キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
モンティパイソン予習中なので初投稿です。
前2話を含めてお楽しみください
政治の季節
復興が進む外を見ながら、書類を見る。ユウカから提出されたレポートを元に改定した「防衛室及び連邦生徒会における親カイザー派排除作戦」*1しかし、本当にユウカには改めて自己紹介すべきかもしれん。
防衛室の連中は職務放棄で叩ける、不完全燃焼で横槍は入ったが、連中の余力はかなり削げた。
そもそも仕事してないのはダメだ。
「お前のレポートを読んだが、祖国防衛戦で一番動かねばならない防衛室などが敵前逃亡なぞ容赦なく叩かねばいかん。この前例だけは作らせるわけにはいかん」
「まぁ、そうですよね……」
参加してた一部には恩赦も立場も保証してやるが、他は駄目だ。
少なくとも、連邦生徒会からは退場してもらう、ヒッピーより役に立ってないのは駄目だろ、流石に。*2
次は完膚なきまでにやる、連邦生徒会の日和見を全員飛ばすしかあるまい。
そう言えばウサギ共が最近スクワッドや先輩達との訓練の成果も出て最近調子に乗り始めてるので、また鼻をへし折っておこう。
家の猟犬もまた強く成長してるのだから。*3
「しかし、鉄道爆破とは困ったものだ」
「この復興期に鉄道爆破とは、バカなんですかね?」*4
「飢えた犯罪者は何でもやるさ」
新聞にはまたもや鉄道テロ。復興を妨害するテロリストか!! と1面が躍る。
ミノリ部長憤慨、「デモなどは行うが場所と時期は考えるぞ!」*5
シャーレ公式広報によると高度な訓練を受けたテロリストと思わるため市民の皆様は不審者を見ても関わらない様に犯人は目的の為に殺人も容易に行う危険があるとの事。
などと記されていた。
「こんな時にテロリスト何て怖いね、外出できないじゃんね」
「市街地戦起きててもショッピングできそうな奴が良く言う」
「商品燃えたら意味ないじゃん」*6
成程なぁ、こいつは耐えれても他が耐えれんわけだ。このお姫様は慎重に扱おう。
「連絡要員と言っても楽なものですね、これならもっと早く来ておくべきでした」
アカモップ大公イロハは自分の仕事を終えるとオフィスの休憩スペースで本を読んでる。
アイツには貸しが多すぎて何も言えない。
ここのある意味最高権力者様だ、多分セミナーの双璧>イロハ>俺>その他
アリスクの連中も学業に任務に私生活に大忙しだしなぁ……*7
「娘が独り立ちした親ってこんな気分なのかね?」
「何親気取ってるんですか?」
他の2人にも呆れられた。
「お父さん気取りもいい加減にしないと」
「じゃぁおふくろさんはお前だな」
「成層圏ダイブでは物足りないのなら、深海500マイルにでも潜って見ます? あと元理事現社長*8からアポが来てますよ」
天気予報を見る。曇りが多い、そして窓の外を見て雨が降っているのを見ると嫌になる。*9
ラビット小隊は苦戦していた、バリケードで分断され銃声と共にサキが倒された。
連絡を取ろうにもジャマーを張られ分断される。
真後ろからの気配、かつてA分隊による敗戦が無ければここで終了させられていた。
接近戦は慣れていないでは済まされない、あの時思い知らされたではないか!
