キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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八月記念特番みたいになっちゃった。
6章どうしようはぜいたくな悩みと思いつつ後半です。


不思議の国のアリウス後半

 

【一番楽しいのは祭りの準備】

 

さて一つの畝に種は撒いた、後は不確定要素なども減らして置く。

こんなのタレイランの仕事だろうが、確かに靴をすり減らしていろんな場所を巡るしかない。

履き潰した靴の数が勲章である。

下味をつける為の期間中に、ミカから2度目の会談要求が来た。

あちらの要望からマギを同席させての話だが、会談はいまいち進捗していない。

 

「他の皆にはまだ話してないよ、これで信用してもらえるかな?」

「それをされたら、いよいよ生存戦争突入で、信用・交渉ではなく銃剣を以て解決する段階になるがな」

 

むうと相手はやや困った顔をした。

いまいちこのミカが良く分からん、何がしたいかその場その場で変わってねえか?

阿呆でも無能でもないのは分かるが、いまいち目的が掴めない、二転三転と言う印象が強い。

相手も此方が及び腰と言うのは別に気にはしてないようだが、そろそろ成果が欲しいと考えている気がする。

少なくとも会談は何も決まらないのは目に見えているが、言葉の幾つかにトリニティ内部への不満が見えて来た。

会談はそのまま終了し、予定通りアズサに命令を渡す。

 

「前段計画だ」

「次はシャーレか?」

「そ、お手紙だ」

 

アズサは現状トリニティ内部に深く潜っている、深部偵察としては危険にはまだ近くない。

お前の諦めないその目も勇気も大事な資質だ、部下に困難でも諦めさせない目だ。

 

「宿題はできているか?」

「おかげで読書の片手間に数学を嗜むインテリの苦学生の1年と言うカバーになったよ」

「良かったじゃないか」

「各派閥からの勧誘が多くて連絡どころじゃないんだ」

 

アズサがやれやれと困った顔をした。

部下の支援役二人は平時はクレープ屋のカバーをしている。

少なくとも食品衛生法で摘発されたりはしてない。

 

「好きな場所に自分を売り込んで潜り込めるわけか」

「無理だな、どうしてもボロが出る、現状の無任所を崩すと交友関係からバレそうだ」

 

意外に思えるが礼儀正しい人当たりが良い人間はスパイに向く。

目を引かず、つい喋ってしまう、そういう人間じゃないとあっさり露見する。

30分ほど話した後「現地の部下のお土産とカバーを維持する証拠も買っておく」と言って退出した。

アズサの資料──大半は学内のビラや新聞などだが──は、トリニティ内部で反対派が増えているのと、シスターフッド内部から改革的な派閥が力を持ち出していると意見が出ている。

風評と実務を見るにサクラコ自身は善人なのだろうが、世俗政治や俗事に何か言うのは良い手とは思えない、秘密主義もダメだがリベラリズムは行き過ぎたら破滅しかねん。

 

 

【平和への最後の望み】

 

 

連邦捜査部シャーレ、その本庁舎自体は一部はヴァルキューレなどの連絡事務所も入っている。

と言うのもここにいる”先生”は武力闘争は多少不得手ではあるが、政治と妥結に関してはそれ相応以上のセンスがあった。

顔を潰さず成果を手に入れられれば万々歳、それが彼のスタンスだった。

ゆえに、アビドスの実態に際して「生徒会長であるユメからの支援要請に基づき」、緊急対応と支援に出た。

あくまで、連邦の人間と言うのが妙だった。

その為に宙ぶらりんのSRTの指揮権を”借用”し、暴動には”ヴァルキューレ”にさり気なく援助を願い出て、後始末には”防衛室”へ恩を売った。

結果は当然、機能的で調整的に活動するシャーレはキヴォトスで完全に活動を地に足をつけている、もう排除は出来ない。

だからこそ、ゲマトリアは「何が悪い」と言い、彼は単純に「倫理に悪いでしょ」と返して、法的正当性無き書類の無効を宣言した。

更に銀行のロンダリング記録を基に、この件を公開して株価が下落するよりアビドス諦める方が安いだろうと妥協させた。

結果として本社の支援がないアビドス派遣部隊は後退へ移り、権利は消失してしまい、ゲマトリアがカイザーに切り捨てられた。

商売屋と研究者では価値の見方が違うから当然だった。

 

”さてどうしたものか”

 

中央の安定はミレニアムにとって望ましい、という事情はリオ会長から聞いていた。

だからこそリオ会長はユウカを支援として回してくれたし、アオイはある程度の自由な予算を承認している。

もっとも大きな支援は、3大学校が「ちょっとした独り言だが」とそれとなく情報を流している、すなわち全員が触れないが何とかすべき件には対応しているのだ。

一番意味不明だったのはゲーム開発に誘われた事である、恥も外聞もなくリオ会長に土下座して学籍詐称をお慈悲して貰った、大人の頭は必要な時に下げる物だから恥とは思ってない。

 

「エデン条約は結んで欲しいけど現状じゃあ、ありえそうもないって話か?」

”ありゃ!”

