キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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予約投稿5分前に不備が見つかり、異常が無いかハラハラしてます。


並行世界編 焼けた大地に孤影を踏んで

 

 ある日のシャーレ本庁舎、どたどたと足音が響く。

 朝も早くから誰だ一体と首を傾げ、事務室前の警衛隊員が「なんですいったい」と呼び止めた。

 扉を開けて、アツコ達が飛び込んできた。

 

「何してんだお前ら」

 

 思わず呆れた顔をする。

 アツコは見た事も無い慌てた顔で「さっちゃんがバグった」と報せ、思わず思考が止まる。

 なにを言っているんだ、サオリがどうしたって? 

 ヒヨリも頑張って説明しようとしているが良く分からない、何が起きている? 

 

「と、とりあえずはあれだな、ユウカを」

 

 足音が聞こえる、靴音で分かる、スズだ。

 

「先生ヤバいです!」

「サオリの話ならもう聞いたぞ」

「違います、ユウカさんがバグりました」

「なんだとォ⁉」

 

 机を思わずぶっ叩いて立ち上がる。

 なんだ、なにがおきているのだ。

 これも何かの陰謀か? 何が起きている、さっぱりわからない。

 あの二人は言わば背骨に左腕というべき存在だ、脳の俺が居て右腕、つまり武器を持つ利き腕のスズがいても背骨が無くては意味がない。

 左腕が無ければ全力で戦う事も出来ない。

 つまり現状のシャーレは極めて脆弱である。

 

『先生』

 

 プラナが声をかけた。

 

「なんだ」

『恐らくこの件に関する異常が観測されています』

「何が起きてる」

『推測:地下生活者の現実改変の衝撃波と呼ぶべき空間異常。ヒューム値に揺らぎが生まれています』

「直るか?」

 

 プラナが幾つかの情報を提示する。

 かなりかみ砕いて説明してくれたが、要するに「いずれこの空間異常は集束する」という事らしい。

 だが別世界から重なるなんて何でそうなる。

 

『説明しましょう! 要するにページとページの間で色や文字が移るようなものです!』*1

 

 アロナが分かりやすくモデルを浮かべて説明した。

 つまるところ、隣近所の家に間違って入ったようなもんらしい、いずれ修正されて帰ってくる。

 世界線の異物は修正される。

 異常は正され元通り、なべて世は事も無しという事だ。

 

「で、それは何時だ? 1000年後か?」

『推測、恐らく80時間前後』

 

 プラナが修正作業をアロナと始めているが、おおむね3日ほどらしい。

 行動計画を策定し、派遣参謀たちとスズにあれこれと言い、対応を開始する。

 流石にミカやイロハやキキョウも状況に困惑しているが、仕事に乗り出している。

 状況はまるで意味不明であるが、敵じゃ無いならまあ良い。

 

「先生はどちらに?」

「そりゃ生徒の所だよ」

「いえですから、どちらのほうで」

「……そっか、二人なのか」

 

 参ったなあ……いつの間にか頼りすぎていたらしい。*2

 

 

 

 サオリの視界は信じられない物が溢れていた。

 中々広々とした四人部屋、見た事のない白い制服に、幾つかの写真。

 その中には見た事ない白い制服を着て撮影に参加している自分や、何人もの生徒たちが居る、日付から見て、色彩が襲来した後だ。

 カレンダーを見る限り恐らくあれからかなり経ってるな。

 

「つまり、記憶がおかしいんだね」

「ああ、私の知ってるシャーレじゃない……」

 

 ミサキが酷く心配してるのも申し訳ないがどうしようもない。

 新聞を見ても、何を見ても、違うところだらけだ。

 もしかしたらこれは夢なのか? 夢にしてはあまりに突拍子も無さ過ぎる。

 恐らく記憶通りなのは、新聞を見る限りエデン条約の辺りまでか? にしてもおかしい。

 私が知っているマダムはこんな本格的な軍備を支給しなかったし、私が知ってる先生はこんな滅茶苦茶な解決をしてない。

 それにライフルも違う、私のライフルは5.56の高勢弾*3で、ベオウルフじゃない。

 

「とりあえず緘口令を敷かせた、表向き風邪にしておいたよ」

 