背後に敵の気配が無いか確認する、以前はこれで詰まされた。
「グレネード!?」
フラッシュバンの初撃はしのげた。
しかし動きが止まった隙にロケット弾が飛んできた、これを横へ飛んで避ける。
だが制圧されて動きが止まったのがマズかった、瞬く間に押し倒され、首元にナイフを突きつけられる。
「前より良くなった、だがまだ遅い」
『ラビットチーム全滅。デブリーフィングへ移動してください』
高練度のテロリスト想定のキルハウス訓練は終了した。
「くそっ、久しぶりに大人げなく本気でA分隊で殴りに来られた。おのれシャーレめ……」
ミヤコはまだ訓練が足りてないと痛感した、彼女達にはまだ子ウサギをあしらうぐらいにしか見られてない。
サオリ分隊長のデブリーフィングは為になる、SRT復活の暁には、彼女達は引き抜くべきだと思う、シャーレの狗にするにはあまりにも惜しい人材だ。*10
前、この人一人に分隊を半壊させられ訓練目標を奪われた時は理不尽に感じたが。
「単体なら私より常識外は多い、まだまだ超える壁は多い」
と言って居たがこの人で勝てないならコミックかアニメの世界の生き物だ、サオリ分隊長はジョークは下手だと思う。*11
「シャンプー切らしているでは無いですか、これでは皆さん困るでしょう」*12
「こちらに余りがあるぞ」
「ありがとうございます、あっ」
サオリ分隊長、ラビット小隊でのコードネームは青い猟犬、先生の近くで銃を抜きかけたら、良い一発を入れてもらったのは、苦くいい教訓になった。
「シビリアンに銃を迂闊に向けてはいけない」という教範は正解だなとも思う。
しかし私達はめげない、この後先輩が昼食を奢ってくれるのだ! やはり同胞は素晴らしい。*13
「しかし、悪天候の中での捜査は最悪よね」
「SRTの装備でテロとはいい度胸してるわ、見つけたら懲罰房に叩き込む」
先輩たちが捜査を終えてたらしい、うちの装備でテロとは、うちを潰そうとするテロリストに違いない! *14
やはり訓練が必要だ、覚えないと行けない座学も多い。
「ラビット小隊も、ニンジン作戦より立派になったよ」
もはやSRTがシャーレを乗っとって居るのでは? いずれあの先生を信任投票で落とす日も近いかもしれない。
我々は半年耐えたのだ。SRT復権の日は近い。*15
先輩が何か言ってるが、聞き流す技量も手に入れた。
先生に取調室で屈辱の罵倒*16を受けた時に必要な技術として覚えた技だ、これで私もある程度戦えるだろう。
「ミヤコちゃん立派になったよね」
「隊長として普段は頼れるんだが、シャーレと先生が関わると偶に変なスイッチが入って困るんだ」
「こうなると、一番面倒なんですよね……私どころか皆の声が入らないから」
そうだ、早くシャワーからあがろう、デザートも付けてもらえるのだ。遅刻するのは失礼だ、愚かなるシャーレの食料を消費して電気代と洗剤でふかふかに洗濯した先輩からカンパで買ってもらった私服も忘れるわけには行けない。
ヒッピー共がカイザーの落としたアーマーで最近重防御化が進み、それに伴い人海戦術に舵を切り始めた、食料調達戦争は過激になり始めている。
最近は攪乱や波状突撃も覚えたようだし、こちらが大火力化すればシャーレに突撃をされる。
だが我々は、エリート! SRTだ、敗北は無い。
今頃偉大なるFOX小隊の先輩はシャーレの威光が霞む位の偉大な活動をされているのだろう、その為に我々は食料物資、拠点、同志たちを用意しているのですから。*17
「権力の残党たる、ウサギ共の装備は覚えていますね、強欲の権化たるカイザーは強力なボディアーマーも落としていきました、所有せずとも確かな幸せを探す集いの食料を得るための特別編成部隊です*18」
あの攻防戦の後、所確幸は拡大された。避難民や敗残兵などが増えたからである。
物資取集隊は集めた物資をある程度纏め、それを代表たるデカルトがシャーレに提出配給券を得た後。
デカルトが再配給するシステムである。
一度先生を拉致したこと、交渉を成立させたが、あのA分隊を投入するほどだった、など嘘ではないが真実でもないふかしを入れたデカルトの演説は見事であったし、そこまで有害組織では無いのも強みだった、ご近所付き合いを重要視し町内会費は払い、工務部とのデタント。
