キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
トリニティ講堂は正義実現委員や自警団の生徒たちで満たされていた。
理由は簡単、先生の「
「━━近代陸戦の三種の神器と呼称すべき航空優勢、機械化による優勢、火力優勢の重要性は諸君らの知っての通り極めて高い。
先の戦いにおける彼と我の戦闘は戦略・戦術的な点から簡単な結論が出来る、まず単純に機械化された部隊と航空戦力を有しても戦略面の問題は戦術で解決出来ないと言う点、火力投射はその三大原則である時間・数的・質的優勢を出来うる限り守ることと言う点である。
特に重要視すべき点は戦略目標の必成目標と望成目標の徹底した把握、戦略指揮に関しての統一見解、戦術指揮官への自由裁量の委託と訓令式戦術である」
小難しく聞こえるかもしれないが、要するに「おつかいは何を買わせるか明確化させろ」*1である。
講演が終わり、解散を告げる。
正義実現委員や自警団、更に各分派の生徒が口々に「面白かったね」や「黒板あそこ迄使ってるの久しぶりに見た」などと言いながら退室していく。
講演とは言っていたが、飲食構わずだった。最初に述べたのは「腹に俺の言葉も詰めといてくれ」で、掴みを得て始めたのは正解だったと思う、飲食に負ける様な講義をするつもりは無いが。
講堂を出て、噴水がある公園のベンチでハナコが本を読んでいた。
「……カーマ・スートラ? お前読めるのか?」
「未知を既知へ変えるのは楽しいと思いませんか?」
揶揄うような顔をしてるハナコを横で見ながら、ため息を付いて笑う。
俺相手に脱衣が効かないと思うとこれだ、俺相手に全裸になったとしても感想は「自身や友人の価値が落ちることは止めた方が良い」だ。
……白河やモモイのアホだとただの風呂上がりの馬鹿なのだがなあ。
「進路や人生相談なら聞いてやるってあの時言ってたじゃないですか? あの初夏の暑い夜をお忘れで?」
「お前は冷凍マグロみたいに冷えてたくせにな、自身を危険に晒して大事にされてるなどは止めておくと良い。心の底からの忠告だ」
「堅そうな人かと思えば随分荒々しく破天荒な矛盾の塊のような方がおっしゃられますね、実際に本で悪徳とされていることを行うとお思いで」
「子供がそれを道徳にしないように教育があるのさ。本自体は悪では無いしな」*2
後ハナコよ、お前は基本的に人間の最低値の見積もりがまだ甘いな。
少しハナコが視線をとがらせた。
「まぁ、先生がそのような事を仰って良いのでしょうか?」
「頭の良い奴が陥りやすい案件だからな。周りに期待して、勝手に絶望して暴力の正当化を始めるんだよ。汝隣人を愛せよとはよく言ったもんだ。……まあ失業中本屋でバイト中に悪徳の栄え初版読んでた俺が言う事じゃねえが」
「……読まれた事があるので?!」
「直ぐに売れちゃったがな」
こういう風に自然に話題の方向を誘導すれば、乗ってくれるあたり、周りは此奴の本音を聞こうとも理解しようとも思わなかったんだな。
才人は変人奇人が多いんだ、逆に変人奇人でも能力で這い上がれる、残りの大半と言う事かねぇ。
前アコを見せたら、此奴「流石ゲヘナ風紀委員会の行政官殿。感服いたしました。私もまだ修行が足りませんでした」との事、傍から見るとアイツのキレ芸面白いんだよなぁ。
「人を愛せないと不可逆的な惨禍が起きやすいんだよ。そして相手を知るのも難しい。俺もお前もお互いを誤解してただろう、冷凍庫みたいになったあの初夏の夜まで。そして今も完全にとは行かない、ホラ寮に着いたぞ、これは没収だ」
