キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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帰って参りました、週一更新にはなりますが、読者の方々にはこれからもご愛顧を。





外伝4
アリウス・オン・ザ・ビーチ


 

 

 

 某日、アリウス自治区、午前5時。

 空が白み始め、再建されて生気を取り戻しつつあるアリウスの市街地を照らす。

 インフラ整備が進んでいるとはいえ、配電網の確認や安全確認のため夜は暗く、大半の生徒は夜が来るとそのまま寝てしまう。

 それに大半の生徒には安心して眠れるのが好まれていた、明日誰が”蒸発”してるかを考えなくていい時代だからだ。

 珍しく灯りが灯るアリウス生徒会会長室、壁に掛けられた校章と青い薔薇の紋章が書かれた新生アリウスの旗が照らされる部屋、に何人かの幹部たちが集まっている。

 

「時期尚早に過ぎない?」

「ミサキ、私達には待つ時間なんてないの。延期は失敗に繋がる。既に指令書は中隊単位に配布したのよ」

 

 今日のアツコは偉く強情だ、力強い意志がある。

 この日のアリウスはいつもに比べて賑やかであった。

 装具を確認する各分隊、点呼、車両の確認……。

 遠い過去になろうとしてるエデン条約──実際はそうじゃないのだが──の攻撃前によく似ていた。

 違うところがあるとすれば、大半の生徒の顔が明るいのと、眼だった、生徒たちの眼は素直だった。

 眠たげなもの、期待感を抱いているもの、好奇心旺盛、心配性、百家争鳴と言うべきものである。

 ミサキの吐息を同意と理解しているアツコは、説明を始めた。

 古風な木製の長机に地図が広げられる。

 兵科記号で幾つかの部隊表記や進路が記されている。

 

「説明を開始するね。前回同様書類は取らず全て記憶」

 

 開始は0500、まず交通情報を参照し3個部隊に分かれて進行、先遣隊は0700までに宿営所に到着する。

 主力本隊は0900に位置につき、状況を開始する。

 予定通り行けば1000には行動に出れる。

 密かに抽出された各部隊からなる作戦計画<渚にて>はこうして開始されようとしていた。

 

 

 

 午前8時、ビーチ付近。

 茹だる暑さの中ヒフミとアズサは交差点でパイプ椅子に座りながら、このバイトを選んだのはマズかったかと後悔していた。

 よりにもよってこんな時期に暑くなるとは、常夏の地域ではあるがどうしてこうなる。

 交通量調査員のバイトをしているのは何時もの通りグッズの為である、予約購入で貯金が尽きたヒフミに、見かねた部員たちが「アズサちゃん、倒れないよう見てあげてくれませんか」とお願いした。

 コハルは3日前からシャーレで安全講習を受けているし、ハナコはシスターフッドの調査に呼ばれている。

 一番適役なアズサがフリーだったのは助かった、お陰で交通量記録もヒフミの体調も守られている。

 

「……しかしさっきから行きかう車両が多いですね」

 

 ヒフミが意外そうな顔をした。

 確かにそうだ、アズサも不可思議に感じた。

 試しに検索をかけると、ヘルメット団の総連合会らしいというのが分かった。

 

「ヘルメット団のイベントですか」

「らしい、互助会の旅行に近いらしいな」

 

 アズサはそういうものかと考えた。

 

「そういえば、学園祭も近いんだったか」

「ですねえ」

 

 ヒフミはアズサの言葉に嬉しく感じた、真っすぐ未来を見ている。

 彼女は明るい未来を見るべきなのだ。

 スポーツドリンクを飲みながら、乾きだした濡れタオルを首に巻く。

 

「ん?」

 

 アズサが横を見る。

 

「どうかしましたか」

「戦車の音がする」

「ヘルメット団のクルセイダーじゃないですか?」

 

 やや能天気にヒフミは返した。

 戦車強奪、公務執行妨害、乱闘、破壊活動の前科1犯からすれば、慌てる事も無いのかもしれない。

 ただアズサが不可思議にしていたのは理由があった。

 

「クルセイダーじゃない、センチュリオンだ。アリウスの」

「……装備品流れたんでしょうかね?」

 

 ヒフミは確かに変だと首を傾げた、コネと顔の広さもありアリウス再建計画などヒフミの耳にはよく入る。

 アリウスの敗戦と革命後の再建計画はかなりの難事である、未だ未完了な部分も多い。

 兵器処分計画やUXO処分計画はシャーレのアリウス派遣部隊と再建されたアリウス自治警察予備隊の努力が追い付いていないし、記録復元もまだだ。

 過剰な軍備も問題になり、これをどうするかで大荒れした。

 連邦生徒会の”反軍思想家”と言うべき反シャーレもいまだに居るし、カヤが先生の影響からパワープレイに於いては「いつ裏切るか分からん」と切り捨てた生徒会役員の日和見主義者たちも軍縮を要求していた。

 

 キヴォトスにあって随一に連邦生徒会嫌いのアビドス、そして僅差二位のアリウスはサンクトゥムタワーの役員には恐ろしく見えたのだ。

 無論彼女らの”真実”と事実は違う、アリウスには金が無かった。

 アツコは軍縮路線は必然としていたし、大半の生徒もそうだと認識していた。

 極右的なアリウス生徒は一部批判していたが、財政問題に対する解決策は他にない。

 チーフテンは腹を膨らませてくれないのだ。

 斯くしてアリウスのチーフテンは殆ど用廃品送りにされた、中隊単位が一応生徒会直属として残す形になり、数両が技術資料としてミレニアムのエンジニアが買っていった。

 これが後々ガスタービンエンジンを積んで、宇宙戦艦と共に旅たち、世界を救う一助と化すとはマダムも思うまい。

 

