キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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ストック確保しながら再投稿です。


Comrades in Arms

 

 

 

アビドスやジェネラルがキレて居た頃、シャーレもとんでもなく地獄絵図だった。

停戦記念でお零れに肖ろうとオフィスの向こうで待機していた連中も凍り付いた。

 

要するに停戦拒否とも条約破りとも取れる行動の後、先生が無言でデスクをぶん殴り、覇者の憤怒と言うのはこういうのかと理解できた。

その後椅子を持ち上げてデスクに叩きつけかけ、オフィスのメンバー全員で抑えて何もない場所に半ば無理矢理連れていった後、それぞれの端末が夏のセミみたいに鳴り響いた。

イロハは多分マコト議長や風紀委員からだろうし、ミカさんはトリニティのいろんな場所からだろう、私もいろんな場所から連絡が来て居るが、あの先生を放置するのが恐ろしい、リオ会長にノアの増援をお願いして、先生が魔王みたいになって目が離せないので後でと言うと納得してくれた。

時折咆哮に近い罵声が聞こえる。

何だかんだ言って、皆先生から目を離していない。

血が出るほどの勢いで壁を思いっきり殴った後に、溶岩も凍り付く様な声で

 

「これだけ恥知らずな停戦破りと侮辱はここに来て初めてだ」

 

一番付き合いは長いが此処までキレたのは見たことが無い、銃弾に耐えれたりしてもこの怒気は銃弾より痛いとも言えるレベルだ。

ユウカは先生が外で見せていたその恐怖を理解した。

アビドスも忙しいのだろうが、ここも今までのシャーレが関わった組織が連絡を送ってくる、スズやアツコのみならず幕僚まで駆り出して対応して、なんとか応対している。

その度に先生の壁ドンで、電話先の相手も皆察してくれている。

 

「ユウカ、サオリ」

 

とうとうあの冷え切った声で呼ばれた。正直行きたくない、多分サオリも行きたくないだろう。

デスクの引き出しに移動して鍵付きの引き出しから書類が数枚出され、渡される。

丸いグラサンがかけられ、総力戦体制に入る。

 

「対カイザー用の戦闘計画書だ、防衛室と同時に相手をした時の計画の流用でやる」

 

そう言うとコンソールを取り出して、各所に指示を出し始めた。

連邦生徒会に根回し迄始めている、リン行政官も今頃青くなってるだろう。

私も計算機などと呼ばれているが、あの先生はもはや戦争CPUだ、的確な命令を各所に出し始めている、止めないと多分全部敵を滅ぼすまで止まらない戦争機械だ。

三目並べして戦争は虚しいと認識を改めるわけがない、アリスちゃんならそれで済むがそうもいかない。

 

「あの恥知らず共この世から消してやる!」

 

本当に全て終わらせてもその後を考えるだけで恐ろしい、ここに居る皆さん先生の怒気のせいで半分涙目だ。

私も付き合い短かったら泣いてたと思う。

スズが受話器を握りながら報告した。

 

「アビドス砂漠で交戦が始まってます」

「なに?カイザーはもう仕掛けたか」

「いえ、ハイランダーだと」

 

先生が怒りから困惑に顔を変える。

状況報告を聞いて、先生は「今度はあいつらか」と呟き、「フリーエンゲージ」と許可を出した。

交戦許可は既に出された、ハイランダーの建設チームが展開するという事は明らかにネフティス絡みだろう。

分からないのはカイザーだ、動きがとっ散らかっているし、ネフティスとカイザーは不仲である、突然仲良くなると思えない。

よってユウカは首を傾げはしたが、先制攻撃を容認した。

 

「キヴォトスの企業はロクな奴居ねえな、全く渡る世間カスばかりか!」

 

それでも先生は怒りはしつつも、違和感を訝しんでいた。

ネフティスが何故突如この様な行為をし、それに何の利益があるか分からない。

現状のキヴォトスで軍事力ではバランス型の上位クラスであるシャーレと、大規模企業の組織力は侮れないカイザー、全員の顔に泥こえてクソを投げつけるのを許容するメリットはなんだ?

