キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
アビドス学園校舎、対策委員会室の中で現状分かっている敵の襲撃数のパターンを分析した。
ホシノの言う通り、アビドス生徒も認識している通り「定期便」の襲撃では無かった。
「恐らく敵の狙いは消耗戦だ、人的物的資源を底なし沼に投げ込むことだな。
で、だ、うちの会計曰く”魚ではなく、釣り竿を与えよ”と言うのが一番長期的に見て素晴らしい手段だ。
さて、そんな解決策はこの場合なにか。」
先生らしく尋ねてみる。
「えーと、相手が根負けするようにすることですか?」
ノノミがおずおずと答えた。
「正解。正確には敵の兵站を破壊、と言っても食料や水や武器弾薬の破壊だ」
「戦力叩くんじゃないのー?」
セリカが尋ねてきた。
「草原ならそれも良いだろうがセリカ、ここはアビドスだ、略奪先が無いから部隊の維持どころか生存が出来んぞ。
つまりだ、相手がもう懲り懲りと泣きを入れるまでこっちが殴るんだ。」
「どっちが不良よソレ!」
「というわけで現時刻を以て作戦活動を開始する!」
「「ええーっ!」」
そうしてアビドス校舎を飛び出したのがつい1時間前である、外はしっかり暗くなりつつある。
留守番部隊に一個分隊を残し、損傷車両と逮捕者後送により、我らが攻撃部隊は対策委員会と10人程、ライフルチーム3個だからまあまあ増強された分隊程度だ。
隣から刺さってくるホシノの目線は刺々しい、そりゃそうだ、これが終わるぐらいにはまともに会話できるぐらいになると嬉しいが。
普段広めのCP車もやや狭く感じる、流石に女子高生を詰め込み過ぎたか*1。
「先ほど載せてもらった時も思ったんですが、高性能な通信機器や支援機器のコンソールが多いですね」
「凄い、これならあれも手早くできそう」
アヤネが液晶画面を見てる横で、シロコは何やら怪しい事を考えてる気がする。
セリカは借りてきた猫と言う言葉が似合い過ぎるぐらい小さくなっているが、ノノミは普通通りニコニコしている、ホシノは定期的にあくびをしているが俺への警戒を外さない。
前哨基地、ホシノはそう言ったが、前哨拠点があると言う事は連隊以上の拠点があるのか? 連隊クラスで反撃されれば、こちらは撤退せざるを得なくなるが、砂漠と言う環境下でそのような兵站組織は維持する予算が出ない。
そもそも我らはあまりに敵情を知らなさすぎるが、重火器の類はないらしい、あるなら先ほどの攻撃で使うだろう。
「早朝の作戦行動を提示して申し訳ない、ホシノは前哨基地と言ったな、ならば恐らく中隊から大隊に値する部隊が軽装で徒歩出来る圏内に有る可能性を考慮した」
「うへぇ……、揚げ足取りはズルいんじゃないの~?」
「ヘルメット団だけならそれで良いんだ、家とそちらで急襲し制圧する、深夜を狙うのは逃げ帰った連中がスポンサーあるいは雇い主に補給と増援の要請をするだろう」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 何言ってるか分かんないわよ、ヘルメット団のスポンサー? 雇い主? そんなの居るわけが!」
セリカが先ほどまでの縮こまりを忘れて指揮卓の上に身を乗り出してまくし立ててくる、他のメンバーも詳しく言えと言わんばかりの表情だ、どこまで言えばいいのだろうか、俺の妄想にも近いかもしれない、それを確かめるための作戦でもあるから、具体的に説明しなくてはならん。
そろそろ、食事と燃料補給などを行うべきだろう、此処からしばらく食えなくなる、ここに来ている10名にも戦略目標の説明も要るだろう。
車体にチョークで図を描いて説明を始める、青空教室のような作戦説明だ、自分がこの辺りを周りに任せてたと言う事を痛感する。
「傾注!」
全員の目が異様なきらめきを持ち出す。
シャーレの隊員は「勝利」という栄光があるのを知ったが故に、アビドスの子達には……これは昔、俺の兵士たちが持っていた煌めき、「故郷を守る為の正義の防衛戦争」を信じた者たちの輝きだ、圧倒的な不利でも戦意を失わせない真実の煌めき、くそ、いつまでも変わらない輝きだ!
