キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
2:ただし、一切の侵略的武力には行使しない。
3:我々は平和を希求するすべての世界の人々の側にある。
─アリウス校則 第9条─
【エデン条約条文】
条約締結者甲及び乙──この場合ゲヘナ・トリニティ──の公然たる武力衝突の禁止。
連邦捜査部の名に於いての学園間紛争の抑止。
条約締結者丙──アリウス──の承認。
連邦生徒会による丙の承認。
条約締結者甲からの完全な独立の承認。
条約締結者甲・乙・丙は法執行機関等を協力させる事、及び双方の犯罪者を引き渡す義務を有す。
連邦捜査部は急迫不正の侵害行為に対し、このエデン条約締結者甲・乙・丙の協力要請の権利を有す。
名誉と秩序と品格を保ち、条約の遵守と尊守に務むべし。
【ゴッドファーザー】
古聖堂に何故かシスターフッドが居たのは都合が良かった、曰く一番マシだから中立の筆記記録者として依頼されたらしい。
まあ確かに宗教関係者が記録した方がマシと言うのは分かるがいつの時代なのだ、村に字が読めるやつが司祭しか居ねえとかやって許されんのはフス戦争のあたりだろ。*1
幾らかサクラコとかいう生徒と話したが、ファイルにある通り何処か胡散臭いんだが善人臭さが見え隠れしている、苦労する類いか。
まあ真実悪人だろうが善人だろうがどっちでも良い、この世で一番最悪なのはバカのくせに自分が賢いと信じて勝手に何かやらかす奴だ、負けて部隊散り散りにする奴はまだマシなのである。
「さて、めでたい条約の日だ。
正当な戴冠をやろう」
俺とアツコの約束だ、あの時ここに連れて来て戴冠式を行う。
アツコは少し驚いた。
「覚えてたの?」
「当たり前だ、その為の準備だ」
「服用意してるから、着替えてこい」
「はーい、そっちもね」
映像記録の用意を始め、外でゾロゾロと武装解除されたゲヘナとトリニティの戦闘部隊が帰営していくのを写していたクロノスの現地組がこっちに気づいた。
中継はまあ構うつもりはない、流したければ流すが良い。
白を基調としたアリウスの大礼服、頑張ってアリウス被服製作部が作ったそれは、華美に過ぎず、それでいて刺繍を金であしらってある。
大礼服の資料探しても見当たんねーからしょうがないので記憶の中から上手く自分の時のあれこれを思い出し、ワイルドハントの生徒を数名雇い、更にそこからコネを使ってエンジニア部の服装作りが趣味の奴を探し、更にトリニティの資料館にアズサを送り込んでと滅茶苦茶に苦労した。
「約束した時より随分立派な服になったな」
「そっちも」
俺が成りたかったものが幾つかある。
復讐者、与える者、許す者。
俺はいまだに女性に教育が必要かよく分からない、正直なところ、亭主の後をついてくれば良いと思っている。
だがこうも思う、女を好きにさせても、やりたいと言うなら色々させてやれば良い、それを支えてやるのが男の甲斐性だろと思う。*2
極論を言ってしまえば、子供の願いをどう叶えてやるかが人生の楽しみなんだろうと、俺は俺の宝物を得て漸く気づいた。
案外、いまこうしているのは俺の宝物がそう願ってくれたからなのだろうか?
「汝、秤アツコ。
汝は悪魔を退けるか」
「はい」
彼女は、自身の手で、正当に戴冠した。
"先生"も、スーツではなく、礼服を着込んでいる。
シビリアンにしてはこう言う場所に慣れている。
"連邦による承認書です。"
「ありがとう。契約はこれで成立だ」
"高くついたかいないやら"
カメラが焚かれ、眩い煌めきがアツコとサクラコを照らす。
さて全部終わった。帰るとしよう、凱旋だ!独立記念日だ!特配でみんなに肉を焼かねばならない。
「もう一つ残ってるよ?」
アツコがそう言い、大人2人は首を傾げた。
「?」
「執政の任命式、今までの業績に報いて終身執政、後元帥杖も居る?」
「……わおーん」
ふざけた様に答える大人に、"先生"とアツコは実に楽しげに微笑んだ。
【戦い終わった さあ働こう】
本土に戻って来た、そのまま戦勝パレードだ。
本来なら鹵獲した軍旗なども使いたかったが、向こうの面子の為に返却してやった。
だがそれが終われば仕事のラッシュだ、まず財務室長が「数字が合わねえぞ」と勘付き、防衛室長から「法規格に対応してるの」と確認が入り、連邦捜査部は取り敢えず査閲をして回るから随行の手配をし……忙しい!
