キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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本編ストック切れたので初投稿です。


今までの敵への評価と組み合わさってます、本作のアンチ回の一つだと思います。


会心の友よ来たれいざ

 宿泊施設からお土産を送り出した後、俺達はユカリとの待ち合わせ場所へ移動した。

 

「せんっせーっ!」

「今日も元気だな、良い事だ」

「先生の方がアレだけ怒ってたのが身共は驚きましたお陰で家からすぐ出れましたの!」

「ただでさえややこしいのにお前さんの実家まで出て来られると本当に困るからなぁ」

 

割と本音だ、そこまで絡んだらややこしいんだ、地方閥の政治案件は困る。

 

「で、本日の先輩は?」

 

 ユカリは思い出したかのように話した、歯磨きチェックまでしてくるかぁ、面倒見がいいねぇ……。

 面倒見の良い奴は俺の周りに多いが、そこまでの奴は居ないと思う、だからこそ諦めなさいと言うと思うが言えないんだよなぁ。

 アイスは一日一個まで、ゲームは一日一時間大したものだよ。

 ゲーム開発部の面倒も見てくれねぇかなぁ、時たま変な商売始めてるから目が離せないんだよ。

 

 

 

 ユカリに引っ張られながら、百花繚乱の事務所と思われる場所に連れて来られる。

 射撃標的や機材倉庫などが置かれており、かなり古そうだが、さびれているという雰囲気ではない。

 10か月放置され続けてるわけでもない、ユカリの前評判にたがわぬ奴らしいが、それゆえに嫌な予感がする。

 ただ宿舎は人気が絶えて久しいのが良く分かる、遠目に見ても寂し気だ。

 百花繚乱調停室に着くとシズコが居た、百鬼夜行の中でも常識人だが空回りする事も多い、面倒見は良い。

 こちらが入室し、一礼すると二人とも答礼した、態度も丁寧だな。

 

「シズコ、談合か?確かに解散の話が出てる武力組織と興行の元締めがなにしてんだ?」

「違いますよ! 先生、出会い頭になんてこと言うんですか!?」

「それなら何でまた」

 

 向こうは先輩と後輩の感動の体面になると良いが……。

 ユウカとサオリはこの後の展開想像して、うんざりしてるぞ。

 幾らかの会話がなされているが、大型犬と猫のじゃれつきを思い出す。

 

「ああ……うん。そうだね、久しぶり。相変わらず元気そうで何より。タイミングはあんまりよくないけど

……解散令が出たとたん人が集まる、反吐が出る」

「シャーレの要件の方が先で良いですよ、私は後日でも大丈夫なので!」

「いや、商談の方が大事だろ!リベートの話でも違法性が無いように聞いておいてやるから」

 

 機嫌は最悪になってしまった、イタズラならシャーレは間に合ってるんだ! 運命にまでイタズラされてたまるか!! 

 大体知ってたと返し、応援してると言う、シズコに関しては割と本気で言っているが彼女は常に半信半疑だ。

 

「何もしなくていいんで、こう安全な場所に居られたら……ユウカさん頼れるのはあなただけです」

 

 人を何だと思ってる? 全く前同行させたユウカの方信用しやがって。

 その時は短期だったり観光目的じゃ無かったもんな……、まあ正直ユウカのが信じれるのは分かる。

 

「ともかくお祭りのクライマックスで「勘解由小路の巫女様」のお力を借りたいと思ってるんです」

 

 爆弾投げたのは俺じゃなくてシズコだったかぁ……。

 キキョウが言ってた、勘解由小路家についてはユウカが調べた通りだった。祭事や行事など重要な役目を担って来た一族。

 役満だが、百鬼夜行以外だと殆ど知らんぞ、キヴォトスはローカル名家が多いんだな、まあ広いから当然か。

 

「実際に二十年前のお祭りでも、舞を担当したのが勘解由小路家だったのです。まだお返事をいただけてなくて……ご自宅に伺ってもご不在で……」

 

 記録によれば、二十年前は祭儀が行わずじまいだったようだ。

 俺がマネージャーなら断ってたぞ、良かったなシズコよ。

 今回俺が迂闊に口開くと事故の元だからな……

 

「百花繚乱に「勘解由小路の巫女様」が居ると聞いて、こちらに伺ったんです!」

「そういうことみたいだよ、勘解由小路ユカリさん」

 

 ユウカとサオリが俺の顔を見てきたもう俺の噴火対策だ、ユカリも俺とキキョウ間で目が泳いでいる。

 昨日の咆哮が記憶に新しいのだろう。

 シズコもあれ私? 何かヤバい事言いました? と言う顔だ。

 