むくれても無駄だ、バレないようにしなさい。証拠品移送鞄に入れる。
道中でハナコがピンク本読んでいて没収と補導したせいで少し遅れそうだ。
シスターヒナタの用事とは何であろうか? これが終わったら帰りに書類を貰わないと駄目なのだが。
少し歩いて、シスターフッドの聖堂へ着く。
カタコンベの調査中に見つかった物の話らしい、最近シスターフッドは大忙しだ、アリウス解放で色々と仕事が増えてるし。
無論良い事の方が多い、シスターフッドの献身はかなり貢献している。
「すまん、すこし遅れたか?」
「ほぼぴったりですけど、何時も10分前には到着してる先生にしては珍しいですね」
サクラコが意外そうな顔をしながら、奥へ案内する。
大聖堂はかなり一部が入り組んだ構造で、旧ユスティナの時代の建造物だからか邀撃も考えていたのだろうと言う。
以前にはマリーが「お化けが出るという噂があるんですよ」と言っていたが、真相は聖堂のオルガンが空気の流れで音を出していただけだ。
「補導してたら遅れた」
「先生らしいですね」
要件は何処からか見つかった、聖典の発表会に参加して欲しいとの事。
奥でシスターフッドのヒナタが出て来た、度々手伝いに来ているので分かりやすい。
荷物を運ぶに際しては力持ちなのは良い事だ。
「そう言えば先生も古代語読める人でしたね、経典の引用も良く使われてましたし……どこで学ばれたんです?」
台車を転がしているヒナタが尋ねた。
「赤点ギリギリでなんとか単位だけ取ったんだがな、言語系もそれで単位取ったし」
「どういう学校だったんですか? 噂に聞いてるだけだとミレニアム見たいな理化学系かとばかり」
「それに多言語と古代語は単位が必要なとこさ、フェンシングも習ったが」
家の事情で士官学校RTAする羽目になったとはあまり言えない。
ああ、我が青く遠いろくでもない青春よ。
「サクラコ様の古代語音読は奇麗なんですよ!」
「そりゃぁ、聖職者だしなぁ、前キリエの輪唱混ぜられた時偉い恥かいたぞ……」
会場の話とかの雑談をしていると、聖典を見せてくれる。
「しまっとけ、何かあるとまずいぞ」
「分かりました、でも随分開けて無いからか、埃が……」
そう言う物は専門の道具が必要だと思うし、シスターヒナタは無意識に力を入れてしまうタイプだ。
判断ミスと言うのはやはり気づいたときには手遅れになるのが世の常らしい。後悔は先に来ずとはよく言ったもんだ。
ばらっと音を立てて、本が崩れた。
「あっ……」
「経年劣化って怖いなぁ……」
パニックになる、ここ一番でやらかすと基本そうなる。
経験則から先手を打つしかあるまい。
「動くな!」
「はっ、はい」
よーしいい子だ、少し冷静にさせて、代わりに電話させる。
「いったん外に出て深呼吸してきなさい、その間に打てる手を考えて置く」
「でっ、でも……」
「信用してくれよ、とりあえずトリニティ外の専門家がいるから連絡宜しく」
素人知識が一番危ない、専門家が一番だ。
どいつもこいつも、開口一番大声出しやがって……。
パニック起こした奴は軽い仕事させて麻痺らせて置いた方が良い、何かしてりゃ頭は落ち着く。
「家だと基本こういう感じだけど、何で木箱に入れっぱなしだったの……一応PDF送りますね、深刻さは通じると思うので」
流石レッドウィンター、修理には詳しいがこりゃここで修復は無理だ、家でやるのは暗号文の修復だから紙はしっかりしてる場合が多いから違うのだ。
とりあえずこの本はトリアージが黒手前と言うことだ。治ればいいと言う事にして開き直ろう!