アビドス砂漠という事はまた何か変な奴で、ろくでもない奴が出るのだろう。

直ちに問い詰めねばなるまい。

 

「先生落ち着いた?」

 

問い詰めにまた連絡を始めた先生を横目に、ミカさんが出てきた。

 

「急に冷静になって逆に怖いです」

「私も似たような気があるから、分かるけどあれはちょっと常軌を逸してるじゃんね」

 

ミカさんも思い込みで暴走するタイプなのは何となく分かるけど、確かに今度は急に冷静になり過ぎだ。*1

 

「あんな怒気浴びるぐらいならバルバラの相手してる方がまし」

「あー分かります」

「先生落ち着きました?」

 

イロハまで出てきた、冷静になって安全マージンを図っているのだろう。

 

「いえ、今反転*2して疑問点の解決してますね、本当に転がしたい奴選んでいる感じです」

「性質悪すぎません?」

「狂人じゃんね、ネフティスって自殺志願企業かなにか?」

 

先生がミカさんに気づいて、今回はお前も戦力と数えると言って居るが、セイアさんがそう言う前提だったので任せて!と返してる、本気で怖い思いさせてくれたお礼する気満々だ。

スズを呼び出してアビドス校舎に作った前線司令部に移動すると言って居る、ここのオフィスメンバーも動員確定だ、ノアは付いた途端にアビドスへ移動だ。ごめんね。

便利屋にまで呼び出ししてる、カイザーやネフティスに雇われる前に手元に置くつもりだ、依頼料は言い値で良いとか言ってる。

 

「シャーレの警備は?」

「ウサギに一時任せる、ここで裏切る奴らではないだろう。裏切ればその時は連中の命日にする」

 

 

本気で心当たりは総動員する積りだ、あの怒りと色彩戦の時の戦闘、いや戦争をするんだこの大人は。

どこかでブレーキを掛けないと誰かが仕込んだか知らないけどあの怒りは制御できない、百鬼夜行の怪談騒ぎの時だって利用しようとした側がこの大人に食われたじゃないか。

仕込み人は死ぬほど後悔するだろうが自業自得だ、私は騒動が終われば何時もの先生に戻ってくれればいいのだ。ヘリに乗り込みながらそう思った。

 

 

 

 

 

アビドスも俄かに慌ただしくなり出した、駐屯している連中に出動待機命令が出る。

駐屯部隊の隊員の虞雷(グライ)アタルも飛び出す羽目になった、アビドス砂漠戦役から勤務しているベテラン隊員である。

普段はコーヒー作りを趣味にしているが、装備はただものじゃない。

M‐TEKのフェイスシールドやシャーレでも珍しいSA-58など、アビドス砂漠駐屯部隊らしい装備で、こうした熟練者はデザートレンジャーやベテランレンジャーと呼ばれていた。

遭難者のSAR任務からLRP任務までをこなす彼女らは、恐らくアビドス上級生以外なら負けなしが決まっている。*3

 

「先生現地で指揮取るからここに来るって」

 

格納庫で装具を整えていたところに中隊長の江波マリが電話片手に声を挙げた。

 

「エデン条約以来の切れ方だったってよ」

「ハイランダー生きて帰れるのか?」

 

こりゃ偉い事になる、みんなそう感じたらしい。

横をみればセリカちゃんがシロコさんに「サイドオフの防弾パネル入れた方が良いかな」と尋ねている、良い予感はしない。

血液型書いたテープをブーツに貼り、ガスバッグとIFAKを確認し、飛行場に降りてきたOV-10を見る。

 

「来たぞ、相変わらずの超特急だ」

「やっぱ和平協定なんて無理だろ、役立たないって」

「政治だよ政治、連邦生徒会とかの政治屋みんなレズばっかだよ」

 

ベテランレンジャー達の会話を聞きながら、セリカは「やさぐれたなあ」と呆れかえった。

無論給水支援などで真面目な辺り、現実と本音とその他諸々を器用にこなせるようになったとも思う。

セリカはレーザーレンジファインダーもベルトのポーチに入れる事にした。

数分しない内に全員UH-60へ乗り込む。

 

現場での状況確認を済ませた後即座に先生はレポートを持って乗り込んだ、今回は手袋*4までしてる。

重い空気の中で先生が口を開く。

 

「敵勢力の確認だ、参戦してくる可能性のある敵は有象無象も把握が居る」

 

また、退路にバイエルンの連中のように裏切って居座れれるのも面倒だ、撤退のついでに踏みつぶせてもだ。

しかし、またこの砂漠か……変なモン埋め過ぎだろ、罰でも当たったかぁ?

