キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
スランプ状態ですが、考えてはいます。
並行世界編 サオリ編 『夏色のエデン』
目が覚めると、見慣れた”かつてのアリウス”だった。
昔の集合住宅で、横梁やらで補強された集合住宅内は虚しい灰色で、暖房も冷房も無い、確か蒸気式の暖房はあるはずなのだが、修復の資材も技術者も許可も出ないだろう。
今までのが夢とは到底思えない、そうなら私は随分恐ろしいナニカを飼ってる事になる。
深い地下にある天井の低い食堂では朝食に並ぶ列がゆっくりと進んでいった。
食堂は既に超満員だが、人の声は少ない。
マダムは確か”言葉を制する”技能があるんだったか?
だが二重思考の力を使えばどうという事も無い、マダムは正しいとマダムは間違っているは併存と共存する事が出来る、アリウス出身者ならこういう二律背反と犯罪中止、思考犯罪の抑止は簡単だ。
思考犯罪は死を意味するのではない、思考犯罪即ち死だ。
食堂の面々や雰囲気を確認する限り恐らくエデン条約襲撃3週間前か5週間前……マダム、カレンダーくらいないか?
寝なおそうと思ったがそうも行かない、残念ながら平行世界からの侵略者は本当に居たわけで、前例はあるのだ。
着て居たシャーレ装備は自室の壁の煉瓦を抜いた穴に仕舞い込んだ、但しIFAKやコンパス、メモやペンライトは自分の元々持っているコートとベルトポーチに収納してある。
愛用の50口径ベオウルフは手元にあった、こちらの私も同じ武器らしい。
無刻印銃なので私について来てくれたのか、そうでないのかは分からないが整備と補給に際して違和感を持たないのでそれはありがたい。
「次」
灰色がかったピンク色のシチューが湯気を立てながら所々歪んだ箱型の金属製の小皿──恐らく食器ではない、転用品だろう──に、厚切りのパン、一切れのチーズ、あとタンポポの代用コーヒーとサッカリンが配給されていく。
これでも随分マシな配給である、これの為に兵役に入る奴もいる、噂だがサッカリンの錠剤数粒で”買える”という話も聞いた。
金属製の足が歪んでやや斜めになったテーブルにトレイを置いて、朝食をとる。
味は全くしない、シチューのせいか私の精神的苦痛が味覚まで殺してるか、恐らく両方か?
もはや今、頼れるのは先生の教えだけと言える、だがこういう時のあの人の教えは為になる、相変わらずヤバい時にはあてになる。
1、過去か並行世界的な物か確かめる
2、どっちにしても、そのままシャーレにアリウスを開放してもらう。
3、どうあっても邪魔なマダムには退場願う、暗殺でも良いのだが、その場合の無秩序の混乱を考えると取れる行動は限られる。
私の必成目標の難易度は高い……周りに意図を悟られぬように動くのは、薄氷の上を戦車を通らせるようなものだ、私に出来るのか?
あの先生のように状況を手玉に取り、リスクすら勝ち筋に変える。
まあいい、騒乱と破壊、いつも渦中の中心に居るあの大人に比べりゃマダムは怖くない、トリニティの主体性がない連中もゲヘナの統率も無い連中も怖くない。
連邦生徒会? まだ居たのか?
