キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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新年あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします!


見知らぬ明日

 

D.U.第二総合運動区域、トリプルブルービルへカイザーのパンデュールIIAPCが停車し、中からカイザーのオートマタ達が降車する。

ウッドランド系のデジタル迷彩がされているが、詳しいものが見ればその装備の異様さは眼を引いた。

SCAR-Hを中心とした装備構成は間違いなくSOFであり、盾も特殊ポリマーと特殊装甲で出来ている、最近開発された特殊振動装甲というものだ。

HEMMTの指揮コンテナ内でジェネラルは状況確認を始めた。

オペレーション・トレビュシェット、すなわちアリウス残党過激派への攻撃作戦はカイザーにとっては再編されたカイザーのデモンストレーションだからだ。

 

「状況は」

「現在までに制圧11。EOD4を排除」

「グーッド、その調子で行けば良いが」

 

なぜカイザーがこの様な作戦に出ているかと言うと、DU支社があるのがこの施設で、そこの倉庫には武器庫もあるのだ。

そこを襲い掛かってきたアリウスの過激派が出た、明確に意思を有して。

ヴァルキューレ警備局はただちに同地域を封鎖、公安局が包囲を始め、シャーレの展開とほぼ同時にカイザーの機動部隊が突入を開始した。

企業内保安警察権を有するカイザーは社内での作戦にあまり介入させたくなかったのもあり、このように衆人環視の中で突入が開始されている。

幸い、大半の残党は指揮系が脆くすぐに制圧できている。

 

 

 

 

シャーレ本庁、先生のデスクに報告書が載せられる。

ヴァルキューレ公安局とアリウスからの連絡書類であるが、”機密”の文字が鈍く輝いている。

ただの機密文書と呼ぶわけにはいかない、二つの書類は同じ事件が原因だからだ。

アリウス残党が急速に集団化しつつある。

 

「そもそもアリウス残党といっても三種類あるわけだ」

 

本庁会議室では臨時会議とすり合わせが始まる。

リン代行も顔を出していた、事が事だけに連邦生徒会は我関せずとはいけない。

 

「まず状況変化についていけずに山へと籠る消極主義者、なんら害は無いから情宣活動をしていくだけでいい無害な連中」

 

残党の4割を占めるグループだ、時代の変化に適応できず、自分を許すことのできない不器用な真面目な連中である。

対応策は根気強く説得して受け入れるだけである、自身を受け入れれるその日まで。

 

「正真正銘マダムの馬鹿の残党だが……これは概ね壊滅している」

 

一番の少数集団だ、逃げ出したかつての”大人”の残骸である。

生徒数が最も少なく、そして最も弱きものである。

権威を全て引きはがされて今や全てから狙われている、弱者にしかイキがれない者の哀れな末路だ。

 

「そして他責主義的な積極主義者……」

 

これが最大の問題だった。

残党の事実上過半数が積極的に外部に敵愾心を抱いたままなのだ、何故か?アホが使いこなせないのに憎悪を解き放ったからだ。

洗脳教育は確かにトリニティやゲヘナを憎悪させたが、その憎ませた本人まで憎いと膨れ上がった憎悪は、今や天上天下全てに拡大している。

ヘイトクライムなどという生易しいものじゃない、テロル、サイバープロパガンダ、偽情報、デマの拡大、破壊工作。

ありとあらゆる手段でそれは進行されてきた、シャーレ本庁への襲撃やカイザーへの襲撃、平和維持部隊への連続したテロ攻撃などなど。

自分たちなど知りもしない世界全てを憎んでいる、何もかもを憎んでいる、自分すら憎んでいる。

主義思想も無い、信念も無い、空白のはずの憎悪だけがしっかりそこにあった。

 

「本来ならばこうしたグループは細胞組織以上にならない、上部構造組織を持たない行動主義的無政府主義爆弾犯が近い形態だが、ここにきて急速に状況が変わり始めた」

 

カンナ局長が登壇し、捜査資料を写す。

ヴァルキューレ公安局は捜査組織としての専門性は本業だけあって高く評価されている。

 

「これはD.U.総合運動第二区域で発生した事件、カイザーとアリウス残党が交戦した際に偶然撮影された資料です。」

 

携帯電話の通話配信で転がり、たまたま画角に収められた映像。

そこに映っていた映像に、サオリは思わず顔を顰めた。

長い白髪、かつての自分と同じマスク、アリウスの紋章。

眼は鋭く、全体的に麗人と呼ぶべき印象があるが、どこか感情が薄い。

陰影はくっきりとしており、そのせいか酷く弱弱しく見える。

 

「カイザーによる報復作戦、いわゆるオペレーション・トレビュシェットでも検挙されていません。ヴァルキューレ公安局は恐らくこの人物が中心的指導者となったと推測しています。」

「……元アリウス、特殊作戦武力部隊か。」

 

錠前サオリは、深く息を吐いた。

……先のアリウス・スクワッド隊長。

アリウスで数少ない”3年生”、先輩。

 

「最重要指名手配として、聖山マギ氏の捜索を決定した次第です」

 

会議室に、ミカの深いため息が響いた。

 

 

