キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

73 / 148
11月中旬 山海経動乱編
月兎夢騒


 

 度々やって来るラビット小隊の連中であるが、今回は変わった要求を出してきた。

 

「と、言う訳で我々に山海経でご飯を奢るべきです」

「夜戸浦村の海産物貰ったから、玄武商会で料理して欲しいと言えよ」

 

 というかお前ら結構金稼いでただろ。

 最近アビドスの連中ともつるんで賞金稼ぎしてるの知ってるんだぞ。

 その点を指摘したら「子供が大人を頼って問題があるんですか?」と返された、クソぅコイツら前と比べて成長してんな。

 

「まあ良いじゃないですか、少なくとも誰も怪我しませんし」

 

 そう言いながらFAXを確認していたユウカが、顔を曇らせている。

 

「どうしたんだ?」

「連邦生徒会からの予算申請へのいちゃもんですよ、全く。こちらで対応して置くのでお土産期待してます」

 

 ユウカがアツコを呼ぶ、アリウス復興絡みらしい。

 ふうむと護衛の人選を考える、ノアとユウカの護衛はD分隊に任せれるが……。

 頭の中で予定表を確認しながら、恐ろしい事実に気が付いた。

 

「スクワッドは全員別の予定だな……」

 

 面倒くせぇなあとため息が出かけた。

 サオリがアリウス自治区のミメシスがまた暴走したせいで鎮圧作戦、ヒヨリは有給休暇、ミサキはあいつ生理で体調不良だ。

 これの為に引き抜くべきではあるまい、さりとてスズBCTは論外だ。

 

「我々ラビット小隊は護衛として頼りにならないと?」

「絶妙に頼りたくないラインだ、飢えてるがドッグフードを喰いたくないのと同じ」

 

 素直な本音である。

 なまじカルバノグ作戦以降、ミヤコが完全に確たる意思と正義と信念を固めたから困る。

 未熟でも芯がある場合それは無視してはいけない、数か月前のこいつらとえらい違いだよ、まったく。

 

「スクワッドの皆さん相手の時はノーカウントですよ」

「ちょっと前、ミカとパテルの連中と遊んだときはどうだったかな?」

「マジモンのスジモンの方々出すのは反則では?」

「本人に伝えてやろうか?」

 

 こいつ等の相手をしていると、素が出やすい、ガラスハートではないので案外気安いのだ。

 ある意味シャーレの天敵である、この様な太々しいが自分の中で譲らない1線がある奴は面倒なほど強い。

 ルミに電話してみる、急ですまないがと話してみると、どうやら彼方もこちらに用があるらしい。

 

「相手さん良いってさ」

 

 レッドウインターとの交流会ねえ、チェリノの奴そんな社交的だったかな。

 いや恐らくトモエ辺りの考えか? それともキサキかルミからなのか? 

 まあ良いだろう、あの二人まともだし。

 

「ああ、それと先生。先生労働基準法に違反している疑惑があるのですけど大丈夫なんです?」

 

 ミヤコがやや首を傾げ尋ねる。

 

「はぁ? 休みの時は散歩したり読書してたり、ゲームしてたりもしてるぞ?」

「制服着てるせいで傍から見ると、休暇なのか業務なのか分からないと言う事です」

 

 別に昔ほど、それこそイタリア遠征の時より体は酷使してない。

 ましてロシアからの総退却の時より環境も荒れてない。

 分かったから失せろ侵入者とウサギどもを蹴り、現実と向き合うことにする。

 書面を見ながら、軽く対応計画を練ろう。

 

 

 月雪ミヤコ

 何かにつけて陰謀論で俺に突っかかってくる、ウサギの隊長。

 卑しいとかではなく厚かましい。

 最初期はたかだか訓練も未了の初年兵が薄っぺらいおべんちゃらと大義を信じてるアホだった、正義だ組織だを訓練未了の初年兵が何を語れるというんだか。

 最近はその薄っぺらい正義が、形と芯が入ってきたようで、昔の様に雑に無視できん。

 頭の柔らかさは才覚だとは思うのだが。

 

 