「サオリさん、幹部集合だそうです」
「ああ」
久しぶりに見たマダムと教官達だが、やはり何とも感じなくなっている、正直何するか分からない先生の目や背中の圧の方が恐ろしい。
ユウカが「先生みたいな笑い方しない様に」とは言われるがまだ似てないと思ってる。
周りの大人どもが自信満々に言う部隊編成と作戦を見せられたが、クソ無の……あー、頭空っぽでユメ一杯な脳みそでは
虚しいのはこの編成だ、たかだか軽歩兵の2個大隊──しかも定数不十分──が精々で、巡航ミサイルの奇襲ありき、しかも、私達の時と違い、ヘリも戦車も無くIFVも皆無に等しい……。
これだと全滅するが、そうだもんな、我々の生死より儀式の方だと言う。なら私も貴女を儀式の贄にしよう。
だが一番先生がキレそうなのは必成目標、望成目標が不明確で、テロ攻撃か遊撃戦か占拠かあやふやで、結局マダムは愚か者と認識するしかない。
適度に戦い降伏するにしても、弱兵と侮られないようにして交渉するのだから、はったりかます戦果は必要だが……勝ち過ぎてもそれはマズい。
「我々は軽歩兵、コマンド部隊です。しかも地下での戦いは慣れて居ても地上戦や市街戦の経験は少ないのですよ。地の利さえ捨てて、ほぼ正面切って相手の主力と決戦するのではなく、浸透強襲するしかないのでは?」
感情を殺して二重思考のまま飼い犬のふりをする。
マダムがギャーギャー喚いてくるし他も「我々が1週間かけて作った作戦だぞ」などと言うが、そもそも現地環境も知りませんよと返すと流石に考え込みだした。
ツーロンの先生の気分が何だか分かって来た、これでやれますと言ったら馬鹿だぞ!
まさか、私が砲を集めて訓練させないといけないのか? 先生は後方にもっとましなの持ってこい、と言えたらしいが、私はこれが使えない。
こんなのをクソ真面目に実行させてたのか昔の私、泣けてくるな、虚しいと言うか馬鹿らしい気分だ。
どんなに脅されようと家の先生に慣れた後だと、怖くも何とも無いんだが?
こいつ本当に将官としても指導者としても役に立たないな、年取ってそのレベルなのが一番虚しいぞ?
というわけで諜報員をぶち込んでの調査の許可や地図等を調達してきた。観光用でも良いからこの際何でも良い、打ち合わせが出来ない。
しかし、信用ができる士官が居ない……、突然手を引かれたので反射で動きかけ、求めていた丁度いい人物が居た。
「あなた死にたいんですか!?あの場であそこまで言っちゃって……ちょっと何で笑顔で手を掴んで」
「ちょっと来い」
「エッ」
スバルを見て一つ案が湧いた、装具品類発注書を抱えてマダムがいま出かけてるから、都合がいいのでポルタパシス近くへ向かう。
「何で私があなたに連れてかれているんですか?」
「成り行きと言う奴だ、すまない。打ち合わせがしたくてな」
「あなたから? 打ち合わせの相談?」
スバルが信じられない物を見る目で見ている、そんな風に見えていたんだよなぁ、考えてみればスバルから見れば実際そうではあるんだが。
確実に味方につけたいが、どうしたものか、任務に託けて外で話すか。
「ちょっと次の偵察と現地レク、一緒に来てくれ」
「へ?は、はぁ」
「あ、あとお前の所の後輩から筋の良い奴を小隊分リストに上げておいて欲しい、装備の幾つかを再編する予定がある」
「えーっ、いきなり言われても……」
「お前ならできる!」
スバルは目をキラキラとさせて、肩を掴んでハッキリ言うサオリに「ふざけてんのか!」と思いながら、張り倒すのは我慢した。
サオリは当然そんな事に気付かず「
スバルを伴い、ありふれた公園でよいしょとベンチに腰を据える。
遠巻きにトリニティの正義実現委員が見ているが、視線を向けると顔を赤くして走っていった。*1