「我々連邦捜査部『シャーレ』は『アビドス廃校対策委員会』からの支援要請を受理し『学園を暴力組織からの撃退』を目的に『アビドスの指示と理解の下作戦活動を行う』というのが目的だ」
まずは大目標から説明する、ホシノが特に真剣な表情で聞いている。
”ちゃんとシャーレはアビドスの自治権を尊重して作戦活動する”と明言したが余計視線が鋭くなった気がする、畜生なんでだよ。
「昼間の移動から夕方にかけての校舎戦闘に見られるように、これは消耗戦だ。物資を我々が何トン提供してもヘルメット団を蹴散らすだけ、明らかに連中は計画性を有しあまりに恐れ知らずにすぎる上に耳が鋭すぎる」
「へぇー、面白いこと言うねぇ、先生~じゃあ何するのさ、おじさん気になるなぁ……」
ホシノは言外に続けろと伝えてくる、虚言は許さないと言うスタンスだ、よろしい続けてやろう。
押収火器のライフルとマガジンを車両から取り出し、シロコに渡してみる。
「我々がアビドスで受けた襲撃で押収した証拠品の銃と銃弾だが、最近は製造メーカーとかをそう言うものに刻印するんだったか。俺の時代は手製も多かったんだが」
「いまどきパイプガンとかどんなトコよ」
セリカの呆れた言葉を無視して、シロコに排莢口近くを見させる。
どこにも書かれていない、右側か左側にはあるものだ、シロコはマガジンからライフル弾を抜き出して裏側を見た、これにもない、シロコにはチープアモじゃないことも理解できた。
タブレット端末の分析結果を投影する、火薬配合量の割合からSRTのデータベースで特定できた、5.56㎜弾薬や5.45㎜弾薬にも銃器により適正火薬割合があるので身元や本来の想定が分かるのだ。
キヴォトスの不良は基本経済的理由でチープアモが多い、風紀委員は大概自前で弾薬を製造してるし、一般生徒は正規販売代理店や民生品で購入しているから、こんな物を大量に有する不良は”おかしい”のだ。
買えるんならここなんかより別のところ行くにきまっている。
「カイザーコーポレーションの弾薬が殆どだった、つまりだヘルメット団に後ろに付いているのは、かの悪徳企業、またはそれとつるんだ連中と言う事だ」
アビドスの生徒たちが無言になった。
沈思黙考という雰囲気の上級生と、かなりキレてそうな他生徒という具合である。
セリカなんか今にも飛び出しそうだ、シロコも心なしか「ん!」の声に覇気を感じる、良い郷土愛だ、きっと軍なら優れた兵士になるだろう、すぐ死んでしまうかもしれないが最後まで戦う兵士だ。
「嫌だねぇ増長して身の程を弁えなくなった商人もそれを罰することも出来ない司法行政も、だから俺たちがこき使われる、そう言えば諸君らもカイザー系企業と因縁があったな」
SRT生徒たちが口々に「これだから嫌なんだ」とか「装備品は御立派だけどね」とか嫌そうに話している。
かつてSRTには特別強襲部隊FOX小隊が居り、彼女らは伝説的な存在とされている、彼女らの栄光にはカイザーの違法爆発物関連事案も含まれていた。
「既に敗走した連中が親分に連絡と補給を要請するだろう、それが受理されるのが予定時刻と言う事だ。これで決定的な証拠を押さえる」
ある程度の戦理と兵理が理解出来る相手の動きは分かりやすい、俺の時代なら夜戦など滅多にしなかったが、時代の進化が夜すら安全ではなくした。
噂じゃ雨天の夜間でも戦闘できるようになり出したという、もう安心出来ねえな!人間という奴ァこれだからよォ!
「最大目標はカイザーの社員と直接取引してる光景、証拠だ、副次目標は証拠のサンプルも増やす、最初の目標がちょっと大変だが、それ以外は楽だ。何時もと同じく、勝つ」
質問は無し、大いに結構。
作戦時刻まで時間がある、休ませて準備するよう命じた。
火を焚かない食事と野営だが、便利なものが増えたものだと乾パンをかじりながら思う、時間は20時過ぎ早朝1時には行動に移す、年齢層を見ると作戦行動を考えなければキャンプではないか。
ホシノに殴られてないと言う事はセーフと言う事だろう、帰ってからが本番か?