一度宗教組織と認識され大規模な抜き打ち捜査が入ったが別にそう言う事でもなく混乱期に食料を安定配給する組織と宣言し別に転売してるわけでもなく、ゴミの探し方、プレハブの立て方を教えたり、混乱期が収まると正気に戻った避難民が去ると殆ど元の数に戻っては居た。*19
一度先生に
「お前ら働かないんじゃなかったのか?」
と聞かれたとき、「労働ではありません、啓蒙活動です!」とゴミの回収代行を始めて居た、ついでにチラシにウサギの蛮行を書いて居た。*20
「グレーゾーンをあそこまで見事にサーフィンしてる奴見るの初めてです、コユキでも無理ですよ」*21
「完全に近所密着組織だ、ウサギに使えない数を使った宣伝までしてる、廃棄弁当に此処までかける奴初めて見るぞ」
デモと弁当争奪戦はこの地区の名物だな……。
そして頂点たるシャーレにはデモも所確幸もウサギも新人隊員の練度向上と初の現場体験としては最適であった。
ただあいつらの一番アレな点は、見掛けは脅威なんだよなあ……という点である、中身? デカルトの頭と同じくがらんどうだ。*22
さて、連邦生徒会審問会へ行こう。
連邦生徒会は事実上建物が無いが、幸い近くの会館があるのでそこが議場である。
議題は「シャーレ独断の戒厳発令は越権か」だ、なにを低次元な話してるんだか。
議場の人間の数はあまり多くない、クーデター騒ぎと襲撃で数が減っているらしい。
「ただちにシャーレは何らかの策を打つべきじゃないんですか、これは明らかな越権だ!」
元気な役員殿が声を挙げている。
とてもお元気だ、ここ数日なにしてたんだろうな。
「過剰な武装! 違法作戦の関与の容疑! どうなっているのかお答え願いたい」
登壇する、一瞥したが室長や幹部クラスは殆ど居ないな。
無事なのが判明してる建設室長は代理人たてたようで、アオイ財務室長も代理人を立てている。*23
カヤも居ない、生きてるかよく知らんが、話じゃ入院中*24らしい。
「えーでは順にお答えいたしましょう。まず越権かどうかという点からです」
書類を整える。
「まずお手元に配布したシャーレ資料5番を見てください」
資料にあるのは戦闘に際しての襲撃や色彩戦に際しての画像だ。
ぺギラ*25だかいうやつから、ビナーやケセドなどの資料もある。
「御覧の通りあの当時のキヴォトスは全域が戦場でありました、皆さまご存知の通り」
防衛室役員や一部役員を睨みつける。
楽しそうなのはモモカだけだ、議場にポテチ持ち込もうとすんな。*26
「このような情勢では事態収拾と沈静化にはやむを得ないとして独断で発令した事は事実です。しかしこれは規約上何ら違法ではありません。何故なら当時連邦生徒会は機能してませんから」
付け足す様に「もしかしたら一部は今も」と添える。
「続けてお答えするのは武装ですが、歴史も先週の記憶も定かではない皆様の為にこちらの資料をご用意いたしました」
各自に資料が渡されていく。
「シャーレが創設以来、武装拡大を断られてきたリストです。我々は常に最小限で解決してきたもっとも正確な資料でしょう」
続けて、別の資料を掲げる。
「違法作戦の関与でありますが、そもそもとしてお尋ねしますが、どのような違法作戦ですか? お答え願いたい」
「カイザーPMCに対する数々の武力行使や、ヴァルキューレ警察学校リベートに際してのだ」
「ああ、……どこが違法なのです? 基本的に正当防衛でしか発砲していませんよ」
リン行政官の許可を取り、ボディカメラ映像を流す。
「ご覧いただいているのはシャーレを襲撃してきたPMCに対する映像です。機密事項から隊員氏名は明かせません」
映像は炎上するM8AGSや、波状突撃するカイザーの攻撃部隊を映している。
「火器使用はこの場合違法でしょうか?」*27
続けて、別件の資料を掲げる。
「そしてリベートに関する件ですが……耳に挟んだ噂では貴方最近、高級エステにお通いなされていますねえ。連邦生徒会は高給と見えます」
議場が騒然となる。
財務室長の署名入りレポートの給与明細と各種の口座履歴が示される。
「楽しいパトロンが居るんですねえ」
扉が開かれ、ヴァルキューレの数名が入る。
「本官はここに横領と汚職と機密漏洩であなたを告発いたします」
「ぶ、誣告です!」
「カイザーから押収したサーバーの資料も出しますか?」
相手は完全に押し黙った。
アビドスのころのデータが、つまり闇市の銀行データが調査できたお陰でつかめたネタである。*28
ありがとうシロコ!
