アリスは自身と対面した。
KEY、それは自分自身。
恐れるのではなく自分と向き合えと、それが私が学んだ私のやり方。
それは悪魔では無い、敵でもない、己だ。
≪王女が消えるとしても≫
「はい!」
どう生まれるかなんて選べない。
ユズみたいにゲームが上手いかも、モモイみたいに話が書けるでも、ミドリみたいに絵が描けるでも選べない。
だけどどう生きるかは決めれる。
先生はそう示した。
そして最期に残された自由もあるのを私は知っている。
それはどのように終えるかだ。
前部ハッチが解放される。
ゲプラの胴体部を見て、アリスは勇気を振り絞る。
『薬室内圧力正常!』
ウタハがデータリンクを確認する。
ユウカはヘッドセットから何かが聞こえるのを感じた。
「歌……歌が聞こえる……アリスちゃんが歌ってる」
手のひらを太陽に、なんて皮肉なチョイスを。
ヒマリはなにをする気か理解した、無機物たるアリスが生命賛美の歌を歌っているだけで理解するには十分だった。
『アリス! どういうつもり!?』
リオが回線をつないで声を荒げる。
「私がやるべきことをします」
箱舟を起動し、レールガンは変容する。
「私がみんなを
機関部フライホイールは猛回転し、アリスへ動力を繋げる。
ゲプラは逃れようとしているが、アリスは船と自身を一体化させ、逃がさない。
『測的よーし!』
『照準よし!』
『射線方向クリア!』
ゲーム開発部の最終確認が入る。
「うちィーかたァーっ、はじめェ!」
撃ち出された高熱化しプラズマ化した高速徹甲弾はゲプラを貫き、続けて目標の球体状多次元解釈のバリアーを喰い破る。
球体のもやが消え、宇宙ステーションのような姿が露わになる。
あれが敵の中核!
「最大船速! このままラミングします! 白兵戦に備えェ!」
リン行政官がすかさず叫んだ。
数秒後、戦艦は本当にキャノンボールと化した。
深く飛び込んだ戦艦から、アビドスで鍛えられた海兵隊が降下する。
「突入!」
ホシノを先頭に、続々と降下する突撃部隊はそれぞれの目標へ前進する。
母船は選抜されたシャーレ隊員で支える、そのために一騎当千のアビドスを許可したのだ。
「目標各区画4か所の次元エンジン!」
多次元解釈がなんだ、やってやる。
アビドス生徒たちの眼は、本気で殺気だっていた。
この世ならざるどこか、そこでは自称先輩が大きな声をあげていた。
「いけーホシノ!! ぶっ飛ばせー! 他は良いアビドスを映せ! いいぞ!! あっはっはー!! アビドスばんざーい!!」*32
両手を振り上げて叫んでいる自称先輩に困惑しながら、やかましくなったなあと思いつつ、シロコは荷物を纏める。
「戻るんだな、寂しくなるな」
「お師匠の教えは忘れない、このコートも大事にする」
古参近衛隊が扉を開け、入れ替わる様にひとりの少女が入る。
「ここは」
「考えない方が健康に良いところだよ。ケイちゃん」
椅子に座り、ケイはタイユランに尋ねた。
「王女はどうするのでしょうか? 心配です」
「案外なんとかするんじゃないかな、あの子はほら、甘えるのが上手だしね」
「バンザーイ!!バンザーーイ!!アビドスの栄光は目前!」
「やかましい人間ですね……」
ごてんと音が響き「ひぃん」と言う声が聞こえる。
「とりあえず、引っ繰り返った先輩を起こしてくれたまえよ。わたしは片膝がダメなんだ」
各所でエンジン区画が破壊されつつある。
戦闘騒音を聞きながら鉄火場を目指してシロコが走る。
こういう変な場所で鉄火場起こす大人は一人しかいない。
「シロコせんぱ……うわあなんか豪華に!」
「し、シロコちゃん、そのコートはいったい?」
セリカとホシノが困惑し、シロコは満面のドヤ顔で「貰った!」と述べた。
呆れたホシノが「おじさんまえに言わなかったかな」と言うので、シロコは「本当に貰った、覆面だけでは足りないと言われた」と返す。
それはそれとしてこの施設から色々ガメようと思っていたのは事実なので、その点は謝る。
確かにシロコ本人と確認したホシノは警戒を解き、先生を呼ぶ。
呆れた顔をして、片手で顔を覆った。
「マッセナのヤロォ、地獄から逃げやがった……」*33
丁度いいとシロコを編入した瞬間、爆発音が聞こえる。
戦艦が電子攻撃を受け、自爆シーケンスが起動している。
その報告と同時に再び、地上での戦闘報告が活発化する。
これまでにない大攻勢だ、全域で敵が溢れ、そして交戦中である。
沈む船から逃げるネズミ、というより相手の首を絞めるか締められるかだ! 素晴らしい! それならいくらでもやってきた!
