キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
ミレニアムらしいリニア式走行の学内モノレールが停車する、時速200キロを超えれる相変わらずの謎の技術力ではあるが、一番の売りは静かで速いだという。
確かに、トリニティの鉄道と違いダイヤが多少雑という訳じゃないんだなと、地に足を付けたセイアは思った。
両腕を伸ばしてみる、空にはカラースモークを焚きつつ垂れ幕が靡いている。
【ようこそEXPOへ】
百合園セイアが久方ぶりに世界と人々の流れに居るのだ、自然と彼女の口角は緩んだ。
実に数か月ぶりの外遊だ、仕事もあるが、新鮮で実に快適な気分である。
進取と希望に溢れた科学展示会、という点もセイアの気分を高揚させている。
実のところセイアは
こうした趣味には幾つか理由が有る、一番大きいのは未来予知で強制的にネタバレを喰らう事柄では無いからだ。
科学は常に問いと答えが続く、誰に気兼ねする事も無く、追う限り色々な事を答えてくれる、人付き合いがあまり得意でないのもあり、セイアにはある種気晴らしになった。
赤い空の事件以降未来予知夢の頻度は急激に低下した、直感、というより不定期に繋がる怪人共と自称先輩たちは別だが、最近は静かだ。
「ID確認を」
ミレニアムのセミナー保安要員らしい生徒が
物々しいというよりこれもプロモーション、セイアはなるほどねえと内心感心した。
白を基調にしてミレニアムのセミナーらしい黒線を入れているのは、戦闘色というより儀礼塗装的だ。
実のところセイアの予想はやや買いかぶりである。先生ならある意味理解できただろう、身もふたもない理由だ。単純にミレニアム生徒は下駄履かせなきゃ大変なだけだと……。
日常的ともいえる各種他校と関わって故の感想であるから、昏倒明けのセイアに非は無いのだが。
「ステーションのエスカレーターは混雑にご注意くださーい」
セミナー保安要員と軽装のシャーレ隊員が誘導棒で人の流れを整理していた。
エスカレーターに身を任せ、照明が切り替わる。
手すりからともされるホログラム映像が起動し、Improvisation on Tchaikovsky's "Pathétique" (Andante)という音楽が流れ始めた。
暗い中からスポットライトが灯り、セミナーの会長であるリオが、いつもらしい黒いスーツの出で立ちで現れる。
『ようこそ皆さん。ここで少しばかり、素晴らしいものをお見せしましょう。』
エスカレーターがステーションビルを抜け、ガラス張りの通路へ変わる。
セミナーのあるミレニアム・ビルを中心とした広場一帯が一望でき、ミレニアムらしい施設群が正に一面を埋めている。
まるで
『正に人の時代の傑作と言えます、そう、こうした傑作を生みだすのは、人なのです。
世界をより良くするために、あなたの関心が必要になるかもしれません』
ホログラムは通路を抜けると、同じく並行して投影場所も変わる。
『ミレニアムの玄関口であるこの建物は外壁内部に複合装甲版が約1m仕込まれてます、かなり頑丈そうですね』
小さなロボが壁をノックするアニメーションの隣で、ふっとリオが微笑んだ。
『災厄から最悪まで貴方を防ぐために、そして貴方の生活にも役に立つ。
オールディーズと共に宣伝放送に出るのはウチじゃ見ないよなあ、とセイアは思いながら、彼女たちはエスカレーターの終点から降りた。
年末話していたEXPOが見えてきた。
そうなると家にも話が来るわけだが、話を持って来たのが意外な人物だったが後で良いな。
トリニティの連中も来るらしい、EXPO警備部でも作れば良いのか?と考えていたが、よくよく考えたら共同警備計画出せばいいだけだ。
エデン条約以降各種式典警備の手伝いも仕事の範疇だ、実績がデカいから後光でも借りたいのだろう、当然ではある。
「そりゃ、お前じゃ無理だわな」
「えーっ、私じゃ無理って言うのォ」
ミカが拗ねてぶんむくれている。
「外聞が悪い。しかもついカッとなってやったらミレニアムの連中空を飛ぶぞ?30Mは確実に」
「感情に任せるのは最近気を付けてるよ。丁度今前に居る人を反面教師にしてるもんで」
「けえーっ、言うようになったなおめェ」
ユウカとノアの書類を見ながら、二人にあれこれとメモを添えて渡す。
まあようするにミカが言いたい事は簡単だ、「セイアちゃんも日光に当てないとカビが生えちゃうよ」なんて言っているが、心配なだけだ。
しかしセイアの奴はデータがない、記録音声データまでない、警備計画を練るというの大変だ。
ミネ団長からは健康ではあるが不安はあると言われたが、どうしたかセイアは「行きたい」と主張している。
子供に頼まれると俺は弱い、こればかしは男の、大人の見栄の話であるから無理とも言いづらい。
そういうわけで警備計画顧問として社会の治安と秩序とあれこれと、そしてリオへの貸しがデカいから断れないという政治的あれこれもあり、更にモモイのバカが「新作はやばいよ、大ヒット間違いなし!」と自慢されたのもあり俺はここにいる。
畜生便利な話には裏があったぞコラ!