人の居る市民公園ほど盗聴されない場所はない、相手がリオ会長やヒマリ部長の様な音声分類分けのハイテク技術で声紋分析してるなら別だが、それも入念な機材が居る、故に。
「ここの先生は女性なのか……」
「……は、ですか」
スバルが渋い顔をしながら呟いた、計画を話したが、スバルは”時期を待て”とだけ言う、コイツは裏切らないだろうと言うのはネタバレ知識からだ。
情報収集の工作員を増員して調べた結果がきた、日付も判明した、あと3週間か。
連邦生徒会防衛室からカヤに情報提供させた、カイザーの密使を名乗らせたらマジで成功したぞ、うちのはFOX小隊が常に張り付いてるのに……。
金髪ベリーショートの白いインナーカラーをした女性がここの先生らしい、体格はヒヨリみたいな女だが。
「……トリニティは協調性がない、ゲヘナは無関心という雰囲気、連邦生徒会は何もしてないと、まあ概ねなるようになれですね」
「
驚くほど向こうもアレだった、これじゃ何のために条約にシャーレ呼んだんだ? 居なくても回るじゃないか。
過去だったら、私はふて寝するか、匙投げて
まともな連携がある敵に巡航ミサイル1発程度が命綱で全面戦? 塹壕掘る時間も稼げない。
砲と戦車とヘリに耕されて空崎ヒナで殴りつつ正義実現委員会とシャーレを流し込まれて詰み、台パン必須だな。
というかうちの世界のマダム、勝つ努力はしてたんだな! 見直したぞ! 単純に無能なだけだったんだな……。
「あれだけ言って、ヘリ数機とAPCが精々か……金や機材ないのかマダムも? 発注要望書類書いてて良かった」
「リーダー最近、時々凄い毒を吐くようになったね……」
ミサキがやや訝しんでいる、多分全員違和感を抱いているだろう。作戦説明してる時のスバルは見ていて面白い反応だったからしょうがない。
ヘリはALOUTTEⅢとかいう偵察ヘリ、MD-500D数機が精々で、数が多いMD-500Dに至っては民生品密輸じゃないか! マエストロに泣きつくくらいの執着しろよ勝利に! *2
装甲戦力と言ってもFV406サラセン数両、再生品のM3ハーフトラック多数、あと何処から掘り出したと言いたくなるM18ヘルキャット。
一番マシなのはFV103とかいう装甲車にZB298レーダーを積んだ奴だが、3両だけ。こいつは私たち本部班が使う、幸い眼だけは良い。
歩兵火器もベクターR4、つまりシスターフッドと同じガリルだがまあそれは良いとして、重火器が足りない。
無反動砲くれとせびったら「……えっとなにを?」純粋に分からんと返されて面食らった、段々この存在が哀れに見えてくる。
一応カールグスタフM2やM72A2LAWは調達してくれたが、欲を言えばM136やMAWSが欲しい、ジャベリンとか01MATは重いから見栄えで買うのを選ぶ馬鹿でなくて良かった、安牌で良いんだよ兵器調達は。
「まあ、定数が揃わんのは良いとして……」
「良くない筈なんですけどね」
「無いモンは出ないんだよ」
スバルに笑顔でそう返しながらMD-500Dを連邦生徒会仕様に塗装する、便衣? 認知もされてない我々は国際法に参加して無いが?
無論相手には国際法を順守していただく、条文にもそう書いてるからな! *3
先遣で観測部隊を送り込んでいる、警備計画のあれこれも掴めているが、合同警備本部も無いらしい、せいぜい悪用しよう。
パテル分派の武装解除もされてないようだ、馬鹿を何人か見繕っている、幹部数人は未だにミカを胸壁にしてゲヘナを撃つ馬鹿がのさばっている始末で、試しに反連邦生徒会と反シャーレを唆してやったらマジで融通してくれた。
信じがたい馬鹿の集まりだ、ゲヘナは頭領がアホだが脇の補佐が優秀だから断念したが、これで良い。
ナギサが倒れセイアは居ない、ミカは獄中であるから程よくゲヘナ主犯説が浮かぶだろう。