 

彼は素っ頓狂な声をあげた。

即座に待機室の扉を開けて、待機していたユキノがM4を構える。

 

”射撃待て”

 

彼は静かな声で指示した。

 

”非武装だよ、まだだめ”

「了解した」

 

練度も良い、護衛なら最適だ。迷いも吹っ切れた良い目をしてる。

 

「良い護衛だな。大事にしてやれよ、替えは利かんぞ」

 

FOX小隊のシャーレ警備赴任は、珍しくカヤが言い出した事だった。

カヤにはカヤの事情があったが、彼女の視点から見て、この先生が勝つなら「ごめんちゃーい」と土下座するかと踏ん切りがつき、更にどちらが勝つにしても与しやすいから猶更都合が良かった。

無論目論見は数日で滅茶苦茶になった、アビドスへの派遣中理事をとっ捕まえた事で、ユキノの忠誠の対象が変化していたのである。

白い司祭服の恰好の不可思議な存在、自称悪魔執政だがアロナはこの存在の事を話してくれない、データが無いのだ。

 

「さて、先生。

 ちょっと聞きたいが、アンタはエデン条約をどう思う」

”難しいこと聴くねぇ”

 

先生はやや困った顔をした、深夜に関わらずこうしているのは事態の対応を考えねばならぬからだ。

紛争と騒乱を起こせどもその収拾に関してはしたがらないという、困り切った者たちが多すぎた。

勝ったから良いじゃんと言われても、完膚なきまでに徹底的に相手を叩けなければ意味がない。

そしてその後に作ることが重要だ、ただ単に喧嘩が強いとか作戦指揮ができるだけじゃ無能より害悪である。

先生が一番困っていたのはその点だった、どちらも結んでも意味がないどころか、武力衝突が激烈化するだけの条約を和平とするとは、言い出した連邦生徒会長は合法的にトリニティとゲヘナを潰したかったのだろうか?

 

「あんたの悩みはこの条約を使い上手い事双方の内政問題の解決と再編がしたいって事だろ?」

”まあそう考えてくれても構わない”

「で、だ……。

 我々の提案としては、こうだ。いっそバカをバカなりに騒がせてみて欲しいんだ」

 

先生はやや顔を顰めた。

無論無理はない、彼からすれば非常に困る提案だ。

体制側のシャーレからすればとてもじゃないが受け入れられない、そりゃあそうだ、だからこそこの提案が意味を持つ。

 

「無論放置しろと言うんじゃない、さてここから話すのはとある学園の話だ。

 その学園は複数派閥が入り混じりながら一つになろうと図ろうとしていたが、ある宗教勢力が前面に出てくる、連中は手っ取り早く誰かを纏めるなら弱い奴を、都合が悪い奴を敵にすればいいと決めた。

 そして効果を最大にするべく、かつ宗教勢力に都合が悪い清貧主義のピューリタンの武力組織幹部すら追放させることにした。

 やがて彼女らは致命的なミスを犯す、権門へ本格的にケンカを売った事を皮切りに彼女らは敵を作りすぎ、容易く内部崩壊した……」

 

先生の目が変わる。

 

「そして彼女たちはもう一つの大きなミスをする、追放した存在を呼び戻す事もせず記録から抹消したのだ。

 彼女らはその事を今この瞬間も忘れて生き、歴史の書籍から蘇るとすら考えていない。

 そう、我々が帰ってくるとは信じていない」

”まさか”

「そう、そして物語は一つの転換点を迎える。

 内部対立に陥った追放者は内戦に入る、そんな中である者たちが動き出した、どうやらそいつらに倫理や良心は無い様で生徒を扇動して自身の為に働かせようとしていた。

 だが物語に一人のヒロインが出てくる、彼女は得体が知れない連中より自身の未来を掴みたいと考えている。

 そして彼女はゲマトリアが大嫌いだったようで、ある大人と手を組んだ」

 

ゆっくりと先生は聴講する。

 

「しかしどう考えても我々が”陽の当たる場所”に向かうには大きな問題がある、彼女らは果たして”自らの汚点”を直視出来るかな?」

”まさかあなたは”

「そう、ここまで言えば分かるだろう?

 ならば彼女らの好き勝手にさせ敢えて混乱に陥れればいい、あとは混乱とカオスさ、最初から誰も意味を与えれていない条約を意味あるものにする。

 戦いは喉元を過ぎるまでは誰もが嫌がるからな」

 

先生はしばらくやや黙り、尋ねた。

 

”貴方はどうする?”

「そこだ、我々が陽があたる場所に帰るには、ゲヘナとトリニティが迂闊に相手出来ないと分からせるしかない、本質的に組織間の最大のランゲージは肉体言語だ。

 我々が欲しいのは爾後でも構わない、シャーレによる承認だ」

 

ぎゅっと何かが掴まれるような雰囲気がした。

先生はやや顔を顰めて一つ尋ねた。

 

”その後は?”

 

その自称悪魔執政は後ろに居る生徒に片手で軽くハンドサインして言う。

生徒はそっと端末を操作して、音楽を流し始めた。

何故かは分かる、盗聴妨害だ。

 

「アビドス以降カイザーはあんたや連邦生徒会に対して静かに計画を進めている、もう分かっているだろう?

 頭のいいお前だ、予備の計画があるんだろう。

 頭のいいお前だ、既に備えているんだろう。

 だからこそ防衛室長から借り受けた護衛は常に待機し。

 だからこそ今この瞬間もお前のオーパーツは盗聴を警戒し。

 だからこそ、SOFはお前の事を監視している。」

”……確証があるのかい”

 

先生はなるだけの努力を用い、そう返した。

全て心当たりがある、全てその通りだ、だが彼の根拠が知りたい。

彼の問いに、封筒を渡した。

 

「あんたを監視しているオートマタだ、光学偵察と回線盗聴が始まっている。

 どうしたんだ先生、いつかゲマトリアやカイザーの屑どもを排除しなきゃいけない時が来るのは覚悟してただろう?