 大人が入ってきた。

 やはり知らない大人だ、恐らく”ここ”の先生なのだろう。

 指揮将校ってツラだなあとサオリは感じた、見た事は無いが、兵隊のツラをしている。

 不思議なのは傲慢という連中が多いアリウスの教官と違い、知性と理性と、底知れない何かが同居した眼をしている。

 確かにここのシャーレが大組織化するわけだ、納得はした。

 私の記憶通りに、全て進んだなら恐らく彼を殺そうとしたのだろう。

 何故彼は厚遇しているのだろう。

 

「先生、少し良いか?」

「なんだ、飯か?」

「いや」

 

 上着をめくりあげて確認する、自分が付けた傷跡は無かった。

 

「……ここの先生は撃たれてないのか?」

「ん? んん???」

 

 先生は困惑した顔をしている。

 

「私が知っている先生は、私が撃った傷跡が……」

「あー! エデン条約の戦闘の時か? それは」

 

 そうなのだが何故この大人はそんなあっけらかんとした雰囲気で言うのだ。

 まるで昔に話した絵本の話をするような、そんな気軽さで言っている。

 

「撃たれたが当たらなかったからな」

「え?」

 

 自分が外すとは思えなかった、あの距離なら私は当てれるはずだ。

 ヒヨリが説明してくれた、先生を撃った時は随分と自分の時と違っていたらしい。

 元々と違い警備本部が存在し、統合司令部がおかれ、警察による規制線も貼られていた。

 そのエデン条約の最中への奇襲攻撃に際し指揮系統の再編に奔走して、敵地から一時離脱しようとする先生を追撃したらしい。

 BTR-90とはなんだ? アリウスのチーフテン? なんだそれは、ハボックとアパッチの空戦? この世界は何かおかしいんじゃないか? 

 20㎜弾の狙撃も外れたが、付随被害で気絶したらしい。*4

 

「そう、だったのか……」

「まあ俺はプレートキャリアも着させられてたんだが」

 

 プレゼントの防弾着は、見せて貰ったが高分子ポリマーとケブラーにセラミックの複合式だった。

 確かに私のライフル弾でも傷はつけられないだろう。

 

「……私は、この世界の私は何をしているんだ?」

「シェーファーだな」

「……結局猟犬か」

 

 ふっと思わず笑う。

 

「俺としては真っ当に先生にでもなってほしいんだがなァ……善人は戦争に向かんよ、裏切られる心配はしなくて良いかも知れんが」

 

 ふと枕もとの本の山を見る。

 ここの私はいろいろ読んでいるらしい、パスカル、ウェーバー、ステイン、アダムスミス……気のむくままなのだろうな。

 

「ここの先生が無事なら、それでいい」

「まあ腹に穴が開こうが今更だからな、俺太ももはもう撃たれてるし刺されてるし」

 

 大人の親指が入るくらいの穴があった。

 思わず血の気が引く、射入口からして大口径弾だ。*5

 

「その傷は……」

「あ? 大丈夫だ大丈夫、ここで付いた奴じゃない、ここに来る前にツーロンってところで撃たれたんだけどな」

「撃たれた……? しかし先生は外の人間なのだろう?」

「そうだが? なァーに死んだらそこまでだという事さ、足切られたら兵隊出来なくなるからそれなら死んだ方がマシだったしな」

 

 思わず腕を掴む。

 

「先生は自身の命を何だと思っているんだ!」

「簡単に言うとギャンブルのチップ」

 

 彼ははっきり言い切った。

 

「俺は命を粗末に使う奴が許せん、生きたいと思わない奴の死に何の意味がある? 義務を果たせる精兵を使いこなせない奴も許せん、ましてや自身の無能の言い訳に使うのは論外だ、そんな奴の存在を許したくはない」

 

 エデン条約で何があったかサオリはようやく理解した。

 この大人は、マダムのアンチテーゼだ。

 恐らく、恐らく、この大人はマダムより狂っている。

 傲慢ではないのだろう、冷徹でもないのだろう、しかしこの大人は恐怖があった。

 多分この大人なら、マダムの代わりにアリウスに来たらとんでもない事を起こしていたに違いあるまい。*6

 マダムよりまともかもしれないが、その果ては破局と破滅な気がした。

 

