キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
祭典当日は朝からなんとも変な事が起きている、朝っぱらからアヤネとセリカが「やっぱ無理」と縮こまっていると言われた。
「思ったより大きくないですか舞台」
「ん、トリニティだもん」
シロコの捜索で確保された二人だが、最終的にシロコのキラキラした眼を見せつけられてなんとか決意した。
シロコはどこか後輩を可愛がる習性が強い。
幸いバイト戦士セリカの「集中と気合!」という言葉が効いたか、アヤネもある程度吹っ切れた。
「ある意味歴史に残るな、キヴォトスでも早々いないんじゃねえか? 生徒会長がアイドルしてるの」
水を飲みながらそう呟くと、少しシロコが嬉し気にしていた。
”アビドスの歴史は此処からも続く”という事だからだ、砂祭り再開計画も草案段階であるが、一応開始している。
当日、各所を見て回ろうとパンフを開いて歩く。
ウタハ部長のなかなかコブシが効いた歌声が響いているが、良く通るいい声だ、
すると、どたどたと正義実現委員の腕章を付けたコハルと正義実現委員が数名やってきた。
「ハレンチ! ハレンチ! Hなのは規制!」
「なんだあいつら……」
コハルの様子に困惑しながらも、後を追ってみる。
スイーツ部の茶店らしいが、中を確認すると確かにコハルの言い分が正しいと感じられた。
なんでヨシミとカズサはそういう恰好をしてるのだ、というか服じゃないだろそれは。
そういう店じゃないだろ!
「風営法違反! 死刑!」
「ちぇー、権力の走狗ー」
ナツが駄々をこねているが擁護が出来ない、なんだあいつら……。
コワーと呟きつつその場を離れる、コハル、後は頼んだ。
飯でも食うか、と出店で軽く軽食を買う。
ハルナが何もしてない辺りまともなのは分かる、サンドイッチを買って軽くベンチでも探すかと歩いているとヘルメット団が居た。
「よォおめえら、道ふさぐんじゃないよ」
「あっ、先生。まだ何もしてないよ」
「くそぅ、病院か留置所にまた叩き込まれるんだ」
ヘルメット団の連中が56式やAKMをぶら下げながら、「ぶー」と声をあげている。
装具品もM69フラックジャケットやLCEベストを着けている、最近は不良も武装が更新されてきたな。
「その位じゃ何もしないって、バイク往来に置いてそこに固まるなって事だバカヤロー」
「あー、それは」
少し事情を聞いて見ると理屈は簡単だった、カーニバルに見物に来たけど座る場所とどう回ろうか決めて無かったらしい。
何もしてないならまだ良いが、それはそれとして言うべき事はある。
「意図がどうあろうが、変な圧が出てるんだよ集まって来るのはお巡りさんだけだぞ?」
「偏見だー!」
「シャーレが武装して封鎖してたら通りたいかオメー?」
「あー、うん、何となく分かったわ」
ピンク髪は曲者が多いが赤髪は基本的に分かりやすい奴が多くて助かる。
たしかコイツはワカモにボートをパクられたアホだ、運がない奴だと思う、弱肉強食の中のあまり強くない奴だ。
たしか最近じゃちいかわとか言うんだったか? *1
「こう言うのを機会に復学をだな、支援やってんだよ?」
「例の復員省?」
「矯正局やアリウスの子達みたいな訳ありじゃないと駄目なのかなって」
「社会復帰支援所だ、シャーレ公報を読めバカヤロー。何のための無料配布だと思ってんだ?」
「炊き出しにはお世話になってます」
まぁ、アビドスの時や色彩の時の借りもある。それに匹敵する事件が起きてもまた世話になるだろうし恩を売っておくか。
打算的であるがしないよりはした方が良いし、少なくとも俺はこういう奴のお陰で爆殺から救われた。*2
それに俺は与える者、導く者になりたいという欲に素直でいたい。
「いっしょに回るか?」
「いいの!?」
「いいんじゃねえの、しらんけど」
「……この大人戦闘時は直截明確なのにオフ適当なんだなあ」
「機密事項だぞオメー」
何か舞い上がって居る、喜んでる様だしいいか。