「そんな事言って心配だから、指揮車に居るんだろうが、あんたも」
「うるへえ本当のこと言うんじゃねえよこのォ、それにリオの奴も足元甘いんだ」
ネル部長の横槍な正論を無視して、HEMMTの後部指揮コンテナ内部から観測している。
ヘルメット団やスケ番の連中に召集の兆候が見受けられた、と言うのが数日前、調べてみた結果EXPO狙いらしいが途中で特捜隊員たちを振り切り逃げられた。
最近の犯罪者は逃げ足が速くなった。
その最中にもセイアはアスナに肩車されたり、自販機に金吸い込まれてバンバン叩いてたり、犬型ロボットを撫でている、ワンパクかこいつ?
「……茶会ってもしかしてワンパクキッズなのか?」
「学生らしくて良いんじゃないの、そんくらいでえ」
「んまあそういう平和を守るのが仕事なんだけど」
視線を逸らした一瞬の隙に、セイアは監視カメラの中から消えていた。
赤子より目が離せないじゃねえか畜生!
思ったよりアグレッシブでワンダフルじゃないかどうなってんだ!
だがまあプロイセンとこの王妃とか、もっと元気だったしまあそういうもんか……。*1
「ネル、捜索よろしく頼む」
「目ェはなせねえお嬢様だコト」
やれやれとネル部長が出撃した。
今次作戦では政治的都合でA分隊は出せない、従い、ミレニアム側部隊の指揮権を臨時で使う形になる。
EXPOでも見てこいと小遣い渡しているが、ミサキと一緒にゲーム開発部の手伝いでもしてるだろう。
セイアは単純に道に迷っていた。普段歩くトリニティは言ってしまえばゲーテッドコミュニティの連続体で、大体何処がどういうものが有るか察しやすい。
さらにミレニアムの建物は基本的にコンポーネント化ブロック化を極めており、リオ以前の体制から「どうせなんかで吹っ飛ぶからブロック式で良いんだよ」というスタイルもあり、全く外見上の差異が無いので迷いやすいのだ。
「やれやれどうしてこうなったかな、恐らく地下だろうと思うのだが……」
フッと微笑んで、久方ぶりの現世の遠出を味わう。
壁を見るとW-4Bと書かれていた、恐らく西部第四セクターのBか?ポケットの糸玉の結び目から、歩いた歩数を確認する。
恐らく900ないし1100mあたり、人の多い地域なのはわずかに聞こえる車両音から確かだ。
「えーと、次の計画は」
微かに人の声が響いて来た、スタッフか警備員だろうか、ちょうど良い。
しかし敏感なセイアの、毛の多い耳はその生徒の音に何か違和感を感じた。
実のところ、映画やアニメの様に銃器とはガチャガチャ忙しなく音がしない。大抵あれは揺れてぶつかりあったことによる装具の音である。
そのためキヴォトスの大半の生徒の音は武器のあるなし関係なく、足音だけである、だが前方から聞こえてくるのは足音も装具の音も何かが違う。
まず警備にしては変だ、ミレニアムの保安要員向けの外骨格、確かカターンだかミョルニルだかいうスーツは静音サーボモーター付きで、そういう音では無い。
足音も揃っていない、SRT生徒やアリウス系が多いシャーレの場合、彼女らは無意識に足が揃う。
よって、これは双方どちらでも無い。
セイアは参ったなと思いながら、辺りを見回す。
恐らくあと少しで前を通るだろう、拉致られましたじゃ……セイアの脳裏にナギサとミカに心配をかけたりそれ見たことかと言われるのはいやだなという感情がよぎった。
そして何より単純にイベントをフイにされるのはムカつくなあという感情も湧いた。
左右を見てみると、程良い大型ダンボールを見つける、無言でそれを被ってみると、案外サイズぴったりで心地良い。
「結構良いじゃないか……待て、なんでこのダンボールは埃が無いんだ?」
空ダンボールだが、そもそもこんなところのダンボールが綺麗なのはおかしい。
セイアの思考と同時に、足音が近づいて来た。
やはり、というかセイアの見立ては正しかった。
M69フラックジャケットなどを着込んだヘルメット団の不良生徒だ、Mkb42(H)やM1928A1などの武装を見るに、そこそこの規模のグループだろう。
4名ほどのヘルメット団は私語を話しながら近付いてきていた、内容は大概が下らない内容だったが、一つセイアの逆鱗に近い物をそっと撫でていた。
