キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
山海経某所、山間部。
化学防護服を着込んだカイが無言で液体を注射器で吸い出し、別のアタッシュケースを開くと、多数の紙幣の束を取り出す。
殆どが1000から5000ほどの金額の紙幣で、偽札ではなくキッチリ純粋な正貨である。
本来なら2日後、各所のATMや銀行にこれが届くことになるはずのもので、現金輸送車の中にあるはずのものだ。
金目的ではなかった、そんなものは自身の野望の為の手段の一つでしかない、たかが金だ、それがなんだ?
僅かに数滴ずつ垂らし湿らせて、札束を戻していく。
『月影祭開催に向けて各所で準備が進んでいます』
カイはラジオを聞きながら、最終準備に入った。
数日前、玄武商会越しでキサキからの依頼が来たのは驚いた。
無論それ自体は構わない、隊員たちもイベント警備に関しては歓迎的で、会場警備支援ではかなり名が売れている。
ただキサキはあまり大々的に歓迎も出来ぬと申し訳なさげにしている。
「そりゃ日和見主義だな、あまり気にしなくて良い。状況次第で掌クルクルだ、成功失敗の是非によらず伝統により~だ」
そうも簡単にいかんから困るんじゃがとキサキの困り声が返される。
「交流会後の他校生への反発も相まって慎重にと言われている」
「普段から戦時中みたいに国境閉鎖してるのも大概だと思うが」
山海経の月影祭のアドバイザーで呼ばれたは良い物の、相変わらずの保守派が多すぎる。在りし日のトリニティの孤立保守ではなく完全に閉じている、それで良いのか?連邦生徒会よ。
そもそも、ミナと俺があれこれ言ってるのも一応はパフォーマンスだ。
まあそのうち外を見るようになる、そうなれば状況も変わる。
今回は正式な依頼でもあったので、護衛などにアツコにミサキ、後ミヤコが自分達が関わった事件だから最後まで見届けたいと志願して来た。
お前事件起こる前提か?否定しづらいが。
確かに七囚人絡みでこういう機会は動くにしても絶好の機会だろう、家も封鎖線などをサオリに任せたし流通もユウカに任せた、ワカモ以外の七囚人を逮捕する最大の好機なのは間違いない、ヴァルキューレも乗ってくれている、その辺の調整はスズに任せた。
要請が出るまで、山海経を封鎖するように動けばいい。
空中機動部隊による捜索撃滅は本懐だ、カイが肉弾戦に強かろうと追い続ける。
「会議は踊れど、されど進まず。だね先生」
「踊っても無いがな、俺達は出番が無い方が良い、俺達は風邪薬や包帯だ、空振りならそれでいい」
「ヴァルキューレまで動かしてるのに?」
「結局は犯罪抑制だし、最悪ヴァルキューレとの合同訓練にして此処まで合同で動けるということだ、公権力が舐められないのは大事だ」
「舐められないのはシャーレとヴァルキューレで、連邦生徒会ではありませんよね?」
前回、ラビット小隊が山岳地帯のマッピングデータを残してくれて助かった、百鬼夜行や山海経のバイオームでの戦闘に我々は習熟しているとは言えないのだ。
理屈は分かって居ても実際に動くと大分ずれるのは思い知っている、少し前にキキョウに頼んで竹林を借りて戦闘訓練をした時もノウハウの不足が目立った。
慣れない植生に高温多湿の気候、狭いが流れの強い川と山岳地帯、我々の大きいテーマだ、後建材に木材も多くみられるので民間資産保護を考え始めると頭が痛くなる。
サオリもミヤコにしても、市街地は兎も角、そこから外れると慣れるのは手間がかかるそうだ。
まあ散兵や猟兵だもんなあ。
そう考えながらMRAPで玄龍門へ向かっていると、事故が見えた。