「陽の当たる場所に出たかと思えば、やっぱり忙しくなったね」
「これも仕事さ……」
「執政!姫!今度は別ん所から誰か来たぞ!」
執務室にまた急用が飛び込んでくる。
10年使って来た執務室だが、随分とまあ物も増えたもんである。
机と椅子──の残骸手前──と塵しか無かったで、掘り出したチョークでボロボロの壁に書いてた頃が懐かしい。
窓から見た景色も大分変わった、再定住計画で大通りを再建し交通量を再編して配給を効率化したが、今じゃ偶に自家用のオート三輪が走ってる。
「で、次は誰だ、レッドウインターか?」
「ハイランダーだそうです、鉄道敷くんだとか言ってます」
「なんじゃあそいつらァ……」
呆れると同時に正門前のドアベルの連打がされた、警備が困るからやめろって!
まあ向こうから鉄道敷くと言う奴らが現れたのはありがたい、鉄道計画も前進するだろう、物流改善は世界を変える。
カタコンベの迷路化の制御はややこしいから切って5年は過ぎている、無論繋がる入り口には「有臼建設」と書かれた建設工事風の偽装をしてある。
無論これは偽装だ、だが人や物資を運ぶにはこれほど良い嘘もない。
「というか敷けるのか本当に」
「問題なーし」
「出来る出来る」
ホントかなぁ……。
まあ取り敢えず、やると言うからにはやらせてみよう。
無論建設計画を決めるのはこっちだ、やるからには完璧に都市計画作るぞ。
「……」
「なんだ?」
「貴方本当はうちらの同業だったりしない?」
やって来た双子の生徒が不可思議気にした。
「俺の地元には鉄道走ってねえよ、島だし」
双子はやや訝しみながら、建設予定計画図を見て現地視察を開始した。
【神のものは神に】
先生からの別の案件はアビドスであった。
アビドスのカイザー以外の保有者だととうとうバレたのと、表に帰って来たのだから改めての会談だそうだ
本来は向こうが我々の根拠地に来て話すはずの内容を連邦捜査部の要請の為に出向いたのである、そのままハイランダーとの鉄道網の本格会議を体育館を借りて行うので渡りに船だったが。
”このままでは平行線かな?”
「当たり前だ、我々が購入した土地を、8年以上維持管理開発していた土地を今更返せとは虫がいい。そちらへの帰属を望む住人がいるならそちらに送るとは言ってるがね、第一にあんたら住民票あるのかい」
無論そんなもんはない、だが我々は権利書はちゃんと有している、しっかりアビドスの校章の透かしがある誓約書だ。
剣呑な雰囲気が流れるが、絶対に譲れるものか、我々も売るつもりは一切ない。
あんな馬鹿みたいな買い物して破産してるような奴らだぞ?
だいたい買っても管理しきれんじゃないの。
「馬鹿でかい列車砲作って破産してる様を横から見てたからな、企業とゲヘナと組んで随分デカい産廃こさえたんだし、それを解体販売した方が良いのでは?」
「えええっ!?」と周りが声を上げる、おい誰も知らないのか?おい5年生!ユメ!テメェ!
それ本当と二年生と一年生が首を傾げるので、ホシノやユメは「でも前に探検した時なかったよ?」と首を傾げている。
”本当?”
「うん、どでかい輸送車がバンバン走ってたり目立ってたからな」
地図を要求して……ええい古い上に測量が甘い、家の地図を持ってこさせる。
確か谷だかに秘密基地をこさえていたのは熱源探査で判明してたから、大体ここら辺だったはずだ。
「この辺り捜索してる時にあったよな?」
「カナート整備用の縦穴から逆算するとこの辺りでは?」
「てことはここら辺かな……」
セリカから「まさかなんかガメた?」と聞かれる。
「それが昔のアビドスがマジでアホだったのか、役立たねえ兵器だのを詰めてんのよ。灌漑用淡水化プラントとかなら良かっただろうけどねえ」
「兵器?」
「そ、遠征する兵力が無いのに兵器だけ揃えて……覇権体制が忘れらんないと悲惨だよな」
何考えてあんなもん作ったのか、未だに分からない。
言っては何だがあんなのがあっても、テロ攻撃にはもろに弱いから意味がねえぞ。
まあ、そんな事も何も理解できない連中だから衰えたんだろうが。
正直生徒が逃げ出した理由はこんなことしてるからじゃねえの、愚にもつかないバカな兵器調達とかに大金注いでたら、そりゃみんな見捨てるだろ。
【祭りは終われり】
エデン条約が終わり、SRTもヴァルキューレとして警備部隷下として統合された。
タスクフォースと呼んだ方が適切な組織となった事で、指揮系統は再編され、各局とアタッチメントする事で遊撃性を高める方針だ。
中々悪くない手だ、学園としての独立性がとか云々言うのはバカの言う事であり、そもそも鞘から抜かれないなら剣は剣じゃない。
それはそれとして、演習では手は抜かない。
遠くに見えるSRT訓練施設での対抗演習は仮想敵役の我々が上手く切り込んでいる。
『錠前隊は突入を継続。
連絡線の寸断を優先すること』
『目標甲の確保を最優先。非戦闘員無条件射撃は限定で許可する』
『了解、捕虜は破棄!