木箱は無理だが、押収品鞄なら入れることができる、重要書類の移送にも使えるのだから木箱よりマシだ、押収品だがカーマ・スートラを代わりに野ざらしにしないように木箱に入れて置く。
「此処で俺達2人じゃ無理だ、シスターヒナタ。俺から連絡しておくからウイ連れて来てくれ」
「はっはい!」
いつも手袋は持っていて良かった。
その間に本を集める、これでも昔古本屋でバイトしていたんだぞ、とりあえず入れてるだけでボロボロ崩れる辺りヤバイ。
紙魚が居たがこの2日で入り込んだのか、普通にあと数日で風化してたんじゃないのか? サクラコが持った途端砕けそうだ。
一応片付け終わるとウイに連絡を入れて置く、遺跡探検のみたいに誘拐まがいは駄目だろ。
「はい、古関です、あっ先生? 何の様で」
「君を古書のエキスパートと見込んで頼みがある」
「はっ、はぁ……」
「100年以上前の古書が発見者が雑な保管してたせいで、今現物確認したシスターが破損させちまった」
「は? ……あぁぁ? ジョークじゃ無いんでしょうね?」
「それで俺が電話すると?」
電話の向こうから悲鳴が聞こえる、ひやあぁ!? ではない声だ。
その後深いため息が聞こえた。
「今外に私呼んでる方が居るんですけど、そう言う事ですよね?」
「速達で運び込まれてきてくれ、患者が死んじまうぞ」
その間聞き込みと調べ物をしていると、ヒナタがウイを運んで来てくれた。
お姫様抱っこで直送されてきたが、あまりの速さにウイが眼を回していた。
「そ、その子を見せてください」
鞄を渡し中を見るとまた悲鳴だ。
「なぁ、あの古書館って薫蒸機あるのか? 紙魚やら居たし、カビも付いてるぞ? 普通に復元しても一年持たんだろう?」
「保存の手順以外にも詳しいですね、何かしてたので?」
「古本屋のバイト経験だ、ボロボロに崩れるからあのレベルは買取は断ってたからな」
報酬はソルート川沿いに売っている限定の「ミラクル5000」を要求された。
なんだそれは、新種のライフルか? 似たようなのを聞いたことがあるが。*3
「薫蒸機の当てがあるので?」
「あるから言ってるの! 先にこいつと出発してろ、取り敢えずそのケーキだかを買って追いつくよ」
ウイが「アリウスからの本の修繕が来てるのに……」と呟きながら空を仰いでいた。
残念ながら出来る奴に仕事が押し寄せるのだ、諦めろ。できる奴だから俺も頼るのだから。
そこそこの人だかりが出来ていたが、様子が奇妙だ。
よく売れてると言うか品薄にみえるが、周囲の様子が何か違う。
「おー先生、こんちゃーす」
スイーツ部のナツが相変わらず牛乳片手に声をかけた。
物怖じしない性格で、たまに本庁舎のカフェに来ている。
「どうしたんだ?」
「キャピタリズムのメイルストロームよ、やんなるね」
「具体的には」
「アホ、買い占め、群衆グツグツ」
端的な表現だ、独特のセンスをしてるが。
買い占めするほど終わってねえだろ経済は、と思いながら呟く。
「その買い占め人は首刎ねた方が良いな、シスターも居るから簡易葬式が出来てお得だ」
「先生呼んだらそうなりそうだから、シャーレか自警団かどちらに連絡するか相談してたんだよね」
カズサに正義実現委員会の仕事の範疇ちゃうんか? と尋ねると、範囲外に近いから活動の隙間にあるらしい。
エデン条約以降学園外に近い地域で迂闊に何かしたくないという政治的配慮だという話だ、何故自警団があって正義実現委員会と揉めてないか良く分かる。
だが政治問題になるとしても、それは別の案件でどうとでもなる。
「じゃあまあ、政治的に完璧な解決法をするか。お前らもチョイと来い」
「え、うちらも?」
「銃くらい撃てるだろ!普段から持ち歩いてんだから!」
ひでえ大人だ! とヨシミが呆れた顔をした。
スラム街へ追跡していくと、連中の拠点が判明した。
普通に店のトラックと店主を拉致っている、駄目だこりゃ。
アロナによる聴音索敵で中の会話が聞こえる。
「そろそろ、この手の商売から足洗った方が良くない?」
「どうして、こんなぼろい商売を止めないといけないのさ」
「通報されて飛んでくるのはシャーレで、あそこの先生はこの手の商売が大嫌い。あたし達がこう言うの出来てるのもあそこがそう言う組織あらかた潰したせいだし、これでやめたほうが……」