キヴォトスでは、特にここみたいなあまり車両が多くない地域では事故は少ないものだが。
≪あー。先生聞こえるか?≫
ミナの声がした、車両無線機を手に取る。
「なんだ、目の前で事故があってな、少し遅れそうだ」
≪事故?交通事故なら、車内から出るな!≫
「どういうことだ」
ミナは困った声で告げた。
≪詳しくは分からないが、そちらでいう……”化学戦状況”?だ。いま
「了解。してやられたな、向こうも随分前から用意してたようだ」
MOPPレベル4を指揮下部隊に発令して、CBRN戦状況下想定を開始する。
致死性は低いが無視はできない生物化学兵器、カンナやサオリにNBC案件発生注意と連絡を送る。
いまごろCBRN用のMOPP Suitsを着込んだスズやカンナたちがせわしなく動いているだろう。
若返りの生物化学兵器か、初めて山海経に来た時の事件の時に取り扱い技能者リストを作っておいて正解だったな。
フーシェの野郎はクソったれだが、やはり捜査屋としては一流だ、アイツのやり口まねるだけでも随分立ち回りやすい。
「化学防御隊の報告では種別判明してますか?空気感染の可能性なら最悪他の地域に……」
ミサキがミヤコの疑問に答えるように端末を叩いた。
風向と気象状況を示す。
「山間部で吹き降ろしてる風から見て流出は難しいかな、動物感染はあるかも」
「低毒で混乱を呼ぶための生物兵器ならヒト感染じゃないかな、私ならそうする」
アツコが汚染予想地域を見て発言した。
汚染予想地域は桃源郷地域、玄武商会地域、どれも商業地域である。
MRAPを六和閣へ走らせながら思わず口に出る。
「白虎公園が含まれてないのが気になる」
それを聞いて思わず三人は情報を確認した。
玄龍門もそこでは静かだからやや、やりすぎなほど確認しているが、非汚染区域だ。
グラウンドゼロじゃない。
おかしい、商業区域2つが爆心で中心部の公園は手つかず?あんまりにもおかしい、生物化学兵器テロにしては汚染のさせ方もおかしい。
”最高の混乱を生むなら空中散布”、それで良い。
「……カイにしてはあまりに手口が軽いな」
「模倣犯?あるいは事故?」
「無い、にしては作為的だ」
サヤはあれで感染爆発の大事故は起こさない、そういう女だ。
玄龍門に到着し、ただちに車両を除染されキサキの元へ向かう。
状況の報告はレイジョがしてくれた、どうやら事件の影響で誰かが噂を流している。
全てしっくりきた、人為的なペスト、社会不安の手軽な醸成、やってくれたな申谷カイ、最小限の動きでなんてことしやがる。
「現在封じ込め作戦は進んでいます、しかし
ルミ会長ら最初期被害者の報告では準備中に発生したと報告されていますが、状況から見て特定は難しいかと」
「有毒性は低く大半の被害者は体重や視界の違和感でコケたりする外傷がある程度です」
「初期汚染者可能性リストに園児もいましたがこちらは無症状感染と思われます、何故かは分かりませんが……幸い園児に被害は出てません」
会議に参加するとミナ部長が安心した顔をした。
「畏れ多い事ですが現状解毒・寛解も分かりません。残念ですが人員立ち入りは制限せざるを得ません。」
玄龍門の幹部が書類を提示する。
ヒト感染というのも無いらしく、幸い発症者は自宅待機で済んでいる。
ただ発症者はそれでもいるから、何かが媒介しているのだ。
「よりにもよって朝飯時でしたからね、食堂が多い玄武商会が狙われたのも無理は無いのですが……食材汚染ではないのは確かです」
レイジョの資料を見るにそれは間違いないのだろう。
だが……だが、ほかに感染してないし、食糧でもない?