 だから貴方はFOX小隊を懐柔し、だからこそ先生らしく振舞い、だからこそ連邦生徒会閣議に顔をだして中央への発言力を常に確保している……」

”そして貴方の出す対価は”

「アリウス分校からの協力……!」

 

魅惑的な取引だった。

そうであるが故に彼は即答しなかったし、考える時間を与える事に何も言わなかった。

その意味はshake hands with the devil(悪魔と握手)だ。

 

「どのみちエデン条約を止めるには遅すぎて始めるには早すぎたのだ、意味を持たせるは大人(おまえ)責任(職責)しだいだ。

 了承ならその時が来た際にクロノスのシラトリ放送会館に来てくれ」

 

先生は頷いた、ありゃ間違いなく悪魔に近いが、悪魔は契約は違えない。

問題はあの悪魔は「女の股から生まれたものには倒されない」とか「森が動かなきゃ安心」とかのあやふやな悪魔かどうかだが……。

まあ良い、散々契約だの強者の搾取だのと申したくせに、何も強みもない哀れな不埒者なんぞより悪魔の方が信じれる。

先生にとって、子供たちの未来を出来得る限り救うのはそれだけの価値がある仕事だ。

 

 

【WAR DAY】

 

分析中のアズサの報告によればゲヘナ・トリニティは、むしろ和平など望んでないかのようにいがみ合っている。

正気と思えないが連邦もシャーレの言う事も知らぬ存ぜぬ、オイオイオイオイなーんも理解してないぞアイツら!

移動中の車内で書類を見ながら呟く。

 

「馬鹿どもが、自分が責任取る事もしねえアホばかりが声がデカいぞ」

「やれやれ追放されてなければアレと一緒?頭が痛い」

 

アツコがあまりに無策な生徒の様子に思わず困惑した。

無思慮!無理解!無策!無能!そのくせ自意識と自我だけ一丁前か!

シャーレの先生とやらもまるで打つ手なしだ、そしてこうした連中には最大の効果を見せるのが暴力である。

先遣のアズサたちが粛々と準備に入っている。

降車し、待機中の部隊へ歩く。

エデン条約の調印式典に近い公園だが、あらかじめ偽旗部隊で境界線に近いここに眼が向かないように封鎖してある。

そもそも公然と部隊を並べても連中は式場ばっか眼を向けている。

 

「おはよう、お前んところの補充兵は元気か?」

「相変わらずアホです執政」

「おー可哀想、まあこの先で多少マシなアホになるさ」

 

道行く執政とアツコに、各作戦部隊指揮官や将校、そして初年生たちが手を振る。

殆どの歩兵はガリルなどを装備し、Ephod Combat Vestを着用している。

ヒヨリなどの所属する斥候は帽子を着用しているが、大半の生徒はベレー帽かヘルメットだ。

 

「生徒諸君!」

 

良く響く声で執政の声が轟き、負けないほどの音量でかかとが揃う音が響いた。

 

「今日ほど諸君らに会えて嬉しいときもない。

 まもなく我々は、陽の当たる場所へ帰還する!諸君らが正当に帰るべき場所へ連れて帰る!

 立ちはだかる全てに、奴らに戦い方を教えてやろう!」

 

遂に来たその瞬間へ、生徒たちが歓喜して叫んだ!

何が全ては虚しいだ、全て終われば最後はおしまいの暗黒としても、それまでは太陽より輝いて派手に燃え盛れ!

全て終わって炭になっても影を遺すほど強烈に!

歓喜の叫びの中、指揮車両のVBLの上面へ乗る。

こうした演技と言うか、わざとらしい演出はなんだかんだウケるのだ。

 

「奴らは我々を追い払えば消えると錯覚していた。

 奴らは我々が脅迫に屈したと錯覚していた。

 奴らは我々を永劫の闇に閉じ込めておけると錯覚していた。

 奴らは我々が屈して倒れると信じていた!

 しかし!今日それらを過ちだと思い出させてやれ!」

 

歓声がさらに高まる、これまでの全てがこの日の為にあったのだ。

蒸気機関の再建、火力発電計画、水道の再建、工業化の成立、外貨の獲得、農作物計画の再建。

そして教育政策の復活と組織そのものの再建!

 

「しかし今日!彼らの前に我々が不屈と不敗の精神をもって帰還したと知らしめよう!

 今日、我々は奴らに忘却の彼方からアリウスの力を見せつける!」

 

上空を隊列を組んだEH-60Aがカラースモークを撒きながら飛んでいく。

 

「ミュージックスタート、作戦開始!

 お前たちはなんだ!」

「「「自主と自立と独立のアリウス!」」」

「アリウスはァ―ッ!」

「「アリウスは地上最強────ッ!!!」」

「さぁ戦争だ。各自乗車!作戦開始!」

 

作戦開始時刻と同時に、EH-60Aが作戦地域上空に入る。

クロノスの塗装で現場付近へ飛行して来たEH-60Aを、不審に思う者たちは少ない。

更にシラトリ区のクロノス放送設備周辺では、地下配線抗の工作部隊が配線を確保した。

予定時刻に入った事を確認した4機のEH-60Aは、接近するトリニティのリンクスの『飛行許可はあるのか?』という交信を無視し、『予定通り、状況開始』と指示した。

 

『おい予定ってなんだ!状況ってなんだ!』

 

