キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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最終決戦なので初投稿です、これからどうしよう。


i don't want to see tomorrow

 

 

 静粛なる空間、あの世でもこの世でもない空間は最近アビドス校舎みたいな場所が増築されていた。

 ケイが椅子を運び、”先生”が机を置く。

 熊毛皮の兵士たちも長机などをよいしょと運び込んでいた。

 

「何で、急にお片付けを?」

 

 ケイが尋ねた。

 

「あまりにも散らかりすぎててね。失礼、ちょっと此処座らせてもらうよ」

 

 タイユランは失礼と言いながらパイプ椅子へ腰かけた。

 

「おお、3年以上前とは言え! アビドス、そこからキヴォトスの情報が漁れるぞ、これを今の情報マップと組み合わせればより精度が上がるだろう」

「書類を出さない将軍も困るが、此処までため込まれるのも困る」

 

 楽し気な自称警察大臣と、積まれた書類に心の底からげんなりしている自称シシスベがケイには何とも不思議に感じた。

 

「ちっ、本当に金目の物がねぇな!」

「おっと、私やオトラント公には宝の山だよ、大切に扱ってくれ」

 

 ”先生”がやや呆れた顔をした、頭巾にマスクの姿は恐らく誰よりも先生らしい。*1

 タイユランが結構似合うたちかと笑うのを横目に、書類の確認を始めた。

 

 ”あまりアビドスの書類で邪悪な企みをしないでね”

「我々をゲマトリアやキヴォトスのメガコーポの連中と同じにしないでくれよ」

 

 自称警察大臣は愉快気に書類を速読している。

 

 ”だから、性質が遥かに悪い、同じフィールド同じルールでここまで動かれると”

「本来の大人の戦いとはこう言うものだろう?他の連中が幼稚なのさ、子供と変わらんよ」

 

 ひでえ大人どもだな、相変わらず。

 最近やややさぐれたのか、朱に交われば赤くなるのか。そんな顔をする”先生”は呟く。

 

 ”邪悪ではあるけど一部の生徒にしっかり慕われる大人の相手は嫌だなぁ……”

「知ってますよ、その代わり色彩戦とかではしっかり支援してくれる、頼れる敵という奴です」

「当然だ、あのような連中がのさばれば、私は交渉を回して金儲けができない」

「私も陰謀が楽しめないからねぇ」

 ”芯のある大人である貴方の相手をしながら、ゲマトリアで悩むのは嫌だなぁ”

 

 四六時中誰かをぶちのめす男をぶん回した男たちを見てると、”先生”には間違いなく確信に近い感想が生まれるのを感じた。

 少なくともこいつらよりアイツのがヤバいんだろうけど、あれでも丸くなったんだなと。

 

「ああ、そこは分かりやすく置いているんですよ! あぁ()、預金と予定表読まないでぇ……」

「まだ、許可してないだろう、何だいこの予定表は? 君本当に高等教育受けたのかい!?」

 

 タイユランの驚愕に近い声や、自称警察大臣の声が響く。

 

「おお、あったぞ!これがゲヘナの雷帝の情報か! アビドスのレポートだから規模は小さいが無いよりマシだ、我々の観測できる範囲は皇帝や一部の生徒の一時的な物、例外はこのような空間に潜んでいるようなもの位だからね」

 

 タイユランや自称警察大臣はもはやあのゲマトリアを滑稽で哀れな道化を見る目だ。

 

 ”カイザーや地下生活者はもう良いのかな? ”

「次に打つ手が分かりやすい、現実はターン制ゲームでは無いよ?」

「タコもモグラも地下や水面下の岩陰で無害に隠れて居れば良いものを、飢えた鷲の縄張りで捕捉されるような場所に出てくるからだよ」

 

 自称警察大臣がとどめを刺す様に呟いた。

 少なくとも陰謀とその解説に関して彼は間違いなく優秀である。

 

「ゲームと言うが独りよがりは良くないね、あれは自身の敗北を受け入れないよ。ありゃだめだ、フーキエ*2にクビ飛ばされてしまいだな」

 

 ”先生”は何とも困った顔をした。

 似たようなこと言うこいつらは「最悪負けて死んだら其処までということ」で割り切ってやがるのだ、死人の様に生きるより恒星みたいにハジけようで生きてきた。

 これでも”先生”には人並みの生への執着などもある、そこは理解できない。

 以前それに関して発言したら「だがお前も色彩を利用しただろう? 本質的には君も私達と変わらんよ、博打うちなのさ」と返された。

 