……というか、こっちの先生も多分アズサが喋っただろうに、警備計画や増強は無いのか? 信じられない、死の恐怖が無いというより危機感が無さ過ぎる気がするぞ。
自分の死がどういう意味か理解しているのか? してないんだろうなあ……。
その日が来た、800余名の機械化大隊──最近のアリウスではこれでも大隊と言うのだ──がカタコンベを進んでいる。
主力大隊は古聖堂へ進撃、攪乱部隊は現地調印式へ向かう全ての交差点と鉄道駅及び橋梁で破壊工作。
変電所爆破、橋梁で爆発、各交差点で事故の多発がゲヘナとトリニティの増援の移動路を塞ぐわけだ、重車両の移動を封じて白兵を強要させるわけである。
なお別働の小隊を差し向け、嫌がらせに連邦生徒会防衛室の兵器庫から武器を調達させる。
いやあ、アリウス制服が白いから遠目には連邦生徒会らしく見えるのはありがたいよ。
「真夏の夜の夢の開演だ」
巡航ミサイル着弾の衝撃波が響き渡る。
地上に出て各員を降車させ、周辺から邪魔者を追い出す。
「01より各員、状況開始。各中隊は目標確保を最優先、確保対象の先生以外は非戦闘員無条件射撃を許可する」
『了解』
「投降者は武装解除し捕虜にしておけ、下級生は地下物置、幹部クラスは近所の店の肉貯蔵庫に投げ込んどけ」
『別働から01。主要目標全て破壊及び制圧』
思わず口角が吊り上がる。此処までは成功だ、相手を手玉に取るとこんな楽しいのか、全てをかき回すというのはこれほど楽しいのか。
もしかしたら、もしかしたら何もかも私の想像通り上手く行くんじゃないか。
しかしここの先生は私がエデン条約で使った手段を使うと肉片になる、ならなくても手足もげちまう、ここの私が苦しむし、先生はそういう目に合うべきではない。*4
できれば捕虜にして降伏の際の手札、そしてトリニティやゲヘナの馬鹿が砲を使えないようにしておく重しになっていただこう。
『03から01。コンタクト! 先生発見!』
「確保しろ、逃がすな! 予備案として車両部隊で阻止線を張れ」
『03了解。クソ! ヒナが出た!』
「プランCだ、行くぞ!」
第三中隊が会敵した、普通に先生を追い詰めれたがヒナが出てきた。
ヒヨリに火点確保をさせ、ミサキに車両警戒させる。
現地ではヒナと正義実現委員会の面々が交戦していたが、まだ手はある。
別に”あいつら”相手に勝つ必要性は無いのだ。
「グスタフ!」
無反動砲から煙幕弾を射撃させ、同時に擲弾手に催涙弾を叩き込ませる。
一番大きい咽る声、先生だ!
姫と共に煙幕に突入し、先生を搔っ攫う。
50口径を片手撃ちしながら、姫のテーザーガンで気絶させる。
やはり先生の防護策は抜け道があるのだな、数々の戦訓は役に立った。
「01目標を確保!」
先生を失った相手は動揺している、熟練者なら猶更怖いだろう、撃つことで跳弾することが!
各所でトリニティ、ゲヘナの部隊は壊乱と潰走を開始している。
『観測から01。ゲヘナの後方待機していた擲弾兵大隊が敗走に飲み込まれて崩壊してます』
「良いニュースだ」
さてここから……マダムからの連絡だ。
古聖堂確保とヒナやツルギの排除を要求してきた、出来る訳ないだろう。
「クソボケぇ!!」
「リーダー!?」
「ここで追撃すればうちの主力は分散されて崩壊するだろうが!」
ふざけた要求で思わず憤慨してしまった。
総計して大隊二つが精々のアリウスで追撃戦や機動をやれと?
そういうのは専門家が指揮してやる事ですよ。
「サオリ、楽しい連絡ですよ。マダムは古聖堂の占領も急げとのことで」
「古聖堂は逃げないだろ!?」
戦略目標は一つにしてどちらかを副次目標にすればいいと何度も言ったのに、勝利が見えて欲が出たな、だからあなたはヘボなんだ!
