キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
ゲヘナで開かれるパーティの前座とも言える学園戦術交流会の翌日、万魔殿の議事堂が吹き飛んだのが見えた。
新議事堂のお披露目会狙いのテロルかと思ったら、温泉開発部の「まあここだろ!」で駐車場辺りに大穴が開いたらしい、空いた口がふさがらないと言うのはこういう事なのだろう。
一本取られた、何も無ければ新手の暗殺かと思うところだ、現場で確保した温泉開発部には正座させている。
到着よりやや早くヒナ風紀委員長も来ていた、困った顔をしている。
「どうしてこうなるんだ一体」
マコト議長に顔を向けると、いつも通りと言うべき顔であった。
ゲヘナでは全く動じるべきじゃない事態なのだろう、それは分かるが自分の庭先が吹き飛んでもこれなのか。
案外マコトは傑物なのか? もう分からない、なんなんだこいつ。
「来週来てくれ、本当のお披露目パーティを見せてやろう。このゲヘナの威厳を天上天下に見せつける様な───待てイロハ! 話してる途中だぞ!」
パンデモニウムの直属の兵がイロハのハンドサインに従い、ずるずるとマコトが引き摺られていく。
いまいちここの権力が分からん、ヒナは武力権威ではあるが政治じゃないし、マコトも風紀委員が、というかヒナに只ならぬ感情を抱いているが、殺意というよりは別だし。
「すみませんね先生。家の議長が、バ
自分で規制音入れるとは、器用だなイロハ。
髪を軽く搔きまわしながら、イロハは公用ではなく私用のFUHRUNGS UAZを呼んだ。
レッドウィンターとの協力事業で一部納入されたが、正式採用はされなかった、ILTISのがウケが良かったからだ。
因みにマコトは返礼でSTG⁻941自動小銃等のライセンスを送ったらしい。
「イロハちゃんどこ行くの?」
サツキが尋ねると、イロハはイブキを抱きかかえた。
「いえ、修理が終わるまで、イブキとシャーレの自室で過ごそうかと」
「いいなー、週刊万魔殿のネタに使いたいのに、チーム派遣参謀紹介して欲しいな」
「メンバー知ってるでしょうに、癖の強いのと大体の時間はこの大人が横に居るんですよ?」
チアキの言葉に「冗談じゃねえや」と言外に言い含めながら、イロハが言った。
「ミカ先輩はロールケーキくれるけど、食べた後歯磨きしないとキキョウ先輩が悪い子になるよって注意してくれるよ! あとねあとね、先生とユウカ先輩の予算の」
「おーっとここからは機密だぞー、イブキちゃん、サオリと鬼ごっこになるぞ」
「えへへ」
窓から手を振って、イロハが運転手に「出してください」と告げた。
イロハは自身の部下の扱いが丁寧な方の人間だ。
「気ィつけてなあ」
手を振り返しながらふと思う、誰もが確実な未来とするイブキ議長政権、なんとも末恐ろしい話だ。
確かにチーム派遣参謀にもイブキは妹分で可愛がられるあたり才能なのだろう、この愛嬌と言う才能が続くなら飛び級は行けるかもしれない。
俺も士官学校11か月で全過程修了して卒業したしな。
しかし、万魔殿の連中議長が絶妙にアホな以外は比較的マトモな奴が多い、マコトがバカのフリしてると言われても、信じれるぐらいには致命的な失点をしない連中で固めている。
というか全体的にバランス的な体制をしている、確かにアコの奴は見る目はあるし、参謀としては優秀だ。
暴走癖と煩いと言う致命的な欠点が無ければだがな、層の厚みがトリニティとは違う訳だ。
ゲヘナは確かに天才が運用すればすさまじいスペックがあるだろう、成程それであの噂の雷帝の騒ぎか。
先生と比べたら、マシかもと言われたが俺は無秩序はばら撒かないぞ。
しかし、分からんのはヒナとマコトだ、演習の時もヒナが負けるとそれはそれで面白くないと言う面をしていた。
憎たらしいがヒナはキヴォトス最強でなければ嫌だとも思える、俺がマコトの立場なら消えてくれれば心の底から嬉しい、逆にヒナの立場ならバラスみたいに椅子を奪うが。
無論力に任せて下克上するならもうしているだろうけど。