 ”と言うか何で掃除してるのかな? ”

「先輩が今のホシノ見て居たら気に病みそうだからだよ」

 

 傷だらけの金髪の元帥の一人にそう言われた、確かにあれだけ大暴れしているホシノを見たら悲しむだろうという彼らなりの配慮? なのだろう。

 先輩は、タイユランや参謀長の指摘に泣かされていた。

 強面の将軍たちは楽しみ気に扉の向こうを見ている。乗り込む条件を待って居るのか、飛び込んでくるのを待って居るのか、狩りの達人が殺意を消しているようにも感じた。

 

 

「しかし、特殊部隊は持たずとも病原菌の運び人は用意したわけか」

 ”? ”

「スオウに寄生している虫が終末寄生先を探しているんだよ。そう言えば皇帝はエジプトでペストに苦戦したらしいね、あれはシリアだったか」

 

 すると、”先生”が棚から箱を一つ取り出した。

 タイユランが首を傾げる。

 

「どうしたんだい」

 ”ケリをつけるときに使おうと思う”

 

 タイユランは理解はしたが、言った。

 ベレッタの92Fよりいい手段がある。

 

「そういう専門家が居る、依頼するかね?」

 ”私がやるべきことだと思う”

「キミ強情さが似て来たね。まあいいや、でもレクチャーは受けておきなさい。敵とは言え、君慣れてないだろう?」

 

 からんと鈴を鳴らし、アホ面の一人の男が出てきた。

 

「ビクトル軍曹、先生に狙撃のやり方を教えてやってくれ」

「ついでにグラサンも取り返してくださいよぉ!」

 数人から無くすお前が悪いと言うヤジが飛んで来た

「弾丸のついでに一緒に伝言も頼むよ」

 

 

 

 観測任務中のパテル派部隊の報告によると、不審な列車が2本走っているらしい。合流した時ミカに怒られたのは驚きだった。

 追跡を継続させるが交戦はさせない、触接維持でいい。

 しかし明らかに不合理だ、どうも動きがおかしい。

 何故スオウは”あのタイミング”で喧嘩を売り、そして何に突き動かされているのか。

 

「ん……先生、カイザーはかなり混乱してるみたい」

「結構! グダグダしていてもらう」

 

 総力戦がなんだ。営利企業が国営組織に張り合える訳ねえだろ。

 アオイ室長は青くなりそうだが、青春の色彩と勘弁していただく。

 連中が混乱しているのならそれでいい、バカは馬鹿らしく大人しくしてろ。

 

「これ以上何しようって考えてるの?」

「子供相手にしか戦争をできない奴らに本物の総力戦を教えてやるだけだ」

「校舎残ると良いな……」

「あの時ホシノが挑発に乗らなければ、ここで終わった話なのにな」

 

 レミングスはクラッシュへ向かっている、スカンジナビアで生まれたネズミの群れはノルウェーの大西洋岸から自殺するのと変わりはしない。

 追撃戦は俺の特技だ、ホシノ達は戦略的な速度を上げなければ、俺に追いつかれると思い速度を上げるだろうが、速度を上げても戦略的な速度は変わらんよ。巡航速度と最高速度は違うだろ?

 まぁユウカ達が合流する頃にはカイザーはご退場だが。

 

「アヤネは生徒会長にしたしな、セリカはカイザーの社長にでもしてやろうか?」

「焼きついた不良債権じゃないの」*3

 

 古い物に縋る連中め。まとめて同じ場所、屑箱に放り込んでやる。

 エジプトのあれこれは俺が発掘の先鞭をつけなけりゃ、あと100年は砂の海の底だったろうよ。

 反乱起きた時のカイロみたいにしない分、やはり丸くなったのでは? 