「あー、間違いなくセンチュリオンだな」

 

 アズサがレーザーレンジファインダーで覗きながら言った。

 ヒフミも覗いてみるが、外見が大きく異なる。

 シルエットはカイザーが運用していたT-80や、シャーレが一部試験納入を開始したM60ERAの様でもある。

 ただ履帯やフェンダーは確かにセンチュリオンだ。

 アリウスの主力戦車たるオリファントMk1B、それが初めて衆目の眼に晒された。

 アリウス再軍備と軍縮に関して話が拗れた理由は幾つかあるが、先生も原因に含んでいた。

 先生の権限と正統性的に言えば、アリウスの軍備は事実上シャーレと同義語になり得る。

 ここに気付いたカヤは「経済問題的観点からあまり過度な拡張もまずいかと」と提案し、それとなくけん制した。

 ユウカもそうした政治的思考抜きに経済再建としての軍縮を進めたが、時代はそれを許さなかった。

 カイザーのクーデターと色彩侵攻により軍縮計画は変更された、持続可能な軍備保有に変更せざるを得なかったのだ。

 しかし新規調達も外聞が宜しくない、そんな最中のアビドス砂漠攻防でセトが砂に埋もれたアビドスの遺産を一部ほじくり返した。

 旧アビドス主力戦車TTD-1やロイファルク戦闘ヘリ、ルーイカットなどがそれである。

 かつての兵器庫には幾つかの改造キットもあり、新規ではなく改造なら外聞が悪くないとアツコもGOサインを出した。

 そんな訳でアリウスの主力戦車は改造されたのである。

 

「あれ、アズサじゃん。なにしてんの」

 

 オリファントやナグマホン・ドッグハウスが信号待ちに入り、操縦手が顔を出して尋ねた。

 

「交通量調査のバイト」

「そりゃ大変」

「そっちは?」

「姫がみんなで海行くとか言い出した」

「はあ」

 

 アズサはなんだそりゃと呆れた顔をした。

 

「これも仕事と思ってる」

「そっかあ」

 

 前進していく機械化部隊に、何とも言えない感情があった。

 呆れと嬉しさと、ほんのり寂しさがあった。

 そんなアズサの頭上を、Mi-8MTVが飛んでいった。

 アリウスにとってのある意味、真実の復員がそうして始まった。

 

 

【時は遡って48時間前、シャーレ本庁舎】

 

 

 

 何処か何処か少し先の未来

 

 どいつもこいつも夏だ海だ水着だと喧しい、店を吹き飛ばしたくなる。

 テレビが今年のトレンドはこれ! とか言うのを、イロハやミカはまぁいい、いや良くないが! 

 特務たるアリウススクワッドや会計であるユウカまでが「いいなぁ~」と言って居る。

 煩い! TVを切る。

 

「何するんですか!」

「お勧め見逃しちゃった……」

「あんな、広いだけの塩水に何故こだわる?」

 

 島に生まれたが、最後は孤島で水平線を10年眺める生活を送れば飽きる。

 行くたびに碌な目に合わない、もう沢山だ! 

 

「良いか、砂浜は熱いのに軽装で歩きたがり、離岸流やウォータースキーの連中は危険に飛ばし、クラゲやら鮫も出る。突然の悪天候にも弱い、帰りは塩塗れの体の手入れや日焼け跡だ何だので騒ぐ、何が良いんだ? 水着はどうせこの夏限定とかだろう? 浮き輪もだ」

 

 イロハ含めたほぼ全員が渋面を浮かべた。

 

「ここまで、ノンデリの人初めて見たじゃんね……」

「もはや、海への憎悪だ……」

「こういう時、皆の水着可愛いね! とか言うのが普通の先生じゃありません?」

 

 今までは慰労だの何だので付き合ったが今回はそうは行くか! 

 

「だまらっしゃい! 小娘共! 俺は海が大嫌いなんだ」

「先生の海嫌いを知らない人は稀だと思うんですけど?」

「なら、なぜそんなに海に行きたがる!? 逆パワハラか?」

「では逆になぜ、先生は海を嫌うんだ?」

 

 サオリが真面目な顔で尋ねる。

 

「10年絶海の孤島で海見続けたり、帰り道の船沈みまくったり輸送中の物資止められたりすれば嫌いにもなる」

「骨身に染み付いた魂の叫びが強すぎる」

「その癖泳げるんだよね……ヒナ委員長に泳ぎ教えたって聞いたよ」

 

 基本アウトドア派が多いので味方になりそうなイロハに声をかける。

「イロハも海より別が良いよな?」

「いえ、機会があれば、別に私達一応青春に生きてるんですよ」

 

 水で泳ぎたいならプールで良いじゃないか? 何なら庁舎の広いスペースに夏季限定のプール作ってもいい。

 袖を引かれる、ヒヨリか。

 

「あっあの、私達戦闘以外で海とか行けないんですか? 悲しいですよね、苦しいですよね」

 

 はあと深いため息をして、アツコが何枚か書類を書いてユウカに渡す。

 しれっと要望書を俺じゃなくてユウカに渡すんじゃないよ。

 

「最悪日帰り引率だけでも良いから……」

 

 何だ? この空気、俺が世界の敵みたいじゃないか! 個人的に海嫌い度が上がったぞ。

 

「先生、私にかなり貸しがありますよね? それを返すと言う意味でも、連れて行ってあげればいいのでは」

「そうそう、私も大分体張ったんだし」

「……無理ですよ、断固拒否モードに入ったら、聞き居れませんから。心の子供全開ですよ」

 

