キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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「まあ一生に一度、見栄を張るのも悪くありませんからね」
─佐藤大輔、遥かなる星第二巻"この悪しき世界”─



この悪しき世界

 

 連邦矯正局の生活とは概ね厳しいと言われる程度のものではある、無論最低限度の人権なり基準なりがあるわけだが、厳しい事は否定はされない。

 誰もが人権宣言とか連邦憲章の生徒と権利についてを音読できるわけじゃないから、看守なりなんなりがもめる事も屡である。

 殴打や吊し上げが無くても逆にそこまでいかなければ種々のケースが見逃される事もある。

 が、どのような場所にでも適応できる人間は案外いる。

 そう言う人間は2種類である。感性が何かおかしい奴と、根幹から何かおかしい奴、その二つだ。

 この世には前者が多数派であり、後者は余り存在しない、何故なら後者は類まれな存在と言うのではなく、バグの様なエラーを吐き出しているからだ。

 ただし最近の矯正局では第3種類の人間も居る、外よりマシと言う人間だ。

 つまり、シャーレに拘束された様な奴である。

 ただ物事に例外はある、例えば不知火カヤだ。

 

「起床-ッ、起床じかーん」

 

 不知火カヤは最早慣れ切った午前6時40分の起床の声に、何ら動じる事もなく起きた。

 もとより生活時間自体はあまり多くない、良くも悪くも個性が空虚な生活をしてきた。

 趣味の時間と言えば詰めチェスとコーヒーで、豆を煎り、黙々と詰めチェス、その日々だ。

 何故かと言えば、カヤに何かしたいという欲があまりなかったし、どうせそんなもん無理だと気づいたからだ、連邦生徒会会長に憧れた事もあったが、SRTも大して役に立たないまま凍結されていくのを見れば冷めていく。

 やがて超人はただの権力の慣用と濫用であると見えて来て、何のためにこの仕事をしてるか分からなくなる。

 そして諦観は退嬰に代わり、悲観に代わり、やがて行き着くは「付き合ってられない」だった。

 結果どうなるかというと、睡眠と言うもので夢を観なくなる。それはただの変化した諦観と諦念でしかない。

 

「おはようございます」

「おはよう」

 

 最近来たカヤの同居人がそう告げた、物腰柔らかで礼節がある白い髪をした生徒だ。

 ただカヤはこの女が誰かについて見当が付かなかった。知らない奴がなぜ矯正局に居るんだろう、そう最初は疑問に感じた。

 何処かの組織が報復でもしに来たか? と疑いはしたが、そうでは無かった。堅気じゃないし、何処か匂うし、歩き方や立ち居振る舞いなどは特務に近い。

 最初はカイザー辺りが証人を消しにSOFの選抜隊員でも送ったか? と考えたが、明らかにカイザーじゃ無かった。

 気品があるのだ、演技でも消せない、そういう何か漂うもの。

 

「はやめに行かないと並ぶ羽目になりますよ」

「はいはい、わかっていますよ」

 

 丁寧な口調も演技と言うより、何か違う、そういうものを感じている。

 それに彼女があえて自分にこう接してる理由は分かる、カヤの監房から一番近い洗面台は最近殆ど人が来ない。

 誰もかつての防衛室長と関わりたくないという意識が剥き出しだ、カヤは孤立していると言ってよかったが、カヤからすれば「寄るな負け犬、お前らの負け犬臭い空気を吸わんでせいせいしている」と言うのが素直な感情である。

 選択も決断も出来ない他者に決断をゆだねて生きてる、責任逃れとしてシビリアンコントロールを使う無能の負け犬、責任転嫁が好きなクソ野郎、そんな奴らと関わるなら、あの恐ろしい大人に追い詰められている方がマシだ。

 今日もやはり人は居ない、当たり前だ。

 

 7時になり、朝食の為に食堂へ歩く。

 相変わらず、同居人はやっぱりいる。

 

 カヤの監房に名札がもう一枚増えているのはいつの間にか日常へ変わった。

 

 彼女の名前は、聖山マギ。*1

 

 

【この悪しき世界】

 

 元アリウス偵察総局の局長、すなわちアリウスの数少ない3年生たるマギはレムナントの過激派、つまり自分も世界も全て許せない者へ道を示した。

 簡単だ、破滅と破局があるなら、それをもたらしたものに決着をつけてもらおう。

 そして、それが故にレムナントは終局した。

 幕は下ろされ、未納の宿題は受理され、マギの生きる意味はつまりもう無いのだ。

 しかし終いと言ってもまだプロローグだ、続けたまえよと大人は言った、やる事は無くても生きねばならんわけである。*2

 かくして矯正局へ来た。そして看守は困った顔をした、同居人は色々ややこしいのだという。

 