冬の嵐と呼ぶべき木枯し、トリニティ校庭の景色も色を変えていく。

しばし先の文化祭がまるで遠い昔の様に感じられるが、実際はそうじゃない、事実文化祭の飾りつけの一部が付けられ始めただけだ。

見る者に”まるでペンギン”との印象を与える冬用の外套を着込んだ正義実現委員会の委員たちが歩哨しているのも、冬の光景の一部だ。

その中である意味コハルもそうした黒いペンギンたちの1匹である。

昇進により一応、デカヌス(10人長)候補、すなわち下士官への道が開けたコハルではあるが、まあ急速に変わる訳じゃない。

外套は購買の公聖社という学園の業者の官製といえるもので、私物ではないし、規格とのずれでややぶかぶかである。

無論コハル本人は部員と委員に「すぐ大きくなる!」と主張している、大半は「無いでしょ、悪いと思うけど」とも思われている。

ちなみに購買の官製を使っているのはマシロ、イチカ、ハスミなどもそうである。

元々装備制服は自弁が基本、将校自弁は高貴な者の当然とされる時代は遠いと言うが、品格や見栄は必要だというわけである。

当然、ツルギは官製を買おうとしたが、ハスミが「いやそれはダメだと思う」と止めたのである、副官は組織における母親役と言うが亭主の身だしなみに関してもそうである。

ちなみにハスミが官製なのは「官製と自弁どちらでも構わない」という意思表示に近いものである。

流石にこの冷え込んだ気温では脱衣を躊躇う浦和ハナコに安堵しつつ、コハルは補習授業部の一同と歩いていた。

 

「冷えて来て困りますねえ」

 

ハナコが言わんとしている事を理解しつつ、満足気にコハルが微笑む。

 

「さすがにあんたもこの気温じゃ脱がないのね」

「……脱ぎましょうか?」

「ミネ団長呼ぶわよ」

「あら管轄違い」

 

ハナコが楽し気に笑い、愉快気に外套を伸ばした。

自弁でも官製でもない外套は、昔ハナコに贈られたシスターフッドからのものだ。

脱衣して少しした時期に、シスターフッドから「風邪ひきますよ」と渡されたのである、純粋馬鹿一番には滅法弱いハナコにはある意味効いた。

ヒフミは自弁の外套、といってもペロロ様グッズの外套を着込んでいるし、アズサは官製の外套を着ている。

 

「しかし偉い人はなんで自弁なのかしら?」

「コハルちゃん?」

「だって自弁云々より既製品のが安くない?」

「偉いから安くない既製品じゃないのを使うんですよ、分かりやすいですからね」

 

ヒフミが肩を竦めて言った、なまじこうした権力と権威に関する問題の理解に関してヒフミは高い認識力を有している。

ナギサが眼をかけて育てた甲斐はしっかりあった。

 

「そんなもんなの?」

 

コハルは世の中随分適当なんだなと思いつつ、ふと先生の事を思い出した。

そう言えば先生のコートは随分高いらしい、ミカ様の奴も高いだろうし、ナギサ様の奴も高そうだ、セイア様のは見た事ないから分からない。

しかしけばけばしいという感想はあまり持たなかった、やはり人間の品格と言うのが出るのだろう、自分じゃ似合わないな。

コハルの認識はある意味洗練されていた。

 

「そういえば前にシャーレで会った人も高そうな自弁の奴だったわね」

「ゲヘナの方ですか?」

「いや、百鬼夜行の人が来てたんだけどね。赤い髪した人と紫の髪色の人」

「ああ、百花繚乱の」

 

ハナコがふーんと返した、百花繚乱はあまりハナコも良く知らない。

外套の袖に青い袖章を着けた生徒に関わる事は恐らく今後も無いだろう。

 

「みんな自弁した装備だったわね、紫の人とかシルクみたいな柔らかな素材してたわ」

「あそこ一応治安組織なんだろう?自弁装備それでいいのか?」

 

アズサが首を傾げた。

 

「調停が仕事らしいからね、面白い良い人だったわよ?」

「色々あるんだな」

 

アズサの呟きは、何処か希望に満ちていた。

未知を楽し気に見るアズサは、妙に末っ子的な気がある彼女は部員から妙に好かれている。

ある種トリニティ内におけるアリスと言えた。

 

「そうだヒフミ、VSメカペロロジラの新作をまた作るらしい」

「おおー、また新作が出るんですか!」

 

始まったよ……とコハルは深く息を吐いた。

部長、ペロキチじゃなかったらまだ尊敬しやすいんだけどなあ。

 

 

 

ザアアと雨が降りしきっていた。

またあの時を夢見ている、あのアリウスの灰色の空を。

今はシャーレのアリウス駐屯地になった15号庁舎、あそこから見た窓はいつも灰色であった。

2年前のアリウスもそうだった。

 

「……確実なのか?」

 

聖山マギは妹へ、真っすぐな眼をした芯の通った妹へ尋ねた。

感情の色が浮かび辛い細目がちな瞳に、生来の経験と暮らしが着けた鋭さが光る。

視線の先に居る妹は、やや傲岸な様子で足を組んで手話で言った。

 

”万事手遅れだね”

「なんともはや、嘆かわしくあるな」

 

嘲笑するような言い方でマギは言い、アリウス密造品のキノコ茶を注いだ。

彼女は当時アリウス・スクワッド初代部隊長だが、先軍政治のアリウスに置いてまともな物品は殆どない。

妹はそれに耐えられなかった、マダムの”まがい物の帝國”に。

真実なし、正気も無し、ならば願うはぎらつく孤独。

 

”敗因は分かる?”