「ああそれと週刊万魔殿用に、先生たち並んでいただけます?」
「いいがスクワッドはモザイクしておけよ、機密事項でね」
「はい、いつも通り確認メール送っておきますね」
チアキが「並んで並んでー!」と呼びかける。
スズの奴が「私はモザイク要らないので?」と聞いてきたので、「てめえはアホさが機密事項だよ」と返した。
パシャリと音が鳴り、風紀委員会とシャーレの幹部集合写真が撮影される。
以前にクロノスが間違って演習中のアリスクを映す愚行が起こしたのだが、チアキは一応確認してくれる。
マコトは内心困り果てていた、当初のシャーレの予想はヴァルキューレを牽制しつつ連邦生徒会の厄介払いを兼ねた組織であった。
事実上の秘密警察が良いトコでしかないSRTの解体にしてもマコトからしてみればそうもなると感じていた。
文民警察の上に存在する特殊部隊と監査能力を有する武力組織? それは秘密警察か武装親衛隊と言うのだ、という事くらいマコトはよーく知っている。
というかそういうのを弄んだバカを追い落としたから今トップなのだ、痛いくらい理解している、トリニティの奴らですら最近理解したらしい。
それ故にシャーレ、連邦捜査部の存在は「せいぜい利用してやろう」であった、マコトからすればこのような自治権も無視した組織が存続する筈ないと考えていた。
予想と違ったのはシャーレ開設当日、DU暴動を鎮圧したあの大人が出てきた瞬間である。
なんか話と違うぞ? というのが初見の印象、やがて見えてくるその危険性、アビドスへ風紀委員会をそれとなく唆してみたら、あの大人行政官級直接回線で『おたくはどうなってんだ』とキレてきた。
「当初はあれにヒナを上手く使わせて発言力を確保したかったんだがなァ‥‥‥」
本命の計画はそれであった、ヒナは強い、間違いなく強い、いや、強くなくてはならない。
力こそ全て、それがキヴォトス、そこで最強の力の行使を先生に”預ける”、それだけで完璧な政治発言力が手に入る。
つまるところ、ヒナを些か貸し出すだけでゲヘナを無視できなくなるうえに、管理責任まで負ってくれる。
DU暴動時の連邦生徒会の対応を見ての通り、あんな腑抜けた連中に貸し出してやるものかよ‥‥‥私の、ゲヘナのヒナを。
実のところゲヘナに深刻な犯罪は無い、どいつもこいつもパッションで活動しているバカだ、御しやすく思考も読める。
温泉があるらしいと資料を流せばシャーレの流したガセネタでも飛びつくカスミ、理由は分かるがそこまでキレるか理解できないハルナ、その他不良学生、皆パッションで生きている、政治犯は居ないのだ。
仮に居たとして、私はそれを鎮圧する手段を有している、この椅子は馬鹿にはわたしてやらん、議長の椅子とはそれくらい強権を振るえる。
私の仕事は、何もしない事だ。
「マコトちゃーん、悪だくみしすぎてると顔が歪むわよ」
「む? キキキッ、すまんな! 世界は驚異に溢れている」
いかんいかん、思考が寄りすぎている。
えーと今日の書類は‥‥‥。
実のところなんでか俺はゲヘナ生徒にウケが良い。
不良生徒の連中、ゲヘナで会うと「おじき!」と声をかけてくる、先生と呼べバカ共。
今回警備計画の確認と、迎賓兼ねて呼ばれたのは無理もない。
我らが古き盟友赤モップ大公は「アホがなんかやらかしてもアレですから確認しといてください」と頼んできている、断れない。
更に言うと同じような事をヒナにも言われている、やっぱり断れない、ヒナにも貸しは多い。
「で、なんだってこの連邦生徒会の首輪も無い狂犬と一緒なんですか」
「お前の上司を恨め」
「いいえ! 先生の方を恨みます!」
「おめえはよお!」
アコの奴が送られたのはミスと信じたい。
「それもこれもあのタヌキの陰謀です! きっとそうです!」
「アビドス無断進駐有耶無耶にしてくれた奴にそれ言うのかァ⁉」
「そりゃそれで火が付くと先生も尻に火が付くでしょ、貴方は共犯じゃないですか、なんですかヘルメット団まで臨時編入とか」
「志願だ志願!
