キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
クーデターが起きたので初投稿です。
行間整理しました
あの世でもこの世でも無い場所
ロココ様式のこの部屋もようやく、空は青くなっていた。
可愛げのある童顔をした、スーツの男が入る。
”ここは? ”
「ようこそ、私はタイユラン、ここのホストみたいな物かな? 皇帝、ああ君には先生と言った方が良いかね?」
「こっちにも先生が来たー!! 私がアビドス幻の先輩です」
「鍵と名乗っておくと良いと言われました」
小さな空間だったが、狭苦しくない。
ソファーに寝転がっているら恐らくケイには驚かされるが、アリスと同じなのだと思った。
”声が出せる”
「そういう場所だからね、君の話もゆっくり聞きたいが、ふぅむ……師と呼んで構わんよ?」
”ええー”
ドアから顔を出して、また何人か現れる。
「おっ、アンタが先生か? 俺達と皇帝相手によく頑張ったんじゃないか?」
古参近衛隊にもみくちゃにされてる”先生”を見ながら、警察長官へタイユランが尋ねる。
「どうだい、警察長官?」
「駄目ですな、成功させるには大人のカードが燃えるレベルですな」
「やはりか……」
タイユランは残念と空を見上げる。
”カヤのクーデター? ”
「皇帝はあえて先手を譲っています。組織の体面を守るために、それだけ余裕があると言う事です」
「まぁ、新人も多い。ゆっくり見ようじゃないか」
”一つ聞きたいんだけど、なんで先手を譲ったのだろう”
タイユランが机に身を乗り出す。
「よしきた、そういう分野は得意分野だよ」
政治学の授業をしてるのを聞きながら、ケイは「王女はまた遅刻してる」と呆れた主人を嘆いていた。
シャーレの周辺は戒厳令下と言える。
正門前で”連邦の治安部隊”と、隊員が睨み合いだ。
カヤがジェネラルを焚きつけて「DU占拠するのと先生にぶち殺されるの、どちらが良い!」と詰めてカイザーからも兵隊を駆り出させたのである。
とは言えうちの隊員はあまり緊張していない、正門前から仕掛けてきたら後退して反撃するからだ。
軽装の隊員に剥き身で長物揃えてる絵面はさぞマスコミ受けが良いだろう。
「おーおーすげぇぞ、カヤさんの天下だなぁ、シャーレにだけピンポイント戒厳だ!」
「どうするんですか! 私ミレニアムに帰れませんよ、電波妨害入って無いからまだノア達に連絡できますが」
イロハとミカが入室してきた。
「いやぁ、本部には先生が勝つから心配無用との連絡は送っておきました、何かあるときは別件で」
「ここの私室住みやすいね! ナギちゃんでも安眠できるよ」
「私もここから離れたくないですね、イブキが居たら100点です」
新人も馴染んできたし、アリスクも休む時間をくれてやらないとな。
それはそれとしてミカ、イロハにバチバチの視線飛ばすな、うちが壊れる。
「先生に言われた通りに文句があるならかかってくるじゃんね、舐めたこと言ったらぶん殴るって宣言したら誰も文句言わなくなっちゃった!」*1
「査問会もあれ、途中から先生による裁判に代わってましたよね」
そうだ、戒厳出されてるんだ、あいつ等には連絡しておかないと。
「ミノリか? すまんな、本日のデモ家じゃあ無理になった*2……違う違う家だけ戒厳令だよ、後雨の時期だから堤防管理任せたぞ……すまん、工兵も戒厳で出せんのだ……ああ、ありがとう*3」
続けてアル社長に連絡する、後日判明したがホシノと移動中の旅団本部を襲ってたらしい。
おかげで主力本隊は余計足並みが乱れた。
「社長、経営どうだ? いい感じか? そりゃ良かった、私費だが株*4買ってよかったよ、もうちょっと体裁整えて優良企業の判定出来たら業務提携できるかもな、後、知ってるか、戒厳で今日の会談無理そうだ、えっ、今シラトリのホテルだったのか? 気の毒に。じゃぁそう言う事で」
電話を終える。
また報道のヘリが飛んでいた、この戒厳令の中をよく飛ぶなあ。
「先生、こちらも4件断ってきました」
「で、先生勝算はどうなのかな?*5」
タルト生地のケーキを切り分けながらミカが尋ねる。
「仕込みは上々、仕上げは御覧じろってな!」
数日後に聞いたがトリニティで「カウンタークーデター日付賭博」してたらしい。
他人の争いをそう楽しめるのは良いご趣味だよ畜生。*6
街中を飛ぶ飛行船が、公報を流している。
カメラのフラッシュが焚かれ、普段と違い鋭い眼を何かに狂った様な眼をしている。
『会見を始めます』
戒厳放送が始まった。
『本日午前1時をもちまして、非常事態対策本部は臨時で連邦生徒会を代行します。現行の政府行政は一時停止されます。』