 

マギは軽く笑い、テストの点数を告げるように言った。

 

「機を逃した、人を多く関わらせ過ぎた」

”せーかい。お姉ちゃんがインテリだと助かるよ”

 

妹は手話でそう告げると、くすりと笑った。

アリウスでの叛乱謀議、第六軍団事件は事実上始まる前から終わっていた、終幕が近づいていた。

首謀者グループの一人は、いま目の前の妹である。

これによりアリウスから”3年生”が殆ど消えてしまい、後々のエデン条約で中堅将校不足が引き起こされた。

無論2年先どころか明日も分からないアリウス生徒にとって、そのような事想像も出来やしない未来だ。

マギにしても明日の事も想像しなくなって久しい、今日を生き残れるか分からないから明日が消えてしまった。

沈む夕焼けを見て綺麗だなと思えるのは、明日も生きれる保証がある人間の台詞だ、そんなもんここには無い。

アリウス生徒(コンバット・モルモット)に明日も未来もあるものか。

 

「で、どうする?」

 

マギは尋ねた、言外に逃げろと言った。

彼女の妹はやはり姉譲りの賢さがあった、それは理解したが、人差し指をマギへ向けた。

 

「私か」

”告発しなよ、私を”

「ふむ」

 

マギは自身のデザートイーグルを、机の上に滑らせた。

その気は無いと告げたのだ。

マギの、姉の意思を理解した彼女は胸ポケットから袋を取り出した。

黒いカプセルが何かは理解していた、キヴォトスの住民だろうと毒物を煽れば死ねるのだ。

 

”バカな間抜けが自己満足でやる色彩の実験体になんかされたくないね”

「そう。なら言うべきことは何もない。」

”そういう事なんだよ”

「”またな”」

 

手話でそう告げると、彼女は部屋を出た。

保衛指導員へ通じる電話をかける、名前も知らない大人は、マダムの手の者が来るまで何もするなと言い、そこで待っててくれと告げた。

受話器を戻そうと心に決めた時、部屋の中から悲鳴に近い声がした。

 

「自由なアリウス万歳!」

 

銃声と、倒れる音と、全てが終わった事が告げられた。

マギは静かに「……自決しました」と告げ、全てを終わらせてやると心に決めた。

空っぽの憎悪に中身が注がれた。

 

 

 

翌日の登校で、アズサは何か違和感を感じた。

やがて違和感を理解した、ヒフミが居ない。

あれでもヒフミはペロロ関連と風邪でもない限りバックレはしない、前者に関連したバックレが多いが逆にそれ以外は絶対に無いのだ。

自分の知る限りペロロイベントは無かった、無論ヒフミは耳ざといから何か別のイベントかもしれない。

しかし朝に送った確認のモモトークにいつまでも返事が来ない、既読もつかぬ、携帯を忘れているのかも知れないが、にしては異常だ。

 

「あれ?ヒフミさんは居ないのですか?」

 

補習授業部に顔を出してきたアイリが来て、なおさら疑問は拡大した。

話によれば今日の放課後、スイーツのおまけのペロログッズを渡しに来ると決めていたらしい。

おかしい、ヒフミならその計画に間に合うようにしているはずだ。

アズサはコハルから事件関連の話も無いと確かめ、となれば別案とナギサへ聞き込みをかけてみた。

しかしながらナギサも「昼から予定がある筈なのですが居ないんですよ」と困り顔で相談され、遂に万策尽きたアズサは先生へ聞いてみた。

 

「というわけで先生、ヒフミが行方不明なんだ」

『参ったな……』

 

相手の声の様子から、アズサは事態がただ単なる生徒の行方不明だけでないと理解した。

それと同時に、爆発音と黒煙が立ち上るのが見えた。

 

 

 

 

妹の告発、肉親より忠誠をとった事は聖山マギの何か人格を大きく歪めてしまったかもしれなかった。

少なくとも、彼女の中でふつふつと煮だったナニカが目覚めていた。

2年になるころにはサオリ達の指導に移り、スクワッドから離れて偵察総局へ移っていたが、むしろ現場から離れて彼女は猶更ナニカを湧き上がらせていた。

アツコに手話を教えたのも、サオリにある程度の指揮円滑化を教えたのも、何かを鎮める為だったが鎮まる事は無かった。

やがてアズサが来て、全てに名前が付き始めた。

 

殺意と憎悪。

 

あの大人を心底殺してやると決意した、マダムのまがい物の帝國を。

教義を歪める大人を真実殺したいと思いながら、二重思考で覆い隠した。

その計画に現実的可能性が出始めたのは、皮肉にもミカのある種浅慮な思い付きが原因だった。

 

「トリニティを変える?」

「うん、アリウスとの和解で」

 

今にして思えばどこまでその気か分からないが、あの時は真実その気だったんだろう。

彼女は名前を見た時、事実驚いていた。

知る訳が無かった、実は聖山家はミカの家から一字貰って出来た家であり、公会議で追放されたなどと言うことなど。

そして、恐らくそれが、追放されてなければ自身はパテル分派騎士長官、つまりレガタスに対するマギステル・エクィトゥムであるなど。

分かり易く現代語訳するならば、パテル派機動任務群司令官とでも言うべきだろうか。

つまるところバリバリの武闘派の中での軍務・作戦用務の総元締めだ、ヤクザなら未来への組長一直線。

 

