キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
何とか列車には乗り込んだが、タブレットでカンナ公安局長から『なんか近隣の不良が根こそぎ飛び出し始めましたよ』と来るんだから嫌になる。
急いでバグってる機関車を交換、直ちに出発する。
しかし出発してすぐに暴走族が触接し始めていた。
「族か。当てれるか?」
キキョウに尋ねると「コレにあまり慣れてないけど」とは言いつつ頷いた。
彼女の肩には試製99式テラ銃、更に背中のポーチにはタテ器が収まっている。
最近は百花繚乱の中でも装備更新論が高まり、陰陽部からも「防衛力の向上は焦眉の急」として個人装備の増強がされ出した。
とはいえすぐに出来る筈もないから段階的である。レンゲのライフルが強化銃身と機関部が改造された六四式になり、ユカリの武器がカスタム型のM2カービンへ切り替わったくらいだ。
キキョウやカホが「防衛力の増強で最大に投資すべきは機動力」として単車類に習熟させているからである。
ボルトを引いてクリップから弾丸を押し込め、クリップを外して回収してポケットへ入れる。
百花繚乱ではクリップ使い捨てを許さない、官給品は人より上にあるのである。
「やいやい! 其処の列車! 勝負勝負!」
暴走族が旗を指したバイクから、ハンガーでフルオートが撃てるよう改造された民生型のAR-15を振り回す。*1
キキョウは膝射姿勢で99式テラ銃を構え、すぅと短く息を吸って、よく狙う。
アオバはその様子に背筋が冷えた、眼の鋭さがそれまで縁側で微睡む家猫の様な眼が、獲物を見つけた虎の目に変わった。
暴走族が3騎、M2カービンを騎射姿勢で撃ち始めた。
ブンッ! と音を立ててキキョウの耳元を弾が掠め、跳弾した弾がビシッと音を立てて窓ガラスへ突き刺さる。
「わぁ!」
「走りながらの射撃なんか早々当たりはしないわよ」
アオバが慌ててしゃがむのを横目に、キキョウは猫耳を僅かに動かして風向のアタリを付けた。
ボルトアクションライフルらしいさっぱりとした射撃音が響き、飛んでいった強化装薬型の徹甲弾が暴走族のバイクへ飛び込む。
前輪と胴体接合部へ飛び込んだライフル弾は、バイクを事実上真っ二つに引き裂いてしまった。
「ぎゃぁ!」
最先頭3騎中の1騎が初弾で打ち抜かれた事で、残る2騎が慌てて距離を開ける。
まぐれだろうと初弾が当てられているのは異常だ、暴走族であるが故に当てられるはずがないのは理解している。
奇跡かまぐれでもそういう事が起こるまでに基礎の土台が無ければ成立しない。
そうした点で考えれば考えるほど、キヴォトス・トランスポーター連盟またはブロロロ疾走連合のボスである総長は確信を深めた。
基本的にハイランダーの武闘派にこんな奴は早々いない、という事は間違いなくこれはシャーレ関与だ。
慌てて距離を取る2騎になんとも思わなさげに一瞥して、キキョウはボルトを引いて排莢した。
レンゲの様に射撃に自信があるではないが、衰えていない事に満足している。
百花繚乱では早撃ちより正確性が尊ばれるのだ。
「ん?」
ヒカリが空を見やる、アオバが現状難しいのでノゾミが運転しているから、ヒカリが周辺警戒しているのだ。
窓から顔を出して、上を見上げるとALOUETTE K-CARが空を飛んでいる。
しかし機体塗装はクロノスのカラーリングだ。
「クロノスのヘリー」
「ありゃ確か武装型じゃなかったか?」
アロナとプラナが照会をかけると、非武装型に改造されたという資料が出て来た。
監視カメラの映像を見ると確かにGAI-C01 20㎜機関砲が大型カメラに改装され、機体側面に収まっている。
「スティンガーでもあればあのヘリ落とせんだがなァ……」*2
テレビを確認したところ好き勝手に外野がわーわーと騒ぎ立てていた。
更に交通室のモモカから『えっらい数の不良やブラックマーケットの連中が動いてる』と報告を映像添えて言い出した。
取り敢えず中継を検閲させりゃ多少は落ち着くだろと主張したが、『シャーレ絡みで検閲したがる役員が居るとでも』なんて返してきやがる。
ため息をついて、モモカに「列車を止めさせるなよ」と念押しは入れる、運行妨害や嫌がらせは実力で排除するしかあるまい。
「権力でぶん殴っても妥協しないのが良い文屋だがそれはそれで都合が悪いんだよなぁ。あ?」
丘向こうからパンと音が聞こえ、白煙が疾走する。
明らかに誘導弾だ!
