キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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すこし暗い話です。


Remnants of War

 

 

 アビドスの騒乱が終わり、少しした頃。

 コハルはシャーレの本庁前へきていた。

 今日は講習を受けに来た、シャーレは幾つか関係者を交えた講習を開くことがある。

 簡単アツコの手話教室、ユウカの税務申告及び会計講習、ミカによる茶葉と茶会小噺集など多岐にわたる。

 無論イメージ戦略であるが、最大の理由は無知と無理解を回避する事だ。

 無理解は偏見へ拡大し、憎悪になり、争いに繋がる。

 連邦生徒会や各校によく思わない勢力が居る以上、顔なじみを増やすわけである。*1

 

「あ、あの。講習会は何階ですか」

「大型体育館だね、そっちにあるよ」

 

 正門警衛隊員に一礼してコハルが進む。

 体育館で各自にVRゴーグルが配給される、想定環境を手軽に映し出せるからだ。*2

 体育館には自分と同じような生徒たちが大勢いた、百花繚乱やゲヘナ風紀委員、驚いたのはカイザーPMSCやインペラトールPMSCに、ラビット小隊、更には何人かのアリウスの生徒などもいた。

 

「よし集まったな、挨拶は省略だ。手短に行こう、質問は手を挙げて氏名と登録番号を言った後で頼むぞ」

 

 先生が現れ、スクリーンに画面を投影する。

 

「諸君ら、そして我々、双方の為に交戦規定の話をする。所謂IHL*3に基づいている」

 

 先生がスクリーンのリモコンを押す。

 

「まず戦闘員だけと交戦する。大原則だ。そして軍事目標だけ攻撃する。民間人と民間資産破壊の可能性も抑える。必要以上の破壊も禁止だ、略奪なんぞ論外だぞ」

 

 四つの大原則が並ぶ。

 ここまでは常識の範囲内だ、常識論と言える。

 だがいつだって常識論で世界は動かないことくらいコハルは理解している。

 

「ではVRの時間だ、各自ゴーグルつけて起動」

 

 着用し、電源を入れる。

 ローポリの背景で村落が描かれ、赤い建物がある。

 

「おし、見えるな? 赤い人型が敵性勢力、つまり戦闘員だ。周りに紫も見えるな、あれはシビリアンだ」

 

 紫のシルエットがいくつか見える。

 

「任務は敵性勢力排除である。君達なりの解決をしてみるように」

 

 VRの画面に呼べる支援火力要請が映される。

 砲撃支援要請、航空支援要請、クラスター支援などがあり、コハルはどうするか迷った。

 少し悩んだ後、砲撃支援にした。

 砲兵火力支援なら要請座標が正しい限り間違いは無い筈で、近接航空支援は民間人の点からまずいと考えた、クラスターは論外だ。

 しかし、降り注いできた砲弾は確率と風向と装薬の差からややずれた。

 非常に微量のずれであるが、集落へ直撃するには十分である。

 

「目標達成は出来たかな?」

 

 各自の視界を統合し、リストが生まれる。

 

「クラスター爆弾は論外だ、不発弾発生確率が高いぞ。ヘリからの支援もMANPADSの脅威がある。大砲はブレる」

 

 先生は咳払いして言う。

 

「この場合の正解だが、冷静になるまで考えれば自然とそうなる。待って観察することだ」

 

 つまり動くかもしれないという事である。

 再びVR空間が戻る、観察してみると確かに敵の動きが移動準備に入ろうとしている。

 移動中なら、確か相手の車両は軽車両ばかりだから。

 コハルが航空支援を選んだ、AH-64のガンランは忽ちに車両を破壊しつくしていく。

 今回民間被害はほぼなかった。

 

「これが”均衡性の原則”*4だ。支援要請は適切にやるんだぞ?撃った弾にブレーキは付いてないからな」

 

 続く講習は防衛に関してだ。

 VR空間が検問所を映す。

 

「地雷を用いて適切な防御線、諸君も聞いたことがあるだろう?知らなくてもここで俺と学ぼう」

 