「なるほどねえ、シスターフッドやユスティナがアリウス追放を語りたがらないわけだ。」

 

ミカは呆れた様な顔をしていた。

なんでも昔ご先祖がユスティナに食って掛かったらしい。

曰く「神の名の下いたずらに権力を私するに飽き足らず金品を集め免罪符なるサクラメントに対する冒涜」を批判した、貴族(パトリキ)神官(フラミネス)ではない第三身分、すなわち平民(プレブス)を省みていないと。

公会議では勝利したと言えるユスティナではあったが武力組織に大きく恨まれた辺りがケチのツキはじめであった、のちのちユスティナで上層部批判を始めた学生グループの抗議に呑まれてシスターフッド成立が起こる事になった。

 

「でもこれならみんな納得しやすいよね」

 

サオリとアズサの計画を黙認し、通したのはどのような理由からであったかよく分からなかった。

やがて計画が進み、止せばいいのにサオリが馬鹿真面目にマダムに報告したが、サオリが”なんとなく嘘をついて”騙されたおかげで計画は進んだ。

セイア暗殺の進展も、パテルのクーデターの共謀も、地下トンネルからの侵攻計画も。

ナニカを覆い隠すように完璧な姿であろうとした、なにかに復讐するように。

 

 

 

ヒフミが拉致されたと判明したのは事件から10時間後、深夜のコンビニから戻る途中であったと推測された。

実行犯の特定はその後すぐに分かった、たまたま日雇い傭兵の二人が車両を乗り換えるグループを見ていたのだ。

そこからは特定はスムーズに進んでいたが、事態はそれどころじゃなくなった、シャーレにしてもヴァルキューレにしても別の問題が出てきたのだ。

手始めにDU地下鉄に「プロモーション」として、わざと信管が繋がれていない爆薬が通報されたのだ。

公然作戦どころか事態が一気にややこしくなり始めた、そうなってはまず交通室に話を通して全検査をしなくてはいけなくなる。

続けてキヴォトス・ハイウェイ各所で”パンク事故”が相次いだ。

交通インフラは混乱をきたし、モモカはポテチを投げ捨てて仕事に向かうしかなくなり、リン代行は事件対応を依頼する。

むろん明らかな擾乱攻撃だ、ゲリラ戦だ。

 

「つまり、シャーレの支援はあてにできない?」

「参ったな」

 

ハナコが深く考え込む、秀才にもどうしようもない事がある。

コハルは規則違反覚悟で捜査情報を共有した。

 

「交通情報などからヒフミがいるのはここ、使われてないトリニティ郊外のブラックマーケット駐車場センター」

「敵性勢力は大半が関係ない連中だな」

「うん、最近は七囚人の一人が活動的に出てきたせいでヘルメット団と抗争してるからね」

 

コハルはアズサの問いに頷いた。

改装された立体型の駐車場はビルに近いが、内装は変わっているだろう。

確認されているのはアリウス残党が40人近く、殆どが将校や下士官だった。

セイアが金で頬叩いて情報提供させた情報屋によると、数日前から物件に住み始めたらしい。

火器に関しては詳細は不明。

 

「つまるところ殆ど分からない上に、相手はプロと」

 

コハルがため息をついた、勝てる相手かどうかは理解している。

無論認めたくはない。

だがイチカ先輩どころかツルギ委員長が必要な相手だ、最近正義実現委員会も元パテルから特殊部隊を編成し始めたが、話によれば相手は元スクワッド。

ゲヘナやトリニティの戦法は百も承知に違いあるまい。

なにせカイザーがSOFまで投入した撃滅作戦、トレビュシェットで逃げ延びているのであるし、幸運であるとしても人並み以上だ。

何よりタチ悪いのは、アズサの戦法すらサオリの戦い方すら理解している。

 

「元アリウス・スクワッド隊長、あのサオリさんの前任なのよね。」

 

コハルは考えながら尋ねた。

 

「何か弱点とか聞いてたり」

「無いな、アリウスで3年生まで生きているのは伊達じゃない」

「……よねえ」

「それに特級戦士記録まであったから、単純に優秀だったんだ」

 

アズサは端的に昔の彼女の話を語った。

そもそもサオリを改造ベオウルフ、つまり50口径カスタムにさせたのは彼女が装備品を調達したからだ。

射撃成績が優秀だったのと体格が良いから反動を抑え込めれると薦めた、アズサの5.56FMJ強装弾も彼女が原因である、反動を綺麗に制御していたのだ。

ハナコが少し、口を開いた。

 

 

アビドス学園某所、ホシノとアヤネは来客の話をある程度理解した。

 

「なるほどねえ」

 

ホシノは話と要請にある程度同意すると、アズサへ尋ねた。

 

「武器と装備の予備は?」

「あてはある」

「そう、あんまり役に立たないかもだけど、まあやるよ。」

 

責任逃れではなく、真面目な意見である。

恐らく切れ者の特殊作戦将校ならアビドスのツラくらい知ってるだろう、奇襲的効果は薄い。

だが、シロコとセリカは何かを閃いた様だった。

 

