キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
同期のEXシナリオの本番が始まりそうなので初投稿です。
おかしい、今頃俺はトリニティのカーニバルに伴うイベントに備えてシャーレが放映予定の、コメディドラマの劇場版先行上映に備え撮影現場に居るはずだった。
「シャーレの行動について質問がある」と呼び出しを受け、俺も用事──ウイに追加資料請求──があったので、シスターフッドに様子を見に行ったらミネ団長とサクラコがにらみ合っていた。
セリナが困り果てて「なんとかなりますかね?」と尋ねて来たが、どうせ説明不足の誤解と2人の妙な圧に周りが委縮してるだけだろう、人騒がせな奴らだ。
「二人で何してんだ? 周りにまた誤解されるぞ?」
2人の顔が同時にコチラを向いた。
「私達はカーニバルの出し物で先生に相談を」
「イメージ改善ですよ、我々はどうも変な勘違いを受けがちなので、共同で何かをしようかと思いまして」
その後二人が一拍置いた後に俺を呼んだ理由を続ける。
「シャーレは行動の割に市民から評判が良く、先生自体が案外慕われていますのでその秘訣の伝授を」
「公聴会以降、我々も大変なんですよ。あんな爆弾投げて良く平気ですよね」
出会い頭に喧嘩を売ってんのか?
民主主義において公権力はイメージ戦略なんだよ、予算にも関係するしな。
というか、うちは連邦生徒会以外にはそこそこ好かれてんだぞ。
「言いにくい事を代わりに言ってやっただけだが? 今までそれを誰も言わなかった。だから俺が代わりに言った。発言に対しての責任は持つが、脅迫と剃刀入りの手紙が箱一杯に届くだけで何も無いしな」
呆れた顔を二人に向けられた。
正直暗殺未遂だなんだがどうだというのだ? 脅迫や賄賂なんかキヴォトス来てからカイザー相手に何度かされたし、それを無視してまだ此処に居る。
正直トリニティのアホが脅迫するより、ユウカが徹夜明けで変な事言うか、モモイから手紙が来る方が恐いんだよ、何が起きるか分かんねえもん。
「良く平然としていられますね」
「ここに来るまでよく無事でしたね」
「直接加害を加えに来る度胸の無い連中に何故配慮が居るんだよ、正直一番惜しい線行けたのはサオリでギリギリだぞ」
まあそれもそうかと二人が納得した、二人ともそういう事は分かりやすい。
サクラコは「あんなフィジカルしてる人早々居ないもんなあ」と納得し、ミネは「確実性から見て大型火器類無いと無理ですよね」と納得した。*1
「やはりシャーレに依頼して正解でしたね」とか言って居るが、お前らに言われたくない。
本局と半冷戦してる外局ってなんなんだ? リン行政官が半分ぐらい外交官だ、アイツも失言が多いが。
「本題に戻りますが、我々のイメージ改善はどうすればよいでしょうか?」
「市民の目をよくいれ交流を行い、行動内容を説明したりしなさいよ、うちの白書とか」
「出してますけど何でかみんな読んでくれません、そのための準備としての今回のカーニバルで最初の行動を」
うるうるした眼でサクラコが見てきた。
「言いたくないが、医者と僧侶が組んでる時点でな、縁起が悪い。葬式の相談されてんのかと思うだろ」
「そんな、身も蓋も無い」
「そして、俺は医者と僧侶にいい思い出が無い!」
「「えぇ……」」
後ろからシスターに「堪忍してあげてください」と言われたが、しょうがないんだ。
「まず、シスターフッドは母体とも言える組織が最悪だ、情報規制が多すぎる。後ろめたい事が沢山あると言う証明にされやすいな」
「はい、そこは理解しています」
「そして救護騎士団はシャーレと近い物があるな」
「破壊が多いと言う事ですね」
「両組織中立で動かないのは良いが、その割に裏で暗躍し過ぎだな。後二人とも説明が足りない!」
「古聖堂砲撃した方に言われたくないのですが」
「早期の敵戦力の撃滅、自軍の損害の防止。この辺は資料出してるだろ。俺は後に公開公文書で報告書出してるぞ、詳しくは特別作戦白書のAARの補遺3項を読め」
一息入れて改めて聞く。
善人なのは二人とも事実なのだ、話は聞かねばならない。
「とりあえず何があるんだ?」
「これが一覧です」
「ふむ、一番大きい出し物は、参加自由のアイドルイベントか」