 VR空間に地雷を仕掛ける、検問所の防衛ならとコハルは街道線を塞ぐように配置した。

 

「設置完了したかな? では次」

 

 画面に「24時間後」と書かれる。

 赤色の敵性勢力がカチンと起動した地雷で、小銃班が壊滅していく。

 だがその後、青色の集団が現れる。

 アレは確か友軍勢力だ。

 

「おやおや、連絡ミスかな? 彼らは地雷がある事を知らんぞ」

 

 ぼんと爆発し、味方も吹き飛ぶ。

 

「……御覧の通り地雷はIFFがない、友軍どころか民間人もお構いなしの平等主義、その上任務を最後まで忘れない働き者だ」

 

 更に画面が変わる。

 ゴミが散乱している街路の様な所が映る。

 

「さて、これまで聞いた諸君なら分かるだろう。この先あるのは?」

 

 誰もその先へ、奥へと歩めなかった。

 画面にまた文字が映され、数ヶ月後と書かれる。

 紫の人型が、奥へと進んで爆発した。

 

「不運だな、不発弾だ。お片付けを怠ったせいだな」

 

 また画面が変わる。

 今度は無機質な市街地風の空間だ。

 歩兵戦闘における現場での判断の仕方だという。

 腐っても正義実現委員会の一員、コハルは言われたことを思い返しながら進める。

 その為と、焦らないお陰で民間被害は3人ほどで済んだ。

 

 

 コハルに1階級昇格の話が出たのはある意味で必然と言えた。

 少し早いが、彼女はそれだけの活躍をしていた。

 大概の正義実現委員たちは「少し遅かったくらいだ」と感じ、それ以外は「まだだったんだ」と感じた。

 エデンと色彩時の終結祝いでの各自等級の特進、いわゆる万歳特進はある意味慰労の意味合いが強かったので、全員が特進と昇進の話がどれがなんだったかよく覚えていなかった。

 そんなわけでコハルは正義実現委員の7号棒から6号へ特進したわけである、ある意味本当に正義実現委員のエリートと呼べる速さと言えた、軍隊で言うなら、下士官になり准士官や見習い士官と言った階級となる。

 正規将校じゃないがROTCの様な予備より当てにはされる。

 

「と、言うわけで補習追加です。頑張ってきなさい」

 

 ドーン! と音を立ててプリントの山がハスミにより積み上げられた、ツルギなどは親指を立てて頑張れとこころ安らかな笑顔である。

 幸か不幸か、良くも悪くも補習授業からは逃げられなかった。

 士官になると言うことはやることが増えて、ややこしくなるのである、専門教育が待っている。

 それについては以前より苦戦しなかった、分からないことは聞けるし、彼女の経験や見てきたものが役に立った。

 それに何より、周りから信頼があった。

 

「と、言うわけで今度は実地で研修っすよー」

 

 エーッと言う暇もなくUH-34に詰め込まれた、コハルが書面の研修を終え、彼女を待っていたのは、実地研修であった。

 なんのことはない、要するにある程度未来の為になりそうなやつを安穏とお部屋で勉強させてるだけの余裕が誰にもない。

 見込みがあると思われたが故に、コハルはアリウス復興支援部隊へ送り込まれることになった。

 

【連邦生徒会提出資料】

 

 PKF作戦【JU.N.P-3】に関して

 

 2度のPKF作戦に続き第三次作戦の目的はアリウス西部山岳部から中央市街東部を作戦地域とする。

 派遣されるのは連邦捜査部指揮下の統合任務部隊「JUNP-FORTHⅢ」とする。

 統合任務部隊は新たに再編されたアリウス自治警察予備隊第二管区隊4個中隊を編入、作戦地域調査と復旧に全力を以てこれにあたる。

 派遣される装備は以下の通りである。

 

 車両類

 M728CEV-12両

 M113ACAV-14両

 M577CP-6両

 HEMMT-28両

 FV406-12両

 

 航空機類

 OH-58-4機

 UH-60-4機

 UH-34-8機

 CH-47-5機

 