「MANPADSかな?命中コースだ」
「そんな呑気な事言ってる場合じゃないと思うんですけど」*3
アオバがそう返すと同時に、クロノスのALOUETTE K-CARへミサイルが向かっていく。
『やばい! こっちに来てる!』
『フレア! フレアー!』
『間に合わない!』
正確に目標の熱源に飛び込んだ改造9K35 ストレラ-10は炸裂、クロノスのヘリをへし折った。
ミサイルが直撃し炎上して制御不能になったヘリが爆散したのを見て、内心「ざまあ見ろバーカ!」と叫びながらも次なる脅威に目をやる。
暴走族にしちゃあの遠くから突っ込んでくるBRDM-2の車体に無理矢理ストレラ-10を載せ、更にイグラまで付け足した改造車両は普通の暴走族と思えない。
「族が4騎、隊列から離れる」
「てことは敵の追加だが別の連中か」
「多分ね」
キキョウが双眼鏡を取り出した。
「あら珍しい、ブラックマーケットガードの連中みたい」
「また珍しいな、連中はあんま出てこねぇからなァ」
自身もレーザーレンジファインダーを覗き込む。
画面に映るのはBTR-60PBと、Otokar ARMA装甲車が見える、前者は不良生徒でも買える安物そのものであるが、後者はヴァルキューレ警察学校などで使われるかなり新しい物だ。
ブラックマーケットのガードと言ってもそんなに良い装備を買えると思えない、実際過去の摘発で出て来たAPCの類はストライカーやEE-11など型落ちや少しばかり古いものだ。
ストライカー装甲車の大半も、カイザーの自動車化歩兵大隊などが用廃で廃棄した奴を回収して再生したものでしかない。
「まずいな、連中ちょいと金があるトコが支援してんじゃねえか。最新装甲車なんかどっから仕入れた」
「カイザー辺りが横車押したか、或いは別のスポンサーでしょう?」
「やれやれ過去にこだわってどうするかねえ」*4
「それだけこの列車の積み荷が魅力的なんでしょ、彼らの眼にはね」
キキョウはそういうと、タテ器を装着した。
こうなると分かっていれば多少装備をヘビーにするが、今回は閉所戦闘系を重視した。
テラ銃の様なショートなモデルにしたのもそこが理由だった。
「もうすぐゲヘナ自治区域なんですけど! いっそ脱出しませんか?」
「バーカ! 貴女、逃げるったってどこに逃げるのさ」
「うぇっ……」
ノゾミがアオバにそう言うと、いそいそと武器庫を開ける。
流石にマニューリンでは当てれる自信がない、CCCが戦闘要員では無い以上、練度は然程高くないが丸っきりという訳でもない。
銃口の数は有る方が良いし、最低限は自衛する。
「ちわー、もしもしアコ行政官ー」
「何処と話してるのー?」
「近いからゲヘナの風紀の連中」
ヒカリが「へー」と言い、アオバに操縦を任せる。
ヒカリも電話で監督官と話しているが、向こうも事態が大きい事で慌てているらしい。
「監督官も流石に困ってるー」
「やっぱり?」
ヒカリの言葉にノゾミがやっぱりと返した。
アオバからすれば雲上の話だが、事態の慰めにはならない。
近づいて来たブラックマーケットのSIBMAS AFSV-90が90㎜砲を射撃した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ撃って来たァ!」
「大丈夫大丈夫、スタビがない装甲車の砲撃なんか早々当たんないぞ、こっちも動いている」
「そういう話じゃないんですけど!」
アオバが身体を震わせながら装甲車を見る。
再びSIBMAS AFSV-90が射撃したが、遠弾だ、列車より早く、向こうへ飛び出して消えていく。
「ほれ、測距を見誤ってる」
「いやあの、そういう問題じゃなくて」
「次は多分近すぎて手前だぞ」