同時に、EH-60Aの4機は分散しながらECMを全域で焚きだした。

それと同時に工作部隊は、各所で電線と通信ケーブルを切断する。

ぶつっと音が響き、以前から不穏な雰囲気だった双方が警戒し始める。

 

「水は高きから低くに流れる、人も同じく……不和と無理解はピンで突けば大爆発だ」

 

そう呟いた瞬間、大きな爆発が巻き起こった。

 

 

【兵士一人行方不明】

 

ゲヘナ・トリニティの戦闘は容易く一発の銃声から発された。

あまり理解されるケースは少ないが、対立と冷戦下にある国同士はむしろ関係と交渉窓口を広げる事に熱心である。

ホットライン、駐在武官、前線部隊の連絡と交流、あらゆる政府外交努力。

だがゲヘナ・トリニティ双方にその様な物はない、理由もない憎悪と、理由のない侮蔑と、理由のない差別。

形なき憎悪と愚かな傲慢が双方を満たしていた、停戦の理由すらすり合わせていない馬鹿馬鹿しい停戦条約……。

そして7月7日、エデン条約調印式外郭でそれは始まった。

 

「ECMで本隊と繋がりません!」

「ゲヘナが後方部隊を前進させてるとの情報が」

「装甲車の予備を出せ!」

 

混乱は双方の部隊を疑心暗鬼へ容易く陥れ、相手の動きを読み違える。

混乱と恐慌はやがて、簡単に引き金を引かせた。

乾いた炸裂音、着弾、叫び声、一名負傷の言葉。

ゲヘナ風紀委員会の衛生要員のチナツが撃たれ、倒れると同時に慌てた風紀委員が叫んだ。

 

「奴ら撃って来た!」

「後送する!反撃しろ!」

 

イオリが「えっ」と声をあげた、委員長からは何らの交戦許可は出ていない。

しかしこのような状況の訓練などイオリも彼女ら風紀委員も受けていないし、むしろ反撃以外習っていない。

警戒配置されたWIESEL 1 MK20が前進し、搭載したRh202機関砲をトリニティ側へ撃ち返す。

応射として撃ち返した20㎜は、当然だが過剰に貫通し、付近へ居たシビリアンや状況を掴めていない幾人かのトリニティ生徒を吹き飛ばした。

 

「だから信じるなって言ったんだ、最初からこうするつもりだったんだ!」

 

そう呟き、ある正義実現委員会の分隊指揮官は手近な場所にいたチャーチルAVRE戦車へ、発砲を命じた。

戦端が開かれた。

当初L16 81㎜迫撃砲の射撃戦が40分しない間にL118 105㎜砲と双方3個中隊規模の武力衝突へ発展したのである。

 

 

 

調印式会場は騒乱と混乱に包まれ、怒号と罵声が乱舞し、辛うじて双方の最高指揮官が渋っているため戦闘は抑止されているが完全に制御不能だった。

あまりの憎悪と侮蔑の飛び交いにイブキが涙を浮かべ、マコトはサツキに先に帰らせろと指示を出し、そして嫌そうな顔をしてヒナへ言った。

 

「貴様が始めた事だ、貴様で何とかしろ」

 

マコトは怒っているというより、付き合いきれんという言い方だった。

正直なところ風紀委員が勝手働きして外交に口出ししてこれでは意味がない、風紀委員会は特大級のスキャンダルを公開の場で晒し上げた。

無論それはトリニティも同じである、ツルギが一時中座するとして事態把握に向かうのを、それはマズいとナギサが引き留めた。

ツルギの退室は交渉意欲無しと思われかねない、しかしツルギは「戦闘停止が火急のようですよ」と言うしかない。

 

「ともかく、戦闘を停止させるしかないでしょう、もはや調印云々の時間ではないかと……」

 

ツルギは普段の姿とは全く真逆の、しおらしくおしとやかな抑揚でそう告げた。

ハスミしか良く知らない別側面の素直なツルギだ、普段の姿も真実である。

そもそもツルギはこの調印式に来る気が無かった、戦闘服(バトルドレス)を着る人間がなぜ礼服(ドレス)で話し合う人々の場に出なければならないのか理解できない。

要するに、正義実現委員会の役目とは咆えていい相手に咆えて、それ以外は主人が決める仕事では無いのか?政治交渉など本分にあらずだと考えている。

やがて、ゲヘナ側で激しい争いが起きた。

あちらの伝令が何かマコトとヒナへ耳打ちしたのだ。

 

「……なにかあったようですね」

 

ナギサが後ろへ振り向くのをやめた。

この時の彼女たちは知らなかった、アコが無断で予備の大隊を前線へ投入してトリニティ側と交戦に入っていた。

 

「残念ながら交渉は最早不可能と判断せざるを得ない、我々は失礼しようと思う」

 

マコトは極めて渋い顔をしてそう告げた、飼い犬の制御すらできなかったことは政権の威信を下げる。

もうダメだなと諦観したセイアが、ただ一人沈黙しているミカを見た。

馬鹿馬鹿しいと言う顔をしている、愚かな喜劇だ、望んでない停戦など意味などない。

セイアは全てに諦めた様に、マイクのボタンを押した。

 

「遺憾であるが我々も交渉が継続しえないと判断せざるを得ない」

 

もはや手遅れだ。

一応オブザーバー兼調停と議事担当者のサクラコは、抑えがたい頭痛を堪えるようにして言った。

 

「和解と調停の為の話し合いがこうした対立により中断される事を、極めて無念と感じています。

 今次調印は中止とする……」

 