「ユカリ言いたい事が有れば言え、俺は許す」

「申し訳ございません、お祭り運営委員会の委員長殿。身共はお力添えできませぬ、百花繚乱でありたいのです」

 

 ユカリは丁寧に礼をした。

 シズコへ横からユウカが軽く耳打ちする。

 

「詳しくはこちらへ」

「はっ、はい」

 

 周りの様子に流石のキキョウ先輩も驚いているな。

 シズコは話を聞いて「参ったな」と顔を手で覆った、彼女自体はかなりのリベラリストだ。

 

「ユカリ、続けて」

 

 幾らかの話し合いが続く、我々は少し離れた位置で待機中だ。

 しばしの会話の末、キキョウが「少し」と手招きする。

 

「先生。あなたユカリに何を吹き込んだの」

「吹き込んだんじゃない、ぶん回されてる」

 

 呆れたと言いたげな顔をした、これは俺のせいじゃない。

 

「ユカリ、聞いての通り百花繚乱は事実上機能不能よ。解体もやむなし」

 

 何かを言おうとするユカリを片手をあげて制止し、キキョウは続ける。

 

「それにね、解体反対に際して強硬に反対しても、その先にあるのは”連邦からの介入”よ」

「今回は合法性が高いから介入せんぞ、まだ戦闘も儀式だけだしな」

「あらてっきり私は中央が安定したのを良い事に地方へ介入の手を伸ばしたいかと。失礼解散令の後に来られたものだからつい、アビドスやエデン条約みたいにならないと相手にされ無い物かと」

 

 とても良い笑顔をしてやがる、まだ何もしてねえぞ! 

 ユカリは驚いて開いた口が閉じてない、いい趣味した先輩居るね君。

 中央からの介入、確かにまあそうは言えなくはない。

 

「それとも、もしかして先生は出先機関としての百花繚乱を欲してるのかしら? 最近は警察権力まで飼い慣らしたものね」

 

 少し落ち度はあるがタイミングが悪すぎた、アリウス再建計画が一応落ち着き、子ウサギ公園から始まった一連の騒動があるが、そこまで言われる筋合いはねえ。

 

「良い、ユカリ。貴女が何を期待してるか分からないけど、貴女は貴女で歩めばいいの」

 

 どのみち、百花繚乱はその任務を終えたのだから。

 キキョウの言葉に感じた違和感がようやくつながる。

 

「だとすればだ、お前はなぜここにいる?」

「何故って、私はここの……」

 

 それが彼女の真意だろう。

 

「以前にうちにセキュリティ講習受けに来たのも個人としてか?」

「……それは」

 

 キキョウが言葉を詰まらせる。

 

「素直になれよ、自分に嘘をつくと不幸になるぞ、昨日ナグサを見つけたがお前ら全員もう少し我儘になれよ。もう2年したら言えなくなるぞ」

 

 どこかのゲーム開発部並みに素直じゃマズいけど。

 シズコが「罪悪感と空気のせいで玉露と茶菓子の味がしない」と呟いていた、気持ちは分かる。

 

「他の委員にあったんでしょう、私だけじゃダメ、前線指揮官と指揮決定者が居ないもの。

 先生ならわかるでしょ? それで新兵の面倒は見てあげれないの」

「ユカリの奴をとりあえず委員長なりにしてお前が補助して実務で育てるのはどう、未来には繋がると思うが」

「百花繚乱は武装組織だけど軍事組織じゃないの、不味いのは今持ってる百蓮を持って居るナグサが居ないから正統性の保証の象徴すらないの」

 

 参ったな、精神的問題と承認の問題は実際根が深い。

 軽薄な根拠と無視する場合、非常にまずい事になるのだ、なまじ歴史があると変えようがない。*1

 

「あー……確かにな」

「先生みたいにそう言うのを踏み倒せる戦功も華やかさも無いの、それに残念なことに継承戦をしてもあの状態でもナグサは私やレンゲも勝てると言えないぐらい強いの、そこの蒼い方ぐらいじゃないの?」

「普通の決闘と違って代理は無理だよなぁ」

「結論まで早いんだから、ユカリが走る前に来てほしかったんだけど?」

 

 諦観と期待とが綯い交ぜの顔で、呟いた。

 実情は見えてきた、続けたいがナグサが完全に壊れかけなので全員が何とか解放しようとしている。

 問題はナグサが頭良すぎてそれを察して猶更壊れかけてる! ちくしょう詰んでる! 

