ただいまを直ぐに言えなかった理由 作:ゴールド@モーさん好き
レースを引退し、アネゴと再開し終えた後私はまた旅をしていた。父親の工芸品の数々、ソレらは写真で見た事はあれど、実際に見た事があるのは総数と比べれば微々たるものだ。私は私と今1度向き合い新たな黄金を見たい、その為にも自分のルーツ…もっと言えば親の軌跡を辿ってみようとツテを頼って色んな所を見て回ってきた。
今日はそんな旅を一区切りし、整理し、咀嚼し、自分に落とし込む為に日本──彼の居るトレセン学園まで帰ってきていた。
「はいこれ、トレセン入場許可証。帰る時に回収するから、決して無くさないようにね。と言ってもまぁ、ジャーニーちゃんは真面目だし大丈夫だとは思うけど、一応ね」
「はい、ありがとうございます」
懐かしの受付員さんから許可証を貰い、彼の居る場所へと向かう。
「この時間帯ならまだ練習場に居るはず……」
会ったらまず何から話しましょうか、お互いの近況報告から旅先の思い出話…彼がしっかり休んでいるか〝例の子〟から聞いとかないともいけませんね。
そんな事を考えながら歩いていると、お目当ての人物が見えてきた。
「!トレーナー、ただい──」
帰りの挨拶をしようとした、クールダウンした後軽いお茶会なんてとも思っていた。けれど……
「良かったぞ!ミラクルボヤージュ、中々様になってきたぞ」
「本当ですかトレーナーさん!」
「あぁ!この調子ならデビュー戦で良い結果が出せるぞ!」
「やったー!やったー!ありがとうトレーナーさん!」
目線の先には私のトレーナー〝だった〟人と、彼の〝新しい〟担当ウマ娘が練習の成果を褒め称えながらも笑いあっていた。
「おや、私は何を」
そんな2人を見て私は、気が付いたら物陰に隠れてしまっていた。無意識だった、本当に咄嗟に発していた言葉を止め身を潜めていた。何故?
「バカですか、私は」
分かりきっているだろうそんな事は、認めたくないのだ、彼が私以外の担当を持ちあまつさえその事により幸福を受けている事が。
「彼と共に駆け抜けた旅は、私に数多の変化を授けてくれましたが……コレもその1つですね、確実に」
彼と共に旅をしなければ絶対訪れなかった変化、その変化が私を苦しめていた。
「〝さて〟、もういいか」
そうだ、確かに彼が私以外の女性──それもウマ娘と仲睦まじくなっている事は嫉妬の対象ではあるが決して悪い事では無い。トレセンのトレーナーなら寧ろ良い点だ、見なさいあの純粋たる笑顔を。あの位の素直さを現役時の私に寄越したい位だ、絶対無理ではありますが。
「トレーナーさん、ただいま戻りました」
分かっていた事だ、彼はトレーナーであるのだと。知っていた事だ、彼は寄り添う事が出来る者だと。理解していた筈だ、彼は近づけば誰をも魅了してしまう力があるという事を。
「おかえり、戻ってきたのなら連絡してくれればよかったのに。入口迄迎えに行ったよ?」
「いえいえ、これからデビューを控えている可愛い〝後輩〟の指導時間を減らす訳にはいきませんから」
だから私は彼の〝初めて〟に拘ったのだ。
「え、えっともしかしてドリームジャーニー…さんですか?わ、私!ミラクルボヤージュって言います!よろしくお願いします!」
「はい、彼から貴方の事を聞いてますが…直接お話がしてみたいです、良ければこの後軽くお茶でもどうですか?」
「は、はわわ…どうしましょうトレーナーさん!私、ドリームジャーニーさんからナンパされちゃってます」
「おちつけ、とにかく深呼吸しろ」
「ふふふ」
見極め、御し、深入れさせるな。
「それじゃあ先にトレーナー室でコーヒーの準備をしておきますので、鍵を借りても?」
「あぁ、コレだ。良かったなミラクルボヤージュ、ジャーニーのコーヒーは格別だぞ」
「そうなんですか!楽しみです!」
「腕によりをかけますので、気に入って貰えたら幸いです」
その人は私だけの〝帰る場所〟だ。
♢
「それじゃあジャーニー先輩今日はお茶会ありがとうございました!とっても美味しかったです!さようなら!」
「はい、さようなら。気をつけて帰るんですよ」
「はーい!」
「………ふふ、素直で良い子ですね」
「あぁ、あの明るさは自分だけじゃなく空間に良い風をもたらす、デビューしたらすぐさまファンクラブ何か出来ちまうかもな」
「まったく……改めまして、ただいま戻りました、トレーナーさん」
「おかえり、ジャーニー」
彼女が退室し、ある程度距離が離れたのを確認したら私は彼に抱擁しながら挨拶をした。彼も優しく迎えるように腕を背中へと回してくれた。
「どうしたんだジャーニー、今日は珍しく随分と甘えたなんだな」
「愛しのコンパスが私ではなく他の方を指していたのでね、貴方の愛がどちらに向くべきか今1度教える必要があると思いまして」
「おいおい、アレは担当との親交であって別に何かある訳じゃないからな」
「分かっていますとも、そんな事。私が貴方がどんな人か忘れるわけないでしょう?」
「なら何で?」
「ソレはソレ、コレはコレ…理性がどれだけ分かっていたとしても、この想いは理屈じゃないんですよ。最愛の人が他の女に楽しそうに笑ってたら良い気分にならないんですよ、恋する乙女と言うのは」
「乙女と言うには些か場馴れし過ぎだと思うがね」
「おや、トレーナーさんはそんな私が嫌いですか?」
「どんなキミも好きだよ」
「ッ!……そうですか」
「うん」
「まったく、そういう真っ直ぐな所は何時までたっても変わりませんね」
敵いませんよ。