これが終わったら清掃活動でもするか。*5

 

 

センチュリオンAVREがトンネル入り口をふさいでいた砂岩を吹き飛ばす。

ドーザーで何度か往復し、障害物を排除する。

 

「パヒャヒャ!思ったより綺麗じゃん!」

「枕木も石も問題なし―」

 

そう嬉し気に二人の双子が歓喜の声をあげる。

ハイランダー鉄道学園のCCC、つまり中央管制センターの派遣部隊の幹部である。

勝ち気な顔つきをした橘ノゾミは自己の納期が間に合う事に嬉し気にして、車両の交代と検査部隊を降車させる。

ハイランダー鉄道学園保線作業用装甲列車、通称<カスウェナン号>である。

ペイントが砂漠用にリペイントされてない、いきなり命令されて回されてきたのだが、その点ではあまり不快感は無い。

以前からハイランダー鉄道学園で計画されてきたA-Aライン計画、すなわちアリウスからアビドスまでを繋ぐ大胆極まる計画を開始した事は不思議ではない。

ネフティスの差し金と言うのもやや気にはなるが、おかしいとは思わない、地下鉄の建設などはあそこがやっていたし、筋は通る。

 

「いやあ機材も問題ないし、治安は改善されてるし、建設は順調!最高じゃん!」

「ぐれいとわーく」

 

姉たるヒカリも満足げな笑みを見せている。

線路を敷く!インフラを好きに敷く!これほど楽しい事が世の中の他にあるものか!

これがしたくてCCCになったのだ、新線建設と宅地事業、インフラ整備も好きだがこれが何より堪らない。

 

「あのー、よろしいんでしょうか」

 

心配性の事務官が声をかけた。

 

「だいじょーぶだいじょうぶ、うちらは合法活動しかしてないしー」

「こんぷらいあんすー」

 

契約が実は期日未成立なのは気にしていない。

事務官ちゃんもクリアランス的に知らないだろうが、アビドス砂漠で作業は前々から札付きだ。

ビナー襲来で前回の鉄道計画に際しても大きな問題が発生、崩壊したらしい。

ただ仕事の出来は良かったらしく、かなり残っている。

 

「んあ?」

 

レーダーに反応が出た。

 

≪警戒、接近中の飛行物体!≫

 

同時に無線機から音声が入る。

 

≪こちらは連邦捜査部シャーレ、アビドス砂漠派遣部隊である。貴女たちは違法な作業をしている。直ちに武装解除し投降せよ。≫

「やっば、上層部の奴ら仕事してないじゃん!」

「だめだこりゃー」

「やっぱり問題になったじゃないですか!」

 

ちなみにであるが!誰も!この債権を横槍して買ったと!知らない!

必然生まれるは理解のすれ違い。

事務官ちゃんが驚愕の声を挙げた。

 

「あれシャーレの先生ですよ!」

「へーあれが」

 

ノゾミが列車の観測機材を動かし、近づいてくるヘリボーン部隊を確認する。

白塗装のAH-64EとUH-60、あとデザート迷彩のUH-60DAPが見える。

DAPはアビドスの地元の奴だと思うが、それ以外はシャーレの部隊だ。

 

「学園間の問題解決の名目で破壊活動をしている人です!」*6

 

ヘリボーン部隊が降下してきた、堂々たる歩き方でこちらの警備要員も手を出せる雰囲気ではない。

 

「前に私たちの列車を爆破したのもあの人の仕業だと!」

 

先生が近づいてきた、拡声器を手に取り叫ぶ。

 

『まともな契約書が無いって……ふざけてるのか!?ワケってなんだ、もしかしてアレか?どうせアビドスの砂漠なんだから、まともな書類要らないだろうって……化外の地だから誤魔化されるだろうって、言い訳なんか分かってんだよ!』