 空井サキ

 ラビットのポイントマンだが、何時もアツコとかに狩られてるイメージが強い。

 頭は良いが硬すぎるから読まれやすいのだな……後方業務系の能力だろ、口が悪いが話が通じやすいのでまぁいい。

 ミヤコと同じく俺に兵隊生活云々言って来た時があったが、ようやく半人前卒業したお前らの、人生の2倍以上は俺は軍に居るぞ。

 言ってしまえばサキは不器用なのだ、苛烈さの薄いダヴ―みてえになるのか? 悪夢だな。

 

 

 風倉モエ

 破滅主義者、マゾヒスト、問題児部隊最大の問題児。

 この前、家のAH-64Eに乗せろと言って、航空騎兵の連中に吊るされかけてた。

 家の攻撃ヘリ乗りは攻撃的だからな。彼女達の乗馬であるヘリを貸せは殴られるだろうよ。

 俺も怒るが、此奴のせいでラビットの連中に重火器を返すつもりが起きない。

 しれっとこいつSRTの装備横流しまでやっていた、馬鹿じゃないのか本当、誰だよこれを入学させた奴! 憲兵とか内部監査しないのか?! 

 クウオーターマスター(需品係将校)と警衛に「ミヤコとサキとミユは許してもモエだけは死んでも通すな」と命令している、変えるつもりはない。

 

 

 霞沢ミユ

 

 ヒヨリに見習わせたい謙虚さだ、影が薄いからアレなのか、影が薄く無くなればヤバいのか? 

 優秀で影が薄いだとスーシェを思い出す、牛の頭の被り物でも用意させてやろうか? 

 狙撃に関しては抜群の成績だ、うちでもやっていける腕前だ。

 クロコが今所属している偵察隊の赤ベレー帽をくれてやっても誰も文句を言わんだろう。

 なにせアビドスでロングショットをやれる奴だ、ホシノが素で驚いていた。

 

 

 ……狐の連中防衛室じゃなくて家に来てればなぁ、うちならあんな不適当極まるところに精兵をむざむざと配置させずに有効活用してやったのに。

 SRTをめぐる疑問は多い、連邦生徒会長が見つかれば問うてみたい、場合によっては大陸軍かアリウス式になるが。

 防衛室でもヴァルキューレでもない会長直属の私兵組織、良く言ってもイェニチェリ、正直最初にあったころのミヤコの発言とかSRTの問題点そのものじゃないか。

 ”SRTの初年兵ですら同業他社のヴァルキューレを見下している”のだ、上手く行くはずがない。

 

「どうしました? 会計さんやA分隊の皆さんが居ないので寂しいのですか? 子離れしたらどうですか」

「あいつ等無しでお前達の面倒を見ると思うと気分が重くてな……それ次言ったらアビドスに埋めて帰るぞ」

「天測航法習ってますから夜間行軍昼間休憩で帰れますよ? そんなところで遭難するのは砂漠舐めてるバカくらいじゃないですか」

 

 今回の山海経は遠いので一泊覚悟の移動だ、何時もの面子と食べるならともかく……。

 デカルトが特殊部隊がホームレスしてるの止めてもらえません? と言うのも少し理解できる。

 本所在地を持てと言っても拒否しやがるし、アルちゃんには悪いがこいつ等の方がよほどアウトローだ! 少なくとも便利屋は俺に直接飯奢れとは言わない。

 たぶんふざけてる時のムツキしか言わないし、ムツキはふざけてる時以外は真面目な奴だ。

 こいつら色彩戦時に武器類一部と弾薬類取り戻して元気に生活してやがるし……。

 色々、喧しいが目を瞑り脳を休める、現地に着いたら余計喧しいのだから。

 

 

 

 

「完全無視ですか、この大人は」

 

 嫌々海に行って疲れてると思ったので、ライバルである我々が護衛を兼ねて山に行こうと誘ったのに。

 最近ユキノ隊長達の様子を聞く限り、この大人、我々みたいなグリーンカラーの扱いがとても上手いのだ。

 FOX小隊に対しての「お前達に兵隊の何が分かる? 高々3年ぽっちで何回の作戦に従事した?」には実感が籠っていた、少なくとも20年は勤務したに違いない、教育の高さから佐官は経験しているだろう。

