キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
ゲヘナ地域郊外、黒凪駅地域演習場の道路をM113が列をなして進む。
M81改良の都市迷彩からTパターン都市迷彩に変わり出したシャーレの戦闘服を着けた隊員達が左右を警戒している。
「久しぶりに来た戦場が出し物とはな」
「向こうは、こっちが勝っても負けてもあまり損しませんからね」
「風紀委員も大変だな」
しかしパーティの前に演習とは……指揮官に俺をご指名と来た。アコの奴、売り言葉に買い言葉の勢いで了承しやがったし。
地形は丘陵地帯が中心部にあるが、村落の廃墟や森林も多いと来たもんだ。
普通なら嫌そうな顔をしながら「機動して分断して包囲しちまえばいいのに」とか言い出すスズがやたらやる気だ、向こうさん何か怒らせたようだな。
中隊指揮官やサオリなどのアリウス系士官まで集めてブリーフィングをしている、まだ俺は色々決めかねてるがお構いなしだ。
「先生ご報告が」
「どうした?2個大隊でも臨時で増えたか?」
「重戦車中隊を含む部隊が居ます、恐らくパンツァーレーア」
「それって、あれか?虎丸と同じの奴を有する」
「ティーガーとパンターが確認されてます、文字通り虎の子ですね」
ふむ、こちらの主力のAFVが連装60と分かって出してくるか……どういうマジックで貸してもらったんだ?
あのパンツァーレーア、確か所属はパンデモニウムのアホどもに指揮権があるはずだが……。
向こうとしての王道は、装甲擲弾兵と重戦車、そしてヒナでこちらの戦線を真正面からたたき割るつもりなのだろう。それを行うタイミングを如何に読むかと言われるんだろうが、主導権は常にこちらが持つ、手は2,3ある。
不安要素は予報にもあった雨だが、幸いこちらには不整地で足が動けなくなる戦車は居ねえ。
「こういう時にチーフテンが欲しいんだよな」
「あてになる随伴に砲兵支援が付きゃ、言う事ねぇからなあ……」
オレンジをかじりながら隊員たちが会話しているのが聞こえる。
贅沢な願いではあるがしょうがないのだ、ユウカにも押し通すのが難しい事がある。
「しかし皮肉だな、ヒナの為にヒナに勝たないといけないとは」
「はぁ?」
「大人の独り言だ、気にすんな」
1人に色々背負わせ過ぎだ、俺みたいに好きでやってるのとは違う、義務感などで背負うと潰れるものだ。
俺の場合は背負ってなお楽しく人生過ごす腹つもりで生きてきたが、真面目に過ぎるのだあいつらは。
どこも今の3年が卒業したらどうすんだ?3年共は基本責任感が育って、背負おうとして自家中毒に近くなる。
この年齢で普通は背負うものではない、6年位は早いぞ。
情報参謀と作戦参謀の報告が入り、おおまかな地形図が作成できた、基本的に地理データだ。
これを早く完成させてくれるとありがたい、頭に叩き込む時間が必要だからな。
「よし、事前命令を発令する。」
演習が開始された。
今次演習は大規模演習だと言えた。
ゲヘナだけで装甲擲弾兵に重戦車中隊などの装甲部隊--しかもレーアだ!--を含んでおり、直掩になんと回転翼機隊(Bo105)や砲兵まで含んでいる。
こうしたカンプグルッペは質実共に最精鋭であり、彼女らはエデン条約の戦いや色彩戦も経験しているため風紀委員会が出せる最高の部隊と言えた。
G36KやG36C、パンツァーファウスト44やMG3等を有し、マルダー1などを有している点からも別格と言うべきだろう。
正確にはG11やマルダーⅡを有するパンデモニウムの精鋭も居るが、彼女らは雷帝の遺産排除作戦などが専門で、マコトかヒナにしか従わない政治的特殊部隊だ。
対するシャーレの部隊もかなりのものであった。
基本的にスズ戦闘団を基幹に増強編成されたこの部隊は見かけはあまり変わらなかったが、アコやユウカには異常が勘づかれた。
兵站部隊が倍増し、砲兵は通常の基準配給の2倍を配給されている上に、アビドスからヘリまで連れてきていた。
無論参謀として天才的なアコにはすぐに意図が読めた、装甲戦力の不足を火力で圧倒して抑えると言うのは古典的な正論であるし、おかしくない。