 作戦目的は連邦の憲章に基づく生存権と治安の回復、並びに残存するミメシスやWMDの捜索と無力化である。

 また各小規模集団の停戦監視、武装解除、犯罪抑止をこれに含む。

 第一優先目的はミメシスに関しての抑制とする。

 

 署名 連邦捜査部

 記入日 10月23日

               印

 ──────────────────

 

 UH-34から大きなアリスバッグを背負って次々と降りるメンバーに紛れて、コハルも降りた。

 これでも正義実現委員、40キロ行軍程度の経験はあるし、少なくともコハルは3日に一度の朝のランニングを欠かした事はエデン条約のゴタゴタだけである。

 規則正しい生活についてはそこそこ守っているし、そう言う点での彼女はまさに平均値で、先生の「政治に関わらなくても人生幸せ」と言うのは正鵠を射ている。

 

「アリウスFOBにようこそ」

 

 中央市街地に程近いバシリカの外れ、彼女らの拠点になるシャーレのアリウス駐屯地は元々適当な空き地に腰を据えていた。

 元々は1号官邸、つまり生徒会長か何かの施設じゃないか? と言われていたが、アツコは15号庁舎──アリウス本館──の一室で寝泊まりする類であった。

 単純に広い部屋では彼女が寝れないタチで、欲を言えば見知った誰かが居て欲しいなという類の意見から間借りしている。

 それに内戦と先軍政治の行き着く果てに此処は最終的に5454部隊、つまりアリウス偵察総局の特務部隊向けに弄られてしまった、生徒会長の権威低下というより食うものが無いから先鋭化したせいである。

 サオリたちのスクワッド──アリウスでは歩兵の部隊区分はライフルチームとプラトーンで、スクワッドは特務しか使わない──も、つまり5454部隊の148部隊も此処が駐屯地に"なっていた"、正式にはあれは少し違うのだが。

 因みにスクワッドが特務部隊用の区分の理由は8-12名の構成要員を円滑に足したり引いたりするためである、人的資源の点から小銃小隊は25名のアリウスらしい世知辛い事情だった。

 戦後になって一応資料調査はされている、いつかは正当な使い方をされるに違いないが、今では無いのは確かだった。

 誰からも文句を言われない土地は此処が最適解だったのだ。

 5454部隊の大半はシャーレの強制執行部隊や復員、そして再建されたアリウス生徒会特戦司令部へ流れていった。

 

「あそこの官舎は空いてるから適当に部屋を決めてあるので使うように」

 

 MICH2000ヘルメットをつけたシャーレの連絡担当はそうした話をすると別の仕事へ向かっていった。

 CH-47は幾つもの荷物を下ろしているし、トレーラーは車両を下ろしている。

 高速道路が整備完了してればトランスポーターが楽に運んでくれるだろうが、現状それを望めない以上しょうがない。

 荷を部屋に下ろして疲れたと眠り、コハルのアリウスでの第一日は過ぎていった。

 

 2日目になって本格的に仕事が始まった。

 なんのことはない、清掃だと言われた。

 なんだそんなもんかと気楽に思っていたコハルは、現地でなんとも言えない気分になった。

 あぁただの清掃だ、不発弾や地雷が多いってこと以外……。

 毎度毎度屋内は崩れないか不安になるし、穴に突き刺さった砲弾を見つけて背筋を冷やし、瓦礫と破片で地雷処理は進みはしない。

 しかも廃墟と言えどもそこそこの確率で人が住んでるケースも多い。

 

「避難したか、移転したんじゃないの?!」

 

 コハルが困惑したように言うと、付き添いのシャーレ隊員は投げやりに言う。

 

「ああだが西部山岳地帯をはじめ各所に隠れてる奴も多い、連邦も誰も信じないってな」

「ええ……それいいの?」

「良くないが無理矢理引きずり出してもダメだろ、しょうがないからゆっくりと帰って来るのを待つしかないのさ」

 