「人の台詞盗ったあ!」

 

事務官ちゃんが泣き出した。

 

『どうせ無法地帯だろうなんて考えで…白昼堂々、鉄道利権確保してアビドス某重大事件をしようってんだろ!もう限界だ!鉄道屋も信用できん!*7

 

なんかややこしくなってきたな……。

ノゾミはちらりと姉を見る。

まあええやろの眼、それでこそ。

 

「カスウェナン号出発進行ー」

「おー」

 

14両編成のハイランダー鉄道学園の装甲列車は前進を開始した。

 

 

 

あーあ行っちゃうぞあいつら。

呆れながらヘリで後を追う、幸いアビドス砂漠横断鉄道は非電化路線、架線は無いからラぺリングで車内へ飛び込む。

先頭車の勝戦砲--ブローニング4門束ねた砲塔--など、幾つか武装があるが、戦闘態勢になる前なのでガンナーが居なかったらしい。

それでも幹部らしい双子どもが砲塔を使用しているが、NOE飛行*8とアパッチによる嫌がらせで火力集中させない。

突入部隊も問題は無いようだ、大半のハイランダー鉄道学園の生徒は状況が掴めてないらしく、抵抗は少ない。

 

『わー!私の手はそっちには曲がらないってばー!』*9

『りふじんー』

 

あっという間に双子も制圧された、装甲列車だろうが砲塔は車内には向けられないからな。

列車を停止させ、検挙者リストを制作しにかかる。

適当に束ねた検挙者の塊を何個か作って、氏名と学年や所属を記載していく。

 

「この契約書ちゃんとしてねえじゃねえか!」

「納期の為には仕方なしー」

「赤冬工務部に教育させた方が良いかもしれん」

 

それにしてもふざけた連中だ。

モモイの馬鹿と言い双子はバカしか居ないんじゃねえか、キヴォトスというところは。

ゲーム開発部が鉄道開発部に変化しただけじゃねえの?ユズの枠が居ないしユウカも居ねえのが駄目だと思うけど。

 

「サー。ハイランダー鉄道学園の監理室からです」

 

無線機を背負ったRTOが飛んでくるOH-6を指さした、ハイランダー鉄道学園の塗装がされている。

 

「ハイランダー監理室の朝霧だ」

 

砂漠で暑そうなコートを着込んだ学生が出てきた。

不愛想な顔つきをしているが、書類の束を抱えて降りてきているのは評価できる。

 

「なんらかの誤解とミスによる事故に関しては後日、正式に”アビドス側に”お話しする」

 

それに理解もある程度している様だ。

そう、シャーレのアビドス駐屯部隊はアビドスが指揮権を有している。

何故ならあくまで”連邦捜査部は支援要請に基づき展開している”わけだからだ、文民統制と自治権介入の前例は作らない。

つまりアビドスを納得させれば、シャーレは介入の根拠はないわけになる、カイザーと揉めてるのは勝手にやれという事になる。

それにアビドス側に話しかけている辺り、事は大きくしたくないのだろう。

 

「詳しい解説は後日改めて行う。今回の”事故”に関しては申し訳ございません。」

 

そう頭を下げ、保釈用の書類の束を渡し、カスウェナン号を後進させる。

 

「参ったな、話がややこしくなってきたぞ」

 

渡された書類には、”株主総会”と書かれていた。

 

 

翌日、アビドス校舎近くの検問所にハイランダーからの三人組と、ネフティスの社員が来た。*10

連絡を受け、対策会議室ではなく視聴覚室に長机を展開する。

 

「……思ったよりボロくなーい?」

「壁に大穴ー」

 

厳めしいシロコカッターを振り上げてシロコが抗議する。

セリカが「ステイステイ」と止め、アヤネが無言で茶を配給する。

 

「やばいねアヤネちゃんキレそうだけど」

「最近台風とか多いからな……」

 

ホシノと耳打ちしながら、席に着く。

最近アビドス砂漠は異常気象が群発している、2週間前に雹が降るまで至った。

台風にしても短期日に何度も生まれている、最近はようやく落ち着いたが。

 