 

「部隊を空輸する。空中機動作戦やるぞ。便利屋も呼んで置けよ、強行軍だから補給部隊の護衛が必要だ」

 

 シャーレの追撃戦が幕を開けた。

 

 

 

 

 地下生活者の混沌の領域に、コーンと何かの高い音が響く。

 

「この空間に……干渉を……?」

 

 まさか、出来るはずがない。

 あの契約の箱のOSはダウンしている。だからあの駒は先生に射撃ができた。

 ”起きた事は変わらない”、そう、変わらない。

 世界が無限に分岐しても過去は変わらない。

 だがあの音は段々と近づいている。

 

「いったい……なんだ?」

 

 何を意味する? 分からない、何らかの干渉だがそのようなものが起こるのはチャートには無い。

 あくまで”キャンペーン”なのだ。

 もう少し考えれば彼はその言葉の意味の転換に気付けたかもしれない。

 

 キャンペーンは戦役とも翻訳できるのだ。

 

 ぼとんと音を立ててビール瓶サイズの何かが降り注ぐ。

 

『プラナちゃんヘッジホッグー』

「なにィ!?」

 

 爆発が煌めき、地下生活者がさらに混沌の領域を潜る。

 クソ! 逆探知だと? 何故? OSは沈黙したはずだ、契約の箱が二つ? ありえない。

 

 

 

 プラナの解釈はある意味、教え方の違う二人の先生の影響を受けた結果であった。

 ”解釈は無限大”、”なりたい自分を目指せ”、”夢を捨てるな”、”立ちはだかる全てをぶちのめせ”。

 結果プラナは”解釈は使用次第”という事を利用した。ダウンしたアロナの分の演算能力を借用、疑似的多次元解釈にでた。

 そして顕現したのはこの”あやなみ型護衛艦”、”次元空間への対潜作戦”という解釈であった。

 あの教室がある空間の広い海を、いま護衛艦が波濤を蹴って進んでいる。

 無論プラナがこの対潜作戦に従事しているため、先生を護る手段は無い。

 だがそれを承知で先生は突き進んでいる。*4

 後悔は要らない、昔と同じだからだ。*5

 

「取舵10度、15秒後戻せ」

「とりかーじ!」

 

 ミニサイズのプラナ達が復唱する、8の字では無くクローバーリーフパターンで対潜作戦を進めている。

 大きく四葉のクローバーを描くように航行している、典型的対潜作戦のやり方である。

 艦橋の本来は隊司令が座る席は、アロナが寝たきりで座っている。

 

「爆雷攻撃準備ー」

「ヨーイ!」

「対潜爆雷投射はじめ!」

「撃て!」

 

 88式鉄帽にライフジャケットを着ているのは形から入るスタイルである。

 艦橋前部のヘッジホッグが唸りをあげ、更にY砲投射爆雷が唸りを挙げる。

 

「じかーん!」

 

 ヘッドホンをつけた水測員のプラナが声を挙げた。

 水面に大きな水柱が立ち上がった、全弾炸裂だ。

 

 

 

 

 ホシノはやはり計算違いか、と呟いた。

 私が考えるよりこの大人の手は長かったらしい。

 司令部用のCH-53Eから、後輩たち、それにA分隊*6が降下してくる。

ヘリにトリニティと思われる翼の付いた生徒も見えた。風紀委員長ちゃんと並べてる辺り余程の切り札だろう。

 

「うへー、先生。相変わらず手が早いねえ」

「家出は終わりだ、帰るぞ」

 

 

 

 かなり無茶したがホシノが生徒会の谷に入る直前で会敵出来た。

 無理言ってハイランダー鉄道学園の双子から借用した<カスウェナン号>で燃料を輸送させ、片道覚悟で飛ばした甲斐がある。列車の護衛の便利屋は半分拉致同然で運んできたが、前金で依頼してたから良いだろ。列車で任務継続中だ。

 手間と金は掛かったがともかくこれでチェックだ。

 

「しかし……なんなんだここは?」

 

 辺りを見回せば奇妙な、あまりに奇妙な廃墟群だ。

 配管、ケーブル、ミレニアムの廃墟地区とよく似ている。

 だがおかしいのは。

 

「どうしてこうもメイドインゲヘナな代物ばかりなんだ?」

 

 パンデモニウムソサエティーのマークがそこかしこに書かれている。

 ヘリのデータリンクで見ている待機中のヒナも困惑に近い反応だが、マコトの前任者はなにしたんだいったい。

 明らかにこの谷は異常だ、見上げれば光学迷彩のついた膜が展開しているし、この施設だけで間違いなく借金どころかアビドスが再建されるかもしれん。

 だが過去の生徒会はこれを封じたのだろう、恐らくネフティスの当時の指導部。最も今のネフティスの連中は封印した理由を忘れたのだろうが。

 

≪これが、アビドスだ。≫

 

 施設内のスピーカーから声がする。

 スオウらしいが、語り口が今までと違う。

 

≪過去の超絶的なまでの黄金期の中、軍拡と覇権主義に取りつかれた成れの果てがこれだ。≫

 