しかし、こいつ等の呼び方と雰囲気のせいで外で部隊率いてるときを思い出した。
ふと、なんとはなしに思っていた事を尋ねてみる。
「そういやヘルメット団って儲かるの? 復学とかしたく無くなるぐらいには」
「そこまででも……ホバークラフト取られたっきりだし、あの後先生達が、ハープーンやらヘルファイアやら撃ちこんだせいで」
「お金になることしてても、先生吹っ飛ばすじゃん」
そりゃ犯罪だからだろうが、と呆れながらも話を聞いてみると、なるほどと思う事もあった。
そもそもヘルメット団の連中やスケ番にスラム街の増加原因の一つは、アビドスに起因している。
バブル崩壊と人口流出と失業と経済崩壊と不作と農業崩壊、環境破壊と天候不順が完全にキヴォトス経済を滅茶苦茶にしたらしい。
廃校になったクロユリ学園だかがスラム化したのはそうした経済危機のせいで、そういう間隙を突いてカイザーが成長し、流民化し手に職付けれない奴らが野盗となる。
まあ順当な話だ、そうもなる、なのに放置してた連邦生徒会会長殿は何をしてたんだ。
「それでもブラックマーケットの傭兵は御免だけど」
「カイザーやらシャーレやらへの水増しでぶつけられるのはねェ……」
「悪貨は良貨を何とやらだが、悪貨を撒く奴には厄災をだからな」
ヘルメット団の一人が思い出した様に声をあげた。
「そう言えば、前アビドスの時に居た子が勲章付けてたんだけど、どうして?」
「あれか? 働きをホラ話扱いされた奴に褒章をやった」
ええっーずっけぇ! と声が上がる。
「私達貰って無いんだけど」
「報酬は出した、危険手当含めて各自35万やったろ」
「そう言うのじゃ無い!」
「自分最先頭だったのに!」
「2度倒れ3度立ち上がって進んだのに!」
大きくため息を付く、勲章なら一つ大きい前提もある。
「軽犯罪かもしれんが、そう言う組織に参加してる奴に勲章渡せるわけ無いだろ」
「でもその子は」
「そいつ今ラーメン屋で修行中だとよ、この前手紙まで来た。就職して改めて受け取りに来たぞ」
「不公平だー」
「渡した後犯罪を犯したら没収だ、その意味わかるか? そしてそれに勲章を渡した俺も大恥だ」
「でもそれがあれば、足洗うにしても楽だし」
「え、こわ、ナチュラルに恐い事言うなお前」
キヴォトスの闇を聞いて居る気分になる。
そうしたアフターケアも無いのここ? マジでか、革命期フランスもびっくりだぞお前。
そしてそういうのを聴くと、なんでカイザー相手にこいつらが戦ったか、なんとはなく理解できた。誰も彼女らに手を差し伸べなかったからだ。
酷い話である。
「飯でも奢ってやるよ、褒章は即座にやれんが」
「こんなにくれるの?」
「暴れなかった自制心やその他に対するお小遣いだ、運が良かったな」
慈悲や同情ではなく将来への手付金だ。
等身大の人形を手に入れようとクレーンゲームで悪戦苦闘してるのを見ながら、のんびりとしているとミカがやってきた。
「先生ー! 企画、前日の緊急キャンセルで当選したよー!」
「え?」
「出たいって言ってた奴」
「あれはジョークなんだが……」
ミカが「でも通っちゃったよ」と書類を指さしている。
「先生ギター弾けるって前に言ってたし生演奏したら?」
「やるかあ……」
待機スペースに歩き、一応礼装を確認する。
ちょうど終わったアビドス組が大きいシロコ先輩と縋って居る、クロコはまんざらでもなさそうだ、シロコに何かドヤ顔をしてるように見える。
なにしてんだアイツら……。
ギターはちゃんと手入れされている、取り敢えず何かやるか。
ギターで弾き語りをかねて、前にハナコが歌ってたヤツを思い出しながらやったら検閲された。
ちょっとばかし歌詞が「出てこいよトリニティ、勇敢なお前らはユスティナの虎の威を借りて騎士長官を追い出したんだろ」とか歴史を歌っていただけなのだが。
なんだよちょいとばかし「アリウス派を三人だけ呼んで自分たちは140人だったか?」*3とか「サクラメントを冒涜した」*4とか歌詞があるだけだろ!