「……だから、我々を拾ったのか?」

「大人の汚い話を含めればそうだな、それになんだ、帰る場所も無い無職の元軍人が社会をうろつくなんて事、全員不幸になるじゃないか」

 

 ヒヨリに茶とコップ何処と尋ねながら、テーブルを出す。

 憐れみや憐憫ではなく、何処までも打算的。

 

「そしてなにより、俺はまあ、個人的経験からお前らみたいな連中を一度生んでしまった」

「え……?」

「10年後の栄光を約束し、俺の夢に付き合わせ、大勢を犠牲にした。長い戦争と軍務の嵐で、可哀想な目に遭わせてきた。二度は作りたくなかった」

 

 ぎゅっと先生は拳を握りしめる。

 

「それを許したら俺は俺の正しさを認められない、それだけは許せない、絶対に。他者からの許しは請わないが、自分を許せないのは余りにも惨めだ」

「……そうか」

 

 この先生は、何処かで恐ろしい地獄を生んだこと理解した。

 しかし地獄を生んだことではなく、彼はそれ以外の何かを悔いているのも見えた。

 彼にとってそれは言語化出来ない何かであり、恐らく誰も理解できない何かなのかも知れない。

 彼女の問いに明確な答えを出せるのは彼の友人や部下達も、そして回顧録を託したラス・カーズでも困難だろうが彼らは此処には居ない。

 

「……そうだな、うん、プラナ曰くざっと80時間で帰れるらしいから、帰る前に観光でもするか?」

「土産は持っていけないと思うが」

「思い出は持って帰れる、誇りと同じだ、ここで見聞きした全てを自慢してやれ! 特別授業だ」

 

 そう言うと、先生は別の仕事へ向かっていった。

 

 

 

 サオリとの面会を終え、ユウカの場所へ向かう。

 先に連絡を受けて高速連絡用のヘリでノアが来ていた。

 

「ユウカ、入るぞォ」

「え!?」

 

 扉を開けると、寝間着姿のユウカが居た。

 ノアは相変わらずのセミナー役員制服だ。

 

「い、いきなり開けないでくださいよ!」

「……ユウカにされたことない怒られ方されて調子狂うぞオイ」

 

 思わず困惑する。

 ユウカはこういう理由で怒る事は無かったし、怒らせることもしてない。

 精々が「書類に紛れて隠しても通しません!」だのそういうあれだ。

 それにほとんど身内化しているせいで、こうした呼び出しなんかせずとも応対出来ていた。

 

「……ここの私何やってるんです?」

「予算の事実上最高意思決定者」

「つまりほぼ最高権力じゃないですかそれ⁉」

「別世界製でも頭いいなおめえ、流石セミナーか」

 

 段々落ち着いてきた、キレが足りないが概ねユウカだ。

 ノアに聞いたところ、概ねこちらのユウカと同等だがシャーレまわりは違うらしい。

 

「え? 別世界のお前シャーレじゃなくて事実上セミナー牛耳っているの?」

「リオ会長が行方不明なんですよ! あの人が消えたせいで大騒ぎです」

「あー、あそこで止めて正解だったか」

 

 納得して相槌を打った。

 

「え!? ここだと会長残っているんです?!」

「度々お世話になった」

「じゃあアリスちゃんは?」

「クソガキと元気にゲームしてるよ」

「横領も!?」

「横領に関しては塩漬けにして都市ごと封印措置したよ」

 

 ユウカが口から魂を浮かびあがらせている。

 ノアに押し込まさせてユウカを再起動させる。

 

「うわああんミレニアムの恥が露見だああ! なんでかシャーレは怪しい組織ですし!」

「最初から怪しい非合法組織スレスレだろうが!今のが合法性と合理性があるぞ! 連邦生徒会よりは信頼されてる!」

「ただ単に子会社が成長して親会社呑んだだけでしょ! ダイ●ーとかセブ●イレブンみたいに!」

「失礼な事言うんじゃないよ!ちゃんと行政組織の1線は守ってる!」

「まともな行政組織はこんな急成長しませんよおおおお!!」

「周りがまともじゃ無いから、まともな行政組織を作るとこうなるわけだ」

 