 こうなっては民主主義が物を言う。

 嵐のように予定が決まり、仕事はスズに任せた、この世の終わりみたいな顔をしていたが呪うなら海を呪え。

 畜生民主主義という奴では精々正論への反抗は沈黙しかないから困りものだ、沈黙は無価値と言うのも民主主義の困りものであるが……。

 

 

 計画と言っても大概の計画はアツコ達にやらせたものである、元々この計画の根幹目的自体は正しいものなのだ。

 アツコは今次目標に際して「極論言えば前例作り、明るい経験もさせてやりたい」と考えているので反抗するには始末が悪い、政治を教えすぎた、普段の”茶目”を政治的に使うのを覚えてやがる。

 ものはついでこいこいとクロコにホシノもよぶとはコイツと言う奴は。

 

「うへぇ、おじさんとクロコちゃんまで呼ぶとは、いよお大尽」

「ん……急に呼ばれると準備が」

 

 そう言う癖に浮かれモード全開じゃないか、クロコはシロコと同じ競泳水着か、やはり同じなんだな。

 アツコは楽し気に「将来の後輩の良い口実」としていた。

 理由は他にもある、アリウスに対する無知と無理解と偏見をなくすためだ。

 無理解があらゆる差別と憎悪の根幹である。

 ビーチに到着し、アリウスの生徒たちがいそいそとテントを設営している。

 

「先生それ、前夜戸浦村で来てた奴」

 

 アツコに指摘されたが、このスタイルがしっくりきた、この服装を見たとたんユウカが嫌そうな顔をした。

 

「その服装、何故かナパームとか火薬の匂いがして不吉なんですよ」

 

 どいつもこいつも単価高そうな水着用意しやがって、イロハが普通過ぎたので聞いたら「風紀委員とかに聞いたらとんでもないデザイン薦められそうで」と返された、まあそうもなろう。

 ミカはコハルとデザインが近い。一緒に選んだそうだ、本当か? 

 ユウカも機能美重視だった、バカみたいな服装はほとんどいなかった。

 

「サオリは良いのか? その服装で?」

「水着がそもそもどういう物かいまいちよく知らんからな」

 

 雑誌類をやたら読みまくるヒヨリくらいのもんだというのはよくわかる。

 ヒヨリの水着がある意味一番浮いていた、お前も次から俺の同志になるんだな! 

 テントの設営が終わり、笛が鳴り響き、各小隊指揮官ごとの気をつけの声が響き渡る。

 

「点呼ォー!」

「1!」

「2! 

「3!」

 

 点呼が終わり、アツコに「各小隊点呼終わり! 特に日射病その他症状者無し!」と指揮班長が報告する。

 

「えー、諸君浮かれてる所すまないが、安全喚起はしておくぞ。海はクソみたいに危険な場所です、大はペロロジラ小はよく分からん生き物まで色々います、諸君らは普段は梱包爆薬でも平気ですが、海だと普通に溺れます、その際ヘイローも何もありません、肺に大量の海水を入れて窒息して死にます、もう一度言う。死ぬからな? そのへん留意して、お手元の海遊び安全栞を使ってくれ」

「凄い、海嫌いがとことん嫌いな部分を危険な部分として書いてるから危険度はよく伝わる」

 

 これだよと言いたげにミサキが呟いた。

 

「以上報告終り! 解散!散々言ったが楽しんで来い!」

 

 ひゃっほいと歓声を挙げて生徒たちが走り出す。

 あれ、噂の特務だろ、各校の武闘派勢ぞろいかよ、とファンからの声援迄聞こえるがいい気分だ、普段の善行の成果だな! 

 まあ少なくとも喧嘩を売る馬鹿も居るまい、これにやり合えるのはそれこそごく一部だけで、しかもその一部は馬鹿じゃない。

 チェックインの確認に行くと普通のホテルだったが、支配人がこちらがシャーレと気づいたら値段の理由を教えてくれた、此処数日はヘルメット団の集会なるものもあるらしい。

 良かったな、スズ、海に来れるかもな! 

 音楽祭もあるらしいが、それぞれで海を満喫しよう

 

「そう言って、先生はビーチは一応確認できる防波堤で釣りか」

 

 遠くで「大物釣れた」とクロコがクジラ*1を釣り上げているのを見ながら、サオリが尋ねてきた。

 こうして各所を見て回るのは生来の性格なのだろう。

 

「そう言うなって、釣り竿と餌のセットならもう一つあるぞ? 晩飯に一品加えてやろうぜ」

 

 サオリと釣りを楽しむことにしよう、ふとサオリが海の家付近を眺めた。

 

「どうした?」

「いや、本来私はあそこにいるような気がして」

「気のせいだろ、引いてるぞ?」

 

 普段シャーレはハゼ釣りが上手くなったが、他の魚に挑むのも悪くない。

 

「今の生活は夢みたいな気がするんだ、本当はエデン条約の後テロリストとして色んな組織から追われたりしてて」

「俺の目の届くとこでやったら、ヴァルキューレだろうが何だろうが”ヴァンデッタ”してやるから安心しろ」

 

 目を見開きやがって、冗談ではないぞ。

 俺は欲深なんだよ。

 

「俺はお前達の先生だからな、おっ釣れた」

「先生の堪忍袋みたいな大きさの魚だな」

「身長を出していたら、今度ネルと〆てやろうかと思ったぞ」

 

 呆れたような、安心したような、複雑な顔をしながらサオリが言う。

 釣竿を垂らしながら、サオリが吹く風に髪をなびかせて、のんびりと歌う。

 

「五つ何時かわーからぬ不意点呼ォ、眠たい盛りを起こされてェ、人員並べて検分すゥ」

「何の歌だそれ?」

「ん? 口に出てたか、アリウスでたびたび歌われた営内の歌だが……あ、そうだそう」

 