「不知火カヤ……新しい同居人の聖山マギだ」

「同居人?」

 

 それを聞いてカヤと言う同居人は訝しんで首を傾けた。

 出番が遅れた、いや、間違った演目に役者が出ているような顔をしている。

 少しして理由が分かった、この不知火カヤ元防衛室長は大半の囚人から恨まれている、大半は根拠も無い理由で、雨が降った事までカヤのせいと言う次第。

 そうであるなら世界はどれだけ素晴らしい事か、この世にそういう素晴らしい存在は過去一度しかいなかった、神と言う奴らしい。

 無論このちんちくりんがそうじゃない、当たり前である。*3

 

「構いませんが、配置換えの希望は早めに出した方がいいですよ?」

「といっても、私の隣が良いという人もいないでしょうし、まあ良いのでは」

「なにをやらかしたんです?」

「概ねあなたと同じことですよ」

 

 軽い冗談だったが、余計分からないと不可思議そうにされた。

 聖山マギを含めて大半のアリウス生徒には矯正局とは最悪を意味しない、飯と寝るとこは保証されてるからだ。

 銃声はしない、決まった時間寝れる、飯はきっちり調理されており、風邪など引いた場合は医者と薬がある、概ね上等だ。

 マギの見てきた中では最悪と言わない、食堂の食材を誰かが中抜きしてるとリンチが起こるわけでもないし、あのクソみたいなイカレ(クソ無能の大人ども)が自分だけ贅沢してるのも知らないで済む。

 あの唾棄すべき愚か者は、自身の生活空間だけ綺麗にしていた、いつ考えてもアレを自分が殺せなかったのは不覚の至りだ。

 Sic semper tyrannis(専制者は常にかくのごとし)と弔辞と墓碑銘までは用意してやっていたが、不言実行する奴が出てきてしまった、些か遅すぎた。

 

「ちなみに……駆け込み気味の口封じですか?」

「私が?」

「はい。貴女がどうも……普通じゃないと思うので」

「なるほど。卓見かな……と言いたいですが、違います」

 

 マギはニヤッと笑っていった。

 

「駆け込み気味の復讐に失敗したんですよ」

「あれのせいで?」

「あれのせいでね」

 

 何を対象としているかはわかっている。

 恐らく共通たる失敗理由。

 

「なるほど。物事は多種多様で見えても一面的なんですね」

 

 カヤはそう言い、机に本を置き、鉛筆を走らせ始めた。

 それが何か聞いたのは1週間が過ぎた頃だった、カヤは真面目に「金の卵を産む鶏の育成ですよ」と告げ、マギはある程度察した。

 

「共著と言う事にします? 資料が増えますよ」

「”参考文献”です、それ以上はまかり通らない」

「印税の2.5割あたりで」

「酷い人ですね」

 

 困った様な顔をしてカヤはそう言い、マギもくすりと笑った。

 それを見て呆気にとられた様なカヤは「貴女、ずいぶん子供っぽく笑うんですね」と呟く。

 

「人の顔は常に二つはあるのです」

「真実でしょうね、私には何が何だか分かりませんでした、一面しか見ない人が多数派ですし」

「自分が見つけたのだからそれが真実でしょう、別に悪い事じゃありません、イメージはそう言う存在ですから」

 

 マギがそう言うと、カヤは深くうなずいた。

 やがて、静かに告げた。

 

「分かりました。アドバイザーです、印税2割」

「乗った」

 

 人と人の関係は秘密の共有から生まれるのだ。

 

 

 

 矯正局の一日とはつまるところ単純化の一日だ、別段何かがあると書くには枠がデカく、記すには薄味、そうした原稿のミスの余白が如くである。

 その日の二人が何をしたかと言うと、単純に図書室である。

 本を書くには読まなくてはならず、暇をつぶすに最適は本である。

 マギは「君主論」をなんとなく開き、カヤはなんとなくプラトンの国家を読んでいる。

 

「……マキャベリが曰く、良い君主とは市民が常に必要だと感じているよう努力するらしい。

 私は連邦生徒会会長と言う奴を知らないが、彼女はそうだったのかい?」

 

 カヤはふと飛んできた質問に、少し沈黙した。

 

