キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
世界には二つの力しかない。
剣と精神の力である。
そして最後は、精神が必ず剣に打ち勝つ。
-ナポレオン・ボナパルド-
戦の庭、まさにそれであった。
撃ち出されるマスケット、煌めき、火薬の匂い。
唸りをあげる砲、騎兵の嘶き、銃撃。
「レーザーとかの嵐は驚いたな!勝てるか?」
「そのぐらいは無いと弱い者いじめになっちまいますよ!」
「数合わせに手足の生えたあのボールも出してほしいな」
余裕ぶっこいて居るので拳骨をくれてやる。
「お前ら、何時から敵将になってるんだ!隊列広めファイア&ムーブだ!近衛砲兵支援しろ!騎兵は数あるだろ、他はどうした!?」
「ここ狭いので一部以外お休みです!」
「思う存分暴れろ、いい資産家様が全額持ってくれるからな!」
シロコはままならないものだと思った。
まさか前装式野戦砲が出てくるとは予想外であったし、キャノンボールと散弾で滅多打ちをするとは。
挙句銃剣突撃と乱打戦で生命維持装置などを確実に破壊しに来た。
やがて2つの限界が訪れた。
外壁側面を爆破して、アビドス廃校対策委員会が突入する。
「うわ煙い!」*1
そう咳込んでる全員を見て、何かが折れた。
戦意か決意か信念か覚悟か、ともかく何かが。
力なく座り込む私に、先生は肩に手を置いた。
あちらのアロナを通し、メッセージが届く。
アロナの空間を繋ぐ。
あちらの先生、いまはプレナパテスと呼ばれている彼が居た。
口がきけないのは許してほしい、彼は手話でそう告げる。
アツコのお陰で理解できる、うちのアロナは手話分からんだろうからな。*2
映しだされたのはキヴォトス。
ただしすべてが破局しつつある世界だ。
懐かしい匂いに満ちていた、戦場の匂いだ、無秩序と混沌の世界。
パリでありマレンゴでありワーテルローである。
ゆっくりと歩く。
白いM4が無縁塚のように立っている。
二つの遺体袋を載せた虎丸が走っていくのを見た。
遠くで紫の爆発が起こる。
そして、空間は見慣れたアビドスの校舎へ変わる。*3
寂しい空間だった。
かつて私が壊した以上に校舎は穴だらけで、対策委員会会議室は半分も無い。*4
ただただシロコが隅でうずくまって泣いているだけだ。
また、風景が変わる。また負け戦だな。
侘しい地下施設、排水も追いついていないような地下壕だ。
無言で遺体の山に石灰を撒くセナの横をプレナパテスになる前の彼が歩く。*5
外は前より酷い状況であった。
DUから巨大なキノコ雲があがり、濛々と立ち込めた灰は雪のように降り注いでいる。
勝利より悲惨なのは敗北だけとあのイギリス人が言っていたのは事実だろうな。
風景は、砂漠に倒れるシロコを映し、そっと屈んだ。
全ての戦闘が終わる。
すでに各所で謎の機械は統制を失い、自壊している。
リオは以前依頼されたゲマトリア捕獲装置の転用により生まれた緊急テレポート装置を使う。
ギリギリ人数分を飛ばせる電力のめどはつけた、全キヴォトスの電力を使う。
『緊急ジャンプ用意!』
リオが強制転送を開始する。
『先生も早く!』
すると、少し待て、権限とジャンプ指揮を繋げてくれと連絡が入る。
たしかに現地でやるのが一番だ。
リオは権限を転送した。
光景は出来が悪いニヤケ顔の白い変人どもの光景に変わる。
シロコが変容し、彼も変容する。
だが彼の顔が、悲しみや絶望では無いのは理解できた。
「……結局、お前の目的は一つだったんじゃないか? やろうと思えば不意打ち出来た、だがしなかった」
プレナパテスは振り向き、仮面を取る。
素晴らしいまでの笑顔であった。
男の人生に後悔は不要である。
”生徒たちをよろしくお願いいたします”
「人を見る眼がないな、そっちも俺の過去を見ただろう?」*6
”あなたが勝ったんだ、責任と面倒が生まれたんですよ”
「それ言われると弱るな!目的も理由も分かった、おまえ男だな!」
