キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
太陽が程よく上り、ホシノと同じような欠伸をしながら、昨晩借用した体育館から、校舎に向かって歩いていく。
予想は最悪の当たり方をした、カイザーの活動は明白になった。
捜査資料を見た取調官も誰も彼もうんざりした顔をしていたが士気は上がっていた、ユウカからコールなどが無いと言う事はまだ見てないと言う事だろうが、見たとたん、モモトークか直接電話にコールの嵐だろう。
”半ば公然と常態化した反社会武装勢力と結託し、その都市ゲリラ化を推し進め、不安定化工作を図るPMSC”彼らはDUやシラトリ区に販売代理店も存在しているそうだ。
俺はまだそういう裏工作を使える時代に住んではいなかったが、似たような経験はあった、スペイン人を唆したりしたイギリス人はカイザーより悪辣だったな。
「こりゃ、増援要請と陣地化も必要かぁ?」
地図を頭に思い浮かべ、支援部隊はどうするかを検討する。
もっと兵力増強がしたい、しかし連中がシャーレ本部を襲う危険すらある、最悪アビドスを囮に証拠隠滅しかねない。
「やぁ、先生、急に物騒なこと言うねぇ……おじさん以外に聞かれたら、また大騒ぎだよ~」
いつの間にか後ろにホシノがぬるりと現れた。
「昨日の成果が、分かって来たが、そこから考えれる可能性と対策を考えているとな。見てみろ」
横に並んで歩いてるホシノに捜査資料を纏めたバインダーを手渡す、後々渡す予定だった物を今渡すだけだ、何ならコピーがある。
そこに書いてるのは、昨晩の大捕り物で逮捕したカイザー社員などから聞き出した随分見苦しい言い分の集合体だ。
『アビドスの土地の大半がカイザーに買い取られており、私有地の警備員』と社員は主張しているが、連邦の公的機関に武器流した現場が抑えられているので非常に苦しい。
別室で取り調べしたヘルメット団長は『カイザーからの依頼でアビドス校舎を占拠してほしい』ととても素直に囀ってくれた、どうもこの仕事に嫌気がさした様である。
「随分、好き勝手言ってくれてるね……厚顔無恥もここまでくれば感心するよ、で? 先生はどうするのさ」
俺の言い分もしっかり聞いてくれるようになった、打算でも何でもいい敵意しかないよりマシだ。
この手のアホ連中がこうなると使う次の手は3つ。暴力か圧力か俺への賄賂の三択、賄賂は論外、圧力? 暴力? 素晴らしい、それなら俺は……
「はぁ、……散々睨んだ私が言うのも何だけどさ、目が怖いよ?」
ホシノからSTOPがかけられた。
「嫌な大人沢山見たけどさ、どの大人もそんな目はしてなかったよ、何してたらそんな目ができるようになるのさ」
「これ以上の化け物相手にしてたからな、俺の喧嘩相手がこの程度かと思うと少しな」
「私はともかく、そんな目で部室に入るのは許さないからね、少し落ち着きなよ、言ったでしょ朝、少しは信頼するって、先生も私を少しは信頼してよ」
一本取られたな、懐かしい環境が続いて随分向こうに戻っていたらしい、深呼吸を行う、『先生』の感覚に戻す。
軽く微笑んでみる。
「どうだ? これで入室許可は貰えるか?」
「相変わらず悪人面だ~」
このクソガキめ。
「でも周りにある程度言葉に出していく方が良いよ、周りが付いてこれなくなったりするからね」*1
ホシノにバインダーを返され「じゃ、みんな待ってるから行こっか」と2度目の対策委員会の部室に入室した。
俺を待って居たのはまだ何か厄介ごとが? と言う目であった。
俺が起こしてるんじゃないぞ、厄介ごとが俺を愛してるんだ。
「体育館借りてる連中に厄介払いされてな、用ができたら呼ぶので、諸君らと親善交流してた方が安心だそうでな」
「ん、またしばらく宜しく、先生」
「昨日見たいな、どたばたは、ごめんだからね」
セリカからの目線は初対面の時のホシノと近いようで少し違う、一番年ごろの子供に近い感覚だ、これぐらいなら寧ろ正常だ、一息ついたとこで俺は気になってた質問をする。
「この事件がどうなろうと、諸君らの借金等の問題は残る、アドバイスはこちらも出せるが、とりあえずはそちらの意見を聞きたくてな」
「今更そう言うの聞いてどうするのよ」
セリカが呆れたような顔をした。
「凄く言いづらい、俺の嫌な予感だが次の借金の集金日は何時だ?」
「ん~、何時も道理なら後3日以内に来ると思うんですけど、どうしたんですか?」
顎に指をあてながら、ノノミが答える、せめて後10日後ならまだ色々手は打てたんだが。
「今回我々は大金脈を掘り当てた、カイザーは火消しを用意するだろう、相打ち上等で残りの使い捨てれる戦力を全て投入した上で、自身の部隊も付けて証拠の隠滅を図るだろう、行動の前に此方のできる、集団登下校、できるならば校舎での生活を推奨する、君達を各個撃破、捕獲できれば我々への大きな優位になると思うからな」