 

「ごめん皆。今は、帰って」

「キキョウ先輩……」

「先生にはもう少し話があるから」

 

 そういわれ、作戦参謀との継承戦は出来なかった。

 ユカリは完全にげんなりと、気落ちしている。

 継承戦という大義名分で開始されたクーデターが、その内実かなり面倒な根幹原因があると判明したからだ。

 とぼとぼと歩いていくユカリに、キキョウは無言で見送った。

 

「なぁ、アレだと絶対家業戻ってもしくじるぞ」

「今回の事悪いと思ってるなら、あの子のことお願い」

「あの……?これを見た後私はどうすれば?」

「祭りの準備?」

「それでこうなったんでしょうに!」

 

 シズコがんな事言われてもと呆れた顔をした。

 片手で手招きして、サオリに頼む。

 

「追跡か?」

「……襲われない様にはしてやれ」

 

 それ以上は介入の口実がない。

 サオリは頷くと、ふっと姿を消した。

 

 

 

 夕闇がやって来た頃、露店の立ち並ぶ通りは活気が賑わってきた。

 行きかう人々は続々と増えている、既にハイランダーは増便鉄道を増やし、臨時列車の用意もしてるという。

 そんな中でベンチに座ったアラタたちは浮かない顔をしていた、何人かの魑魅一座は湿布が貼られている。

 

「百花繚乱はともかく、シャーレまで出た、どうすりゃいいんだあ」

「やっぱ諦めたらいいんじゃないですかね」

「諦めちゃだめだろうが!」

「でも勝てないっすよ、最近はヴァルキューレも隊員や装備改善されてるし、うち等金もヒトも物もないじゃあないですか」

「あいつ等に追いやられたヘルメット団とか不良がよく縄張り襲いに来ますからね」

 

 つらいげんじつ! アラタは天を仰いだ。

 金が無いのは今回の祭りで解決して、物も今回で解決して、名が売れるから人も来る! 実にクリーン! 

 バラ色の計画は初手から滅茶苦茶にされた。

 突然青いの二人と変な大人が来て、百花繚乱に与したと思ったら突如として我々を袋叩き! 

 無慈悲なメンポを着けたその女は、堂々たる立ち姿を見せつけた。

 

「エート、あなたがアラタさん? ドーモ、シャーレです」

 

 それと同時に決断的カラテが唸りを挙げた!

 ブッダ! なんたる組織暴力だ! 

 

「誰にも間違いはある、無知ゆえの増長も。

 ジョークではない、シャーレは常にシリアス。

 シャーレの特務分隊はブラフではない、実在するのだ」

 

 脳裏をよぎる恐怖の影! ブッダ! アリウスリアリティショックだ! 最近闇市でよくこうなる人間が増えている。

 皆さんは正気を保てているだろうか! 過呼吸や目眩、嘔吐の症状が出たら直ちに本著*2を決断的ドネートして耐えていただきたい。

 

「ち、ちくしょう! シャーレと!シャーレと百花繚乱さえなければよお、あたしらは弱肉強食ヒエラルキーの頂点だったんだぞ!」

 

 無論そんな訳無い、アラタは知らないが別の魑魅一座も以前シャーレとお祭り運営委員会にカチコミされている。

 だが過去とか色々に目を向けないのがキヴォトスの悪党である、細かい事にくよくよしない! 

 と、言いたいが流石に何度も囲んで暴力された記憶は流石に当日で忘れられはしない、脳裏をよぎる理不尽な暴力! 

 特に理由はない! お前らが目障りと言わんばかりの殴打! 銃撃! 蹴り! 塵芥のごとく吹き飛ばされる仲間! 

 

「そ、そうだ……ダチもあの大人たちに」

「あたいもしばかれた! 祭りに乗じて10万ぽっちせしめようとしただけで、血も涙もねえ!」

「す、魑魅一座に救いはねえのか……! あ、あたしたち、こ、このまま」

 

 ブッダシット! 先に仕掛けたのは誰かまでは覚えていない! 