プレナパテスは最後に勝った、ちょっとした言い争いに。
木彫りの勲章を取り出し餞別代りに投げ渡す、この男に誰かが報いてもいい、だから俺が報いる。
負ける事で目的を達成されるとは一本取られた。
「じゃあな、見知らぬ先生さんよ! あの世で俺に一本取って貰った勲章だと誇ってやれ」
シロコたちを転送し、見送る。
崩壊と爆発、全てが炎に呑まれる。
消えるべき遺物、愚かな者たちを利用して一矢報いた者、革命と自由が生んだ遺産、何もかも。
「
”日本語は赤点だね”
プレナパテスがにこやかに手を振った。
爆発により空へと身を任せる。
やっぱ船はロクな事起きねえわ、空に浮かぶセントヘレナよさらば。
「さてアロナ。自称めちゃ凄AIのお前打つ手あるの」
「えッ!? 無いのに使ったんですか!?」
「臆病者として生きるよりはマシだからなあ」
「見栄で死んだら只のバカですよ!何でこの人に任せちゃったかなぁ……」
「見栄と栄光に命賭けずに何で生きるんだよ、アホじゃねーのか?まだおこちゃまには分からないかぁ」
喧嘩挑んで負ける事で目的を達成されては断り様がない、ここだけは全く酷い奴だ。
「ぷっ、ふふふ」
「ははっ!どうした?」
「こんな感じに喧嘩しながら落ちてる方が私達らしいですね!」
アロナが作業しながらつぶやく。
「良い事も一つあった、空の向こうってこんなに奇麗なのか……やっぱり勝つと良い事があるな!」
「特等席ですよ!」
「音楽再生機機能つけておけば良かったな!」
「帰ったら付けましょうか、それともラジカセ出しましょうか?」
「吹っ飛んで行っちまうよ!でも、先に麻酔ガスなどの対策が先だなアロナさん」
あちらのアロナが現れる。
「おい、向こうの賢そうな方来たぞ、そろそろ交代か?」*7
すると、アロナは閃いた顔をした。
「わたしにいいかんがえがあります!」
「俺は祈らんぞ、お前達の全力だ、起きた結果が必然だ、新入りとの初仕事だ。古参兵の仕事見せてやれ」
「奇跡は祈るのではなく起こすものですから!」
いつになく自信ありげに、アロナは言い切った。
「あばよ、セントヘレナ! 俺は自由だ!」
「なんですそこ?」
「内緒。帰ったら何時か教えてやる」
秋を迎えつつある空に、先生は落ちていく。
エリドゥ管制室、リオ会長はその報告を聞いた。
『降下中の先生は降下速度を低下! 落着軌道が修正されつつあります!』
天体観測システムが送るレーダーの報告は想像以上であった。
不可思議な光をまといながら、降りてくる。
その光はどこからでも見えた。
アビドスの校舎の屋上で煙草を吹かす元理事にも。
地上で帰りを待つネルたちの視線でも。
不安げに空を見上げるコハルの所からも。
復興が進むアリウスの所からも。
それは見えている。
静かな草原の上を、シャーレと書かれたぺイヴホーク*8が飛んでいく。
『航空救難隊から本部へ! 目標発見!』
降下したぺイヴホークから扉を開けて、皆が降り立つ。
「あっ、やっぱり先生生きてた」
「骨を拾う準備をしてきたんだが、無駄になったな」
「死んでても革命のイコンには使えるから、マキちゃんに巨大肖像画描いてもらってそこに飾ろうかなって」
いつも通りのみんなである。*9
「あの絵の事怒ってるだろアツコ」
その問いに、さあ? とアツコは視線を逸らす。
キレながらユウカが駆け寄ってきた、お前だけ動きやすい何時もの服だな。
「成層圏バンジーしたら服も燃えてな、逮捕されたくないから、服買って来てくれ、毛布とかヘリに積んで無いか?」
「バカァ!」
ユウカの本気のビンタが叩き込まれた。*10
ぼおっと空を見上げ、それを見つめる。
「新しくお師匠から貰ったものもあるから平気、マスクは時代遅れ」
そう、やはり私らしい態度でそう言った。
少しふてぶてしいが、それだけ幸せなのだろう。
この破天荒な世界で私は生きていく、それもいいかもしれない。
「おーい!」
ふと声をかけられ振り向く。
ツノのある、ゲヘナの生徒らしいのがいた。