「とりあえず、先生が来る前はこれが本命でしたが。専門家に聞くのも良いかと」
「各イベントに詳しい奴居るのか?」
2人とも黙ってしまった。
居ないのかァと顔を手で覆うと、ぱっと明るい声をしてサクラコが言った。
「あっ! そう言えばシスターマリーはアイドルに詳しかったですよね! 私の方から皆さんに連絡してですね」
「どんな文書送るのか見せてみろよ」
「緊急支援要請につき特別任務を言い渡すとだけ……」
「バカ! 言葉が足りない! それじゃブラックオプスだろ!」
その後に呼び出されたマリーが申し訳なさげにしながら席に着いた、呼び出し方で二人がにらみ合い始めたが俺が居れば十分だろう。
「ど、どうしてこの様な事に‥‥‥」
「上司の口癖が似合うようになったね。妙に圧が強い二人が見つめ合ってるだけだ、お二人さん睨めっこはおしまい、仕事だ仕事」
そもそも俺もアイドルを良く知らんので、何やるんだと聞いたら「そういえばそこからですね」という話になり出した。
その後、アイドルに詳しい方の当てと言われたので、「アビドスに居たなァ」と申したのが運の尽き。
あの砂漠に向かう事になり、校門前の駐留の連中に案内され【アビドス臨時校舎】と書かれたプレハブに二人で入るが、二人足りない、聞いてみるとアイドルイベント参加を一年組に任せてみたら、二人が脱走したとの事だ。
「今度は後輩か?」
「私闘だ乱闘だー!」
アビドス駐屯部隊の連中がUAV上げて楽し気な声をあげていた。
「なにしてんだバカ、ちゃんと止めろよ」
「んなコト言われても内政干渉になるっすよ、指揮権あんたが預けたんですよ」
「けーっ、官僚軍人って奴ァよ、前線勤務と言うのを忘れんなよ」
「後輩が元気で結構じゃないの、うへへェ~」
そう言うとこだぞホシノ! しかもレンジャーも数人動員して追跡してるそうだ。
すでに二人は捕捉されてはいたが、廃墟の住宅地を簡易陣地に迎撃してるらしい。
「UAVのデータは?」
「んあー、駄目だねえ、ちゃんとECMポッド使われてるねえ」
「おめえより逃げ足が上手くなったな、あいつらァ」
「後輩元気で先輩安泰、よきかなよきかな」
「よくねえよ!」
これじゃ仕方ないと現地に向かうが、懐かしのアビドス校舎防衛のシンボルの5cm対空砲くんは今や、クルセイダー車体に強引に乗せて自走化され、入り組んだ市街を固定化された戦線とせず強固に抵抗している。
ホシノがためしに近づいて見たが、5cm対空砲と軽迫の集中射で撃退されていた。
「遊撃戦上手いねえ」
「悪い大人の悪影響じゃないかなあ」
「じゃあ俺が悪いわけじゃないな、正義の味方だし」
「誰かスズ司令呼んでくれない、この大人私達じゃ相手にできない」
現地部隊将校が呆れた顔をするが、Chuck Berry - Johhny B Goodeを歌いながら車両の手配を始める。
一年組が籠ってるとは言え残りのアビドスの連中や、駐留レンジャーまで動員してここまでの苦戦は不思議だと思い聞いて見ると、一年組がクロコに泣きついて助っ人にしたらしい、定期的にドローンが空戦している。
確かに、クロコの装備だと狙撃ができる、前アビドス組が便利屋に苦戦した理由の一つが的確な狙撃でその時その狙撃手をどうにかしたのはアヤネのドローンだ。
外の様子に気づいた籠城側からセリカの声が聞こえる。
「先生! アイドルイベントに出るとは言ったけど、衣装が相談なしで決められてたのよ!」
「契約違反ですよ! ホシノ先輩のやり口は例の黒服と同じです。やはり生徒会長は私が」
「ん、そう言う事、二人の言う事も正しい故に助太刀してる。一度こっちの私とホシノ先輩にその衣装で参加できるの? と聞いたら黙殺されたし」
そうなのと顔を向けたらそっぽ向かれた。
しかし困った、連中をどう説得するか。
アツコは今イベント準備でアリウス本館だし、スクワッドの連中いま居ねえんだよなあ。
「砂狼は奪うの、それが金庫であろうが陣地だろうが同じこと!」
シロコが長い梯子を持って突貫していく、待てをガン無視で走るのか、お前と言う奴は。
仕方ないからなし崩しに攻撃開始だ。通信の発信源の特定に三角測量の用法で位置を割り出し、シロコの攻撃針路を変える。