会見の議場で文章を読み上げているカヤの映像だ。
『これは現状の政権では、治安と秩序を維持できないやむを得ない手段であり、非常戒厳という事態には皆さま同意しづらいかもしれません。
しかし、残された数少ない手段であり、一部諸勢力から身を守り、公共の安全を維持する。やむを得ない手段であることをご理解してください。以上です』
続けて、カヤが次の紙を読み上げる。
『現状の戒厳体制においては緊急事態の為、以下の法を制限下に置きます。
道路交通法、電波法、郵便法、鉄道営業法は連邦生徒会の制限下としてこれを管制いたします。
また、各学園及び企業、住民各種組織及びマスコミと情報機関はこれを管制下におき、不法事犯等は厳罰をもって臨む所存です。
連邦捜査部シャーレに関しても、その活動は一時制限下におき、先生との交渉によって、事後の対応を決めます。』
以上をもって会見を終了すると、カヤは告げた。
シャーレ某階、スクワッドの部屋。
アツコが本を読みながら、片手でサオリの頬を弄ぶ。
「さっちゃん起きて」
ああ、懐かしい呼び方だ、最近リーダー呼びの方が多かったからな。
「今日オフだったのに戒厳で台無しになっちゃった、せっかく先生から「ミカと買い物でも行ってこい」ってお小遣い貰ったのに*7」
「だが、この状態だ、出動に備えて……」
背を伸ばしてサオリは洗面台で顔を洗う。
呆れたようにアツコが言った。
「さっちゃん。今はあのころと違うよ」
先生とユウカは悪事以外なら喜んでくれるからここによく居るみんなにも頼んでるんだけど、先生、私達が自由意思で好きにし始めてるの喜んでるけど。
それはそれで寂しそうだから話してあげてね。
そうアツコが諭すように言った。
「姫は優しいな」
「いまさら?」
しかし、クーデターで正義を逆転させる積りか?
無秩序と混乱が正義なら、先生は私達の時の10倍は怒るだろう。
悪い将校に率いられ、それしか選べない兵士には同情的だった、実際あの人は我々を光の世界に連れ出して栄光をくれた、返せないぐらい貰った。
私が教師に成れた時あの人位与えられるのだろうか?*8
「リーダー、追い詰められた狐はジャッカルより狂暴らしいよ?」
ゲーム開発部から何か借りてきたらしい、ミサキが言う。
アツコボードの笑顔を掲げて、アツコは「ねー」と言った。
ユウカに怒られた笑顔だ、先生からは「ゲマトリアでそういうやついたな」と呟かれたが。
戦闘詳報の書き方を叩き込まれて、どれだけ非経済的で非学生的か怒られたなぁ。
だが、あれほど虚しく与えられた憎悪しか戦えなかった、私達が誰かを守る戦いで、正しいと胸を張れる戦いができた。
「リーダーこれは大規模出撃の前触れ何でしょうかね? 怖いですよね、苦しいんですかね?」
「知らん。備えよ、そして待てだ」
今回はあの人が先生が居る、あの人と共にならどれだけでも戦い抜くさ。
戒厳が発令されたが、アリウス・アビドス方面は事実上戒厳軍が少数派となった。
主力部隊が居座っているアビドス駐屯地は、ホシノが「この学園においては生徒会副会長である私の指揮下であり、これに対する介入権は存在しない!」と完全に言い切った。
「失せろ連邦の下っ端!」
「肝心な時は来ねえ癖しやがって!」
「給水もしねえしPMCからも助けてくれねえ、てめえらが恐いかバーカ!」
現地に土着化したヘルメット団や不良生徒の抗議や、武力進駐断固反対とアビドス新市街に居座るホシノが完全に行動を止めている。
アリウス地域では鉄道輸送された治安部隊が─ハイランダーに6倍の運賃をぼったくられて─展開する手筈ではあったが、理事会やCCCの双方が嫌がる上に、突然機関車が「架線トラブル」で遅延するなど”事故”が群発していた。
ようやく到着したとしても、そこで待ち構えていたのは銃剣を装着したベクターR5を並べたアリウス自治警察予備隊の横隊だ。
更にはトリニティ地域では「先生のがマシ」とハナコがプラカード掲げているばかりか、ゲヘナ地域では学園自治区外郭をマコトが戦車隊で封鎖する手段に出ていた。
戦闘詳報の書き方を臨時防衛隊長ご一行にに叩き込んだのは良いんだけど、またこんな時に戦争ごっこを始めるの? テロのせいで投資も上手く行かないし、お買い物にも行けない。
ようやく戻って来た活気も台無し、これだけでどれだけ経済損失なのだろうか。
昨日親子が、明日ピクニック行こうとか話していたのに……
そんなに平穏が嫌いなのだろうか? もし犯人共に会えるのなら私もビンタの一つ二つ許されるのでは?*9
「ユウカ任せるぞ」
ここで外出ですか……捕まりますよ?
