キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
シャーレ本庁舎、大晦日の夕方。
普段に比して今日は流石に何も起きない、休暇に入る奴も多い。
「「今年もお疲れさまでした!」」
庁舎内の大掃除も終わり、ここキヴォトスに来て最初の年明けを迎えようとしている。
業務終了を兼ねて端末を確認する、アロナはチキンで喉をつまらせていたので、プラナが代わりに提示した。
誰かが館内放送でA Nervous Kiss を流しているなと思いつつ、使用申請があったので確認に待機室のドアを開けた。
サオリ達とスズ、それにD分隊の連中が居る。
「何でお前らここに居るんだ?」
「今日実家帰っても困るので、ここで年越しそば兼パジャマパーティーするんすよ、A分隊も一緒に」
「クリスマス休暇は貰ったから、皆と新年迎えても良いかなって」
ワインでも飲もうかと思ったらこれだ、どうあっても俺に新年なりを静かに過ごさせる積りが無いらしい。
スズが「ウサギの連中も呼んでますハイ」と公園の方を指さした。
「あ、そうだ。先生懲罰房どうします、看守担当居ませんよ」
「ん?」
「ほら、この前セミナーの子放り込んだでしょ、自分らは新年休暇がありますし」
「あー、コユキか。そういやなんかやらかしてたな」
言われて思い出したのかとやや呆れられた、単に一々覚えてない。
「アイツしかいないのか?まあ面倒だし、新年の恩赦で出すか」
規定上しょうがないのでスズを同伴してキーを回す。
地下階の黒服を漬け込んでる特別製ではなく、基本的にやらかしたバカ向けのお仕置き部屋である。
偶にカスミとかが入るが、大半の間は使用されない。
扉を開けると、コユキのヤケクソなNo, We'll Never Tell Themの歌声が聞こえた。
確かトリニティの作った、後方の無理解と陰鬱さの歌だったらしい。
匙を投げた様に間の抜けた音程だが、こちらを見るなりお茶の入ったステンレスコップを置いて、猫の様に飛び跳ねた。
「先生~!良かったぁ、もう忘れられたものかと……」
「お前専用の反省部屋と言う名の私室は無いからな、これからもそう言うのは無いからよろしく」
「被疑者にも人権があるんですよ!?先生知らないんですか?!」
「うちは
此奴を玄関から蹴り出したいが、するとユウカが怒るからミレニアム迄補導する。
流石に恩赦で逃亡を図る馬鹿じゃないのか、それとも単純に子猫みたいな気分なのか、コユキは大人しい。
「もしかして先生お持ち帰りですかぁ~?」
「スズ志願ご苦労!三が日も留守番!」
「にゃあん……」
スズも鳴かずば撃たれまいに……。
輸送車がちょうどVABしか無いそうだ、良く逃げる奴だからちょうどよかろう。
すると片腕で掴んでいたコユキが、顔をコンビニへ向けた。
「あっ」
「どうした?」
「売れ残りのパック……」
「ん?じゃあ買ってやる、車内で喰うなよ」
スズに代わりに会計しといてくれ、と財布を渡し、スズが「ついでに私のも頼んます」と告げた。
仕方ねえ奴だと笑って許してやる。
「良いんですか?買ってくれて」
「新年だろ?何か良い事があっても良いだろうよ、エリドゥの時とオーバーロード作戦の時のお前の活躍には見るところはあった」
「実はこのまま私埋められたりする感じですか?」
眼を丸くしたコユキは、最初にこの大人と遭遇したして、とんでもない目に会わされた日を思い出した。
船でC&Cの先輩達を振り回して笑顔で乱射しながらあそこまで追いかけて来て、挙句その船は沈んだし。
ついてないと言う癖に勝負はとことん強いくせに……。*1
ミレニアムへの高速道路に乗り、ミレニアムの中央へ到着した。
コユキの背中を摘まんでユウカに返却し、書類にサインしてもらう。
「お疲れ様です、先生。コユキを届けてくれてありがとうございました」
「久々にゆっくり寝れそうだな」
「不吉な事言うの止めてくれません?パジャマパーティーの予定なんですよ」
「寝巻姿で私室で密談か?」
これだからこの大人は……とユウカは呆れた顔をした。
「参加されます?」
ノアがにこやかに尋ねる。
「おいおい、年末にまで俺のツラ拝んでも面白くないだろ」
「あら?ある意味面白いのでは」
「あんまり揶揄わないのノア」
ユウカがくすりと笑い、ノアは悪戯げに笑う。
相変わらずノアは悪戯っ子気質だ、もう一つ書類を出してきた。
「コユキちゃん、ついでに先生と年度末警備点検をお願い出来ますか?」
「え?」
「端的に言えば仕事納めです。」
「良いんです?そのー、職務的に」