 サオリが思い出したと呟いた。

 

「そうだそう! これユスティナの歌だ、この前のシスターの検分で聞いたんだ」

「ほう?」

 

 アリウスに関しては経歴が良く分からないが、元々同じならそうもなるかと感じた。

 

「この前シスターヒナタが鼻歌で歌っていたんだ」

「……確かにまあ、シスターヒナタは良く寝てるな」

 

 真面目ではあるのだが燃費が良くないタチなのだろう、こればかしはあれに非があると言えぬ。

 海岸から楽し気な笑い声が響いてきた。

 ポンポンと水風船が炸裂している。

 確か改造されたFASCAM*2だったはずだ。

 

「FASCAMいじって大丈夫なのか?」

「元々内戦の置き土産だ、誰かの笑顔が作れるなら感謝してるだろうさ」

 

 サオリの楽し気な「ふうん」という声が潮風に流されていった。

 するとミサキやアツコがやってきた、大きめの防水カメラをつけている。

 確かユウカが持たせたシャーレ報道班員用の多機能カメラだったはずだ、無論数々の写真はシャーレも使う、今回の件はある意味うちの”平和的”なあれこれの象徴でもあるのだ。

 

「ちーず、と」

 

 アツコの声がして、サオリはようやく気付いた。

 それだけ気が抜けていたらしい。

 

「なにやってるんだ?」

「記念撮影、良いものが撮れた」

「そうかあ」

 

 釣りのセットをたたむ。

 

「俺もちょいとみんなを見回るかな」

 

 サングラスをかけなおし、歩いていく。

 近くでヘルメット団の団員が慌ただし気にしていた。

 ただあのステージの組み方は確か良くなかったはずだ、ミレニアムプライスやミノリなどの組み方ではもう少し違ったと記憶している。

 今度ああいう仮設の組み方をコトリとミノリに聞いてみるかと考えながら、ステージに近づく。

 段々原因が見えてきた、威張り散らした変な奴がいる。

 

「あんちゃんアレ誰」

「はい?」

 

 ヘルメット団の団員に肩叩いて尋ねる。

 

「げ! もう見たくなかったのに!」

 

 異様に驚かれた。

 

「多分会った事ねえだろ、酷いぞ」

「あるよ! あんたに付き合わされてアビドスでカスみたいな目に遭ったやい!」

「あー、あれ、楽しかったな!」

「ざけんな! ばかたれ、楽しかったって……」

 

 嘆くようにヘルメット団の団員が空仰ぐ。

 あの時見たいに聞いてみる。

 

「おお神様! ここでも職場は壊されるのですか!」

「お前、アビドスでの話はするのか?」

「したっスよ、でも”またホラ話聞かせて”って!」

 

 ポケットには何時も防弾板兼ねて入れてる物がある、それを投げ渡す。

 

「これで誰もお前を嘘つきと言わんよ、持ち合わせがそれしかないから、後日シャーレに取りに来い」

「2等シャーレ作戦参加勲章……」

「その後全員に自慢しろ! お前は俺の伝説の一部で勇敢な生徒なんだからな!!」

 

 その団員はヘルメットを外した後ぎこちない敬礼で「アビドス作戦は最高だったッス!!」と叫んだので「今日はオフだから叫ぶな」と言ってヘルメットを被せてやって注意する。

 

「何したんだ先生? いやAARは読んだが」

 

 ちょいと不安定化工作止めただけじゃい、文句言われる筋合いは無い。

 それはそれとして、仮設の組み方が危ないと指摘する。

 するとその団員は威張り散らしている変な奴を見ながら言う。

 

「あいつ何様のつもりか知らねえけど機材の位置が気に食わないとかで滅茶苦茶っすよ、何考えてんだか」

 

 団員は胸糞悪いと言う。

 彼女自身、シャーレの先生はまだマシの部類ではあった、筋は通している、カスみたいな目には遭うけど、名誉をくれた。

 正直なところ、カイザー相手に喧嘩するのになんでのったか分からない。

 ただ勝てる予感はしていたのだ、それに多分、この大人は恐らく裏切らないとも。

 理由はさほど必要ない、少数であそこまで大軍を翻弄する大人なら、賭けてもいい。

 つく上を見定めるセンスとは瞬時に素早くだ。

 

「なんであんなバカが?」

「総会に箔をつけるだかで、どこぞの阿呆が大枚はたいて呼んだって話っすよ」

「そんで来たのがアレかあ」

 

 苦労してんだなあ、ヘルメット団の団員も。

 先生はちょいとばかし話してやろうかとしたが、先にアツコが動いていた。

 目標は適当に偉ぶるのに飽きたか、人気の少ない方向へ向かっている。

 

「やべえ放置したらマダムんところへ連れてかれそうだな」

「ちゃんと返して下さいね?!」

 

 ヘルメット団の団員が縋りつくように叫んだ。

 白木の箱に入るにゃ野郎の尻は大きすぎると思う。

 

 

 

 

 DJのボブは恐怖した。

 トイレ行って軽く軽食といこうとしたら、スケ番に拉致られかけた、これはまあ良い。

 続いて現れた連中が分からなかった。

 キヴォトスではとんと見かけぬ徒手空拳、それでたちまちに無警戒とはいえ3人程度で10名近くを叩きのめしてしまった。

 

「お、お前ら護衛か!?」

 

 遅いぞなにしてた! そう言いかけた彼の腕を後ろに組んで、ぎゅっと大地に押し付け制圧される。

 

「な、なにしやがる!?」

「テメエの悪因悪果じゃねえかなぁ……」

 

 別の誰かの声が後ろから聞こえた。

 クソ! どこのどいつだこいつらは! 