「人物金が巡る商業地域ですから如何様にも狙えますから……ん?」
会議室に引っ掛かりが生まれる。
「レイジョ副会長!」
思わず声を荒げる。
びくりとしてレイジョが先生を見た。
「物品受領書と入荷と金銭資料を頼む!」
「少しお待ちを!」
少しして、どんと紙束が出てきた。
感染からして3日か2日前だ、それであるなら……。
「……卸し立ての、現金とはのう」
「た、確かにこれならイベント準備中に大きく人から人へ行きかう」
「となると話は早い!門主様、さっそく汚染貨幣に関して指示します」
流石に原因が判明してからは早い、キサキは「最悪わらわが立替払いしてやるといえ」とミナを走らせた。
時刻は既に夕方だ、キサキはやや安堵したように息を吐き、私室へ戻ると述べた。
感染原因が判明してもそれが簡単に解決が付く訳じゃない。
汚染紙幣のロット番号は?付着の危険は?そうなるとややこしくなってくる。
ミナ部長とレイジョ副会長が化学防御隊の指揮で離れている。
それがいけなかったのかもしれない、シャヘドがトラックから自動発射され、また無人のドローンとドロイドが水道局へ移動してるという報告に待機中のサオリが対応を開始した。
誰もが目を別へと向けている。
「ガスだ!」
奇襲攻撃でまず錬丹術研究所が陥落したのは致命的だった。
ただの強制睡眠ガス、本来カイが「不眠症を直してほしい」という顧客の願いをかなえてやった時の余りであるが、実に上手く行った。
もともと誰も近づかない場所だし、今はシャーレと玄龍門が立ち入りを禁じていた。
奇襲的化学攻撃はほぼ防ぎようがない。
「懐かしきかな我が故郷、と呼ぶにはいささか郷愁も無いんだがねえ」
カイは満足げに微笑んだ。
既に倒れたホンモノに変わって青い腕章の偽玄龍門が展開している、数分で無毒化するよう改良した嫌気性な上に暑さに弱いガスだ。
真夏なら数秒で無害化されてしまうとても弱弱しいものだけど、化学兵器とするならそういうので良い。
殺しはしない、意味がない、被験者を減らしてはなんの意味がある?全てのミスは本質が成功であるから、サンプルは一つでも失われてはならない。
カイが秘密の灯篭を開き、地下研究室への道を開く。
もともと先人が利用した洞窟であるが、誰も知らないから昔からよく利用していた。
彼女はやるべきことに取り組みだした、時間は多くないだろう。
ブラックマーケットで適当にカイが仕入れた傭兵は、彼女の想定通り使い捨てられた。
各所で暴動や破壊活動に関与させ、ある程度の騒乱を起こす。
目くらましとしてはかなり成功していた。
本命そうな水道や浄水局襲撃には高い金をつぎ込んでワークローダーなどの部隊を時間差で投入している、カイは兵事に関して素人であることを理解していたから、むしろそれでいいとしていた。
続く第二次攻撃でキサキは疑問を感じた、何故カイはこうも散発的正面攻撃を各所で仕掛けると。
「なーんかわざとらしい。」
「じゃが理由がわからんからのう、そちはどう感じる」
「助攻、陽動、擾乱攻撃」
先生の言葉はいつになく信頼感がある。
ミヤコにしてもアツコにしても「遊撃戦だね」と感じていた、正面決戦では絶対ない。
ミサキも違和感を感じていた、計画性と周到性が見え隠れしてるのに無秩序?
やがて答えが来た。
カイが予備のシャヘドで山海経全域に宣伝放送を開始した、思わず先生もこれには苦笑してしまう。
カイは全てをこの1手にぶち込んだ、キサキを弾劾し玄龍門を、山海経そのものの行政を麻痺させるのが目的だったのだ。
「あのバカやりやがった、今からでも退学にさせるかした方がいいんじゃないか?」
「手遅れじゃ、それが出来れば苦労しておらんよ」
「参ったな」
カイの本命が始まった、シャヘドと化学砲弾攻撃が始まる。
これで政府指揮機能は事実上停止だ!あの野郎本当に化学専門家か?