「くそ! 兵力が湧いて出るとか羨ましい!」*34
『バカ言ってないで中央区画管制室へ!』*35
ユウカがいつも通り返した。
アビドス生徒たちに続いて陣頭指揮の為に走る。
シロコも動き回っていたためか、通路の選択に迷いが無かった。
『側面!』
アヤネの警報でノノミが側面に制圧射撃し、直ちに移動。
アビドス生徒の最大の強みは熟練の域に達したチームプレーにある。
集団戦闘において彼女らは最大火力を見せるだろう。
再び爆発が襲う、この施設そのものが限界を迎えそうなのか、揺れは激しい。
「俺、船乗ると行きはすいすい行けるんだけど、帰りの船沈んだり、島流しされたり碌な目に合わないんだよなぁ……」*36
「誰か、この縁起の悪い奴黙らせろ!!」
揺れに運ばれてシロコがキャッチし、先生の呟きに半ばキレたホシノが返す。
噂に聞くグレてたころのホシノに戻ってねえかお前。
前衛に立つ色彩オートマタを盾で受け流しながらM9ベレッタで頭部を撃ち抜き、続けて盾から発する赤いフィールドで押し通る。
「更に前方重装備型!」
セリカが報告し、ホシノはシールドを全開にしてSMAWの砲撃に耐える。
同時に爆発の煙を突き破ってシロコとセリカが跳躍した。
銃剣を装着したセリカとストックを握りしめたシロコが躍り出る!
「「うオオォォ!!」」
重装備型色彩オートマタの頭部がへしゃげる!
壁面へビチャッとペンキの様に色彩化したオートマタの怪しげな色のオイルが飛び散った。
ノノミが即座に残る敵をミニガンで制圧し、続けて後方から現れた敵を掃射する。
隔壁が降ろされ、分断されたがそれでも前に進む。
あいつらならやるべきことを理解しているから。
「居た! 私を攫ったやつ!」
シロコが謎の巨人へライフルを構える。
「柄じゃないが、総大将同士で殴りあわなきゃいかんらしい、行くぞシロコ!」
「ん……全部奪い取る、奪われたら奪い返す、返却は認めない」
パララと銃声が響き、目標へ飛ぶ。
「撃っちまったよ、警告なしか……」
しかしながら、弾痕はまるでなかった。
巨人は何かを呟く。
聞こえたあのワード。
あれは多分……。
『プログラムARONA。スタンバイ』
黒い制服、陶磁器みたいな肌、不可思議なことに間違いなくアロナに似た何かが出てきた。
アロナによく似てはいるが、うちのと違い目に知性を感じる、アホ面じゃない。
「おい、アロナ。お前より賢そうなの出てきたぞ、トレード要求したいんだが」
「なんてこと言うんですか! 今なお進化を続ける、この巡航ミサイル2発確定耐久のスーパーウルトラAIアロナちゃんに!」
アロナはやや驚愕しているが、いつもの調子である。*37
「難しい用語使いながら、船直すって言ってるぞ、向こうさん」
「この手の用語苦手な先生の為に、アロナちゃんは理解しやすい言葉を選んでいるのですよ」
「お前のずぶとさは理解したから、相手の工作妨害するか何とかしろ」
「ん……向こう呆れてる」
シロコの言葉と同時に、あちらのシロコも現れる。
画面にはあちらの頭は良さそうなアロナが現れている。
「……で、お前は、お前らはいったい?」
「質問の詳細化を要求」
「何者だ」
「回答。先生とアロナです」
想定外が来た。
「あちこちで、模造品が出てきたと思えばこれか! お前も俺なのか……?」
「「私達の先生はそんな邪悪な悪人面じゃ(ない)ありません」」*38
シロコとアロナから猛烈に拒否された。
なんなら相手さんからも違うと手を振られた、自我も自意識もあるのか……。
だがしかし変だ、あっちのシロコの話を聞くに色彩とは要するに世界の剪定もする不可思議な数式又は力だ。
その力を使う偽りの嚮導者が自我や自己を未だに有している?