かーっこの大人は! と言いたげな顔でアコが嫌そうにした。
万魔殿の親衛隊がやや呆れている。
「警備は外周を風紀委員会がすると?」
「ええ、あのタヌキは人数が多いからとか言ってます」
「まあ要人相手なら自分とこの親衛隊のがやりやすいよなあ」
「けーっすっかり政治家みたいな事を、ぺっ!」
「カビの生えた駄犬が……!」
決闘だ! と言いかけたところでデコの広い万魔殿の私兵*1に「ここでやらんでください」と返された。
後ろじゃ付き添いのミサキが「これさえなけりゃなあ」と深くため息をつき、サオリは「無理なものは無理だよなあ、ばにたす」と空を仰いでいる。
そんな事をしていると、万魔殿のサツキがこちらを見て首を傾げていた。
「どうしたの?」
「
「えーっ、危ないじゃない! 痛いのは良くないわよ」
思わず顔に驚愕の文字が出る。
「うそだろゲヘナにまともな奴がまだいたか」
「失礼よ!」
「そうです、ヒナ委員長もまともです」
「黙れ害獣!」
サオリに後ろから両腕を掴まれて「はーい乱闘は許さない錠前サオリだよろしく頼む」された。
「なんというか破天荒な大人ね、ふーむ」
サツキがコインを取り出し、ゆらゆらと揺らし始めた。
「あなたはだんだん平和的になーるー、やさしくなーるー」
「失礼な! 俺は平和主義者だ!」
「そりゃ敵対者全員ボコボコにしてしまえばそうだろうけどさあ」
ミサキが呆れた顔をしながら肩を竦めた。
「ついでに皆に優しくなーるー」
「俺は元から優しいだろうが、なあさっちゃん!」
振り返ると、なんかサオリが焦点がずれていた。
「‥‥‥みさきー、さっちゃん取られた―」
「取られたじゃないでしょ」
ミサキは「ごめんそちらの上司戻して‥‥‥話が進まない」とサツキを戻させ、サオリの頬をペチペチ叩いて正気に戻した。
「ふっ! シャーレといえども催眠術には弱いようですね!」
「害獣!」
「あーもう話進まないよ、誰よこんな人員選んだのは!」
匙を投げ始めたミサキが、
瞬間、ドーンという音が聞こえた。
「んあ? 戦闘騒音だな」
「旧校舎の方ですね、確か今委員長が不良生徒掃討をしてます」
アコが即答した。
「おいまて、あいつ演習から帰ったばっかだろ? しかもなんかピアノの練習も言われてたよな」
「ハイ、あのタヌキが温泉開発部鎮圧の責任だとか演習で負けたとか云々言いくるめて、つまり先生のせいです」
「半分はお前らだ、残る半分はマコトのせいだ、俺の責任と義務じゃねえぞ」
「それでも大人ですか! 恥を知りなさい恥を」
「そもそもあの演習の原因はお前がうちのアホに変な事言ったせいだろうがアーン⁉やるか狂犬‼」
無言でミサキが拳を振り上げ、馬鹿二人は意識を失った。
最初からこうするべきであった。
「流れ弾だね」
「‥‥‥そうかな? そうかも」
「危ない流れ弾が飛んできた以上、連邦捜査部としてはヒナ委員長を助けるべきだと思うんだけど」
「‥‥‥まあそうなるか、うん、そう言う事にしよう」
チナツに馬鹿二人の後送を依頼し、ミサキとサオリは旧校舎に行くことにした。
ヒナのMGの銃声が轟き、旧校舎のバリケードが食い破られる。
銃撃は旧校舎の木製の外壁や内装を容易く喰い破っていた。
迷彩コートやジャケット、安全ヘルメットなどで着飾った不良生徒たちは後退しながらEMP44やMP507を掃射する。
普段のヒナより動きが鈍いのを不良生徒たちは明確に感じていた、先生相手に思考の読み合いを長時間したツケである。
「撃てェ! 撃ちまくれ!」
VG.3を連射しながら、不良生徒が叫んだ。
一時期雇用されていたカイザーから足抜けした生徒が増えたので、最近では不良生徒にもそういう判断ができる生徒が増えている。
カイザーPMSCが一応小隊や分隊指揮官教育をしていたから、全体的に不良生徒が底上げされているのだ。
「普段より威勢が良いんだから全く……」
無論そうした報告は受けているが、今日の不良生徒は妙に粘る。
普段であるなら”ガラ”を躱す為に直ぐに逃げるのが不良生徒たちだ。
今まで大半の不良はそれで終わった。
「Bergmann MG15nAで弾幕!