仕事は終わった、最悪の道で。

サクラコはゲヘナ側の記録担当者であるチアキと、お互いに残念がる目をして握手した。

調印式は完全に双方のほじくり返さなくていい事までえぐり返し、戦火を激烈化させた。

サクラコはなんてことだと思いながら、急に何か騒がしくなった双方の側へ目を向ける。

 

「なに?不明勢力?発砲している?」

「不明勢力ってなんだ?」

 

双方が困惑と疑惑を感じたが、お互いを見合わせる。

奇妙な沈黙がお互いを見つめ合わさせた。

もうしばらく話し合うべき用件があるかもしれない。

 

 

【嚆矢】

 

交戦開始が始まったのは古聖堂へ移動中の主力本隊で、初撃を放ったのは移動中のゲヘナ擲弾兵大隊だった。

『停止せよ、我警察行動中のアリウス部隊』の発光信号に銃撃が飛んできたのを、執政はガッツポーズして喜んだ。

 

「記録したか?」

「記録しました。7月7日14時21分!ゲヘナ擲弾兵大隊から銃撃を受けつつあり!」

 

カメラを構えているアリウス生徒が、はっきりとそう叫んだ。

この場合、ゲヘナのすべき事は「貴隊は何処の部隊なりや?」を問う事であり、「各自射撃(ファイアアットウィル)」を発令する事じゃあない。

極論言ってしまえば国道を侵攻する隊列側面から来る目標を脳死で敵対勢力とするレベルで、彼女らは自身も考えも回ってないレベルで混乱している、少し落ち着けば「誰だよあいつら?」以上ではない。

慌てて砲塔を旋回させる3号戦車やハーフトラックに積まれた88mm砲が見えるが、手遅れだった。

前衛の機動力に優れる装輪車両は60mm砲を積んでいるタイプや、衝撃力を保持するショットカル・ギメルだ。

50mm砲程度の武装しかない3号L型などが多い治安部隊の戦車では効果がない。

 

各自任意射撃(ファイアアットウィル)!」

 

指揮戦車のハッチから赤い旗が立った。

ECM環境下で射撃指示あるまで射撃待てを解除するにはこれしかない。

EH-60Aのマニュアルを手に入れたがバラージとスポットの区別がつくまでは理解してない、無理もなかった、この場合1番の軍事専門家たる執政は、歩兵の機械化などを「乗馬歩兵と、俺がやってた竜騎兵じゃん」と理解しているのがおかしい程度に時代の差があった。

普通は歩兵の機械化や兵站組織だけで複雑怪奇魑魅魍魎になるが、この男何かの間違いか素人ほど長々ぐだぐだ一丁前に喋りたがる"兵站"の概念を最初に組織化した男だったから、功罪全て理解出来た。

ついでに似た事も既にしていた。*1

 

「敵集団が乱れる」

「突入に壊乱したな」

 

無理もない、行軍隊列の側面を機甲戦力16両が攻撃している。

その実体が怪しい戦車中隊と斥候小隊の装輪車両だとしても、行軍隊列の縦隊に側背面攻撃を受けるのは戦場に於ける最悪の一つだ。

ぶっちゃけそうなったら後衛を棄てるか、誰かを捨て石にするかという段階である、何でかネイは帰還したけど……。

無論ゲヘナにもまともな装甲指揮官(パンツァーリーダー)が居たのだろう、即座に体制を立て直した戦車中隊が、遮二無二突進、此方へ食らいつこうとする。

恐らくそれが残された唯一の手段と判断したのだ、それは正しい、だが……。

即座に歩兵の対戦車火器類に叩かれてその衝撃力が打ち減らされ、続けて装輪車両を破壊してもショットカルの応戦を食らって反撃に失敗した。

かわいそうに、重騎兵や竜騎兵は歩兵がいなきゃ、砲兵がなきゃ維持できんのだ。

目に見える反撃失敗が呼び水と化したらしく、敵戦車の残余や歩兵は、壊乱から潰走に姿を変えた。

歩兵のみならず、戦車兵が戦車を捨て始めた。

 

「目標乙の大隊が壊乱した、これで連中国道を暫くどんづまるぞ!」

 

戦力は現地にいなきゃ意味がない、今ゲヘナの国道は連中がバカやって足が止まった。

さあ、次はトリニティの戦列だ。

 

 

【大権発動】

 

さて、予定通り戦闘になったな。

漏れ伝わる情報とECMから、"先生"ははっきりと確信を持った。

 

『あの、どうするんですか?』

 

アロナの問いに、"先生"は楽しげにニコリと微笑んだ。

 

"カヤ防衛室長とリン行政官に、連邦周波数で連絡を。

 それと、カンナ局長や警備局長に緊急招集を願おう"

 

そう言うと彼はにこやかな笑顔のまま、最悪の発言をした。

 

"SRTとヴァルキューレ双方の指揮権を臨時でこちらで統合し、タスクフォースを編成する。

 初めての警察出兵、になるのかな"

 

きったねえ!アロナの内心で驚愕が浮かんだ。

無論全て筋道も何もかも正当性が通っている、むしろ正論と正答と言える。

武力衝突、連邦が発起人、そうなれば起こる武力衝突を仲介するのが自身の仕事。

従い"シャーレがやるべきはIFOR"、であるからにしてSRTとヴァルキューレを用いてこれを行います、無論連邦に熨斗をつけ、ヴァルキューレに「顔を立てると思ってお願い」とおねだり。

自分の頭を幾つか下げればどうなる?連邦は治安を守ったという影響力、ヴァルキューレに社会正義、SRTに共同作戦の成果、そして。

 