 各所の隔壁が開く。

 

「弾薬庫……?」

 

 セリカがライトを向ける。

 サオリが照らし出されたものを見て、驚愕の声をあげた。

 

「マダムの……同じ巡航ミサイル……」

≪ご理解が早くて助かる、そうだ、ゲマトリアと同じ技術だ。≫

 

 ミサキが確認しようとすると、隔壁が閉ざされた。

 

≪申し訳ないが、手は触れないでくれ。≫

「なんで?」

≪”弾頭は通常じゃない”≫

 

 スオウの言葉は明らかに嘘ではなかった。

 各種センサーで観測してる前進指揮所のユウカ、そして強制連行したヒマリは明らかに危険物だと進言している。

 

≪これがかつてのアビドス生徒会だよ。力と覇権によって神の徳ではなく力に仕えた。≫

「そして滅びた? それがどうした」

 

 啞然とする全員の10歩前を進む。

 

≪先生……貴方は異物なんだ、この世界にあってはならない歪みだ!≫

「酷い事言うなお前、そこまで怒る理由はなんだ」

≪貴方は本質的に”キヴォトスにとって異物”だ。色彩となんら変わらない。≫

「そうやって過去ばかり見てるからアビドスは亡びかけたんだよ。どう勝つかじゃなくて、作りたい明日が無いからだ」

 

 未来を作りたい、その意思がないなら滅んだ方が良い。

 生命体が群体となり国家になるにあたり、希望を持てない、持たせれないなら滅ぶべきだ。

 だが作りたい明日が、理想がある限り戦い続けるべきだ。だから俺はアビドスへ来た。

 かつてフランスでそうしたように、革命を守る為に、一つの欧州を作る為に。

 

「スオウ、ホシノ、お前らはなんら変わらない。過去ばかり昨日ばかり見て、明日も今日も見てこなかった。だからお前らには勝ちがないんだよ」

「わたしは……アビドスのために」

「ユメ生徒会長の居たアビドスにだろ!死人の方ばかり見て、お前はなんら変わらない、自殺願望を自己犠牲に変えようとすんじゃねえ! テメエは将校(リーダー)だろ! 先輩だろ!」

 

 ホシノの胸倉を掴む。

 

「あんたに私の何が分かる!勝ち続けて手に入れ続けて来たあんたに大事な人を失う苦しみが!」

「俺も夢に付き合わせ、戦略のミスや心を理解せず親友を何人も違う理由で死なせたよ。殺したと言われれば否定も出来んな」

「それなら何で、そんなに堂々と胸を張って生きれるのさ!」

「そうしないと奴らの生も死も無意味にしてしまう。俺が生きてる限り、いや、俺が忘れられない限り奴らも永遠だからだ!」

 

 ようやくホシノが素直になった。

 

「アビドス砂漠の砂の中に埋もれ忘れられて行く、学校のなにが!」

「そうやって過去ばかり見てるからダメなんだろうが! 後輩も居てやる事がそれはダメだろ!」

「ユメ先輩ならあの子たちをもっと優しく扱えた! 私じゃ駄目なんだ!」

「それが本音か!?違うだろ! お前うれしかっただろ! <デザートストーム>の時に後輩たちが来たことに!」

「嬉しかったよ! だけど私じゃ」

 

 ホシノを掴んであの時と同じく振り回す。

 

「じゃあ、あの時シロコを助けに走ったのは誰の意思だ!」

「それは……」

「壁ぶちやぶって突入したのは誰の意思だ!」

「それは……」

「お前の意思だろうが!」

 

 ホシノをぶん投げて叫ぶ。

 慌ててセリカがキャッチして支えるが、勢いが付いた総計28キロのフル装備に弾薬と予備のプレートも合わせて40キロもするため*7受け止めきれず、質量の殆どを受け止める羽目になったセリカが下敷きになった。

 

「ふぎゅぅ、先輩重い~……」

「ん、幸せ太り」

 

 強盗カッターでセリカの上のホシノを引っ掛けてどかした後にシロコがホシノに手を伸ばす。

 

「……シロコちゃん、成長したね」

「ん!」

 

 ホシノは伸ばされた手を掴んだ。

 その瞬間、壁の配管に電流が流れ始める。

 

≪なんだいったい……≫

 

 スオウの声が響いた直後、列車砲がゆっくりと動き始める。

 

「この馬鹿余計な事を!」

 

 あのバカなんかしやがったか!? 