 青髪の少女が制圧しているのは分かる、くそ、とんでもねえ馬鹿力だ。

 

「俺を誰だと」

「知らないけど?」

 

 蹴りが入る! 

 

「ぐべえ!」

「加減した?」

「ごめんついムカついて」

「カイザーほど頑丈じゃないんだから加減しなよ」

 

 一番背が低そうな少女が二三言で止める、こいつが一番マシなのか? *3

 そのまま自分をひっくり返したと思ったら、にこやかに少女が尋ねた。

 だが恐ろしいのはその少女が、一見すれば可憐な美少女が向けている眼が怖かった。

 ”この女、地面をのたうつ死にかけの毛虫見るような眼で俺を見ている”! 

 圧倒的弱者に向けての視線、それも反抗すら考慮に入れない視線、絶対的暴力の眼。

 恐怖にかられて必死に言葉を吐き出す。

 

「な、なめてんじゃねえ!」

「そういう口の利き方はよくないね」

 

 そういうとその少女はスケ番の袖を千切って畳んで口と鼻の上に載せた。

 そして水筒から水を垂らし始める、ウォーターボーディングという拷問のやりかたである、度合いを間違えれば窒息死だ。

 

「加減できるのか?」

「知ってるよ、習ったし」

 

 2秒で垂らすのやめて、酸欠で死にかけ、激しくせき込むのを終わるのを待つ。

 

「お話しできるかな?」

「は、はい」

 

 ボブは抵抗を断念した、彼に残されたのは僅かながらの慈悲を祈るしかなかった。

 圧倒的暴力の前では権威は意味をなさない。

 

「安全基準は順守しようね」

「はい……」

「スタッフには丁寧にね」

「はい……」

「約束、出来るかな?」

「はい……」

 

 ハンドサインして、制圧を解かせる。

 

「じゃ、ちゃんと戻れるかな?」

「はい……」

「おじさんもドジだね、”水浴びしてたら頭を打つなんて”」

 

 ああなんてことだ、こいつら全て貫き通すつもりだ。

 

「国際人道法違反中失礼します……なにかスケ番が群れなしてきてますけど」

 

 全員の眼が戦闘色に変わった。

 

 

 

 

 

 スケ番の数はおおよそ30名、するとさきほどボコボコにした10名含めて1個小隊か。

 恐らく先遣分隊が連絡を絶って回収兼状況確認しに来たな。

 だが無警戒なのは丸分かりだ、ペチャクチャと私語を話している。

 私語は200M、匂いは400M、戦闘騒音1kmと小噺で語られるのを知らんのだろう。

 だがDJを拉致してヘルメット団に攻撃と言うのは困る、イベントをどうするつもりだ。

 

「やれ」

 

 乾いた炸裂音が轟き、セミオート射撃で忽ち相手が倒れていく。

 奇襲攻撃による十字砲火は正に一方的なものである、左右から銃撃され、ヒヨリから狙撃され、ミサキが手りゅう弾をぶち込んだ。

 バン! と炸裂音がした時点で戦闘はほぼ終結していた、戦いには相手が要るが、その相手が崩壊して逃げては戦闘にならない。

 

「クリア!」

「制圧!」

「制圧完了! 制圧18、投降3、逃亡14!」

 

 半分ほど逃がしたか、だがまあ良い、怖い思いすれば数日は懲りる。

 動けなくなった不良から軽く尋問するが、二人ほど恐怖で口がきけないらしい。

 残る一人はぷるぷる震えている。

 

「まあ良いか」

 

 DJを解放してやり、粛々と撤収する。

 転がってる不良は並べて道端に置いておいた、背筋は冷えただろう、いくつか茶のボトルも並べてやる。

 

 

 

 

 ニヤニヤ教授は困惑した、彼女は間違いなく計画に失敗要因は無いと考えていた。

 最小限度の武力行使、完璧な計画であるはずだ。

 そうでないならどういうことだ、なんだというのだ。

 

「しかしたかが数人に、30名も居て負けたのですか?」

「負けたよ! 30秒しねえうちに滅茶苦茶だよ!」

 

 そうはならないはずだ、ツルギ……いやミカでも出たというのか? 

 そんなはずはない、計画のチャートで完璧に計画前情報は参照している。

 ミカは休暇、天敵たるシャーレの先生も休暇だ、そんなわけがない。

 ではヒナ? 管轄が違うし……ミレニアムでもない、まさかヴァルキューレか!? 

 

「確かに数人なのですよね?」

「ああ、そうだ」

 

 ということはSRTの妙ちくりん連中かアビドスかなあ。

 すると、ニヤニヤ教授の耳に不可思議な声が聞こえた。

 

「伝統きーよき捜査部のォ! 正義の護り大空にィー」

 

 確かシャーレの航空部隊の隊歌か、待て? なんで隊歌が聞こえる。

 浮かれた歌声だが、複数人が歌っている。

 更に別の歌が聞こえる。

 

「整備の誠その力ァ、耐えうる艱難辛苦にいや映えるゥ」

 

 おい次は整備隊歌じゃないか、という事は。

 ニヤニヤ教授の耳に更に飛び込んできたのは、別の歌声だった。

 

「「無理ィな事を上官はァー、命令なんぞと名をつけてェー」」

 

 聞いたことがまるでない歌詞である、いや、似たような歌詞なら知っている。

 そうだ、確かシスターフッドの教会内で流行る戯れ言めいた歌、どんな組織にもあるようなものだ。

 正義実現委員会にもあるし、ゲヘナにもある。そういう歌だが。

 待て? シャーレの隊内歌にシスターフッドの系列の歌? どういうことだ。

 