「エキスポを滅茶苦茶にして金を稼ぐってなんでんなコトすんだ?」
「知らねー、ウチらの給料それで出るんだし別に良いだろ」
M16A1を持ったヘルメット団がそう言うと同時に、セイアはダンボールから顔を出した。
「へ?」
ヘルメット団全員が呆気に取られる。
セイアの袖口に仕込まれたスライダーから飛び出した拳銃は、手慣れた構えで全員へ2発ずつ弾を叩き込む。
実のところセイアは実戦をあまり経験していない、かつて中等部の頃に初陣を不良生徒の鎮定作戦で経験し、ミカとナギサとの最初の出会いとなったがそれくらいだ。
あの時期のキヴォトスは雷帝とあまりに長引くアビドス砂漠化による天候不順はクロユリ学園などをいくつもの学園を廃校させ、難民を続出させていた。
流砂が空を覆い太陽光を閉ざす事件が起き、オデュッセイアなどの漁業者は「プランクトンの深刻な大量絶滅」の報告書をミレニアムの学会に提出する事態にまでなった。
無論ここはキヴォトスだ、メガコーポの進捗が「異常な貝類成長やプランクトンの危機」を押し隠してしまった。平均質量がカニ14パーセント、ロブスターが12パーセント、シラトリのフジツボの毒性の増加もミレニアムで公開されてようやく一大事扱いされた。
それが30年ほど前の話であり、ミレニアムの更なる地位的飛躍へ通じる事となった。
そうした事件の中、身を立てる才覚がない連中は完全に流民化して犯罪に手を染めるわけである。
しかしセイアにはそうした事情があるのとこれは別である、酷い事をされたは誰かを酷い目に遭わせる免罪符であるか?ノーだ。
「ふぅ、意外となんとかなるもんだね。」
セイアは少し息を吐いて、拳銃を構えながら近づく。
実戦と言うのを久方ぶりにしたため手が少し震えている、実は銃を撃つ事自体はたまにしているが、定期的なメンテナンスとテストの為でしかない。
人に向けて撃ったのは確か2年ぶりだった気がする。
それ故にだろう、再装填せずに彼女は近づいた。
自身の拳銃の装弾数が何発か忘れていた。
「あ」
咄嗟にヘルメット団の1人が走り出す。
予想外のことに咄嗟に撃てない!最近のキヴォトスの不良生徒はボディーアーマーを着用しているせいでセイアの見立てが狂った。
更に側面を無防備に晒した事で、もう1人ヘルメット団が自身のM1カービンを掴んで振りかぶる。
彼女のM1ヘルメットにはカーキ色の線が2本入っていた、かつてデザートストームに参加した団員だ。
「しまった」
咄嗟に射撃するがM69フラックジャケットが拳銃弾を受け止める。
無慈悲な金属音、弾薬が尽きた。
しかしヘルメット団の生徒が振りかぶるのは不可能だった、側面からMPXの連射を受けたからだ。
「おうおう、えれえコトしてんじゃねーのオメェ」
「……確か、ミレニアムのC&Cの部長さんだったか?」
「あん?部外者がなんで……あぁー、茶会の偉いさんか」
ネルが両手にMPXを構えながらヘルメット団の生徒を確認した。
先に逃げ出した生徒のことを尋ねると、待ち伏せて伸したと返されたのには面を食らった。
元々警護で尾行がついていたらしいが、どうやら振り切ってしまったらしい。
「楽しみにしてくれるのは嬉しいがよ、事件に首を突っ込むのじゃあリスクが違ぇぜ?んまあ、善意の第三者は好きだが」
ネル部長が髪を掻きながら、保安要員にヘルメット団を引き渡す。
セイアはやや呆気に取られつつも、軽く裾を払って挨拶した。
相手がティーパーティーという事にネルは少し驚愕したが、まあそういうものかと頷き、インコムで軽く相手と話す。
「んあ?良いのか?」
『構わないわ、多少政治的妥協が必要になるだけで良いなら安いものよ』
保安要員が後始末を引き継ぎ、外へ出る。
概ね想像通りの距離だ。
ネルがポケットを探り、発信機を渡す。
「防犯ブザーだ、なんかあったら押してくれ」
「
「似たようなもんだ」
ネルの端末に呼び出しが入り、リオの『エンジニア部部室棟でコード44』と連絡を受けて走り出す。
セイアは地図を見て、作為的に騒ぎを起こすなら自分はどう陰謀を練るか?と考える事にした。
相手の意図や目的は不明だが、エキスポを滅茶苦茶にするならこの程度じゃすまない。