"あとはあの悪魔執政次第だね"

 

彼が撃ってきたら?それは心配していない。

そう、先生の計画は彼とアリウスすら名誉ある使者として利用する気が満々だった。

しかも敵対せずに、である。

 

"何もなければお互いお手が早うございますなとニッコリ握手だ、何もなければ良いな、僕は争い事が苦手なんだ"

 

悪党〜!とアロナは内心呆れ返った。

無論、先生の内心にある不安は"さて、彼がその気になってしまった場合、どうなるかな"と言う一点で、なればこそ、出来うる限りの誠実さを行動で示すほかなかろうと確信した。

誠実な軍事行動とはなんなんだろうと思ってはいない、なぜなら"これは警察行動ですから"と言う次第。

彼は一流の軍人ではなかったが、指導者として、先達としてはかなり良い線を行っている。

 

 

 

【終局への序曲(オーバーチュア)

 

ゲヘナ擲弾兵大隊潰走!従い、次に排除するはトリニティの武力勢力。

だがこれは一筋縄ではいかない、既に古聖堂からもかつてのユスティナの腕章をつけて議場にはいり、特別に用意した有線回線でクロノスから放送が開始されている。

止める手段はない、クロノスのシラトリ放送会館は無血制圧され、公式声明としてVTRが流されている。

因みにVTRの制作は慣れない動画制作ソフト使うのも断念し、映画制作会社をでっち上げてワイルドハントの生徒やミレニアムの生徒を正貨で雇って制作依頼した。

そうであるが故に、VTRの映像は長々とせず、要点を掻い摘んでおり、しっかりと目を釘付けにさせていた。

いまやトリニティとゲヘナ本校から増援は送れない、事態を掴めないうちに動くべきか動かざるべきか、判断が出来ないし、その正当性も怪しい。

 

「増援来ません!道路は軍民雑居で移動困難です!」

 

予備隊として離れて待機していたイチカが、ハスミへ連絡を入れた。

騒乱の隙にツルギとハスミは古聖堂から出ておけと、ナギサ達がそれとなく指示して中座した直後に古聖堂が制圧された。

予定通りならば指揮幕僚を完全に制圧するはずだったアリウス部隊は、予定と少し違うなと思いつつも主力到達までの準備を始め、バリを組んで、あとは中継を始めた。

結果として各部隊と戦闘開始で生じた避難民の群れは連絡機動を完全に破壊している。

しかも最悪なのは、その避難民の群れは計画して流されていた、各部隊にしれっと紛れ込んだ偽装部隊は避難民の流れを唆していたのだ。

 

「しょうがない、手すきの連中集めて来い」

 

ツルギの取った策はハスミを一旦連絡に下げて、イチカを警戒部隊に転用しつつ、マシロを即応で展開させながら古聖堂への打通を拒否する事だ。

戦列をどこに敷き、どこに要点を置くかはトリニティらしい戦い方である。

こうした組織戦のやり方はキヴォトスでもかなりの上位になる、だが何もかもが不味かった、全てにおいて遅すぎ少なすぎが響き、部隊は何もかも足りない。

 

「いっそ古聖堂へ突入します?」

 

イチカが尋ねたが、ツルギは呆れた顔をした。

 

「要人がいっぱいのところに、どうやって突入する?」

「……いっそ指揮系統がスッキリするかもしれません」

 

イチカは普段と違い、薄っすらと目を開けた。

"面倒なお弁ちゃら述べてる時でもあるまいし、いっそ握っちゃっても良いんじゃないか?"と言いたいのだ。

気持ちは分かるが、ツルギは興味なさげに言った。

 

「その後の正義は誰が保証するんだ?」

「……失言でした」

「もう忘れた」

 

官僚主義や文書主義は好きじゃないが、ハスミやマシロやコハル達に胸を張って生きていけない事をするつもりはない。

 

「そんでもって、どうします」

「まあ、夜までは保つかもな。

 おっつけそうなればゲヘナも介入しだす、そうなれば……」

 

ツルギは少し、悲しげに言った。

 

「連邦の警察出兵だろうな」

 

つまり赤っ恥を晒すわけだな。

まあ仕方あるまい、自身が詰め腹切っても構わん、上手くやるさ。

 

「始まった」

 

ビルの向こうから、銃声が聞こえ始めた。

会敵の開始は予想より迅速であった。

まずマシロの哨戒陣地に、初手から銃剣による白兵戦を開始したアリウス側の歩兵が斬り込んできた。

戦闘前哨でしかないから、マシロは即時で陣地を放棄して後退を図ったが、狙撃手らしい視点が彼女に相手の異常さを認識させた。

連中1発も撃ってない、いや違う、装填してない。

装填してないのは不意の射撃で奇襲効果をぶち壊さないためで、連中突撃時の喊声(ウォークライ)も出してない、と言うことは連中はこのECM環境下で完全な指揮統率を保ちながら交戦してるのか?