「……えー。ところで、審問担当が居なくなりましたが、継続致しますか?」
リン行政官が無言で中止を宣告した。
あとでクロノスから「視聴率上がったんでまたお願いします」といわれ、潰したくなったが。*29
”シャーレ、連続テロ攻撃を「公共の敵」と呼称”と書かれた新聞を広げる。
新聞には先生の”断固として正義は屈せず戦い抜く! ”と写真付きで添えられている。
『いま反社会的破壊活動に加担するのは公共の敵です、復興を遅らせ市民を困らせ我々が愛する平和を阻んでいる! 見なさい! ゲヘナ地域ですら復興のため力を合わせているのです!』
ラジオがシャーレ報道を伝えている、正義、正義。
ユキノは机を叩いた。
「くそ……!」
ユキノを責め立てるように、ラジオが続く。
『皆さんご存知でしょうか、鉄道攻撃で何と数十トンの食品が遅れたのです。それらはか弱い避難者に分けるべきものでした。このような巨悪を許してはならないのです!』
ラジオはそのまま、シャーレ音楽隊の演奏と共に広告へ移る。
『インペラトールPMSC、海運産業を守るコンプライアンス重視の安心を君に』
何時からこうなった。
全てが狂っている、同期や後輩が引き抜かれた時それを異常と感じなかった。
やがてアビドスで戦いがはじまり、勝利したのは偶然かと思った。
だがデカグラマトン、ワカモ、カイテンジャー、数々の強敵を覆し、エデン条約時の戦いは土台をひっくり返した。
いつの間にか正義の守護者は変わっていた、SRTが消えたのを許せないと感じたが、そう感じる生徒はもうほとんどいなかった。
有名無実化したSRTはいつしか防衛室と並んで権力の走狗へ変わり、我々は闇へ忘れられようとしている。
ヴァルキューレ警察学校が組織改編され、防衛室内の粛清は近づき、対テロ戦争をシャーレは宣言している。
「我々は何のために」*30
ユキノは机に突っ伏した。
このまま死ねれば楽なのになあ。
シャーレの大食堂では、長い机を埋めるほどの各校幹部が席についていた。
対色彩の防衛作戦<オーバーロード>の成功祝賀会だ。
「成功おめでとう!」
「おめでとう!」
一斉に全員がコップを掲げる。
何人か連邦生徒会の役員もいた、避難列車のダイヤ編成で過労でくたくたにされたモモカもいる。
少し遅れてスズ司令官が入り、笑いながら幹部たちの肩を叩く。
その後に続けてツルギやヒナも来て、敬礼に答礼しながら「みんな呑んで飲んで」とにこやかに告げた。
「先生入られます!」
「傾注!」
全員の眼が変わった、端っこで肩車されて特進を喜んでいたコハルも眼が変わる。
「よォ、まあ無礼講だから挨拶だけだ」
「相変わらずしぶてえな先生、あの高さから生還するとは」
ネルが笑いながら肩を叩いた。
「うるへー流石に肝が冷えたわ!」
「ま、良かったじゃねえの。大変な騒ぎだったしな」
「そーそー、本庁舎1階正面ホール滅茶苦茶だしね」
シャーレ幕僚将校たちが笑いながら言った。