 この前のスズ隊長が置いて行かれた、海水浴のAARは分かっていたがこの大人の指揮ではない。

 あの時の指揮はボヤが大炎上になる前に揉み潰せ! であった、この大人が指揮した作戦だと、大半の逮捕者の心が折れてる、アビドス以来のAARは相手の根幹をねじ切るに重点を置いている。

 矯正局からのユキノ隊長からの手紙でも書いている、大人しさが違うと。

 捜査局の指揮官ではなく、軍の司令官なのだ。

 

 あんな2流3流のピンクの政治家で奪えるような連邦生徒会の簒奪ではなく、この大人がもっと大きな組織権力を作り、師団規模の軍備と維持能力を持った時止めれる学園があるのだろうか? ラビット小隊の試算では無理と判断した。

 極論を言えば権威とは大衆がそれを権威と承認しなくては意味がない、先生が何故偉いか? 先生と言うのは偉いと聞いている、ではだめなのだ。

 アビドス生は言う「ん、先生は見返りも無いのに助けてくれた」と、各所の学生もそうだ、功績が権威を生む、実績がそれを保証する、金と同じだ。

 一万円がなぜ一万円か? 貨幣の信頼でしかない、そうでなければ特殊な紙でしかない。

 さて、この信頼された組織が権威を得て各所と繋がっている、そうなるとシャーレが拡大しても皆歓迎する。

 本当に最盛期のアビドスを超える組織が生まれるに違いない! リヴァイアサン、タイラント、いやオーバーロードだ! 

 それも大衆から承認と祝福と歓迎された巨大な権威だ、たちが悪い! 旧大アビドスは全員から脅威と認識されて衰退したが、そうはいかない。

 だからこそ、最近の私達の反シャーレ運動は初期の形から変わって来たと思う。

 まとわりついて抱えてる野望を監視して大部隊を持つ理由になりそうな敵を、シャーレと同盟を組んででも潰しておこう。

 この場合なんだかんだ言ってあのヒッピーはそう言う時の助言を聞くに最適だ、ホームレスのネットワークは広く大きい。

 

「そろそろ着きますよ」

 

 先生を起こす、それはそうとして持参した海産物を腹いっぱい食べようではないか。

 

「乗せてくれないかな、アパッチガーティアン……」

 

 エスコートで来てくれたこの機体に対するモエの呟きを聞くとまぁ、確かにガーディアンと言う名前は良いと思います。

 装備の選定の趣味も良いのが悔しい……

 

 

 ヘリパッドに着陸し、BJ80「勇士」に乗り込む。

 車内では玄武商会の会長さんが待っていた。

 

「やぁ! 先生はるばるどうも」

「ルミ会長、急にすまんな!」

 

 帽子を脱いで挨拶し、先生の後から乗り込む。

 

「玄武商会の出店をシャーレ食堂内とは言え、出させてもらってるしね」

 

 山海経の玄武商会の会長ともコネがあるのかこの大人は……でもあのお店は奢って貰った時食べたけど美味しかった。

 美味しく健全な店を見る目もある、流石ですね、それでこそ我らのライバルですよ。

 

「また、ミヤコが後方ライバル面始めたぞ」

「早く運んじゃいましょうよ……」

 

 幾らかの商談してるけど、玄武商会は兵器は利益にならないからあまり取り扱わない、良い事だと思う。

でも、あの顔で商談してると、普通に食材や出店などの会話が危ない物の取引の隠語に聞こえる。

 周りの生徒も引いてるし、ルミ会長の護衛の人も、後ろで「今回は何も起きないと良いな」と言って居る。

 店に到着し、車を降りる。

 すると店の近くにもポスターがあるのが目についた、車からも街にあちこちあるのが見えたが。

 

「山海経自体が忙しそうだな、どうしたんだ? また密輸か?」

「そんなの毎回起きる訳無いでしょ、キサキ門主はゲヘナの会長ほど馬鹿じゃないよ、レッドウィンターとの交流会があるんだよ」

「大変そうだな、俺達は飯食ったら、帰るから関係ないな!」

「フラグ立てるの止めてくれない? まぁ家の問題児もシャーレの介入招いたらどうなるか思い知ったから何も起きないと思うよ? そう思うとビル一棟で済んだなら黒字になるかな、そんな話は切り上げて、さっ先生用の薬膳もそこの子たちの分も早く作ろうか!」