無論幹部に喧嘩を売る気は無い、ヒナは打たれ弱い将校だから脅威目標としてランクは下げるが、高脅威目標はツルギだ。
迫撃砲を投入して彼女が壊乱を後退戦へ変換するのを阻止する、押す引くが常識的なツルギは一時後退を選べる時点で指揮官として極めて脅威だ、再編成されたくない。
同じような奴だとアコが居るが、あれには緊急時の指揮や自己の判断の指揮は全くキレがない、アビドス戦資料で知っている。
万魔殿の馬鹿どもは地上移動中の車列を爆破してやったから、指揮能力はあるまい。
ETOの書き換えで、ユスティナの連中で張り子の戦力は用意できる、それよりも野戦築城の時間、情報が欲しい。
ヒエロニムスは後2,3日無いと起動できそうに無いらしい。
私の指揮下ではこいつは仕事しない運命のようだ、見える場所に置いて張子の虎にでもするしかない。
とかやっていたら数時間でアズサが奇襲してきた、悪いが小柄な相手との接近戦はネルやホシノで慣れている。
しかし戦闘にいまいちキレがない、何処に先生が居るか分からないからか?
「……アズサ、お前もしかして時間稼ぎに来たな?」
「っ」
爆発が起こる、一瞬だが覆面をつけた連中が居た。
……アビドスのばかどもかあ、確かに強盗だもんな、人くらい盗むか。
思わず笑ってしまった。
「強盗が人攫いまで兼業したか」
その隙をついてアズサは逃亡した。
『01、追撃の是非を問う』
「こちら01。追撃は不要。全て予定通りだ」
私は確かに引き金は引いた、だが撃つべき目標は一つだけだ。
ここの先生も誰も彼もここを目指す、だからこそある程度の強さは見せた上で、交渉の後どかせるのが一番だと理解してもらう。
先生は兎も角、弱いと侮られると他の連中に食い物にされる、それは許せないな。
「さあ、エデン条約の主役は私たちになったな……。各員に地雷を配布! 手持ちは全部撒け! 手りゅう弾も前線部隊は持てるだけだ!」
ここから私の脚本の大舞台だ、士官教育は伊達じゃない。
既に主要な通りは封鎖してある。
パソコンを立ち上げ、犯行声明を兼ねて公式配信を開始する。
だがそうだな、ちょいと絨毯を引っぺがしてやろう。
先生が勝って終わる様に、そしてトリニティやゲヘナや口だけデカい連邦生徒会のゴミ掃除もしてやろう。
「我々は条件付き降伏の用意はある、ただし条件がある! 我々の安全など要求の書類は用意してある、こちらに居る捕虜も終われば返還してやろう! だがそれが守られない場合、我々はここで君たちを苛む悪夢となるだろう」
マダムが何か喚いているが「時間稼ぎですよ」と黙らせる。
外地に遠征する軍を制御出来ないなら外征なんかやらせるんじゃない。*5
「我々はトリニティやゲヘナに内応者や情報提供者を有している、更に連邦生徒会防衛室などにも繋がりがある。単なる無知な亡霊だと思わない事だな」
そろそろトリニティの旧弊には退場していただこう。
「例えばパテル分派などの一部好戦主義者やそれ以外の派閥の政治屋には感謝している、シスターフッドにも感謝しているよ、今まで沈思黙考で影響力はあるくせに、黙り続けたのにあのタイミングで動いたから黒幕にまでなってくれた!」
段々と楽しくなってきた。
全員の足元から絨毯を引き抜くのはこんなにも楽しいのか。
公式配信のコメント欄は大盛り上がりだ、開始時点から盛り上がっていたが、大暴露でなお盛り上がっている。
「ああそう、ヴァルキューレが消そうとしても無駄だぞ、我々は君たちのリベートの件も知っている。先生は優しいな、黙ってやったのか? 私は優しくないが」