無論理解は出来る、最大限効果を発揮しようとして考えていたのだろう。
各所が混乱状態なら各級指揮官、俺、そしてキサキもここから動かねえからな……。
「先生!一時離脱しよう!」
「ああ、指揮所を移転する」
ミサキとミヤコが退路確保を行う。
M40ガスマスクを装面し、キサキを移動させるようミナに言う。
「門主様が構わぬから行けと」
「なに?!」
思わず聞き返す。
ミナ部長が聞き入れてくれないと返すと、構わんからと私室へ入る。
「先生なら分かるじゃろ、わたしはいい……」
「指揮者は最後に退場するもんだが、今は最後じゃ無いんだよ。まだあるだろ」
「じゃが」
ミナの肩を掴み、視線を集めた隙にアツコにサインする。
バチンとテーザーが唸り、キサキが目を閉じた。
「お、おい!」
「よし運ぶぞ!」
この大人滅茶苦茶やるなあ、門主様になんてことすんだよ。
ミナはそっと主人を抱え、ミヤコとミサキが確保した玄龍門のWZ551へ乗り込む。
残念ながら局地戦の1場面では黒星をつけられた、しかし7時に負けてても9時には勝てばそれでいい、レイジョが「商会方面で立て直します」と告げた。
指揮所制圧、キサキと先生が退却はカイにとっては不本意な結果だった。
しかし再編するにしても、予備計画は仕込んである。
最高指揮者不在を良い事に強硬派を扇動していたカイは、先生が居ないというチャンスを利用することにした。
いまならシャーレの合法的作戦計画全てをパーにしてやれる、数日は時間が稼げるかもしれない、それで十分。
そして強硬派は反動保守の最右翼、シャーレだろうが怯まないカグヤを擁立しにかかる事にした。
「なんです?騒乱状態?門主様は?行方が分からない?」
カグヤは思わず困惑した、恐れ知らずは事実だが流石に状況が滅茶苦茶だ。
しかし一番滅茶苦茶だと感じたのは、この強硬派の言い分であった。
伝統にのっとりというが、やる事が捜索や、恥を忍んで依頼するとか、事態収拾ではなく私に門主様になれと?
カグヤは思わず眉間にしわを寄せた。
何考えてるか分からんが、先生のがまだ敵として信用できる、あの連邦の尖兵のやること成す事嫌いだが、無能とは絶対に思えない。
カグヤにとってあの劇薬を飲むほどこの愛しき故郷は重篤患者ではないと理解していた、しかし現状この山海経は重病だ、治せるのは門主様だけである。
毒が転じて薬と成す様にあの乱世の擬人化も薬となろうが、それを制御する徳は門主様にのみある。
間違ってもこのような佞臣どもにはあるまい。
「それであなた達は尻尾巻いて逃げ出したのですか!それでも玄龍門か、恥を知れ!」
カグヤが吠えた。
カイにとっての計算外が大きくなろうとしていた。
玄武商会の倉庫街に臨時指揮所の一部を移転した。
散発的な戦闘騒音はあちこちから聞こえているが、事実上玄龍門も玄武商会も分断されて孤立してるようなものだ。
シャーレを本格介入させるにしてもこれじゃまずい、民間人が多数いる環境下で市街戦をしてはいけない。
一撃を以て勝たねばなるまい。
「しかしカイ本人の動きが見えない、奴はなに考えているんだ」
「門主様の座じゃないのか?奴は強い恨みをかかえている」
ミナの言葉は理解したが、あそこにカイがいるとは絶対に思えない。
そう言う奴じゃない、そういう奴なら既に潰せたはずだ。
ヒヨリやミユのデータを見るが、山間部と言うには交通活動も無い。
まして通信や無線交信も無いし、使い捨て部隊は細胞の如く切り捨て前提で指揮は事前命令だけだ。
「封緘命令というツラじゃねえだろ」
「案外戦闘も政治も重要視してないのでは?」
ミヤコがぼそっと呟いた。
「ここまで騒ぎを大きくして、何もしない馬鹿に見えんぞ」
「はい。いいえ。私が言いたいのは”火消しと飽和攻撃以外軍事的意図は無く、本質は別にあるという事です”」
勝つこと以外の目的。
勝つこと以外?大半が勝つことへとつながるぞ、つじつまが合わん。
目が覚めて軽くせき込むキサキを、ミナとアツコ、それにルミが吸入器で応対している。
レイジョが薬の予備を取りに行くよう依頼したらしい、どうやら梅花園の教官のお陰で混乱を抜けれたらしいが。
「……薬」
ミサキがふと、呟く。
そして、エデン条約戦のAARが浮かんだ。
そうだ、あの時マダムは儀式完遂が目的で作戦計画はかなり軍事的ではなかった……。