 

 ルミ会長たちが海産物を持って行った後に席に案内された際、私達を見てる黒スーツの集団が居たので、様子を見てたら。

 先生が「玄龍門の構成員だから気にすんな、飯食ってろ。ここで俺達に喧嘩吹っ掛けてくるアホは居ないはずだ」と言っていた、確かに前に見たシャーレの活動記録報告見てても喧嘩を売るのはバカだ。

 事と次第では緊急展開の予備部隊やA分隊がすっ飛んでくる、6時間あれば初動対応部隊は陣地展開完了させるはずだ。

 

「先生、ちょっと良いかな?」

「どうした、また問題か?」

 

 先生が呼び出された、あの人は良く呼び出されると思う。

 数分した後戻って来た。

 

「俺は一泊する用事が出来た、お前らは帰っていいぞ」

「また、何か企んでいるでしょう! 騙されませんよ! キャンプ張ってでも見張ってますから!」

 

 今回は同行できなかった皆様に、護衛などをお願いされてるのだ、このまま帰れるわけがない。

 前払いでアリウス特産品代用コーヒーと湯沸かし器も渡されてるんだから。

 

 

 

 

 

 先生が玄龍門の門主、キサキ氏に呼び出された翌日、ヘリパッドから我々の機体が退避した後。

 レッドウィンターのご一行が来られた。

 ハボックが4機、そしてMi-8が2機、Mi-26が1機……。

 レッドウインター事務局が新設した親衛空挺部隊か、白い機体カラーに赤い線が描かれたヘリが着陸を開始する。

 

「先生、Mi-26ですよ、実物は初めて見ましたが……」

 

 先生にやや呆れに近い事を言うと、先生すら苦笑していた。

 楽隊の演奏が始まる。

 

「俺もだよ、マコトとは別だがすげー趣味だ」

 

「鉄鷹」四輪特殊車の護衛と共に、黒塗りの「猛士」装輪装甲車からキサキ氏が降りる。

 玄龍門の護衛が1名、あとは礼装の儀仗兵のようだが、優秀なのは分かる。

 儀仗用小銃の56式歩槍は綺麗で丁寧に扱われているのだと、各所の部品の鈍い輝きが教えていた。

 双方三名の旗手が歩み寄り、ポールへと掲げていく。

 

「おぉカムラッドも居たか! おいらも久々に会えて嬉しいぞ、ミノリの奴は元気か?」

「元気で困る!」

「そうかそうか、ワハハ!」

 

 チェリノ書記長と屈託ない会話をしているが、顔の広さに驚くばかりだ。

 ハボックのパイロットや、キサキ氏の護衛にも挨拶していた。

 

「顔なじみなんです?」

「ハボックは元々アリウスから買取願った機体で、パイロットはそれについて行ったヤツ、ミナは前に作戦を一緒にやった」

 

 人の縁か。

 確かに大事なのだなとよくよく思う。

 前に上手いラーメンの作り方を教えてくれたり、ドローンの整備の相談を聞いてくれたアビドスの人たちや、穴掘りに関して教えてくれたゲヘナの人とか、砲兵観測とかを教えてくれたトリニティの人とか、狭い世界じゃ会わなかった人たちとも知り合えた。

 世界の広さは視野の広さなのだろう。

 記念の撮影をしていると、何か首筋にひりつく感じがした。

 何か起きる、いやな予感がする、誰かが何かを企んでいる。

 静かに後ろ手にサキ達へハンドサインした、SRT学生が覚える声に出さない私語の喋り方の一つである。

 

 ”嫌な予感”

 ”了解、備える”

 

 会見ではチェリノが「善隣と友好を祝し心ばかりだがプレゼントを」と話していた。

 レッドウィンターを宣伝し外への広告を進めるという政策はチェリノ政権以来の指針らしいが、これもその宣伝なのだろう。

 しかしキサキ門主にはどういう意図があるんだろう? 