試験展示中の非武装型アバンギャルド君が暴走したが、セミナー保安要員とエンジニア部に支給されていた粘着剤ランチャーで制圧出来た。
ネルが来た頃には先生が到着し、データ解析をウタハとチヒロが始めている。
「外部からの干渉のようです、行動ロジックでエラーを起こしアバンギャルド君が認知機能に悪影響が出たんだろう」
ウタハ部長が首を傾げつつ、データを確認している。
色彩襲来時にアバンギャルド君は群衆の視線に晒され、存在の事実は公認された。
実際問題壊れても問題ないAMASシリーズとアバンギャルド君は便利な駒であるので、無人兵器の存在は「まああると思った」と受け入れられた。
アビ・エシェフ系の機動兵器はそもそも情報操作で隠蔽した。僅かに無人カメラが記録していたが、アロナとクラフトチェンバーのデータリンクで始末してある。
「暴れたのも本来の戦闘型と違う試作タイプだからだろうね、元々アバンギャルド君は自閉的で外部接続しないタイプだ」
「そりゃ戦闘用なら大概クローズドだろうがよ、しかし試作品なのを狙ったにしては変だな」
コトリが自己検査を走らせ、ヒビキが電源ユニットを外す。
試作品なので電源部の電池と有線ケーブルが無ければ活動不可能だ。
「
「お、あったか」
「データが更新されたログが残ってる、流石に会長製、ログ保存がちゃんとしてる」
チヒロがウタハに「そこの部分外しておいて」と指示を入れる。
足跡を掴んだ、と会長にデータを転送し、チヒロはしばし腕を組んだ。
「しかしなんか変、ウチの学生にしちゃやり方が違うような……」
「ま、とっちめて吐かせりゃわからぁ!」
「喋れなくなるまでボコボコにするのはやめてよ」
チヒロの言葉にしーらねとネルはそっぽを向いた。
セイアはやれやれと言いたげに目の前の大人を見た。
先生がミレニアムのブースに居る。
「いいのかい、ここにいて?」
「なんかあるにしてもどうにでも対応できるからな、いきなり2個軍団規模のデカグラマトンの軍勢でも出てくれば別だが」
これだよ、と呆れた顔をしてセイアは横を見た。
確かミレニアムのゲーム開発部だ、資料によると色彩襲来時などで貢献したらしい。
情報部が「あれC&C下部委託機関じゃないのか?」と疑いをかけているが、尻尾も掴めない。
シャーレの特務と何らかの連携があるところまでは掴んでいるが、臨時集成ゲーム開発部戦隊などと言う特別行動部隊編成権限もあるようだが、なにも出てこない。せいぜい隊員数名とゲーム開発してるくらいだ。
「せんせーじゃーん!」
一番外側で客引きしていたモモイが嬉し気に看板を振った。
「あぶねえから振り回すな馬鹿、軍旗じゃねぇんだぞ」
「ひどーい!」
ミドリとミサキが呆れた顔をしてこちらを見ている。
「そっちの人だれ?」
「トリニティのティーパーティーだよ、礼儀正しくやれ」
モモイは数瞬ばかし動作を停止し、横を見てミサキに「なんだっけ?」と尋ねた。
「そっちでいうセミナーだね」
見かねてセイアが解説し、得心が言ってモモイがなるほどと言った。
「つまりユウカみたいなものか!」
なんで上層部とコネクションがあるんだ?とセイアはやや困惑しつつ、隣の黒いスーツを着た少女を見る。
記憶が正しいならアリウスのところだが。
「うちから手伝いにだした、ちょうどオフだしな」
「いいのかい?」
「あれを自由にさせるよりある程度手綱握らせた方が良いだろ……」
セイアと先生の会話は完全に食い違っている。
セイアは「私にそんな特務の事情を話していいのかい?」と言い、先生は「あのアホのパープリンのさばらせちゃいかんでしょ」と述べている。
完全な誤解である。
「……あ、もしかしてミカさんが言っていたセイアさんですか?」
ミドリが思い出して、嬉し気にした。
「そうだが、知っているのかい?」
「はい!たまに服飾デザインや美術資料で協力してくれます、以前にも任務で助けてもらいました」*2
良いのかなそれ話して……、と先生をちらりと見る。
呆れたような顔をしていた。
「なんとも愉快そうなことを……ん?」
セイアの大きなキツネ耳が動く。
なにやら乱闘が始まっている、ミレニアムとトリニティの学生が、いや、双方関係なく殴り合い始めた!