「ぎゃああああ! 窓からシロコ先輩が出たああああ!」
「あ、やっべ」
後方のアヤネを崩して一気に戦線を押し上げる。
久方ぶりに砂漠であれこれしてると気分が良いな‥‥‥。*2
間一髪逃れたセリカは足元不注意で側溝だった場所に嵌るし、クロコは今シロコと近接格闘中だ。
「狙撃手と前衛がCQCやってる」
砂に嵌ったセリカを引きずり出そうとしていた隊員たちが横目に見ていると、飛んできたシロコのドローンのミサイルがセリカへ飛び込んだ。
砂色の大爆発が巻き起こり、ノノミが飛び上がったセリカを確保する。
「アイドル候補二人、確保しましたー!」
「ん、もう少しでケリがついた」
「勝ち切ってから咆えなよちびシロコ」
「んん!!!!」
私闘決闘はよそでやれ、よそで! 呆れてホシノに二人とも纏めて連れていけと命じ、やれやれとため息をつく。
‥‥‥昔と違って随分やかましくなったなあ、ここもよォ。
空を見上げると、校舎再建用の資材を運ぶCH-47の姿が見えた。
ノノミが依頼報酬を兼ねて、顔の利く衣装屋を紹介してくれたが、今度は別の課題が出てきた。
衣装問題の次は、振り付けらしく同じく応募していたヴァルキューレに向かう。
ヴァルキューレと言っても分館だ、本館はアイドル以前に「部隊再編が忙しい」とか「新規則とアレコレの書類確認が」と忙しい。
幸い生活安全局には関係は無い、すでにそこらの手続きは完了している、警備局や一部部局が宿題のツケに困っただけだ。
「生活安全局の二人か、お前らもアイドルなるんか」
「ネー、誰がアイドル企画なんか通したんだか」
「本官としては良いと思いますけどね」
フブキとキリノが担当と聞いて、取り敢えず安心出来た。
キリノは熱血真面目のアホで、フブキは面倒くさがりだが仕事に手の抜かないバカだ、安牌であろう。
「というか広報なのは分かるがなんだドーナツコラボというのは」
「はい、普段注文しているドーナツ屋に頼まれたそうです」
「癒着か官製談合じゃねえのかそれェ!」
「公開入札ですよォ!」
ドーナツ屋の宣伝も兼ねてるらしく、公安局長のカンナは今回は戦略的撤退に成功したらしい。
なんでもカンナ曰く「あー、今ウチの所はカイザー侵攻時の穴あき通路とか直さないといけないからなあー」とすっとぼけている。
あの水着のお返しなのだろうか? あれ以来精神的にも元気になってきて素晴らしい事だ!
取り敢えずドーナツでも食べながら話すかと軽く歩いていると、そのドーナツ屋に特型遊撃車が止まる。
「‥‥‥あれヴァルキューレ警備局の機動隊だよな」
「そうですね、なんか店包囲してますけど」
どういうことだと近づくと、防弾装甲バイザーを上げたヴァルキューレの生徒がドーナツ屋を指さした。
「はあ、ヘルメット団の阿呆が立てこもってます」
「‥‥‥なんでまた」
「限定ドーナツ整理券とかじゃないですかね?」
大楯を構えて包囲線を展開し、警備局機動隊が封鎖線を構築した。
M92ヘルメットを締めなおして、その中隊指揮官は「どうします? 一応うちらでもなんとかなりそうですけど」と尋ねた。
基本的にだがヴァルキューレの生徒、警備局の機動隊ならヘルメット団やスケ番程度はどうとでもなる、まあこの世の大半の不良は勝てるわけだ。
問題はキヴォトスの大半の問題は普通じゃない連中が起こしてるわけである。
七囚人とか出てきた暁にはスパムアタックするくらいしかなくなる。
「そうだな、んじゃあ俺が降伏勧告してみるか?」
「出来るんです?」
「酷い事言うね君」
ちょいと失礼と大楯による包囲線から一歩踏み出し、拡声器を使う。
「誰が籠ってるか知らないが、こちら先生だ、おどりゃ出てこォーい! 警備局蹴散らしても逃げれると思うなよこのォ!」
「これだ」
後ろで中隊指揮官が呆れ、突入準備を命じる。*3
しかしヘルメット団は俺を見たら人質と仲良く投降してきた。
どこかで俺が担当した奴らみたいで、えらい目に会わされる前にさっさと投降するとの事。
アンタ人質効きそうに無いしと申していたが、半分不正解だ、ちゃんと考慮している。
「なっ、出来ただろ」
「ただ単に食物連鎖なだけじゃないですかこれ?」
「うるへえ、2個分隊が側面建物から進入して突入するよりいいだろ」