 

「えー従い友好の証として舟艇や車両などをはじめ、幾つかの贈り物を、心からの喜びにより……トモエあとなんだっけ」

「善隣と友好の基盤となる事を願う、です」

「ありがとう。まあともかく、心からの温かな歓迎を感謝しています」

 

 シャントウってどんなボートなんだ? 聞いたことないが……。

 ルミ会長は肩を震わせていたが、全体的に会見は平穏に進んだ。

 

 

 

 昼食に臨む前にレッドウィンターの人たちがチーパオとかいう服へ着替えていた、中々凄いデザインだが、着替えるのはどういう意味なのだろう。

 先生に聞いてみると「要するに”我々は貴女達と共に歩めますよ”というアピールが半分」と返され、もう半分は? と聞くと「トモエのアホが趣味と実益兼ねてんだ」と呟いた。

 なるほど確かに誰にも迷惑をかけていないから上手いやり口だ、先生ですら一筋縄にはいかないと噂のレッドウィンターの凄さを見た。

 会食が済んで京劇の見学が始まるが、今度は先生から嫌な予感がしてくる。

 

 先生が「俺の人生みたいだな」とか言ってたのはまあ良いが、チェリノ書記長とは真逆の楽しみをしているので、キサキ門主が少し困っていた。

 ”作劇の都合”を純軍事的に解釈するのは致命的な悪癖であると思う。

 最後は「まぁ時代に拒まれる時って何しても上手く行かないんだよな」とか呟いてもいた、この大人もしかして外で盛大に爆散したんじゃなかろうか。

 

 チェリノ書記長の依頼で京劇の主役の方が呼ばれて色々聞いていたが「色々演じ過ぎて自分が分からなくなる」と言う言葉は、ある意味武器は考えてはいけないというユキノ隊長を思い出す。

 先生がカメレオンみたいな奴を思い出すとか言って、聞いたら全員絶対関わり合いたくないという顔に成ってた、むろん我々もお知り合いに成りたくない。

 

「あいつ一流の詐欺師だったんだよな、自分を完璧に偽ってたんだもんな」

 

 どこぞの木っ端役人のドピンクとはえらい違いだ。

 それは兎も角、チェリノ書記長と劇について聞いて見たいのとトモエ秘書官の話を聞きたそうでそわそわしている。

 

「劇の方は聞いておくんで、向こうの話に行っていいですよ」

 

 丁度話題に出されたようですっ飛んでいった、相変わらずエネルギーの塊だ、そりゃ人間テルミットになるわけだ、個人的には相手が人型原子炉を叩いてエネルギー漏れに焼かれてるだけだと思う。

 そんな先生を見る京劇部のカグヤさんの目が怪しげに光っていた、野心だらけの先生の目は見慣れてる。

 SRT隊員たる私の勘を舐めないでください。

 あの部長の眼には野心と言うより危険視する目があった、だが分からないのはカグヤ部長自体がかなりの高官と見受けるしかないことだ。

 文化芸能系の高官があんな目をする理由が分からない。

 

「先生」

「ミヤコ只では帰れそうにないな! 忙しくなる、こういう時どう動く?」

「要監視」

 

 やっぱり気づいている、あいかわらずふてぶてしい。

 当たり前のように聞いてくる、落第点ならまた取調室の時のような目で見られる、それだけは嫌だ! 

 多分こういう時A分隊を連れて来て居れば、指示無くサオリ分隊長たちは動くんだろうなぁ。

 具体的な指示をハンドサインで求めると、ミユとモエを上手く使えとのお返事だ。

 

「ミヤコちゃん、何だかんだ楽しそうだよね」

「言うな、聞かれると2時間ぐらい演説聞かされるぞ」

「私語してないでアクセス許可出ましたから待機中の連中と繋ぎなさい」

 

 先生から託されたレッドウィンターと執行部長のコードを確認しながら、有事の準備に入る。

 要人、まして学園間交流の防衛は間違いなく正義だ。

 こうした積み重ねがSRTの意思を継ぐ者を生むのだから。

 正義は政治的妥協では生まれない。

 

 

 梅花園の見物についていくと、小さな教官が心底恐怖した顔を向けていた。

 流石に先生もそんな顔される謂れもないだろ、ないはず、いやどうなんだろう。

 何やらかしたのと先生を見ると、しらを切る顔で話していた。

 

「テロリストが攻めてきましたよ! シュン姉さん」

「禁制品と薬物の中継地点にされてるの気づいてなかったのも悪いだろ、その時の詫びは入れたし」

 

 AARにあった調査の奴か、奥から圧倒という二文字が似合う教官さんが出てきた。

 困り顔をしているが、先生は揶揄うように言う。

 

「シュエリンって生徒は元気かな? 次はいつ遊びに来るのか気になってな」

「あの子も忙しいようですから……」

 

 ……この大人何やらかしたんだ本当に? 