 

「莫迦かテメエら! 滅んで堪るか!」

 

 アラタが吠える。

 こうした威勢の良さが彼女がリーダーらしくある由縁である。

 しかし団員のウケは今日は流石に良くない、血も涙もない暴力は覚えてる、多分数日は。

 

「やっぱ無理でしょ」

「カイザーも無理だったしねえ」

「SRTも勝てないっていうよ」

「このまえヒナ委員長との演習凄かったよね」

「ゲヘナのパーティーのやつ?」

 

 アラタは流石にダメか、と頭を切り替える。

 過去の目標に拘泥しないのは良い事である、諦めて祭りで遊ぶかと考えるアラタたちに、鈴の音が響く。

 

「鈴? 気取ってんのか、えらく雅な奴がいるなァ……」

「ボスなに言ってるんです。聞こえませんよ?」

「え?」

 

 ちりーん、ちりーん、と鈴の音が近づく。

 

「近づいてるだろ、鼓膜までやられたか」

 

 無理も無いよなと思うが、仲間は全員聞こえないと言う。

 音の方向をみていると、流れの虚無僧のように誰かが近づいてくる。

 

「勝ちたいんでしょう?」

 

 アラタは数歩後退りしようとした、身体が動かない。

 

「猫の手、ご入用ですか?」

 

 雑に聞いてもシャーレ相手の鉄砲玉は勘弁だと思ったアラタは逃げ出した。*3

 時に恐怖により選んだ選択肢も、賢い選択肢となる。

 

 

 

 ユカリはどうやら家に帰ったとサオリから連絡を受けた。

 まずい、介入の権限や合法性がない。

 シズコの話を聞く限り、ユカリはかなり優等生だったらしい、しかしながらシズコは「でもあの頃のユカリさんより百花繚乱時代のがいいと思う」と言っていた。

 正直なところそれはそのはずだ、対等な個人として扱ってくれたのだから。

 要するに武力組織特有の何物でもないただ個人として評価される世界が、彼女を救っていたのだ。

 

「おやおやこれはシャーレの先生。お初にお目にかかります」

 

 横から声がした。

 相変わらずバカみたいな服装した奴が出てくる、キヴォトスは横乳は恥ずかしい事じゃないかもしれん。

 話を聞くに花鳥風月部、怪文書を書いた本人らしい。

 しかしながらくどくど言い回しが長いわりに要点が無い発言だ、尺稼いで許されるのはサメ映画だけだ、お前小説とかで文字数稼いでそうだし、ページ数が長いのを無条件に崇拝してそうだな。もしくは話を無駄に引っ張りそう。

 

「あのお。聞いておられます?」

「中身が無いから右から左へ通り抜けたよ」

 

 途端に顔をむっとさせ、すぐに戻す。

 

「会話を楽しまないとは風情がございませんねえ」

「コトリの”原子物理学及び超電導からみる融合動力とその将来”は風情も夢もあるが、お前のそれは独りよがりだろう?」

「……これから起こる事もそう受け止めれるでしょうか?」

 

 ちりーんと音が鳴り、少女が消えた。

 爆発、騒音、戦闘が奏でる音。

 まーた聞き慣れた戦闘騒音だ。

 

「誰かがおっぱじめたらしい」

 

 誰だ、魑魅の別のアホか? ワカモ……いやアイツがやるならもう少し派手だな。

 ユウカを呼び、データと確認を依頼する。

 

「あれ……」

「どうした?」

「繋がりません! オフラインです、ECMではなく、電波がないんです」

「参ったな」*4

 

 ユウカは役に立たない戦術端末をしまい、MPXを取り出す。

 流石に言いたいことは分かる、察している。

 

「先生のこういう時の定位置は?」

「騒動の中心!」*5

 

 満点。

 戦闘地域に走りだすと、見慣れた連中が近づいてくる。

 忍術研究部だ、ミチル部長が手紙を握りながら走ってくる。

 

「でんれーい!」

 

 全域で通信が途絶してるらしい、ニヤとカホから届いた最新情報を見るに、各地域で怪物と交戦中とある。

 爆心地は祭りの会場らしい、よろしい、要点は掴んだ。

 ケッセルシュラハトはちゃんと定まっている。

 

「ミチル」

「はい?!」

「ニヤに”俺は騒動の中心地に居る、何かわかり次第また伝令を出せ”と伝えてくれ」

「また走るのお!?」

「それが忍者の仕事だ! 行け!」

「にょえええ……」

 

 ミチルたちが走り出すのを見送り、同じく走る。

 相変わらず忍術研は一見すればただの凡百なのに実力者だ、正直忍者らしくは有ると思うが。

 

 

 

 

 各所で炎上が起きているが、昔の俺より燃やし方がなってない。

 なによりこの破壊で得られる何らの戦略・戦術的意味がないのだ、無秩序な混乱は俺が一番嫌う事だ。

 修行部や運営委員会を現地徴用し、臨時で作戦部隊を編成する。

 前方から戦闘騒音がする、独断で抵抗する気概がある奴がまだいたか。

 

「目標前方200m、突撃!前へ!」

 