「アビドス生徒会……いまは廃校対策委員会か?まあともかく、こちらの書類を見て欲しい」

 

朝霧スオウ監督官と正式に名乗った彼女が、封筒から古びた書類を見せる。

亜麻色の紙をした出来の良い紙に、薄く”アビドス”のマークが書かれている。

 

「昔のアビドス生徒会の契約書……」

「話が早くて助かる」

 

スオウがホロ映像で投影し、ネフティスの社員が咳払いした。

 

「2年前に書かれたアビドス生徒会の会長との契約です」

「2年前?誰の奴だろ」

 

セリカがホシノを見た、ホシノは今までにないほど驚愕している。

 

「た、たしかにユメ先輩の文字だ」

「ああ、正誤の確認を頂けて嬉しく思います」

 

ネフティスの社員は安堵したような声を挙げた。

ホシノが固まっている裏で、社員は映像を切り替える。

 

「さて、皆さん。なんでわざわざ今になって、砂漠横断鉄道を権利を買い、再建しようとしているか気になられているかと思います。」

 

彼が今ここにいる全員を見渡す。

先生はあまり顔に表情を出していない。

 

「歴史をやや遡り、砂漠横断鉄道が何故作られたかをお話しましょう。」

 

かつてのアビドスの話が始まる。

かつては乳と蜜溢れるキヴォトスで最強にして、最富裕なる時代、それが終わり、凋落へ突き進んだ。

ここまではまだ知られている、土壌流出と水害とバッタに疾病が襲い掛かり、作物は壊滅し、インフラが破綻し、経済は壊滅した。

日中だろうと太陽が見えない時代、ジャーヒリーア(暗黒時代)の始まり。

無論当時のアビドス生徒会、土着企業たるネフティスも対策を考えた。

しかし富める者は視野狭窄に良く陥る、彼らは力による解決を考えた。

 

「そして列車砲計画が開始されました」

「金喰うわりに事態解決には役立たない辺り末期的だな」

 

先生が呟いた。

 

「超大型砲弾を500キロ先にぶちかませるものを運用するより50キロ先に飛ぶ自走砲大隊の方が使い勝手がよかろう」*11

「仰る通り」

 

ネフティスの社員はそう言うと、当時の計画図面を映す。

列車砲シェマタ、かつてのアビドス生徒会の乱世を力で解決した生徒会長らしい。

セリカが「つまりああいう感じか」と先生を見た。

アヤネもうんうんと頷いている。*12

 

「恐らく栄光の過去に縋りついたのでしょうな」

「腐りきった腐乱死体にな、時代は変わるのに過去ばかり見て前も今も見ないからだ」

 

唾棄すべき連中だと先生は言いたげにした。

 

「ここまでなら、ね」

 

ネフティスの社員は別のデータを提示した。

 

「試験をしたところ、どうやらこのシェマタ、現状でも動くようなのですよ」

「砂漠の片隅に埋まった産業廃棄物動かしてどうすんだ?」

「圧倒的な技術です、企業としてこれを金にする方法は幾らもあります。」

「馬鹿こけ。500キロ先にデカい砲弾撃つ機会も理由も少ないだろうが……だいたい運用人員や観測機材を加味すればこのシェマタは”始まる前に終わってる”んだよ」

 

ホシノがやや呆気に取られた顔をした。

”大砲屋”である先生の理論は間違いなく正論で、現在のアビドスでこれを運用する理由も無い。

 

「つまりだ、そのクソデカい産廃、貧して鈍した馬鹿の後始末だろ?馬鹿馬鹿しい」

「え……ご興味がおありかと」

「ないね!」

 

アヤネの問いにはっきりと先生は答えた。*13

そもそもコンセプトが不明瞭なナンセンスの塊、抑止力や恐怖と言ってもこの様な目立ち過ぎる代物がなんの意味がある。

先生がはっきりと痛罵していく。

 

「大型兵器を鉄道線路で運用しようというのがナンセンスだ。転車台が無ければ砲の左右調整も出来んなら要塞砲にした方が良い。だいたい鉄道線路がもたんだろうが」*14

 