だがそう、主力展開が出来ないようにして、分断し、混乱させれば……。
「もしかしてこの混乱すべて、小さな嘘を隠す為の大きな嘘なんじゃない?」
「……ありうる話だ、ミヤコ確かお前モエが中継用のシステムあるよな、繋がせろ」
ミヤコがすぐに手配した。
モエの中継点を使い、監視カメラのトラフィックや交通量調査を確認する。
プラナとアロナに計測させたが、交通量が先ほどから急速に跳ね上がっていた。
指揮管制が消えた途端に一気に物資搬入を開始したか、そうなれば答えも同然だ。
「つまり、カイの奴は古巣に隠れていたわけか」
灯台下暗しというべきかなんというか、地下潜行と遊撃戦か、恐らく俺の今までのあれこれをちゃんと読んでやがったな。
キサキが立ち上がり、少しふらついた様子で歩く。
「しっかり座れ、休んでおけ」
「門主という仕事は難儀でな、休めんのでな」
昔の俺みたいなことを言う、だが彼女は昔の俺より身体が万全ではない。
無論キサキの言いたい事は分かる、彼女は抱え込んでいる、この学園全てを。
どいつもこいつも不器用な奴らばかりだ、そうだ、あの愚かで哀れで愛しい馬鹿どもを棄てられやしないのだ、かつての俺がそうであるがように。
今の俺がそうだというように。
ならやるべきことも見えてくる。
「キサキ」
ルミがにこやかに告げた。
「お客さんだよ」
ルミはそういうと、レイジョに扉を開けさせた。
ミナとミヤコがややぎょっとし、キサキは優し気に微笑んだ。
「門主様にかしらァー、みぎ!」
綺麗に三列の横隊を組んで、玄龍門と、京劇部と、玄武商会の部員たちが捧げ銃を行う。
「カグヤ、御主まで来たか」
「ここまで来たなら、ある意味”反動主義者”として脚本通りいくべきかと」
「莫迦者が……」
カグヤがにやりと笑った。
「それに、何といいますか、私個人としては気に食わんのです、連邦に介入されるのも、怪しい薬屋に好きにされるのも」
であるからにして。
「そうであるなら、自らを救うは自らの力しかないと考えた次第です。後で牢を出た件と謹慎を破った罰は受けます」
「うむ、ひとまず祭りの準備作業と言う恐ろしい極刑に処すゆえ覚悟せよ」
整列した部員たちから笑い声が響く。
「頭数と腕はなんとかなったけど、どうも相手さん諦める気がないみたい。」
アツコが画面を操作する。
ZB-26軽機関銃のMGネストやらが、増強されて恐らく誰かから流れたらしい装甲車や戦車なども出ている。
カイのやつ、そろそろバレたと考えたな。
情報分析によると戦車はレッドウインター製のT-55をライセンス生産した59式やチョンマというT62らしい。
爆発反応装甲やレーザー測距儀付きで、砲塔後部にはMANPADSが据えてやがった。
「薬品が近いからな、大砲を撃つわけにもいかん」
頭を掻きながら言う。
しかしミナには何か別案があるらしい、ある情報をそっと渡した。
……確かにこれは面白い事になるだろう。
地下室、カイは先生たちが動き出したという報せもさほど気にしなかった。
先生の手は理解できている、凡夫じゃないから読みやすい、リスクを常に理解している。
だからここを砲撃できないのを知っている、何故なら替えが利かない施設だから。
自分と違い”責任がある”からだ。
彼女はエデン条約不朽の自由作戦や色彩襲来のオーバーロード作戦の記録から理解出来る点を認識した、彼は荒いようで計算高く、彼は砲弾の扱いはここ一番の丁寧さで大事に行使する。
だから仕掛けて来ても別の手を使う。
それ故正面からの浸透攻撃と聞いて、思わず失望しそうになった。
「だがまあ、それなら私の目的が叶うからね。気にしなくて良い。」
カイは銃声や手榴弾の音も気にしなかった。
あと少し、あと少しだ。
「か、カイ会長!」
「なんだい騒々しい、京劇が終幕に近づいてるだけだろう。」
「か、か」
「なんだ」
カイに驚嘆と言うしかない顔色が浮かんだ。
「川を戦車が進んできてる……?」
カイはなんだって?と思わず苦笑し、そして外へ顔を出した。
次々と自身が用意させた戦車が破壊され、川から車両が進んできている。
背後を川に防がれている以上、陸か空だというカイの読み自体は正しくあった。
彼女の予想外は想像より山海経は纏まりや危機に対しての妥協が出来たということである。
まさか玄龍門の63式軽戦車A型にWZ-550が河川舟艇が如く攻め寄せてくるのはやや予想外だった。