正義実現委員がミレニアムの眼鏡をかけた学生を投げ飛ばし、飛ばされた学生がシスターに直撃、直撃したシスターが今度はミレニアム生を棍棒代わりに振り回す。
「なんだぁこの状況はよ」
先生が思わず困惑の声をあげた。
セイアもなんだあれはと声も出ない、絶句そのものである。
慌ててモモイが止めようとするが、折り畳み椅子でどつかれて号泣し出した。
「びえええええ!!なんどがじでよおお!!」
「鼻水流してくっつくなと何時も言うとるだろボケがァ!誰か紙渡してやれ」
モモイを引きはがした先生が、ミサキへ頼むと告げた。
ミサキはやや状況に困惑しているが、腰裏の電磁警棒を展開する。
ヴァルキューレの警備局機動隊向けのレスリーサルな執行道具である。
「悪いけどリーダーみたいに、絵になる動きと手加減は期待しないでね」
怒りで我を忘れているとはいえ、シスターや正義実現委員の眼が変わる。
大半の暴走していたミレニアム生はほぼ返り討ちにされていた。
数名のシスターと正義実現委員たちがミサキの前へ立ちはだかる。
旋回するように囲んでミサキへ迫り、一気に仕掛けた。
しかしまず左へ拳、前面へ顔面狙いの蹴り、続けて右へ両肩掴んでの腹への蹴りがぶちかまされる。
たちまちに三名をノックアウトし、さらにガリルを振りかぶったシスターを、小銃の銃身を掴んでひっくり返してストックで胸部へ一突きぶちかます。
続いて残る正義実現委員が挑みかかるが、片手の武器を払い落す。
隙も逃さず腹部へ蹴りを三連撃、トドメに拳を叩き込む。
「制圧。……50秒少し、まあこんなもんか」
ミサキがスーツの上着を整え、ふうと息を吐いた。
遠巻きにしていたセミナーの人間たちが負傷者を回収する。
ユウカも現れ、リオ会長からの指示書を見せて筐体の情報を確認し始めた。
「私たちのせいじゃないよおお!」
「でしょうね」
「だろうなー」
ユウカと先生が即答し、アリスがティッシュをモモイに渡す。
意外な言葉にモモイが「へ」と首を傾げた。
「モモイのバカは人を怒らせるゲームを作れるけどこうじゃないよな、横の相手を理由なく殴りたくなるじゃなくて、コントローラー投げて開発者を殴りたくなるタイプ」
「ひどいごどいううううう!!」
「先生加減してあげてください」
「前大成功した時にココアシガー咥えてぶどうジュース片手に一流開発チームのシナリオライター様だよ。とかイキり散らして奴誰だよ」
セイアが呆れた顔で閉口していた。
「その後、確定申告で青くなってたが……」
此奴がここまでしおしおになるのは珍しい、こう言えばまた元気になって俺にかみついてくるのになぁ。
解析するかと近くの人員を確認していると、ちょうど良いのが居た。
「おうエイミー!おめーんとこのボス元気?」
「ん?部長?」
エイミがヒマリを呼ぶ。
しかしヒマリは誰かと話している様だ。
セイアは近づいてみると、「リオ、なにしてるか知りませんが帯域制限なんかされたら病弱天才美少女あがったりなんですよ」と話しているが、相手からの返答に困惑している。
「へ?知らない?やってない?じゃあ誰がやるんです」
『……ヒマリ、ちょっとIP探索に力を借りていいかしら』
「良いですよ、でも後で請求しますよ」
『先生につけといて』
「ケチー!」
通信を切り、ヒマリがコンソールを起動する。
エイミの話を聞いて、「ゲームして乱闘は確かに特異現象ですね」と呆気に取られた様な顔をしつつ、二重でコンソールを開いてタイピングを始めた。
数分ほどしてピコーン!とマップがホログラム投影され、特定!と地図がハイライトされる。
同時に、僅かに照明が断続的に切れる。
「新素材研かエンジニア部がなんかしたかな」
「電力さすがに使いすぎたんでしょ」
モモイと白髪のもこもこミレニアム生が天井を見やる。
先生の目が変わった。
「リオ、少し良いか」
電力トラブルによる電力網復旧は必然全てを映し出す。
ミレニアムで正規の電力網に依存してない施設などほとんどない、セミナーのビルすらそうだ。
しかし全く異常がない施設があれば?あるいは階層があれば?必然そこがバイタルパートだ。
クライアントが高い予算を掛けた為、しっかりと雇われたマーセナリーがKEL TECのRDBを構えて突入する。