「まったくですよ、テロだわ
「まあ全部片付いた!世界も救った!後は防衛室の大掃除です」
その言葉と共にアユムの胃が痛む。
事実上の連邦生徒会の内部調査と告発は既定路線であるという証拠だからだ。
「おいおい今日くらいは仕事抜きだぞ」
先生はそれとなく諭した。
子供の頃になりたかったのは、正義の味方だった。
別にどうというわけじゃない。
幼いころに見たアニメが好きだったのだ。
そして中学生になるころには現実とすり合わせが出来るようになったし、すり合わせた結果がSRTだった。*31
「ミヤコちゃん」
ミユが目を開けたら目の前に居た。
祝賀から二日、市内は未だ電力システム問題で信号が停止してるため交通警官が立っている。
「どうかしましたか?」
「サキちゃんたちが迷子ネコ見つけたお礼でお菓子貰って来たから食べよ」
頷き、テントの外に出る。
世界の全てを統べんとする悪の男の牙城が見えた。*32
心の中に闘志が燃え上がる。
「お、ミヤコ」
サキがキノコ茶を煎れながら、手紙を渡す。
「なんですこれ、ラブレターですか」
「アホぬかせ、誰がお前に……郵便が来てな」*33
中身を空けると、懐かしい文字があった。
「先輩の奴ですね、懐かしいSRT暗号3種で書かれてます」
「旧式暗号だな」
数時間後、ラビット小隊は姿を消した。
夜が訪れ、人口が少ない地域はミヤコにはむしろ落ち着く空間である。
自然が鳴りたてる独唱歌は待ち伏せがほぼあり得ない事の証左だ、静かすぎると危険な良い例である。
「居るのかね本当に」
モエが首を傾げる。
サキが足元から、建物へ視線を向ける。
「車両痕がある、近いな、2日まえくらいかな」
つまり人がいるという事だ。
以前の混乱時にどさくさに紛れて取り返した弾薬がある、各自使い慣れた愛銃を構える。
ラビット小隊は索敵前進を開始する。
索敵前進フォーメーションA、一人ずつ移動を開始する。
屋内まで進むと、サキが片手を挙げ、手話で言う。*34
”通信妨害、バラージではなくスポット”
”フォーメーション変更、Bに切り替える”
ミヤコがそう返し、陣形を変更。
索敵前進は続く。
何かが動いた。
サキが構える。
”スタンバイ”
”射撃許可”
ドタタと機関銃特有の重い銃声が響く。
外壁を貫き、小部屋に飛び込む。
「あいたあ!」
声が聞こえた。
罠だ、モエとミヤコが天井を狙い、掃射する。
予想通りだった、前方から囮役がカバーしに前に出てきた。
「チーズ!」
盾が煌めき、眩い光に「しまった!」と呟く。
対シールド戦はまだやれてなかった、でもやりようがあるかも。
「サキ頭下げて」
「おう」
2人で咄嗟の以心伝心。
腰だめで滅多打ち。
「うははは! 元気!」
その声と共に、頭に狙撃されたのを感じた。
「状況終了。お前らやるようになったな」
懐かしい声と共に意識が遠くなる。
いやまだやれる、力を絞って拳をフルスイング!