そう尋ねたら、うちの門前でやれるほど連中自信ないよと返された。
「この家狙いの戒厳ガバガバでな、言葉遊びでどうにでもなる」
「アツコとサオリはぜっったいに護衛で付けてくださいね、それならOKです」
しょうがない、何か理由が有るのだろう。
「せっかくの晴れなのに、外出れないとカビ生えちまうよ」
まったく……ここに居るのがある意味知り合いだけだから良いんですよ?
甘いところだと自分でも思う、だが世の中は理屈や数式では解決が付かないのだ。
変数たる先生とは確かにその通りだよなあとユウカは書類仕事へ戻った。
シャーレの正門を堂々と出る。
治安部隊の連中がなにか噛みつこうとしたが、「公務外用の妨害か?」と尋ねると治安部隊は押し黙る。
阿呆が、俺に法解釈で喧嘩を売るのか? ローマ人でもなければ実績が足りんぞ。
「ともかく戒厳だ!逮捕するぞ!」
「先生!こいつら撃って良いですか」
「撃っちゃえ撃っちゃえ」
警衛詰所の警衛隊員が笑いながら先生へ尋ねた。
片手をあげて「警衛第二小隊、着けェ剣!三歩前へ!」と号令を出す。
ブーツが地面を叩く音が響いた。
「構えェ!」
「ちくしょう狂犬め……通ってよし」
「ご苦労」
サオリは敬礼と共にそう返し、正門前の警備隊が笑い声を挙げている。
迎えの車に乗り込み、車を出す。
連邦生徒会は新政権最初の会議を始めるらしい、さあてどう出るか。
ラビット小隊はなんとも言えない朝を迎えた。
筋肉痛で目が覚めるのはまあ良いが、我が物顔でカイザーPMCが”治安部隊”として展開している。
市民の大半は訝しむような視線を向け、あちこちでカイザーのポスターとカヤのポスターが掲示されている。
「命令命令というが、法の遡及適用じゃないか?」
サキが呟いた、何人かが拘束されていくのが見える。
実はサキは法学の成績が良い、ミヤコもサキの言い分が正しいと感じた。
だが。
「先輩たち変わったよねえ」
「なあ、特殊部隊は道具なのは事実だが」
思考停止は特殊部隊として駄目だ。
ラビット小隊はそういう点を無意識的に理解していた、基本的に常識の埒外の相手をしたせいもあるが、SRTの教育が教えていた。
特殊部隊が何故特殊部隊たりえるか、現場の臨機応変で最適解を叩き出す事が出来るから。
それに対し、先輩は武器は思考してはならないと言う。
確かに事実だ、それは組織論であるが。
シャーレでさえその建前を守るフリはしてる、武力は思考で独断を図れない、犬が命令を破って許されるのは主人を救うときだけだ。
『新政権は治安と秩序で安定を届けます』
広告飛行船が通っていく。
聴き慣れた声が聞こえる。
「大衆の権力は大衆が信任して授けるんですよ、怪しげな水の儀式じゃないのにねえ」
「浮浪者のおっさん」
「デカルト!」
見慣れたヒッピーだ、正直ラビット小隊はこうした相手が苦手である。
脅威目標と呼ぶにはあまりに貧弱だけどシビリアンとするにはあまりに目立つ。
正直な話、シャーレが相手してくれて安心している。
「そういやあなた達シャーレ見ました? 大騒ぎですよ」
デカルトが中古のワンセグを見せる。
『ここシャーレ本庁前ではシャーレ活動停止要求を突きつける治安部隊とシャーレ警備隊が睨み合いを続けています! 既に数か所のシャーレ施設は自主的籠城や封鎖を開始したと……』
「えらくまた無茶したねえ」
モエが驚いた声で呟いた。
「あ、ミヤコちゃん。誰か走ってきた」
「ん?」
ミユが指さし、ミヤコが方向を見る。
警棒や小銃をぶら下げたカイザーの治安部隊が走ってきた。
「やっば!」
デカルトが即座に逃げ出し、裏路地へ消えていく。
逃げ足だけは天下一品だなと感じながら、脇に逸れる。*10
「くそ! 逃げ足が速い!」
すると、およそ小銃班ほどの彼らはミヤコ達を見る。
「ん? お前らなにしてる、何処の学生だ」