リーダー格らしい頭目が叫び、機関銃が掃射される。
土埃や木片が飛び交い、バリバリと床がはじける。
疲労からヒナの動きが鈍ったのを確認し、頭目は「あれも持ってこい!」と叫んだ。
風紀委員会から略奪したM56ヘルメットをつけた不良生徒が、Tankgewehr M1918を構える。
13.2mm TuFを使用弾薬とする大型火器だ。
「射撃用意!」
ズドン! と重い銃声が連続して鳴り始める。
火力集中による滅多打ち、やっぱり動きは鈍いと感じたその瞬間、彼女の真横から50口径ベオウルフがぶち込まれた。
「ぐえ」
「ん!?」
「やべえ狙撃だ! 増援か?」
「イオリの奴ァは定期巡回だろ、おかしいじゃねえか!」
不良生徒がどよめく瞬間はヒナに見過ごされるはずが無かった。
唸りを上げるヒナのMGと、窓を超えて降り始めたクラスターミサイルの小型弾頭が不良生徒たちを蹂躙する。
「逃げろ逃げろ!」
「やっぱ委員長強いじゃねえか!」
「誰だよイケるとか言ったの!」
即座に逃げに転じる不良生徒を追撃しながら、ヒナは窓の向こうを見た。
すこしばかりはにかんでみて、照れ臭くなったヒナは追撃戦を開始した。
目が覚めたら日付が変わっていた。
理由を聞いたら「流れ弾です」と言われたが納得はしてない。
やはりミサキやサオリとかに色々話過ぎたか、あいつら上手く応用しやがって。
「定期報告と、これはさっき入った報せですが……温泉開発部がまた拘束されたそうです」
「なに、またなんかしたか」
「いえ、なんかわくわく温泉開発大作戦とか言ってたらしいですけど」
イロハが知らんと告げた。
内容はともかく、一応うちも支援部隊を出したから報告が入ったらしい。
電送された供述調書では「ゲヘナにめちゃスゴのわくわく温泉作ろうとしただけ、慈善事業!」と主張している、カスミはある意味嘘をついてないだろうが、分からないのは理由だ。
あいつ毎回「山勘で温泉の脈を探すのは最高の快楽!」とか抜かしてるのに、今回は誰かに教えられたらしい、こいつを利用する誰かがいたんだろう。
警備上の都合もある、詳しく調べるべきだとゲヘナに向かう事にした。
ゲヘナについて、今度はうちの連中が美食研を連行していた。
なんでも調理室に勝手に立ち入りを図って、地下水脈で元気に育ったパンちゃんに返り討ちにされたらしい。
実のところパンちゃんが料理させてる限りは実に大人しいと判明して以降、給食部の回転効率は増加している。
最近シャーレですら大食堂の調理室でゴム手袋にアルコール殺菌されたパンちゃんが出てきた、恐らくジュリの「料理が作りたい」という思考の念の結果と言われているが真相は不明だ。
毒性が無いのは実験体にした黒服で確かめた、話を聞いて「なんでそうなるんですか」と呟いていたが。
「そんでその巨大パンちゃんは何処だよ」
「はっ、15分前に河川へ入水し、港湾部へ移動、海溝へ潜った模様。対潜哨戒ヘリの追跡を振り切りました」
「なんでそんなことを」
「分かりません! 泳げたいやきくん聞いた途端に飛び出しました」
「そうはならねえだろ!」
呆れながらそういうと、ヒナ委員長が旧校舎の方から歩いてきた。
「どうした?」
「ちょっとした練習。‥‥‥今度先生のとこの子達に礼を言っておいて」
「‥‥‥何の話だ?」
ヒナは少しうれし気にした。
真実心当たりがない。
風紀委員会の資料と犯人の幾つかの取り調べに来ただけだ。
「あっ、委員長」
チナツが通路で困った顔をしていた。
通路には、陽光を浴びて黄金色に輝くマコトの銅像が並んでいる。
「‥‥‥ついに気がふれたか」