家の連中ともある程度は馴染んでくれればいいが……3時間ほど寝ておこう、留守番や再補給組はうまくやれているだろうか。
やや、煩いアラームが鳴り目が覚める時間は23:30、申し訳ないが先行偵察組はすでに進発したようだ、寝る前に声だけはかけてある、かなり難易度は高いがやり遂げれる練度はある、日付が変わる前にポイントに付き様子を見る、もし相手が俺の予想より早ければ、連絡が来る。
車両部隊以外はここから進発して敵拠点を包囲に入る、早朝3時には包囲完了ができればいい、ゆっくり確実にここである程度分散するのでここで全員の時計を合わせておこう、そしてこの手の行動に慣れてないであろう、アビドス組は俺が直接ついていく、俺の監視もできるからホシノも喜ぶだろう。
目標敵拠点は旧アビドスのアビドス本線 四ツ葉駅駅舎付近だ。
「ん……先生目標地点に付いた」
「後は写真が取れてるかだねぇ……」
敵の拠点まで200mは割っているだろう砂丘の下で俺たちは最終確認をしていた、どこで取引するかは不明だが四方を囲み高所は抑えて監視させる、見逃しは無いはずだ。
他の監視拠点についた各班から赤外線マーカーを円を描くように動かし、位置確認を行う、現在は無線封止環境下だ。
「先生! あれじゃない?」
少し声が大きいと言いながら、セリカが覗いていたJGVS-V4を借りて覗く、アビドスの財政事情が反映されている旧式装備品だが、丁寧に整備されていた。
ヘルメット団のスポンサーと交渉してるのが見えるが、俺たちの場所では角度が悪い、逆に南東エリア哨戒点のはずだ、あの間合いだ、収音マイクも機能してるはずだ、録画、写真、音声、今回はCPに記録は直接送る、高い金払った甲斐があった、連中の会話は終わった。
次は一番楽な仕事だ、無言で信号拳銃をホシノに渡す、ホシノはしれっと複眼型暗視ゴーグルを有していた、テープに書かれた「アビドス生徒会」の文字は反射がせずどす黒くそこに鎮座している。
「始めよう、予定通りだ。取引してた奴らは確実に確保しろ」
信号拳銃が赤色の信号弾を打ち上げ、全てを破壊する狼煙になった。
しゅううと萎みながら夜空から照明弾が垂れる。
照らされた大地では両手を上げた捕虜が各所で一塊にされていた。
『状況終了! 現在までの検挙者は気絶8、投降16、逃亡8。なお我が方の損害は軽傷2。送れ』
『CP。ジャックポットです。ありました。』
『各班は0330までに撤収の事。』
作戦終了が無線から聞こえ、隊員が結束バンドで検挙者を拘束している。
周辺は駐車場の一部が大炎上だが、それ以外は多少散らかっただけである、開幕40㎜とツインブローニングで車両ハチの巣にしたのはやり過ぎたか。
「待ち時間の方がはるかに長かったねー」
ホシノがHEシェルを籠めながら言う、セリカはシャーッと鳴き声上げて捕虜を歩かしている、食わないならまあ良いだろう。
「ほら、歩けェい!」
戦闘は10分もしない間に終わった、ボロ負けした後の寝込みを奇襲したせいで何もさせないうちに、終わった。
中には寝てる間に寝台ごと銃撃された挙句手錠を付けられた奴も居るだろう。
「おらぁ!カイザーの社員でてこーい!」
コンテナに籠った社員数名に開城を要求してみる、返答は「FUCK YOU!」だった、気分は分かる。
ホシノに頷き、彼女のHE弾がコンテナの留め具を撃ち抜く、凄い音が響き、後付けで溶接した装甲版が剥げた。
暗闇からプルプル震えたメカメカしたスーツ姿が何体か震えている、ついでにヘルメット団の団長クラスも居た、まるでウサギが狼を見る目をしている。
「サレンダー?」
彼らはNOと言えなかった。
ヘルメット団長はもちろん、カイザー社員が海苔巻きのごとく梱包されている。
カイザーへの恨みがよく分かる、カイザーがどう言おうが武装集団へ武器を流していたそれで十分だ、残った弾薬類も差し押さえだ、流石は警察系だけあって手早く終わらせて合流した車両に積み込んでいる。