 理屈は分かるが……。

 コハルはなんとも言えない感想を抱きつつも、それでもまだ良い方だと気を引き締めた。

 少なくとも戦闘中ではないし、無理矢理引きずり出したりしなくていいのだ。

 見つけた居住者は書類を確認して移転手続きや各種手続きを行われ、正式に登録され再建中の地域へ移る。

 一時期は”戦略再定住計画”とした無人地帯を構成する案もあったが、むしろ民衆の味方の側面を強める為に却下された。

 アビドスのように越すと言っても簡単じゃないのだ、政治家の決める領分ではない。

 

「そこの地割れ、気を付けなよ」

「へ?」

 

 シャーレ隊員がマッチを1本手に取り、地割れへ投げた。

 ボンと青白い業火が溢れ出す。

 

「硫化水素、ろくなもんじゃないから地下作業はマスク着けてやりなよ」

 

 唖然としていると、コハルの真横を何かが動く音がした。

 ライトを向けると、同じく青白い光が見える。

 

「あっ、そこも硫化水素が出てる」

「へ?」

 

 コハルが指をさすと同時に、シャーレ隊員の眼が変わった。

 

「伏せろ!」

 

 パンという乾いた銃声が響き、ドラグノフから放たれた弾が掠める。

 慌ててコハルが建物の陰に取り付き、銃弾を装填して小銃を構える。

 シャーレ隊員がMk18で制圧射撃し、ぼおっと燃え盛りながらミメシスが落ちていく。

 バグによりミメシスは未だ残存しており、バルバラなどの連中も度々確認されている。

 それの処分や適切な封印の為もあり、シスターフッドはアリウスで各種の慈善活動を行っている。

 適切な処理とは要するに葬式である、彼女らの任務はもうないのだ。

 

「おかしいな、普段市街まで居ないのに」

 

 各自の警戒が強くなる。

 予想は正しく、ひゅうと音がした。

 

「迫撃砲!」

 

 バンと音が響き、爆発が起こり、コハルが丸くなって隠れる。

 おそらく60㎜あたりかなと冷静な自分が分析しているが、砲を相手に何が出来ると言うのか? 

 今のコハルはただの実習研修なのだ。

 

「レムナント!」

 

 誰かが叫んだ。

 ポンチョなどで擬装したアリウス生徒たちが現れる。

 アリウスの反動、未だ戦争が終わった事を認められない生徒たち、或いは他を考えれない者たち。

 彼女らは要するに”輝かしき新体制”で生きていけないと絶望した集団だ。穏健派は山に籠り、尖鋭化した連中は外部への攻撃を続けている。

 結局マダムが遺した洗脳の悪影響だ、都合よく新体制を受け入れるなんて器用な事が出来なかったのだ。

 サオリにしろなんにしろ、純粋さゆえの結果である。

 

「APC履帯損傷!」

「喚かず撃て!」

 

 迫撃砲の弾着が終わり、戦闘が始まる。

 慌てて立ち上がったコハルは即座に隠れた建物の二階を進む。

 予想通り部隊と交戦してるレムナントが見えた、数名がこちらから迂回しようとしている。

 

「教典では、えーと」

 

 必死に心を落ち着ける。

 教えられた事となにも変わらない、それだけ! 

 ダンと銃声、反動、先頭が倒れる。

 ボルトを動かして排莢、銃撃を受けて左右を警戒する隊列最後衛を撃つ。

 排莢、続いて隊列中央、外した! 焦りで呼吸が乱れてブレた。

 相手が叫ぶ、銃声から目星をつけたのかコハルの建物壁面へ制圧射撃、何発かコハルを掠める。

 陣地変換、ただちに三階へ移動、階段へ向かう。

 

「3班、行け!」

 

 やっぱり! 制圧射撃と同時に突入してきた! 

 だからこれを用意した! 手りゅう弾! 

 ピンを抜いて3数える、まして5などもってのほか! 