槌永隊、速やかに錠前隊に後続する』
銃声が遠巻きに聞こえながら、よいしょとゆっくり椅子に腰を落ち着ける。
A129マングスタ攻撃ヘリを買った、中々悪くない機体だ、抵抗拠点をガンガン叩けて素晴らしい。
”先生”はやれやれと困った顔をしている、今回は二人とも査閲担当だ。
先生側の無線は無線でカオス化している。
『第7中隊阻止不可能。速やかに後退を実行してください』
『3階東階段破壊!損害不明!』
『電源喪失!再開不能』
『4階まで猛煙充満!換気システム起動しません!』
青い顔をしているヴァルキューレや防衛室長達を横目に、マギに片手でハンドサインしクーラーボックスを開けさせる。
情報関係者故、演習でも前線ではない。
ワインがお目見えし、ゆっくりとマギがコルク栓を抜いた。
”先生”は既に低アルコールの酒を開けている、部外者の特権だ。
「安酒だな、シャーレもあんがい金が無いのか?
まあ分からんくはないが……」
”10年越えのシャンベルタン要求してくる人間からすればどこでもそうだろうけどさぁ。
それはそれとして、ユウカが怒りそうでね”
「がっつり首根っこ掴まれてまぁ」
ま、分からんくは無い。
ああいう理詰めのインテリで場もあるタイプは本当に無敵だ、おっかないくらいだ。
「そんなお前の為に持って来た」
”もっと金欠のアリウスの指導者のあなたが?”
「言うねえ。
ま、本来は一人で楽しむつもりだったんだが、勝利のおすそ分けと思ってくれ」
話してみると分かるが、この大人大分気持ちがいいタイプの奴だ。
伊達に連邦生徒会すら懐柔して見せているだけは有る、革命期でも生き残るか、華々しく死ぬタイプだ。
そんな彼が、銘柄に気付いた。
”あれ?今年のシャンベルタン”
「若い酒だが、これからのアリウスやあいつ等と同じだ、もう一本は10年後に開ける予定だ」
”どれだけ嬉しくてもおめでたくても未成年飲酒はさせない様にね”
やれやれと言いながら、彼が呟く。
「そんな、16歳超えてりゃセーフじゃないの?」
”ここじゃ20歳以上ですよ、貴方は何処から来たんです”
「気になる?」
”あの時の戦闘指揮は無線が一切使えない中でも十分だった時代のやり方が前提にある、貴方
「手旗と伝令、有線を数度、笛と手旗と伝令に信号弾は幼年生の時から慣れ親しんでるからな」
”先生”はやれやれと呟いた。
”ぼかぁ本職には勝てませんよ、ビギナーズラックくらいは欲しいですね”
「案外ローテクでもバカに出来ねえ、遠足とかに便利だしな」
”やるんだ……”
「良いシステムだ、効率が良い、行進に置いて必要な事が全部できる」
まだまだ未成熟のワインだが、悪くない。
砲兵士官だった最初の頃を思い出させてくれる。*3
グラスを高く掲げる、施設からドーンと爆発音が響いた。
”やれやれ、秘密はワインにあり……ですか”
「確か映画のセリフだったかな?
映画も良い物だ」
少しグラスを揺らして攪拌し、ちらりと尋ねる。
「ところで、聞いて良いかな?
お前、多分修羅場を潜った事幾つかあるだろ」
”実は素人”
「へえ、高等教育受けても嘘は下手だな」
まあいいさ、全て熟成するまでゆっくり待とうじゃないか。
過ぎ去りし刻の彼方に、
それは誰が非難すべきものでもない、見えざる我らの境界線へと続いたとしても、なんら恥ずべきことではない。
”さて、ではそろそろお話をしなければ”
「ああ、大人が話し合わなければいかん事も一杯あるからな」
”先生”はそう言うと、椅子から立ち上がり、振り向いて言った。
”これはこれはジェネラル。
青い顔をなされてどうかされましたか?まま、あなたも一杯やりますか?”
……やっぱアイツはアイツで悪党だな。
うん、まともなのは俺だけだ。
END
『うわああん認めません!アロナは精一杯やったのにどうして汚い大人たちで上手く進めてるんですか!』
「いきなりどうしたアロナ」
先生は呆れた顔で呟いた。
それと同時に、アツコが執務室の扉を開ける。
なにか、良い夢でも見たんだろうかと思いながら視線を向けると、アツコは楽し気な微笑みで返した。
「なんだぁいったいぜんたい」
真実はワインの中にある、ユウカが会計処理を通してくれないワインの中に。
The END
感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当にありがとうございます!
この場を借りてお礼申し上げます。
原作のどっちを見たり知ってます?
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長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
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ブルーアーカイブだけは知ってます
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どっちも知ってます。