しかしスズにはアコには知られていない理由があった、大規模学園交流会ならばいつもより撃ちまくってもユウカが怒らないのだ。
そして煽ってくれたあの奇抜なファションの奴に「ぱぁぁぁ!!」なり「ひぃん」なり言わせてやるつもりだ。
演習のもっとも最初はアコが動いた。
先遣の中隊が高地、つまり丘陵地帯の228高地を占領した。
不気味なまでにシャーレの動きは静かで、シャーレの主抵抗線はもう少し奥の駅舎などがある黒凪駅近隣と推察された。
あの大人が守りに?と誰もが訝しんだ、アコもヒナも罠だと感じた。
しかし敵性勢力は排除しておこう、少なくとも駅近隣の112高地は抑えねばなるまい。
索敵攻撃が始まる事になり、地図では寝そべって背を伸ばす猫のような進出図が描かれていた。
もし敵がこの猫の腹を蹴り飛ばしたら大きな騒動になるだろう、だが相手に機動兵力は乏しい、予報の雨が降る前に高地を取りたいが……。
アコはそう思いながらコーヒーカップを手に取った。
遠くから砲声が聞こえる、こちらの榴弾砲だ、攻撃が開始された。
砲兵射撃が開始され、交戦が始まり出した。
と言っても高地へのめくら撃ちである。地響きは凄いが火力集中としてはやや不適当だが、攻撃準備射撃なんぞそんなものだ。
塹壕が2Mは有れば、そして丁寧に折れ曲がる様に作ればさほど怖い相手じゃ無い、無論衝撃波と直撃の恐怖に耐えれるならだが。
前進してきたのは擲弾兵の先遣部隊、斜面を進もうとした先遣は容易く迫撃砲と50口径により突撃が破砕された。
とはいえさほど驚かれなかった、前衛が主抵抗線と遭遇したのならそうもなろうというものであるし、先遣部隊にはよくあることだ。
装甲擲弾兵大隊が到着し、再び攻撃が始まった。
「準備砲撃の嵐だ、いやになる」
準備砲撃の弾幕にぼやくスズではあるが、分析自体はしている。
まず先遣部隊であまり陣地を探れていない事、こちらの火力や総数を掴めていない事。
火点を狙って撃ってるなら手ぬるい!狙えてないのだ、だらだらと撃ってるのも火力集中目標が無いからだ。
それに火力を後方に延伸させていないのは観測の不足だろうか?
「そろそろ戦車と歩兵が来る、全中隊用意!」
前線から60式自走無反動砲や迫撃砲の射撃音が響きだした。
各中隊単位に配備されている連装60はシャーレ隊員の相棒である。
ある時は怪獣、怪物と戦うこの車両が中隊火力を支えていた。
「戦車警報!」
観測手が叫ぶ。
すこし震える手で双眼鏡を構えた。
横隊を組んだパンターや4号戦車H型が近づく、レーアじゃないらしい。
双眼鏡に映る隊列を見ながらまだ、まだと待つ。
基準点を超えた、今だ。
「目標戦車、徹甲、撃て!」
スポットライフルの代わりに付いたレーザーレンジファインダーから、測距されたデータを基に射撃が始まる。
後方の砲兵からも援護が始まった、瞬く間に弾幕射撃が押し寄せる。
砲兵射撃は押し寄せる戦車、その後ろの擲弾兵を狙っていた。
「ひでえ、一方的だ……」
無論感傷は直ぐに終わる、敵も撃ち返してきた。
飛び込んだ破片で何両かが沈黙する。
「交代!配置に付けクソッタレめ」
側面援護の90㎜砲長砲身のM113が支援射撃を開始した。
パンターや4号の車体下部を連続射撃している、いいぞ、連中足並みが乱れた。
今がチャンスだ、火力部隊を陣地変換させよう。
タイミングは援護射撃が変わるころだ、よし、いいぞ、エアバーストで飛び散る森林の破片が敵の歩兵を壊乱させてる。
これで連中は維持が出来ない、歩兵がない定点防御の戦車なんか無価値でナンセンスだ。
戦闘開始4時間が過ぎだした、雨が降り出す。
ゲヘナ側後方の道路を進む燃料や弾薬輸送部隊が見えた。
偵察バイクやバギーから降車、道路へ展開する。
サオリが指揮下の三個分隊に手早く指示を出す、打ち合わせ通りだ。
「1班IEDよし」
「2班スタンバイ」
「予定通り散開」
近づいてくる輸送部隊が見える、SpPz LUCHSに機関銃を載せたILTISジープが護衛についている。
先頭のILTIS Aufk.、続いてSpPz LUCHS、そして補給隊列の数両、恐らく後方のトラックは小銃兵が居るだろう。
点火装置を握り、じっと待つ。
雨は都合が良い、赤外線が役に立たない。