「一部の人は帰ってきて欲しいと信じているでしょう、恐らく今でも。

 でも、帰ってきて欲しい理由はマキャベリの書く理由と違うと思いますよ」

「どうしてかな?」

 

 相変わらず読み聞かせみたいな尋ね方するよなコイツ、と思いながらもカヤは持論を述べた。

 

「今はもう見えないですが、サンクトゥムタワーの役員にはね、あそこだけが世界に見えてるんですよ。

 会長が居た時代とは問題がない時代、とメルヘンチックに思えるのですから……」

「メルヘンねえ、まあ過去は常に美化され希釈され、美しいトコだけ濃縮するようなものだと言うから無理は無いやら、悲しいやら」

 

 窓を横目にしながら、マギはそう呟いた。

 カヤはふと思い出したように、ある点に気付いた。

 こいつ、年齢は同じのはずだが会長を知らないのか? 

 という事は、中央などとは無縁なのか。

 カヤはようやくマギの素性に当を付けた。

 

「貴女レムナントですか」

「正解。そこの指揮官でもあった」

「多頭の蛇に脳みそが一つと」

「蛇と言うには可愛すぎたね」

 

 なるほどと、カヤは深い確信を得た、作品にははっきり書かない事にしよう。

 無論、いくつかの疑問を除いて浮かぶ疑問の残りは封印する、知りすぎても楽しくも無いし益もないだろう。

 それにマギがどうも何らかの闇を抱えているのは彼女もある程度理解していた、自身の恐怖から来た狂気と違い、彼女の狂気の理由は何らかの理由があり、本質的には彼女は壊れ切っている。

 今のこの姿は恐らく彼女が自分の中で耐えがたい何かを鬱屈とさせているのだと、なんとなくカヤは気付いていた。

 多分自覚しているとも思えている、彼女の語り口はどこか親しみやすい姉のようで、イントネーションや抑揚はわざと優しさを加えている。

 

「まあ、私も人の事をとやかく言えないから別段何と言う訳じゃ無いんですがねぇ……。

 今にして思うと、会長が何に悩み、何に苦しんでいたか、誰も知らなかったなあと」

「指揮者は常に孤独、いや、誰も理解したくないからね」

 

 窓を開けて、マギがもたれかかった。

 運動場で走り込みをしているユキノに気付き、マギは「同類だな、ありゃ」とボソッと呟く。

 

「ええ、貴方と同じSFですよ」

「いや、そうじゃない、いまも儀式を続けてるって点」

 

 人は力だけでは支配できないんだよ、そうマギは語った。

 儀式を通じて支配していく、5時6時の起床、7時の出勤、12時の配給、18時の清掃、20時の消灯、繰り返されるサイクルと儀式。

 窓に鉄格子をはめる事より人々に「この檻は安心できる」と信じ込ませることが最適であるからだ。

 人を支配することに関してはアリウスも外も大差はない、何の違いも無い。

 極論だがシャーレもヴァルキューレもベアトリーチェもみんな同じことを言っている、こうした方がいいという信念を持たせるのだ、壁のポスターを見よ、画面を見よ、教本を見よ、門限と規則と歩哨の銃口は汝を守るために君へ向いている、そういう次第である。

 これらをありとあらゆる場所へ貼り付ける、全ての街灯、全ての壁、全ての学校、毎月毎月刷って貼って、毎日毎日毎日繰り返す、繰り返し繰り返し信じ込ませる。

 

「繰り返していけば人はそのうち本気で信じ始めるんだよ、保衛局にいた妹の受け売りだけど」

「たしか、内部監視と調査部局ですね」

「ああ、矛盾と間違いがいっぱいですぐにおかしくなる場所だ、君たちのSRTと何も変わらない」

 

 本質的そうした組織は無個性化と顔のない集団たる事を必要とする。

 好き好んで暴力をふるえる人間は実際のところ然程多くない、しかし残酷な事は幾らでも出来る、殴るのが嫌いでも人は殴れるのだ。

 マギにはなんとなく、ユキノから同じような物、つまり過去の自分の部下であったサオリやアズサたちを思い出した。

 単に追放されるよりマシだから、飯が出るから、そうした理由でやってきた人間を再教育する事、銃を渡すだけでなく、ある種のマントラを教える。

「共感を棄てよ、従順たれ」、「感情とは失敗である」、かつての自分を棄てさせる行為と経典だ。

 そして生まれるのは夜驚症、不眠症、感情剝離、理由なき感情爆発、アルコール類や煙草への依存、しかし返答は一つ。

「君は戦闘と環境になじんできたという事だ」、つまり壊れているのが正常だというわけだ、システムはそう作られているのだから。

 逆にこれに気付くとシステムから飛び出すことになる、妹はそうして死んだ、アズサは自由になった。

 