珍しくコユキが正しい事を言っている、良いのか?とノアを見ると、何か考えがある顔をしていた。
「まあ先生の付き添いが必要というわけです。」
「はァ……構いませんけど……」
コユキが先生を見た、書類を一読し、なるほどと呟く。
「んじゃ見回り行くぞコユキ」
「えっ!?」
ずるずると引き摺られていくコユキに笑顔でノアは手を振った。
警備点検と言われたが、仕事は完全に寝る前の見回りだ。
ミレニアムの通路を歩きながら、懐中電灯を構える。
「で、最初はどこだ。コユキ」
「ヴェリタスのはずですね」
コユキがあっちと指さす。
自販機で暖かいお茶を買い、のんびりと旧部室棟近辺の駐車場に歩く。
民生仕様のAMAS3が火器ではなくクレーンを載せて、無人機械が再建を行っている。
「おーいヴェリタスの連中おるかー」
トラックの扉を叩いてみると、コタマが出て来た。
のんびりとしたハレの「どうぞー」でドアを開ける。
こうしたのんびりとした返事はミレニアムらしい、ゲヘナに最初行った際はマコトもヒナも返事が中々荒いのなんの。
マコトは「おゥ入れェ!」だしヒナは「入れェ!」で、イロハですら「おう、入れ」と荒い、まあガラが多少悪くても変なコトしてなきゃ構わんが。
「居たか」
「あれ、先生。こんなところで何してるんです?」
年末点検と告げると、ああと納得し、奥からチヒロを呼び出す。
どうやら青い顔をしている。
「なにしてんだ?」
「んー……どうもどっかが電子攻撃してるみたい」
「何処の連中だ?」
「手馴れてるけどメガコーポというより学生だね……、にしちゃなんかうちのシステムに詳しいんだけど」
チヒロがチラッとコユキを見た。
「なにかしてないよね?」
「してませんよ!」
「やり方が違うから、だと思った」
しかしそうなると誰だ?とチヒロが首を傾げている。
学園内部アクセスの様だが、何か変なツギハギ的アクセスなのと通信接続を定期的に場所を変えてるらしい。
「ミレニアム内部なら急派して抑えれんのか?」
「旧Hubの配線抗を利用してるみたい、会長もすぐには対応できないねェ」
Hubの配線抗は事実上ミレニアム内部の地下に張り巡らせている。そこをネズミの様にやってるのだろう。
チヒロは加えて「多分ドローン経由でしてるから物理媒体確保は難しいね」と呟いた。
一応会長に連絡しておくと告げ、部室棟の方へ歩く。
警備点検である以上しっかり確認しているが、流石にミレニアムだ、もう寝てる奴らが大半である。
「モモイのバカ共もウタハもお行儀よく寝てたか」
「ミレニアムは早く寝るか徹夜する奴の二種類だけですよ」
コユキが肩を竦めた。
「お前は寝る方か?」
「ですね」
セミナーのビルへ帰還し、寝る前のランニング中のスミレに会釈してビルへ入る。
部室ではなくセミナーの施設に部屋があるC&Cを確認し、ネル部長が書類確認を終えた。
一応これで警備点検は終了だ、ユウカに連絡を入れ、確認と書類の為会長の部屋へ向かう。
リオの部屋がある階層は公然用途向けと非公然用途の部屋で種類が幾つかあるのだ、トキに聞くと公然用途用の、つまり正規用執務室にいるらしい。
「入るぞ」
「構わないわ」
扉を開けるとヒマリが先に居た。
「なにしてんのヒマリ」
「……忘年会?」
「なんじゃそりゃ」
ヒマリは楽し気に笑い、エイミを指さし、お静かにと告げた。
先に寝てるらしい、マイペースな奴だ。
「コーヒーでも淹れましょうか」
トキに頷き、コユキの書類を渡す。
リオは軽く一読し、判を押した。
これにて事実上全業務は終了したことになる。
「それと先生、先行生産したあれは定数分確認したわよ」
「そりゃ結構」
「何の話です?」
ヒマリが耳を軽くとんと叩いた、対盗聴ジャマーを起動している。
「対デカグラマトン用の量産型アビ・エシェフだよ」
「あ、あれちゃんと出来たんですね。……あれ?財源は」
ヒマリがじとーっとリオを見る。
リオは「AMAS3の民生型の売り上げで補填したわ」と告げ、ヒマリが胸をなでおろした。
「ユウカが危惧する財政破綻はしなくてよかったです」
「流石に二度もやらないわよ」
ヒマリはちらりと書類を見て「定数14に予備機4機ですか」と、多いのか少ないのかわからないなあと首を傾げた。
概ね現在のシャーレのアパッチの保有数が定数16に予備機6機の構成であるから、概ね作戦部隊1個分だ。
対デカグラマトン用の人工の機械天使、とでも呼ぶべき量産型、
シャーレが遂に対人戦以外の装備を保有する訳だが、こればかしは仕方ないのだ。そこらじゅうにビナーが出たりしたら困るんだよ俺達は!