最近は突入戦術も洗練され始めた、どうであれ逮捕出来る。
アビドスみたいに立てこもられたら、クレーン車と放水車でも併用するがな。
それに警備局も特型警備車に
あとは曲かと名簿を確認していると、ウタハ部長が参戦していた。
ウタハ部長は演歌が好きというのは知っている、エンジニア部の部室に行くと偶に流れているし、エリドゥ進撃時に歌っていた。
前歌うとこを聞いたが普通に上手かった、連中曰く俺の歌い方は、号令や演説の癖が強めに出てる節があると言われ、アドバイスを少し聞いて見ると少しマシになった。専門家のアドバイスは大事だと思った。
マリーに「要するに何のために、どの様にイメージして歌うかだね」と諭すウタハ部長だけ見れば立派な人徳者だ。
特に5日前に試験場を爆発させたという話を聞いて無ければ、だが。
それを後ろに、アホの群衆役にゲーム開発部やコユキを徴発する。所確幸の連中や応募エキストラだけでは花が足りない、刺身のツマで言う大根と合わせるタンポポだ*4
魔女を燃やすべきだというが、魔女は木と同じ軽さか? という問いでしばらく悩む考えなしのアホの群衆役である。*5
マリーをシスターフッドに送ると、またあの二人がバチバチしていた。
撮影も不安だが、こいつ等も不安だ。
シスター役でヒナタ借りたいんだけど、という事を言いづらい。
「というか、なんで先生は中世の兵士の姿を‥‥‥?」
「うちらの出し物の撮影途中だからだけど‥‥‥」
「そうですか」
「あと二人とも衣装は壊れやすいから練習はジャージとかにしといたほうがいいぞ」
俺とノアの役は砦の兵隊の役だ、罵声と一緒に上から鶏やら牛の模型を投げつけるのだ。*6
攻城塔を組んだりするシーンが終わり、今はカタコンベの聖堂前に潜むカルバノグの兎と戦うシーンを撮っている。
神官役にやはり本職が欲しいのでシスターフッドからも人手が欲しいのだ、聖なる手りゅう弾受け渡しシーンで必要だ。
「なんでわざわざユスティナ時代の服装まであるんですか」
「なんでって‥‥‥時代考証‥‥‥」
「何処の騎士物語に開幕12分で”池の女神から剣を貰っても行政権の承認じゃない、大衆権力の移譲は民衆が決める”なんていう無政府主義の農民が出るんですか!」
「だから面白いんだろ!面白ければ客は付いてくる」
サクラコの「そうかな‥‥‥そうかも‥‥‥」という押し切りを超えて、撮影人員を確保する。
冒頭シーンの「馬の予算無いし馬の足音は殻で音鳴らして誤魔化してる」のも撮影が終わった。
主役の”騎士王”役の宇沢レイサが「5オンスの鳥が1ポンドのヤシの実を運ぶのは無茶ですよ」と呟くアドリブも採用した。
「定期の死体回収ー」
鍋を叩きながら荷車を進めるサヤ*7に、セイアを担いだアズサが近づく。
「いくらだ」
「9ペンス」
「そうか、頼む」
「生きてるのだ」
「もうすぐ死ぬから良いんじゃないか」
「規則違反なのだ」
「下ろしてくれないか?」
「ほら喋ってるのだ」
ちらりと後ろを見てアズサが尋ねる。
「次来るの何時になる」
「来週木曜なのだ」
「それじゃ困る予定がある」
「ぼくにもあるのだ」
「下ろしてくれないか?」
アズサが20ペンスを取り出した。
「金で解決するのは感心しないぞ」
サヤが鍋でカンと頭に一撃かまし、アズサは「すまないね」と告げる。
真横を宇沢と従者のナツが走り行くのをみて、サヤが尋ねた。
「ありゃ誰なのだ」
「知らん、国王だろ」
『カーット!』
お疲れさーんと声をかける、なんだかんだ撮影は順調だ。
「なんでこの役が私なんだい?最近寝てたから謂れはあるが」
「今にも死にそうだし粗雑に扱えるからかな‥‥‥」
「何てこと言うんだ、門主には言わないのか」
「あっちじゃカグヤとかまでセットで来るからなあ、色々面倒くさい」
電話が鳴る、アヒル*8を抱っこしたミカが呆れた顔をしていた。
ミカの後ろじゃ各自自前の中世から古代末期の装具で身を包んだパテル派の生徒が待機している。
「ナギちゃんからシスターフッドと救護騎士団がクーデターを企んでるから、早く来いって。心配症の疑心暗鬼って怖いよね」
「あいつの疑心暗鬼って持病みたいなもんかよ、着替える暇もなさそうだな」
戻ってきたら残りのパート撮り切るぞと言って、現地に向かう。