青い戦闘服に黒色のMAYFLOWER RC 製アサルトプレートキャリアを身に着け、M826ヘルメットを着用し、AN/PSQ-20暗視ゴーグルを着けて暗いセミナーの施設を走る。
「コンタクト!」
先頭を走るマーセナリーの一人が片手を挙げ、停止させる。
前方からカツーン、カツーンとシンプルな靴音が聞こえてくる。
「ミレニアムじゃ見ねえツラだなァ、マーセナリーか?なるほど黒幕はそこそこには金持ちらしいな、アァン?」
『どうかしましたか?クライアントの指示は即時制圧でしたが』
マーセナリーの隊員たちが防弾盾を構えて隊列を整える。
「恐らくネル部長です。」
『あー……予防に緊急展開されてましたね、投影モードへ』
ホログラム映像に、ミレニアムのマークがされた服を着た生徒が現れる。
ネルは「んだオメー」と首を傾げた。
『ふっふっふっ、貴方では分かりませんよ、あのリオ会長でもなければね』
「……らしいんだけど、会長ォ、誰だよ」
ネルが良く分からないものを見る眼をして、通信機に尋ねた。
しかし返答は「誰……?」というある意味リオらしくない返答で、ネルが思わず吹き出す。
『誰とはなんですか誰とは!この私を忘れたとは言わせませんよ!』
「自己紹介するのがスジじゃねえの?」
『所業も相手も忘れて自己紹介しろとはなんたる無礼ですかー!いいですよしてあげますよ!この私、疑似科学部部長ミライの名前、見知りおいてもらいましょうか!』
数秒して、リオが「あ、昔廃部処理の判印押したわね」と思い出した。
「なにやらかしたんだ」
『確かノアとユウカに審査落とされて、私に報告されて至当と認むと判子を押したわ』
「……嘘だろ、ユウカに審査落とされるとかモモイ以下かよ」
ネルが絶句し、むきー!とミライが声をあげる。
『数々の暴虐と蛮行と侮辱、もはや許しませんよ!私にも秘密兵器があるんです』
「何かは知らねえけど早く使った方がいいと思うぞそれ」
『いいもんねー!押しちゃうもんねー、この不良大暴動スイッチ』
ミライのホログラムが箱型のラジコン操作器めいた機械を取り出す。
流石にネルも思わず驚いたが、全員を驚かせたのはあの大人がトリニティの生徒を連れてきたことだ。
マーセナリーが何人か「うわ、またクソ案件か」と声をあげる。
『出ましたね!我々を悪徳詐欺師集団として指名手配して不当逮捕する科学の弾圧者め!』
「共和国にも帝国にも似非科学は不要だ*3、そういうのが好きな奴ヴェリタスの部長だけど」
『私は日々の生活に少し彩を添える感じで楽しんでるだけです!』
ヒマリが割り込んでくるが、ミライがより激高する。
『失礼な!宇宙氷説とかコオロギ大帝とかカエル大公とかアナ◆日光浴*4とか売りに出したり提唱しただけなのに!』
「詐欺集団からカルト宗教にカテゴリ変更だよそれ、害があるのが明白ならリスクも説明しろアホ」
『この前も水から石油を作る様な概念提唱したら規制されましたし!なんでェい、たかがゲルマニウムブレスレットとか売っただけで!』
というかゲルマニウムのブレスレットとかがなんになると言うんだ。
ん?まて、ゲルマニウムブレスレット……誰かが買ってたような、スズじゃなくて、えーと誰だっけ。
『私の中の水分子が怒りで歪んできましたよ……!』
「せめて水素が酸化するとでも言えよ、水素分子が歪んだらヤバいが」
「というか、そこの部屋に入ってどうすんだ」
ネルが首を傾げる。
『クライアントはそれに多額の報奨金を支払うと言うのです!私はそれを元手に部活を再編し』
「独立してやる勇気が無いなら辞めた方が良いと思うぞ俺、アルちゃんくらいはやらなきゃ」
『なんでそうあなたは人の神経を逆撫でしたがるんですか!構いません!突入!』
マーセナリーが警戒しながらドアを開ける。
しかし、そこに広がっていたのは黒焦げのコンソールだけが残る、かつてのセミナー警備室だ。
リオとヒマリがホログラム投影され、「ドッキリ大成功」と看板を掲げている。
ご丁寧に効果音までつけていた。
『ど、どこまでも人をコケにしてくれますね……‼』
ミライが操作器を押す。
しかし反応が無く、連打しても操作が効かない。
「たのしー、せんせーのー、戦場講座ー。長電話すると電波逆探されちまうぞ」