「泣き言言う奴はり倒し、にやにやする奴ぶんなぐるー、犯罪泣かせの突入隊ィ」

 

 歌っている連中は、アリウスのジャンパーをつけていた。

 計画が狂った。

 

 

 

 水鉄砲大会をやるというので、何人か参加したらしいが大会が大盛り上がりしている。

 いやまあそれはそうか、普通にスクワッドじゃなくても並みのアリウスの生徒に勝てるヘルメット団が居る訳無い。

 珍しくワルサーPPK型の水鉄砲を握るイロハと、ビゾン短機関銃風の水鉄砲で参加するミカなどで編成したチーム「派遣参謀」なども大いに奮戦している。

 最終的にチームワークの勝負になり、スクワッドが勝った。

 

「すげえ白兵戦技だ、めちゃ儲かるぜ」

「なー」

 

 ヘルメット団の団員たちが賭けのボードを見ながら言う。

 無論であるが賭けは合法だ、ヘルメット団の連中はそこまでバカじゃないし、戦力もない。

 すると、ヘルメット団の一部がにわかに騒がしくなる。

 

「どうした、もめごとか?」

 

 スイーパー狙撃ゲームでハッスルしている連中の戦闘騒音を聞きながら尋ねる。

 ヘルメット団の団員が困り顔で言う。

 

「はあ、スケバン連中がなんかにわかに集まり出したらしいんすよ」

「なんだ、なんか揉めてんのか? なんなら仲介してやろうか?」

「いやそれが……」

 

 話を聞くに、昔にヘルメット団がスケバンの中でも英雄をヴァルキューレに売ったらしい。

 正直なところ自業自得と思う、しかし放置する訳にもいかない。

 ただ話を大きくされては困る、ただのシャーレのイベントなら腕力上等で良いのだがアリウスにはよくない。

 すると、スケ番の動きが変わり出した。

 ありゃなにかあったようだな……。

 そう考えた瞬間、夜空をロケット弾が駆ける。

 撃ち出されたロケット弾はアリウスの車両が積んでいたトロフィーシステムが迎撃したが、全員の眼が変わった。マズいぞ、偉い事になる。

 

「カチコミか」

「殴り込みか、何処の奴だ」

「ナイトパーティーってやつか!」

 

 目ざとい奴から集まり始め、双眼鏡を手に取る。

 イロハがお眠のイブキを連れて帰ってるので居ないが、それ以外のシャーレの司令部要員も気づいた。

 アロナがお電話ですと知らせる、ヴァルキューレからだった。

 

『あ、先生ですか。いま入った通報で7囚人の一人がビーチに居ると……』

「そりゃあれか、髪は金色大柄で高身長の筋肉的な奴かな」

『御存知でしたか、話が早い。詳しい資料は送信します』

 

 送られてきたデータはすさまじいというべきものである。

 ヴァルキューレの輸送警備車8、特型警備車4、更にSRTの戦車2両を個人で破壊したという。

 少なくとも手配書との参照は不要だ、間違えるはずもない。

 スミレ部長が見たらやりすぎと言いかねないまでの筋肉だ。

 

「あらあ、満月の夜にはよい事があるものですね。わたくし、こうした運命は信じないのですけれど」

 

 大半のアリウス生徒は「喧嘩か喧嘩か」と野次馬状態だ、大半の生徒には自分と無関係な戦闘は無縁であるので、こういうことをする。

 逆に大半の別の学校の生徒たちは離れている、ヘルメット団は増援を呼んでいるがグダグダだ。

 まあ7囚人相手に出来る奴なんか早々居ない、SRT生徒やアリウス生徒が多いシャーレか、その実、正義感が強いネルやヒナとミカの様な治安関係者など極々一部である。

 

「それにしても、ヘルメット団の様なヨタヨタの雑魚にしてやられてはダメですわよ? 私たちスケ番は健康優良不良少女、お分かり?」

「いやそれが姐さん……たぶんヘルメット団じゃないんすよ……」

「はい?」

「少数で奇襲して完璧に撃滅するヘルメット団なんか聞いたことないっスよ」

 

 おっと導火線がこちらに伸びてきた。

 すると銃声が響く、ヘルメット団の連中が緊張に耐えかねて撃ち出した。

 

「何秒保つかなあ」

 

 思わず出る呟きに、アツコが言う。

 

「25分」

「気が長いな」

「腹抱えて爆笑しながら鼓腹撃壌するのに20分、片づけるに5分」

 

 無理もないが痛烈な言い方だ。

 ミサキが後ろから「そろそろだと思うから頭下げなよ」と言った、関係ない喧嘩だからしゃがんではおく。

 ミサキの読みは正しく、唸りを挙げる12.7㎜重機関銃が掃射される。

 

「豪気な奴だなあ」

 

 思わず笑いが口をついて出る、豪放磊落というか無茶苦茶な奴だ。

 ワカモの奴はもしかしたら大人しい方なのだろうか、いやまあ、アキラも大人しい部類か。

 しかし困るのはこの状況だ、あのアケミとかいうターミネーチャンなんとかしないといけない。

 考えてる間も稼げずヘルメット団の連中が戦線を崩壊させた、団員が四方へ逃げていく。

 追撃の掃射が始まる、その瞬間だった。

 即座にミサキが先生を押し倒す。

 

 

 

 

 ブンと風切り音がして12.7㎜弾が突き抜けていき、全員の眼が変わる。

 サオリが即座にマガジンを変えたベオウルフを射撃、アケミの機関銃用弾薬ベルトを貫く。

 徹甲焼夷曳光弾が刺さり、弾薬ベルトの弾丸が発火し炸裂して暴発した。

 パンパンという乾いた炸裂音が響き渡る。

 

「なっ、私のエリザベスちゃんになんてことを」

 

 そこ此処でベクターR4ライフルや、APILAS対戦車ランチャーが担がれる。

 アケミの眼にははっきりと撃ってきたサオリの姿が見える、何という目をしている、素晴らしい、素敵な目だ。

 正しく地獄の門番、シスターフッドの説教で聞いたかつて存在した神罰を司り、死を告げる天使の様な眼をしている。*4

 その近くにいる大人もよくわかった、ただの水着姿ではあるが、全身の戦闘の数々を感じさせる傷跡が、態度が何よりも雄弁である。

 我、遂に宿敵を得たる、僥倖! 