光学探知も難しいだろう。
「点火」
C4が点火され、先頭のILTISが吹っ飛び、続けてSpPz LUCHSが慌てて停車する。
隣のミサキの頭と肩を叩く。
「てえ!」
使い捨てのAT4の改良型、AT12-Tを発射しSpPz LUCHSがはじける。
2班が慌てて引き返そうとしたトラックと交戦を開始した、連続した銃声が聞こえる。
離脱行動に入る準備として待機中の3班を呼ぶ。
「敵襲だ!待ち伏せだ!」
「何処だ⁉」
慌てて降車した風紀委員たちが40㎜擲弾で吹き飛ぶ。
判断は悪くなかったのだ、油断も薄かった。
だが雨天では路外を長距離走行できない事を我々も良く知っているし、だから待機していたのだ。
舗装路を絞れれば幾らでもやり様があるからな。
お出迎えが到着した、87式偵察警戒車とLAV-25が2両現れる。
「RCVだ!」
「逃げろ!」
逃げれんよ、もう。
25㎜機関砲がトラックもろとも敵を蹴散らしていく。
サオリは腕時計を見て離脱を命令し、最後に爆薬を弾薬輸送車に投げ込んだ。
次は別の十字路に対戦車地雷を敷設しなくてはならない。
アコの脳裏に報告から描き出されたのは大胆な側面攻撃の光景だった。
敵は前衛から主力を引き延ばさせて側面をさらけ出す様に動かそうとしている、間違いない。
「少なくとも戦線を縮小するべきね」
「残念です」
ヒナは粛々と戦線を再整理させることにした、アコも異論はない。
しかし問題が生じた。
「移動中の装甲部隊が泥に嵌ったァ⁉」
イオリの報告に思わず聞き返す。
無理もない、トランスポーターから降ろして攻撃準備中の装甲部隊が雨天の路外を走ればこうもなろう。
しかも別の連中は移動中のトランスポーターが地雷で吹き飛んだとか報告している。
「侵入したコマンドが我が方の補給線を各所で攻撃している様です」
チナツが地図に何か所か書き記した。
実のところこれが最大の力で、あとは観測がアリウスの仕事になっている。
彼女らはもう役目を果たし切った、敵がこちらの影に怯えてくれればそれでいい。
「侵入部隊も車両からでしょう?見つけられないの?」
「恐らくシャーレの87とLAVです、路外も素早く動くような奴ですから追撃は難しいかと」
「ヘリも無理ね……」
ヒナがじっと地図を見る。
「丘陵地帯まで下がれると思うわ、むしろ今の内かも」
「は?」
アコが首を傾げた。
「侵入部隊は恐らく少数、ならば前衛主力と会敵する愚行は犯したりしない」
「しかし後退といっても一部ははぐれますよ」
「部隊全て溶けるのよりはマシ、このままもたもたしてると前衛主力が溶けるわ」
ヒナの言葉にアコの脳が活性化し、言いたい事を理解した。
このまま時間が経ち雨が止むのを待ってたら前衛を完全に寸断されて潰される可能性がある。
その先は間違いなく前衛壊乱だ、下手をすれば移動中の主力が襲われかねない。
「了解、前衛を後退させます」
主導権を失いつつあるな……、ヒナは地図を見ながら心の中で呟いた。
雨が弱まり出した、通り雨の波が明ける。
前衛のイオリたちがなんとか後退を開始している、車間距離は80mとした。
2列の後退の縦隊、突如起こる爆発。
「うえ!?」
「対戦ヘリだ!」
上から襲い掛かるAH-64のヘルファイア誘導弾が車列前衛と後衛を襲う。
続いて狙うは燃料油槽車、兵站段列、抜き去る様に30㎜を戦車へ撃ち込む。
履帯破損やエンジンが壊れればそれでいい、NOE飛行と長射程火器は対空火力の効果を削減しやすい。
「MANPADS!MANPADSなにしてる!」
40秒しないうちにAH-64は退避を回避した、それ以上は仕事ではない。
「ちくしょう!我が物顔で飛んでいきやがった!」
「い、イオリたいちょう!」
「なに?」
損害報告を聞いてイオリは血の気が引くのを感じた。
「え、それはつまり……」
「我々の装甲戦力は半数が動けません!燃料も輸送車も食われました!」
ハイドラの掃射があまりに上手く刺さりすぎた。
そしてなにより、紛れていたAH-1が隊列にFASCAMの1種の空中ロケット発射式地雷をばら撒いていった。
48時間後自爆する条約型地雷とはいえ、48時間も動かないでいられるわけがあるか!