それはもう少し早く考えるべきだったなあ、時は待ってくれないぜ。
ナツから『じゅんびかんりょー』と報告が入り、アロナへ「開始」と告げた。
ドアノブが二回動き、続いてドアノブがC2爆薬*4で爆破される。
爆発したドアの破片と煙で不良生徒たちが驚愕し、慌てて武器を構える。
しかしその姿を見た不良生徒たちは思わず困惑した。
「げ、ゲヘナの美食研究会とハスミ副委員長?!」
「なんでつるんでんだよ! 教えはどうなってんだ教えは!」
ジュンコがただちにSTG44を射撃、一名を排除し続いてハルナを先頭に突入が始まる。
廃倉庫の二階から応戦しようとした不良生徒がMGの掃射で通路ごと叩き落とされ、アカリが単発射撃で不良生徒を射撃する。
ハスミ一人でも敵わないのに美食研究会まで来ては勝ち目などない、不良生徒たちは正面入り口から逃げようとした。
「げ……」
「シャーレの……先生……」
正面に居たのは、スイーツ部とヒナタの40㎜MGLだ。
「撃てェ!一人も逃がすな!」
逃げようとした不良生徒の先頭がヒナタの40㎜MGLとスイーツ部の一斉射撃により忽ちに薙ぎ倒され、残りは完全に退路を失って投降した。
武装解除を確認し、待機していたマシロに「連行する様に」と指示する、ヤバいのが居たら狙撃させるつもりだった。
『状況終了。現在までに気絶6投降14、強襲により人質救出』
「お疲れさーん、予定通りだ」
呆れた顔をしたスイーツ部が尋ねた。
「「「「先生なんでゲヘナまで巻き込んじゃったの」」」」
「政治的配慮さ! 共同の作戦で排除、良いストーリーだろ?」
カズサが呆れた顔をし、ちらりと美食研究会を見た。
美食研究会は完全に一仕事終えて帰るか! と話している、なんら疑問もわいてないらしい。
「ま、あとでウチから感状だな。お前らにもやるよ」
「良いのハスミ副委員長?」
ナツが尋ねると「かなり苦しい言い訳ですけど良いんじゃないですか?」とハスミはさじを投げた。
色々と言いたい事もあるが、正義かそうじゃないかで言うと正義なので困る。
対犯罪作戦に民間有志が義勇で参加、おお麗しきエデン条約の効果なり、あの大人、この事件を対連邦生徒会の口実に使ったな。
ケーキ貰っていくついでに自分のポイントカード作る大人なんだがなあ……。
次に必要なものを用立てる算段を考えていると戦闘騒音が聞こえた、やれやれと言いたげに肩を竦め、ヒナタと共に向かう。
どうやら自警団と不良生徒の戦闘らしい、ヒナタに「ちょいと拳銃貸せ」と借り、双方の間の地面へ撃ち込む。
流石は50AE、拳銃に似合わない着弾音がした。
「な、なんだあ!?」
「いきなり撃つとか酷いじゃねえかよ!」
不良生徒たちが声をあげている、自称七転八倒団を名乗るスケ番だ。
うるせえ近所迷惑だと乗り込むと、いきなり50口径よりは無礼じゃねえよと返されてムカついてつい撃ちかけた。
スズミに「流石に駄目ですってそれは!」と止められたので、そもそも戦闘してるのが悪いと言った。
「んだよー! あたいらの生活の危機なんだよー!」
「犯罪生活の、じゃなくてか?」
「そんなこと言われてもなあー! まともに仕事無いなら手を染めるしかねえだろ!」
やれやれと頭を掻く、メモ帳を取り出し、軽く書く。
「んじゃああれだ、お前ら好きで悪い事してるわけじゃねえんだな?」
「食っていけりゃあ、そりゃ、なあ?」
「うん」
頷くスケ番を見て、そうかと告げた。
「そんじゃまあ、うちの
「なんでェそのCIDGちゅうんのは」
「まーようするに七囚人目撃報告とかだな、ピンと来たら110番てわけ」
「それ仕事なのか?」
「一応協力者扱いになるからまともな仕事には役立つよ?」
スケ番たちが寄り集まってあれこれ話し合い始めた、ヒナタが良いんですか? と尋ねる。
「いやまあ、ああいうのがいると色々と役にね、立つのよこっちも。みんな幸せになれるからな」
スケ番たちに一生縁が無いCIDGの真相は内部呼称マイクフォース、つまり制服無き非正規戦部隊の隠れ蓑である。
要するに強制執行部隊の隠れ蓑のカバーだ、公式にはスケ番たちの様な生徒が主体ということになる。
「あ、終わったか?」
「んー、取り敢えず書面で見比べてえんだけど良い?」
「良いぞ」