周りが決闘だの言ってるが、突発的ならもうしてるだろう、俺ならそうするもん。*9
こいつ等の悪癖はまだ治っていないらしい。
「なんで今度はミカさんまで仮装してるんです‥‥‥?」
「撮影クライマックスじゃんね、仕事途中じゃんね」
「シャーレはなにをしているのでしょうか‥‥‥」
周りや二人も俺達がコスプレで現れたのが不思議らしい、一触即発の雰囲気は流れた。
中世老婆風の仮装をしたセイアが出てきたから猶更困惑の度合いを深めている。
「解散だ、ボケ共! 公聴会の時言ったこともう忘れたか? もう一回やるか!?」
「ですが先生!」
「ですがも案山子もあるか! ミカぁ! こいつ等噴水に投げ込むぞ! この時期の水だ!頭が良い具合に冷えるだろ!」
「衣装がまずいじゃんね」
呆れたセイアとミカがナギサを連れて帰っていき*10、マリーが「どうするんですこれ」とみてきた。
そもそもなぜこんな事をと聞いたら、アイドルにはリーダーがいるという話がこうなったらしい。
「そうなの? てっきり無政府主義農民共同体かと」
「先生それ演劇の台詞です、なんならデカルトの台詞ですよそれ」
後ろでミヤコが呟いた。
「別にリーダーと言ってもなあ、一番目的を理解してる奴で良いんじゃないか」
「誰です」
「いるじゃないの、そこにアイドルとは何かフィールドワークしてた奴が」
「「あぁ確かに」」
言われてみればそうだ、とサクラコとミネが得心したようにうなずいた。
マリーだけが「なんで!?」と驚いている。
「若さに任せて無茶できるのが若者の特権だ、冒険してこい」
「い、良いのでしょうか‥‥‥?」
「いや別にうちの演劇でなんかしても良いけど‥‥‥大半の役決まって撮影してるし‥‥‥」
「手が早い‥‥」
「それにまあ、みんな納得してるしなあ、まぁ家の撮影見てから決めても良いんじゃない?」
マリーは根負けした。
撮影現場へ戻る、現場では無政府主義農民の二人、デカルトとミノリが騎士王と遭遇するシーンを描いている。
このためにわざわざ古書館の山から衣装資料を見つけ出したのだ。
「なるほど王様か、どうやってなったんだ? 農民から搾取して? 時代遅れの帝国主義で、社会と経済格差のドグマを永続させてヘゲモニーを確立させてか?」
「良い肥やしになりそうな土がありましたよー、その人だれです」
農民の姿をしたデカルトがカットに入る。
「私は騎士王! トリニティの国王であーる」
「それ誰?」
「我々全員、そなたの王」
「そうなの? てっきり自治共同体かと」
「ばかこけこの学校は専制君主主義だ、永続的な少数独裁的寡頭政治で労働者階級は」
「また階級の話か」
「仕方ないさ。プロレタリアの救済は自己が自己を救済する認識を持たねば」
「すみませんが、先を急いでいるんです、あの城は誰が領主代官で?」
レイサの問いかけにミノリが答える。
「そんなもん居ないよ、私たちはアナーキーサンディカリストコミューンだ。週替わりで役員を交代し、決裁は隔週の役員会投票で決めるんだ。内政に関しては半分の賛成で、それ以外の重要な事項は3分の2の投票率を下限とする総員の投票で決める」
「分かった、分かったから静かにして」
「何様のつもりかね」
「騎士王」
「私ゃ投票してませんけど」
「投票は不要ですよ!」
「じゃあなんで王様なんです?」
待ってましたとばかりにレイサが剣を抜き、胸元から手紙を取り出す。
「輝く青い髪を纏った白い服の偉い人の手によってだ! 手紙とタブレット端末と聖剣を掲げて、天命により任じられた! だから王様です」
ミノリとデカルトが呆れた顔をする。
「いや落ち着いて聞いてくださいね、変な女が封筒とか手紙とかタブレット端末をくれても、政治組織の根拠にはならないんですよ。最高行政権とは掣肘され規制される大衆による監視のついた委任で生まれるんです。怪しげな水の儀式じゃねえんだ」
「黙れ!」
「ずぶ濡れだか血まみれだかの馬鹿に剣だか手紙だかを貰っても最高行政権に口出す権利も介入する根拠もない」
「シャラーップ!」
「それだと私が皇帝になれるじゃないですか、びちょびちょのアホにタブレット端末渡されたのが神聖さの根拠なワケ無いでしょう」
「お黙り!」
レイサが空に散弾銃をぶっ放した!