事実上前衛主力は孤立した。
してやられた、ヒナはそう感じた。
陣地から出るのを先生は待っていたに違いあるまい、わざわざ引き込んで帰る際に殴りつける、行きはよいよい帰しはしないと。
行きの際に殴っていたら恐らく最大効果を得られなかったから、そして殴り込んだ。
「観測機から連絡が来ました、シャーレの主力が動いてます」
チナツの報告書が渡される。
「機械化部隊ね、妙に動きがないと思ってたけど……」
その時、一瞬ヒナの耳に何かが聞こえた。
咄嗟に伏せると同時に、203㎜砲弾が8発野戦指揮所に飛び込んだ。
「敵襲⁉」
ヒナはやや驚愕しながら辺りを見る。
野戦指揮所は森に構えていた、観測されたと思えない。
だけど試射無しで効力射撃してきたのは恐らく完璧に位置を掴んでいるからだ。
「無線が使えません!」
「……あ」
ヒナは理解した。
そうだ、エデンの時も、ラビット小隊の時も。
「通信傍受されてるわ!あの先生多分3点測量で位置を特定したんだ……」
「で、では野戦電話を」
「電話線が切られるか盗聴されるわよ」
アコが即座にバイク伝令を用意させる。
まずいぞ、主力と指揮官が統制を離れてる!あの大人に貴重な30分を手放すことになる!
正解と言いたげに、重榴弾砲の砲声が聞こえだした。
228高地にシャーレの105㎜砲の砲声が響く。
軽砲と呼ぶべきサイズだが、軽量でCH-47や車両で輸送しやすく前線部隊は皆が好む類だ。
弾幕射撃がシャーレのお家芸の一つだ、投射火力が忽ちに延伸して前線陣地を飲み込む。
相手陣地の詳細はじっとヒヨリが覗いて目星をつけている、優れた深部偵察がある限り砲兵は何倍も強い。
ハイグレードな偵察と砲兵が足し算すれば、瞬く間に掛け算のような成果になる、戦術計算式は複雑だ。
「もしもし!砲迫支援は!?もしもし!」
呼んでも司令部が出ない、電話線は切られたし、無線機は使えないし、司令部はいま機能不全なのを彼女らは知らない。
初撃から数分で特火点の幾つかは沈黙しているし、前進してきた敵の105㎜が直射に移りだした。
東部の傾斜路から500mを突破口として火力集中でドアをこじ開けてきている。
「”山火事”です!敵は主戦線を喰い破ってる!」
「まずいぞ、ここにくる!阻止射撃は!?」
「弾薬が足りません!」
くそうと残置部隊の指揮官が帽子を叩きつけた。
兵站補給部隊が移動の自由を失いつつあるせいで、各部隊は自己の弾薬を惜しみ始めていた。
そろそろ夜が来る、少なくとも戦線が落ち着く筈だが……。
「前線が壊乱!」
「逃げるな!」
慌てて指揮壕から顔を出す。
すると、砲兵射撃の中でサイドカー付きオートバイから一人降りてきた。
「風紀委員長だ」
「ヒナ委員長だ」
壊乱した下級生が落ち着きだした、指揮統制が回復し始める。
ヒナはそうした前線指揮官に大切な才覚を有していた。
そのころ、先生は各所を走り回っていた。
スズに作戦部隊の雑務と一部を任せ、各部隊を見て回っている。
M151ジープに僅かに分隊1個がお供の最高指揮官が走り回るのはいつもの通りである。
「走れ走れ、側面は気にするな!」
先生だ、と誰もがハッチから顔を覗かせる。
隊員の大半はこうして作戦指揮をする先生を懐かしく感じていた。
車両運搬される火砲類やらが進んでいく、彼の脳裏に有るのは側面脅威よりも、これがあればモスクワ越えてウラルまで行けたなという懲りない感想だった。
彼はまだ自分の真似をしてモスクワ前面で大敗した奴が居るのを知らなかった。
もっともそいつが真似していたのはフリードリヒの方で、彼の遺産の軍隊を形無しに崩壊させたのは彼なのだが……。
丘陵地帯、228高地では激戦が続いていた。
MICLICで警戒線と障害物を吹き飛ばし、すでに一部陣地は白兵戦が開始されている。
パンツァーファウスト44を担いだゲヘナの擲弾兵たちが、侵入してきたM113ACAVを含むシャーレの部隊と交戦する。