「いつものことよ、気にしないで良い」
ゴン! と音を立ててへし折り、ヒナは奥へ案内した。
「次は銅像? 今度は肖像画か立て看板かしら……」
「ご愁傷様、残念ながら撤去はうちの権限を及ばせ辛いぞ、内政干渉になる」
「分かってる」
地下牢への道を確認していると、爆音と銃声が鳴りだした。
「今度はなんだ、便利屋がなんかまたやったか?」
「万魔殿の方ね、何かしら」
状況を確かめると、銅像撤去中の風紀委員会の部隊がスケ番やヘルメット団の群れに襲われているらしい。
しかも妙に不良生徒がまとまりがあると思ったら、マコトが不良生徒に金握らせてバイトついでに銅像設置させたようだ。
「なんだなんだ、マコトの私兵に収拾させりゃ良いだろ、何のための
「それが、マコトはマコトでなんかおかしいみたい」
「何が? 元からだろ」
「突然平和主義に目覚めたみたい」
「‥‥‥ついにおかしくなったか」
思わず本音が出てくる。
仕方ない、指揮くらいなら手伝う。
なんでゲヘナはそうなるのだ?こうも毎回。
M113ACAVのミニガン砲塔が火を噴き、万魔殿の目の前の通りを破砕していく。
MPi-K自動小銃が応射で飛び込み、ガンナーの肩部を掠めた。
「わァっ!」
射撃が止んだ一瞬の隙を突いて不良生徒たちが別の路地へ移ろうとするが、僅かな回転音の直後吹き飛ばされる。
掲示板などが巻き添えでバラバラに粉砕され、何人かの不良生徒たちも空に舞った!
「前へェ!」
シャーレのM113ACAVを先頭に、G3小銃を装備し、シュタールヘルムとフラックジャケットを羽織った風紀委員会の鎮圧部隊が続く。
最近の情勢変化で風紀委員会の装備も一部変わり始めたのだ。
スケ番の撃ち込んできたRPG-2をスラットアーマーが受け止め、応射で地面を舐めるように掃射して吹き飛ばす。
イオリが「2班と6班で包囲させる、これでとどめだ!」と指示を飛ばし、機械化部隊に押し込まれた不良生徒たちは行き止まりへ誘い込まれた。
あとは平押しだ、組織化された武力相手は分が悪い。
大半が両手をあげるか、ぶちのめされる羽目になった。
「よーし! 手を頭に載せて後ろを向け!」
壁に向かって手を付き、足を広げた不良生徒たちを確認しながら残敵掃討が始まる。
セナが呆れた顔をして救急車に負傷者を投げ入れていた。
「救護してんのかトドメさしてんのかわかんねえぞアレ」
呆れながらも、万魔殿にマコトの確認に向かおうとしたが、窓からマコトが落ちてきた。
なんだなんだとどよめきが起こるが、イロハが「正気に戻れ」とヒナと二人でぶん投げたらしい。
「あぶねえぞ、俺にあたるだろうが」
「そういう所の図太さはどうかと思う」
ヒナがそう言いながら飛び降りて来た。
落着を受けてマコトが「ギャン!」と声をあげて悶えている、正気には返ったはずだ。
「ちなみにマコトはどんな感じになってたんだ」
「‥‥‥機密事項かな」
「わあお」
なら知らない方がよさそうだ。
昔、ピアノを演奏したことがある。
なんとなく習い始めて、分かった事は。
私のピアノの演奏は酷く硬いという事だ。
講師が言うには「気持ちを乗せれてない」らしい。
どう乗せればいいかもわかりゃしないのに、そんなことを言われても困る。
昔からどうしたいかなんて分からなかったし、風景や光景に目を向けなくなり出したのも遠い昔。
ゲヘナの情報部から風紀委員会委員長へ駆けあがったけど、なにもかわりゃしない。
昔から得意だったのは射撃と勉強、どちらも私がそうしたとおりに動き、誰に配慮する必要もない、ただ答えるだけ。
しかし、そのピアノの演奏が楽しくなり出した。