 

正義実現委員の警戒線が敷かれた目標地域、表向き不審車両への警戒検問が地域を塞いでいた。

無論いくらでも抜け道は存在している、怠慢と言うよりはツルギ達に出来る最大限の圧力だ。

当然だがアズサと、ハナコやコハルにとっては簡単に抜けれた。

 

「で、策は具体的にどうするんだ?」

「それはですね」

 

ハナコはにこりと笑って、コハルのとは違う手投げ弾を取り出した。

アズサとコハルが目を見開く。

 

「オイまさか」

「計画犯の最大の敵は?無関係な混乱ですよ」

 

彼女はそう言うとピンを抜いた。

 

「2ではなく、4ではなく、まして5などもってのほか」

 

投げた手りゅう弾は、予定通りスケ番のたまり場のカフェの窓をぶち破った。

爆発が起き、続けてシロコとセリカが『予定通り』と知らせた。

彼女たちもヘルメット団の溜まり場を爆破したようだ、これでブラックマーケットは抗争状態だ。

そうなるとどうなる?当然暴動状態だ。

”つまり出るに出れなくなった”。

 

「さて問題です、キヴォトスでは最近子供が元気に大騒ぎしてるとガミガミ怒る大人がいますよね?」

「おいまさか!」

「これでシャーレは介入するしかなくなりました」

 

ハナコが満面の笑みを浮かべた。

偶には私が振り回す側で居たいのだ。

 

「では可及的速やかに、我々の戦争を終わらせましょう」

 

 

 

 

外の騒乱状態に気づいたとき、出たのは思わず笑い声であった。

なるほど、ゲリラは魚だ、水槽を揺らして水から叩き出すという訳か。

誰かは知らないが、面白い。

マギはにこやかに、木箱からそれを取り出した。

完璧な白無垢の、アリウスの制服。

自分の幕引きが、もうすぐ迫っている。

自身のM14に彼女は静かに口づけをした。

 

 

 

アズサが裏側から爆破、突入を開始する。

アズサのM4は普段のコンバットグリップではなく、別の物がついていた。

 

「来たぞ!」

 

爆焔に紛れて突入したアズサは、叫び声をあげつつ応射してきた相手を確認する。

彼女ではない、即座にスズミから融通してもらった閃光弾を投擲、同時に射撃する。

三点バーストで射撃された強装薬のフルメタルジャケットは、相手の防弾マスクを叩き割った。

 

「敵襲!侵入されてるぞ!」

 

小部屋らしいバラックの影から出てきたアリウス残党生徒へ、アズサは即座にアンダーバレルショットガンを使う。

40㎜擲弾が有名な小銃との複合装備だが、散弾銃型もある。

さらにただの散弾ではなく、ホシノが融通したフラグ型、つまり榴弾型であった。

装填されたアンダーバレルショットガンを打ち切り、マガジンを交換する。

撃たれたアリウス残党の生徒は大半が嘔吐しながら倒れていた、腹部へ横なぎする様に撃てばそうもなる。

 

「背教者だ!」

 

続いての通路でアズサに銃撃が加えられるが、撃たれる瞬間に地面を滑る様にスライディングし、点射を頭へ撃ち込む。

アリウス・スクワッドは生半な所ではない。

真夏日の中で汗もろくにかかないアズサの顔に汗が浮かんでいた、忌むべき洗脳教育と経験の中にあるもの、命を粗末にして得られる生の充足。

生きるために生きるということでは絶対に分からない事だ。

 

 

 

聖山マギは静かに、ヒフミを閉じ込めているバラックを開けた。

あまり良い空間ではなかったが、粗末に扱われているというものではない空間、聖山マギは囚人管理に関して粗略に扱うべきではないと感じている。

ヒフミはやや怯えた様にしているが、近づいてくる銃声のデシベルが上がるたびに元気を取り戻しつつあった。

 

「着替えておけ、お迎えが近いらしい」

 

ヒフミは言われた通りにはしたが、分からない事があった。

 

「貴女はなぜそんなに嬉しそうなのですか」

 

マギはふと立ち止まり、告げた。

 

「彼女が彼女であることを見せれるからかね」

「なんですって」

 

ヒフミには理解できなかった。

 

「ヒフミさん、あんたそうだな、理想の兵隊というのがどういう風に見えるか分かるか?」

 

ヒフミが「……つよいこと?」と首を傾げた、マギは知性がある瞳をしているが故に不必要な暴力を嫌うから、返答は素直であった。

マギはまるで子供に昔話をするような温和な声で答える、静かで力があるが気品があった。

 

「いや、それは違う。観念的というより印象論だな……。有能さと知性と勇気を揃えた兵隊とはどういう風に見えるかと言う話だ」

「……”悪魔”」

 

ヒフミは言った。

かつてアズサが、エデン条約に際して飛び出そうとした時に彼女はそういう目をしていた。

そう、敵対者にとっての悪魔。

あの大人が敵対者にそうである様に。

 

「そうだ、悪魔だ。我々は結局のところ、悪魔(ひとごろしのへいたい)さ」

 

扉が爆破された。

 

 

 

爆破と同時にアズサが一気に飛びかかった。

コンバットナイフは既に抜かれている、頸部へ真っすぐアズサが突き進む。

しかしマギは少し横に逸れて、突撃を横へ流すと同時に腹部へ蹴りを叩き込んだ。

打ち上げるように蹴りをいれ、マギは更に自身のM14をアズサの喉へ叩きつける。

 