 

「フラグ!!」

 

 建物内で反響した爆発音が響く、巻き上がる砂塵が戦果を特定させない。

 まだ動いてる、コハルは小銃を構える。

 しかし引き金を引く前に相手がサイドアームのP228を発砲、当てずっぽうだから上へ逸れるが、慌てたコハルがへたり込む。

 それを倒したと解釈したアリウス・レムナントが立ち上がり、小銃へ持ち替える。

 ええいままよとコハルが両足で挟んで射撃、肩に当たったアリウス生徒が落ちていく。

 しかし完全に特定された、残る数名が銃撃してくる。

 

「は、は、排莢。あれえ……!」

 

 ボルトが噛んだ、動かない! ジャムだ! 

 倒れた際に金具が歪んだのだ。

 階段を駆け上がる足音が聞こえる。

 ストックを握りしめ、部屋の陰に隠れ、待ち構える。

 しかし1階から別の銃声がした。

 

「クソ!」

 

 1階から援護に来たシャーレとアリウス自治警察予備隊が突入する。

 40㎜擲弾銃から散弾を撃ち、続いてベクターR4を掃射する。

 コハルは意を決した。

 

「動かないで!」

 

 小銃を突き付け、アリウス生徒へ降伏を勧告する。

 彼女は大人しく握りしめていたAK‐12を棄てたが、横から出てきたシャーレ隊員が撃った。

 

「ちょっと!」

「バカヤロー! そいつ背中に拳銃隠してたぞ!」

 

 ガンと蹴って背中の武器を回収する。

 ゲリラ攻撃、自分を顧みない攻撃、何が彼女らをそうさせるのだ。

 別に、別にそこまで考えすぎなくても良いじゃないか。

 あの時自分に何が出来た、それだけじゃないのか? 

 コハルはしかしとも頭に浮かんだ、自分はそんな風に割り切れそうじゃないよなあと。

 アリウス生徒だって結局、ただの生徒なのだ。

 彼女はそれをよく知っている、お姉さんぶりたい事がたびたびあるそんな親友を。

 彼女は黙々とIFAKからキットを取り出し、応急処置を始めた。

 

「引き継ぎます!」

 

 セリナとヒナタがやってきて、捕虜とミメシスの処理が始まる。

 結局レムナントに対する解決法は時間しかない、不可思議なのは彼女たちは捕まると極めて大人しくなるのだ。

 精神医療従事者は「おそらく自罰意識からの解放では?」と考えている、真の戦争終結はまだまだなのだ。

 

 

 数日たち、市街戦の跡地の瓦礫撤去が新しい仕事である。

 バリケード撤去、残骸、色々ある。

 擱座したチーフテンは対戦車地雷で擱座したらしく、動かすには苦労させられそうだ。

 バリケード撤去はまた別の仕事になる。

 バリケードを見ていると恐らく昔の救護騎士団の前身組織が使用していた救急車もあった。

 

「激戦だったのかな」

「叛乱軍がここら辺を占拠してね、マダムがあれこれとしたんだ」

 

 アリウス自治警察予備隊の生徒がそう語る。

 

「あの大人が来る1時間くらい前、ロケット弾が撃ち込まれてね……酷いもんだよ白リンは」

「禁止兵器じゃない」

「煙幕のWPと違う、白く燃えながら星みたいにキラキラ光るんだよ……」

 

 そのアリウス自治警察予備隊の生徒はかつて修道院だったらしい施設の焼け跡を指さす。

 

「あそこは見ない方が良い、あれ見て昼食べれてたの先生しかいないから」

 

 それだけ言って、その生徒は別の作業へ向かった。

 コハルはしばし悩んで、そして見ないのは責任逃れとしかりつけた。

 お前だって当事者なんだ、いまさら逃げるな。

 そして、焼け跡を見た。

 ガスマスクを着けて作業しているサクラコとミネが居た、黒い焼けた小枝の様なものを黒い袋に詰めている。

 どういうことかは理解できた、分からないのは理由だ、ただの、ただの避難所じゃないか。

 別に深い理由なんかない、ただ単に相手地域のデカい施設に大勢居た、撃った、よりにもよって白リンの多連装ロケット、あとは一貫の終わり。

 

「危ないですよ、下がって」

「……いえ、手伝います!」

 

 コハルはそう告げた。

 ミネは少し考えて、頷き、左右を指さして告げる。

 

「あそこら辺はFASCAMがぶちまけた地雷の跡があるから気を付けてください、前にそれで吹き飛ばされかけました」

「じ、地雷ですか」

「ええ、後退する叛乱軍が半径200mほどに地雷散布したそうです」

 

 コハルの脳裏になんとも言えない感情が浮かび上がった。

 民間人諸共に撃つのと、跡地に地雷を撒くの、どちらが悪いのだ? 