カイザーのチラシを指さしながら、配信を続ける。
「トリニティの諸君らには心から感謝している、今頃は声だけデカいのに責任は取りたくない方たちがミカ辺りの脱獄でもさせようとしてるのだろう? 責任は自分が取ると言えないなら幹部にならん方が良いぞ」
一通り批判を終え、そうだなと考える。
「次の配信は19時予定だ、先生をお待ちしているぞ。無論、停戦と講和の使者は常に歓迎だ」
これで身内のゴミ共も減って楽できるだろう。
夜の闇が辺りを包んでいる。
やるとすればこの夜しかない、ゲヘナやトリニティの連中が情報収集で送ってきた偵察隊も即座に追い返している。
偵察活動が活発化してきたのなら近いという事だ。
「迫撃砲、MGの残弾は確かめておけ、予備も使う用意だ」
地図を見る。
東からゲヘナの装甲擲弾兵部隊が再編成されて来ている、西からはトリニティの正義実現委員会。
現在までの戦闘で損害は殆ど出ていない、奇襲攻撃の威力はこれほど大きいのだ。
だが愚かな指揮官のせいで最悪の防御戦を行う羽目になっている、砲火力や装甲戦力、航空支援があるなら別だが。
本部班指揮所はカタコンベ地下に移している、砲が豪雨の様に来ようと指揮所が無事ならまだ巻き返せる。
「サオリさん、レーダーが」
「なんだ」
「レーダーが突然真っ白になり出しました」
始まるな。
「戦闘配置! 始まるぞ、遊撃班を編成!」
敵の第一次攻撃はゲヘナから始まった。
恐らくアコあたりが待つのに耐えかねたな? ヒナは通信傍受では所在が不明だが。
『01、01。こちら観測。ゲヘナ部隊およそ大隊規模が攻撃機動に入る。現在時刻1800。終わり』
「こちら01了解。第三中隊に交戦を許可! 遊撃班と車両部隊も使え」
横からミサキが「予備を使うけど良いの?」と聞いてきた。
「むしろ予備兵力があるのを見せつける。たぶん威力偵察だな……」
サオリは予備戦力を見せる事で相手が委縮する事を望んでいた。
各中隊はQF-57㎜対戦車砲が配備されてはいるが所詮57㎜だ、4号戦車やクルセーダーは相手できてもタイガーなど出てきては押し切られる。
観測情報によれば風紀委員会の擲弾兵などだから、4号や3号主軸の部隊。
大丈夫、追い返せる。
風紀委員たちが市街地を進んでいく、バリケード撤去と攻撃線開拓に開始された威力偵察は、予想と同じくアコの指揮だった。
ヒナ風紀委員長の
トリニティの馬鹿と揃って余計な事して、戒厳だ開戦だと喚いたので貴重な本部兵力は初期対応の余裕がなかったのもあり、兵力は十全と言えない。
常識的に考えればそんな事出来る力が無いとすぐに気づけるだろうが、常識論で言えばトリニティの威力偵察と足並みを揃えて対応しているはずだ、だが合同警備の計画すら杜撰で、リファレンスすら十分じゃない上に、条約の意味も分からず下級生が喧嘩しかける連中である、戦理・兵理の常識は最初から無い。
間違いなく主導権を誰も握らなかった関係者全員の責任である、そしてこうした”戦時下”では平時の失政のツケを現場が支払うことになるのである、まっこと素晴らしき文民統制である。
「待ち伏せだ!」
唸りを挙げるブレンガン、鹵獲したM1919A4と迫撃砲が、擲弾兵を忽ちに制圧していく。
直掩の戦車随伴歩兵が離されたのをドローンと監視カメラで確認し、遊撃班にサオリが命令を出す。
建物付近に隠れていたマイアらの遊撃班が一気に飛び出し、吸着地雷と対戦車地雷を投げ込む。
爆発音が響き、先頭集団の先遣が吹き飛ぶ。