どんとパンツァーファウストが火を噴き、目測を見誤った弾頭は目標頭上を跳び越す。
「バカ!」
M113ACAVは砲塔を回して手回し式の擲弾銃を撃ち出す。
連続した爆発音が轟き、瞬く間にタコつぼが制圧される。
続けて襲い来るMGの弾幕を、左右側面から伸びている106㎜無反動砲の連射が黙らせる。
こうした火力増強型ACAVはシャーレの目立たない馬車馬であった。
「突入!」
M870を担いだ分隊指揮官を先頭に突入が始まる。
ズダンという散弾銃特有の銃声に、ゲヘナのMPLという短機関銃の玩具みたいに軽い銃声が轟く。
PASGTベストのお陰で隊員は9㎜系の弾丸に耐性が高い、無論ある程度理解してるからG3A4などを風紀委員も装備していたが、長い小銃は塹壕内戦闘では取り回しも良くない。
そういう点ではジョークの一つである「シャーレ隊員が勇敢なのは?ベストがあるからさ」は正解である。
MGの火点に擲弾を投げ込み、Mk18をフルオート射撃しながら飛び込む。
「よし、制圧した……」
M113ACAVへ手を振り、後続部隊を呼びこむ。
別の火点から後続の60式自走無反動砲へ対戦車擲弾が飛んできた。
「ふざけやがってクソが!あそこら辺だ!」
曳光弾で歩兵が大まかに制圧し、連装60が車体を旋回する。
『目標8時から9時の全部、撃て!』
連装無反動砲と無理矢理増設したM240Bが火を噴く。
あまりシャーレがしない自由射撃だ、普段やると民間被害が予想されるから許可されない。
焼け跡になった林から何人か投降してきた。
「給料に比べて仕事きついや」
「これが仕事だよ、いくぞお」
陣地攻略はかなり進捗していた。
夕方に近づき、前線部隊を先生が交代させ、更に攻勢を継続する。
行動の自由を完全に奪われた機械化部隊の末路はろくなものにならない。
戦闘騒音を聞きながら軽く食事をとる。
最近では石灰だかの力で温めが出来るレトルトというものがあり、火を使わず温食を食わせれる。
無論万能ではない、制限も多い。それでもこうした機動戦の環境では炊事車を運ぶよりは良いし、Cレーションのパックや、缶詰よりは良いだろう。瓶詰よりは遥かにましだ。
暇なときにトリニティやゲヘナの糧食事情を何度か見に行ったり、創設初期にSRTのメシ事情を座談のように聞いたりしたが、やはり何処もそれ相応に苦労している。
これはユウカなどの一部にもあまり言えない下世話な話だが、キヴォトスにおける兵站の苦労はまだ外より苦労しない。
何故かといえばだが、大半の生徒は異性愛者で、慰安所などの手配まで兵站活動に含まなくて良いのだ。
ここを無視すると本当に秩序が崩壊する、軍隊の夜盗化の要因になる、手を抜いてはいけない。
ロシア人がこと占領地域であのような暴虐に走る傾向が強く、そして無教養で構わないとされた最大の理由はこうした兵站をサボる無能な貴族出の馬鹿が多いからだ。
そういうことを考えなくてまだ済む、せいぜいコハルが走り回る程度で良いのであるから気分はいい。
「たくあん誰か無いか?」
「あげませんよ戦闘団長」
「ちぇー」
スズが兵站幕僚にたくあん缶詰をたかって拒否されていた。
赤飯とたくあんは缶詰メシでも人気が高い、やたら黄ばんで汁っぽいと白米は嫌われているのに……。
Cレーションの肉を温めて--自分で持ち込んだ--醤油かけて食ってるヒヨリくらいじゃないだろうか、あれを顔色変えないで喰うのは。
まぁ、余り物のそれを食べてる時点で似たような物だが、黒パンや掘り出した幼虫よりはマシだし、奇麗な水がしっかり飲める。
「で、偵察の分析はどんなもんだ」
タブレット端末に幕僚の一人が中継映像を流しながら説明した。
「補給の低下で完全に足が止まってます、重戦車隊は泥濘で遅滞しており、輸送部隊は地雷で足止めされてます」
「概ね予定通りか、飯の妨害が出来ればいいんだが」