後は、アビドスに帰るだけだ、そしてホシノに採点でも聞けばいい。
アビドス校舎に帰り、体育館を臨時の取り調べ施設として借用した。
下級ヘルメット団のメンバーは面倒だから5人1組程度に手錠を繋いで連行し、適当に調書を書いている。
朝が来て以来ヘリで輸送されてきた法務関連の隊員たちが大忙しだ。
逮捕者に軽い取り調べを行おうとしたら、担当員に「先生の取り調べだと証拠能力無くなるんで、現地の方たちとの交流を深めておいてください」と体育館を追い出されたのはあまり納得していない。
「うへぇ……、そうだねぇ、10点満点中2点かなぁ」
「べらぼうに厳しいな、まだ俺の事嫌いか?」
「嫌いじゃないよー、気持ち悪いには変わったよ~……あんた文官じゃないでしょ」
「酷い事言うねぇオジサン悲しいぞ」
向こうも現地解散になったようで校舎内にまだ残ってたホシノと二人で話してると、こういう会話になった、なんて奴だ、だが初対面の刺々しさは無くなった、混み入った話も普通にできるぐらいには。
「先生のやったこと分かる? 被害者と加害者を無視して犯人のめど見つけて推理小説終わらせたようなものだよ、もはやホラーだよ、こんなのおじさん怖くて寝れないよー」
言外に「貴方は何を望んでいる」とホシノは尋ねた。
「それでも、これで信頼してもらえる実績は作れたか?」
信頼、と返したことにホシノは純真な笑みを見せる。
「話は聞いてあげようと思うぐらいにはね~、そう言えばヘルメット団の襲撃とかその後のグダグダで書けなかったでしょ、受取証明書いてあげるよー、もうちっと努力したら対策委員会の顧問にしてあげるよ」
「そのころには事件が全部終わって、帰る手前かもな」
「そんなに早解きされたら、おじさんすることがなくなっちゃうよー」
「勉強しろ、学生なんだから、そんで後輩と遊んでやれ」
ホシノが分解清掃しながら、はかなげな微笑みをする、水族館でもみんなで行きたいねと。
バカ話をしながら2人で見た朝焼けは悪いものではなかった。
……勝利の味だ。
夜が明けたかつてのヘルメット団の拠点で、見かけぬ数名の学生たちが活動しているのに気付いたのは逃げ戻ったヘルメット団の団員だけであった。
AUGとMINIMI軽機関銃で武装しブーニーハットを着用している彼女らは明らかにアビドスではない、シャーレでもない、ヘルメット団でもない。
ただ黙々とスカーフで顔を隠した彼女たちは残りのヘルメット団を確保し、概ねの情報を掴んだ、空薬莢や車両痕跡だけでも戦力を図れる。
「引き上げです、ここにはもう何もありません」
「連邦生徒会が介入主義に変わったのでしょうか」
LMG担当が尋ねた、視線は逸らしていない。
「分かりません、ナギサ様は状況観察だけ命じています」
「それが正解ですよ、連中の通る痕は瓦礫だけです」
やや過激的だが正解だった、トリニティ生徒会は他校の状況を他山之石としても介入はしたくない、この世にはもっと楽しい事がたくさんあるのだ。
それに、ゲヘナが「長距離作戦演習」を大隊単位で開始した、アビドス砂漠へ展開するだろうと情報部は考えている。
野蛮な奴らだ、和平する気があるのかアイツら? あのエラ呼吸みたいな服した秘書官の独断というが悪名高い空崎ヒナのこと、何を考えているか分からない。
「全員撤収」
砂嵐に紛れて徒歩でその場を離れる、靴には毛布を撒いて足跡を誤魔化す。
ゲヘナの情報部も展開しているだろうがまあいい、今は見逃してやる。
いずれ、ミカ様が一切合切有象無象を薙ぎ払ってくれるでしょうけどね。
砂嵐の中に彼女らは消えていった。
【次回予告】
信じて欲しいなど言ったことはない。
愛して欲しいなど考えたこともない。
平和の願いなど聞く耳も持たれない。
過去もなければ未来も想わない。
だが一つだけ確実に為してきたことがある。
それは自分に代わろうとする者を抹殺すること。
これだけは誠実に実行してきた。
次回『 蠢動 』
ただの一度も仕損じたことはない
ここから一気に壊れるアビドス