各所で待ち伏せ攻撃が行われ、先遣中隊は瓦解した、梱包爆薬が擱座して直協歩兵の皮が剥がれた戦車を襲い、ハーフトラックがくの字に折れて爆ぜる。
「なんで敵はこんなに手を読んでいるんですか!」
アコが憤慨するが、これがある意味サオリなりの”誠意”であった。
情報を大きく握っているフカシ、ハッタリの真実味がかなり大きくなってきた。
30分しない内に攻撃中止命令が出され、ゲヘナの索敵攻撃は失敗した。
だがトリニティが続いて動いた、強襲と言うより、気を引く様な攻撃。
「擾乱射撃、らしくなってきた」
だが火力が少なすぎる。
民間人が避難したか分からない市街地だものな、しかもお前らの領土だもんな。
判断は良いが、遅すぎ少なすぎだ。
ツルギはやや指揮に独創性を欠く組織統率者ではあるが、作戦活動の前線指揮官の方が輝くだろう人間だからだ。
民間人が居ないなら撃てるとエアバースト射撃するあの大人がイカれてる、恐らくトリニティとゲヘナのトップが居ないからああいう無茶が出来たのだろう。
事実色彩戦はちゃんと嘆願は聞いてはいた、つまり臨時指揮という極限状況下だからこそ出来たわけか。
酷いのはあれが恐らく最適解なのだ、短期決戦で全てケリをつけるのは、事実被害を最小限にしかつ、政治的に正しいのである。
よくもまあそういう判断出来るもんだと思う、なりたくはない。
帰還後このAARをした時「そう思えるなら、お前はまだ軍隊以外でも生きていけるよ」と先生に言われた。
「トリニティの連中はあまり真面目に応対するな、砲を何発か撃って観測手を狙い続けろ」
観測できなきゃ大砲は木偶の坊だ。
19時の配信、つまり公開された停戦交渉に先生はまだ来ていないようだった。
サオリはここに来て地団駄を踏むことになった、そろそろ先生が戻ってくると考えてたのだが、何処で何してる!
連邦生徒会? あいつら緊急閣議だってさ、馬鹿みたいだな。
社会不安が進みそうだが、残念ながら連邦生徒会自身の責任だ。言い出しっぺがサボるからこうなる。
結局日付を超えてしまった、配食の手配をさせ、仮眠をさせる。
動きはやはりない。
ついでにヒエロニムスも動かない、ふざけるんじゃないよ。
「はあ、待つのは焦れるなあ。今のうちに車両のエンジン点検!」
車両ってもんは直ぐ動かなくなる、定期的なメンテナンス云々ではなく100時間無故障が”偉業”とされる製品だからだ。
シャーレ整備隊のように金と人員と機材がしっかりしてるチーム──ユウカは最優先で整備予算の手配をする──なら兵器も故障し辛いが、再生品のがらくたワンダーズは問題点がありすぎる。
今のうちに確認はさせておこう。
『こちら02、照明弾! トリニティが戦線押し上げるつもりです』
「夜襲か? 擾乱攻撃だな、ヒヨリ起こせ、あいつを遊撃班に添えて高価値目標狙撃させて来い」
ヒヨリがこの世の終りみたいな顔してるが、それが仕事だ。
サオリはこの時、深刻な勘違いをしていた。
実は擾乱攻撃ではあるのだが、本命が先生の侵入を掩護する計画だったのである。
ようやく気付いた時には、第二中隊は正義実現委員会の連隊規模攻撃の渦中にあった。
「バイク借りるぞ、前線を立て直す」
第二中隊には後退許可と次の防御線を伝えた。
現状は土地より人員である、外郭陣地12キロ四方の陣地が一部が失われても問題ない。
無駄遣いしても怒られない幽霊もどきを引き込んだ敵の攻勢部隊側面から波状突撃させる。
士気崩壊しない技量優秀な歩兵を湯水のように使える、ここだけは素晴らしい。
問題は各級指揮官の層が薄いんだよマダム、私が苦労する!