映像にはマーマレードなどを齧るヒナたちが観測されていた。
今でこそスイーツだがあれも保存食の類だ、それに大事な情報もある。
ゲヘナの連中の飯はパンとマーマレード、あとはバターかチーズで、温食を喰えてない。
雨天で雨に打たれて冷えながら飯を齧って兵站が停滞してて増援は無い、壊乱してない理由はヒナが同じく前線に居るからだ。
対する我々は兵員を交代させて暖かい飯を食う事が出来る、無論隠密行動中のサオリ達はそうはいかないが、特務の宿命だ。
だからだろう、ヒナが雨天ではあるが陣前逆襲に出てきた。
「ま、そうなるわな……。規模は?」
「恐らく残る予備全部。」
スズが即答した、ここで出し惜しむより全部使うしか道がない。
狙いは恐らく包囲の環を崩して離脱かな。
流石に風紀委員長出撃は衝撃的なのか、何人かの幕僚が息を呑んだ。
「よお、お前ら。何怯んでるんだ?あの風紀委員長がここまでしないと巻き返しができないぐらいには追い詰めてるんだ。こんな勝ち戦捨てたら損だぞ?」
外を見る。
雨足はだいぶ衰え始めていた、曇天ではあるが。
予定の通り、第三段階が始まる。
後方予備隊や兵站補給へ随行していたチナツは、あの大人は本当に容赦がないとほとほとあきれ果てていた。
特務の後方浸透、道路網への障害、通信逆探、あの大人は兵力機動を許さんと嫌がらせの数々を繰り広げている。
意図については良く読める、強い個人への最大のアンチ・メタとは面で潰せだ。
だからイオリの前衛を孤立させて砲撃で破壊し、アコの参謀たちの耳と口を塞がせて、私の支援部隊を無力化させた。
トランスポーターに載せようとタイガーは重い、戦車は舗装路を進んでも足回りに響く。
それに部隊移動とは一番足が遅いものに合わせる事になる。
そして兵站部隊にしても何にしても度重なる妨害で統制はぐちゃぐちゃだ、さっきから道路の使用や優先通行で滅茶苦茶である。
「そこォ!路肩にはみ出さないでください!」
チナツが笛を吹いて咆えた。
セナの下で仕事をしていたこともあり、声の大きさと響きの良さでは風紀委員の中でも目立つ。
大部隊を動かす現実的負担がチナツの全神経を苛め抜いていた、アコ行政官は完璧なまでの参謀型で、道路の割り振りも完璧であったけれども、それゆえに先生は特務を使い後方の重要地点を遮断した。
そして修正案を阻止するためにアコから無線通信を奪い、伝令がせいぜいという状況へ変化させた。
「包囲突破が成功すればまだ一戦出来るでしょうが、そうは行くのでしょうか」
チナツは嫌になりながら、雨足が弱まったのを見て合羽のフードを取った。
先遣の中隊が道路障害物なしと報告し、前進を命じる。
COIN作戦なんかしたことないんだぞ、どうすればいいんだか。
チナツは内心でそう思いながらも、責務は果たすつもりであった。
「あ……?」
ヘリコプターの音が聞こえる。
うちのBo105が包囲突破戦闘の援護に出ると連絡があったが、それであろうか。
やがて音と視界がクリアになっていき、それがなにか理解した。
シャーレの空中機動中隊だ。
「空襲!」
叫び声があがり、続いてヘルファイアが隊列を停止させる。
ガンランが巻き起こり、隊列が掃射される。
各所でレッドアイやスティンガーA型が撃ち出されるが、奇襲相手では戦果は挙げづらい。
その隙に展開してきたヘリボーンが、ランディングゾーンを先行して確保していたサオリに合流、地上部隊攻撃が開始された。
特務の躍進、空挺による後方寸断、空中機動作戦としては完璧な手順であった。
ヒナの逆襲は砲兵支援されないように敵味方混交させるという点で優秀であった。
事実逆襲に対してシャーレの前衛をある程度押し返しはしたのだが、衝撃力と衝突力が不足していた。
ヒナが強くても他がもたなきゃフクロ叩きにされてご臨終だ、一番まずかったのは反撃にあたっての火力不足であった。