 傘の怪物や奇怪な連中をなぎ倒し、突破を開始する。

 まだ元気な奴はだれかとみれば、ナグサだった。

 心底驚いた顔をして、何故来たのかと尋ねてきたが、愚問である。

 

「俺は無秩序な混乱が大嫌いなんだ」

「普通ここで優先されるのは自分の命じゃないの?」

「男の人生は笑って死ねるかどうかが肝要でな、後悔し苦悶と屈辱の中で生きていくより悔いなく燃え尽きて死ぬ方が良い」

 

 そういう点ではあの先生(プレナパテス)はちゃんと死んだな、ふとそう思う。

 ナグサは本気でなんでと尋ねた、サングラスを身に着ける。

 

「大人のやるべき事だからだ」

 

 騒乱? 炎上? それがどうした。

 アフリカで自分らの戦列艦が吹き飛んだ時の方が肝を潰したぞ! 

 恐怖と言うが、恐怖は欲と勢いが絶対的構成要素だ。弱火でちょろちょろ炙るな、肉焼いてんじゃねえんだぞ!

 

「というわけでナグサ、パーティーへようこそ。先生は君を徴発する」

「……強引だね」

「独り占めは良くないだろう?」

 

 爆発が巻き起こり、フィーナが機関銃を撃ちながら後退してきた。

 レンゲも合流したらしいが、かなり慌てている。

 

「やばいやばい! 弾が効かないデカいのが出てんだ!」

「ちゃんと当てたのにか」

「当てたって!」

 

 しょうがない、俺の出番か! 

 伝令でまたイズナが走ってきたので、火勢が風で煽られないよう風上から制圧してる点を連絡させる。

 火勢猛烈な場合は取り壊す許可も出たらしい、幸いなんとか消火班を展開させつつあるから最小限の破壊で済むと良いが。

 

「そ、それと」

「なんだ」

「現在サオリ殿が会場南部で大きな猫と交戦中です!」

 

 報告を終えてまたイズナは走り去る。

 大きな猫? サオリが交戦中という事は高脅威目標だと言う事だ。

 

「まずい! うわさが怪談になってる、急がないと」

 

 ナグサが走るのを追い、サオリの方向へと走る。

 火災と爆発は南部でさらに激しくなっていた。

 

 

 

 9㎜弾を連射しながら、サオリは各所を飛び回って交戦していた。

 未知の怪物であるが、幾ら撃ってもまるで効果がない。

 

「凄いな! まるで効いてる感触がしないぞ! 流石妖怪だ、本当に死なん! 」

 

 ヒエロニムスもこれくらい仕事してくれればさあ。

 そう思いながら弾が切れたAR-15を放り投げる。

 続いて魑魅一座の物だったらしいRPGを撃ち込むが、するりと通り抜けた。

 

「また量子力学的何かか?」*6

 

 弾が効かない相手はもう見たよ、サオリはためしにと水風船を投げつけてみる。

 ぱんと弾けた水風船は水をまき散らし、打撃にはならないまでも嫌がりはしていた。

 そこはネコなのか、サオリは何個かの水風船を手に取り、引き付ける。*7

 時間を稼いでしまえばそれでいい。

 内戦を思い出すこの炎を作った奴に落とし前は付けさせる。

 

 

 

 怪物だ化け猫だと対応を計画していたら、またあの長い長文の駄文書きが出てきた。

 しつこいぞ、お前の文章からは自己投影の匂いがして嫌なんだ。

 俺を無視してナグサを煽り散らしているが、野次を合間合間に挟んでやると良い顔をしてやがる。

 

「うるさいなあ、取り敢えず引っ込んでなさいよ」

 

 銃声と共にキキョウの声がした。

 シュロとかいう駄文書きも想定外だったのか、やや驚いている。

 正直、恐怖と言うものをなにも理解していないので聞いてて飽き飽きして来た。

 

「まあ良いでしょう。”シャーレの先生”の要素が加わってなおどうにでもなり……」*8

 

 シュロは目を見開く。

 これが恐怖と言うものである。

 

「え」

 

 右ストレート! 

 恐怖とは衝撃と勢いなり!

 

「お、お前は実体があるのか」*9

 

 シュロも幻かと思ったが違うらしい。

 殴られたシュロはその余裕のある表情を完全に崩していた。

 

「生徒を、子供を殴るだなんて酷い大人ですねえ」

「テロ首謀者を殴るのは悪い事なのか? 知らなかったなあ、俺ギロチンの使い方知らないから略式なんだよ」

「なるほど、大人の指導ですか……くっだらない!」

 

 左ストレート! つづけてアッパー! 