 デカいヒヨリと化したユウカに思わず手を焼く。

 別世界とはいえ学があるユウカだから普段の感じがどうも抜けない、ミレニアム生徒相手はずかずか言い合いできるから加減できないし。

 証拠だ、見てろとユウカのパソコンをノアに起動させ──待て、なんでパスワードを?──、財務履歴を見せる。

 ユウカがインターネットに繋いでいないパソコンには編集途中の財務会計資料が山ほどある。

 食い入るように眺めるユウカの眼が段々曇る。

 

「……」

「どうだ参ったか」

「……2,3聞かせてください」

「なんだ」

「……機密予算の幾つかの予算の流れが不透明です、貴方何してるんです」

 

 額に汗が浮いてきた。

 

「な、何のことだ?」

「こことここです。特科車両研究会なる組織は何ですか?」

「ちくしょうやっぱりユウカだお前!」

 

 ノアがニコニコとしながら「昔のユウカちゃんに似てますねえ」と楽し気にしている。

 試しと既成事実にしようとしたMLRS納入計画はやはりユウカに潰された、きっちりメモに書き記して後の自分へ連絡している。

 こいつあんまり変わらねえな……。

 

「書類が早い辺り違うなと感じてたら変なの買おうとするのはそっくりです!」

「え、別世界の俺遅いのか?」

「正確には先生違いです、私の知るシャーレは”連邦の武力組織”じゃありませんよぉ!」

「そうなのかぁ……なにせ初日から大暴動だったし……あ、ユウカがそっちだと居なかったのか?」

「いやいましたよ?」

 

 ますます分からない、普通あんな治安観たら改善したくなるし、連邦生徒会に殴り込みたくなるんじゃないのか? 

 あんな大権をわけわからんまま与えようとするアホ(連邦生徒会会長)の遺産押し付けられたんだぞ、大人も怒る権利がある、大人が偉いわけじゃないんだ。

 だいたいこんな組織が続いているのは他が居ないからだ。

 

「え、じゃあお前の所の先生はあの”バカ”共の言いなりでやってるのか⁉」

「バカは言い過ぎですよ!もう少し隠して下さい! 事実でも言うべきじゃありません!」

「失礼、”義務を無視し安穏と惰眠を貪る人生幸せな方々”の言う事を聞いてるんだな? 自前の組織の拡大もせず」

「ええ、そうですよ。少なくともそれが言えれば楽なのでしょうけど」

 

 ユウカの話に曰く、あちらの先生は中々ハードなことしてるらしい。

 そんな背負い込み過ぎると壊れちまうぞ、組織の強みは生かさんとつまらん理由で死ぬぞ。

 

「近いうちに過労死しちまうぞソイツ、なんとかならんのか」

「してやりたいんですけど、先生割と全てを背負い込む上に自身の苦しみは隠したがるんですよ」

「やばいなそりゃ、見栄なんだろうがそういう奴は窓から突然落ちて死んだりするぞ」

「なんか具体的ですね……」

 

 ユウカは過去の記録を見ながら、呆れた顔をしている。

 

「どうやって連邦生徒会から予算手に入れてるんです? ここのシャーレはうちより仲良くないんですよね?」

「連邦生徒会の汚職と不正暴露して反抗する役員バンバン首にさせて逮捕させた」

「恐怖政治と言うんじゃないんですかソレ⁉」

「提案してきたのお前だよ!」

「なにしてんですか、止めなさいよ!」

「でもそれ以来アオイ室長以外からは怒られてない」

「そりゃそうでしょ!」

 

 3人くらい役員が逮捕されてしまえば財政健全化していいんじゃない? と2徹明けのユウカが提案したのをGOサイン出したのは確かに俺だが、言い出したのはお前だ。

 お陰でエデン条約以降、組織の予算であまり困らなくなった。

 

「ちなみに不正の資料欲しいか? お前なら機密資格的に許されるが……」

「うちの先生が困りますよ! お人よしにそんなのさせたら病みますって!」

「難儀な性格してるなソイツ、ちょっと心配になるぞ!絶対拗らせて爆発するな」

「貴方が無法なんです」

「失敬な、法学及び法典に関してはお前にだって負けんぞ!」

 