再びSIBMAS AFSV-90が射撃、90㎜砲が些か列車の近くへ落ちた。
アオバは先生が「あっ」というのを聞き逃さなかった。
「至近弾じゃん、3発目で近くに当ててるからアイツちゃんと腕が良いぞ」
「大問題なんですけどおおぉ!」
「大丈夫大丈夫、まぐれの線もある」
無論先生の嘘である、真実が幸せにするケースは少ない。
更にSIBMAS AFSV-90が射撃、今度は列車を少し飛び越えて遠くへ落ちた。
夾叉している、概ね諸元を合わせたという事だ、4‐6発でだいたい諸元を掴んでる、スタビライザーやFCS無しでの行進間射撃なら満点と言わなくても及第点だ。
「夾叉してる、そろそろ当たるぞ、対衝撃姿勢取っておけよ」
「勘弁してほしいんですけどおおおお!」
アオバが悲鳴を上げているがそれは無視する。
ゲヘナ地域に入った。境界線の看板が通り過ぎる。
爆発音と共に列車が揺れる、遂に直撃したらしい。
「なんか命中ー」
「うーん、たぶん4両目だから空荷だね」
「なら問題なーし」
「良く無いんですけど!」
後ろでやいのやいの述べてるのを気にせず、無言でライトの様な筒を向ける。
こちらへ砲塔を指向していた装甲車へ、誘導弾がぶっ刺さった。
ZT3 Ingwe、レーザービームライディング方式の対戦車誘導弾だ。
因みにこの筒はレーザー誘導発振器である、最近はシッテムの箱とこれをリンクさせてみる実験をする余裕が出て来たからやってるが、案外普通である。*5
「あ、当たった」
「オー凄いじゃん、ビームマーカーって奴?」
「ハイテク―、ひゅーひゅー」
橘姉妹が何とも緊張感なさげに言う。
アオバは「早く逃げたいんですけど……」と思いながら、近づいてくる機影に安心感を感じた。
オタクでも専門家でもマニアでもないアオバには、恐らく風紀委員会かシャーレだと思えたので、顔に笑みが戻る。
基本的にネガティブなアオバではあるが、現実が想像以上にネガティブな場合、希望を探し出そうとする程度には心は強くない。*6
「あ、ヘリですよ、救援が来たんじゃ……」
「ん? まだ来ないぞ、ゲヘナ風紀委員会はまともな空中戦力を保有しとらんからな」
「へ?」
事実である、対不良掃討と一部問題児のサーチアンドデストロイが主任務たる風紀委員会は、マコト議長からの横槍──匪賊討伐は歩兵の数と制圧地域の掃討こそものを言うと批判──から空中戦力は限られている。
ヒナ委員長も特にその点では文句を言わず、代わりに風紀委員会の完全車両化及び一部は機械化部隊とする事を要求した、これについてはマコトは承諾した。
それ故にゲヘナ風紀委員会は未だガゼルやBo-105偵察ヘリしか無い、しかし飛んできているヘリは明らかにヘビーなシルエットだ。
「じゃ、じゃあゲヘナのパンデモとか……」
「マコトがこんなことで俺達に助けの手なんかだすわけねーよ」
「もおおだめだあああ!!」*7
アオバが空を仰いだ。
飛んできたのはヘルメット団のマークが入ったMi-24P ハインドだ!
「おぉすげえ、あいつらエライもんを連れて来た! 負けが込んでるんだなァ」
「無理してでもここで勝ちたいんでしょうね」
キキョウが対空射法で射撃してみるが、流石に308までは防弾するだけはある、まるで効いてない。*8
戦闘ヘリとして購入したようだが、ドアが開き列車にヘルメット団の団員が降下する。
明らかに組織化、訓練を受けた連中だ、くそっ! 俺がアビドスで勝ってカイザーから脱走した元PMSC社員かなんかだな!
「思い切りがいいねえ」
ノゾミがヒカリへ「あれちょーだい」と頼んだ。
ヒカリはひょいとそれを担ぎ上げる。
「駆け込み乗車はご遠慮頂いてまーす!」
トリニティから中古で購入したルイスガンだ!