「元気で大変よろしい」
優しげな声だった。
拳は痛かったけど。
そこからのミヤコの記憶は印象的ではあったが、引っ掛かりがあった。
確かにSRTが無くなったのは嫌だ、それは分かる。
しかしどうも先輩たちはなにか秘密主義的と言うか、何かが違うのだ。
あの不器用なガスマスクの連中と違う何かが。
「君たちは任務とあらばシャーレと敵対できるか?」
「友好的な時期あったか?」*35
サキが真面目な顔をする。
「拳銃抜く前に蹴られて吐いた記憶がありますね」*36
「アンテナやられて狙撃されたしねえ」
「……狙撃地点ごと吹き飛ばされた……」
「民間人のふりして呼吸困難にされたしな」
ふりかえれば懐かしい記憶。
ややユキノ先輩が同情した視線をする。
「お前ら何やってたんだ」
「キルハウス」*37
「あいつら容赦……ないよなあ……」*38
ユキノがそう言おうとした時。
「よお」
全員が振り向く。
「対人レーダーは……?」
「今も起動してる……」
オトギにユキノが答える。
「君たちが噂のF小隊かな? 噂はかねがね」
やはりあの男らしい狡猾さです。
ミヤコは満足げな笑みを浮かべた。
僅かな時間と情報でここまで早く動く、それでこそ彼女たちを指揮する資格がある。*39
「つけられたのかな」
「だなあ」
「いいシュミしてんじゃん」
小隊一同も納得の顔である。
「ウサギを追ってキツネが出たか、幸運なことだ、ウサギの足だからかな?」
「お前やっぱ脚フェチなのか? ゲヘナの奴から聞いたぞ」*40
サキの言葉を無視して、書類を見せる。
「諸君らにちょいと防犯のおしらせだ」
書類には”明らかに訓練されたテロ攻撃”の痕跡が書かれていた。
そして、回収された弾頭や薬莢から見て、SRT規格品とも。
「……なんのつもりです」
ユキノが尋ねる。
「いや全然。防犯パトロール」
いつも通りつかみ所のない答えだ。
「……私は、貴方のような大人が一番嫌いです」*41
「俺が嫌いなのは危機の中で混乱を生む悪党だけさ。見つけたら連絡よろしくお願いします」
ユキノが拳を握りしめたのをミヤコは気付いた。
なんとなく、ミヤコはいるだろうなと思う方向を見る。
「……サキ」
「ああ、殺気がずっとしてるな。首がちりちりする」*42
さっきからニコ先輩が常に死角を埋めるようにユキノの後ろにいる。
臨戦態勢だ。
「じゃ、帰るよ」
あの男は去っていった。
M151ジープの去り行く姿には、見慣れた連中が居た。*43
「どこから入ったんだか」
「地下に賭ける」
「じゃ……わたしは正面……」
「大穴狙って空を」
小隊デブリーフィング中、ずっとミヤコはユキノが下唇を噛んでいたのが気になった。
ジープの後席でサオリが尋ねる。
「制圧しなくていいのか?」
「今はな……」
そうか、とサオリはそれ以上口にしなかった。
威力偵察か、ウサギを囮にして。
確かに今回は戦闘技術において資料が手に入った。
「……ミヤコ達も成長したな」
「先生が良いからな」
サオリは笑って、そしてチェンバーから弾を抜いた。
”いつでも潰せる”。
そう言いに来たのだ。
ユキノは確信した、相手にはそれを実現できるだけの全てがある。
たとえここを吹き飛ばしてもシャーレの公式発表を疑う者は少ないだろう。
だというのに干戈も奇襲もせず引いた、戦略的戦術的奇襲だったのに。
だがまあいい。
もうすぐ、数日後には我々が正義の味方だ。
お前らを取り潰してやる!