「SRTですよ」
治安部隊が首を傾げる。
恐らく軍曹らしい階級の班長がミヤコの腕を掴もうとする。
しかし、掴もうとしてもするりと抜けて掴めない。
「お、なんだミヤコ。痴漢か?」
「やっぱミヤコちゃんくらいのがモテるのかねえ」*11
サキとモエが揶揄う。
「任意同行だ! 大人しくしろ!」
「任意なら嫌です」
「きさま!」
一人がストックで殴打しようとするが、しゃがんで避ける、サオリ分隊長より0,7秒遅い、動作も読める。*12
「お! 違法な法執行だ」
ミユがカメラを取り出す。
「撮影するな!」
「うるせえバズりたいんだようちらは!撮影して何が悪いんだバカ」*13
サキが中指突き立てて咆え、そろそろ逃げるかとミヤコがハンドサインする。
『構わん、通してやれ』
ホログラム通信が灯る。
ロングコートに制帽の男が出てきた、カイザーのジェネラルだ。*14
「誰だよコイツ」
サキが首を傾げる。
「あ、思い出した。こいつカイザーの治安部隊代表じゃなかった?」
「不景気なツラしてんなー」
後ろの会話に同意しながら、話を聞き流す。
正直なにか融通したいと言われても、あまり困っていない。
『まあ今回は将来の味方への顔見せだよ』
「梅毒かな」
「痴呆じゃない?」
『やかましいぞ』*15
ジェネラルがまた何か話し出す。
なんでも新しい連邦生徒会会長代理はSRT再建をするらしいが、ミヤコには疑問符が湧いた。
「”あの”防衛室がねえ」
そもそもシャーレが進捗を進め軍拡を実現したのはカヤがまんまと利用されたからだ。
無能な愚昧の政治家のせいだ! いまさら気付いたか!
『……君たちは力があっても赤子の様な奴らだな』
「頬もちもちだしね」*16
『じゃかましいジャリどもだな本当に……』
「風の子元気の子だ」
ジェネラルのため息が吐かれると同時に、見慣れた姿を捕捉した。
「あ、アツコさん」
「やっほ」
アリウスの分隊メンバー、そしてアリウス生徒会長のアツコが現れる。
たびたび花壇を手入れしたり、髪を梳いたり面倒を見てくれることも多い。
それに出稼ぎでシャーレに仕事してると聞いて、世の中大変なんだなと心から思った。
とても美人で優しいので、ミヤコは人間的に尊敬している。
『君はアリウスの』
ジェネラルは驚いた顔をする。
「拘束しますか?」
『無駄だ、中隊がいるな』*17
賢い判断だ、ミヤコはそう思った。
サキはまだ苦手意識があるのかモエの陰に居る、それでいいのかポイントマン。*18
ミユは対照的に嬉し気だ、よく可愛がられていた。
『これはこれはアリウスのロイヤルブラッド。お初にお目にかかる』
「ふふっ、戦争ごっこを楽しんでてなにより。ジェネラル」
サキが察した、笑みに圧がある。
『たしかに、アリウスの皆さんからすればごっこかもしれませんね。ええ、内戦はしてませんから』
「あら、褒めてくれるんだ」
小隊が数歩後退する。*19
「副官の中佐や旅団本部付き情報将校の少佐二人はお元気?」*20
『……っ』
「あ、あとうちに偽旗して失敗したご自慢の精鋭も退院できた? さっちゃん、やること怖いからね」
『……お陰様でまだ入院だよ』
「じゃあまだ会えないんだ、私は会えなかったから……」
ジェネラルはやれやれと言いたげに言う。
『怖い怖い、凄まれては声もあげれない。我々はこれにてお暇するとしましょう』
「……チェックポイントへ帰還する」
帰っていく治安部隊を見ながら、アツコは「アビドスがきみをよんでるよ」と囁いた。*21
ミユがアツコに近づく。
「よく出てこれましたね」
「公務外用、ふふ、大人の言い訳争いのおかげ」
なるほどね、シャーレの公務外用は確かに止める権限は無いな。
ミヤコはそれを聞いて、だからやめとけと言ったんだけどなあと心底思った。
それが開始されたのは何時かは定かではない。