いつの間にか、この世界は案外悪くないと思えだした。
一番好きになれない自分を許せるようになり出した。
小鳥遊ホシノみたいに強くも無いし、天童アリスみたいに心も強くないし、錠前サオリほど信念も無い、そんな自分だけど自分を許せる気がしてきた。
こんな私を「おらァ! おめえも来るんだよ!」と腕を掴んで連れまわすような人がいた。
あてにしてるとここ一番で頼ってくれる、信頼してる人がいた。
いつの間にか手が弾む、指は軽やかで、自然と微笑みが浮かぶ。
練習はいつの間にかとても楽しみになった、私は私を許せるんだ、自分を受け入れてもいいんだと。
だから、最高の演奏を貴方に。
パーティー当日、相変わらずゲヘナは大騒ぎである。
シラトリ港湾部近くで「パンちゃんが回転しながら空飛んでペロロジラと殴り合ってる!」と報告された上に、それが終われば今度はカスミ部長が「温泉掘るんだ!意地でもやるぞ!」と脱獄!
更には給食部食糧庫のパンちゃんと縄張り争い始めた美食研が戦闘を起こし、トドメで不良生徒が「議長賃金未払いじゃねえか!」とカチコミかましてきた。
「未払いはそりゃ怒るだろ」
「失礼な! 私はちゃんと払ったぞ!」
「多分それ中抜きされたんじゃないか」
「‥‥‥ま、間違えたああああああ!」
マコトという奴は。
STG-943やSTG-941を装備した親衛隊も呆れた顔をしているが、慣れた様子だ。
ゲヘナじゃ細かい事を気にしないスキルが身に付くのだろう。
「大変ですマコト議長!」
「今度はなんだ!」
「不良生徒は賃金の支払いに含めて”イブキちゃんモフモフさせろ”などと!」
「許せるかァ! 私のだぞ!」
そうじゃないだろ、そうじゃ。
見ていられないから、無言でサオリに対応を依頼する。
カスミ部長はこっちで部隊出すから、と告げるとイロハが「はー、不良連中説得してきます」と告げた。
食糧庫で醜い争いしているバカはイオリに任せるか‥‥‥。
「なんというか、うん、これがゲヘナよ」
「泣きたくなるな、ヒナ委員長」
「悪い子たちじゃ無いんだけどね‥‥‥」
ヒナの言葉にそうは思えんと考えつつ、仕事を手伝う事にした。
カスミ部長はまあ、説得が効かないからサオリがなんとかするだろう。
最近はカスミもAGI 3x40とかいう武器を使い始めた、ランチャーを束ねた武器であるが、カスミは「温泉開発工具!」と主張している。
「というか、私が出なくて、良いのかな」
「たまには仲間と大人を信用しろ、俺達は前の演習で証明したぞ」
”貴方を?”と言いたげな目で見られたがお前に嘘は付いたことはないぞ。
そして、そのあと軽く微笑む。
「じゃあ信じてみる」
「期待以上にはこなしてやるよ」
ヒナは楽し気に微笑み、肩を預けた。
余談だが、このパーティー以降、ピアノを習う生徒が増えたそうである。
感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当に助かっております、この場を借りてお礼申し上げます。
原作のどっちを見たり知ってます?
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長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
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ブルーアーカイブだけは知ってます
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どっちも知ってます。