 列車砲がレールを進み、ホシノが慌てて立ちあがる。

 

「まずい! 仮にゲマトリアだかの物だったら良い事な訳がない!」

「俺もそう思う! スオウ! 隔壁閉ざせないか!?」

≪端末が制御不能だ! 信じがたいがあの列車砲は”勝手に動いてる! ”≫

 

 車止めくらいかませろバカ! 危険物なんだろどうせ! 

 通信機から報告を聞いたサオリが、更に叫ぶ。

 

「飛翔体警報ーっ!」

「今度はなんだ!?」

 

 空を見上げる、あれは……。

 トマホーク巡航ミサイル? 

 

 

 

 

 ジェネラルは報告を聞いて愕然とした。

 

「なんだこの巡航ミサイルは!?」

「分かりません! 突然予備部隊の巡航ミサイルが発射されてるんです!」

「分かりませんで済まされるか!」

 

 副官に悲鳴に近い声で叫ぶのと同時に、無線兵が声を挙げた。

 

「サー。大変です……MIRVが発射体制に……」

「……神様」

 

 ジェネラルは予想落着地点を見た。

 まずいぞ、先生はともかくシャーレの主力やシェマタどころか俺達もヤバいじゃないか! 

 

「回線を繋げ! シャーレに!」

「何と言うんです!?」

「”直ちに迎撃願う”だ、奴ならアテになるかもしれん!」

 

 あれだけ敵に回せば面倒なんだ、おこぼれに預かるぞ! 

 俺はこんな所で終わりたくなんかない! 

 

 

 

<カスウェナン号>の5号車天井、ユウカとヒマリが空を見上げる。

 大丈夫だ、まだ再突入軌道に入っていない。

 

「リオからのデータリンクが来ました、アリスちゃん、あなたなら出来ますよ」

 

 アリスの光の剣、それは以前の姿と少し違っている。

 数々のエンジニア部の報告とアトラハシースのデータで、改装計画はスタートした。

 リオやヒマリからの情報提供を受けたこの”新たなる剣”、鋳造し直された伝説の聖剣はいま、カスウェナン号と有線接続している。

 電源車が轟音をがなりてて、強引に接続した追加の電源ユニットの一台が爆発する。

 

「作業続行!」

 

 ユウカの計算が完了した。

 

「高角そのまま左にコンマ3度、1.2秒後射撃!」

 

 青白い閃光が迸り、煌めきが広がる。

 ノゾミが「角度あれでいいの?」と尋ねると、ヒマリはデータを見せた。

 終末軌道に入る前の、最後の推進剤が使い果たされる瞬間。

 事前データは前回のサイロ攻略で掴んでいる、ならば計算できる。

 未知を既知にしてしまえばそれでいい。

 

「だーんちゃく!」

 

 撃ち出された弾芯は目標の後部を直撃、推進剤タンクが誘爆する。

 

 

 

「ちょーっと待ったああああ!」

 

 地下生活者は遂にそれに手を染める。

 因果律の改変! 

 MIRV全てでなくて良い、いまあの先生はただ一人の人間、そして子弾頭の一つが残るのは”現実改変”の範疇ではない。

 因果律の改変だが矛先を変えるだけ! ここまではシッテムの箱と同じ範疇だ。

 だが大事な事は。

 

 ユウカの計算通り飛行経路の最終調整時に破壊されてるので再突入体は大気圏でバウンド*8して惑星引力圏から離脱させられる状態。すでにダイスの目は確定されている、確定事項を変える行為は、”現実改変”そのものである。ならば必ずそれは揺り戻しが来るのである。

 

 

 

 降下する子弾頭は、生徒会の谷の奥地へ炸裂する。*9

 地上炸裂した弾頭は爆圧と衝撃波、更に備蓄された数々の秘宝の炸裂により爆縮と爆轟へ至る。

 

「全員私の後ろへ!」

 

 ホシノがシールドを全開にする。

 もう誰も死なせない、私が守る、そうだ、先輩はそれを。

 爆発の光の中から違う光が生まれる。

 

 

 

「やったああああああ!!」

 

 地下生活者の歓喜の声。

 朝霧スオウ、なんと不完全で哀れな神秘、お前は生徒でありながら未だ神秘がテクスチャを纏えていない! 

 だがお前を触媒にすればそれが現れる! セトの憤怒が! 