工務部長ミノリはまず「反帝国主義的革命的労働大衆による工具と資材の円滑協定を妨害する破壊活動集団に対する決起集会」を双葉公園で開始した。
実はミノリはアリウス出身者の部員から「情勢不安定化工作だ」と資料を渡されていた、ミノリはこれを検討し、なんらかの策謀の影を感じた。
そして赤い冬らしい完璧な結論が出た。
「これクーデターだろ」
普段なら偏見かいつものノリである。
問題は出まかせが事実であることだ。
ミノリはこの真実を述べる為、決起集会を開いた。
牛乳やお茶が調達され、パンとスープを配給するというと低所得層や戒厳令で暇していたノンポリが集まり、みるみる膨れ上がる。
シャーレ封鎖の為に炊き出しがないので、みんな腹が減っていたのだ。
「無許可デモは法規の違反です! 解散してください! 解散してください!」
生活安全局の要望どこ吹く風、ミノリの想定より膨れ上がるデモ参加者。
キリノや警備局、あるいはカンナなどなら恐らくこれは解決出来た。
彼女らはもっとも簡単なデモ・集会の解散は「引き延ばせば解決する」と理解している、夜まで引き延ばせば体制は絶対勝てる、民衆は熱しやすく冷めやすい。
実はヴァルキューレはもともと持久戦型の部隊である、そのため群衆整理や集会対策には成熟していた。
「やばいぞおい、誰か連邦生徒会から人身御供させて時間稼ぎさせろ」
ヴァルキューレ警備局は安定のためにそれを提案した。
しかしそもそもカヤは「既存警察力で対応できない」から治安部隊を呼んだのだ、まして、カヤにしてもジェネラルにしても些事だと考えていた。
しかしカンナやヴァルキューレの進言は却下された。
「カンナ局長たち、進言したのかな」
キリノは規制線を貼りながら、群衆整理にかかりながら呟いた。
「そんな度胸がある奴がいるわけないじゃん」
フブキが迷子の応対をしつつ言う。
「むしろあのアホども、鼻っ面叩けば解決すると信じてるよ」
「あの防衛室長が特に?」
「キリノ冴えてるじゃん」
不偏不党のヴァルキューレではあるが、それはダメだと心が理解していた。
群衆がわあと湧き上がる。
2人は身構えた。
『えー、いま本局へ届けられたニュースによると、カヤ代行と先生の会議は打ち切られたようです。本局の取材に先生がお答えをいただきました……』
偉い事になる。
キリノとフブキはあの政権長くねえなと確信した。
現在連邦生徒会庁舎として借用しているビルへ入り、先生はなんら恐れも無く進んだ。
現状戒厳司令部でもあるここへ乗り込んでくるのは予想していたものは少ない、カヤ自身ここに来ない事を期待していた。
来なければそのまま命令不服従・叛逆容疑で告発する腹ではあったのだ。
無論来たことが意外ではあっても手はある。
「シャーレの指揮権を正式に連邦生徒会が召し上げると」
「カエサルの物はカエサルに、神の物は神にですよ。貴方は確かに連邦生徒会会長から全権を委任されていますが、それの期間は書いていない。そうでしょう?」
「顔面封筒女に聞いてくれ、俺の問題じゃない」
「指揮系統の統一と社会秩序の維持は同一ではありませんか先生」
彼女は建白書をそっと渡した。
「いくつかの権限では今より権限を強化しています、大事なのは名前ではなく精神、そうでしょう?」
「いくつかは同意できる。しかしだねカヤ代行」
ペンを手に取って、幾つかの行へ横線を引いた。
「キミのいうこの組織はなんら実態の薄いまるで連邦防衛室みたいな組織だ、改善の要を認めず、まあそういうことだ。」
そういうと彼は、建白書を懐へしまった。
思わずカヤがぎょっとした、書類を持ち帰るとは思わなかったのか。
「え、持ち帰るんですか」
「ああ、外の記者に見せるよ」
カヤの血の気が引いた。
「それは公文書ですよ!機密違反です!」
「では言わせていただく、武力があれば権力を弑するのは許されるのか?暗号名バースデープランについて、カイザー中央役員会は話をしたいそうだ」