 

「わぁ! シャーレの先生だ! きょうはなにふっとばすのー?」

「うるせー! 俺がいつも何か吹き飛ばしてると思うんじゃないよ!」

「ちがうのー?」

「ちがうの!」

 

 先生が梅花園の子供と戯れている、幼児の相手は手馴れた……というより同族感がする。

 

 相手も陰謀を練るものはやりずらいだろう、レッドウィンターの方々に目を向けさせたいけど、原子炉の方に目を奪われる。

 日和見主義者を煽ろうにも、山海経で上げた行動で動きたくはない、シャーレが動いてる案件に関わりたくない。

 

 ミユは上手くやれてるだろうか、標的を追えなくなったら深追い無用で、再捕足後にしかければいい、裏で動いてる連中はろうそくで照らされることすら嫌がる。との事だし。

 

「お、すげえ。先生が波状突撃に飲み込まれてる」

「カムラッドは子供受けが良いんだな」

 

 幼児の中でもみくちゃにされながらも、彼の顔は普段見ないような安らぎがあった。

 

 

 

 ミユは静かな山林の中、岩の上に身をかがめていた。

 ギリースーツに身を包んだ姿は、ただでさえ見つけるのが至難なミユを更に隠している。

 事実先ほどからミユの背中で鳥が寝ている上に、先ほどは虎も気づかず過ぎていくくらいだ。

 自然環境の美しさの中でミユはうたた寝寸前ではあったが、風に乗って漂う僅かな機械油のにおいで即座に眠気が飛んだ。

 PragaV3Sトラック、レッドウィンター製の民間車両が近づいていた。

 

≪レッドウィンター製のトラック? まあ珍しくもないか≫

 

 安くて雑に扱えるレッドウィンター製の車両はそこそこ人気がある、今日日車両まで拘りがある奴は多くない。

 百鬼夜行やミレニアム、それにトリニティとゲヘナの一部以外は車両を好きに納入している。

 ブラックマーケットでは登録も怪しい再生品車両が大量に売られているし、不良学生の中にも再生品車両を売り歩く奴もいる。

 実は以前にモエもやった。

 

「誰か降りた」

≪ズームお願い≫

 

 百花繚乱から買いたたいた87式暗視装置が目標を捉える。

 

「……モエちゃん、あれ、私見だけど」

≪あー……七囚人に見えるねぇ……≫

 

 話がデカくなり出したな……。

 モエがそう言いたげな声で言った。

 すると、反対側から車両音をソナーが捉えた。

 BJ212という山海経の独自生産の車両が近づく。

 前後には護衛らしい車両がついていた、後方はSX250トラックで、前方はZSD-63Aらしき装甲車だ。

 

「継続の可否」

≪……あ、まずい。山に60人規模の足音。離脱を勧告≫

「コピー」

 

 即座に展開した装備を畳んで撤収する。

 しかし、視力が良いミユには一瞬の月明かりで車列を見る事が出来た。

 ……なんであのトラックは”あんな沈み込むくらい荷を積んでるんだ”。

 

 

 

 過去が無ければ未来がない。

 そのことを誰も認識しようともしない。

 何故伝統を変える必要があるのか? 商売しか考えない馬鹿どもがのさばる、これはまだ耐える事も出来る、奴らはまだ道理をわきまえている。

 他の学園との合流、それもまだ理解が出来なくはない。

 だがシャーレだと!? 連邦の介入だと!? 

 断固認めてやるものか! 

 あの腐りきった連邦の尖兵、いまや飼い主すら噛み殺しかねない狂犬がごとき存在。

 あの男をこの学園で自由にさせてみろ! うちが滅ぶ! 

 しかし、しかしなぜ門主様は分かってくださらないのですか! 

 このままではあなたの民は亡びます! あなたの愛したこの故郷が! 