逆襲前の砲火力戦で負けていたのが最大の問題だったかもしれない。
普通なら、逆襲も出来ないだろうからヒナはそうした点で不器用に努力していた。
我武者羅で生真面目、実はアコより頑固者。
だからだろう、風紀委員がまだモラルブレイクを起こさない。
「空挺が後方を寸断しました。」
「連鎖して他が崩れる心配は消えたかな?」
あれも一つの戦いの才能だよな、戦闘能力じゃない、心が折れかけた味方に活力を戻す、悪く言えば兵隊を前線に縛り付ける。
ヒナや装甲擲弾兵と重戦車に崩されたら、元も子もない。
だから足を千切り、手を千切り、首と胴体を寸断し、ヒナをただの個人へ落とし込んだ。
「無理して怪我してもつまらん、適当な所で部隊を予備隊に交代させろ」
「砲迫射撃の隙に替えさせます」
81㎜迫撃砲の射撃音が響く。
そろそろヒナは勘づくだろう。
予想通り、2時間後逆襲を断念したヒナは敗北を認めた。
これ以上の交戦継続はなんらの戦略戦術的意義を有さないからであった。
結果はある意味、マコト議長が面白く無さげに顔を顰める状態と言えた。
マコトからしたら「嫌いだし消えて欲しいし消したいけど優秀なヒナ」を手玉に取る大人、などやはり面白くないなと痛感してしまったのだ。
無論マコト自身は議長としての立場などもあるし、この大人は政治的妥協が通じると認識してはいるから政治手腕の仕事だなと、現在の路線を進める事に決めた。
少なくとも派遣参謀としてイロハを送り関係を深める現在の路線は正しいと実感したし、これを出しに上手く風紀委員へ圧力を掛けようとした。
だが後者はそうはいかなかった、演習統裁官のようなツラした先生が双方の指揮官へAARと講評を行い、完璧なものを仕上げていたのだった。
「面倒になったなあ……」
本当はこう、エデン条約でヒナを風紀委員長から退官させつつ、空いた治安維持システムをシャーレに押し付けて体制を万全にする計画だった。
だからイロハには「積極的に先生を支持、サポートしろ」と命じてみたら、何時の間にかあの大人合法的に一時ではあるが、トリニティとゲヘナの指揮権掌握したので計画はお流れになった。
あんな大人が出たら雷帝ですらカスミのような趣味人程度になる、間違いなくイブキに禍根を残すから良くない。
というわけでそれとなーくシャーレ指揮官クラスに影響を出せる派遣参謀として送らせ、組織としては風紀委員たちに関わらせておいた。
やはり正しかった、風紀委員長ですらシャーレと共同歩調を取り、内部に食い込まれている。
キキキ、やはり私は天才……!
「マコトせんぱーい」
「どうしたイブキ」
マコトの視界にフォルダーを抱えたイブキが入る。
どんと置いて、イブキは「せんせーから」と告げた。
マコトは開けたくねえなあと感じながらもフォルダーを開き、そして深いため息をついた。
”風紀委員会とシャーレの燃料弾薬費用は政権運営担当であるそちらに請求しますからよろしくお願いいたします。”
あの大人遊んで小遣い請求する感覚でなんてこと言うんだよ……。
ヒナのがまだましと心から思いながら、マコトはフォルダーを閉じた。
感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当に助かっております、この場を借りてお礼申し上げます。
原作のどっちを見たり知ってます?
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長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
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ブルーアーカイブだけは知ってます
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どっちも知ってます。