「あなたまさか」
「サーバーラックにはまだまだ色々あるぞ?まあ、お前がどういう秩序を作るか見せてくれよ」
誰かの足元から絨毯を引き抜く事は楽しくてやめられないな、先生はそう微笑んだ。
防衛室会議室、そこではカンナがカヤへ説得を行っていた。
会議室にはカイザーのジェネラルや、警備局やほかの局、そして交通室長などが居る。
「強硬案はお考え直して下さい、それは圧倒的な恐怖で解決する”衝撃と畏怖”という極論か、徹底的時間稼ぎしかありません。翌朝までに大半が帰宅します!」
カンナはそもそもこの強硬案が優柔不断だと考えている。
強硬案ならもっと大兵力を投じて徹底するしかないし、妥協と和解の機会と称して引き延ばしが最適だと信じている。
「そもそも政治的自由や社会情勢への不安は鎮圧できません。時間が解決します。シャーレがそうしたように」
カンナの発言は要するに「頭冷やせ」である。
「一晩たてば秋の夜空で凍えた経験で次回は減りますよ」
すると、デモ隊が行進を開始したと連絡が入る。
先ほど行われた「シャーレに関する新諸法」は完全に決別してしまった、連邦生徒会最強の武力は制御不能になりつつある。
そしてこの集会だ、もう事態は最悪へ向かいつつある。
カイザー治安部隊など端からあてにしていない。
「カヤ代行。ご決断を! 既にデモ行進は始まってるのです!」
治安部隊はゆっくり後退している。
現連邦生徒会方面へ。
「……ジェネラル。お聞きしますがあなたはどの様な命令を」
「連邦生徒会への攻撃等が始まったら鎮圧しろと」
カンナが机を激しく叩く。
「愚かな! 誘導であって攻撃は論外です!」
警備局の人間がカンナに「落ち着け」と諭す。
「装備は」
「装備?」
ジェネラルは当惑した。
今度は警備局の人間が驚愕する。
「まさか実包?」
「持ってると思う、正式装備は御覧の通りだ」
「いかれてる」
警備局の数名が呟く。
「奴ら撃つぞ、そうなったら向こうが官軍だ。えらいことになる」
カンナはため息交じりに言う。
「命令が常に正確で火器使用が常に正確か、そんなの誰が管制できるというんだ」
カンナには子ウサギ公園での経験があった。
そして、最悪の報せが聞こえた。
「治安部隊が前進を開始したぞ」
席から立ち上がり、カンナは書類を叩きつける。
「あんたらのアホ面はうんざりだ! 小官は現時刻をもって休職いたします! 失礼!」
カヤはどうするべきか分からなかった。
治安部隊が対応を引き継いで1時間。
破断限界点は訪れた。
「戒厳令をーっ撤回せよーっ!正式な認可無き政権を、許さなーい!」
「「「許さなーいっ!!」」」
ガス弾銃手が隊列を並べ、ブザーを三回鳴らして最終警告する。
しかしデモ隊はまだ進む、当たり前だ、ミノリの手から既にデモ隊は離れている。
ここにいるのは「日常にいろいろ不安と不満を抱えた群衆」で、そして先頭数列以外治安部隊が警告してる事を理解していない。
シャーレやヴァルキューレは群衆を常に移動させることか、完全に停滞するかを選ばせる。
前者がシャーレ、後者はヴァルキューレのやり方で、人海戦術で止めて飽きるまで待つのが日常的だ。
『鎮圧開始!』
火ぶたが切られる。
ガス弾がさく裂し、カイザーが自動擲弾銃を転用したガス弾銃を猛射する。
空を何本も白線が飛び、液化した催涙剤が飛び散る。
『前進!』
重装歩兵の様に隊列が横隊で進むが、鎮圧開始で群衆のそれまで主体が無い恨みの対象を見つけた。
最悪へ事態が転がり落ちる、治安部隊が長い間待たされた恨みからガス弾銃を直射し始めた。
前面の群衆が四方へ四散しようとするが、街区を跨いで警戒中の別の治安部隊と衝突し、大通りが開ける。
「見ろ! 邪悪な権力の犬が本性を現したぞ!」
『一斉検挙!』