「ちぇー」
仕方ないのでアビドス方面隊で流行ってるBIG IRONという歌にしてやった。
賞金首とレンジャーの対決を歌ったものだ、寡黙なレンジャーがどう賞金首を倒したかという内容が人気がある。
Marty Robbins - Ain't I Rightは流石に勘弁しておいた。
外に出て、ナギサの個展に顔を出す。
「よ、クッキー美味しかったぞ」
「あら、思ったよりおはやい」
画廊を見ながらのんびりと歩く。
美術館計画を進めたお陰で、色々とここの絵も見慣れてきた。
絵の具の色合いも時代が変われば変わるものだ。顔料の材料の有毒性で使われなくなった物も多いそうだ。
しかしまぁ……。ロールケーキが多い。これだけ出されたら胃もたれは確実だ。
「懐かしいな、昔を思い出す」
「またなにかやらかしたんです?」
「酷い事言うなナギサ。絵描きには思い出が多いんだよ」
「画家に知り合いが多いので?」
「そんなところだ、誰も彼も依頼料が高いのなんの、一人は昔のクソ上司」
苦笑しながら先生にも上司がいた時代があったのですねと苦笑される。
俺だってペーペーの平尉官時代はあるわい。
「では、そのクソ上司をどうしたのですか?」
「友人と組んで敵からしか見えない角度の木に当ててみろ、へたくそって的を描いた垂れ幕を飯食ってる時に垂らしてやった。腰抜かして逃げるさまは良かった。そいつに弾は当たらなかった、下手糞が」
「堂々と後ろ玉しましたと言われても」
「時効だろうからな」
タブレットのあの絵を思い出すとつい言葉が出た。
「絵描きに必要な能力の一つってなんだと思う?」
「先生の質問ですから普通では無いんですよね」
「クライアントの欲しい物や表現したいものを理解することだ」
「詳しいんですね」
「俺も絵描きじゃないからよく分からんが、そこが超一流と一流の壁だろうな」
「先生も絵を?」
「測量や地図見るのは得意でもこの辺りはなぁ……」
確かに画廊が戦闘中だったか都市開発で邪魔だから吹き飛ばした件と、その他いろいろがあるのだ。
水を飲み一息入れると話題が変わった。
「ホーリーグレイル、ウケがよろしいようで」
「ヒット映画の主演は大変そうだ、今頃アイツブースでもみくちゃだろうよ」
あれが売れる事でトリニティの堅苦しいという雰囲気も変わるだろう。
多少ガラが悪いかも知れないが、馬鹿みたいに内ゲバするよりは良い未来だ。
「だからといって中々ぶっ飛んではいないかね、あれ」
「可愛かったなぁ、あのミレニアムの子達」
セイアとミカが笑いながらやってきた。
群衆役にゲーム開発部を呼んだのは見るからにバカで体格も小さいから、衣装代を少しでも安く済ませる為である。
「というかどうやって歴史考証の資料を掘り出したんだい」
「古書館にシミコを動員して人手も出して総洗いで……」
「なにしてるんだ先生……」
「やると決めたからには自分が納得できるものにはしたいじゃないか。評価はその後だ、じゃぁ3人で仲良くな」
セイアの呆れた感想と、あちゃーと頭を抱えたナギサの嘆きが画廊にこだました。
外に出てみると、パンツスーツの似合うイチカが同じく休憩していた。
あいかわらずと言うべきか、妙に他生徒に群がられている。
カルガモの群れみたいだ。
「よお、舞台は順調か」
「中々順調って感じっすね、まあ色々と起きてますけど」
正義実現委員会の出し物がシンプルな姫と王子の話なのはやや驚愕した。
曰くハスミなりのツルギへの気遣いらしい、相変わらずの女房役だ。
正義実現委員会なりの得、というのもある、まず民衆の支持と賛同の得やすさだ。
理解にはまず認知が居る。
「新設した部隊も大丈夫か?」
「
「そうか」
ミカとツルギと俺のある種の裏工作、ついでに安定化政策だ。
つまるところ言ってしまえば、最後までミカを支持した分派の人間への報償を出さねばならないわけだ。
それが出来ないなら分派指導者なんかならない方がいい、立場はそうしたことを要求するし、義務と責任がある。
ツルギ達からしても訓練優良な部隊を抱える得も大きい、全員の幸せになる訳だ。
かつて俺が老親衛隊にしてやれなかった事でもある。
「ただM4系だから慣れない点もあるっすねえ」
「まあ武器の慣れは時間しかあるまい」
こればかしはしょうがない。
しかしミュージカルというのも大変だ、Oh! What A Lovely Warを正義実現委員が歌うのはなんとも皮肉だが。
アイドル大会は骨を折った甲斐がありアンティーク・セラフィムが優勝、俺は参加賞の余りのメカペロロMK-2アイドル仕様を進呈された。
帰り道変な仮面付けたサクラコとミネが居たが、2人が多少仲良くなったのならそれでいいだろう。
帰ったらシャンベルタンでも開けるとしよう。
感想・評価お願いします!くれた人は何時もお世話になって居ます。
誤字脱字などの報告本当に助かっております、今回もこの場を借りてお礼申し上げます。
原作のどっちを見たり知ってます?
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長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
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ブルーアーカイブだけは知ってます
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どっちも知ってます。