 子供の喧嘩だーとノアが楽し気に写真を撮るのを横目に、幾つかの書類を確認する。

 少しユウカの手が止まる。

 

「……アリウスの子達、拾ったんですね」

「拾うと言うより彼女たちが選んだ、社会システムとしてもシャーレの組織としても見捨てるわけにはいかない」

「……そうでしょうね、でも」

 

 ユウカはこの先を言わない事にした。

 その果てにあるのは飼い主の名義が変わっただけではないか? 彼女はそう考えずにはいられなかった。

 ユウカは財務担当者、いや、生徒会の役員や高級幹部として明確に甘いところがあった。

 それは先生もよく知っている。

 彼女たちを受け入れた際にユウカは、良く知る方のユウカははっきりと言った。

 

「”あなたは彼女たちを相手にお子さんへの代償行動をしないと確約してください”」

 

 先生ははっきりと頷いた。

 彼女たちに対しての話し合いはそれだけで終わった。

 密議に近いものだが、それで十分だった。

 ユウカが言いたかったことは「彼女は彼女達で、息子じゃない」という事だ。

 それが彼にとってユウカを副官として手放せない理由だった、業務上の天才ではなく、冷静な第3者。

 彼女にはそれを言う義務があった。

 何故なら、彼女は彼がどういう男かあまりに深く知りすぎていた。

 

 

 

 翌日、気晴らしに観光に行こうと提案した。

 呼び出したクロコにドライバーを任せたMRAPが走る。

 

「……アビドスの砂漠か」

 

 サオリがぼおっと外を眺める。

 事実上倒壊したアビドス校舎、拡張が進むアビドス新校舎、試験納入されたM60‐120Sのテストがされているシャーレアビドス分遣隊駐屯地。

 事実上射撃演習場なども合わせて購入したので、土地は極めて大きいものだ。

 

「よくまあ買えましたね……」

「財源は頼れる財務担当者が魔法で解決してくれたんだ」

「酷い詐欺の様な気がします」

 

 格納庫の前を走っていく、AH-64EやCH-53が格納庫で整備されているのが見える。

 更に過ぎていくと、バスケットボールの運動場やラーメン柴関の2号店を通り過ぎていく。

 やがて外へ出て、市街地を通る。

 ”水道復旧に伴い本地域給水は縮小”のポスターを、”砂祭り再開のお知らせ”が埋めていく。

 ピンク髪の少女たちが「アビドス温泉営業してるよぉ」と声掛けをしていた。

 傍らに何故かたんこぶが生えたカスミも居たが気にしない、大方もっと掘ろうとしたんだろう、カスミはその辺はアホだ

 クロコがIt's Just A Matter Of Timeを歌いながら、道を進んでいく。

 

「あれがカイザーの」

「今はもぬけの殻、部隊撤退から2週間は過ぎてるからなあ」

 

 カイザーのアビドス駐屯地へ入る。

 残っているものはほとんどない、地下施設も爆破して完全に埋めてある。

 恐らく数年で砂の中へ消えていくだろう。

 

「……過去の物になるんだなあ」

「時は移ろい流れるだけだ、あれこれと変わるんだよ。変わらない方が不健全だよ」

 

 アビドス本線からMRAPを鉄道輸送し、次はミレニアムへ向かう。

 殆ど何かが変わったわけではない。

 ただ『文明の歴史はコーンによく似ている』とセミナー募集のCMに出ているリオ会長の放送が続いているだけだ。

 車は引き込み線へ入り、エリドゥを観測できる高所で止まる。

 公式にはデカグラマトン総進撃の影響で地下が穴だらけだから立ち入り禁止区画指定だ、事実崩落は各所で起きている。

 色彩戦はある意味良い偽装になった、あれのおかげで「戦闘後地域に付き危険」とシャーレの看板を置くだけで真実味が増した。

 

「あーあ穴だらけ……」

「吹き飛ばせるだけ吹き飛ばしたな……」

「楽しかったからなあ、ついやりすぎた……」

 