天井のエアダクトからC&Cのメンバーが降下し、通路後方からはアビ・エシェフMk1が展開する。
かつてのモモイと別の手法だ、使い古しで構わんだろう。
『あ、あのー、交渉とかは』
ミライが尋ねてみるが、セイアは大きな耳をわざと畳んで聞き返す。
「すまないね、百合園セイアは耳が遠いんだ、オカルトなら私も一つ特技があってね、ピンクの長髪には気を付けた方が良いぞ」
『へ?』
ミライの背景のドアが強引にねじ開けられる。
『うへへえ、ウチの後輩に何したか吐いてもらうよォ』
『物売るならちゃんと品質は保証しなきゃ駄目じゃんね』
『ホアーッ!!!!』
画面の向こうから激烈な銃撃音がして、通信接続が途切れた。
クライアントが先にやられてしまったらマーセナリーもどうしようもない。
給料無しかと投降したマーセナリーたちを連行させて、アロナの画面に眼をやる。
「カイザーも、さすがに諦めたか」
アロナのタブレット画面に、
フォーマルスーツに身を包んだカイザーの情報エージェントじゃ、探りを入れるのは難しい。
ミレニアムに預けている情報資産は政治的に極めて重大だ、あの辺りの犯罪証拠は今の冷戦構造が壊れるので渡せない。
本当に奴らやカイザーを叩き潰しに行かなくてはならなくなる。
秘匿には必ず背筋が凍る冷たき恐怖が必要だ。
再建されたゲーム開発部の筐体直ぐ近くに、黒いコートを着込んだオートマタが居た。
傍らに白い特注のオートマタを侍らせており、肩にはカイザーのマークが描かれている。
カイザー・コーポレーションの
素早いコントローラー捌きで、ユズとの格闘ゲームを繰り広げている。
戦況は7割ちかくHPを削られているから、会長が負けている。
筐体のレトロゲームらしいSEで、ユズがフィニッシュコンボをキメてマッチが終了した。
「ん~いやあ強いねえ」
ウキウキとしたニヤケ声で会長がそう言いながら、軽く拍手した。
「えへへ、ありがとうございます。正直、3回くらいプレミで負けそうになりました」
「はははっ、ありがとう。君にそう言われるとは光栄だ」
会長の隣に、白いオートマタが近づく。
「ご老公。シャーレが制圧したそうです。」
要人護衛用の白いオートマタはスーツに電話を仕舞う。
会長は特段驚く事も無く、胸ポケットのドロップ缶を振って中から出てきた飴ををひょいと口に含んだ。
暫く転がし、何とも無さげな抑揚で「そうなるだろうねえ。食べるかい、ハッカだが」と呟いた。
「それとうちの作戦も失敗したそうです。」
「だろうね、他人の動きに便乗するからそうもなる、私が来たのは只の買い物だというのに」
主体性も無い付和雷同は政治じゃ悪手だ。
便乗して何か出来るか企むのは良いが、今じゃないだろうに。これでこのエキスポが中止になって今回の主目的が台無しになれば、担当者にお話をして、止めなかったジェネラルの頭を灰皿で殴ることになって居た。
会長は胸ポケットから葉巻を取り出したが、そばに居たアリスに「おじいさんここは禁煙ですよ!」と指摘されて、「失敬」と葉巻をケースへ戻した。
「喫煙スペースある?」
「確か6キロくらい向こうの喫茶店にあります、テーブルの中にゲーム機のあるお店です」
「ありゃまあ、しかし興味深い情報をありがとう。お礼にこれをあげよう。まだ開けていない新品だよ」
アリスにお礼のドロップを渡し、時代も変わったなあと葉巻を胸ポケットに戻し代わりに財布を取り出し、ブースのグッズを「布教鑑賞実用で3つ欲しいが大丈夫かね?今回の筐体、複製があるなら買って帰りたいのだが」と尋ねる。
レジの双子は「「お買い上げありがとうございます!」」と90度のお辞儀をした。
目標を全部買って満足そうにアンケートも記入した会長は帰っていった。
「戦略目標は全て達成、インベーダーゲームでもしながら戦利品を確認しよう、ファンネルも目標を買えたか確認しないと」
トホホ……とミライは顔を一部青くして揺られていた、関節も痛い。痛くない場所が少ない。
MRAPって思ったより狭いんだなあと考えてもいる。
載せられている捕まったヘルメット団はまだ数名意識を遠い所へ飛ばされている、エンジニア部から迫撃砲弾が投げ込まれたせいだ。
そう思いながら前を見てみる、三栄土木工事と書かれた黒いトラックが横を走り抜けようとしていた。