「なってないぞアズサ、それじゃ駄目だ、忘れたか?」

 

マギはにこやかに装填した。

アズサは即座に起き上がり、アンダーバレルショットガンを使うが、マギがM14を射撃し銃口を逸らす。

 

「そうじゃないだろ?」

 

マギは続けて射撃するが、アズサはすぐに左へ転がり込んだ。

前の持ち主が運んでいたソファーはたちまちに穴だらけになる。

続けてアズサはM4を射撃するが、ブラインドファイアは読みやすい。

だがもう一つ、ソファーから飛び出してきた。

 

「正解!」

 

閃光弾がきらめきを発するが、すぐに腕で覆う。

しかしながらアズサの突入は、出迎えるようにホルスターから抜かれたデザートイーグルが撃ち落とす。

 

「今のは惜しかった、営庭(えいてい)ならな」

 

ヒフミは一瞬、この二人の戦いが信じられなかった。

2人とも心底楽しそうに見えたのだ、まるで悪魔の様に。

 

「ほら、楽しくやろうじゃないか?OGと現役の対決だ」

「あ、あなたは何故ここまでアズサちゃんを付け狙うんです?」

「……?」

 

聖山マギが、理解できないものを見る様な眼をした。

 

「彼女は其処に居て、私は此処にいるだろう?」

「そ、それだけですか?」

「それだけだ、あまり付け上がるな地方人(シビリアン)が!私はそこにいて奴はそこにいる!それだけだ!それだけでなくちゃいかんのだ!」

 

怒声がヒフミの耳朶を打ち付け、深くため息を吐くと、聖山マギは信じられない様なものを見る顔をした。

驚嘆が目に浮かび出ている、言い表せぬ何かを見たような顔だ。

 

「いいか、お前がどう思っていようと戦場に前線銃後に関係は無いんだ、分からないか?塹壕とお前らの住む町、本質的に全て同じなんだよ。」

 

やがて声が諭すような、知性ある気品豊かな声へ変わる。

まるでシスターフッドの説諭がごとく、主の栄光と遍く慈悲を語る牧師が如く。

 

「本当に分からないのか?本当に?戦場の泥のあるなしがその実、前線と銃後の唯一の違いでしかない事が」

「……だとしても」

「なにかな?」

「”この戦場は私のでもないし、アズサちゃんのでも無いし、貴女のでもない!”」

 

聖山マギは嬉し気に、真実嬉し気に満面の笑みを見せた。

 

「素晴らしい!なんとも素晴らしい、お前はいま自分の意思で戦場に立った!」

 

聖山マギはM14を構える。

戦争には相手が必要なのだ、そうだ、影法師ではなく、見せかけの憎悪でもなく。

まがい物の帝國を終わらせるには誰かが必要なのだ。

彼女だ、やはり見込みは正しかった、彼女こそが全てを終わらせるべきものだ。

 

「ヒフミ!来い!」

「二人纏めては悪手だろうに」

≪ビックリするのはこれから≫

 

ハナコの声が響いた。

同時に、建物が大きく揺れる。

 

「あ、アズサお前まさか」

「そうだ!ビルごとやってしまおうと決めた」

 

聖山マギは、大きく笑いながら告げた。

 

「”満点”」

 

濛々とコンクリートの灰色の煙が噴きあがり、マンホールが噴きとんだ。

横転したビルに、シャーレのブラックホークが近づきつつある。

瓦礫の中から顔を出したアズサとヒフミをシロコが確保し、コハルとハナコが近くに駐機していた雨雲号へ搬送する。

 

「間一髪だったねえ」

 

ホシノが「あーあ装備ぐちゃぐちゃじゃん」と呆れた顔をしながら、笑いながらアズサを寝かせる。

セリカがアヤネの応急処置キットを使い対応しながら、コハルはタオルで顔を拭った。

慣れない爆薬配置などするものではないし、導火線や信管の扱いも不安でしょうがなかった。

しかし時間稼ぎにアズサが大暴れしたおかげで何とかなったのだ。

 

「いやあ、みんな無理しすぎると良くないよ、本当に」

「誰かその自分は関係ないツラしてるアホ蹴り落とせ」

「酷い後輩だあ」

 

雨雲号は勝利を携えて帰還の途へついた。

白洲アズサの戦争は、確かに終わったのだ。

 

 

 

聖山マギは血を吐きながら、瓦礫の中から立ち上がった。

爆発と地盤沈下、安請け合いに老朽化と施工計画杜撰は彼女を暗渠へ沈めて流し、生還させた。

存在すら忘れられていた暗渠を出て、頭を搔きつつ辺りを見回す。

装具が揺れる音、足音、ブーツの規則的な足音が聞こえる。

NIJレベル3以上規格*1のプロテック・タクティカル社製のパーソナル・バリスティック・シールドを構えたヴァルキューレ警備局特殊犯罪対応部隊(KSPD・SWAT)だ。

隊列を崩さず3列横隊、集団戦法による”衝撃と畏怖”を金科玉条としたヴァルキューレ警察学校らしい隊列だが、以前と装備が違う。

SBR Tactical、300ブラックアウトを使う特殊部隊、マギは笑い声をあげた。

 