 戻る途中、暴走したくまロボがネル部長に制圧される現場を横目にMRAPは進んでいった。

 トリニティの地域へ入り、校舎を横目に進んでいく。

 ”給食のプリンはカスタードだけは許さないの会”がデモ行進している。

 これもある種の政治活動の自由化の影響だ、そして”プリンはカスタード原理主義”と街頭闘争が始まるのも……。

 

『検挙ぉ!』

 

 正義実現委員会がガス弾銃を射撃しながら群衆を解散させる。

 言論の自由があり、義務があり、体制がある。

 スケ番が「つーわけで栗浜の姐御の為に署名よろしく!」と声を挙げるのも、ヒナタが募金を呼びかけるのも、時代の変化だ。

 

「なんとも変わったな、ここも」

 

 サオリが呆れたような顔をする。

 それも人の移ろいか。

 MRAPはアリウスへ続く高速道路へ乗る。

 最近ようやく道路網が建設を終えた、ミノリ部長がようやくだと一息ついていた。

 まだまだ完全な復興には程遠い、それでもアリウスはゆっくりと復興している。

 最初は瓦礫の看板から掘り出して、縄張りして出来ていた臨時の駅は今や仮組みを終えて、綺麗な白亜の駅舎が出来ていた。

 都市部は再開発と再建が進んでいた。

 横から柱で補強していた灰色のカビと腐ったキャベツの匂いがしていた市街は、再建されて信号機が再び稼働している。

 

「信じられんな……」

「お前らの家、残ってたよ。アズサ達と見に行ったそうだ」

 

 サオリが写真を見る。

 補習授業部にアズサに、みんなで撮った写真。

 幸せそうににこやかな笑顔が浮かんでいる。

 あの日から2週間後らしい。

 

「アリウス本館……」

 

 亜麻色の塗装で塗りなおされた外壁は、スポンジケーキのような色合いと印象を与えている。

 修復するのに随分と骨を折った、ウイにかなりの古書を修復させ、サクラコの蔵書をあちこち掘り出し、アリウス各所を根こそぎに資料を集めた。

 その為聖堂やバシリカ、聖歌隊や修道院を直すのに予算はかかったがユウカもアオイもこの件は何も言わなかった。

 これこそ戦後を迎えるにあたって精神的に必要な禊であることを理解していたからだ、金で解決付くなら安い事もある。

 

『可愛いチーフテンちゃんの廃止はんたーい!』

『デブで重いけどアテになるんだー!』

『オリファントはあてにならなーい!』

 

 笛を吹きながらアリウス自治警察予備隊が無許可デモを解散させる。

 呆れた顔でサオリは見ていた。

 

「なんだあれは」

「道具に愛着が湧いたって話さ、アツコは予算無いから一部除いて退役させたいらしいがな」

 

 これも自由と言う奴か? サオリはなんともと面食らった。

 皮肉のつもりかクロコはwouldn’t it be nice.を歌っている、こいつはこいつでユーモアがついたな。

 MRAPはバシリカを過ぎ、再びトリニティ市街地へ戻っていく。

 戻っていく路上で焼けた60式自走無反動砲やチーフテンの残骸が路肩で鉄錆に濡れていた。

 消えていない戦争の遺物もまだある。

 

「……激戦だったのだな」

「叛乱、ミメシス、そして俺だ。大騒ぎだった」

 

 古聖堂があった場所を過ぎていく、未だ再建は成っていない。

 色彩襲来で計画が遅延し、現状棚上げされていた。

 サクラコは「まあ次のシスターフッドが再建しても良いんじゃないですか?」と長期戦の構えである。

 市街は殆ど戦争の惨禍を遺していない、エアバーストでコンクリートは壊れないからだ。

 ただ廃ビルに刺さったままのMi-8、公園の傍で転がるハボックの後部ローター、そんな微かな遺物が「自分は確かに居たのだ」と伝えている。

 MRAPはそのままD.U.郊外の方へと近づく。

 

「お、シャーレのMRAP」

 

 サキが公園から片手を振る。

 先生が答礼する様に助手席から振り返し、封鎖が終わった地下鉄駅へ向かう。

 

「よくまあ潜りましたね私も」

「なあ、俺もそう思う。でもまあ、一番負けない手札でカードを切ったのもある」

「MIRVの相手は流石にしたくはないな」

 