リンの邸宅は連邦生徒会官舎の住宅地で、高官向けではあるが質素ではあった。
家は確かに広いが事実上第二の職場となっており、直属の連絡室には常にオペレーターが3人いる。
リンちゃんリンちゃんと深夜だろうが必要なら呼び出す連邦生徒会会長相手に、勤労奉仕する首席行政官にはそれくらいの事が要求されるので、リンの自宅を豪華だという奴は政敵にすらいない。
連邦生徒会会長代行であるリンには通常SRT生徒6名の護衛がつくのだが、閉校と組織再編から今はヴァルキューレが引き継いでいる。
「来客ですか?」
「はい、防衛室長が」
リンはようやく見つかったのかと安堵し、書類仕事をしながら入る様に告げた。
そのまま入る様に告げるが、リンの部屋の前でヴァルキューレ警備局の隊員が首を傾げた。
「ん?」
カヤの秘書らしき役員に、見慣れた顔がいる。
「お前……クルミか?」
その警備局の隊員は元SRT生徒だった、シャーレの介入で再編された警備局やヴァルキューレには特殊部隊も一応編制されている。
要人警護に回されていても当然であった。
そして、特殊部隊の経歴がある人間が役員の制服を着てる事をただ気にしないほど彼女は馬鹿じゃなかった。
「通報を」
間抜けが!とカヤが即座に自身の片手を動かして「やれ!」と告げる。
MP9の銃撃とCQC戦闘でヴァルキューレの警官を制圧、続けて即座にカヤが連絡室へ入り無線機材を破壊した。
ヴァルキューレの別の警官がM16A4を射撃し、住宅地に銃声が轟く。
リンを無理矢理に拘束したカヤたちはMRAPへ移動、第二段階が始まった。
眠い、そうフウカは食材調達の帰りに思っていた。
クロネコ市場は買い付けには良いところだが、競り開始が早い。
斯くして朝早くからフウカは走る訳である、無論助手席のジュリは起こさない、彼女は寝ているべきだ。
何故ならこれから荷物の積み込みを担当するからだし、ジュリに八つ当たりしたくない、ハルナなら尻尾をガム代わりに噛むのだが。*44
「……あ?」
聴き慣れた音が聞こえる。
交差点の信号待ちで、現れたのは連邦生徒会と書かれたM113装甲車。
「……ふざけんじゃないわよ」
私の買い付けをどうしてくれるのだ。
カヤの政権交代とクーデターを最初に見たフウカの気持ちはこれだけであった。*45
カヤが動いた、クーデターが始まった。シャーレの発令した命令はまずデフコンを再び1へ上げたが、カヤは別の手を打った。
リンを拉致したのは自分じゃない別の連中で、秩序を維持するためやむを得なく非常手段に出たと言い張ったのである。
大義名分を得られる前に潰した。
カヤはいま、ノリにのっている。
「シャーレがデフコンを1へあげているんですよ!どうするんです!」
カヤの”臨時防衛室会議室”ではやや臆した様子の反シャーレ役員がカヤに詰め寄っていた。
「シャーレが馬鹿じゃないならそりゃ上げるでしょう、それくらい覚悟してなかったんですか」
全くアテにしていない付和雷同の腐った日和見役人め、と内心下げずんでいるが、このカスには使い道がある。
こんなのでも票の価値は平等なのだ、こんなのでも票は票だ。
「シャーレは我々を叛逆と呼んでますよ!」
ため息をつきながらカヤは会議室のドアを開けた。
「恐くなったなら出て行って下さい。失敗すれば反逆で、成功すれば革命なんですよ!」
会議室のデスクを叩きながらカヤが叫んだ。
「ボロボロのイヌみたいに追い掛け回されて一方的に叩かれたいんですか?」
うっ!と全員が呻く、頭に浮かぶ先生の姿が幻聴を呼び起こす。
「お前たちそこを動くなよ、戦車でお前らの首をふっとばしてやる!」
ただの汚職役人で終わる筈だったカヤは、いまや先生相手に戦うだけの度胸、いやヤケクソを見せていた。
【次回予告】
現実という物がこんなにも味気無い物か。
時には絶望という情念の落差が、方向性を持たぬ疾走を生む。
暴走。
止めねばならぬ、命を懸けても。
それが残された我が使命。
FOX小隊の人生の白き余白の広さ故に。
次回「 Down the Rabbit Hole 」
失敗すれば反逆、成功すれば革命だ!
4章カルバノグの兎編は(劇場版モンティパイソンアンド・ホーリー・グレイル)を見ると楽しめるかもです。
どんな話が見たい?傾向を見たいだけです
-
モブ回
-
一部の連中を原作と交換してみた
-
上を踏まえた掲示板回
-
空飛ぶモンティパンソン回
-
あの世でもこの世でも無いとこの連中回