 

「殴ってなぜ悪いか? 撃たないだけ感謝してくれ」

「そうして大人の力を使うしか」

 

 蹴りからの回し蹴り! *10

 

「そうだ、子供と遊んでいるだけだよ。こんなもの所詮はお遊びだ」

「お遊び」

「ああ、破壊活動としては2流だ。昔町を焼いたし、焼かれたが、あの時の方が意味があったなあ」

 

 シュロに向けてにこやかに微笑む。

 町を焼くのは結構、ならせめて作戦目的や明確な目標くらい立てて真面目にやれ! 

 全く、キレて弾道弾持ち出すアイツのが真実に近かったぞ、怖いなら消してしまおうは理解できる、詰めが甘かったが。

 だから俺はあいつを殴らなかった。

 理事もそうだ、奴は己の全てを賭けて博打に出た、故に許したし、殴らなかった。

 リオ会長もそうだ、彼女は世界を救おうと抱え込み過ぎた、それは身に余ると理解していたのに、それでも成そうとした。

 まあモモイは許せなかったから埋めたりしようと思ったけどユウカが居るからやめた。*11

 ナギサやミカだってまだ理解できた、無知や誤解はそれは罪ではない、改めないから罪になる。

 ベアトリーチェはぶち殺そうとしたら先に始末された、いまだにこれは許してない。サオリ達は兵隊だ。指揮官の無能に付き合ったので十分だ、つるべ撃ちにしたしな。

 ミヤコやユキノやカヤもまだ許せる、彼女らは出来得る限り足掻くと決めた、だから全力で叩き潰した、それが戦う相手への最大の敬意だからだ。

 だがお前はダメだ。

 

「てめえは所詮三流悪党だ、サド侯爵の小説読んで猥談師にでもなれよ」

 

 シュロの顔が歪む。

 おまえミームやそういう物で俺を利用できると思ったのか? 

 

「演目は変更、クソカッコいい先生たちが化け猫退治するんだ、これは売れるぞ」

 

 王党派の方が脚本センスあったぞ。

 陰謀やりたきゃフーシェに弟子入りしろ! 

 

「あったま来ました……」

「お、ようやく対等だな!」*12

 

 シュロが何かを取り出す。

 卵、人形? その物体に書かれていた顔はユカリ。

 

「手前、展開を削るのは嫌なのですが」

「巻け巻け、無駄に容量増やすな、ゲーム開発部以下だぞ」

「人の話くらい何故聞けないんです!」

「駄文を長々と聞きたくないからだよバカ!」

 

 全く、ゲマトリアのが聞き分けが良いぞ、最近俺の前に出なくなった、一人は永遠におさらばだがな。*13

 なにが嘘だの二面性だ、お前タイユランとかそれだと何面あるんだ? *14

 だから貴様の言う事は詭弁なのだ、そもそも人間は一面ではない、数枚の面が密着し屈折して絡み合っている。

 

「黙れ黙れ黙れ! 風情と風流を否定するな!」

「うるせー、所詮、から揚げ喰った箸で書いた駄文以下の落書きが」*15

「お前が何を言おうとあれは……あれは……?」

 

 ナグサが小銃を構える。

 シュロが目を力強く見開いている。

 

「なんで」

「なんでって、駄目じゃないか。お前が作者だろ? 勝手に動くことくらいあるだろ……」

 

 嗤えよ、なあ、さっきみたいに。

 想定外がなんだ、海軍がはじけたりしたわけじゃない、ましてロシア遠征ミスったときでもない。

 せいぜい先手を打ったオーストリア軍に、イタリア戦役で先手打たれた時と比べても軽いだろ。

 

「居場所がないってわかってた、自分が違うとわかってた、だけど」

「やかましい! 喋るな!」

「それでも私は百花繚乱の委員長代理!」

 

 良く言ったナグサ。

 震えていてもしっかり構えているなら、それは勇気なのだ。

 絶対に嗤うべきではない、それを嗤うものは真実の報復を受けるだろう。

 

「ふざけたことを!」

「なんだよ、おい、まだ逃げるな、完結させろよ!」

 

 シュロの後頭部に小銃弾が突き刺さる。

 

「日に二度も小銃を後頭部に撃つとはなんて日ですわ! 厄日ですの!」

 

 ユカリが居た。

 正装の上着を脱ぎ棄て、百花繚乱の青い衣をまとっている。

 

「主人公も到着したか、良く来れたな」

「飛び出してきました! そもそも身共はまだ解任されてませんから、有事とあれば独断やむなしですわ!」

「……キキョウ、お前どういう教育した」

 