LMGで制圧射撃が飛んできたが、ヘルメット団の団員はすぐに伏せて小銃班を浸透させようとする。
その間にMi-24Pが列車側面へ移動、30㎜機関砲を向けるがコクピットに警報が鳴り響く。
ゲヘナ風紀委員会のローラント2対空ミサイルだ!
『おーい、先生生きてる?』
「よっ久しぶり」
『うわやっぱイキイキしてるよ……。流石現場で絶対会いたくない人の筆頭だ……』
「パニックになってない。前回より良くなってる、生徒が成長して先生嬉しいぞ」
『前回はいきなり殴ったじゃん……』
「俺は殴ってねーよ!」*9
イオリが嫌そうにしているが、撃ち出されたレッドアイMANPADSとマルダー1IFVの対空射撃がハインドを後退させる。
流石に風紀委員会相手に本気でコトを構えれるものはそう多くない。
だが妙に意欲的なブラックマーケットの連中が、更に増援を連れて来た。
WZ-551装甲車と85式戦車2型だ!
「とうとう戦車まで来たよ」
「パヒャヒャヒャ! 陸に戦車、空にヘリであとは戦艦を待つばかりって感じじゃん」
「あんたインテリなのね……」
キキョウがやや驚いた。
昔百鬼夜行の映画会社での騒動が起こった際の皮肉だからだ。*10
橘姉妹がちゃんと教養がある事は中々素晴らしい、とキキョウは好感を持っている。
学も教養も無い上に主体性も無い場合そういう組織は害悪しか生まないのだ。
『先生何怒らせたの?!』
「一々数えてなんかねぇよバッキャロー」
『これだ。対戦車戦闘ーっ!』
イオリがなんとか遅滞防御戦闘に入ってくれた、陸から追撃するのはこれで厳しくなる。
風紀委員会が負けるとは思わない、金目当ての連中相手に負けるほど弱い組織ならもう潰れてるし、ちゃんと風紀委員会にも種々の支援策をしてきた。
個人装備から部隊指揮官教育までちゃんと支援したし、素晴らしい事にちゃんと真面目に聞いてる。*11
DU某所のホテルでは、パソコンから状況を見ているスーツを着込んだオートマタ達の姿があった。
ネフティス本社内の抗争で負けた幹部たちだ、シェマタも得られず武力行使ではカイザーに完封負けし、アビドスでの鉄道利権のお陰で「クビは許してやる」とされた。
更に言えばノノミを騙して連れてきた件で執事が解任されたり、作戦考案者が「長期休暇」になったのもあって、ネフティスでは抗争に負けた残党が何人も出ているのである。
そしてこうして燻っていた彼らは、かつてドン・アランチーノと組んで密輸ビジネスに関与していた新進気鋭の幹部から甘い汁を分けてもらっているわけである。
「クソぉ、ブラックマーケットの連中あてにならんぞ!」
「金をケチらずマーセナリー雇えばよかったものを」
「アリウスマーセナリーはまずい、連中はシャーレ絡みの案件は嫌がるぞ」
「傭兵はそれ以外にも居るだろう」
ビールを片手に事態を見ていた取りまとめ役の社員が呟いた。
「もとはと言えばお前が集めたんだろうが!」
「言いがかりは止めてくださいよ先輩方、貴方たちが失敗した方が先です。凡百のザコでカイザーに勝てるなんて考えたせいでしょう」
「ぐっ……ううぅ……」
事実である、軽はずみな軍事行動のツケは破滅である。
確かに最精鋭部隊が旅団単位で壊滅し、組織に大打撃とはいえそもそも基礎のレベルが違ったのだ。
その日暮らしがせいぜいでしかない連中や黒亀組やヘルメット団の連中が群れても、巨人はそう簡単に死なない。
珍しいからダビデは偉大であり、ゴリアテは負けないと言われたのだ、ペリシテ人がバカというのは難しい。
「ともかく回線を閉じてここを引き払いましょう」
彼はそう言うと、電源ケーブルを抜いて身支度を始めた。
すると、ドアがノックがされる。
「なんだ!」