 

アーメン(はっきり言っておく)、神の知恵に逆らって立てられたあらゆる障害物を打ちこわし、すべての思いをとりこにして主に服従させ、そして、あなた方が完全に服従した時、すべて不従順な者を処罰しようと、用意しているのである。*5

「わたくしの復讐を邪魔建てしようとするおつもり?」

「われわれの知ったことではない。お前の問題だ*6

「私が銀貨を聖所へ投げ込むとお思い?」

「聖所では無いが、我々の恩人に鉛球を投げ込んだからな」

 

 再装填し、構えなおす。

 儚げだが鋭い意志の力を感じる少女や、派手な水着ではあるがドデカイ狙撃銃を構えた少女も位置に付く。

 

「死のとげは罪である。罪の力は律法である。しかし感謝すべきことには、神はわたしたちの主によって、私たちに勝利を賜ったのである。*7

 

 よろしい。あなた達が真実神の鞭か確かめよう。

 シャバに出て早々このような楽しい事が続くとは思えなかった、人生は脅威と驚異と歓喜と干戈に溢れている。

 呼吸を整え、戦闘が始まった。

 

 

 

 アケミと言うカリスマと破城槌を得たスケ番の攻勢は正しく激烈であった。

 元々シャーレだろうと噛みつくような、負けん気豊かなキヴォトス不良学生ではあるだけに、”もしかしたら今回は行けるかもしれない”という思いが強いのもある。

 あの大人を一度でいいから本気で驚かせてやりたい、我々の底力を何もかもにみせつけてやりたい、その意思の力は凄まじかった。

 闘争において最大の不確定要素である士気の要素は考慮の埒外であった。

 先生すら普段と違い目に見えて狂信的なまでに波状突撃が繰り返されるのを見て、些かの衝撃もあった。

 しかし、士気と暴力の要素では全く突き崩す一撃にならなかった。

 並のシャーレ部隊なら惜敗であったかもしれないが、組織化された暴力の異端児達は度合いが違う。

 そうでなければ短時間の戦闘で連続した白兵戦は生じえない、まずスクアッド、そして慌てて参戦してきたミカ相手に白刃交える覚悟で突入する時点で異常なのだ。

 

「元気いいじゃんね、遊びたい盛り?」

 

 スケ番を両腕に抱えながらミカが突入してくる別のスケ番を蹴り飛ばす。

 迫撃砲の様な放物線軌道を描いてスケ番が落ちるが、驚くべきことに立ち上がる。

 抱えたスケ番同士をぶつけて気絶させ、驚愕のため息をつきながら転がっているスケ番のAKMを使いとどめを撃ち込む。

 しかし打ち切る前に銃が焼き付いた。

 

「安物買うから役立たないじゃん!」

 

 そのまま返すとぶん投げて、サオリに突入しようとした別のスケ番に直撃させる。

 M202フラッシュロケットが前線のアリウス生徒を狙うが、対砲迫訓練は受けている、被害は少ない。

 今がチャンスだ、ナグマホンとオリファントを前進させ、アツコが一気にカタをつけにかかる。

 

 

 上手いタイミングだが、個人的には些か早いと思う。

 相手に有力な機動戦力が居らず歩兵での衝突力しかないのだから、後退をすれば戦線は間延びする。

 そこでカウンターチャージと共に叩き込めば潰走させれただろう、だがアツコがそうしないのは”面倒な騒ぎになる前に揉み潰す”ためだ。

 もう少しでリヴォリの戦いの再演に出来たが、あの時の俺と状況が違う、彼女なりに判断してやってるのだ、口出しするべきではない。

 それはそれとしてミサキに中隊でヘリで回り込んで退路を潰しに行けと命令する、今回はこのくらいのフォローで良いだろう。

 隅に隠れてた団員がそろそろだなと出てきて、近くの連中集めて側面から射撃を始め出した。

 図太くなったなお前……。

 

「ヤバいAFVだ!」

「クソ! スラットアーマーにAPS*8ついてる!」

 

 スケ番の63式3型ロケットを受け止め、車両部隊が前進を開始する。

 アツコの「そのまま制圧射撃!」の声が響き、赤色の曳光弾の豪雨がスケ番を襲う。

 前進するオリファントMk1Bとナグマホンの隊列は横隊を形成、その後ろに二列縦隊のアリウス生徒が歩戦連携に続く。

 オリファントの砲塔から狙撃するヒヨリが、対戦車火力を優先的に狙撃していく。

 

「やばいです姐さん! 連中態勢を立て直すのが早い!」

「こうも押されると遺憾ですわね……」

 

 戦線が崩れ出した、崩壊や壊乱ではなく各所で抵抗線が破断している。

 連中本気で容赦がない、しっかりダウン確認で追い打ちを入れるのを忘れてない。

 それが暴力の高揚ではなく単に必要と判断してという点が異質だ。

 