滅茶苦茶である、正義とかそれ以前に「出来りゃ苦労しねえよ」と言う事だからだ。

突撃する際は大声を出せとは、古今伝わる最早伝統作法の域だ。

野蛮なまでに声を上げねば恐怖で折れる。

 

「連中が前線を超えた、来るぞ。

 銃列を敷く用意を急げ」

 

その言葉に間を置かず、最外縁の機銃座が狙撃で次々と無力化され始める。

正義実現委員会の正式採用機銃は大型の三脚を備えたタイプで、軽機はあまり多くない。

分隊支援と言うより小隊支援火器の段階で停止しているのは、車両と随伴する都合が響いている。

 

「敵襲っすね、動きが早い」

「擾乱だな、迂闊に応射せず適時反撃しておけ」

 

ツルギは即座に本格攻撃じゃないと判断した、当たり前だ、こんな些末な狙撃で落ちるほど弱くない。

だからこそ自分が動き回って委員らを勇気づけねばならないし、夜までは単独でここを維持するつもりだった。

介入するのがシャーレか連邦かと言うのはともかく、そうなれば相手の方針は崩れる。

続けて外縁の歩哨へ攻撃が始まり、一気に戦闘は拡大した。

即座に戦闘前哨の歩哨を銃剣で排除したアリウス部隊は、手榴弾と擲弾銃により機銃陣地を爆破、続けて軽機関銃の直掩を伴いながら前進する。

 

「チャージ!」

 

ハンドサインし、即座にアリウスのベレー帽をつけた下士官が叫んだ。

封止解除からの捜索攻撃だ、いまやアリウス主力大隊800余名の先遣中隊が遂に古聖堂へ達しつつあるのである。

IMI ネゲヴの支援射撃が始まり、ピンク色の多めに積まれた曳光弾がタタタタッと足音の様に響いている、曳光弾を多くしたことで制圧効果を高めたが、照準が精確な軽機関銃は散兵線全体を制圧していく。

頭を上げれず応戦する間もなく、前進して来た突撃歩兵が陣地へ侵入、側面から短機関銃で猛射して正義実現委員会の第一線を突き崩した。

 

「前線から部隊を下げろ、装甲車前へ!私も出るぞ」

 

ツルギは即座に予備隊で捜索攻撃を追い返すことに決めた。

我々には予備兵力があると見せつけねば潰走しかねない。

数分しない内に銃座に人が戻り、機関銃が唸りを挙げる。

だが再開した機関銃に制圧射撃が集中し、続けて擲弾銃が撃ち込まれる。

 

「無理に応射しなくていい、ブラインドで良いから撃て」

 

装甲車を前進させたツルギは、FOX装甲車を前に出してラーデン機関砲で制圧射撃を命じた。

効果があるのは明白だった、敵兵の方から笛が三回鳴り響く。

即座に敵が煙幕手りゅう弾を投げて、煙幕を張って後退機動へ入った。

 

「クソっ、組織的に下がりやがった」

 

イチカが苦々し気に呟く。

捜索と擾乱攻撃としては実に厄介だ、予備隊が即応するまでの規模と時間が知りたいのだ。

ただ分かった事がある。

 

「……連中、無線を使ってませんね」

「ああ、多分笛と、伝令と、阿吽の呼吸だな」

「……めんどうなことで」

 

ツルギは何も言わずに、ぬるいお茶をぐいっと飲んだ。

 

 

 

【肉弾】

 

 

現在までの報告を見るに、トリニティ及びゲヘナ部隊はほぼ崩壊しつつある。

最後は古聖堂で前進して待機している正義実現委員会の4個増強中隊だがこれがやっかいだ、どうも正義実現委員会の高級幹部が部隊を掌握しなおしている。

モラルが回復するとどんな敵も面倒だ、力攻する以外ない。

それに”先生”は手堅い一手を打って来た、SRTとヴァルキューレ、防衛室を誑し込んで”警察出兵”を”信頼のおける部隊”へ依頼した。

停戦監視部隊であり、こちらが不義理した瞬間これで揉み潰す予防策だろう、正直良い手だ、来るまでに終わらせてやるしかない。

 

「まあ、連邦に介入する大義名分を与えなきゃいいわけだ」

「だから、手早く終える?」

「まあね」

 

アツコがふーんと呟いた。

現状の損害だが気絶21、負傷25、概ね二個小隊が消滅したと言える。

まあこんなもんだ、車両損害も概ね加味しても、割に合う。

 

「総攻撃では戦車を使えん、パテルの連中が介入する危険もある」

「どうします?」

 

情報偵察任務と捜索攻撃を終えたヒヨリが帰ってきた。

 

「各自装面し、着剣し、待機。

 俺から最後の降伏勧告をする」

「自身で出るんです?」

「しゃーないだろう、俺がやらなきゃ誰がやるんだよ、格が合って大丈夫なの誰よ」

 

アツコは気軽に言うなあと呆れつつ、しょうがないから随行しようかと尋ねた。

 

「そりゃ駄目だ、最高指導者が軽々しく出ると色々困る」

「人の事言えたクチかよ」

「誰だ今言ったの」

 

本部中隊の一人が目を逸らした。

残念ながらアリウスにおいては上官への信頼は別の方法で発揮されているのである。

まあこれも信頼の表れだ。

 

 

 

戦闘開始から3時間、真夏の中での待機に疲れる委員が増え始めていた。

配食や飲料用水の手配が追い付かず、仕方ないから分隊単位で周辺店舗から調達している。

だが移動途中に狙撃されるヤツが増えており、さっきは備蓄していた車両狙いで81㎜迫撃砲が降ってきた。

観測手をすぐにマシロ達で追い返したが、基準砲が狙いをつけてるという事だ。

 

「警報、2名近づく!」

「シビリアンか?」

「制服を着てます、白い奴」

 

マシロの有線電話に、イチカが首を傾げた。

有線の野戦電話の存在を思い起こした誰かのおかげで連絡線が再建できた。

 

「白旗つきです」

「使者だ、撃つな」

 