「ルームサービスのワインが届いておりますが」
「其処に置いておいてくれ」
「わかりました」
瞬間、窓が割られグレーの戦闘服にバラクラバを着けた戦闘員が突入して来た。。
消音器を装備したBCM 11.5インチ自動小銃が唸りを僅かに響かせて、瞬く間に社員たちが排除された。
「クリア」
「クリア」
グレーのVBSSにバラクラバ、LBVに暗視装置類を着けたProTecヘルメット、アリウスのスクワッドだ。
扉が開き、黙々とトレンチコートの生徒数名とヴァルキューレの生徒が何人か入室する。
「それじゃ容疑者の方は任せます」
「ういーっす、ご苦労さんでーす」
コノカ副局長に、公安局の実働班隊員が尋ねた。
「誰ですあの人たち」
「幽霊っすよ、そういうもんっす」
それを聞いて、その生徒は「そういうもんか」と納得した。
ドン・アランチーノが司法取引で自供し、アリウスの武器商人の北野オリバも自供し、そこからラインが繋がったのだ。
ハイランダーの人間へコネを持ってる人間はそう多くないのである。
暴走族のボス、すなわち総長は焦っていた。
漁夫の利を取ればいいやと最初以外遠巻きにしていた、なにせキキョウに初弾から当てられたのが衝撃的であったのが大きい。
そうしたらブラックマーケットの装甲車だ、ヘルメット団のハインドだと大騒ぎ。ゲヘナ風紀委員会の
そして総長は多少は機転が利いた、彼我兵力や戦術論は履修してないが、強さの目利きは出来た。
暴走族である自分たちでは基本的に勝てない、つまり乱戦は論外だ。
装備だけで言ってもM2カービンや民生型M4、K1Cなどで、対戦車火器もM72A4やRPG-26があるというくらい、装甲戦力相手に勝てないのは変わらない。
無論ハインドに勝てるなんて言えるわけない。
「ぼ、ボス―、あたしらじゃ勝てないよ……」
「うっせえ、なんとか手を……」
ボスの頭に急に視界がクリアになった感覚がした。
乱戦、遅滞、クロノスの中継喪失、ということは自分たち以外で列車を追跡するにはかなりデバフがある。
基本的にキヴォトスの住民は野蛮人である、騒ぎだ喧嘩だの鉄火場に飛び込むのが青春と信じてる真正の蛮人である、そうであるなら列車追撃前に乱戦してる連中をぶちのめそうとする。
「そうだ、行先は知っている、何が積み荷は知らんがともかくよし!」
「待ち伏せるんスか」
「そうだ! そうして積み荷は私らで届ける!」
いいのかそれ? と首を傾げるが、生憎彼女らに深く考える癖は無い!
「ブロロロ疾走連合心得―っ!」
「「「エンジョイアンドエキサイティング!」」」
爆竹の様に派手に短く輝くのである。
済んだ、という連絡を受けて「お疲れ様」と返答する。
アオバがどういうことか分からず茫然としている。
「何が済んだんです?」
「今回の騒ぎの原因の一つさ」
それを聞いたアオバが、汗をだらだらと流す。
「そうだったんですね……。何故かCCCが二人も派遣されてきて、何故かクロノスの中継がされて、何故か先生が手際よく出て来たのも、そういう事なんですね!」
「なんか勘違いしてない?」
「おおいなる陰謀ー」
橘姉妹が顔を見合わせている。
「つ、つまり我々は生餌だったんですね!」
「いや違うけど」
「大人は、皆そう言うんですけど!」
なんだこれ、出来の悪いミヤコ2号機? 一人で十分だぞ!
しかし疑問が出てくる。
「……あのなぁ、そもそもお前ら積み荷を知ってるはずだろ」
「へ?」
アオバが唖然とした。
キキョウが橘姉妹へ視線を向けるが、二人そろって「なんだっけ?」と言わんばかりだ。
「スオウから話聞いてないのか」
「「途中まで聞いてたー」」
「この馬鹿どもが」
思わず頭を抱える、ミレニアムの某クソガキとは違うクソガキだ!