『いけませんね、完全に勝機を逃しました。退却なさるべきです』

「仕方ありませんわね教授……」

 

 アケミは撤退を命じた、勝機を逸したのは自分のせいだ、やむを得ない。

 ええいそれにしても腐っても兵隊か、あの何かにつけてお役所仕事の連邦生徒会が心底ビビり散らしてる訳が納得できる。

 矯正局から出て以来、新聞やSNSを開けばシャーレだなんだと噂は聞いていた。

 噂は真実だ、あの大人忽ちに全てを押し流してみせた。

 

「戦線を縮小! 退却しますわよ、逃げれなかったら各自自己の判断で投降なさい」

「うっす!」

「荒らすのは成功しましたが勝ちきれなかったのは私の不徳ですわ、鈍るとこれですの」

 

 ぼやくようにそう言いながら、後退戦を開始する。

 先ほどからMANPADS背負った少女と一部のアリウス生徒が消え、ヘリの音が聞こえだした。

 連中正面で圧力掛けてるうちに退路を塞ぐつもりだ。

 あの大人も手が早い! 

 

 だが嫌いじゃない、こうも鮮やかに正面から喧嘩されて負けては好意しか抱きようがないではないか。

 

 

 

 

 敵は急速に戦闘を縮小、後退機動へ入った。

 後退してるのに士気が崩れていない辺り、追撃しても欺かれるだろう。

 

「敵は一部が後衛戦闘で残り、残る主力は急速に後退中」

「……追撃不要、上手く逃げられたな」

 

 これ以上追撃すると民間居住地で戦闘になる、危険が大きい。

 サオリが先生の言葉を聞いて「残念だ、逃がした魚は大きい」と呟く。

 全くだ、ヴルムザーみたいに逃げ切ったぞアイツ。

 恐らく根の教養の高さ辺りだな、面倒だがまだ大人しい部類だ、部下が逆に降伏を許さないタイプだ。

 そりゃ、そんなリーダー売られたら、スケバンがキレるのは当然だな。

 

 そして、少なくとも交渉の余地がある、7囚人とあるが俺が直接見た3人はグランダルメの元帥よりは優良生徒だ。

 美術品愛好者の怪盗アキラも破壊と略奪が趣味のワカモですら、やり過ぎと止めるであろう元帥が5人は居る。

 逆に言うと名誉はく奪や銃殺隊は要らないと言う事だ。

 

 次にやり合う時は俺の直接指揮で相手をしてやろう。勇将の類は相手にしても後腐れが無い、プロシアの爺は勇将だが、粘着質過ぎてそう呼びたくないが。

 

「投降者はヴァルキューレに引き渡せ」

「了解した、各部隊状況終了! ボデイカウントだ!」

 

 すると、ひょっこりと戻ってきたヘルメット団の団員がやってきた。

 

「先生、戦闘事態に巻き込まれて雇ったDJボブがのびちまった、なんとかしてくれ!」

 

 想定外の言葉だ、流石にそれは考えてなかった。

 

「水かけたら起きるだろう」

「馬鹿じゃねえの12㎜弾の直撃すよ、救急車呼ぶか霊柩車呼ぶかしてくれなきゃヤーです、自分この件でクビは確実っすから」

 

 自分に自信が付いたせいか、急にふてぶてしく逞しくなったなコイツ……。

 仕方ないから連絡はするが、イベントと言われても困る。

 

「なんかやれと言われてもだな」

「無きゃ今回の賠償責任先生にあるって連邦生徒会に駄々こねるっス、再雇用までの生活掛かってるんで」

 

 呆れて言葉も出ない。

 押しが強い小悪党の馬鹿はシャーレの天敵だ。

 なまじアビドス戦役経験者だ。無碍にも出来ない、信頼と信用は貴重な資源である。

 仕方ない、ここは俺が大人として……

 

「先生音痴だから、無理じゃんね、一緒に教会でキリエ歌った時サクラコが凄い顔してたよ」

 

 この野郎、弁護の恩を忘れたか? 

 その時、サオリが呟いた。

 

「……ミサキが確かラップ出来たよな」

 

 それだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、2つ事件があった、元? ヘルメット団のアイツがシャーレに勲章を取りに来たこと、姓名確認すると本当に参加して拠点を落としてたので、おまけで先日の前渡しの勲章もくれてやったら、大喜びで「これ口実に上手く再就職じゃあい」と言っていた。

 

 そして本命は謎のダウナー系生徒のラップ音楽がキヴォトスのチャートに記録的ヒットを遺した。

 なおそれ以来ミサキに拗ねた顔されるようになった、信頼と信用は等価交換であるらしい、採用はしたが提案は俺じゃないぞ、これが大人の責任か。

 アツコが理由を教えてくれたが、金策を兼ねてたシャーレの動画放送用に練習してたのを、こんなことに使わされた事がご不満の様だ。

 しばらくご機嫌取りが必要だな。

 

 後日屋台を開いてたセリカがアビドス従軍勲章付けた元ヘルメット団が大将に弟子入りしたと愚痴をこぼしに来た、熱心だから構わないらしいが。将来店を開きたいようだ。

 

*1
分類学だとイルカ

*2
「炸裂投射展開型地雷敷設装置」

*3
「そんなわけねーよ」

*4
「本作のサオリはサリエル説を基にしています」

*5
「コリント人への第二の手紙、10章」

*6
「マタイの福音書27章」

*7
「コリント人への第一の手紙、15章」

*8
アクティブ防護システム




更新は何時も通り16時です。

原作のどっちを見たり知ってます?

  • 長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
  • ブルーアーカイブだけは知ってます
  • どっちも知ってます。
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