群衆を蹴散らした治安部隊は、前衛と同じように薙ぎ払えると考えていた。
疲労と興奮と緊張からガス弾銃やビーンバッグ銃、ペッパーガンが投入され、体制側の先制攻撃はミノリの堪忍袋を断ち切らせた。*22
前進しすぎた特型警備車が縄を掛けられて引き摺り倒され、火炎瓶がぶち込まれる。
『後退するな!下がるな!放水車何をしてる!』
建物の屋上へ上がった工務部員が、SVDドラグノフを構えた。
まず、治安部隊で後方のヘルメットや無線機を背負ったやつ……。
パーンと乾いた銃声が轟き、首元へ撃ち込まれた狙撃は前衛の中隊指揮官を撃ち抜いた。
「撃たれた!狙撃されてる!」
「応戦しろ!応戦!」
続けて、デモ隊の中から数名が走り出る。
小包が何個か空を舞う、それは三回ほど撥ねると、熱と圧力で盛大に吹き飛んだ。
前衛にいた中隊が忽ちに壊乱、続いてミノリが率いる直卒の本部部隊が丸太を抱えて突撃する!
『さァ!連邦生徒会へ向かって、突撃しようではないか!』
「やっちまえ!」
誰が許可したわけじゃないのに治安部隊は実包の使用を始める。
破局はついに訪れた。
治安部隊は完全にフルオートの水平射撃を開始し、工務部員*23はさらに集まり、RPGが空を駆けた。
飛び込んだ指揮車両は、最後まで治安部隊の混乱を止めようとしていた良識派の手綱*24を断ち切った。
サオリはカフェの中で、先生と共に客人を待つ。
トリニティ系のこのカフェは紅茶やコーヒー、そしてドーナツなどが名品である。
「……先生」
「よう、前より良いツラしてるぞ」
「冗談じゃない」
カンナは席へと座り、頭を抱えた。
「私なりに正義を通しました、でも私は先生みたいに強くなれなかった……」*25
「話は聞いてる。退任辞さずと」
「ですが止められなかった」
カンナのデスクの水滴を見ないようにするくらいは、サオリも出来た。
事態は完全に混乱へ向かいつつある。
誰もが怒り狂い、正義を求める群衆は押し寄せている。
混乱は破壊を呼んでいる。
「私はなにも出来なかった……」
「まだ終わりじゃないさ。最後にお前が必要になる、お前は勇気を失って居なかった、なら全て取り返せるさ」
先生がはっきりとそう告げた。
「それにまだ、お前はお巡りさんだからな」*26
DUが燃えている。
これが私の求めた正義だと言うのか?
ユキノは自己の過ちが起こした結果に対面した。
正義と逃げ、思考から逃げ、責任を持たず、その結果がこれだ!
違うと言うか? じゃあ見ろこの混乱は!
良くも悪くもDUやシラトリ区の住民はシャーレの平和に慣れ過ぎたのだ! 彼らは平和の生活が今日と同じく明日も続くと宗教の様な漠然とした前提で生きていたのだ。
それを作為的に足を引っ張る存在が陰に隠れて続けている事を耐えるわけがない!
お前のやっている事はワカモ以下だ。
何故なら彼女は堂々と扇動して破壊し、もはや天災と認識されている、そして堂々と強い。
ユキノがただ、自分が何をしたかったかもわからなくなりそうだった。
そして、子ウサギ公園地下駅の隠されたサイロを爆破する様に連絡を受けた時。
ユキノは最後の逃げを決めた。
責任からの確実な逃亡は死ぬことである。
ど、どいつもこいつもなんだと言うんだ!
カヤは憤慨していた、チェリノにクーデターだ暴動だと抗議したら純粋な目でこう言われた。
『だからなんだ? 月曜日にクーデターされても日曜日までに取り返せばチャラだろ。カムラッド先生もそう認めたぞ』
「滅茶苦茶言わないでください! あなたの所の生徒でしょう! 連れて帰って下さい!」
『おいらとしてはゴミがゴミ箱に入って四方よしだ、一々知らん、おかげでおいらは3日も平和だ!』
チェリノは『ミノリの奴な、あれでも座興が面白いからな』と褒めて勝手に回線を切った。
連邦生徒会をゴミ箱呼ばわり、権威と権力をなんだと思っている!