「幾つかSRTの資料を見た事がある。ボディーカメラだった」

 

 マギはぼぉっと空を見上げた。

 

「不良生徒の拠点に強襲して”よし、今週分のノルマを達成したな”と笑っていたよ」

 

 カヤは何も言わなかった。

 

「連邦生徒会の会長が超人かは分からないが、誰にも寄り添わない孤独を強さと信じて、その実頼るすべを知らなかったんじゃないかねぇ」

「言ってくれるじゃない」

 

 後ろから声がした。

 キツネ耳に金色の髪を纏めているクルミが、何か言いたげにしていた。

 

「誰だい」

「元SRTのFOX小隊員のクルミよ」

「そうか。自説ではあるが間違ってたかな」

「そんなには間違ってない、質問しない奴が偉くなっていくのはよくある事だから」

 

 少し前なら口にもしなかった言葉だった。

 忠誠を貫くというのは英雄(ヒーロー)というわけじゃない、単に虚ろ(ホロウ)なだけだ。

 屋根の上に立ち、静寂しか返らない無線を着け、誰も持たなくなり出した身分証明書を持ち、もはや何も言わない指揮系統から来た言葉を黙々と暗唱し続ける。

 遺されたのはルーチンワークだけ、自我は不要、自由意志も不要、自律思考も不要。

 選択肢があった事を忘れ、いや、過去に判断した事すら忘れた武器。

 

「悪でも被害者でもない当事者よ。極論を言ってしまえば悪なんかいなかった、しかし全員が暴君染みている、そう言った方が良いかもしれないわね」

「崩壊も陥落もしないで、成長し過ぎて取り遺された?」

「ええ、誰も最後の一文を書かず、本を閉じて、暖炉へ投げ入れた。戦って倒れる事もなく、ただ単に消え去った」

 

 クルミは天井を見上げて、つまらなさげに呟いた。

 遺されたのはロゴ、腐った制服、忘れられたポスター、錆びていく武器、朽ちていく有刺鉄線。

 自分の心を恐らくこれからも占拠し続けるだろう色あせて、剥がれて、カビた情景。

 

「コンプライアンスは平和である……」

「従順さは君を守る盾である」

「規則は君を安全にする」

 

 上手く行き過ぎた嘘、無制限の権力と暴力、掣肘と監視されない政府機構。

 行き着く果ては沈黙の中での終焉、答えでは無くルールを見せつけた者達、いつ起き、どこで立ち、何を食べるかまで管理したもの達。

 生きていたのではなく従っていた人たち、教義は言葉ではなく訓練で書かれ、ただ隊列を組まされる。

 全ての計画、全ての人生、隊列を崩さず、一人で行動せず、声をあげさせない。

 

「果たしてあの大人は上手くやれるかな」

 

 それが今の気がかりだった。

 シャーレのそれはある種これまでの暴力とは違っている、政府としての暴力行使でもあり、官僚機構による政策でもあり、委員会の決定で行われる暴力、厳格な指揮系統から行使される暴力だ。

 それは恐らく誰からも遠い暴力だ、例えばワカモ。ワカモが暴れ狂うのは自らの意思であり、自己で判断し、行使している。

 しかし組織の場合は違う、命令を発する者、伝えるもの、行使する者、自己の意思を介在させる余地はない。

 それは何かの間違いで過去の失敗と同じものになりかねないのだ。

 非常に危うい綱渡りである。

 

「ところがどっこい、その責任を問いたければ鏡を見れば済んでしまうわけです」

「ぬけぬけとよく言う」

 

 クルミが呆れたようにカヤの言葉へ呟いた。

 FOX小隊に関してカヤにしろ彼女らにしても、郷愁は有れど拘りはもうない。

 極論を言えばSRTの未来なんて言うのは最初から存在しないからだ、対処療法としては最初から失策である。

 なにせ政治的には厄ネタにしかならないし、警察からは嫌われてしかるべきだし、市民からは「具体的にどう正当か」を答えれない。

 残念ながら暴力の中に合理と合法性が無かった。

 

「なーにが必要だったのかねぇ」

「真面目なアドバイスをすれば組織改革だろう、どのみち、この短期間で瓦解しただけの理由があったのだ」

「……完璧な正論って言われるとむかつくものね」

 