 そう、全て不完全なお前が苦しんだ兆候を逃さなかったが故の顕現!*10 

 ”季節外れの台風”、”妙にアビドス校舎に襲い掛かる雷撃”、”数々の異常気象”、神秘の不完全が苦しむ叫び! 

 

「そして二つは遂にそこに立った! ホルスとセト、創世記だ!」

 

 かなり無茶苦茶したが、最後の手だ。

 セトがそれを成す。

 

「ホルスに引き寄せられる、セトも引き寄せる。そしてそれは反転する!」

 

 ホシノは反転するだろう。

 これで終わりだ、私の。

 私の勝ちだ。

 

 ”随分ご機嫌だね”

「なにィ!?」

 

 スーツを着た優男風の男性が立つ。

 

「貴様色彩の!?」

 ”先生だね”

「なんでここに」

 ”いやなに、ゲームマスターからの忠告だよ”

 

 ”そういう物はツケが効かないんだ、支払い能力も無いのに頼るもんじゃないよ、イカサマの種がバレた博徒は身ぐるみ剥がされて沈められるってね”

「黙れ敗者が! エンディングは常に一つ!」

 ”プレイヤーか、神様気取りかどっちなのよ”

 

 呆れた顔をした先生は、それを構えた。

 ベレッタ92F拳銃、シロコが慌てて飛び出したもので忘れていったものだ。

 

「な」

 ”知覚できる存在が神な訳ないでしょ”

 

 乾いた炸裂音が響き、最後に黒色火薬が漂う。

 

 ”ありがとう、えーと、ビクトルさん? ”

「ねーあんた先生なんでしょ、俺のグラサン返すよう頼めない?」

 

 死とは忘れられてしまう事である。

 

 

 

 

 

 セトの雷撃が急激に周辺を掘削し、すり鉢状の穴を形成していく。

 セトとホシノの共鳴が始まる。

 

≪ヒューム値変動! 先生!≫

 

 ヒマリの叫びが響き、風圧により司令部用のCH-53E指揮官機仕様が横転する。

 ホシノの身体が煌めきの中へと溶けようとしている。

 やるべきことは分かっている、ヤツがそれを遺していった。

 俺は勝ち続ける、だからこそやらねばならない。

 

「先生行くな! 死ぬ気か!?」

 

 サオリの手を振り払い、やるべき事へと直面しよう。

 手のかかるバカな家出少女だ、全く。

 

『スーパーAIアロナ、ただいまふっかーつ!』

「よお間に合ったか!」

『疑似的にナラム・シンの玉座を生成します! 後はホシノさん次第です』

 

 煌めきの中へシッテムの箱を差し込む。

 後はホシノが立ち返ることを選ぶかどうかだ。

 

「さて、じゃああの怪獣なんとかするか」

 

 とはいえど、現状軽歩兵だけか。

 参ったな、かなりやばいぞ。

 

「先生!」

 

 アヤネが背負った無線機の受話器を渡す。

 それと同時に、白煙を描いてTOWミサイルとニムロッドミサイルがセトへ炸裂した。

 

『やあ』

「よおジェネラル、どういう心変わりだ」

『一番営利が出そうだからな、お前に賭ける』

「そうか」

 

 受話器を返し、声を張り上げる。

 

「死人のつもりか、立ち上がれ! 俺達、連邦捜査部シャーレはなんだ?」

「「「地上最強───ォォォッ!!!」」」

 

 さあ戦争だ!1000にも届かん数だ。全て手足より簡単に動かせる。 

 

 

 

<カスウェナン号>を追って走っていた<プリドウェン号>から、カイザーのぺレフが展開する。

 突如現れたカイザーにユウカが反射的に武器を確認するが、ジェネラルは一枚の書類を見せた。

 

「”かかる緊急事態における共同作戦”」

「そうだ、あんなものが出ては私のキャリアが終わる! 先生の為にもなる、良い取引だろう」

 

 呆れた大人だなコイツ。

 ユウカはそう思いながらも、同じく列車で展開したスズ戦闘団を確認し、言った。

 

「指揮権は先生にあると認識してよろしいですか?」

「構わんよ」

 

 斯くして呉越同舟は成立した。

 いまや前進指揮所は双方の幹部が走り回っている。

 

「巡航ミサイル第3次攻撃命中!」

「ニムロッドミサイル全弾射耗!」

「スズ戦闘団効力射撃開始!」

「火力を集中して先生を援護しろ! カイザーPMSCは伊達じゃないんだ!」

 