手製バリケードの向こうから、「ホールド!」の声が響く。

指揮統率がまだ維持されているから、誰も撃たない。

 

『君たちはよく奮戦した、しかし我々は現地での治安を回復する為にきたのである。

 武装を解き、投降せよ。

 国際法と人道に従い対応する』

 

その問いは大人の声だった。

よく見るとヘイローが無い。

 

「ご親切どうも、しかし我々は上からの許可が無くば、白旗をあげる許可をもっておりませんよ」

 

前哨のマシロの言葉に、愉快気に笑ってその大人は『なるほど!良い返答だ。君の様な生徒がいるのならツルギ委員長も誇りに思うだろう』と言い、帰っていった。

近衛は降伏せずさ、まあそう言う事なんだよなあ。

傍にいた軍使の付添人が白旗を下ろし、信号拳銃を空へ打ち上げた。

バンという砲声が聞こえ、地面へ白煙を舞い上げる。

 

「ガァース!!」

「状況ガス!」

 

催涙ガス弾の全力射撃、一気に乗じてアリウスの突撃歩兵が突入する。

M870のショートモデルやトレンチガンを装備し、チタン製ヘルメット着用で突撃する前線突破部隊だ。

催涙ガス弾にむせている前線が瞬く間に浸透され、ガスに巻かれた諸部隊があちこちで前線を切り崩されていく。

続いて笛の音が長く響き、主力の機械化歩兵が突入を始めた。

機械化歩兵中隊と自動車化歩兵中隊による総力攻撃は、前線を確実に深くまで食いちぎっている。

虎の子のAMX-10Pを先頭に二列縦隊で続く機械化歩兵は、各小隊ごとに隊形を組んで前進し戦線の穴を拡張している。

 

「一気に斬りこまれたなあ」

「ですねえ」

 

イチカの返しに、ツルギは予備隊で応戦させつつ前線を下げろと命じた。

多分数個小隊も戻れないだろう。

ラーデン機関砲を積んだFOX装甲車が応戦しているが、APILAS対戦車火器とAMX-10Pに襲撃され思うように車両が援護に使えない。

砲兵の優位性を奪われているのもまずい。

 

「残念ながら、撤退するべきです。

 遺憾ですが戦機を逸しました」

 

イチカが薄く眼を開けて呟いた。

 

「止むを得ん……後衛戦闘に出る、残存部隊に撤退を開始させる」

 

ツルギはまことに作戦指揮に於いて常識と理性があった。

最悪、再攻撃して奪還するしかないと考えている。

 

 

 

敵が後退戦に移った、残念だがもう手遅れだ。

AMX-10RCが退路を塞いでいるし、つかず離れずで射撃し続ける。

無論ここで放棄を判断できる指揮官なら、もう手段は一つと理解しているだろう。

自身の周辺の耳目が塞がれた時点で後退するのが最も良い選択だったが、上層部を見捨てたとなっては禍根を残す。

戦闘開始5時間30分、組織的抵抗は終了し、古聖堂へ入る。

内部では此方が用意した夕食に渋い顔したゲヘナとトリニティの連中が会食していた。

 

「ハローあんちゃんら、悪魔の使いだ……なんだね葬儀場みたいな雰囲気だな」

 

EH-60Aが状況を終了したとの信号弾を見て撤収し、続けて連邦生徒会の白いオスプレイが降り立つ。

 

”やれやれ大騒ぎして後片付けよろしくかい?”

「大人の責任ですな」

”あなたねえ”

「私は心がほら、9歳児だから」

 

呆れた顔をしながら、クロノスのカメラを入れる。

全てが予定通りに進んだ、ゲヘナとトリニティは紛争を起こしたのは事実であるから強く言えず、シスターフッドはアリウスを承認するしかない。

そうなればティーパーティーは追認するしかないし、連邦捜査部が承認したので”改定エデン条約”は真実トリニティ・ゲヘナ間の停戦となり、”アリウスがその守護者になった”。

すなわち、契約は全て守られたのである。

 

”で、どこまで仕組んだんだい”

「なんのことやら」

”とぼけちゃって……まあ良い、貴方がこの先もアツコ達に忠実であるなら、私はまだ何もしなくて良いからね”

 

”先生”はやれやれと言いつつ、ゲヘナには指揮統率改善計画を始めさせ、トリニティには内部指揮系統の再編の案を提出した。

いい加減バカみたいに二つで争っていたら、別の奴に良いようにされておしまいだと漸く危機感を抱いた。

少なくとも得る物は有った。

楽園が実在するかなんぞ、どうでもよい、無いなら作るのが人間だ。

七つの古則、それはいわばトンチと謎かけでしかない、せいぜい賢いバカを煙に巻くためのものだ。

 

「ま、これでおたくは”その気になれば我々はこのくらい出来る”とみせつけたわけだ。

 あんたにとっても悪い取引じゃああるめえ」

”変な事ばかりしてると姫が怒りますよ”

 

肩をすくめて、先生は言った。

 

”さて、事後処理をしなくては、呑まれます?”

「シャンベルタンある?出来れば10年物」

 

人の金で何買わせようとしてんだよ。

呆れた先生は”んなもんないよ……”と呟いた。

 

 

 

*1
適時竜騎兵を下馬させ、機動戦力にする事をしてました





感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当にありがとうございます!
この場を借りてお礼申し上げます。

原作のどっちを見たり知ってます?

  • 長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
  • ブルーアーカイブだけは知ってます
  • どっちも知ってます。
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