「明らかに過剰というか、よくもまあ盛り込みましたね」
ヒマリのカタログ観察の意見は中々耳が痛いがしょうがないのだ。
安定した自律飛行、大型機動兵器用のレールガン<光の槍>、思考制御用システム、かなり滅茶苦茶をした。
クラフトチェンバーでOSを作るなんて初めてした。中々面白い経験だった。
「ゲブラの出現やケテルの光学兵器搭載等から見て”敵”は急速に武装を拡充させているからな。事実極地航路船舶から不明物体の報告も複数ある」
「確か、そのせいでカイザーやインペラトールPMSCの艦艇も捜索してましたね」
「数日前にカイザーのMEKO A-100型フリゲート艦が撃沈されたよ、ゲブラと推測されている。防衛室はオデュッセウスの大型艦艇を出撃させるか本気で悩んでるからな」
まあ、簡単には決めれないだろう。
単純に大型艦艇の出撃なんか決めれないし、金もかかるし、沈んだらと考えると尻込みする、無理もない。
ましてやそれが、防衛室の預かりのダンブルホーム船型の
イナンナ級だとかいう大型艦艇だが、あんなの下手に沈めたら命令者の首が飛びかねん。俺なら飛ばすが、訓練とかは大丈夫なんだろうか?*2
「それにしても、まるで……こういうヒロイックなのはなんとも」
「似合わんかね?」
ふっと笑う、確かに否定はしない。
どちらかと言うとこうしたメカは、重機動メカモフングルのνシロモップとかの雰囲気だ。
レールガンやワイヤーナイフ、アームクロ―などを装備した鉄の巨人は、出番が無ければそれでいい。
あれは対人兵器として作ったもんじゃない、何もなければ万歳三唱して民生にでも活躍してもらう。
「ま、何もなければアビ・エシェフと違い箱ン中で良いんだ、アブねえ技術はいれてないし」
異常存在の技術は突っ込んでいないのが量産型である由縁だ、勇者というよりはそれに続くものだからだ。
人の知恵と勇気の結晶であるが、初期型アビ・エシェフMk2くらいの性能は確保されている。
皮肉にもエリドゥ攻防の頃と同レベルだ、あれだけやれたら十分だよ。
しかし皮肉な話だ、リオが心配性を起こして流れ流れて福として帰ってきた。なんとも歴史は何が起きるか分からんな。
のんびりと帰るかと、通路を歩いていると寝間着に着替えたノアと遭遇した。
なにしてんだと尋ねると「パジャマパーティーです」と言われ、なんだそりゃ?と思わず口を突いて出た。
どうやらセミナーの倉庫から物を取ってくる途中だったらしい、まあ手伝うかと付き添う。
「懐かしいですね」
黄色い規制テープに塞がれた部屋を見る、セミナー警備室、ある意味ノアと思いっきり遊んだ場所だ。
今にしてもノアは真面目だから予想通りだったがモモイが予想外過ぎた、非常に困る。
「あれから一年経ってないんだよなぁ」
「最初はすこーしお灸を据えるつもりだったんですが、本気で遊んじゃいました」
「今度はお前の側に着くからな俺」
2回目なんてしないからなー、絶対やだぞ、手癖知りすぎてるだろお前。
「えー」とノアが悪戯気に笑う。
「負けてる方を勝たせるのが好きと聞きましたが?」
「ケースバイケース、戦局判断だよ」
「リベンジしたくもあるんですよ?」
「セミナーの書記は負けず嫌いだなぁ、子供らしくて結構」
嬉し気に微笑みながらノアが尋ねる。
「私は色々言われる通り、圧が強いようで。その意図が無くても相手が気圧されるのに先生は気圧されませんでしたよね」
「おまえより圧の強い奴、表情の裏に色々隠してた奴相手にしてきたのと、お前が実際問題、真面目で素直で悪戯好きだからな」
「愉快なお知り合いが多いみたいで」