無論チェリノとミノリは「なんとも!」と返す奴なのは知っている、カヤが許せないのはそうした連中がシャーレの言う事なら聞いていたことだ。
もともと工務部のデモに強硬案──半端な案──を通させたのも、工務部が過去数ヶ月暴力犯罪に関与してないからだ。
すっかり牙を抜かれたと考えられていた。*27
それがなんだ、私の権威には屈さないではないか、なんでだ、どうしてだ。
「どうするんだねカヤ代行」
ジェネラルはソファーで足を組みながら、加熱式アイマスクで休んでいる。*28
カヤがことの騒ぎの対応を依頼したら、指揮レベルのミスで事態は各所で大混乱だ。
あちこちでフーリガンやらヘルメット団やらが便乗しているし、シャーレの時代の安定が失われ憤慨する市民が各所で徒党を組んでいる。
シャーレの出動を要請するか辞職するかとヴァルキューレは次々幹部が休職を宣言し、事実上暴動の対応を「そんなにやりたきゃ自分でやれ!」と治安部隊に愛想をつかした。
なんなら数分前にヴァルキューレの警官が壇上でお上批判をおっぱじめ、集会で笑いの渦を生んでいた。
「事態は最早ゲリラ戦です。圧倒的な力を以て秩序を取り返す!」
滅茶苦茶なこと言うなコイツ、とちらりとアイマスクを開けてジェネラルは内心そう思った。
言わなかったのはカヤが目の殺気が色濃く、殺意が滲んでいるせいだった。
カヤはもう何をするか分からない不発弾だ、ジェネラルはそれでも仕事をしている、彼は逃げれる立場ではない。
ここでしくじったらアビドス砂漠が終の棲家である。
あんなところ行きたくない、現地生物も住民もみんないかれてる、このまえビナー釣りと称してまたなんかしてたし、最近はカイテンジャーとかいう不審集団がうろついている。*29
「だがゲリラ戦で勝つには20倍の兵力が居る。ゲリラには戦力倍増要素は無意味だ、その出費に連邦生徒会は耐えられないだろう」
首の関節がキュイキュイと痛む。*30
「私が潰れれば貴方も潰れるんですよ?」
「だがねえ、プレジデントは不採算事業と見なす可能性があるんだぞ」
「そうしない様に対策しなきゃいけないんでしょうが」
カヤになにか言おうか考えたが、諦める。
「別に良いんですよ、私が潰れて貴方たちの投資の何もかもが無価値になっても」
カヤの言葉はある意味真実である。
カイザーはあまりにアビドス砂漠以来入れ込みすぎた、すでに帰還不能点に行きつつある。
「……しょうがないですねえ」
カヤの次の命令は流石にジェネラルも鼻白んだ。
「子ウサギ公園地下の弾道弾をシャーレにぶちこみます」
「はあ」
ジェネラルの制帽がずり落ちる。*31
ジェネラルは幾つかの計算をして、よしと相槌を打つ。
録音機を稼働させる。
「カヤ代行。君は本気かな」
「将軍」
カヤの眼が怪しく輝く。
「デカい山火事はデカい爆発で消すんですよ」
録音機を止める。
了解したと退室し、ジェネラルは玄関で待機している部下に言った。
「おい、この封筒を郵便で送っておけ。速達でな」
「はあ? ですがあて先は」
「気にするな」
あて先はシャーレ本庁、部下は言われた通りにした。
ジェネラルは会社もろとも死にたくなかった、そこまで付き合う義理はない。
俺は生き残るぞ、このカオスの中を!*32
【次回予告】
愛を見たのが幻想なのか。
心の渇きが幻想を生むのか。
戦いの果てに理想を見るのが幻想に過ぎないことは、
兵士の誰もが知っている。
だが、あの瞳の光が、唇の震えが幻だとしたら。
そんなはずはない。
ならば、この世の全ては幻想に過ぎぬ。
では、目の前にいるのは誰だ。
次回「 自らの意思にもとづいて 」
時に痛みを見せる愛もある。
どんな話が見たい?傾向を見たいだけです
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モブ回
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一部の連中を原作と交換してみた
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上を踏まえた掲示板回
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空飛ぶモンティパンソン回
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あの世でもこの世でも無いとこの連中回