ネフティスの社員が咳払いし、話す。

 

「という訳で我々としては株主総会にて皆さんからの契約継続可否を聞きたいのです。」

 

反対の全会一致であった。

アビドスがそんなもん手に入れて何になるというアヤネの意見と、ホシノの「そんなもん要らん」が概ねの理由である。

 

「というわけで、アビドスとしては鉄道はともかく、列車砲についてはこちらで処分します」

「そう来ましたか……」

 

ネフティスの社員はそう呟き、ボソッと呟く。

 

「雷帝の遺産なんだがなあ」

「誰だよ」

「これの制作者です」

 

先生の問いに、データが出る。

素性不明詳細不明、元ゲヘナのトップ。

経歴を見てもマコトが聖人君子に見えるレベルだ、バカの度合いと迷惑性が桁違いである。*15

 

「天才的で彼女の遺産は高値が付くのです、それがあればアビドスの借金どころか復興も叶います!」

 

本音はそれか。

先生がほくそ笑んだ、実に分かりやすいが、馬鹿馬鹿しい。

帰ってこない黄金時代を未だに夢見てどうする、王党派みたいに陰謀かまして狙いはこれか?

いつまでも過去の中に囚われてるようだから全て改善しないんだろ。

そんな栄光無き、瞞しの繁栄で喜ぶなら、本当に滅びちまえよ!

 

会合と打ち合わせは終了した。

 

 

 

翌朝、株主総会まであと1日。

イロハ経由で呼び出されたマコトとヒナは、大きな衝撃を受けた。

ゲヘナの雷帝の遺産、特大のクソを遺しやがったバカの痕跡、犬猿の仲であるこの二人が始末しようと企むに至る代物。

シャーレの執務室はてんやわんやの大騒ぎである、ここに来てカイザーが俄かに慌ただしくなり出した、お陰で作戦計画は変更である。

雷帝絡みという事でユウカをミレニアムへ送り、イロハはゲヘナで作戦部隊の打ち合わせ、アリウスはアビドス砂漠の中央駅付近で待機任務に入り出した。

ミカにはパテルの中で信頼できる連中を引き抜いて、動けるよう待機させている、カイザーが仕掛けてくればこいつらが相手する算段だ。

リオ会長に頭を下げて機材やらなんやらを借りる予定だ、どうせロクなもんじゃない。

正直言ってバラしてエリドゥの地下にでも埋めて欲しい。

 

「株主総会までに妨害して来るだろうが、問題あるまい……。」

 

本夕1700から待機中のスズ戦闘団も移動を開始、株主総会当日から作戦を開始する。

アヤネからホシノの様子が変だと言われているが、そもそもあいつ何処なんだ!連絡をしろ!

作業を終わらせて、一息つく。

珍しくシャーレは静かだ、机の上に目を向ける。

額縁で飾られたボロボロのカード、奴からの唯一の戦利品が見える。

 

『先生。』

 

プラナが呼びかける、珍しい事だ。

 

『ガス配管が……なんらかの工作を受けています!』

「起きろアロナァ!」

『……アロナ先輩が応答しません!なんらかの次元干渉です!』

 

その時、額縁が何かを煌めかせた。

 

 

 

 

連邦矯正局は案外平和的である、というのもここに来るまで”自分の歯で飯食えると思うな”をされた連中が多いからである。

そんな中で不知火カヤは最近の趣味、読書と執筆をしていた。

前までは先生に恐怖していたが、よくよく考えれば理想形ってアレじゃんと気づき、ある意味超人的な割り切りでそれを受け入れた。

恐らくそれを半年くらい前にしてれば防衛室は改善したかもしれないのだが、そこは都合よく忘れた、超人に後悔不要!前へ向く意志だけあれば良い。*16

カヤは背を伸ばし、外を見た。

そして、シャーレ庁舎が1フロア吹き飛ぶのが見えた時、カヤは心から絶句した。

 

 

 