 呆れたとキキョウが顔を覆っている。

 ユカリは手馴れた動作で再装填し、叫ぶ。

 

「手を挙げ床に伏せなさい! 破壊活動の容疑で拘束いたします!」

 

 全員が銃を構えた、出しゃばる脚本家が好かれるはずが無かろう。

 

「全て終わり! 手前ら打ち切り!」

「そんでまたこの馬鹿猫頼りかよ、自分の特殊部隊くらい持て! みんな持ってたぞ!」

「うるさいこの戦争莫迦!」*16

 

 どんと巨大なトーテムが突き刺さり、クロカゲが更に現れる。

 しかし心なしかどれもこれも動きに覇気がない、当たり前だ、寄生虫でしかない以上母体から離され、もう神秘性はない。

 テーマも勢力図も世界の地図も俺が塗り替える! 

 クロカゲが跳躍してとびかかろうとするが、側面から何かが撃ち込まれた。

 

「97式自動砲!?」

「にゃはは……お待たせしました」

 

 ニヤは恥ずかし気に、本当に恥ずかし気に言った。

 珍しく素直らしい。

 

「良くないですねえ、脚本家はスジ軽く書いたらあとは流れに身をまかせな」

 

 お前の方が怪談師に向いてんじゃねえか? ニヤの言葉に悪役が入れ替わりそうだと笑う。

 シュロを見てみると完全に感情を剝きだしていた。

 

「手前らに美しさの何が分かる!」

「分かるぞ」

「あ?」

 

 シュロの振り向いた先に居たのは。

 

「アリウス!?」

「地獄でマダムによろしく!」*17

 

 頸椎へのライフル銃フルスイングが入り、続けて腹へ蹴り、くの字に曲がったところへ顔面に膝蹴り! 

 続けて頭を掴んで大地に熱い逢瀬をぶちかます。

 さらに手にしたPM-9をワンマガジン掃射した。

 

「やはり実体があると便利だな」

「なぁ、物理攻撃通じないだけで恐怖する訳無いだろ」

「トキのスーツでもみたよな」

 

 シュロが立ち上がろうとするが、ごん! とサオリが踏みつける。

 

「怪談はおしまい」

 

 

 

 乗っ取られた! シュロは完全にそれを確信した。

 この大人は軸を移させた、主役を転じさせた、恐怖を反転させた! 

 出来るはずがない! まさか! そんな”奇跡”あってたまるか! 

 

 シュロには知らない事だが、実のところ最初から決まっていた結果であった。

 彼の執務室に飾られた宝物、すなわち”前任の先生”の遺産たるカードと、この大人のカード、そう、恐怖の反転も、主役の変更も、既に彼はしていた。

 気付いた時には手遅れだった、そして何よりシュロを憤慨させたのはこの男の二番煎じと言う事であった。*18

 

 貴様は所詮偽物だ! 

 

 シュロは散々に叩きのめされ、逃亡を選択した。

 クロカゲに咥えられて。

 

 

 

 夜が明けた。

 火災の消火は終わりつつある、あのマヌケが形代動かしたせいで通信封鎖が解け、緊急展開部隊や連絡が回復したのだ。

 被害はそこそこのものではあるが、砲兵の滅多打ちよりマシだ。

 

「で、どうするよ」

「なにが?」

「継承戦」

 

 ナグサがえ? と首を傾げ、ユカリが思い出した顔をした、お前が言い出したんだろうが! 

 

「そうでしたわ! もともとそれをする為に歩き回ってたんですの!」

「忘れてたのかよ……」

「まあ、ユカリだし……」

 

 レンゲが呆れたと呟き、キキョウは完全に呆れかえっている。

 ナグサはぽかんとしているが、ユカリの眼はいつになくキラキラとしていた。

 無論勝てると言う見込みはまるで無い、しかしそれがどうしたと言うのか?