「ぶっちゃけ取り扱い危険物と言われてないしね」
「しっかり届ける以上の興味ナーシ」
「お前ら……」
軽薄ではないコイツらだが、もう少しそれらしく見せるのをどうして出来ない。
キキョウも「あんたたちねえ」と思わず呆れている。
なまじこいつらが無責任なクソガキなら楽なのだが、やれば出来る類だから困るのだ。
例えこいつらがあれこれとやらかしていてもである。
……案外コイツらを尻に敷いてあれこれ出来る奴が居れば全員幸せなのかもしれん。
「……じゃあ、その、我々なに運んでるんです?
「俺すら知らない秘密兵器たァ驚きだ」
「じゃ、じゃあなんなんです?」
シッテムの箱をちょちょいと弄って、書類を見せる。
公開開示資料のファイルだ。
きっちりハイランダーの署名が添えられ、連邦生徒会の判子があり、先生の判子がされていた。
「これ」
「……えっ?」
「だからこれ」
「これなんです?」
「そうなんだよ」
アオバはしばらく言葉を失った。
予定通りの停車駅で、待機していたハイランダーの駅員は呆気に取られた。
弾痕、硝煙、破片、戦場を突っ切ったのがよくわかる。
幸い、直接攻撃を躊躇ったので重大損傷は少ないが、それでもオーバーホール決定だ。
「あーあ……」
ハイランダーの駅員と共に待機していた聖園ミカが、唖然としたような顔をした。
何せ本来ならちょっとした式典でおしまい程度のものだ、それがこの様な事態になるとは聞いていない。
「つ、ついたぁ」
へたり込むアオバをおぶってキキョウが降り、そっとベンチへ下ろした。
何せアオバなどの大半の生徒からすれば銃撃戦とは、自分の周りにはあるが深く関わらない事柄でしかない。
火災のニュースが身近だからと言って燃やしたり消したりする経験はそんなにしないと同じである。*12
そのためアオバに対する目は特に見下すと言うより、同情に近い物だった、一部は感心がある、パニックに陥らず職務を遂行してるなら不格好だろうと褒められてしかるべきだ。
先生もやはり感心はしても無様とは言わなかった、人の勇気とは足を震えさせていても立っている事にある。
「お疲れさん。後で感状出さなきゃいかんな……」
やれやれと思いながら、ミカが荷物を確認しているのを横目に先生は呟いた。
間違いなくこんな仕事何回もしたら私死んじゃうよと、アオバは珍しく確信をもてた。
無理もなかった。
「確認したけど問題なかったよ」
「「いぇーい」」
「……?」
ミカが橘姉妹のドヤ顔にやや困惑した、流石にこうした生徒はあまり見た事ない。
まあ少なくとも頑張ったのは事実だという事で、頬を撫でて二人を抱きしめた。
何故か橘姉妹は上機嫌に満面の笑みを浮かべている。
「くっくっ、いやはやこれはなんとも……」
1人のオートマタが、あまりセンスが良くない高級スーツで現れた。
別に服が悪いという事ではなく、本人の雰囲気と服装の色合いが絶妙に化学反応している。
恐らくだいたいの恰好をしても似合わないか、化学反応を起こして悪くなるに違いないのだろう。
「え、あの……その……ど、どちらさまでしょうか」
そもそもこの生徒と大人は誰なのだ、アオバは不可思議に思って尋ねた。
無理はない、ミカの服装はトリニティでもなく、シャーレでもなく、普通の私服である。
いや無論その私服が幾らかであるかについては敢えて触れまい、素体が良いから大体似合うのはそうであるが。
詰まる所あまり新聞などを読まないアオバには見た事も聞いた事もないのだ!