狙撃銃をもっている。
「わたし?」
「そうよ」
首を傾げる。
「何不景気そうな顔してるの、ラーメン食べながら相談してごらんなさい!」
……先生、私はこの破天荒な世界でも生きて行けそうです。
数日がたった。
DU某所の地下壕ではカイザーのジェネラルと回線を繋いだ防衛室長カヤが、深刻な顔で話し合っている。
『現在までの損害は機械化旅団、それも最精鋭が丸ごとだ。特殊航空連隊も喪失。被害は深刻だ……』*11
ため息をついてジェネラルが呟く。
冗談ではない、それがまだ終盤の異常ではなく、作戦途中で生まれた損害だと言う事だ。
作戦終了時にはさらに基地施設が襲撃された痕跡があったし、電子攻撃も受けていた。
天変地異がよりにもよってあの時起こらねば……、幸いジェネラルがクビでは無いのはこれのお陰である。
責任と言うには難しすぎて同情された。
「お陰でシャーレは名声さらに高くですよ……」*12
機能停止した連邦生徒会に代わり非常事態戒厳と避難誘導と諸兵科連合と統合司令部までやったのだ。*13
しかも作戦参加者や民間義勇兵に勲章を授与するという。*14
これではまずい。
テレビでは勲章を授与されて胴上げされてる正義実現委員会の生徒が映っている、避難所防衛に際して不退転の覚悟を持ち、市民と正義を防衛したと理由が述べられている。
『どうするんだ、作戦中止は恥ではないぞ』
「いま中止しても、どうせ獲物の様に狩りたてられて棒で叩かれるのがオチですよ……」
カヤの言葉は説得力があった、危機感の中でカヤの才覚が研がれたせいかもしれない。
「……もう賽は投げられたのです、ルビコンを渡るしかありません」
テレビでは”インペラトールPMSC、コンプライアンス重視の警備をあなたに”と広告が流れていた。
『あいつ司法取引で独立したのか』*15
シャーレのカフェでは多種多様な会話が響いている。
純粋に作戦終了を喜ぶもの、「名実ともにエリート! *16」と湧き上がるアホ、大事にお守りを持つ者。
アビドスの砂漠から成層圏まで駆け抜けた戦いの数々は、少なくとも終わりを迎えた。
「さ、プラナちゃん。どういうんでしたっけ」
「……ただいま」
おかえりなさい
フランシスが呟く。
「そうか。たしかに、最終章が彼のとは書かれてはいなかった。あの者にとっての最終章なのだな」
「そういうこった!」
考えてみれば当然である。
フランシスは煙に撒かれたと感じつつも、それを受け入れた。
アドリブやエチュードは好みではない、しかし解釈の捉えようとされては受け入れるしかないのだ。
彼はならば別の手を使おうと、またどこかへ消えた。
【次回予告】
理想と現実。
二筋の流れが交錯し、寄り合わさる。
歴史の事実が形どられる。
今、ファンファーレが鳴り、キヴォトスの新時代の幕が開けられる。
だが、記された歴史の表に、真実はあるのか。
次回「 政治の季節 」
真実は見えるか?
お疲れさまでした!
次回作にご期待ください。
誤字報告や感想、ここすき等々ありがとうございました!
描き溜めしておいて良かったーと思いつつ、協力してくれた方々には感謝いっぱいです。
どんな話が見たい?傾向を見たいだけです
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モブ回
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一部の連中を原作と交換してみた
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上を踏まえた掲示板回
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空飛ぶモンティパンソン回
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あの世でもこの世でも無いとこの連中回