 ジェネラルは備蓄弾薬の手配にあちこちに呼びかけている。

 ある意味ではキヴォトス最強の部隊と言えた。

 予備戦力として待機して独自の判断で前進し、援護に入るゲヘナ。

 観測と諸元座標の正確な報告を送りつづけるトリニティ。

 完全な部隊の管制と統制によって射撃計画を策定するミレニアム。

 そしてシャーレとカイザーの大火力。

 秀才の参謀たるユウカと、本質が軍政屋のジェネラルと、総司令官とすれば天才で最強の先生。

 水と油が手を組んだ、ただアビドスのために、未来の為に。

 

「楽しそうですね」

 

 副官の問いかけに、ジェネラルは微笑んだ。

 

「夢の様じゃないかね」

 

 新たな攻撃計画の策定、弾薬輸送、戦車の交代、全てが目まぐるしく変わる。

 あの男は頭の中にデータリンクシステムがあるかの如く、指揮と管制を続けている。

 

「それがシャーレという連邦主義の象徴であれ、カイザーという企業の威信のためであれ、先生と言うものの本質であれど」

 

 ようやく俺達とアイツは同じところに居る。

 あの男と同じところに。

 生徒を兵装し嚮導し戦列へ導き栄光と勝利へひた走るあの男に。

 

「これでようやく俺達とアイツは”おなじもの”だ」

 

 楽しくないわけがあるか、俺の部隊をこんな風に動かす奴だぞ。

 楽しいに決まってる。

 

 

 

 

 ホシノが眼を覚ますと、見知らぬカフェ、いや、茶室のような中に居た。

 ロココ様式の静寂な空間、これが天国、またはあの世という奴か? 

 

「ホシノちゃん」

 

 懐かしい呼び声がした。

 テーブルの向こうに、追い求めた青春の残影、大事な人、ユメ先輩がいる。

 ホシノの双眸からこぼれる涙は止まらなかった。

 

「先輩、わたし、わたし頑張ってみたんです」

 

 誰にも言えなかった弱音。

 あのうさん臭い大人にも言えなかったこと。

 何もかも吐き出した。

 

「わたしは、わたしは貴女と一緒に大人になりたかった!」

 

 ぎゅっとホシノの手を、ユメは掴んだ。

 

「だいじょーぶ、ホシノちゃんは立派に先輩してるよ」

 

 にこやかにユメは言い、そっとエプロンを付けた黒衣の男がコップを置く。

 

「店からです」

 

 ケーキを添えて、男は戻る。

 ケーキは優しい甘みがした。

 

「ホシノちゃん頑張ってたじゃない、シロコちゃん助けようとしたり、或いは恩返しでアリウスまで行ったり、立派にやったよ?」

「あれは……先輩の見よう見まねで……」

「でもやったのはあなたじゃない、ホシノちゃんだよ?」

 

 アルバムをめくりながら、ユメは微笑む。

 

「それに台風が来た時にみんなで直したりしたじゃない、頑張ってるの、みんな知ってるよ」

 

 そっと窓の外を指さす。

 全てが終局へと導かれようとしていた。

 マガフとシャーレの60式自走無反動砲の猛攻撃が道を開き、ヒナとミカが突入する。

 突入でこじ開けた穴に、アツコが飛び込んだ。

 

「……滅茶苦茶するねほんと」

 

 ユメが危ない事してるなあと呆れた顔をした。

 ホシノが変わらないなあと微笑むのを見て、ユメは尋ねる。

 

「大丈夫? ホシノちゃん、誰かに弱音を吐ける? やっていける?」

「分からないです、でも、なるようになるんだと思います」

 

 それを聞いて、満面の笑みでユメは言った。

 

「それが聞きたかった!」

 

 カランと音がして、もう一人のシロコが入る。

 

「そろそろお時間だね」

 

 すると、最後にホシノは振り返ると、店主と先輩へそっとお辞儀した。

 

「”お世話になりました! ”」

「後輩ちゃんたちにも言ってあげてね!」

「はい!」

 

 扉が閉まり、コップを磨く。

 カフェ、クラブジャコバンは何時でも開いている。

 すると、また扉が開いた。

 

「ここは……」

「ビクトルの馬鹿め、仕損じやがって」

 

 黒衣の男は、そう言うとマスケット短銃をぶっ放した。

 クラブジャコバンは悩める人間には優しいがそうじゃない奴を許さない。

 

 

 

 