慌てて防御火力を向けさせるか考えるが、間に合わないと判断した。
「少しでもいい、時間を稼げ。あと少しで終わる。」
そう命令すると同時に、95-1式自動歩槍や03式自動歩槍の銃声が響きだす。
「
河川作戦向けの部隊に、シャーレの部隊が河川から上陸を開始する。
これでは抗戦は難しい。
この実験は失敗か、カイは無言で両手をあげた。
「よお七囚人。」
先生がWZ-551から上陸し、さも当然の様に地に足をつける。
そうだ、ただの凡夫と呼ぶにあまりに不適当、こいつなら。
「おやおや君が先生か、お初になるかな?」
両手をあげながらも太々しくカイが嗤う。
「哀れで無能なご主人様は犬に適切な面倒を見ないと聞くがお元気かな?」
「おやおや収監されていなくても社会勉強は続けているらしいなぁ、脱獄囚でも模範囚では居たいと見える」
「模範的大人がいるおかげで随分苦労させられたよ。まったくどうして、こうただ理想を追うだけでこうも大騒ぎになるかな?」
カイはそのニヤケ顔を続けて言う。
「それに分かっているんだろう?この見せかけの虚妄の政府は腐りかけの重病人だ、何故尽くすのかね?堕落した腐敗政治家と役人、腐った消費社会に肝もタマも無い澱んだバカの掃きだめで、何故そんな事に拘るんだい」
「そっくりそのままテメエに返すよ、たかが薬というがテメエはなぜこうまでした?」
カイの表情筋が一時激しく動く。
「なにが言いたい?」
「お前の話を聞くに貴様、自分に最高の自信があると信じたタチだろう」
カイの表情が変わっていく。
「だがお前は日常の中で出来ない事を直視するのが怖くなり出した、自分の頭打ちに怯えだしたんじゃないか?」
「何を根拠に」
「お前の活動が物語っている。お前の製品は全て重篤な副作用を呼び起こした。お前は”自分が失敗作ばかり”というのを理解しているか?」
「失敗?失敗とはやめてしまう事だ、失敗などしていない、どうせいくらでも……あとで……」
カイの言葉が止まる。
そうだ、お前の発言から何もかもが見え隠れしていた。
お前の発言には自己の作品に対する弁護があっても自己弁護がない、そう。
「お前は”自分のせいじゃないか”ということを受け入れないから、答えは永遠に見つからん。
なぜ”自己の作品がそうなるのか?相手は何を求めているのか?”正確に真剣に向き合えんのならそれは未完の真実で失敗作で終わるだろう」
カイが軽く笑い、やがて観念したようにアツコにより拘束された。
「先生は、先生は私がそれを受け入れれば仙丹へと通じうると思うのか?」
「そもそもそんな具体性もないあやふやな目標自体が自己を正しく認識できず失敗する原因だ、諦めろと言う気は無いがお前の自らが引き起こした光と闇に向き合わんで道は開けるわけが無いんだよ」
「金言耳にしみるよ」と呟いて、カイは連行されていった。
ミサキはIED排除を確認し、CBRN兵器の排除確認を宣言した。
カイの降伏、それはある意味一つの時代の始まりを意味した。
人はいつまでも変わらないままいられやしない、自己を見失わない限り、それは自分自身であり続けるからだ。
山海経で開催された月影祭は、その年、最高収益を達成した。
七囚人拘束、それはシャーレにとってかなり大きな戦果であった。
対CBRN兵器状況下での対応の成功と、カイ自身が無用な破壊を必要としない為軽微で済んだ化学兵器攻撃はキヴォトスの一部人間に大きな衝撃を与え、シャーレの栄光はさらに大きくなった。
この戦果を武器に遂に連邦生徒会への上申をユウカに許された先生とスズは、遂に正規機甲戦力調達を許された。
また、こうした特殊武器使用状況下における講習希望者が最近ミネやセナなどから増え、安全講習はマニュアルを増やす事となった。
また来週お会いしましょう。
原作のどっちを見たり知ってます?
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長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
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ブルーアーカイブだけは知ってます
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どっちも知ってます。