「ん? 知らんか?」
先生が「そうか、知らん奴もいるか」と呟く。
「トリニティ学園ティーパーティーの一人、パテル分派の長、イリュクム軍団の
「殆ど元じゃんね」
「現在は連邦捜査部トリニティ派遣駐在武官兼派遣参謀の一人ね」
アオバが一瞬言葉を失った、無理もなかった。
見るからにはロイヤルという風潮で、上流階級というのは分かったが並外れた上流以上の存在だったのだから当然である。
そして少しして顔色が変わった、うちの上司は何してるのだ。
「おー偉い人だぁー!」
「パトリキー」
「難しい事わかってるねー」
ある種ホンモノの言い方であった。
格式高いと言っても壁を元々気にもしない様な人間はいるのである。
時として貴族制度とはこうした人間を、天性の才をある程度理解した人間を生む。
まあ大半はガチャより悪質な抽選で、大概の貴族将校と言ったものは勇敢さと怯えしかないから無理して早死にしやすいのだが。*13
「ひょえ……」
飴ちゃんいる? とミカが配り、キキョウが「おやつには早くない?」とやや苦言を呈した。
「砂っぽいから良いんだよいいんだよ」とミカが笑い、先生が駅員へ「すまんが手拭いを渡してやってくれ」と告げた。
受け渡すにしても顔だけは綺麗にしてやるべきであるからだ。
「はっはー! 見つけたぞ! 待ち伏せにまんまとかかったな!」
「誰だおめえ、誰だよチンドン屋呼んだの」
先生がきょとんとした顔を尋ねた。
やいのやいのと暴走族たちが集まり、ボスが堂々とした顔で高笑いした。
「やいお前ら! あたしらの顔を忘れたなんて言うんじゃねえぞ!」
「誰だっけ?」
「……あ、ヒカリたちのファンー?」
「お姉ちゃんが頭いい!」
橘姉妹は相変わらずの平常運転であった。
「ちげえよ! あんたらに仕事を横取りされたキヴォトストランスポーター連盟、すなわちブロロロ疾走連合だ!」
「……なんでそれで即ちになるのかわかんないんですけど」
「いずれはキヴォトス流通業務の全てを占める野望! 実現してやるってすげえ組織なんだぜ!」
「ボスかっこいい!」
暴走族たちが噴きあがる!
「ピザもろくに運べないのによく言いますね……」
そうアオバがぼそりと呟いた。
「お、お前何てこと言うんだ!」
「そうだぞ! クレームのせいで予想より数日早くクビになったんだぞ!」
「それは自業自得じゃねえの」
「「先生まで何てこと言うんだよ!」」
キキョウがクライアントを連れてそっと遮蔽に移動し、はぁとため息ついたミカが供回りの一名に頷き、そっとランチェスターを受け取る。
「畜生仕事まで奪って尊厳まで奪うのかよ! やっちまえー!」*14
「そういう軽薄な考えが悪いんじゃないかなぁ」
ヒカリとノゾミが呟くと同時に、暴走族がP90やFMG-9を構えた!
更に待機していた暴走族がTEC-9やM4カービンを持って現れる。
普通ならばここから始まるのは一方的な数的優勢からの制圧である、しかしこの世には幾つか例外がある。
それは数的優勢でもきっちりと彼我の弱み強みを活かす事である、上手く用いれば200名の兵士が訓練・装備優良部隊の2000名に勝つことが可能なのだ。*15
逆に言えばちゃんと理解出来てれば多少の装備差は押し切れるのも事実だし、砲火力があるなら猶更方程式は書き変わる。*16
「撃てェ!」
短機関銃特有の軽い射撃音が轟くが、暴走族の視界にはミカが居ない。
粉々になった? NO! ではどう言う事か。
端的に言えば銃口の向きや筋肉の動きで大体何処へ飛ぶか理解し、そして反動を制御しきれていないのだ。
腰だめに構えた銃撃の大半はろくに当たらなかったという事になる。
「へ……」
「消えた?」
「え、え?」
困惑が満たされる中、暴走族のボスが撃たれた。
キキョウの狙撃だ、別段武力行使を好まないだけで百花繚乱が平和主義者なわけではない。
理非なき時は、鼓を鳴らし、攻めて可なりとは先人の意見だが事実その通りだ!
いきなりの指揮官狙撃で更に動揺した暴走族たちは、跳躍したミカが後ろに降りた事に気付かなかった。
「鳥になってみようか」
「へ」
ミカが暴走族のベルトからM67手榴弾を取り、ピンを抜いて暴走族のヘルメットへぽいっと仕込んだ。
行ってらっしゃいと暴走族のバイクの停車位置へ投げ、爆発音がしてバイクが弾け飛ぶ。
「あ、あ、うわっぁぁぁ!!」
「撃てェ! 近寄せるなぁ!」
再びの銃撃が始まるが、3大校の最強戦力の一人は伊達ではない。
不良生徒程度で止められるものではない!