「瀕死のアリウススクワッドOGがそんな恐ろしいか?」

『GO』

 

盾を構えた前列がしゃがみ、M1014とSBR Tacticalが唸りを上げ、咄嗟にマギが左腕で顔をカバーする。

銃声とともにマギが倒れるが、右腕が何かをふわりと跳ね上げた。

9バンガ―が炸裂し、ヴァルキューレの隊列が乱れる瞬間を見逃さずマギが走る。

隊列が崩れた中へ飛び込んで射撃を出来なくさせた瞬間、マギは奇妙な笑みを浮かべた、愉しいのだ。

隊列二番目の隊員のM1014を掴んで銃のベルトで首を絞めながら、捻る様にM1014を借用する、これで更に相手は撃てない。

 

「シールド前へ!」

「陣形再編じゃなくていいのか?」

 

二発の銃声が轟き忽ちに二人の隊員が足を撃たれて転倒、続いて転がったSBR Tacticalを掴んで分隊長の顔面へ突き刺す。

PASGTの防護バイザーを貫いたストックが分隊長へめり込み、続けざまに締め落とされた隊員の膝のホルスターから拳銃を抜いて隊員をシールド代わりに突き進む。

続けざまに更に隊員が首元を撃たれて姿勢を崩し、いらんと盾にした隊員からフラッシュバンを奪うと首を撃たれよろけた隊員を掴む。

 

「え、待って止めてとめて!」

 

バラクラバを引きずり下ろして無理矢理口を開けさせたマギはにこやかに「耳が遠いんだ」と告げ、口へフラッシュバンを押し込んだ。

ピンを引き抜くと同時にヘルメットの防護バイザーを下ろし、マガジンを掴んで奪うと真横の拳銃を抜いて撃とうとした隊員へ突き刺した。

行ってらっしゃいと蹴り飛ばして正面の分隊の残りへ人間閃光弾を送り付け、再編途上の隊列が更に乱れる。

しかしシャーレによる訓練改善がただちにツーマンセルでの即時対応へ移らせる、怯むことなく4人が盾を構えなおし、後列隊員がMk18を射撃する。

 

「止まるな、いっけえッ!」

「良い判断だ」

 

盾を構えた前衛隊員3人が一気に走り突撃をぶちかます。

盾の面制圧を最大に活かした単純な平押しだ、しかし平押しは適切なタイミングで最大火力になる。

マギにとっても今これが一番困る、体調最悪の負傷状態では面制圧突撃は受け止めきれない。

 

「だから受け止めない」

「へ?」

 

マギが前列中央の隊員のブーツを撃ち抜くと同時に蹴り飛ばし、頭を掴んで顔面へ膝を蹴り入れた。

ヘルメットの防護バイザーが圧壊し、右手に握られていたMP7がばら撒かれる。

続いて振り向きざまにM1911を抜いた左の隊員の右腕を掴んで振り上げ、奪うと同時にランヤードで隊員の首へ巻きつく。

そのまままるでバレエの様にくるんと旋回し、後列隊員の射撃からの盾に変える。

しかし、マギが突如盾の隊員を離し、蹴り飛ばした。

数コンマしない内にドン!と20㎜弾が数コンマ前までマギの居た場所を貫く。

 

「おお、ヒヨリ上手くなったなあ」

「な、なんで分かるんですかね……」

 

視線はしっかり陣地変換するヒヨリを捉えている。

となると、次は。

マギはばっとコートを脱ぎ棄てて後ろへ飛ばし、それを隠れ蓑にして後ろへ射撃を撃ち込む。

やはり彼女は撃ち返してきた、サオリだ。

 

「お前か」

 

それと同時にUH-60からシャーレの空中機動部隊が降下し、封鎖線を作り上げる。

ただのシャーレ隊員ではない、MICHではなくProTECヘルメットにフルフェイス防護バイザーの重装型である。

身体を覆う装備品もアラミド繊維と鋼鉄プレートの複合型だ。

マギは「ほお」と真剣な顔つきで呟いた、ベテランレンジャー級のシャーレ精鋭隊員まで出て来た、サオリも来た、となると。

 

「居るんだろ先生さん?」

「御名答」

 

ニッと笑って、あの男がサングラスを着けた。

もろに身を乗り出して危険に身を晒す意図は?釣りだし、または行動目的予測だ。

となるとアイツの狙いは、自分を囮にした目くらまし!

マギは即座に手近な武器を掴んで廃屋へ飛び込む。

シャーレ隊員が6名正面を固め、ミサキがM3カールグスタフを構える。

爆轟と衝撃波が響き、マギは対ショック姿勢で何とか柱に隠れて耐える。

知っていたが滅茶苦茶な大人だ、自分の命を賭けのコインにするのを躊躇しない、それでいて打算の筋道は完璧だ。

 

「March!」

 

シャーレ隊員が突入を始め、1班は右へ2班が左へ構えながら進む。

連中クレバーな攻撃をする、一人相手だから位置を割る為に多少損害が出ようが完全に許容してやがる。

何と言っても素晴らしいのは前衛の隊員が全く恐れていない点だ、後に勝利が続けばすべてが引っ込むと理解している、満点だ。

当然だが対応する、ついに本命が来たのだ、そうだ、私を倒すのはアズサで、終わらせるのはお前だ!あのアリウスを全部背負って這いずり回って救って見せろ!