 物事には始まりが有り、終わりがある。

 

「まあ、初志貫徹も良い事だね」

 

 ナグサが楽しげに言う。

 

「お手合わせ願います!」

「こちらこそよろしく」

 

 開始と同時に、ユカリが額を叩きのめさせられた。

 もはや何も庇いようのない大惨敗だ、やっぱ無理だったよ、そりゃそうだもん。

 俺だってハンニバルとか最初の頃に相手したらこうなるもん。

 

「あーむごい」

「おいおい一撃だよ」

「良い腕だ」

 

 野次馬のサオリやユウカの声と、「やっちゃった」というナグサがたたずむ。

 消火用水から手桶で水をかけ、飛び起きたユカリに頭突きされた。

 極めて痛い、こういうタイプはやはり天敵か、俺の頭はこの手の連中によく好かれているのか。

 ムカついてきたな……。

 

「ユカリ! ふっかーつ! ……あれ、先生はなんでのびておられるんですの」

 

 ……後日、ユカリとモモイをアビドスへ連れて行こうと本気で決意した。

 この馬鹿どももう容赦せんからな。

 ニコニコしながら計画を練る事にする。

 それはそうとして、ユウカがレポートを提出したら、ヒマリが飛んで来た。

 とても張り切っていた。

 ただユカリは極めて満足していた*19、それはそうとして、あとで勲章をくれてやったら、滅茶苦茶喜んでいた。

 ともかくこれで一応百花繚乱の問題は解決、というより一段落だ。

 それにユカリの馬鹿、テレビ中継中に巫女ではなく治安を守る百花繚乱としてのユカリを宣言しやがった。

 なんとも騒がしい女である。

 

「しかしついにお前まで派遣参謀で来るのかァ」

「今回の事件のような事の防止、百花繚乱の人員不足の件もあるの」

「ああ、成程」

 

 まあ治安担当者としては正直な所、我々と連携するのは妥当な選択肢だ。

 ヴァルキューレとも連携出来る上に上奏も非常にスムーズだ。

 

「遅れた理由は分かったわ、ここ来るまでに4件事件見て手伝って3件は巻き込まれたんだけど?」

「これでも減らしたんだよ?」

「ほんと?」

 

 馴染むか、と言う点に関してはしっかり馴染んだ。

 育ちのよい作戦参謀と言う点ではイロハやミカは尊敬こそすれ嫌う理由は無いし、ユウカは専門家に敬意を払うべきだと理解してるし、スズに関しては「やった、楽できる!」と喜び、キキョウに小言を述べられた。

 約一名問題児の反応があったが、概ねその対応は何も以上なく、つつが無く受け入れられていった。

 なお彼女のお陰で訓練教育がスズの仕事から解放された。

 

 

 

 

 異形の空間、地下の牢獄、足音が近づく。

 しばしの時間を置いて、アビドスへの道を確かめる。

 

「先生……皇帝……導く者……黄金の鷲……な、なんとも高難易度」

 

 映る姿はなんとも騒然! 傲岸! 嵐を呼ぶもの! 

 ならば、我も彼と同じく砂の地から始めるほかない。

 

「……?」

 

 はて? 

 

「このような道。このような扉などありましたでしょうか?」

 

 いけない、今はそのような事を考えてる場合ではない。

 まず、全てを把握しなおそう。

 そして、考えよう。

 過程、探求、気づき。

 探し求めなければ。

 

【次回予告】

 

かつてこの砂漠を覆っていたあの毒々しいまでの赤い色は既に無い。

三十年の歳月が穢れを吹き流し、大地を洗い直したかに見える。

だが、癒されたかに見える大地の皮一枚下に食い込む、おびただしい過去の棘。

棘に呻いて棘に泣く。

忘れるもんか、この砂漠で失った者の事を。

棘にすがってしか生きられない少女が一人。

 

次回「 S,S,D,D,(何時もと変わらぬクソみたいな日々) 」

 

 

幻影の砂漠に甦る、あの日、あの時。

*1
おめーのレジオンドヌールがなぜ存続したかの話か?

*2
ナポレオン獅子の時代、覇道進撃よろしくお願いします

*3
次は確実に病院コース

*4
ある意味いつも通り

*5
ユウカは良く理解してる

*6
最終章のあれ

*7
サオリたいちょーもゲームしてて助かったでしょ?

*8
この辺で堪忍袋が千切れた

*9
所謂無敵チートの類だと思ってた

*10
ネイやランヌならこれで気絶狙えそう

*11
投げたり拳骨入れてるくせにー

*12
怒りのライン超えると冷静に冷めてくるタイプ

*13
ジョークと短くするのは覚えた

*14
100面ダイスでは

*15
獅子の時代初期の長谷川先生の作画アイテムの一つ

*16
戦争する覚悟も無く俺に喧嘩を売っただと

*17
今作さっちゃんの嫌いな物

*18
どれだけ理由を付けても戦術戦略目標無しだから劣化だ

*19
モモイは感づいて逃げた




アビドス3章までご期待ください。
3章は仕上げた後に、終了後に確認して投稿する予定です。

原作のどっちを見たり知ってます?

  • 長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
  • ブルーアーカイブだけは知ってます
  • どっちも知ってます。
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