 答えなんかないのは知っている。

 人が過ちを繰り返すのに理由は無い。

 

「これが原罪なのでしょうか」

 

 サクラコが焼けてない人形を手に取って呟いた。

 ミネとサクラコが居る理由は簡単だ、後輩にやらせるより自分がやるべきだと感じたのだ。

 事実こうした作業はあまり好ましい作業と言えない、元SRTが多数を占めるシャーレでも隊員の一部におかしくなる奴が出た。

 話によれば、千切れた腕を拾ってじゃんけんしたのだという、いつの間にかそういう異常に呑まれておかしくなるのだ。

 ただちに後送されてしばらくカウンセリング送りになった、無理もない。*5

 

セ・ラーゲル(それが戦争だ)と先生は仰っていましたが」

 

 ミネはなんとも言えない顔で呟いた。

 先生の言葉、”それが戦争だよ”。

 結局そうなのかもしれない。

 コハルはただ黙々とそれを詰め込んだ。

 

「統計は概ね多分この程度ですかね」

 

 ミネの確認をはじめ、サクラコは葬式の用意を始めた。

 以降この地域ではミメシスの出現は止んだという。

 

 

 

 研修期間が過ぎ去り、コハルは帰還が決まった。

 彼女はぼおっと、駐屯地の待機場所に座って待ちながら空を見ている。

 今日も粉塵で舞い上がった空が太陽を覆い隠している、最近はアビドスでの気象変動もあり太陽はまだ遠いらしい。

 ミュールに載せられ、まるでカートに座る子供の様なコハルはいささか以上にちっぽけに見えた。

 特殊な帽子*6が特徴的なシャーレ航空隊や、物資を積んで走るミュールの群れの中では猶更小さく見える。

 しかしそれでも、彼女の正義はいささかも曇っていなかった。

 彼女は弱い者を、いや、誰かを助けたいと本気で心から思ったのだ。

 彼女はふと、この戦いについて考えた。

 いったい誰が駄目だったのだ? 誰が悪かったのだ? 

 

 この状況を変える力があったはずのかつてのトリニティやユスティナなのか? 

 あるいは攻撃目標の選定をろくに行わず、みせしめと懲罰に効力射を繰り広げた体制側なのか? 

 それとも民間人と自分たちの区別をつけなかったばかりか、防衛策として地雷の散布を繰り返した叛乱軍なのか? 

 

 コハルは頭を振った。

 黒と白ですまないのだ、黒とグレー、いやグレーとグレーなんだ。

 流血の責任はどちらか片方や誰かのせいには出来ないのだ。

 ただ一つの行動が全てを決めるわけじゃあないし、全てを止めるわけでもない。

 

 結局、これが戦争なのだ。

 

 降りてくるUH-34に乗り込み、疲れたコハルは機内で対地雷マニュアルを開こうとして、うつらうつらと眠りに落ちた。

 以後、彼女は何度かシャーレでの対不発弾や地雷処理の訓練を重ねた。

 正義実現委員会の小さな保護者は今も誰かの日常を守っている。

 

 

 

*1
「島流しにされてもそこが根拠地になるわけだ」

*2
こう言うのは実地でやりたいんだがなぁ

*3
「国際人道法」

*4
国際人道法の原則の一つ

*5
少し後に環境の説明の上で志願制など色々増えたらしい

*6
四角帽




感想評価お待ちしてます。評価に関しては荒らし対策にしていますのでお手間をかけてすみません。
毎度誤字脱字などの報告本当に助かっております、この場を借りて心の底からお礼申し上げます。

原作のどっちを見たり知ってます?

  • 長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
  • ブルーアーカイブだけは知ってます
  • どっちも知ってます。
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