 

「会敵!」

 

前衛1班が会敵しマギが奪ったM1014で3人倒すが、まるで怯んでいない。

M249を構えたLMGガンナーが射撃しながら前進するが、前衛の一人を盾にしても射撃に躊躇がない。

完全に戦闘で個体を群体に変えて巨大な個体へ再形成している、自身の背嚢に黄金の翼があると信じている。

それでいい、そうでなくてはならない。

だが何か攻め口が違う。

 

「あ、しくじったな」

 

マギは横の壁を見た。

即座に、壁は煌めいた。

壁に貼り付けられたC4爆薬6キロ同時点火、これが狙いか。

最初にサオリをぶつけ、先生を見せてブラフを狙い、続けてあたかもCQBによる制圧に見せかける。

地面へ叩きつけられ、跳ねて壁にぶつかるまでに浮かんだ感想は、ただ一言だった。

 

「楽しかったか?」

「楽しかったなぁ……」

「そうか。」

 

先生は最後に、何かを言うべきか考えたが、そのまま何も言わない事にした。

マギは最後の力を振り絞ってM1911を握ろうとしたが、握るのをやめ、幸せそうな笑顔をしていたからだった。

彼女の悪夢は終わったのだ、悪い夢はおしまい、誰も彼もにとって明確に終焉だ。

ようやくみんなが「終わった」と言える。

 

「あー肝が冷えた……」

「よおスズ、ご苦労」

「もう爆薬戦法とか嫌ですからね、頼みますから」

 

げっそりと嫌な顔をしたスズが呟き、サオリが「お疲れ様」と告げていた。

アリウススクワッドOG、そいつを捉えるために使った戦法は「出血上等の集団戦法と面制圧」だ。

やった事自体はマムルーク相手と変わらない、集団戦闘の中で個人芸を封じ込める、そのために包囲部隊にA分隊まで連れて来た。

ヴァルキューレ警備局が功に逸って特殊部隊1個小隊が壊滅したが、代わりに時間を稼いでくれた、*2稼いでくれたから後で「時間稼ぎご苦労」と命令者に感状を送り付けてやる。

 

「被疑者確保、現在までの損害は気絶36、負傷22。」

「随分食われたねえ」

 

数字にすると泣きたくなる、一人に此処までされるとは。

ヴァルキューレ警備局特殊部隊28名気絶、シャーレ精鋭隊員も8名気絶だ。

単騎駆けでここまで出来ると考えてなかったのは責められない、まあ独断専行は許さないが。

ここまでうちの隊員へ大暴れしたのはホシノ以外じゃアイツがラストであってほしい、無論キヴォトスじゃそうもいかないだろうが。

 

 

 

事件は完全に終了した、誰にとっても分かりやすい敗北、自分たちで戦って得た結果の敗北。

ようやく空虚な憎悪は、敗戦という炎に吹き飛ばされた。

明確な指導者、組織の喪失、その結果と実感のある敗北。

アリウス・レムナントはこれにより事実上その活動を終了し、数日後、正式解散が確認された。

 

「────以上の法的資料と証拠から、当法廷は、被告聖山マギを矯正局懲役6か月、社会奉仕時間2000時間とする」

 

聖山マギに下った判決はある種異色のものであった。

多数の戦犯リストの処分阻止、作戦活動に関するあれこれが彼女の刑をややこしくさせた。

この結末に少し彼女は意外そうにした。

少なくとも同じ部屋の……よく知らないピンク髪の執筆が趣味のアホも意外である。

もっとも、一番意外な事は先生が来た事だが。

 

「何か用でしょうか」

「ん、まあなんだ。お前の昔の友人からの伝言だな。」

「なにか?」

 

憑き物が取れたような、優し気な知性ある微笑みをした。

 

「”今度はぶち壊しにしないように”だとさ、この意味分かるか?」

「なるほど、アズサらしい」

 

今度は、か。

そうだ、今度があるのだ。

もう今度があるのだ。

 

「次は、もう少しうまくやるさ……」

「頼むから俺を巻き込まんでくれよ、肝が冷える」

「白々しい嘘をつく大人ですねえ、あんた命を粗末にして命の大切さを知る類でしょうが」

「おーおめえ正論を剥き身で言うんじゃねえぞ、おめえ」

 

マギはふふと笑い、言った。

 

「DUのある貸金庫に私の名義でファイルがある、あんたの探してる残りの戦犯リストの所在だ。あんたが狩ればいい」

「なんだ、良いのか?」

「ああ、先生、あんたが勝ったんだ、勝者には常に景品が付く、だろう?」

 

なるほどと言い、彼は椅子から立ち上がった。

 

「それとこれは俺から言い忘れていたことだ。」

「なんだい?」

 

彼はそっとグラサンをずらし、笑って告げた。

 

「終戦おめでとう」

 

彼女の、見知らぬ明日が始まった。

 

 

*1
高火力ライフル弾以上対応

*2
お陰で包囲から逃げられる危険があった




誤字脱字報告ありがとうございます。
感想評価お待ちしてます。

原作のどっちを見たり知ってます?

  • 長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
  • ブルーアーカイブだけは知ってます
  • どっちも知ってます。
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