事実上の非常事態体制を宣言したが、反応はかなり楽しいものじゃあない。
「はぁ!? ふざけてんの、突然大勢で押し寄せて、強行軍させて、体育館はガメて、そのうえ帰宅時間まで決められないと行けないの? 何時からあんた達が生徒会になったのよ!」
こんな場所に居られるか! と言わんばかりにセリカは下校していった。
「流石にそこまでしますかね」
「するさ、あの手の連中はそれが得意技だ、人質でも何でも狙うさ。俺ならやるぞ」
「……それ以外は?」
「
考えすぎでは? と言うようなノノミにそう返す、戦闘前に敵から捕虜を狙うのは俺も良くやった。
セリカは理解できてるが納得できないと言う典型だ、俺達がここまでやりたい放題した上でも吠えただけだ、理解はできてる分、自頭は悪くないのであろう。
熱い風呂から水風呂に叩き落されたら多少はそうなるだろう、しょうがない二人ほど護衛を出してやろうと、胸ポケットに入れてた無線を手に持つとホシノが声をかけてきた。
「まー、待ってよ行先には心当たりがあるからさ、先回りしようよ、あー後さあ、車出してよ先生~、あのCP車冷房効いてて楽なんだよぉ~」
ちゃっかりしてやがる、そして俺達はセリカの職場訪問となったのだった。
俺達が入店した時のセリカの反応は予想道理だったし、テーブル席は運転手に譲ってやり、俺はカウンター席でラーメンに舌鼓を打ったのだ、言語関係と箸の使い方の調節は大変ありがたい。
柴大将の見た目には驚いたが、ここではそう言うものだと割り切った方が良い、ラーメンに毛が入ってる訳でなく、バイトのセリカの事も案じている、何故だろう真っ当な大人を見るだけで感動してる俺はなんだろうか?
「これ、向こうで仕事してる同僚たちにも食べさせてあげたいなぁ……」
「いきなり60食分は大将にも迷惑がかかる、それに調理環境も無い、ガスボンベが10本は欲しいな、3日前ぐらいに予約して置かないとな、なっ大将」
「先生の言う通り、確かにその規模なら予約が欲しいな、でもな1日前で良いぜ、当日対応してぇが、その日の営業もあっからよ」
撤収前にこのラーメンで祝勝会も悪く無いだろう、時間がかかるプロパンの輸送は早めにしておくか。
そんなことを考えて居ると小声でノノミが「先生支払いはこれを使っても」と、ゴールドカードを出してきた、まだ慣れてない俺でも理解できるぐらいには凄まじい支払い能力があるのだろうが、断る、見栄などではなく普通に経費で落とせるので奢ってやろう。
しかし大人のカードとは何だろうか?アロナ曰く「奇跡が起こせる滅茶イケてるすげえ奴」らしい、奇跡に祈った事なんかないんだがなあ。
前にアロナにそれを言ったら絶句された、「ないんですか先生!?」と言われたが、俺の
「帰りには気を付けろよー」
「先生、また帰りも良しく~」
「なんて野郎だ」
「うへへ、おじさんはアビドスの生徒会だからねえ、明確に指揮権では上に有るんでしょう?」
「なんて野郎だコイツ」
賑やかに帰路に付きつつ、相手の次の手を考える。
各個撃破か総攻撃か、軍人としての自分は対策委員会のメンバーが攫われるなどの方があり得ると思う、人質交換を要求する方が確実でコストも安そうだ。
厄介なのは手持ちの戦力を総動員して全面攻撃を行われることだ、最悪の場合に備えて最重要証拠などはヘリで往復させて持ち帰っている。
シャーレ隊員はあれから帰ってきた連中と増援を含めて概ね1個小隊ほどの戦闘員と2個小銃班程度の法務要員がアビドス分遣隊として編成されている。
索敵網についてはアビドス校舎屋上を拝借し、スキャンイーグルを打ち上げていたし、音響センサーをいくつか設置していた。
これらのデータは先生のタブレット端末、アヤネの端末、CP要員にリンクしており、デジタルなC4Iを形成している。
「ラーメン喰いたかったなあ」
分遣隊本部(元視聴覚室)内で隊員の一人が呟く、CP分隊がラーメン喰ってるのが流れてきたら腹が減ってきた。
彼女は自身の微妙な空腹という難題と向き合おうかと考え始めたが、ヘッドホンから聞こえる通知音は聞き逃さなかった。
即時警報はまだ出さない、音響センサーだけでは誤探知の危険がある、それにビナーとかいう奴の地鳴りがうるさいので、ソナーはあまり信用していない。
「音響センサーにまたなんかかかりました、UAVの画像索敵願えます?」
「あーい……」
UAVオペレーターが飛行経路を変更した。
データリンクした画面にアビドス地域の砂漠地帯が映る、相変わらず赤外線が役に立たない、廃車が砂漠の熱を持ちすぎてあちこち金属と熱源だらけだ。
「ハミングバートちゃん目的地到達ー」
アニメオタクのオペレーターがカメラを操作する、結局光学観測しかない、なんたる旧時代か!