 セトが霞の中へと消えていき、前転着地でアツコがスオウを掲げる。

 触媒も無ければセトはそのあるべき姿へ、すなわちスオウの下へと還る。

 塵は塵へと帰る様に、それはそうあるべきなのだ。

 決められた古測は変わらない。

 

「キレイ……」

 

 無数の小さな宝石が煌めく中、夜の空へ消えていく。

 誰もがそれをぼおっと見ていた、マガフのハッチから顔を出した戦車兵も、AH-1Eのパイロットたちも、シャーレの砲兵たちも。

 天使たちが昇天していくのを見るように。

 

「ああ……綺麗だなァ……」

 

 ホシノが目を覚ます。

 ぽとっと、手から何かが落ちた。

 

「手帳……そうか、ユメ先輩はずっと一緒に見てくれてたんですね……」

 

 ありがとう。

 

「……ねえ、これヴォルフスエック鋼鉄じゃない?」

 

 後ろでセリカが声を上げた。

 

「資源有ったあああ!」

「ん! 集める!」

「ん、そっちのわたし! カッター! カッター使おう!」

「めいあん!」

 

 賑やかな声だ、そう、これが。

 私の護るべきもの。

 

「お前ら何やってる! 早くお前らも集めろ!」

「ジェネラルまで何を!?」

「まだ権利はうちが持ってる! 採算性の高いあれで費用の足しにするんだよ!」

「ここはアビドスですよ!?」

 

 後ろから更にやかましい声が聞こえてきた。

 しまいにゃシャーレの隊員もいつの間にかエンピ握ってかき集めている。

関係者が参加賞だと言わんばかりに集合して思い思いの量を拾い集めた。

 

「ジェネラル、世界救ったし弾道弾の貸しで俺に寄越せ!」

「ふざけるな今回で貸しは返したろ!」

 

 ……大人が何やってんのだか。

 ホシノは振り返って、この賑やかで騒がしい中へと戻っていった。

 

「お宝は生徒会たるおじさんが貰うよおおお!」

「「お前の分は損害賠償で差っ引くからな!」」

「うへええええ!」

 

 そりゃないよお! 

 ユメ先輩、やっぱりユメ先輩居て欲しいよぉ。

 この大人ろくでもないよやっぱり! 

 

 狂乱と波乱の一日が終わる。

 

 

 

「ヒヨリ、しっかり背負え」

 

 サオリがヒヨリの背嚢を確認する。

 

「と、特別ボーナスですね」

「ああ、姫もいっぱい手に入れたからな!」

 

 アツコが満面の笑みで言う。

 

「みんな海に行きたいかー!」

「……そのまえに水着買わなきゃじゃないの?」

「先生を説得できるかも怪しいな」

 

 

 あっと全員から声が上がった。

 そういや潜入や浸透工作用以外の水着無いんだった。

 そして、引率の先生は凄まじい海嫌いだ。

 

【次回予告】

 

砂漠に沈む夕焼けが、鼻をくすぐるラーメンの匂いが、遊びの時間の終わりを告げる。

「ホシノちゃん」

そう言って、二人は手を繋ぎ、仲良く坂を駆けのぼった。

 

次回「 "Way Back Home" 」

 

さあ、還ろう。

 

 

 

*1
アニメ先生がイメージだよ

*2
恐怖政治期のヤベー裁判官

*3
この言われよう

*4
当たったらそん時は俺の運が無かっただけだ

*5
良い顔だ、プラナ

*6
久々の呼び方なので確認で、シャーレでのアリウススクワッドの呼称

*7
ホシノが40キロでも80キロの重量物

*8
イチゴの部分に弾頭が詰まっているアポロチョコがくるくる縦回転しながら飛んで行ってる状態である、そして2回大気圏突入するイチゴの部分はクッソ頑丈

*9
列車組えらい顔してそう

*10
本作だとアビドスも巻き込まれた子ウサギ公園水没の大雨が呼び水だと思われるのでお前は無関係




次はエピローグ、注釈=サンの出番は少しだけ。
先生は6人までしか指揮できないとかを入れれなかったり。

アリウススクワッドとミカ&ヒナVSホシノをやると流石に偉いことになるので……
ホシノに詰みと理解させたボナパルド先生の作戦勝ちと言う事で。
この先生、多分状況次第なら会長に頼み込んでC&Cまで用意させてたと思うの。

原作のどっちを見たり知ってます?

  • 長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
  • ブルーアーカイブだけは知ってます
  • どっちも知ってます。
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