軽やかなマーシャルアーツとCQCが、演舞や能の舞のよう、あるいはバレリーナのような華麗な舞踏が次々と暴走族たちを続々と討ち取っていく。
もはや一方的だ! クマが鮭を取るより一方的である!
ランチェスターの銃撃音は一切していない、ほぼすべて徒手空拳である。
「あっあっああああっ!!」
忽ちに小銃3個分隊規模、およそ30名近くがものの20数秒で壊滅した事実に恐慌した暴走族たちが前方、即ち先生たちの方向へ逃げようとする。
だが彼女たちを待っていたのは橘姉妹、アオバ、そしてキキョウの銃列であった。
「撃て」
単純に、全てケリがついた。
「いやはや……どうしてまたこのようになった物か」
「全くですな」
クライアントが遮蔽の自販機からひょこっと顔を出した。
ハイランダーの鉄道警備隊が駆け付けて来たころには全員が戦闘不可能であった。
構えたG36Cを下ろして、鉄道警備隊の隊員が「バイクもう滅茶苦茶じゃん、破片掃除どうすんだよ」とため息交じりに呟いて、火を消していた。
ぺちぺちと叩いて暴走族のボスの意識を呼び戻すと、周囲を見渡した彼女は信じられないと言いたげな顔をしていた。
「ちくしょうクライアント! このやろー! 何であたしらに依頼しなかった!」
「私が頼んだ高級寿司を雑に運んでちらし寿司にするような人に移送を頼むとでも……?!」
「ぐっ……」
クライアントが内心で「本気で言ってるのか!?」と半笑いで言ってる事件に、身に覚えがないわけでは無かった。
ただアオバにはどう見ても悪役じみた大人にやや疑念を感じていた。
「あの、先生、その方は……?」
「くっくっ、紹介もまだでしたね」
「そういやそうだった、この人はまぁ、キヴォトス建設土木資材総合商社の社長さんだよ」*17
「税金逃れに慈善をしている、ちょっとした資本家ですよ」
アオバは困惑した。
自分たちが運んでいる荷物、その出処、そして目的全てが判明したのだ。
つまり、ミカの鑑定を済ませた幾つかの貴重品を、この資本家がチャリティーオークションに出す、そして得られた資金は奨学金給付や、アリウスなどの復興計画に投じられる。
何故か? 答えは簡単、この資本家がミノリ部長に資材を売ってる一人だから。
斯くしてこうした理由から、貴重品輸送ではあるが重大案件ではないので貨物編成に追加してもらい、こうした輸送がされた。
そしてバカが火をつけてこの始末、というわけである。
「流石にそんな状態じゃ私どもでも運送依頼の相手にするには少しばかり不安がありますからなぁ」
「わ、分かった……」
「おい! お前ら運び屋したいのか? 珍走団になるのかは知らんが、運び屋になるんなら仕事用に車両買えよ、な。
書類申請して出せばウチからも多少援助くらいはしてやれるし」
どうしようもない理由にしぶしぶ納得した総長は、とぼとぼと帰っていった。
後日ちゃんと申請が来たので本質がアルに近いのかもしれない、切り替えが早いのは良い事である。
後日連邦生徒会一部から「秘密裏の輸送はどういうことか」と抗議が来たが、PDFの公報読めと突き返す事となった。
また、公式放送で「この件でいくらか勘ぐってる方が居ますが、そもそもそのようなものを公然と紛れて運ぶとでも?」と笑い話の種にして、真面目に論ずるのがバカバカしい雰囲気にして事態をお流れにさせ、全てを終わらせた。
実際ヤバいもんなら無理矢理にMV-22でも借りパクして運ぶがな……。
なお橘姉妹は存外利口だったのかファミレスで好きな物頼んで満足した、もう少しかかると予想していたが……。*18
本作はアリウスやSRTメンバーが多いから戦闘シーンがあるだけである!
感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当にありがとうございます!
この場を借りてお礼申し上げます。
原作のどっちを見たり知ってます?
-
長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
-
ブルーアーカイブだけは知ってます
-
どっちも知ってます。