「あ」
地面からトラック、そして白煙が上がる。
「UAVオフライン」の文字が出たとき、指揮所はただちに報告すべき事態だと認識した。
35秒後に報告を受けた先生はただちにDEFCONを1へあげた。
かき集められるだけの現状の戦力を戦力化してぶつけてきたか、2回の攻撃失敗と拠点を戦力と吹き飛ばされて社員辺りが捕まってなりふり構わなくなったな!
「セリカに連絡を入れておけ、バイトが終わっても動くなと迎えに行く、非常事態だとな! アヤネ、コンソール動かすの手伝え、移動しながら指揮を執る、総員腹をくくれよ、今晩がアビドス砂漠におけるヘルメット団との最終決戦だ!」
──ーパトロール班から届いた情報を聞いた、アビドス体育館借用臨時シャーレ捜査部の視線は私に集まっていた。
確かに先生不在時の緊急対応は任せられてはいたが急に来ると、頭を抱えたくなる。
やはりヴァルキューレで楽しく快適な生活を手に入れるべきだったのか!? ちくしょうどこで間違えた。
峻嶮な正義の守護者として賛美を受けるのは人生計画に無かったんだよ、話が違うぞ。
白河スズ元SRT特殊学園二年生、二等SRT執行官の胃が痛む。
「UAVの代わりを打ち上げろ、NOE飛行させておけ!」
「非戦闘員の退避……居ないか、各自実包装填!」
「狙撃班を展開」
「ルテナント! 今後どう防衛しますか」
うっ……、そうだいまは私が最高階級。
その時、守るべきものと、自分の身とを奇妙な化学反応させて言葉に出た。
”初めてのお留守番は大人が来るまで待てばいい”、隊員の義務と自身の保身とその他もろもろは満場一致で結託した。
「重要参考人とカテゴリA資料などは、ヘリに詰めるだけ積んで、シャーレ本部に移送運べない分は金庫に入れろ」
彼女は自分の責任の及ぶ範疇から厄介者を直ちに遠ざけた。
「手すきの人員は土嚢や対車両障害物配置、復唱不要、急いで」
「「了解!」」
部下たちの目に驚愕と期待に満ちた目がある、どうすりゃあいいんだ。
でももうそれらしくするしかない、この世には戦うより素晴らしい事が、地方公務員への楽隠居があるんだ。
そのための障害は全て踏み倒す、私はやるぞ。
「私達は先生の様な戦略立案能力や戦場すべてを支配するような指揮能力も無い、アビドスの娘達と違って圧倒的な個としての強さも無い、いい訓練を受けた普通の生徒、だけどそんな私達でもよく見てよく考えてしっかり動こう、そうすれば並ぐらいには動けるはず、それに向こうは先生の不在に気づいていない、そこを活用しよう!」
「車両部隊はどうします?」
「家の車両は殆どIFVじゃ無いから、拠点防御には使えないでしょ。随伴歩兵2名ほど乗せて全車両は先生達に合流して今すぐ出動して、偵察部隊と敵は間違えないでね」
やることが、やることが多い!! 全部終わったら、私は中隊長ちゃんと呼ばれるのだろうか、せめて胸を張って歩けるように最善を尽くそう。
出来れば後悔したくない、叶う事なら反省もしたくない!
私の人生はそんなことで時間を使う気は無いからだ。
──ーバイト終わりのセリカを拉致同然に回収した後、アビドスまでの道を半ばまで戻るころには日は完全に暮れていた。
データリンクで映像を見たが確かに機械化部隊が展開している、前衛に8輪重装甲車小隊3両に自走対空砲のフラックザウリア小隊、さらに火力支援に自走対戦車砲や戦車まで添えてやがる。
概ねヘルメット団の戦力ではあるまい、下手すれば……。
シロコの漸減邀撃でドローンスワームで索敵攻撃を開始した。
間近で撮影されたクルセイダー戦車は、刻印がない以外はカイザーの塗装のままだった。
「さあ戦争だ」
後々カイザーが「不法勢力に社員が拉致されたという誤解で行われた」と苦しい言い訳をするアビドス総攻撃が開始されようとしていた。
【次回予告】
奇襲とはいえ…先生、今までの手際は鮮やかでした。
ですが……くっくっくっ……あの者達は学園から弾き出された連中です。
今度のお相手はちょっとばかり、歯応えがあるかと。
何せ、カイザーアビドス派遣部隊、その正規部隊、カイザーの少佐が率いる機械化歩兵。
さて先生、正規兵相手にどう戦われる?
次回『 アビドス校舎攻撃計画 』
もっとも、虎の尾を踏むのは私かもしれませんが。