あの世でもこの世でもない空間、その空間はいま、過去最大のどよめきを宿していた。

まさかの”現実改変”でシャーレ庁舎を吹き飛ばすと言う暴挙を目にしたからだ。

自称警察大臣なんて爆笑しながら「自分はズルして何が古測通りだよ馬鹿馬鹿しい」と笑い転げている。

タイユランはそれよりも、ふうと一息つかした隣の”先生”を見る。

 

「驚いたな、君のカードが彼を護るとは」

”私じゃない、あの子が望んだからだ”

 

なるほど、というとタイユランはひとしきり笑い終えた自称警察大臣を見る。

 

”まさか自分は例外と信じてる馬鹿がゲマトリアにいるとはね”

「その点ではベアトリーチェはシステムは利用してたからねえ」

「非有の事実と言うが、”起きた事は変えられない”を”起きてないガス爆発”で否定されちゃ世話無いよ」

 

流石に自称”陰謀の天才”だけはあるのか、先生は理論に納得はした。

つまり独り善がりな古測の利用により、古測の適用から外れたのだ。

 

「この点ではカイザー、それにまあ、あの自称超人は良い線はいっていた」

 

自称警察大臣は続ける。

 

「理事は先手を握り続けることで、ジェネラルは眠らせるという変則、カヤは戦略兵器による大火力で解決しようとした」

 

どれもベースとルールは同じである。

シュロはやや変化球で未知を利用しようとし、孤立空間を作ろうとした。

力を奪うにはかなり惜しい線ではある、彼は彼だけならただの個人である。

 

「だがこれじゃ駄目だね。彼は利用したルールを無意識に破っている、まあ本質的にはゲマトリアらしいね」

 

そう、根柢のルールは絶対だ。

撃たれた銃弾は決して戻らない、実のところアロナの防御も根底はそこだ。

アロナは実は完全な防御ではなく、量子力学的屁理屈と多次元解釈の混成であるが、撃たれるまでいくと改変はされない。

だから”ジャム”が起きる奇跡が起きるのだ、弾が出ないという事態は改変ではなく確率論の範疇である。

しかしこれまで打撃を与えた技は全て”ゲマトリアの介入”がある、巡航ミサイルもそうだ。

”外の手”が入った手段は別になる。

 

「だがここで奴はミスを犯した。自前の特殊部隊でも持てば言い訳が付いたものを」

”弾道弾でも構わないわけだからね”

「理解が早いね!そうなんだよ、でもそれをやると”学園”というテクスチャが剥げる、なんとも馬鹿らしいな」

 

テクスチャが剥げる?それがどうしたというのだ。

そこに拘泥するならこんな手段に頼らなくて良いだろ。

 

「いずれ無理をしたツケが来る」

”あのように?”

 

空間の窓から、次元跳躍で飛んでいく”シロコ”が見えた。

 

 

【次回予告】

 

かつては全キヴォトスの華と呼ばれていたこのアビドス!

それがどうだ。

今ではこのネフティスの喉すら潤す事もできない!

 

次回「 God's Gonna Cut You Down 」

 

この故郷に栄光を取り戻すための戦いなら、それがどんな戦いであれ、聖戦と呼ばれていいッ!

 

 

*1
キレまくった後スンと戦争計算機になるフェーズ

*2
テラーか?

*3
群れとしての一応のガラスの天井

*4
血濡れの包帯隠すため

*5
本当に遺物やお掃除活動、企業とかが消えるわけではないと思う

*6
殆ど関係ないとこから見た感想

*7
某イベントでの意図返しだと思われる

*8
地面すれすれレベルの超低空飛行

*9
曲がるようにしてやろうか

*10
停戦の破壊と言う前提のため原作の株主連合は参加できるわけがない

*11
重自走砲大隊のが安いし軽いからね

*12
つまり再分裂するフラグか?

*13
実戦で実用的な砲が好きなのであってデカいだけの砲は好きじゃない

*14
そんなもん運ぶより補給物資や人員を運ぶのに使えよ!

*15
比較的無害で面白いバカとそうでないバカ

*16
兎や狐の小隊に聞かれたら吊るされそう




ストックチャージの為また少し空くかもしれません。

原作のどっちを見たり知ってます?

  • 長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
  • ブルーアーカイブだけは知ってます
  • どっちも知ってます。
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