「まぁ、お前と同じで友達の為ならできる事をあれこれしてたんだ」
極論言ってしまえばユウカにしてもノアにしても、真面目な善人だ。
素直じゃなさそうに見えて案外素直なタイプ、別段おかしくはない。
「お前にしてもコユキにしても才能に振り回されてるよな。9歳ぐらいから苦労してただろ?神童とか言われたり周りが愚か者に見えたり」
「先生もそのタイプで?天才肌ですからね」
「石投げられて笑いものにされてたがな、俺はあいつら全員報復してやると誓ってより頑張れた」
呆れたような、そして何処か羨まし気にノアが言った。
「想像しやすい、素直なご幼少期で」
「接しやすいユウカに魅せられたかい」
ノアの眼が変わる。
まあ想像はしやすい、ノアにしてもユウカにしても、ある意味世話焼きな心配性だ。
ユウカの美点はまるで色眼鏡をしない点なのだ、なんだろうがありのままを見ている。
実直がユウカなら素直がノア、全知がヒマリなら全能がリオなのだろう。
素直に人を見れ過ぎるノアにはユウカのような人間が必要だ。そう考えてみるとミレニアムに居て正解だと言える、エンジニア部やゲーム開発部のバカ含めて素直なバカが多い。
「ですから、あまりユウカちゃんに我儘言っちゃ駄目ですからね?」
「……さあ何のことか」
ぴゅーと口笛を吹いて、眼を逸らす。
お前は素直だが俺は素直じゃない、そういう事だ。
せいぜい俺があらゆる方法でしらばっくれる事が出来ることを覚えておくがいい。
ノアと共に扉を開け、荷物の布団を入れる。
「あ、先生」
「お前も寝間着なのか」
コユキがぴょこっと音を立てて出て来た。
「先生知ってましたか!ノア先輩のパンツってレース付きの白────」
瞬間、コユキが投げられたまくらで吹き飛ばされた。
可哀想に、新年は気絶で迎える事になりそうだな。
「俺に言われても困るがな……」
「既婚者ですからね……」
ユウカがアホを見る眼で伸びたコユキを見ながら呟く。
「え、先生それホント?」
「結婚してたの?!」
ヴェリタスのハレとマキが驚愕している。
「マジ?」
チヒロすら困惑して眼鏡を掛けなおしている。
「というか先生のあの300ページ越えと言ってた昔の話*3私もまだ聞いてないんですけど」
ユウカがヌッと圧を強めて迫る!
しばし考えて、ひらめきに身を任せる。
「なんか大事件が起きるか、スズがやらかす予感がしてきたので俺帰るわ」
「「「ふざけるなー!生徒から逃げるんじゃない―!」」」
「本年の業務は終了したから先生じゃないんだよ!今は一人の人間だ!」
「最初に言ったこと思い出せー!」
「医者が急患に備える様なもんだよ。そうだ、菓子食ってんだから寝る前に歯を磨けよー」
脱兎のごとく逃亡!
ノアは楽しげに笑いながら、変わらないですねえとユウカと顔を見合わせた。
感想評価お待ちしてます。評価に関しては荒らし対策にしていますのでお手間をかけてすみません。
毎度誤字脱字などの報告本当に助かっております、この場を借りて心の底からお礼申し上げます。
原作のどっちを見たり知ってます?
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長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
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ブルーアーカイブだけは知ってます
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どっちも知ってます。