 あのような男の専横を断固受けいれてなるものか! 貴女がやらねば私がやる! 

 いやそう、これは義戦なのだ。

 哀れで愛しい私の門主様に、代わって忠義のもと行動せねばならないのだ。

 

「注文通り用意したよ」

 

 カイ、このろくでなしとの協力も一時とはいえ止むを得ん。

 そうだ。

 ”正義の為には全ての行動が許される”。

 カグヤは月夜に煌めくそれを眺めた。

 金属の輝きが鈍く月明かり、それが一段と輝いていた。

 彼女は筆を取ると、その側面に”鉄虎”と達筆に書き記し、満足気に笑みを浮かべる。

 あの尊大で傲岸の連邦の暴君が。京劇にもある通り常に暴君かくのごとしだ。

 

「しかし良いのかね? 連邦に対して正面から喧嘩を売るようなことではないかな?」

「哀れなる門主様をお救いし膺懲の断固とした徹底的一撃は全てを正当化するのです」

 

 済んだら貴様も同じところへ送ってやるからな。

 カグヤはにこやかにそう決意した。

 

 

 

 月夜の竹林、散歩のさなかに門主、つまりキサキが倒れた。

 ミナの対応の速さと、ミヤコとサキの速やかな応急措置が全てを手早く解決した。

 先生は運ばれたキサキの部屋から出てくるサヤを捕まえ、尋ねた。

 

「キサキは毒を浴びたか盛られた後遺症か難病の類だろ?」

「患者の秘密は割らない主義なのだ」

「例え先生でも?」

「ぼく様がぼく様である以前に、一人の人間としてここだけは妥協しないのだ」

「よろしい」

 

 少しうれし気にした先生が、納得したように言う。

 サヤは以前に納品する薬品を間違えて先生を若返らせ、ユウカがさらに振り回される大事件などを起こしたが、大事な一線は常に有していた。

 サヤは基本的に善意から変な事を起こしても、異変と言うには怪しいラインで止まる。

 彼女が本質的には善人である証拠は知っているし、信義信念で堅く誓う者の口を割らせるのは先生の信念に反している。

 少しして、ちりんと鈴が鳴る。

 サヤが私室へ入り、そして先生を呼んだ。

 

「大丈夫か」

 

 寝間着と呼ぶには不安が勝る姿のキサキへ尋ねるが、そんな訳もないかと考え取り消した。

 

「数日はぶっ続けで働き続けると評判の先生がそれを言うとは」

「まあなあ、だがまあ、似た経験はある」

 

 キサキとの会話は先生にとってはある種、彼女に必要な事なのだと理解した。

 要するに彼女だって弱音を吐きたい事もある、辛いとも言いたい、しかし”その言い方も知らない”のだ。

 若い立場であるにも関わらず門主にさせられ、演技を続けるうちに自分の本音も分からない、そうではない自分を知っていて欲しいのだ。

 要するに、この小さな愛国者は何もかもを見捨てて逃げたくはないのだ。

 破滅と栄光の中を突き進むしかない。

 

「昔の俺だな、いや、もしかしたら誰かは誰かの鏡写しなのかもしれんが」

「意外じゃの、先生は普段は……放埓というべきか、豪放磊落というべきか、そういう歯の浮く台詞を言わんと思うとったが」

「うるせえ、これでもお前らより数倍生きてんだ、色んな側面があらァ」

 

 キサキが心底楽し気に言う。

 

「愉快じゃ、これだから其方は面白い」

「良かったな、笑えるくらい元気なら冥府は遠いな」

 

 林檎でも剥こうか、サヤに確認をとろうと扉を開ける。

 レッドウインター三人が控室に待っていた。

 

「よう」

 

 少なくとも交流相手にレッドウインターを選んだのは正解かもしれないな、先生はそう判断した。

 なんだかんだ、チェリノが政権を追われない最大の理由はこういう行動がとれるからである。

 すると、ミヤコが紙を一枚持って走ってきた。

 

「なんだ」

 

 内容は聞かずとも分かった、外から銃声が響きだした。

 

 




後半に続く

原作のどっちを見たり知ってます?

  • 長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
  • ブルーアーカイブだけは知ってます
  • どっちも知ってます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。