 そのままMRAPはかつてサンクトゥムタワーが有った中心部へ向かう。

 行政システムの停滞と麻痺と熟練者の不足やシステムの不具合が重なり、復興は亀の様に遅い。

 未だに一部地域ではM8AGSやシェリダンの残骸が脇にやられて残っているし、いくら持ち出されたか分からない。

 

「皮肉だな、アリウスの昔と大差ないように思える」

 

 サオリの言葉は概ね事実だった。

 D.U.国際空港の廃棄場で焼けたC-17輸送機、カイザーの最初動作戦で着陸し、その後アリウス空挺部隊の奇襲で破壊された輸送機が残っている。

 そのまま車は、定期輸送の飛行船で百鬼夜行へ運ばれていく。

 到着した百鬼夜行ではヘルメットを着けて、袴姿のユカリが偵察バイクを乗りこなしていた。

 予想外に速度を上げるユカリを、慌ててレンゲが陸王で追いかける。

 MRAPはそんな二人を横に進んでいき、百鬼夜行の陰陽部がある城を過ぎていく。

 城の前ではチセがダイキャストの改造オイ車を出店で売っていた、”購入資金でオイ車を動かします”と清々しい意思表示をしている。

 やがて中心街へ入り、百夜堂を過ぎていく。

 テケ車で次の屋台をけん引する用意をしていた。

 

「あら、先生」

 

 ナグサが縄を引いて歩いていた。

 また検挙されたアラタたちが連行されている。

 顔面には「懸賞金2000円」と貼られていた。

 

「またあほが何かしたか?」

「まあいつものとおり」

 

 呆れた様に頑張れと告げ、道を進んでいく。

 山海経を抜け、レッドウインターを抜け、そして帰っていく。

 

『修復、完了いたしました。時間軸再確認』

 

 プラナがそう言い、承認を終え、玉座の限定再起動を行う。

 

「まあなんだ、俺達は俺達で、楽しくやっている。向こうの先生によろしくな、”一人で何でもできると思う方が傲慢”だと言っておけ、悪い先生からの助言だ」

 

 クロコが転送ゲートを開き、二人の手を握る。

 こうした手段に関しては彼女は誰より専門家だ。

 

「頼むぞ、迷子は御免だ」

「ん!」

 

 ポータルをくぐり、閉じ、全ては静寂の中に消えた。

 10分ほどして、スズから連絡が入る。

 2人が帰ってきたらしい、確かにうちの二人だ。

 

 

 

 ところで困った事がある。

 てっきりクロコがまたポータルを開けると思っていたので帰りのドライバーが居ない。

 参ったね……。

 ふと頭の中に昔話したことが思い浮かんだ。

 

 そういえばプレナパテスの野郎はアビドスで干物になりかけてシロコと出会ったそうだ。

 なるほど、俺は逆にアイツを送り出して干物になりそうだ。

 歴史はこうしてつり合いとバランスをもたらすのだなあ。

 迎えが来るのを待つので、車内で冷房とラジオを付けたら、門出の歌が流れてた、良い選曲だ。

 

 新しい時代の扉を開けるのは若者の特権だ、お前達の渡る橋の向こうに次の時代があるんだよ。

 世界を歴史を回し永劫の時の試練に挑み続け、お前達が次の時代の子供たちに残したいものを作っていけ。

 

 

 その後3時間ほどでチヌークに回収されることになった。

 さて、帰ったら何をしようか。

*1
飲み物こぼしたりしたカラーページが良く成る奴

*2
自立思考の楽さを覚えた弊害

*3
「旧日本軍の高威力榴弾の呼び方」

*4
ヒナの愛銃が代わりに折れた

*5
おそらく英軍の75口径(19.05mm)ブラウンべスのラウンドボールだと思われる、良く生きてたな

*6
バニタスではなく、地上最強ォ! と叫ぶアリウスと革命戦争再びしてたと思う




次週デカグラマトン編 滅びし獣たちの海 を予定しております。

感想評価、ここすきなど、お待ちしております

原作のどっちを見たり知ってます?

  • 長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
  • ブルーアーカイブだけは知ってます
  • どっちも知ってます。
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