スケ番たちに書類を渡す、ついでに膠を探してると尋ねるとスケ番の一人が近くのバラックがそれじゃねえか? と教えてくれた。
どうやらこいつらの住まいだったらしいが、まあ心機一転で良いかと許可も貰った。
「先生、このアビドスの仕事ってなんなんだ?」
「校舎近辺の瓦礫撤去と校舎修復手伝いだ、クライアントはまともだぞ」
スケ番たちは真剣な目で、書類を見ていた。
残る物品をセリナ経由でミネに伝えると、倉庫の奥から多分これじゃないか? と言われた。
予算は後で請求書をサンクトゥムタワーへよろしくと伝えると、ミネが「医薬品提供で金をとる訳無いじゃないですか!」と怒られた。
上に話が通じれると楽で良い。
「専門家に聞くのが一番だなあ」
「ですね、なんでかセリナさんは必要な本数見つけてくれましたし」
「……あれ? 俺かお前、本数言ったかな」
暫く考え、あまり不用意に考えない方が良い問題と考える事にした。
よくよく考えたら何故かシャーレの本庁舎に突如胃薬添えてくることも異常事態だ、知らない方が良い、警衛隊員が腰抜かしていたし。
急患の報せにハナエが飛び出し、続いてヒナタも続く、合流場所はもう決まっているし、人助けなら好きにやればよかろう。
古書館の門を開け、ウイに揃えて来たと告げた。
「へあっ、ず、ずいぶんお早いですね……」
「いやまあ、各所にコネがあるしな」
「あ、相変わらず裏から手を回す方ですね」
語弊があるぞ語弊が、正当性を確保してるんだ、大権は非常時にしか使わん。
ヒナタがソファーベッドで舟を漕いでいるので、無言で上着をかけた。
意外そうな顔をしたウイが、へえと呟く。
「意外か?」
「はい、かなり」
「ま、仕事で得たちょっとした秘密と思え」
揶揄っているのかそうじゃないのか分からない人だなと、ウイは困った顔をした。
作業の合間に、軽くシャーレから届いた書類を確認する。
予算編成、各方面隊の弾薬類報告、
気付けば外はすっかり暗くなっており、報告書を読みながら外を見上げる。
報告書ではアリウス市街地自体の掃討と確認は完了し、再定住計画は進んではいるが山岳地帯に逃げてる連中もいるとあった。
また別のアビドス報告書では、カイザーがたびたび不良生徒に襲撃されたり報復作戦したりで紛争が起こりつつあるとも書かれている。
前者は腰を据えてじっくりやる、後者はある限度を超えて双方疲弊してからしばく。
「んえ?」
「起きたかヒナタ」
「今何時です?」
「正義実現委員会の夜間警衛交代式が終わったのを見るに22時かなあ」
ヒナタが慌てた顔をし出した。
「門限過ぎちゃいました……」
「公務外用で致し方なくだ、シスターサクラコも分かってくれるよ」
「怒られちゃいますかね……」
ヒナタが携帯を確認する。
「あれ? 着信が」
「……式典は午前0時に行う? サクラコは本が無いのにどうやって」
「「あ」」
思わず頭に過る押収物、それもこれも全てハナコの陰謀か。
ウイに完成予想時刻を尋ねると「あと30分」と言われた。専門家の言葉だ、仕方あるまい。
その間に顔を洗い、上着を着なおす。
今更にヒナタが赤面しているが今は遊んでいる時間がない、アロナ対人レーダーを叩き起こし計算させる。
展開してるのは正義実現委員会の2個小隊、正規兵が60-70名と同意語だ。
学園内であるから十分の数である、無線交信や端末の反応から見ても概ね正解だろう。
「担当してるのは……マシロ? あいつ超過勤務じゃねえの?」
頭を掻きながら妥当な人員ではあると考える、護るだけなら十分だ。
マシロならまあ、どうにかなるな。
完成した本を抱えて、聖堂へ向かう。
基本的にだが、正義実現委員会は大概の相手に対しては優位である。
大概の不良生徒にはそこまでやり合う理由と腕と装備も無いからだ、火器は習熟して連携された使用で意味を持つ。
正義実現委員会、というより学園正規組織の強みは其処である。
そうであるからにして今回の攻撃は奇妙だった。
「第二小隊への
「はい! 現在機関銃及びライフルでの散発的攻撃を受けています」
「攻撃はそれだけ?」
「いえ、こちらが分隊規模で反撃する前に攻撃軸を変えています」
マシロは思わず首を傾げた、夜間攻撃にしては連中あまりに誘いが露骨だ。
しかし誘いに乗った分隊が出ても逆に無視して別を殴る。
擾乱攻撃だ、間違いない、狙いは何だ?