 マギの言葉にクルミが呆れた顔をした。

 しかし、そんな事もどうでもよさげにして、クルミが言った。

 

「そういやペンの余剰無い?」

「え、私にはありませんよ」

 

 カヤが困った顔をした。

 実際は1本予備があるが、確保のあてが無いからどうしようもない。

 マギはカヤの予備には言及せず、二日待てとクルミへ言った。

 

「配送業者の奴とコネをつける、そうすれば渡せるよ」

「え、ほんと?」

「ああ、どんなムショでも常にモノや価値は揺れ動く」

 

 クルミとカヤが互いに見合った。

 

「「あなたもしかしてなんか流してます?」」

 

 カヤもマギの何らかの取引材料については疑惑を持っていた。

 伊達にアリウス出身というだけはあるのか、こうした環境での商取引は明るいらしく、カヤのノートとペンを買い取れないか前に聞いた事があった。

 

「流すって、私は”オキシ”も”ハイドロ”も流したりなんかしてないぞ」

「薬じゃないのは分かりますよ、カイならやりそうですけど」

 

 カヤがそりゃそうだという顔をした。

 もう作ってないがカイからは消毒剤の微かな香りが常にしていたし、彼女の手からは僅かにゴム手袋の匂いがしていた。

 逆にそれがしてないからマギはしてない、だって手はそんなに荒れてない。

 だから薬じゃないのは明白だった。

 

「知りたい?」

「違法物品でしたら密告(サシ)ますよ」

「素直だね」

「これでも嘘はそんなにつかないんですよ」

 

 カヤがふふんと言い、クルミが「ぬけぬけとよく言う」と閉口した。

 馬鹿馬鹿しいとマギは軽く笑い、そして告げた。

 

「答えはこれなんだよ」

 

 マギはスキットルを見せる。

 

「あなたまさか」

「蒸留して調理班の連中と密造した醸造酒」

「アウトじゃない!」

密告(サシ)ても無意味だよ、警衛詰所まで絡んでるから人員不足の矯正局は懲罰なんか絶対できない」

 

 なんて奴だとカヤが呆れ、クルミは「なんたるザマ」と顔を手で覆った。

 マギはにこやかに「ついでに文句や嘘をついたら連中が囚人の手荒い使い方してる件をシャーレへ流すとも言った」と語ってなお呆れかえった。

 矯正局のみならず収容施設の人員問題は深刻であり、予備人員が居ないから出来る芸当だった。

 予備人員が居ないから当然超過勤務は増えて不満は囚人へ向かい、過剰な懲罰が横行し、結果暴動の火種がくすぶる。

 そこに目をつけてマギが「馬鹿どもに軽く娯楽を与えれば良かろう」と大人のバカに酒を密造して売り込んだ、アリウスでは大人を食い物にしても許される環境なので、概ねやる事は変わらなかった。

 そして役に立ったのは短期収容者に居たミレニアムの疑似科学部部員である、腐ってもミレニアム、頭が良かった。

 こうして給食班と調理班を巻き込んで醸造酒をこさえた、米を少しばかり多く納入して作っただけである。

 

「ちなみに誰に売ったんです?」

「入ってる黒亀組のアホ組長、それにブラックマーケットの奴、売主が私とは知らないよ」

「……貴女、シャーレに確保されて弱ったところを狙いましたよね?」

「元防衛室長は聡明でおられる」

 

 カヤには容易く容易に想像できた。

 話しも賄賂も通じない蛮人へここへ投げ込まれ、尊厳も何もかもを失い、弱り目に漬け込まれたと。

 

「どうせ子供を搾取してたアホだから子供に還元して頂こうとした」

「貴女と言いワカモといい余罪を増やす人は絶えませんね」

 

 無論、この場の3人にそういう大人を労わるとか、慈しむ気はない。

 残念ながらシスターマリーやヒナタほどやさしい人間は少数派である、何故なら世界は悪しきままなのだから。

 もっとも、マギたちには一つ言いたい事があった。

 

 この悪しき世界ではあるが、それでもそれなり楽しく過ごしようもあるのだ。

 

 絶望など、遠くへ捨ててしまえばいい。

 

 

 

*1
見知らぬ明日の人

*2

*3
勿論シャーレのアイツでもない




感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当にありがとうございます!
この場を借りてお礼申し上げます。

原作のどっちを見たり知ってます?

  • 長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
  • ブルーアーカイブだけは知ってます
  • どっちも知ってます。
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