「飛ばし過ぎだぞあのトラック」
「おいあれ!」
突如としてトラック荷台からカールグスタフM3が構えられ、ランチャーから撃ち出されたHEAT弾がMRAPを空へ舞い上げた。
三回転してMRAPはビルの壁にぶつかって横転し、後部ドアが開けられる。
ミライは爆発で遠くに飛んでた意識が強制送還されたヘルメット団の団員と共に、恐る恐るドアから外に出た。
取り囲んでいるのは恐らくSRTの装備の様だが、よく見ると何かが違った。
吊り下げている武器はFort-223、つまりタボールの系譜で最近レッドウインターの治安部隊向けに調達され出した奴だ。
SRT隊員はバルメやRk62、またはAR系を使う、
「SRT……いや、シャーレでもない……?」
「イエス、アフターケアまで安心という事ですよ」
その言葉が聞こえると同時に、隊員たちは肩の肩章を外す。
SRTのイナズマ型のマークから、片眼鏡とステッキがあしらわれた肩章が露わになった。
「に、ニヤニヤ教授」
「ほむ。覚えて頂けてなにより」
教授が片手を動かし、別の車へ乗せる。
「ミレニアム管制システムが異常へ気付くまで5分です、お急ぎを」
「なんで助けに?」
ヘルメット団の団員が思わず尋ねた。
「んー、ミレニアムの機密の端が見えたのと、予想よりあの大人の手は随所に伸びていたのを知れたからですね、大いなる存在への媒介というわけです、今暴れてる連中のせいでかなり固められてましたが、我々としてはあのデカグラマトンの相手はシャーレに投げて起きたいので」
地下へと入る車は、やがて廃棄された地下鉄駅で停車した。
黒い太めのベレー帽にブラックを基調としたデジタル迷彩服、ニヤニヤ教授の私兵が待っていた。
教授は楽し気に「対局はまだまだ続きますよ……」と、私兵の一人に介添えをさせつつ階段を上がっていった。
ロココ様式の静謐な空間では、珍しく自称先輩がきゃいきゃいと声をあげている。
セイアが先生へ狙うならセミナーの施設と推測を話し合い、速やかな情報共有で逆探し、待機中の部隊をけしかけた。
事実上完勝というべきものである。
「後輩ちゃん勝てましたね!師どうして機嫌が悪いようですが?」
「杖を付いて笑みを張り付けてるのは私の特技なんだがねぇ」
「師だとニタニタ大公になりますね」
「あれだけ陰謀を企んで羨ましい、ネズミとネコのゲームができるとは」
相変わらずろくでもねえ大人どもだと”先生”が呆れかえる。
タイユランはコーヒーの煙を立ち上らせながら呟く。
「しかし、水素元素とはね」
「貴方もそう言うのがお好きで?」
「私が好きなのは、これを構築してる元素記号だよ」
”要するにお金かぁ”
まあ極論金で解決付くならそれで良い事の方があるのだ。
多少の金穀だかで解決つけるのと、いたずらな人的物的損耗ではあまりに価値が違う。
「文明生活に無くてはならない元素記号だよこれは」
「しかし、ゲーム機でなんで乱闘するような催眠が出来てるんだ……?」
「特異現象ですね」
ケイがなんとも困惑しながら呟いた。
騒々しく騒がしい人の世界を見ながら、筐体の片付けを手伝うアリスを見て、ケイはにこやかに呟いた。
「Werde munter, mein Gemüthe」
生命とは悲しみと喜びを感じ、生きていくことなのかねえと思いながら、自称警察長官はある文言に首を傾げた。
「……
”陰謀がゲームとはヒねてるなあ……。”
”先生”はそういうと、親指でチップを撥ねさせた。
感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当に助かっております、この場を借りてお礼申し上げます。
原作のどっちを見たり知ってます?
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長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
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ブルーアーカイブだけは知ってます
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どっちも知ってます。