索敵目的の攻撃である場合、威力偵察の段階ではない。あれは全滅しても構わないと同意語だ、しかし。
「予備の分隊は」
「降車して聖堂前で待機してます」
「乗車後ただちに移動」
マシロはそう指示し、これで様子が分かるだろうと考え、コーヒーを飲んだ。
無理に反撃に出るより防衛、その防衛の範疇は我の火制範囲、それでよかろう。
FV721 FOX装甲車が警戒配置に向かう音が聞こえた。
30㎜ラーデン機関砲が搭載された小型装輪装甲車で、軽量車両の利点から多数配備されている。
パテル分派のFV510ならともかく、大概の敵対勢力はこれで解決がつく。
30㎜を撃ち込まれてやる気を捥がれない敵は早々いない。
その考えは飛んできたM72A3で盛大に否定された。
『敵対勢力はロケット弾攻撃をかけてきています!』
「装甲車を少しさげて!
『不可能です! 奴ら閃光弾を大量に! 暗視装置が焼けてます!』
マシロは相手のやり方に底知れぬ悪意を感じた、人を弄ぶ趣味があるに違いない。
例えば人のポケットにカエルを入れる様な類の。
夜空を赤いロケット弾が駆ける、63式107mmロケット砲の改造品のRO-107だ。
ドン! と轟音がして機関銃陣地が吹き飛ぶ。
GF*5で軽く小突いて標定してロケット弾を撃ち込む? まずいぞ。こっちじゃ洒落にならない、上手だ。
「被害報告」
『げほげほっ! 催涙ガスです! 視程なし!』
マシロはマズったと感じながら陣地転換を命じ、近づいてくる人影を見て首を傾げた。
「シビリアンを誰がいれたんですか」
「俺だ」
マシロがえっ? と首を傾げた。
先生がシスターを一名連れてきている、マシロは首を傾げつつ尋ねた。
「ご用件は」
「匿名のタレコミだ、立ち入り検査に来た。ついでに戦闘の解決もしてやろうか?」
「出来れば」
マシロは指揮を委託し、装甲車による側面攻撃と小銃擲弾を受けて敵は後退に移る。
後退戦に入ったのを確認し、先生は「第二小隊の動きが少し鈍いな」と告げた。
具体的にどう鈍いか分からないが、上官のこういう場での指摘は全て正しいという事もマシロは知っていた。
我ながら酷い茶番だ、ウイが修復してる間に不良生徒を軽く動員して索敵攻撃したりして嫌がらせしたのだから。
完成するまでは嫌がらせ攻撃、分隊規模の逆襲はあえてスルーして敵予備戦力を引きはがす。
そうすることで「匿名のタレコミ」は真実味を帯びてくる。嘘は演出に凝ってこそ意味がある。
逃げる連中がニヤニヤ教授の指示書をRO-107ごと放棄するので、事件の真相はそういうことになる。
アロナに指示させてたらアロナが『きたない……』と絶句していた。
「失礼、サクラコ様」
「あら? シスターヒナタ、それに先生まで?」
「実は匿名で予告が……」
ヒナタがそう言い、そっと木箱を回収する。
別室ですり替える事で、寸手のところで全て丸く収まった。
サクラコに笑顔で「確認しました、どうやらガセネタか中止したようですね」と告げ、失礼と中座する。
全て15分ばかしで済んだ。
遊撃部隊としてスイーツ部の連中まで無理矢理に動員したからケーキ代がかなりかかるが、ポケットマネーで解決する。
ユウカに見られたら? そん時は頭を掻いて誤魔化すしかないが!
ー完ー
感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当にありがとうございます!
この場を借りてお礼申し上げます。
原作のどっちを見たり知ってます?
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長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
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ブルーアーカイブだけは知ってます
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どっちも知ってます。