例えばこれが、良く全員を理解した戦車中隊1、軽歩兵中隊2、重迫撃砲中隊を有する小規模な戦闘団なら間違いなく今のアリウス主力大隊より戦力的に上である。
諸兵科戦闘とはチームプレーである、チームプレーとは相互の理解と信頼が必要である、この原則が無いからゲヘナもトリニティもグダグダしている。
アリウスも所詮同レベルだ、戦略的な奇襲攻撃で無理矢理ボロを隠しているだけである。
ボロを隠すためにせめて105mmでもいいから砲兵をくれと強請ったのだが、重迫撃砲も寄越さない。
先生は戦略指揮官として砲火力を要求しているが、戦術指揮官であるサオリにはある意味「打つ手がない」と同意語である。
兵科も部隊も違う者たちがお互いの強みと弱みを理解して相互補完するチームプレー、それがコンバイントアームズ、それがシャーレの戦力の根幹だ。
「02、現状は?」
前線視察につくと疲れ果てた顔の第二中隊長が損害報告をした。
サオリが最大の弱点と考えているのはこれである、この戦闘に何ら建設的意欲が無いのを感じ取り出している。
恐らく少なくないうちに兵員の士気は底に落ちるだろう、マダム、お前の教えのせいで士気崩壊しそうだぞ! 責任もって何とかしろ。
トリニティの攻勢は今も続いているが、やはり調整が取れない散漫な突撃になりやすく、側背面が調整不足から無防備になるケースが多いので、目立つアンブロジウスをカカシにして側面攻撃を続けさせている。
攻撃進路や調整が鈍い、部隊側面援護も緩いが数的劣勢や火力劣勢は覆し辛い、急にトリニティの砲兵が動きだした。
多分先生が指揮に入ったせいだな。
「指揮の原則がもう少ししっかりしてればな」
残念ながら祭りは終いだ。
空が白み始め、ゲヘナも再攻撃を開始した。
ゲームオーバーと言ったところか。
ゲームセットかな。
なんか強盗犯がブルーアーカイブとか言っているが、今度盗む宝石か何かか?
それは正直どうでもいい、先生に交渉の意思があるかどうかだ。
粛々と戦線後退が続き3キロ圏にまで押し込まれているが、正直これ以上やると後のマダムへのお礼参りや条約違反の場合の行動に困る。
幸いなことに捕虜にした際に出来る限り丁寧に拉致ったのが効いたか、話を聞く気らしい。
「それは”先生個人としてか? ”。あるいは連邦生徒会捜査部シャーレ代表としてか?」
前者なら交戦を続ける。
個人の口約束はアリウス分校より重くない、先生がそうでなくても周りが駄目だ。
”責任を持つ大人として、交渉の用意がある”
よく言った、それでこそ大人だ。
言ったからには実現して頂く、少なくともアリウスを1日3食食える環境にしていただく。
「要求は以下の通りだ」
1:ゲマトリアのメンバー排除。
2:自治権の保証
3:賠償能力なしとの保証
4:アリウス復興の要求
我ながら吹っ掛けたなと思う、だがこれくらいはしてもらう。
それくらいはタカる権利がある。
「なおこの要求案が完全拒否された場合、このようなテロがまた行われるだろう、1の要求しか吞まれない場合はキヴォトス各地に元アリウス生徒が拡散し社会不安やテロが激烈化する可能性が高い事をお忘れなく」
”脅迫染みてるねえ! ”
「真面目な忠告だ。あと言い出しっぺの連邦生徒会はまだ何もしてないんだな、大丈夫なのか先生? 給料とか出てるか?」
やや先生が呆れた顔をしていた。
ともあれ、”調印”は成立した。
書き換えられた条文は”停戦合意”、誰がゲヘナとトリニティの間だけと言った?
そう、最初に言った様に、本来あの公会議が行われる場に居るべきだった我々が帰って来ただけである。
マダム、ありがとう、有言実行したよ。
お礼は弾にして返してやるから覚悟する様に。
「マーダームー! いーるんだろうー? 貴女のスクワッドの錠前サオリだよろしく頼む、とっととおっちね!」
虚しいのはテメエの作戦計画と部隊編成だ!
訓練未了の数週間で編成した部隊がちゃんと初動成功しただけ感謝しろ!
今頃、棚に上げて切れてるだろうな。
ーEND?ー
こういう形なら、変則的なIFが出来そうと思いました。
原作のどっちを見たり知ってます?
-
長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
-
ブルーアーカイブだけは知ってます
-
どっちも知ってます。