「正確に述べれば、多次元解釈の結果です。前提の”先生”がいる以外は無限の変数があります」
あちらのアロナがデータにより映し出した、確かに無数の分岐が存在している、大半はアビドスで死んだらしいが。
うちのアロナが、データを見て困惑する。
「あの人もう死んでますよ、死んでいるのに動いて自我を遺しています!」
「仕事熱心だな!真剣さは買ってやる」
手元の拳銃を目の前のプレナパテスへぶっ放す、それを合図にシロコ同士の交戦が始まった。
石鹸カッターで飛び回るシロコに対し、何処からか湧きだしたミニガンやショットガンが火を噴く。
ユウカに回線を繋ぎ、「予定通り」と告げる。*39
さあお前は予備兵力を使い果たしたな、総大将、いや、教職員で話し合いとやろうか。
戦艦の外壁を突き破り、チーフテンMk11を先頭に車両部隊が駆ける。
エンジニア部製ガスタービンエンジンで正気じゃない速度を叩きだし、ヒフミがいかれたドライビングテクニックで突き進む。
立ち塞がろうとする全てを踏みつぶし、目標への最短路を主砲で開拓する。
「いいぞヒフミ! HESHで貫通してるからぶち破れ!」
「ペロロジラのかたきです!」
正面からの敵弾を全て耐えながら、車体後部に乗せられた給食車両はこの世の何もかもを祈る。
美食研究会のバカと心中しませんように、そしてこの変な二人ともしないように。
車両に積まれたパンツァーファウスト3とかについては考えないようにする。
『飛び込みます!』
「目の前段差あるでしょうが!」
『だからあなた達を飛ばします!』
「はァ!?」
チーフテンは後部のワイヤーを爆砕、一気に飛行する。
給食車は慣性と運動の第一法則に基づいて弾道飛行! 軽い上に速度のせいだ。
「シャーレも美食もくたばっちまええええ!!」
フウカの魂の絶叫と共に、車両が突撃する。
横転数回! 即座にアカリが両腕でランチャーを構える。
「特盛どうぞ!」
二つの白煙が、らせんを描いて飛翔する。
そしてついに、最後のエンジンがはじける。
「見ましたフウカさん、あの白煙、まるで私たちとフウカさんとのきずなの様な」
「爆発するとこまで似てたわね! くたばれ!」
地上に帰ったらこいつらのなにもかもに蹴りを入れてやる。
砲身が突き刺さったチーフテンから脱出した乗員を回収する。
もううんざりだ、3週間は休むぞ!
「次元エンジンが停止。本船は稼働状態を維持できません。エラー。再修正。エラー。再定義。エラー」
あちらのアロナがさっきからバグったモモイのゲームみたいな文章を吐いている。*40
シロコたちの戦いも、終わりを告げた。
あちらのシロコが驚いたような顔をした。
「時間稼ぎ」
「ん! ホシノ・スタイル」
満面のドヤ顔である。
彼女は先輩の戦い方をよく理解している。
「やっぱりこうなるんだね、貴方も」
双方のアロナが演算を開始する。
これでアロナのバリアは使えない、そうお互いに。
先生二人はカードを抜いた。
「未使用のカード……!」
あちらのシロコが目を見開く。*41
「そうだ! 奇跡に祈った事はない! だが今は、勝利が欲しい」
もう雨とかネルソンとかプロイセンとか総裁政府だのアホ将軍だとか体調不良やロシアの凍土に滅茶苦茶に屈して堪るか。
あのツーロンで、コルシカで、幼年学校で学んだのは祈る暇あるなら作業しろである。
カードが輝く。
あらゆるすべての法則を無視する存在、時間軸と理を断ち切るカードが解き放たれた。
黄金の荒鷲が遂に現れる!
「皇帝陛下に表敬!」
「来たか、お前達は何だ!」
「我ら
大人のカードが震え始め、歪んだ空間の穴から戦列を揃えた横隊が現れる。
煌めく銃剣は風に揺られる実った小麦が如く、光の反射が映る。
「本物の大人の軍隊を見せてやるぞ!行け!」
「祖国と自由と未来の為に!」
空間から赤と白の2色の旗が付いた槍騎兵が飛び出した!
「マスケット……まさか……!!?」
浮かび上がる黒い影たち。
パリの街路に、ドイツの平野に、アフリカの砂漠に。
最強と謳われた
大人の戦いだ。
マスケットの火薬が、室内に轟いた。
手慣れた兵士はマスケットを理論上1分で3発撃つと言う、彼が呼び出したはその輝き、
神秘の煌めき、ある意味神話の存在の対決であった。
そして皮肉でもあった。
彼はエジプト遠征を──軍事的意義より夢を追い──したことがあるし、アヌビスはエジプト神話である。*42
【次回予告】
赤い空、赤い土。
かつて流された夥しい血がこびりついた、不吉な狼。
ここには、アビドス学園二年生、
砂狼シロコの鋭い爪痕が刻まれている。
次回「あなたのこれからの物語」
かつてこの砂漠には、青いマフラーをした狼の悪魔が蠢いていた。
双方エフェクトが派手で画面が見えねよとか言われそう。
本作は長谷川ナポレオンシリーズと言う事で。
老親衛隊などの呼び方も近衛古参兵にしていますが、表記ずれや老別の呼び方があれば今回はそう使って居るのか位の間隔でお願いします。
どんな話が見たい?傾向を見たいだけです
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モブ回
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一部の連中を原作と交換してみた
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上を踏まえた掲示板回
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空飛ぶモンティパンソン回
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あの世でもこの世でも無いとこの連中回