「政府に付き物の暴力だ」
「じゃかまし!」
「政府による暴力だ、助けて助けて弾圧される! 介入主義だ!」
「クソ百姓め」
「酷いな、今の聞いたか?」
『カットー!』
号令が入る、笑うのを堪えていたマリーが肩を震わせていた。
終わった途端に爆笑していたのは撮影助手兼考証担当のハナコだ、机を叩いて笑い転げている。
キキョウなんか笑い過ぎてむせていたし、イロハも爆笑していた。
「いや痛快、実に面白い、先生も中々」
「だろ! 台詞考えたのあいつらだけどな」
ハナコがひとしきり笑い終え、いやあ面白かったと呟く。
時代考証はウイとハナコを動員したのでかなり凝っているが、ギャグは細部にこだわりつつ大味にというスタンスは変えていない。
お陰で聖なる手榴弾のシーンは聖歌輪唱する事になった。
あれはあれで良いシーンだ、アツコとヒナタがユスティナの衣装で「兵器取り扱い説明書 第二章 詩編9-21」と読み上げる。
読み上げるのは「聖ベアトリヌスは手りゅう弾を掲げて言った、主よ手りゅう弾に祝福を、慈悲の力で敵を吹き飛ばしたまえ。主は微笑み、宴の席についた、トマトと、タコと、林檎と、今朝採れたてのカインとアベルと」などと読み上げるのだ。
なまじトリニティだから神官が読み上げるときに真面目な顔つきでやるからなお面白い。
アツコとヒナタが「ピンを抜いてから3数えよ、4ではなく、2ではなく、まして5などもってのほか」と読み上げるのだ。
「最終カット撮影準備出来ましたー」
合図が入る。
広い野原に見事な攻城キャンプが組みあがっている。
「なんでこう、なんでこう考証に糸目つけないんです」
「だって凝った方が面白いし……‥‥」
こうした製作経緯で始まったなまじ公式と言い張るのがやや憚れる作品は、大ヒットしたものの通常放送1回目の建築家題材スケッチにて、模型のサンクトゥムタワーが発火するネタを仕込んだ為連邦生徒会から厳重注意が飛んできた。*11
かかる2回目の放送に際しては「この度は、DUの白服が馬鹿で間抜けで利権にしか食指を動かさず、こと有事においては狼狽し、危機に対応する力が無く、汚職と不正を愛し、ろくでもない奴らなどと思わせた事を、連邦生徒会外局としてお詫び申し上げます」と、謝罪文を載せた事でやはり大騒動になった。*12
3回目では何故かカイザーからスポンサーの契約が来たので、無理な動員と粗雑なものしか売らない企業のスケッチをすることになったが‥‥‥。
何故かそのスケッチのネタをカイザーの株主総会で引用される事になった。
まあ、故シマエナガくんのネタは個人的に好きなのだが‥‥‥。*13
吹っ切れたマリーはリーダーを請け負った。
グループ名はアンティーク・セラフィムだそうだ、当日見に来てくださいねと言われた。
本祭編は未定です。
原作のどっちを見たり知ってます?
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長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
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ブルーアーカイブだけは知ってます
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どっちも知ってます。